Coolier - 新生・東方創想話

冬さりて、春きたる

2007/09/13 04:25:45
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「あんまり暖かくならないわね。
 もう少し激しい攻撃でもよかったのに」

 そしてレティ・ホワイトロックは巫女の弾幕に撃墜された。




 『冬さりて、春きたる』




 あ、拙い、と思ったのは、被弾5秒後、落下中のこと。
 巫女の、余裕綽々で小憎らしい面に気を取られていた所為で姿勢制御を怠り、このままでは自分が地面に激突しそうだ。
 例え妖怪といえども、この高度からの落下は洒落では済まない。
 しかも、特に巫女がダーティな攻撃を仕掛けた訳でもなく、余計なものに執心した自分の自業自得――

「さっきまであんなに楽しかったのに!」

 春になっている筈なのにいつまでに冬が終わらず、冬の精たるレティはテンションが高かった。
 その勢いで、通りすがりの巫女に攻撃を仕掛けこのザマ――いまや命の危機というわけだ。
 落ちる体。迫る大地。
 あの氷の妖精じゃないけれど、私は何てバカなの!
 その思考を最後に、地面に叩きつけられたレティの意識は暗転した。




 夢を見た。
 ゆらゆらと空を飛んでいる夢だ。
 その夢ではレティは巫女虐めに成功し、高笑いして土下座させていた。
 いやみったらしく、地べたを這う巫女の前で悠然と浮かんでやっているのである。
 そして勝ち誇って背中を向けた瞬間、後頭部に打撃を喰らい、空中でもんどりうち、柔らかい雪原に投げ出された。

「ちょっと何するの!!」

 勢い込んで上体を起こす。巫女がいるべき場所を睨みつける。と、全く違う風景が目に入った。

「あら?」

 目覚めたレティは、瞳をぱちくり。
 其処は余り広くない部屋で、レティはベッドの上に寝かされていた。
 周囲を見回すと、どうやら巨樹のウロを改築した部屋のようだ。こぢんまりした扉と、簡素な窓。妖精が隠れ住む時に使うタイプの住居に見られるような部屋である。
 天然の穴によく解らない素材をはめ込んだ窓の外からは、爽やかな早春の日差しと小鳥の囀りが漏れる。
 厳しい冬の象徴であるレティの趣味からすると、ちょっと可愛すぎて牧歌的すぎる雰囲気だった。窓が小さめで全体的に薄暗いことだけは良かったが。

「何処よ此処……というか、何故私はこんな所にいるのよ」

 いきなりの状況変化に頭がついていかないまま、レティがベッドから降りようとすると、足に鈍い痛みが走った。

「いつッ……!?」

 それで漸く覚醒した全身が、程度は弱いが似たような痛みを伝えてくる。

「ど、どうやら、落ちたのは、夢じゃなかったようね……」

 この体では歩けないし飛べない。仕方なしにレティが再びベッドに横になると同時、ぎぎぃと扉が開いた。レティは咄嗟に視線を送り、驚きに目を瞠る。

「あんたは……」

 其処には妖精がいた。白い装束を着込んだ長い栗色の髪の少女の姿をしており、ほんわかと穏やかな笑みを浮かべている。背後には、この部屋と違ってその少女の雰囲気に似合った、明るい部屋が見えた。
 妖精にしては人と背丈が余り変わらないこの妖精は、リリーホワイトと言う。
 レティが驚いたのは、彼女が“春告精”と呼ばれ、春が訪れると同時に現れる妖精――つまり、冬の精であるレティにとっては天敵だし、相手にとっても自分は快い相手ではない筈で、本来、出会うことが無い妖精であるためだ。実際、レティもその目で見たのは初めてだった。
 そんな驚きを意にも介さず(或いは気付いていないのか)、リリーホワイトはレティの意識が戻ったことを喜んだのだろう、笑みを深めた。が、レティの頭には疑問がわきあがる。

