Coolier - 新生・東方創想話

吸血鬼と凡人

2013/07/09 09:06:18
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「確かに、人間という種族は嫌いね。知能と繁殖力を持った、一聞には万能な種族にも聞こえる。しかしそれら全てが、世界の発展に繋がったり、上等な力を持つ事はない。九割九分は廃棄物に過ぎない。生殖を繰り返し、一分の変異体を生む媒体にすぎないわ。まぁ私からの観点で見れば、ちゃんと食料や奴隷として有効活用できるけど」
「その一パーセントの人間の一人が、そこのメイドと言うことかしら」
「そんな事私には分からない。ただの仮定よ、例え話。無駄に数を増やすくせに、一人で生きることは愚か、周りの同種族に迷惑を掛ける。滑稽よねぇ。当たりになれなかった人間は、ただはずれとして生きるだけ。それとも、はずれがあまりに愚かな存在だから、普通の力を持った人間を天才と呼ぶのかしら」
 メイドが私と吸血鬼の食べ終わった食器を片づけると、吸血鬼は両肘を付いて私を見据える。
「いや、そもそも滑稽なのは――」
 そして、言葉を続ける。
「同種族でしかない人間を天才と呼んでいる事ね。所詮人間は、皆揃って凡人でしかないのよ」
「……その話は、ちょっと気になるわね」
「あら、そう? じゃあ話してあげる。私は天才的な才能を持って生まれた人間なんて、この世にいないと思っているわ」
 博麗霊夢を含めてね。と吸血鬼は付け加える。その表情は、若干の怒りが含まれているようにも見えた。
「ならばどうして、人間は上等な素質を持っているようなそれを天才と呼ぶのか。それは、知らないだけ」
「知らないだけ?」
 私にその言葉を反復させたかったのか、吸血鬼は満足気に、一度止めた言葉を再会する。
「赤子の頃――いや、『胎児の頃から人間は成長する』ことを知らないだけよ」
 私は黙って、吸血鬼の言葉を聞く。
「生まれ、泣き、寝返り、這い、立つ。大体の人間は、赤子がこれしかできないと思いこんでいる。でも実際は生まれる前から、赤子が自らの力でできることが一つだけあるわ。それは、覚えること」
 反論はしない。この時点で、若干納得してしまいそうになった。
「どこで聞いた話だったか忘れたけど。人間というのは赤子の時が最も、しかも格段に頭の良い状態らしいわ。その時に赤子は、あらゆるものをあらゆる分野として覚える。グラスをスプーンで叩いた音を聴いて音感能力を得る。絨毯を指でなぞり美的感覚を養う。自分の手足の指で計算する仕組みを覚える。そう考えると当然よね。天才というのは凡人と比べて、スタートするタイミングが恐ろしく早かっただけの話。極論で言えば、人間の妊婦は自分の胎児の教養として音楽を聴かせている事もある。それを笑う人間もいるけど、私はそうは思わないわ」
 吸血鬼の言葉に、後ろにいるメイドも驚いている表情を隠せていない。吸血鬼はそれに気付くこともなく、しかし、してやったりといった表情でもない。ただ当たり前の事を言っただけ、というものだった。
「天才と言われ続けて、大人になって落ちぶれる人間を私は何度か見たことがあるわ。まぁ、簡単な事ね。せっかくだから、あなたに答えさせてあげる」
「覚えることを放棄した?」
「そう。赤子の時点で十を知った天才でも、百を知った気になって、それ以上覚える事を放棄する。そして、百どころか十一を理解する事さえできなくなってしまうのよ」
 そこで、私に別の疑問が頭を過る。
「随分、人間に詳しいのね」
「この世界に来る前は、割と人間と接していたわ」
 場合によっては、彼女の逆鱗に触れるかもしれないと思った私の問いはあっさりと返された。
「ふぅん」
 そう言って横を向いたとき、まるで数秒前に飾られたかのように、私はその額縁を認識した。
 額縁に入っている写真に写っていたのは、私が今相対している吸血鬼と、見知らぬ一人の人間だった。
 それだけではく、それを認識した途端、横に飾られている他の額縁も認識することができ、それらに収まっているのも、似たような写真ばかりだった。
 吸血鬼と人間が写っている。人間は一人とは限らなかったし、男性とも限らなかった。
「これは――」
「言ったでしょう。この世界に来る前は、人間と接していたと。そこに写っている人間は、お友達よ――まぁ、一方的にそう思われていただけで、私は何とも思わなかったけど」

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