Coolier - 新生・東方創想話

マウンテン・ソルジャーズ・オン・ザ・フォール・オブ・フォール

2014/01/20 23:52:52
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 山が騒がしい。昼下がりの妖怪の山の空気を感じながら私は滝に向かって飛んでいる。この秋の紅葉の景色も何百回見たことだろうか。
 数週間前に私たちの山に侵略者がやってきた。彼らの名は守矢の神社。突如社殿、湖、そして大量の怪しげな柱とともに山に現れた三人の神たちだ。私たち山は当然彼女たち異邦人を受け入れる気はなく、また彼女たちはこの山を拠点にしようとしていたため暫くは両者に緊張が走っていた。今ではその緊張もある程度落ち着いて両者の利害のための交渉の場を持つようにはなっているがそれも未だに難航している。
 だが今日の騒ぎは守矢の神社が原因ではない。いや、正確には直接的な原因ではない。先刻河童から報告があった。それによると博麗の巫女が山に殴り込みを仕掛けたということらしい。巫女の目標は守矢の神社だそうだ。当然私の上司たちは黙っているわけもなく哨戒の白狼天狗や妖怪鴉に命令させて彼女の駆逐に当たらせている。そして私たち鴉天狗には待機命令が出されていた。
 しかし大人しく座して待つのは私ではない。何度も巫女の異変解決を追跡し、花の異変で直接手合わせした私は現状あの守矢をどうにかできるのは彼女しかいないと確信している。そのため彼女と接触、守矢の神社まで誘導しようと考えた。
「とはいえこれが上にバレたらタダでは済まないわよねえ……」
 プライドの高い上のことだ。侵入者を黙って通してしかも自分たちで対処すべき障害をどうこうされてしまってはいい顔をするはずがない。まして待機命令が出ているはずの鴉天狗の手引きがあったとなれば尚更だろう。仮に通すとしてもある程度の形式は付ける必要があると考えるのが上だからこの状況はどうにもうまくない。
「さて、どうしたものかしら」
 物思いに耽りながら飛んでいると紅葉の舞う九天の滝に到着した。巫女が樹海を通り山の麓の渓谷から上ってくるとしたらこの滝を通るはずだ。誰かに見つかって厄介なことにならないよう私は岩陰を移動するように飛ぶ。あまり隠密行動は性に合わないがこの際仕方がない。私はあても無くこそこそと滝を飛び回る。
 と、離れたところで紅白の人影と白黒の人影が動いているのが見えた。もしやと思い目を凝らしてみる。白狼天狗の千里眼は私たち鴉天狗には無いとはいえ視力は人間よりもずっと優れている。ある程度離れた距離を見るだけなら別段不自由はないのである。やはりそこには巫女がいた。白黒の人影は白狼天狗、どうやら巫女と弾幕ごっこで戦っているらしい。
白狼天狗は「の」の字のような配置でぐるぐると渦巻き状に弾を展開しその間を縫って小粒の弾をばら撒く。弾は青白く滝の色と同化していて視認しにくくなっている。なるほど、地の利をよく活かしている。だがその程度の目くらましで巫女を倒せるならば私も花の時には勝っていたことだろう。巫女は易々と弾幕を潜り抜けお返しとばかりに札や陰陽玉を放つ。流石は弾幕で異変を解決してきたプロフェッショナルは違う。私は見る見るうちに追い詰められていく白狼天狗を眺めながら改めて舌を巻いた。
「あの白狼天狗……使えるかもしれないわね」
 二人の弾幕勝負を見て巫女の技量に感嘆する傍らふと私の計画を文句をつけられずに行う方法が閃いた。ならば善は急げ、だ。私は人差し指と親指を唇にあてて口笛を吹いた。この口笛は鴉天狗ならほとんどの者が身に着けている技能で山の妖怪烏とコミュニケーションをとるために必要な技術である。数秒後に猛禽のような大きさの黒い影が私の近くに現れる。
「ご苦労様。早速だけど仕事を一つ頼まれてくれるかしら」
 私が話しかけると烏は内容を聞かせてくれと促すように小さく鳴いた。
