Coolier - 新生・東方創想話

それはいつかの私たち

2013/03/12 10:57:29
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「まーた早苗はゲームばっかやって」

 神奈子様が部屋でゲームをやっている私にいつもの小言を言う。もはや慣れたことだ。

「いいじゃないですかー私の癒しなんですよー」

 そう答えるのも、もはや慣れたことである。私は今パソコンの前で『東風』というゲームをしている。このゲーム、私が現代に居た時とても人気の同人ゲームだったのである。二次創作なんかも盛んで、年に二回のオタクの祭典でも毎年サークル数が増えたり減ったりしていたが、常に他ジャンルよりもぶっちぎりのサークル数を誇る位に凄い人気だった。
 では、そんな風にまで人気が出たゲームとはどんなものか、ゲーム自体は、ゲームディスク事態をパソコンに入れた状態でないと起動できないという少し古いタイプのゲームだが、なぜかセーブは全てディスク内で行えるという謎の仕様。つまりスーパーファミ○ンなどのカセットのようにゲーム本体にセーブができる、ということだ。そして、ゲーム自体は驚くほど出来がいい。どんなものかといえば単純に弾幕とギャルゲーを足して2で割ったようなものである。しかし驚くなかれ、攻略人数は100人を超え、その中の会話もしっかりとしている。そしてうまい具合に選択肢を選んでいき。親愛度が上がれば、その後のシューティングでボムの数が増えたりなど、シューティングで有利になる要素が出てくる。そしてそのシューティングでのプレイスキルの評価などにより、次のその子との会話が変わったり、選択肢が変わったり、話自体が変わったり。ともかく内容が濃い。つまり会話の方でうまくいったとしてもシューティングが下手ではダメ。逆にシューティングが上手でも女心が分からないとダメ、このようなゲームなのだ。
 その上シューティングの難易度も高く、自分の選んだ子とトゥルーエンドになるためには、ノーミスで全数十ステージをクリアした上でかつ、無謀ともいえる得点稼ぎをしてようやく到達することの出来るスコアを叩きださなければ、トゥルーエンドを見ることが出来ないという超鬼畜使用。しかし、それでも私はやりこみ、四、五十人のキャラを攻略してきた。いや、本当によくやったと思う。余談だが、私はこのゲームの巫女であり、主人公でもある『零夢』という子が一押しだ。というか嫁的ポジションだ。ちなみに絡みとしては同じく主人公でもある黒白魔法使い『魔理紗』という子と絡めるのが最高だ。その時は勿論、零夢が攻めのポジションである。これ大事。
 このような考えからか、よく嫁が魔理紗で、零夢と魔理紗を絡めるならば魔理紗が攻めだと言い張る友人と論争をしたりした。その過程で、より自分のカップリングの方がいいと相手に伝えるため、漫画にしたり、小説にしたりもした。それをまさか、同人即売会でサークル参加して売るはめになるとは思わなかったが、あれはあれで、外の世界に居た時の思い出となっている。
 そのほかにも、吸血鬼姉妹に血を吸われたいといつも言っていた後輩。『悟り』たんマジ小五ロリィとか、『古傘』ちゃんまじ可愛いとか連呼してた幼馴染達。『綾』はいいぞ、心が豊かになるとかいつも宣伝していた先輩。ともかく例を挙げれば枚挙にいとまがない。それくらい私たちはこの東風というゲームを愛していたし、また愛している人口も多かった。そんな風に東風を愛していた私たちは、より自分が東風を愛していると相手に見せるため、また、東風を知っている人をさりげなく探すためいろんなことをしていた。例えば皆東風のゲームディスクを入れるために、嫁が描かれているオリジナルCDケースを自作して、集まった時にドヤ顔で相手に見せたり、そのキャラを印象付けてるもの、例えば魔理紗好きの友人はあの帽子と箒、そして八卦炉。悟り好きの幼馴染は第三の瞳。もう一人の幼馴染である古傘好きの方は唐傘。綾好きの先輩はカメラと葉団扇。こんなものをキーホルダーなどにして、さりげなくいつも自分はこのキャラが好きですよと、また自分は東風を知ってますよ、ということをアピールしていた。要は、よくオタク達がバッグに好きなキャラのカンバッチを付けたり、好きなキャラの痛車に乗ったり、好きなキャラを携帯の待ち受けにしたりするのと同じような物だろう。今思い出すと顔から火が出るほど恥ずかしいことだが、周りが見えなくなるくらいキャラを愛していたと前向きに考えよう。
 そんな風に、いろいろと私達に影響を与えた東風というゲームを今日も私はやっている。最近、ようやく魔界神である『神紀』様のルートのトゥルーエンドを見ることが出来た私は、今日は息抜きにと零夢のルートを攻略している。ちなみに私は零夢のルートのトゥルーエンドをもう何回も見ているほど、クリアをしている。

