そして、残暑が残る、夏の日。事変はすぐにやって来た。
『事変、それは、異常な出来事。非常の出来事。』
『雨、やっとあがったわね』
赤い着物、巫女の着る服のように見えるが、あまり似ていない服装をした、少女が一人、鬼のツノ、それが生えた。いや、付けた、格好をしている。
「何してるんだ?そんな馬鹿みたいな顔して」
《妖術使いの魔女っ子 霧雨 魔佟霖(きりさめ まとり)》
少年。いや、少年のような格好をした、少女が現れる。箒にのり、空中に浮かぶ、少女が一人。先程、空を見上げている、巫女らしき少女に、罵倒のようにして声をかける。
『はあ〜、嫌ね。やっと雨が上がって洗濯物を干せると思ったのに、厄介な奴が来ちゃった。』
「そんなこと言うなよ、可愛い顔が台無しだぞ。靈萃」
『可愛いのは当たり前よ、それと、この程度のことで台無しにされたく無いわよ』
《凶悪な理想郷の巫女 博麗 靈萃(はくれい れいすい)》
悪態を吐く魔佟霖に失礼だと叱る靈萃。この光景は、日常的なものである。
靈萃『で、何しに来たのよ?私は、今から洗濯物を干したいんだけど』
魔佟霖「いやな、下の方で騒ぎが起きてるから、靈萃にも知らせに来たんだよ」
靈萃『騒ぎ?嫌ね、何か起きたの?』
魔佟霖「ん、だから連れてきた」
靈萃『連れてきた?まさかここにいるの?』
魔佟霖「ああ、重かったから、階段のとこに置いてきたんだ。」
『さ、そいつを見せながら説明するから、早く部屋入らしてくれよ』
靈萃『はああ?ほんっと、厄介ごとを持ってくるんだからあんたは』
巫女は外に出る。だが、その足は素足に靴下のみ、そのまま出てしまうと、雨上がりのドロドロになった地面につき、汚れてしまう。
靈萃『よいせっ!と…』
『さあ、早く連れてかなきゃ、彼奴(魔佟霖)も酷いわよね、こんな雨上がりの泥まみれの階段に置き去りにするなんて』
巫女は、空を飛んでいる。俄かには信じられない光景だが、この世界。幻想郷。では、見慣れた光景である。
『ん、あ、だ…れ?』
靈萃『起きなくて平気よ、部屋に入れてあげるわ』
(天使だ…)
階段に横たわっている少年。その少年は空から舞い降りる巫女の姿を、天使…いや、(天女だ…)と、思った。
靈萃『で、魔佟霖、事変でも起きたの?』
魔佟霖「んにゃ、まだ決まってない。でも、確かに事変になりうるかもな」
靈萃『何よ、曖昧ね』
魔佟霖「私もまだ見てないんだよ、言伝で聞いたからな…』
「で、私もどんな物か見てみたくて、魔法の森に入ってみたんだよ」
靈萃『あんた!?魔法の森に入ったの!?あの、偏屈な人形使いがいるって言う!?そんな所に入るんじゃ無いわよ…』
魔佟霖「大丈夫だよ、実際は大したことないから」
人間の里、そこでは、魔法の森に住まう魔女、その魔女が、人間を殺して、剥製にした人間を人形に変えるという噂が流行っている
靈萃『あったこと、あるのね?』
(ん、んん…人の、こえ?)
