日に日に上昇していく気温。
地面を覆った僅かな雪も溶け始め、幻想郷の冬も少しづつ春へと近づいていく。
しかし、まだ冬の終わり。寒いのもまた事実。
そんな中、朝もはよから境内に出る。
「……よし」
今日一日の気合いを入れて、竹箒を掴む。
「風祝の早苗。行きますっ!」
竹箒をクルクルと回しながらポーズを決める。
「……なーんて」
苦笑しながら今更ながらに誰かに覗かれてないかと辺りを見回す。
―――冷たい風が辺りを吹き付ける。
地霊の件があって以来、幻想郷は静かな日々を送っていた。
寒い季節。
妖精や妖怪達も外に出ることは少なく、闘争もない毎日。
「どこぞの神社の巫女もこたつで丸くなっていますし」
その点、私はあそこの巫女とは違う。
早朝から境内を掃除するこの立派な女を、きっと神様方も褒め称えてくれるでしょう。
―――勿論。私の事ですが。
私の一日は境内の掃除から始まる。
とくに秋、冬は枯れ葉が舞い落ちる季節。
朝の掃除はめんどくさ……じゃなかった、厄介だけど、この時期にもなると、木々の葉は落ち
きってしまい、境内の掃除も幾分楽になる。
その後、朝食の仕度をし、神奈子様と諏訪子様を起こす。
そんな一家団欒の風景。
「私は―――幸せです」
空を眺めながらそんなことを思う。
まるでお天道様は私を祝福しているかのように照らしてくれる。
今まで色々な事が起こったけど……
「何とかやっていけてます」
それは誰かに伝えるわけでもなく、咄嗟に口から出た言葉。
それにまた苦笑しながら掃除を始める。
ふと―――
「あれ……?」
空に映った黒い影。
「………」
超常現象、とでも言えばいいのだろうか。
「……船?」
顔が引きつる。
「まさか……そんなはずは……」
今見た物は見間違いだと思わんばかりに目頭を押さえる。
そして―――もう一度。
空を見上げる。
お天道様が昇る大空。
そして長く伸びた雲の間に。
「ま、まさか……」
確かに見える。
雲の間から見えた黒い影。
―――飛行船?
そんな訳がない。
幻想郷の文化は現代から比べると著しく劣っている。
そんなものがここにあるはずがない。
「でも、飛行船というよりは……」
―――宝船。
その言葉がぴったりと当てはまる。
そう、まるで七福神が乗っているような船を模したような形。
「……これは驚きました。まさか、本当に存在するなんて」
まてまて。
だとするとあの船はどうやって空を飛んでいるのだろうか。
「謎が謎を呼びますね……」
いや、ここは幻想郷。
常識に捕らわれてはいけない。
また変な能力を持った妖怪の仕業かも知れない。
“夢幻を操る程度の能力”
……みたいな。
「これは……神奈子様と諏訪子様に報告ですね」
急いで神社に戻り、二人の神様に今見た物の話しようとする……が。
「まず、起こす所から始めないと……」
報告までが前途多難だった。
――――。
「宝船……ねぇ」
朝食後、お茶を啜りながらその話を切り出す。
半信半疑、疑いの眼差しで私を見る神奈子様。
「本当に見たんですよっ! 某赤色の帽子の髭親父も真っ青です! コイン取り放題ですよっ!」
「まぁ、早苗が嘘をつくなんてことはないと思うけど……」
苦笑しながら諏訪子様も話を聞いていた。
「七福神が乗ってるっていうあれかい? ……まさか。七柱神とは話したことはあるが宝船なんて
言い出したら笑われるよ」
威勢良く神奈子様が笑うと諏訪子様もクスクスと笑い出す。
「ど、どうして笑うんですか!? 私は本当に……」
「元々、あれは人間が付け足した物だからねぇ……」
「付け……足した?」
「そう、元々七柱神はバラバラの神様だったのさ。それが人間の怠惰のお陰で宝船という器に乗せ