『あら、森の中で妖怪に襲われてるなんて、あなた大丈夫?』

 私と零夢の最初の出会いだ。あ、ちなみにこのゲーム、主人公の性別も決めることが出来ます。そして今回も性別は女でプレイ。

『え、助けてくれたお礼に何かしたい?』
『じゃあ賽銭箱にお金入れてってよ。最近商売あがったりでね』
『そ、入れてくれるの。じゃあ楽園の素敵な賽銭箱まで案内してあげるわ』

 こんな感じに、零夢ルート、スタート。友人達も私と同じように自分の嫁ルートは何週もしているし、とても東風のキャラたちの事が好きだった。私も東風のキャラたちの事が大好きだし、何年もたった今でもその愛は変わらない。もちろん東風という作品も大好きであり、東風仲間が集まればいつも東風談義をしていた。東風は私達にとっての全てと言える位好きだったのだ。そうこう回顧している間に、神社に到着したゲームの中の私と零夢はとりあえず、賽銭を入れた後、神社の中で茶をのみ一服しているシーンになっていた。そんなシーンにあるキャラが登場。

『遊びに来てやったぜ、零夢』
『別に呼んでないわ,魔理紗』

 もう一人の主人公ポジションでもある魔理紗の登場だ。ちなみにこのゲーム、どのキャラを選んでも、零夢、もしくは魔理紗が必ず登場してくる。勿論敵か味方か、はたまたモブかは別としてだけど。このことから、この二人はよく主人公勢とまとめて言われるときもある。

『まぁ、そういうなって、っと新顔がいるな、名前はなんて言うんだぜ?』
『名前、そういえば名前。あんたなんて言うの?』

 すかさず、早苗と打ち込む私。この名前を打ちこむのが何となくいい、東風のキャラと会話をしている気がするからだ。友人達もここは大事に思っていたらしい。

『へぇ、早苗っていうの』
『おいおい、何で家に上げてるのに名前知らないんだよ……』

 魔理紗がやれやれといった口調で突っ込む。

『まぁ、いいじゃないの。それよりもう一杯お茶飲む?賽銭もいれてくれたし、それくらいはサービスするわよ』
『お、スマナイな零夢』
『あんたじゃないわよ。早苗のことよ』

 そんなこんなで話のプロローグを読んでいく。
 やっぱりいいな、東風は。もちろんキャラが可愛いというのもあるが、シューティングだって本格的弾幕シューティングで楽しい。シューターの人たちがこのシューティング目当てで買う位の出来なのだ。その上、音楽もいい。東風仲間で集まる時は、もちろんキャラの可愛さを語り、嫁の素晴らしさを語り、カップリングで論争し、弾幕の美しさで熱くなり、最後に音楽の素晴らしさで締める。これくらい東風の音楽は素晴らしいのだ、おっとそうこうしている内に最初のシューティングのステージだ。最初は、近くの妖精との零夢の弾幕勝負だ。難易度は簡単だが、得点稼ぎをするために気を緩めるわけにはいかない。ふぅー、と息を吐き集中。よしいくぞと少し前屈みになり、パソコンの画面と顔を近づけた瞬間、

「さなえーそろそろご飯作ってー」

 おっと、もうそんな時間か、いややっぱり昼の仕事を終え、晩御飯を作る僅かな時間ではやはりなかなか進まない。本当にじれったい。まぁこれもしょうがないこと。長くこのゲームが出来ると考えよう。こう考えた私はセーブをし、ゲームを終えた後、CDをパソコンから取り出し、それはそれは、赤子を抱くかのように大事にCDを持ち、そしてゆっくりとわが嫁である零夢が描かれているケースの中にしまった。さぁて晩御飯を作りますか。






