「……あんたが私を此処まで運んだの?」

 リリーホワイトはこっくり頷く。

「どうして?」

 リリーホワイトは、今度は少し困った顔をしてから、痛そうな顔をして自分の体を抱いた後、レティを指差した。

「……私が痛そうにしてたから?」

 我が意を得たりと満面の笑みを浮かべ、そして再びこっくり頷く春告精。
 レティは溜息をついた。

「あのねえ。私は冬の精霊よ。あんたは春を告げる妖精。いわば御互い天敵みたいなものじゃない。何考えてるのよ」

 リリーホワイトは笑顔のまま、何を言ってるのか解らない、と言うように首を傾げた。
 途端に色々と馬鹿らしくなり、レティはごろりと背を向ける。

「助かったし、御厚意には甘えるわ。怪我が治ったらとっとと出て行くから」

 つっけんどんに言うと、リリーホワイトの手がそっとレティの肩に触れる。「早く治りますように」とでも言っているようだった。

「触らないでよ。あんたに触られたら溶けちゃうわ」

 振り向かずに言うと、触れていた手が退けられる。程なく、扉が開いて閉まる音が背中越しに聞こえた。
 レティは結局振り向かずに一人ごちた。

「おかしな妖精ね」

 そしてリリーの触れて行った肩を抑える。

「でも……思ったほど、嫌な感じじゃなかったわ」




 かくして春の妖精と冬の精霊の奇妙な共同生活が始まった。
 共同生活と言っても、レティは全身重傷で寝ているしかない。それをリリーホワイトが(勝手に)看病してくれる、という形だ。
 その合間合間に、レティは知りたいことを聞き出した。
 レティが知ったのは、此処が幻想郷でも北方の、寒い地域であること。この樹は立ち枯れの巨樹なので冬の精霊とは相性がいいこと。リリーホワイトも巫女に撃ち落されたこと等(レティが「自分も怪我してたのに怪我人を拾ってきたのか」と聞くと、リリーホワイトは嬉しそうに頷いた)。
 リリーホワイトは言葉が話せなかったが、豊かな表現力と解り易い表情で、コミュニケーションには不自由しなかった。
 どうして春の精と冬の精が同時に存在できるのかについては、リリーホワイトも理解していなかったが、これはレティの方で予想がついた。あの長引きすぎた冬の影響で、冬の後に春が来るという幻想郷のルールが少し崩れてしまっているのだろう。
 春の精と一緒にいると考えるとあまりいい気分ではなかったが、動けない身では仕方ないと割り切ると、まあまあ悪くない生活ではあった。
 レティが目覚めた次の日のことである。基本的に生気を食べる自分は食事が取れないな、と思っていたら、リリーホワイトは何処からともなく生気を調達してきてくれたのだった。

「そこまでしなくてもいいのよ、別に」

 レティの言葉に、リリーホワイトは少し怒ったような顔になって、「食べなきゃ元気にならない」と言うようにジェスチャーをしてみせた。其処まで言うならとレティも好意に甘えることにした。

「あんた、どうして其処まで世話焼きなのよ」

 次の日、部屋の掃除をしているリリーホワイトにレティが訊ねると、彼女はジェスチャーで「怪我人を放ってはおけない」と言った。レティは呆れたが、そのバカみたいな性分に助けられたと思うとそう悪い気分ではなかった。
 更に次の日、レティが快方に向かっていることを知ると、リリーホワイトは跳ね回って喜び、言葉にはならない声を涼やかに響かせた。
 春告精は言葉を操れなくとも歌を唄えるということを、レティは初めて知った。




 驚くべきことに、冬、という現象の具現である筈のレティは、今の状況を「悪くない」と感じていた。
 レティは(幻想郷の力ある住人の例に漏れず)皮肉屋で自己中心的だったが、加えてどちらかというと冷徹な人となりだったため、他の連中のように誰かと一緒にいる、ということがなかった。
 そもそも冬は死のイメージが強い季節であり、そのイメージは妖怪の思い描くものといえども人のそれとそう変わらない。好意的に接してくる者はいないのだ。
 精々が、おつむの余りよろしくない冷気を操る妖精(こいつも妖精だ、そう言えば)が勝手にずけずけ人の領分に乗り込んでくるくらいだったが、レティは彼女を対等とはみなさず、鬱陶しく感じていた。
 だがこのリリーホワイトという、自分とは正反対の妖精といると――妖怪がこんなことを言うのも可笑しいが――安心、するのである。
 彼女は、必要以上に自分の領域に立ち入らない。かといって放っておくことも恐れることもない。そんな存在との出会いは、レティにとって初めてだった。
 御互いを邪魔せず、邪険にもせず、其処にあるだけで少しだけ安心できる、そんな距離。そう遠くなく、自分の怪我が完治すれば終わってしまうだろう不思議な関係。
 自分でも気付いていなかったが、レティは、もう少しだけこの関係が続いて欲しいと願っていた。