「あそこに弾幕勝負をしている天狗が見えるでしょう?あの天狗はもうすぐとどめをもらって負ける。だから私が合図したらあなたがあの天狗の盾になって彼女を連れて私のところに連れてきてちょうだい」
 依頼をすると烏は羽を動かして露骨に嫌がるようなそぶりを見せる。確かにいきなり呼ばれたと思えば弾幕の盾になってこいなどと言われては納得はできないだろう。だがここは山の縦社会、上司から部下への理不尽がまかり通るブラックな職場だ。あくまで強気で行かねばならない。私は表情を険しくしてもう一度命令する。
「これは鴉天狗から妖怪烏への命令よ、嫌とは言わせないわ。逆らうようなら……」
 ここまで言うと烏は渋々といった様子で大人しくなった。少し悪いことをしてしまったし後で何か美味しいものでも食べさせてあげようかしら。そう思いながら改めて線上に目を移すと丁度巫女がとどめと言わんばかりに陰陽玉を掲げているのが見えた。
「今よ、行きなさい!」
 命令をすると烏は飛び立ち弾幕を潜り抜け二人の間に飛び込む。そして巫女から白狼天狗を覆うように羽を広げた。巫女は少し驚いたような顔をしたようだが躊躇わずに陰陽玉を投げつける。小気味のいい音を立てながら飛来するそれから逃れるため烏は白狼天狗を突き飛ばすように羽ばたく。その状況判断のおかげか陰陽玉は烏をかすめて滝に直撃して大きな水しぶきを上げた。烏はその隙に白狼天狗を捕えたまま巫女の攻撃の射程街まで飛んで行った。巫女は一瞬不思議そうな表情を浮かべたが滝の上を見上げるとすぐに上流へと飛んで行った。私はすぐに戻ってきた烏から白狼天狗を受け取ると陸に連れて行った。
「ご苦労様。後でお礼はさせて貰うわ。ありがとう」
 烏は私の言葉を聞くと一礼するような動きをして山の中へ戻っていった。現在山の中腹のこの場所に居るのは私、そして先ほど助けた白狼天狗だけだ。白狼天狗は呆然としながら飛び立つ烏を見つめると次に不信と怒りの入り混じった私の方を見て口を開いた。
「貴女は鴉天狗か。今は待機命令が出ているはず。なぜここにいる?そしてなぜ私を助けさせた?」
「質問は一つずつにして頂戴。どちらの質問も一つの回答で返すことができるけどもね。えーっと、貴女はいつぞや将棋の件で取材した白狼天狗の……犬走椛だったっけ?」
 私は妖怪烏に助けさせた白狼天狗を見て言う。改めて近くで見てみるとどうやら何十年か前に取材したことで面識のある天狗だったようだ。
「それじゃあ答えるわ。ひとつ。私にこのいざこざをどうにかする考えがあったから。そしてもうひとつ。その考えをどうにかするために博麗の巫女と戦った者と接触する必要があったから。今回はその博麗の巫女と戦った者がたまたまあなただっただけ。これでわかったかしら」
「正しい答えになっていない。具体的に言え。鴉天狗の射命丸文殿」
 どうやら犬走も私のことを覚えていたようだ。自己紹介の手間が省けて楽でいい。しかしやはり答え方がまずかったか。犬走は不信の表情を尚更強くした。
「わかったわ。ただし聞くからには頼みを一つ聞いて頂戴。あなたを助けさせたのは私なんだから断らないわよね?」
 私の言葉に椛は渋い表情をしながら頷いた。
「巫女に山の神をどうにかさせるために守矢の神社まで案内しようと思ったのよ。ただ上は当然それを簡単には許さないでしょう。だから巫女と交戦して負ける白狼天狗に恩を売って報告に色を加えて貰おうと思ったのよ」
「巫女と交戦して負ける白狼天狗とは……随分な言い草だな。返す言葉もないが」
 椛はばつが悪そうに答え、そして続ける。
「で、要するに貴女が上に認められたうえで巫女と話ができるように虚偽の報告をしろというんだな?鴉天狗に借りは作りたくない、吞んでやろう。台本を寄越してくれ」
 思ったよりも簡単に話が付いた。この場合は日ごろの行いの悪さのおかげだろうか。だがこの白狼天狗は少し勘違いをしているようだ。私の説明不足でもあるが。
「いえ、嘘の報告をする必要はないわ。ただ報告するときに一言意見具申をしてくれればいいのよ」
「何をだ?」