「はぁー、やっぱ零夢さんは最高ですねー」

 そんなことを言いながら、今日も私はわずかな時間を使って東風をやる。しかも最近の私は、特にテンションが高い。なぜなら、とうとう東風のキャラ全てのトゥルーエンドを見たのだ。いや、長い道のりだった。なんせ、幻想郷に来てから何年経っているか、もう私も外の世界では自由に酒をガブ飲みしても許される年齢になっている。それくらい長い時間やっていたのだ、自分でもよく飽きないと思うが、これもひとえに東風愛、というやつだろう。東風は私のアイデンティティーとなり、私の嫁は零夢というのが、私の中の世界の常識となっている。ということで今日も私は、東風クリア記念に零夢ルートを攻略している。

『あんた、最近よく神社に来るわね、なんも用が無いくせに』

 博麗神社の縁側で、零夢がお茶をズズっと飲みながら、同じく隣でズズっとお茶を飲んでいる私に話しかけてきた。

『いや、別に来るなとか言う意味では無く、むしろあんたは賽銭入れてくれるし、そんな無茶苦茶なことしないから一緒に居て楽だからいいんだけど』
『それに、本当に普通の人間で、私の所に来てくれるのは、あなただけだし』

 いやー、零夢のデレ、いいですねー。なんというか、全クリしてからより一層テンションが上がってしょうがない。本当によくやった。思い返せば、『精娥』は、選択肢ミスったりしたら自分がキョンシーにされたり、地底の『小石』、『悟り』姉妹はそもそも会話をなかなかしてくれない。『縁』は話が難解すぎて、どう接すればいいか、分からなかったし、妖精の方々は下手したら、私の事を覚えてくれない。そんな風に、会話の方が難しい子から、剣の修業とかなんとかで強い奴と弾幕勝負をする『幼夢』、暇だから地上に居る奴らとけんかするとか何とか言って実行した『天使』、仏教は燃やさなきゃいけないとかで暴走する『賦都』とか弾幕の方がクソ難しい子までたくさんいた。
 どんな子も会話で必ずミスり、弾幕でもまた必ずミスをしたが、ただ零夢だけが違った。さすがに基本的なゲームの弾幕の難易度から、シューティングの方ではノーミス、とまではさすがにできなかったが、会話の方では一回も間違ったことを選ばず、一週目だけで会話の方の親愛度がマックスになったのは、彼女だけだった。その時から、なんとなく彼女の事が気になり始めたのだ。いや懐かしい。

『次は地底に行ってくるわ、何?心配してくれるの?心配するなら金をくれ、って言葉知ってる?』
『あれ、同情だっけ?まぁどっちでもいいや』

 いつも通り、少しめんどくさそうな表情で適当なことを零夢は言っている。

『そんな、泣きそうな顔しないでよ、大丈夫。確かに地底は今までよりも少し危ない奴らが居るかもしれないけど、今までだって解決できたから、大丈夫よ』
『じゃあ、行ってくるね。……あなただけよ、私を本当に心配してくれるの』

 霊夢は、少し、本当によく見ないと分からない位の嬉しい表情をした

『周りの奴らは、私が負けるわけないと絶対に思ってるからね』

 そう言って、零夢は神社から飛んで行った。ちなみに、ここで親愛度が一定以下だと、弾幕うんぬんも無く零夢が死ぬというバットエンド、弾幕でも、親愛度が少ない状態で失敗するとまたもや零夢が死んでバットエンド。なかなかにえげつない。何故か零夢のルートは大体大きいミスをすると零夢が死んでしまうという謎仕様なのだ。ちなみに私が初めてバットをみたのは、魔理紗である。彼女の実家から勘当された理由が私のせいである、という誤った情報が彼女の耳に入り、そこで、親愛度が低かったからか、そのまま彼女が怒り、主人公と喧嘩分かれするという話だ。ついでに魔理紗が嫁の親友は、魔理紗の好感度を一週目から、最大にあげ、初めてのバットエンドは零夢と、私と正反対だ。他の人達も大体嫁だけは一週目から好感度が最大まで上げられていたらしい。やはり私たちの嫁は生まれながらにして決まっていたのかもしれないと、いつも笑いあいながら話していた記憶がある。っといつのまにかもう零夢が地底に乗り込むシーンしゃないか。