 その願いは、叶ったと言えば叶っていたのだろう。人間の里あたりでは、続きすぎた冬もとうに明けていたにも関わらず、レティは忘れられたかのように存在し続けていたのだから。
 北方の寒い地域に住居があったからかも知れない。この辺りは、何とかまだ冬の残り香が感じられていた。
 しかし、冬がすっかり去るにせよ、自分がすっかり治るにせよ、最後の日が来るということをレティは知っていたし、それがほど近いことにも気付いていた。
 そして、その朝目覚めたレティは、窓の外がほぼ春色に支配されていることと、自分の傷が完全に癒えたことを理解した。もう、今日にも此処を発ち、もっと寒い場所へ行ったほうがいいだろう。この場所に別れを告げて。
 ベッドから降りることも出来るようになったレティが、窓の外を見て思いを馳せていると、扉の向こうで何か軽いものが倒れるような音がした。
 この急ごしらえの妖精家屋に、倒れるような大きいモノなどあったかしら、と不思議に思い扉に手を掛ける。そう言えばこの扉を自分から開けるのは初めてだった。そもそも動けなかったし、この薄暗い寝室と違って扉の向こうの部屋は如何にもリリーホワイトらしいほんわかした明るさに満ちていたので、わざわざ行く気になる場所でもなかったのだ。日差しも明るいし。

「最後にもうちょっと見ていこうかな。春に当てられても、少しくらいなら、ダメージにもならないでしょ」

 呟いて扉を開けて、
 凍りつく。

「……! あんた、ちょっとしっかりして!!」

 倒れていたのは、白い装束の少女。
 リリーホワイトだった。
 急いで駆け寄り助け起こして、レティは息を呑む。リリーホワイトの表情は今まで見たこともないような苦悶に歪み、春を凝縮したように生命力に満ちている筈の顔色は土気色に近い。体は恐ろしいほど軽く、生気というものが感じられな――
 レティの脳裏を、何かが掠めた。

 『生気』が、ない?

「あんた……私の食糧、何処から調達してたの? どうしてたのよ!?」

 ヒステリックに叫ぶと、リリーホワイトは苦しげながらも、うっすらと笑みを浮かべた。
 歯噛みしながらぎゅっとリリーホワイトの肩を掴み、更なる衝撃に襲われる。
 その端から、ぽろぽろと砂が毀れるように彼女の体が崩れていくではないか。

「まさか……春の精であるあんたにとって、冬の精の私の存在は、毒、なの……?」

 リリーホワイトは苦しげな笑みのまま返事をしなかったが、解り易過ぎる表情で、レティは自分の考えが正しいことを悟ってしまった。

「バカ、あんた……!」

 リリーホワイトは声に答えず、不意にその体からはがっくりと力が抜ける。

「……バカ。だからキライよ妖精なんて。バカばっかりよ!!」

 レティは可能な限り自分の冬の力を抑えると、少しの間、自分にとっての楽園だった妖精家屋を、全速力で飛び出した。




 レティは、戻った力の全てを、最高速で空を飛ぶことに注ぎ込んだ。
 天狗顔負けの速度で風を切り、通った後には極低音の疾風で季節外れの霜柱が居並ぶ。

「あれ、あんたまだいたの。今懲らしめて……」
「どけぇぇええ! 白符『アンデュレイションレイ』!!」
「わっ」

 春に冬の精霊が飛ぶ異常事態に、通りすがりの例の巫女が寄って来たが、相手をしている暇は無い。
 本来、白銀色の目を刺す光が乱舞する華麗なスペルカードは、春という状況で力の落ちた状態では牽制にしかならなかった。しかし、巫女は気圧されて、というよりレティの気迫に驚いて動きを止める。その脇を、全速力で突っ切り、置き去りにした。