られて一つにされちまったのさ」
「……どういうことですか?」
「つまりこういう事よ、早苗。わざわざ七人の神様にお参りに行くのはめんどくさいと考えた人間は、
一つの器に乗せて七人の神様を一遍に懇願できるよう考えた。しかし、七人の神様を集めるの
は簡単だけどそれを乗せられるだけの器がない。なにぶん神様を乗せる物というだけでそれだけ
の価値がある物じゃないと神様も納得してくれないからね。そこで出たのが―――」
「……宝船なんですか?」
「そう。人間は作ることが出来ない宝船という物を想像上で作り上げた。でも、想像上でしかない
から実際に神様は乗ることが出来ないでしょ?」
「そこで再び人間は考えた。そこで思いついたのが、あの七福神。実際に宝船に七柱神が乗ってい
く話を作り上げたのさ。それに懇願することで七人の神様に拝むのと同じ御利益があるってね」
「勿論、それに対して神々は反発を起こした。しかし、話はいとも簡単に国を巡り、人々は宝船に
乗った七柱神を拝み始めた。想像上で作られた偽りの神様をね」
「それが今では七福神として呼ばれている物なのよ」
「……へぇ」
「まぁ、それのお陰で七柱神の名が世に知れ渡ってるのを考えれば得したのかも知れないがね」
神奈子様は神様も色々と大変なのよ、なんて言いながら深くため息をついた。
「ん? じゃ、じゃあ私が見た物は何ですか!? 未確認飛行物体!? ゆ、UFOですか!!
Unidentified Flying Objectなんですかっ!? い、いやいやでも私が確認しているのだから
UFOでもないわけでして……」
「早苗ー。横文字禁止。後、混乱しすぎ」
「え、あ、済みません。えと、結局私が見た物って何なんでしょうか?」
「うーん……話しを聞いた限りだと、妖怪の仕業にしか思えないんだけどねぇ」
「……妖怪ですか」
「まぁ、詳しくは私たちも分からないけどね」
「あぁ……結局、私が見た物は妖怪だったのですね……」
がっくりと頭垂れる。
妖怪なら麓の博麗の巫女や黒白の魔法使いが退治してくれる筈だし……。
―――私が出る幕でもない。
「そ・こ・で」
神奈子様はいきなり立ち上がると、私に向かって指を指す。
「早苗の出番よっ!」
「……え?」
「そうだねー。早苗の出番だねー」
ウンウンと頷きながら諏訪子様も同調する。
「えと……よくわかりません」
「馬鹿ね。こういう時に早苗が前に出なくてどうするの! 麓の巫女に何もかも取られちゃっても
いいのっ!?」
「そ、それは……」
―――確かに、それは嫌だ。
神社の巫女とか名前だけで仕事しないし、怠けてるし。
ここぞという時ばかり美味しい所だけ持って行くし。
私と服装まで似てるし、脇出てるし。
人気投票一位とかいって調子乗ってるし。
キャラクターもすっごい被るし……まぁ、私はあんなにぐうたれてはいませんけど。
とにかく、毎回毎回私の邪魔ばかりして本当に腹が立つ。
……妬ましい。
「………」
ブツブツと呟きながら立ち上がる。
「さ、早苗?」
「そうですよね……あんな紅白の巫女なんかには負けていられません!」
私だってやる時はやるんです。って言うのを見せつけるのはまさに今だ。
むしろ主役の座から引きずり下ろして、私や神奈子様達の信仰を得るには好機。
「―――私の出番ですねっ!!」
拳に力を入れて言い放つ。
「そうよ、早苗。いっちょかましてこいっ!」
「はいっ! ぐうの音も出ないように叩きつぶしてきます」
「早苗、神奈子。あくまでも巫女を倒すわけじゃないのよ? 未確認飛行物体の確認だからね」