『さて、さっさと終わらせて、神社に帰りますか』

 おっと、弾幕シューティングが始まる。集中、集ちゅ

「さなえー買い物行ってきてー」

 神のために頑張る、神のいう事には従う。これ巫女のつらいところね。
 神奈子様の言っていた物、まぁ、里に晩御飯の買い出しするだけですが、それをさっさと済ませた私は、家に帰ろうとしていた。しかし、里の住人のちょっとした会話が聞こえたため、私は家に帰るのをやめ、ある場所に向かっている。

「あーあ、あの東風ってゲーム、やってみたかったな」

 里の女性がこんなことを話していたのだ。私は持っていた晩御飯の材料を落としそうになるくらいの衝撃を受けた。幻想郷で、東風の話が出ている。もしかしたら、外の世界ににいたときのように、色々と東風を共有し合えるかもしれない。そう思った私は彼女達に近寄りどうしてそれを知っているのかと聞いた。彼女たちは私が鼻息を荒立てやってきたことに驚き、警戒していたが、守矢の巫女と分かるとなんだ早苗さんか、みたいな顔をした。もし、私が彼女たちにとって知らない人という認識だったら、里の憲兵に捕まってもおかしくなかったかもしれない。町によく顔を出しといてよかったなどと思いながら、どうして東風というゲームを知っているのか、訊ねた。そしたら何でもこの前あまりにも暇だからと変な物を探すために香霖堂まで行ったらそこの主人がやっていたらしい。主人に対し女性がそれは何ですかと聞いたら、外の世界のゲームと答えたそうだ。そのゲームに興味を持った女性はそれを買おうと思い値段を聞いたら、これをやるには、パソコンが必要で、これは譲れないんだよ。だからゴメンネ。ゲーム自体はたくさんあるから譲ってもいいんだけど、それだけじゃ遊べないしね。こう言ったそうだ。女性たちは店主が言っていることが、よく分からなかったが、とりあえずこのゲームという物を売ってくれないという事は理解し、肩を落として里まで帰ってきたそうだ。
 私はこの話を聞き、女性たちは、東風で遊びたいそうだから、これをうまく使えば神社の参拝客が増えるんじゃね、と思ったが、パソコンとか知らない人にパソコン触らせて壊されたりしたら嫌だから、私、東風もってるよ、と言うにはやめた。
 それより香霖堂に東風があるとは、久しぶりに誰かと東風を語り合えるかもしれない。まずはどんなことを聞こうか、音楽、話、シューティング、いや、やっぱりまずはシンプルに好きなキャラだな、よしそれを聞こう。そんな風なことを考えながら自分の今までの飛行最高速を更新する勢いで飛んでいたら、ある場所、つまり香霖堂にもう着いた。さっそくドアを開けて中に入る。

「いらっしゃいませー」

 なんとも気の抜けた男性の声、それと東風の音楽、弾幕が展開される音、自機に相手の弾幕がカスる効果音が店の奥から聞こえてきた。おそらく会計をするカウンターの後ろにある居間にいるだろうと思った私は、店のドアから奥の方まで早歩きで行き、居間の引き戸に手をかけ、

「霖之助さんが今やっているのって東風ですか?」

 そういいながら、引き戸を開けた。

「そうだよ、というより勝手に居間には入らないでくれよ。それより僕がなんで東風を持っているのを知っているんだい?」
「里の女性たちがさっき話しているのを聞いて」
「なるほど、ということはあの時来たお客様かな?まぁいいや。だったら知っているだろう、ゲーム本体は譲ってもいいけど、ゲームをするために必要な機械までは渡せないことを。すまないがお引き取り願おうか」
「いえ、私は東風を持っていて、つい先日全クリしました」

 私がこう言った瞬間、霖之助さんのパソコンからピチューンというあの嫌な音が聞こえてきた。手元でも狂ったのだろうか。

「驚いたな、それは本当かい?」

 そういいながらゲームのポーズボタンを押し、いつものなんとも言えない枯れた表情では無く、心底驚いた表情をしながら霖之助さんはこちらに振り向いた。彼のこんな表情は、初めて見たかもしれない。