巫女と魔法使いが茶の間で話し合っている時、少年が目をこすりながら目を覚ます。
靈萃『あ、起きたのね。あなた、名前は?』
荒遊『神水、荒遊』
魔佟霖「香油?」
靈萃『それで、何が起きたの?説明してくれるかしら?』
巫女は少年に聞く。目の前にいる魔法使いに聞けばいい気もするが、また話があらぬ方向に飛ぶ可能性があるから、少年に聞いたのだろう。
荒遊『あの、えっと、わた、僕。僕は、今日、母親と喧嘩して、それで、家に居たくなくて、外に出ていたら…』
『み、道に迷って、外に出てしまったんです。それで、つい、興味本位で森に入ったら、その、赤い…霧?が、出て」
魔佟霖「そっからは記憶が曖昧だろ?」
「聞いた話によると、赤い霧を吸った人間の体調が悪くなって、倒れるらしいぞ」
靈萃『それもう立派な異変!』
『あ、違った、事変ね。もう、なんで名前が最近になって変わるのよ!』
魔佟霖「仕方ないんだよ、異変ってのは、何世代も前の、黄金期に起きた事変の事であって、今はそう評しちゃダメなんだから」
昔話を、神話。と行ってはいけないのと同じ通りなのか、起きる問題を、事変。と、言うように変わっているらしい。
荒遊『あ、あの…ここって』
靈萃『ここは博麗神社、可愛い巫女が住んんでいる、妖怪退治屋みたいな所よ』
魔佟霖「自分で自分のこと可愛いって言う奴は痛い奴だから気をつけろよ」
靈萃『ああん?なんか文句あるわけ?』
いつものように悪態を吐き、それにイラつく靈萃。だが、今日だけはいつもと違った。
荒遊『天、天女様…』
靈萃『…え?』
『も、もしかして私!?そんな!』
『いえ、そうよね、側から見ても天女ぐらいの美しさだものね。ええ』
魔佟霖「こいつは博麗 靈萃」
「この神社の、鬼巫女だ。」
靈萃『あら?魔佟霖もようやくこのファッションセンスの良さに気がついたのね!』
魔佟霖「ダメだ、褒められて天狗になってる。鬼のコスプレの次は、天狗のコスプレでもするのか?」
靈萃『しないわよ、馬鹿にしてるの?』
魔佟霖「お!ようやく気がついたのか?遅かったな』
靈萃『あーん!?』
荒遊『ひ!?』
靈萃『あ、ごめんごめん。忘れてたや』
魔佟霖「はあ、でも、この事変。早く解決しないとか。あの霧が出てから、作物が育たないんだよ』
靈萃『そうなの?』
魔佟霖「ここらは高地だから、霧がこないけど、人間の里じゃ、少しづつ霧が蔓延して来て、大変なんだよ」
「魔法の森では、人里より進行が早くて、妖怪どもが活性化してる」
靈萃『そうなの、なら、早く解決しないとね…』
『霧、霧ね〜。ん〜、妖怪の山の連中な気がするわ!あいつら、無駄に科学が進展してるし』
魔佟霖「歴代の博麗の巫女の書き記した歴史書持って来たぞ」
魔佟霖は、靈萃が無駄に、考えている時、隙を見て立ち上がり、勝手に神社の倉庫を漁っていた…盗人の気質でもあるのだろうか?
靈萃『魔佟霖ねー…』
『ま!良いわ、私のこの超直感が当たってるってとこ、見せてあげる』
魔佟霖「靈萃の勘が当たったとこ、見たことないぞ?」
魔佟霖は、もう作者の名前も読めないほどの古い本を、一枚一枚めくっていく。
靈萃『あ、これじゃない?今から、役五百年以上前に起きた異変。』
『"紅霧異変"』
荒遊『こうむいへん?』
魔佟霖「ん〜、何々、先代巫女が、初めてスペルカード戦で戦った異変である。」
これは、先代である、歴代最強の直感と天性の幸運を持つ、博麗の巫女が、初めてスペルカード戦で戦った異変である。
紅霧異変…ある夏の日、そこに、赤い霧が現れる。その霧は、人間に悪影響を呼び起こし、作物を育たせなくし、日光を遮り、薄暗い、肌寒い幻想郷に変えた異変である。
その異変は、ある吸血鬼の少女が、太陽を無くし、昼でも活動する為に行った。霧の湖の、中心部にある、島…そこに建つ、紅魔の館の、主人である。
靈萃『紅魔の館。って、あれよね?あっちの裏にある、湖』
魔佟霖「靈萃、ほんと勘が悪いな…」
荒遊『そこから、霧が出てるんですか?』
靈萃『その可能性が高いってだけよ』
魔佟霖「はあ、それにしてもお前(荒遊)よくそんなに喋れるな」
「家の店に来た客なんて、2日経っても、たどたどしかったのに…」
靈萃『ねえ、それって?』
魔佟霖「ああ、それだ…」
靈萃と魔佟霖は、顔を合わせながら目で会話をする。
そう、嫌なことを考えている時の行動だ…
靈萃『あんた、抗体ができんじゃないかしら?』
靈萃は、可愛い顔を台無しにして、悪い大人のような顔でニヤニヤ笑う…
魔佟霖「そうだな〜、抗体を強くする為には、基となったものの原点に行くのが良いよな?』
魔佟霖は、特に可愛くもないのに、顔を台無しにして、悪い大人のようにニヤニヤ笑う…
靈萃『ま、事変解決が巫女の仕事じゃ無いけど、こうなったら、原因を突き止めるのが、巫女の仕事!(なのか?)』
魔佟霖「さあ!決まったなら善は急げだ!行くぞ!」
荒遊『あ、あの…それって、僕も行くんですか?』
二人は不思議そうな顔で言う…
靈萃&魔佟霖『当たり前(でしょ? だろ?)』
…と、