 椛が上に巫女のことを報告に出発して既に30分ほど経過した。私は自分の家に戻りこの暇な時間を緊張しながら過ごしていた。
 窓から見える紅葉は今年も綺麗だなあ、などと思いながら外を見ているとこちらに向かって烏が飛んでくるのが見えた。私はそれを迎えると足首に巻かれた紙を取り、開いて文面を読む。
“射命丸文。至急大天狗の許へ来たれ”
 どうやらあの子はちゃんとやってくれたようだ。私は素早く支度を整え出発した。全速力で。

「失礼します」
 私は上司である大天狗の部屋の戸を叩きそのまま中に入った。畳敷きの部屋で大天狗が胡坐で座っていた。私は大天狗の前まで来て正座する。
「早かったな。流石は最速の鴉天狗だ」
 大天狗は言うと真剣な表情を作って話を続ける。
「お前を呼んだのは他でもない。現在山を襲撃している博麗の巫女のことについてだ」
「河童から報告のあった件ですね。何か進展が?」
「ああ、先ほど白狼天狗からの報告があった。巫女を九天の滝で発見し交戦したが敵わず敗北し、巫女はそのまま上流へと進んでいったらしい。で、ここからが本題だ。その白狼天狗から聞いたがお前は新聞の為に何度かあの巫女に取材をしたそうだな」
「はい。その通りです」
 ついに来た。私はほころびかけた口元を締めながら答える。
「ならば巫女がどういう人間なのか山の中でお前以上に詳しいものはいないだろう。彼の者と直接会って話をつけてこい」
「承りました。その前にお聞きしておきたいことが。仮に交渉が失敗した場合はどのように?」
「巫女たちの制定したルールがあったな。確か弾幕ごっこといったか。あの遊びに付き合ってやれ。それでお前が勝利し追い返せばいい」
 巫女を倒せとはなかなか無茶なことを言う。そもそも私には勝つつもりも無いのだからどうでもいい話ではあるが。私はそれを表情に出さないようにして更に話を続ける。
「しかし弾幕ごっこにおける彼女の実力は、いや、実戦においてでも彼女の実力はかなりのものです。自身を過小評価するつもりも巫女を過大評価する気もありませんが私が全力でかかっても勝てるかどうかはわかりません」
「弱気だな。で、お前は負けた場合はどうするか聞きたいのだな」
 話が早い。私が巫女の対応に向かうことが認められた時点で取る行動は決まっているが一応聞いておくに越したことはない。
「その場合は致し方ない、大人しく通せ。山としてお前が戦いに行く以上負けたならば奴の要求を呑むしかあるまい。だが負けたところで気にすることはない。我等妖怪は人を襲い人に退治されるものということになっている。故に勝てば前者の場合、負ければ後者の場合となるだけなのだから」
「……それで、いいのですか?」
 思わぬ柔軟性の高い答えに困惑したが妖怪と人間の関係として筋は通っている。これが許されるのなら非常に都合がいい。私は念を押すためにもう一度聞く。
「二度は言わん。さあ、行け。奴は今頃滝を上りきる頃だろう」
「承知しました」
 大天狗の言葉を聞くと私はすぐに外に出る。既に太陽は西に傾いている。秋の日は釣瓶落とし、日暮れは近いことだろう。

 滝の上に到着した。下流は東、今は太陽を背にしている形になる。私の視線の先には博麗の巫女がいる。私がここに来たのと時を同じくして彼女も到着したらしい。彼女は私の姿を見て口を開く。
「あんたは新聞屋の……別に天狗やら山の連中に用があるわけじゃないわ。どいてくれないかしら」
「そういうわけにもいかないわ。どうして私がここに来たかわかるかしら?」
「何を言いたいの?」
 巫女が怒ったような声色で聞いてくる。私は構わず続けた。
「この山で貴女のことを一番よく知っているのは私。だから私が貴女の相談に乗ろうと思ってやってきたのよ。上司公認で」
「貴女と話すことは何もない。私はこの山にやってきた神様に用があるの」
「どうやら貴女はまだその神様の場所を知らないようね。でも知る必要はない。あの神とのことは私たち山の問題。外部の人間がどうこうすることではないわ」
 さて、言ってはみたが巫女は当然引き下がるまい、寧ろ向かってくるだろう。無論それを見越しての私の言動であるが。
「せっかくここまで来たのよ。その神様のところまで連れてってくれてもいいじゃない」
 やはり食い下がってきた。私はもう少し話を続ける。
「私個人としては貴女を通したいところなんだけどね、それじゃあ貴女が途中で倒した白狼天狗たちが黙ってはいないからそれは無理な相談。彼女たちの面子もあるからね。私を倒したら貴女が通ることを山は認めるわ」
「そんなに天狗同士の面子を気にしなきゃならないって面倒な種族なのね、貴女たちは」
 巫女は苦笑いを浮かべ同情するように言う。確かに山の組織は自由奔放を標榜したい私にとっても些か面倒なことは同意したい。そんなことを考えた直後に巫女はお祓い棒とお札を構える。いったいあの道具で何体の妖怪を葬ってきたのだろうか。私も団扇を構え彼女に宣戦布告をする。
「組織に属するってことはそういうことなのよ。さあ、手加減してあげるから本気でかかってきなさい!」
 その言葉を皮切りに私たちは弾幕を展開した。