「はい、なんなら今度持ってきましょうか」
「いや、遠慮しとくよ。こういうのは自分でどういうものなのか、確認していくのが面白いからね」

 霖之助さんにはゲーマーの素質があるのではないか、私はそう思った。

「東風が欲しい、という訳じゃないならどうしてこんな場所に来たんだい」

 自分の店をこんな場所っていっちゃダメでしょ、こう心の中でツッコミながら私は、この店に来るまでの間に決めていたことを聞いた。

「いや、霖之助さんは東風のキャラで誰が一番好きなのかなって思って」

 聞いた。少し話の脈絡がないかもしれないがそんなことお構いなしに聞いた。いや他の人と東風について話す機会が出来たのは久しぶりだ。テンションが上がっているのだ。仕方ないだろう。本当に何時いらいだろうか、もう東風の事を数年、人と話していない気がする。昔はよく東風仲間が集まれば話し、自分の嫁の可愛さを語り、時には創作をしたり、よく仲間といろいろしていた。特に魔理紗が嫁と言っていた友人とはカップリングの相違で論争になったりもしたが、その分いろいろと腹を割って話せてたのか、彼女とは特に仲がよかった。創作活動も彼女と私でやることも多かったし、彼女が魔理紗の事を本気で愛しているというというのもまたよく分かっていた。
 そんなメンバーと分かれて数年。今まで誰とも語りあわず一人で楽しんでいた私。勿論一人でも十分楽しんでいたのだが、東風が好きな者同士で語り合うのは、一人では味わえない楽しさがある。その楽しさを久しぶりに味わえると思うととても楽しみでしょうがない。しかし

「いや、僕はまだプレイし始めたばかりでね、まだどの子がいいか分からないんだ。とりあえず、今は魔理紗、っていう子を使っているけどね」

 なんという残念感。あれだけ期待してきたのにこんなオチとは。まぁ、だったらしょうがない。

「そうなんですか、じゃあまた今度来ますね、後、もし分からないことがあったら何でも聞いてくださいね」
「わかったよ」

 霖之助さんは、私との会話が終わったので、東風のポーズを解除し、またあの弾幕の中に飛び込んでいった。私は後ろから東風の弾幕やら音楽が聞こえる中、肩を落としながら香霖堂の居間を出た。この前来た女性たちも同じような感じでこの店から出ていったのだろうか。がっかりしている理由は違うけれども。
 しかしさすがになんも無しにここまで来た、というのは何となくもったいない気がしたので、せっかくだし香霖堂の中を見て回ることにした。ここは外の物も売っている場所ということで、時々買い物に来たりすることもあるのだ。この前はライブとかで使われるサイリウムが売られていたのでそれを買って一人、部屋を暗くしてから音楽ながし、ライブ会場ごっこをして遊んだのは記憶に新しい。まぁ今回もそんな風に遊べるもの無いかなと探していたら東風が十枚ほどおいてある棚を見た。本当に東風が幻想郷に来たんだな、こう思いながらボーっと見ていたら、ある単純な疑問が頭の中に浮かんできた。それは今まで東風を語り合えると思い高揚していた私は気づけなかったが、落ち着いて考えれば誰でもわかることだった。東風というゲームがここ、幻想郷に来たということは、それすなわち幻想入りしたという事。この東風を持っていた人間が飽きたのか、無くしたのか、忘れたのか、はたまた死んでしまったのか、理由は分からないが、何らかの理由で東風を完全にやらなくなったということである。つまり幻想郷に東風がある、という事は外の世界の人間がその東風を全て忘れているという事である。東風好きとして何となく心が苦しくなるような感覚を覚えるが、それ以上に今、私の気になることがある。そう、それは、なぜか、友人が持っていた魔理紗ケースの東風があるのだ。
 私は、その魔理紗ケースを持って改めて霖之助さんの居る居間に行った。

「ゲームしているところ、すいません。この東風も、霖之助さんが拾ってきたのですか?」

 んー?と霖之助さんが言いながら再びゲームのスタートボタンを押し、ゲームをポーズさせながらこちらに振り向いてきた。私は、そんな霖之助さんに魔理紗ケースの東風を見せた。

「あぁ、そうだよ。これだけ特別な仕様が施されていてね。外の世界でいうと、特別ば」
「すいません、霖之助さん、この東風貸してくれませんか?」

 私は、霖之助さんの言葉を遮ってそう言った。霖之助さんは、はぁ、と言葉を遮られたことに対してか、それともいきなり東風を貸してくれと言われたからなのか、それとも私には分からない理由でか、溜息をついた。そして