「何なの……?」

 困惑顔の巫女はもう遥か後方。
 使ったスペルカードの力が、腕の中の妖精に影響を及ぼさないように気をつけながら、尚も速度を増していく。増しながら思う。

 本当に、こいつはバカだ。あの時、気付くべきだったんだ。
 春の妖精に触れられて大丈夫だった理由。こいつが、力を制限してたからに決まってる。
 天敵の冬の精霊相手に、対抗する春の力を捨てた妖精がどうなるかなんて、妖精の頭でも分かるのに。
 いつまでも寒い場所に居を構えて、春の妖精が無事でいられるわけがない。
 あの場所に居を構えたのはたまたまじゃなくて、自分の、このレティ・ホワイトロックのためだけだったんだ。
 生気の調達なんて小器用な真似を、春告精が出来る筈が無い。
 残る資源は“自分自身”だけ、そしてこいつはそれを実行したんだ。
 バカ、バカ、バカ。大バカだ。
 見ず知らずの天敵に、怪我してたからというだけで其処までする、こいつがそんなバカだと解ってた筈なのに見抜けなかった、見抜こうとしなかった自分こそ本当の大バカ者だ。部屋が暗かったから顔色に気付かなかったなんて言い訳にもならない、氷の妖精やコイツどころじゃない救いようの無い間抜けだ。
 そんな間抜けにも出来ることがあるなら。
 こいつを、今正に春真っ盛りの場所に戻してやることくらいだろう。
 それでお返しになるなんて、思わないけれど。




「はぁ、はぁ、はぁ……」

 そして、漸く辿り着いた春真っ盛りの場所。
 詰まり、人間の里。
 最早周囲に冬の気配など微塵も無く、レティの体は先刻までのリリーホワイト同様、ほろほろと溶け崩れて消えていく最中だ。
 反対にリリーホワイトの顔色には生気が戻り始めていた。確認し、レティは安堵の息を漏らす。

「よかった……間に合ったわ」

 その声が聞こえたからか、リリーホワイトが少し呻いてからゆっくりと目を開けた。

「全く。あんたのお陰でこっちはへとへとよ」

 微笑むレティに、にこ……と笑い返しかけて、リリーホワイトの表情が固まる。
 私が崩れていってるのを認識したんだろうな、とレティは冷静に思った。
 リリーホワイトが叫ぶ。言葉にならない思いを。この数日で随分色んな表情を見たけれど、この悲壮さだけは初めてだった。
 何を言っているかはきちんと解った。

「駄目よ。春が来たら私が消えて、あんたは空を飛びまわる。それが幻想郷のルールなのよ」

 リリーホワイトがぶんぶんと首を振る。涙の雫が、宙を舞った。きらきらしていて、レティは何故か嬉しくなる。

「全く、妖精はこれだから。ちゃんと自分の仕事をしなさいよ。私にかまけてばっかりじゃ駄目よ!」

 そしてレティは、リリーホワイトの体を、春の爽やかな青空へ放り投げた。リリーホワイトが手を伸ばしたけれど、それを取ることはなく――。

 その瞬間、リリーホワイトの泣き顔を見ながら、レティは、私はバカだなあ、と思った。妖精のためにわざわざ死地ど真ん中に飛び込むなんて。
 でも、ま、いっか。
 うん、いいや。
 冬が去って、春が来る。それが自然なことなのよ。

「さよなら。ありがと。リリーホワイト」

 初めて彼女の名前を呟いて、レティ・ホワイトロックは微笑みごと、虚空に消え去った。




 一年後。
 幻想郷に再び雪解けが訪れていた。例年より少しだけ早い春だ。
 人間の里から離れた博霊神社。その縁側に腰掛けお茶を啜っているのは博霊霊夢。幻想郷最強の巫女である。
 彼女はほんの少し肌寒さを残した空気の中で日向ぼっこを楽しんでいたが、ふと空に視線をやった。

「あら、春告精ね」

 白い装束の妖精――リリーホワイトが、空を飛んでいる。幻想郷に春を告げて回っている。

「去年は変てこな春の訪れだったから、あれを見ると安心するぜ」

 霊夢の隣には、黒い装束の魔法使い。霊夢の親友にして悪友、霧雨魔理沙である。

「そうね」
「でもよ」
「何?」

 魔理沙の不思議そうな顔に霊夢は訊ねる。
 魔理沙は空を指差しながら答えた。

「初めて見たぜ。冬の精霊を追い掛け回す春の妖精」




 空を舞うのは春を告げに来たリリーホワイトだけではなく、冬と共に去り行くレティ・ホワイトロック。
 リリーホワイトは「騙された!」という顔で、半泣きになりながらレティを追いかける。
 レティはレティで、悪戯めいた意地悪な「してやったり」顔でのらりくらりと逃げ回る。