「真面目に戦ったことなんてほとんどなかったけどやっぱり負けた、か」
「さあ、案内してもらいましょうか」
 弾幕を避けきれず戦いに負けボロボロになった私に霊夢が言う。全く、分かってはいたが容赦のない巫女だ。
「分かっているわ。さあ、早く行ってしまいましょう。貴女も面倒事は早く片付けたいでしょうし私たちも貴女は用事を済ませたら早く帰ってほしいし」
 既に太陽は沈みかかっている。これなら守矢に到着する頃にはすっかり夜になるだろうか。私は霊夢を手招きすると目的地へと向かった。
「で、今回はどういう事情でここに殴り込みをかけようと思ったんですか?」
 道すがら世間話、もとい取材を敢行する。口調も記者モードに切り替えだ。
「あー、そうね。あそこの巫女みたいなのいるでしょ?名前忘れたけどあいつがこの間私の神社にやってきていきなり営業停止しろだの山の上におわす神に譲渡しろだの言ってきてね。本当にちゃんとした神様なら考えないこともないんだけどどうにも胡散臭いから直接顔を拝見しに行こうと思ったのよ」
 なるほど、あの神たちは博麗神社の役割を考えず随分と勝手なことをする。霊夢も博麗の巫女という役割の重要さを十分に自覚していないのだろうか。
「なるほど。お怒りごもっともです。なら今回の話し合いで無事に解決できるといいですね」
「話し合いで済めばいいけどね……あんたたちも仕掛けてきたしこの先も何事もないとは正直思えないわ。私の勘もそう言っている」
「なるほど、貴女の勘は侮れませんからね」
 そのままこれからのことを話しながら先に進む。無論取材メモを取ることは忘れない。
「おや、ようやく見えてきましたね。あそこが貴女の目的地です」
 メモを数ページ埋めた頃に守矢の神社が見えた。暗くなっているうえにこの距離からでは木々に阻まれていて少々見えにくいが霊夢もちゃんと確認できたようだ。彼女は緊張を強くして目的地を見る。
「それでは私はこれで失礼します。健闘を祈るわ」
「案内ありがとう。なるべく早めに済ませて出ていくわ。それじゃあね」
 霊夢は迷いなく守矢の神社に飛んでいった。私はそれを見送るとそのまま引き返した。彼女について行って事の一部始終を見送りたかったというのが正直なところではあるが、そのためにわざと負けたなどと上司から思われては困るので自重しよう。
 暗い山道を注意しながら進むとその先に誰かがいた。どうやら犬走のようだ。その側には妖怪烏もいる。椛を助けることを頼んだ烏だ。
「その様子だと無事済んだようだな。射命丸殿」
「ええ、おかげさまでね。頼みを聞いてくれてありがとう」
 私は礼を言う。しかしなぜ彼女がここにいるのだろう。
「この子が貴女を探していてな、連れてきたんだ。どうやら約束の謝礼を要求したいらしい」
 私の心を読むかのように犬走が言う。それに呼応するように烏が鳴き声を上げた。なるほど、確かにそういう約束をしていた。しかしなんと気の早い烏だろうか。礼はすると言ったがこんなに早くに要求してくるとは。将来は大物にでもなりそうだ。
「やれやれ、分かったわ。それじゃあ行きましょう。犬走、貴女はこんなところに来れるくらいだから今日はもう暇よね?」
「ああ、そうだがどこに行くと?」
「決まっているでしょう。その烏の勇気に対する報酬として一緒に飲みに行くのよ。もちろん私の奢りで。貴女も付き合いなさい」
 それを聞き犬走は嬉しそうに笑みを浮かべる。やはり彼女も天狗、お酒は大好物だ。烏もまた嬉しそうに羽を広げる。
「ならば喜んでご一緒させていただこう」
「よし、それじゃあ行くわよ」
 巫女が神社に行った以上妖怪の山と山の神のゴタゴタにはある程度の進展が見込めることだろう。これで心置きなく羽目を外せるというものだ。守矢の湖の方向から微かに見える弾幕の光を眺めながらそう思う。
 夜空に浮かぶ丸い月の光を受けながら私たちは帰途に就くのだった。
この作品、私が規約をよく読まなかったことが悪いのですが、先にpixivに上げた後にこちらにも上げてしまいました。
つまり、創想話が初出の作品である事、の規約を破ってしまっています。
反省はしていますし次に投稿することがあったらこのようなことは絶対にしないようにします。
本当に申し訳ありませんでした。
梯子フリーク
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コメント



0.590簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
 こうした事件の裏舞台を垣間見るのは楽しいものです。
2.80名前が無い程度の能力削除
読点が少なく一文一文が長いです、が内容が良かったです。プロジェクト文、という感じのドキュメンタリーでした。
10.70とーなす削除
他の方も指摘している通り、読点が少ないのが読みにくかった
二人のなれ初めは面白い、けど風神録のストーリーの焼き増しのような文章に見受けられる部分も多く、そこらへんが退屈に感じた。もう少し目を引くインパクトが欲しかったかも
11.60奇声を発する程度の能力削除
面白かったです