「まぁ、君だったら東風を完全に知っているらしいし、壊すことはなさそうだからいいよ。それにゲーム自体はたくさんあるからね。」

 そう言って私に貸してくれた。私はありがとうごさいますと行った後、行きにこの店に来たとき以上の速さで守矢神社の方向に飛んで行った。本日二度目の飛行最高速を更新した。


「ただいま帰りました」

 私は守矢神社に到着し、いつも通りの帰宅の言葉をいい、買ってきた晩御飯の食材を台所に置いたあと、すぐに自分の部屋に行きパソコンを起動させた。むぅいーんとあのパソコンが起動する時の独特の音がしてそこから数十秒。たったこれだけの時間を待てばパソコンがしっかり起動するのだが、今はそんな時間すらも長く感じた。とりあえず、この待ってる間に、私は魔理紗ケースから東風を取り出した。もしもこれが、本当に私の友人の東風だったら、この中に彼女のデータが入っている。しかし私は、そんなことは無いと思っている。そんなことは無いと思いたい。だって、あんなに東風が好きだった友人が、こんな風に幻想入りするまで、東風を忘れてしまうなんてありえない。だから、きっとこれは、そうオタクの祭典で魔理紗ケースを売ったんだ。そうだ、私の友人なら、魔理紗をあれほど愛していた友人ならば、きっとそうするはずだ。だからこれは彼女の物じゃない。そう自分に言い聞かせながら、数十秒という時間はいつの間にか過ぎ、パソコンは完全に立ち上がっていた。さぁ、パソコンにCDを入れよう。
 CDを入れ、ふぃーんとあの独特の音がした後、いつも通りの画面がパソコンに出てきた。

『フォルダーを開いてファイルを表示しますか?』

 私はいつも通り、はい、を押し東風のファイルを開いた。そこには東風のセーブデータから、ゲーム本体。プレイの仕方や、おまけテキストなど色々入っている。私は、いつも通り、と言っても私の東風というわけでは無いが、『ゲーム起動』というアイコンをダブルクリックした。さぁゲームの起動だ。ガガガガとCDを読み込む音がする。画面が一瞬真っ暗になったと思ったら、

『東風project』
         『少女祈祷中…』

 といつも通りの画面が出てきた。もしかしたら、壊れて確認できないかもしれない。そう思っていたが、そんなことは杞憂だったらしい。何となく、何となくだが、壊れていればよかったと心の中で思っていたが。まぁ、そんなことは置いておいて始めよう。
 タイトル画面になったらとりあえず、私は本当にこれが、私の友人のものか、確認するためにまず、まずはオプションのデータを見ることにした。ここには、誰を何回攻略したか、そして、最初どのキャラでも自分の名前を入力するシーンがあるのだが、そこで名前を入力するのが面倒くさい人用のため、ここに名前を登録しておけば、名前を入力するシーンをカットできるという項目などがある。いきなり名前を見るのが何というか心の準備的なものが出来ていないので、先にキャラ攻略のデータの方を見た。少しの読み込み時間の後に、出てきた画面には、全キャラのトゥルーエンドを見という印が付いていた。そして、このゲームを持っていた人は魔理紗のルートだけ桁違いに攻略していたらしい。全キャラ攻略で、魔理紗が大好き、そして魔理紗のケース。いや、友人が全キャラ攻略したかは不明だから、まだ友人のと決まったわけでは無い。そうだ、きっと名前登録の項目の所に知らない人の名前が登録されているさ、そう思いながら、今度は名前登録の項目を選んだ。少しのロード時間の後、