 今冬、何事も無かったかのようにレティ・ホワイトロックは復活していた。
 レティは冬の具現である。冬が去ると共に消え、冬の訪れとともに再び生まれる。人間の生死の概念からはそもそも遠いのだ。寧ろ妖精に近い筈だが、今まで会ったことの無い妖怪を其処まで理解しろというのもリリーホワイトにとっては酷な話と言えるだろう。

「それにしても、思い立ってみて良かったわ。溶けそうでイヤだけど」

 それでも、レティとリリーホワイトが、普通の季節の移り変わりに何故出会えたのか――答えは簡単で、今までは会えなかったのではなく、会わなかっただけだったのである。昨年までは、レティがリリーホワイトを避けてとっとと撤退していたため、邂逅することがなかったのだ。
 だが、季節はデジタルに切り替わるのではなく、徐々に移り変わるものだ。春と冬の同居は、僅かな期間ではあるが、毎年繰り返されてきたものだ。
 だから、レティは、今年はすぐに去らなかった。存在できるギリギリまで粘った。
 そして――二人は再会した。その時のリリーホワイトの顔は、まさに鳩が豆鉄砲を食らった時のようだった。

「あははは、やっぱりあんたはバカねー!」

 意地悪極まりない言葉に、リリーホワイトが春色の弾幕をぶちまける。それをかわしながら、レティも冬色の弾幕をお返しする。
 最初は怒り顔だったリリーホワイトの顔にはその内、堪えきれない笑顔が浮かぶ。レティも、意地悪な色を少しだけ抜いて、穏やかな微笑みを返す。
 両者笑顔のその攻防は、丸で舞うように、続いた。





「それじゃ、また来年ね。リリーホワイト」

 戯れの時間にも終わりが来る。一声掛けてそのまま去り行くレティに、リリーホワイトはしっかりと頷いた。
 一年に一度の邂逅でも、一年に一度、会えるのだから。
 あの日の記憶を胸に、リリーホワイトは歌う。言葉にならぬ想いを込めて。
 また来年、お会いしましょう。レティ・ホワイトロック。




 その光景を見上げる巫女と魔法使いは一言。

「春ね」
「春だな」

 去るものの笑顔、来るものの笑顔、其処にあるものの笑顔。
 そして冬は去り、今年も幻想郷に、春がやってきた。 




(了)
 
 お読み頂き有難う御座います。熊の人です。作品を投稿させて頂きます。
 レティとリリーホワイトは、季節に依存しているキャラクターで、季節の移り変わりは、自然のダイナミックな部分を最も解り易く体感できるものだと思います。
 季節の擬人化は神話っぽく感じられて、この二人が絡んでたら素敵だなあ、と思ったのがこのSSを書くに至った発端です。
 私自身は相変わらず拙く、本文は“素敵”には遠いのですが(要精進……)、もし少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

※前回の「変身」に評価/コメントくださった皆様、有難う御座いました。
 「面白かった」というお言葉はとても嬉しかったです。書きたいという想いが湧き上がってきました。「オチを捻ったほうがいい」「書き方を見直すとよい」という御助言には頷くばかりでした。面白いオチを付けられるよう、勉強します。取り敢えず星新一先生を読み直します!
 そして今回お読み頂いた皆様には、重ねて、有難うございました。
熊の人
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コメント



0.520簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
レティ・・・妖精?
2.無評価熊の人削除
すみません。レティを「妖精」とは一度も書いていないのですが、冬の「精霊」と書いてしまったので、解りにくかったですね。
6.無評価名前が無い程度の能力削除
すみません。妖精ではなく精霊と書くつもりでした。何というミス。私の馬鹿。
何を言いたかったかというと、レティは妖怪ではないかということです。違いましたっけ?
7.50固形分削除
冬の精を春の精が助ける、というアイデアはとても素晴らしいし、王道ストーリーで組立てやすいと思います。
問題は味付けの面ですが……ご自身で弱点も解決法も見つけていらっしゃるようなので、後は練習と慣れで何とかなるのではないかと。
優しいお話は好きなので、次回作、期待しております。
13.100無を有に変える程度の能力削除
こういうの話は大好物ですw
17.60名前が無い程度の能力削除
うむ。とても優しいお話で良かったです。