『名前が登録されていません。名前を登録しますか?』

 と、出てきた。とりあえず、『いいえ』を押し、オプションから出た。あそこに名前が無かったということは、続きからのゲームのセーブデータから見るしかない。ということで、タイトルの続きからの項目を選んだ。中にあるセーブは大半が魔理紗、しかも特に盛り上がる場所と、友人がいつも言っていた場所ばかりのセーブデータがあった。私は、とりあえず、登録した名前が絶対に出てくると思われるセーブデータにカーソルを合わせて、決定ボタンを押そうとした。が、なぜか指が動かない。パソコンのzボタンを押せば、すぐに確認できるはずなのに、押せない。指が少し震えている。いったいどうしたというのか。押したくないと、自分の中の何かが訴えているのだろか。なぜ、押したくないのか。大丈夫、あんなに魔理紗を愛していた友人が忘れるわけない。ゲームだって、壊れていないんだ、確かめられるんだ。確かめることが出来るんだ。セーブだって、たまたま友人と趣味が似通った人がやっただけだ。魔理紗の攻略数だって、たまたまだ。大丈夫、これは彼女の東風じゃない。そう、それを確かめられるんだ。だから、押すんだ、押せ、早く。大丈夫だから、今私の脳裏によぎった考えが現実に起きる訳ないから。私は、震える指で、zボタンを押した。そのセーブデータは、魔理紗のトゥルーエンドのセーブだ。

『あぁ、本当にお前が居る間、とても楽しかったぜ』

 場所は魔法の森の魔理紗の家の前である。二人きりで、家の前で話している。トゥルーエンドのシーンでは、主人公が一切喋らず、本当に画面の中のキャラが私達に話しかけてくるような錯覚を覚える作りになっている。

『だけど、外から来たなら、いつかは外の世界に帰らないと、な』

 魔理紗のストーリーだと、子供の時離ればなれになった家族を探すというのが、話の一つのテーマなのだが、主人公は、外の世界の住人で、子供の頃に事故に巻き込まれ、記憶喪失になりながら、この幻想郷に来たという設定だ。記憶がよみがえり、家族に会いに行いきたいが、普通の人間が外に行って、またこちらの世界に帰ってこれるか、分からない。だから、主人公は、外に帰らず魔理紗と一緒に幻想郷で暮らすと言い始める、みたいな感じだ。

『何、一緒に暮らすって?それもいいな……だけど、私がお前と一緒に行動を始めた理由、覚えているか』
『そのとおり。私は、お前から、家族捜索の依頼、および家族に会いたいという依頼を受けた。私は一度受けた依頼はしっかりこなすと定評があるんだぜ。だから、お前をしっかりと家族の元に帰す』
『駄目だぜ。家族の元に帰ってやんな。外ではきっとお前は行方不明扱いで、家族はきっと心配してる。それに、帰れる場所があるってのは、いいもんだぜ』
『それに、そんなに私と別れたくないなら、私が外の世界にいってやる。これで安心だろ?』
『何?私が信じられない?魔理紗さんは冗談は言うけど嘘はつかないぜ』
『ったく、しょうがないな……』

 そう言った後、魔理沙は帽子に手を触れ、すこし頭を掻くようなことをした後、少し顔を赤くして、こちらに近づいてきた。そして、

『……私のファーストキスだ。これをやるから、信頼してくれ』

 約束のキスをした。魔理紗ファンなら悶絶するほど素晴らしいシーンだろう。ちなみにこの主人公は女性らしく、そこらへんがよく分かっていると思った。

『ほら、涙をふけよ。さぁ、外の世界で待っててくれ』
『何、すぐにいくさ。だから待っていてくれ』

『またな、―――。今度はお前が外の世界を案内してくれよ』

 魔理紗は言った。―――と。そう、それは紛れもない私の友人の名前だ。
 あぁ、彼女の東風が幻想入りしてきたんだ。彼女は東風をやめたのだ。いや、もしかしたら、彼女自身は東風に飽きていないが、何らかの不幸が身に起きて、東風ができなくなったのかもしれない。しかし、なんと言おうが、彼女が散々嫁と言っていた魔理紗を手放したのだ。私は、ひどい人間かもしれないが、彼女の元に不幸が起きて東風が出来なくなったんだと思いたい。もし、本当にただ彼女が東風に飽き、魔理紗を捨て、もし違うゲームの、違うアニメの子を嫁と言ってめでていたら、何というか、心がグチャグチャになる気分だ。あんなにはまっていた彼女が、東風をやめた、この事実が私にもやってきて、今は勿論東風にはまっていて、零夢が大好きだが、いつか私もこのゲームに飽きて、零夢を捨て、新しい物の中で、新たにかわいい子を見つけ、嫁と言うのか。いやだ。相手は二次元で、そもそも、自分が相手の事を好きだという事実が一方的で、相手はしょせんただのデータであっても、そんなにあっさりと捨てて、新しい嫁を見つけるというのは、いやだ。そんな風に捨てられない。
 画面の中の魔理紗は涙を浮かべながら、しかしその涙も隠れてしまうほどの温かい笑顔を――に向けている。
 その笑顔は二度と――に向けることが出来ないとも知らずに。
 それでも魔理紗はその笑顔を続けるのだ。友人がもう東風をやらないとしても、友人の東風が幻想入りしたとしても、ゲームをつければ、笑顔で笑いかけてくれるのだ。私は不意に、零夢が見たくなり、この友人の東風を終わりにし、パソコンから取り出し、自分の東風をパソコンに入れた。タイトルに移ったら、すぐに続きからを選び、零夢のセーブしてあるトゥルーエンドを見た。彼女が笑顔で私に話しかけてくれる。そういつも通りに。
 
『いやぁ、やっぱり早苗の淹れてくれるお茶はおいしいわね』
『だからさ、これから毎日私のためにお茶を淹れてよ』
『そしたらさ、私も今まで以上に異変解決とかするからさ』

 零夢が博麗神社の縁側でお茶を飲みながら私にこう言ってきた。彼女の頬は少し赤くなっている。こんな遠まわしに、私のために毎日味噌汁作ってくれみたいな古典的で、恥ずかしがり屋が使いそうな言葉を言ってくる零夢は可愛い。初めて見たときはパソコンの前で、喜んで、と大声で返事をしたのはいい思い出になっている。

『淹れてくれるの、ありがとうね』
『別に、これは告白とかじゃないからね。ただ早苗のお茶が飲みたいだけなんだから』
『……これから長い付き合いになりそうだけど、よろしくね』

 そういって、零夢が笑いかけてきた。彼女のこんな表情、トゥルーエンドのここでしか見られない。初めての時は、涙を流しながら、勿論です、と答えたのはまたまたいい思い出だし、いまだにこのシーンを見ると、とてもテンションが上がる。
 しかし、友人はもうそんなことが無いのだろう。好きなキャラのトゥルーエンドを見ても、何も思わなくなったのだろう。
 いつか、私も飽きるのだろうか。いつか、私もこのゲームを忘れてしまうのか。いつか、私はこの東風をやめるのだろうか。友人のデータは全キャラ攻略して終わっていた。私も全キャラを攻略している。つまり、これ以上、新しい何かを見ることはないのだ。私は零夢が大好きだし、今だってこの零夢のトゥルーエンドを見て、とてもテンションが上がってる。しかし、何十回、何百回、何千回と同じことを繰り返し続けても同じことが言えるのだろうか。私も友人のようにいつか、このトゥルーエンドを見ても何も思わなくなってしまうのだろうか。どんなに素晴らしい劇でもそれを何年間も見続ければただのつまらない、もう見たくもない物になってしまうように。
 今は、こんなに好きでも、いつか零夢のことを見ても、東風をみても何も思わなくなる。そんな日が来るのだろうか。私はなんとも言えない不安を抱きながら、東風のゲームを終了させた。
 三作品目です。五か月ぶりです、昆布茶です。ここまで読んでいたたき本当にありがとうございます。ともかく何か書きたいと思って書いては消し、書いては消してたらこんなのになってしまいました。もう少し地の文を鍛えたいです。注意したほうがいいところ、直した方がいいところ、展開が電波、オチが弱い、話がくどい。こういうのは自分では気づきにくいので、どんどん指摘してください。

 本当に読んでくれてありがとうございます。
昆布茶
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コメント



0.400簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
考えさせられるww
創造話とかもいつかは寂れてしまうのだろうか...
8.100名前が無い程度の能力削除
事態→自体
バットエンド→バッドエンド(Bad End)

これは「発想の勝利」系の作品ですね、早苗の設定をうまく生かしつつテーマを最後まで貫徹していた所を高く評価します。…ところで東風にR18版は無いものでしょうか(思春期特有の発想)

読点や「という」「といっていた」「そして」「その上」等の一部の繋ぎ言葉を使いまわし過ぎな気がします。単文同士を組み合わせて段落を作る際は自然な流れを心がけてみてください。
9.90奇声を発する程度の能力削除
うーむ…考えさせられますな
12.803削除
存外深い話になりましたね。
盛者必衰、これ世の中の理。