「わかってますよっ! UFOの確認ですね!」
「……本当に分かってるのかなぁ」
心配そうに声を出す、諏訪子様。
―――大丈夫。
私になら出来る。
何せ、二人の神様が後ろについているのだ。
「風祝の早苗。行きますっ!!」
地面を覆った僅かな雪も溶け始め、幻想郷の冬も少しづつ春へと近づいていく。
しかし、まだ冬の終わり。寒いのもまた事実。
そんな中、朝もはよから境内に出る。
「……よし」
今日一日の気合いを入れて、竹箒を掴む。
「風祝の早苗。行きますっ!」
竹箒をクルクルと回しながらポーズを決める。
「……なーんて」
苦笑しながら今更ながらに誰かに覗かれてないかと辺りを見回す。
―――冷たい風が辺りを吹き付ける。
地霊の件があって以来、幻想郷は静かな日々を送っていた。
寒い季節。
妖精や妖怪達も外に出ることは少なく、闘争もない毎日。
「どこぞの神社の巫女もこたつで丸くなっていますし」
その点、私はあそこの巫女とは違う。
早朝から境内を掃除するこの立派な女を、きっと神様方も褒め称えてくれるでしょう。
―――勿論。私の事ですが。
私の一日は境内の掃除から始まる。
とくに秋、冬は枯れ葉が舞い落ちる季節。
朝の掃除はめんどくさ……じゃなかった、厄介だけど、この時期にもなると、木々の葉は落ち
きってしまい、境内の掃除も幾分楽になる。
その後、朝食の仕度をし、神奈子様と諏訪子様を起こす。
そんな一家団欒の風景。
「私は―――幸せです」
空を眺めながらそんなことを思う。
まるでお天道様は私を祝福しているかのように照らしてくれる。
今まで色々な事が起こったけど……
「何とかやっていけてます」
それは誰かに伝えるわけでもなく、咄嗟に口から出た言葉。
それにまた苦笑しながら掃除を始める。
ふと―――
「あれ……?」
空に映った黒い影。
「………」
超常現象、とでも言えばいいのだろうか。
「……船?」
顔が引きつる。
「まさか……そんなはずは……」
今見た物は見間違いだと思わんばかりに目頭を押さえる。
そして―――もう一度。
空を見上げる。
お天道様が昇る大空。
そして長く伸びた雲の間に。
「ま、まさか……」
確かに見える。
雲の間から見えた黒い影。
―――飛行船?
そんな訳がない。
幻想郷の文化は現代から比べると著しく劣っている。
そんなものがここにあるはずがない。
「でも、飛行船というよりは……」
―――宝船。
その言葉がぴったりと当てはまる。
そう、まるで七福神が乗っているような船を模したような形。
「……これは驚きました。まさか、本当に存在するなんて」
まてまて。
だとするとあの船はどうやって空を飛んでいるのだろうか。
「謎が謎を呼びますね……」
いや、ここは幻想郷。
常識に捕らわれてはいけない。
また変な能力を持った妖怪の仕業かも知れない。
“夢幻を操る程度の能力”
……みたいな。
「これは……神奈子様と諏訪子様に報告ですね」
急いで神社に戻り、二人の神様に今見た物の話しようとする……が。
「まず、起こす所から始めないと……」
報告までが前途多難だった。
――――。
「宝船……ねぇ」
朝食後、お茶を啜りながらその話を切り出す。
半信半疑、疑いの眼差しで私を見る神奈子様。
「本当に見たんですよっ! 某赤色の帽子の髭親父も真っ青です! コイン取り放題ですよっ!」
「まぁ、早苗が嘘をつくなんてことはないと思うけど……」
苦笑しながら諏訪子様も話を聞いていた。
「七福神が乗ってるっていうあれかい? ……まさか。七柱神とは話したことはあるが宝船なんて
言い出したら笑われるよ」
威勢良く神奈子様が笑うと諏訪子様もクスクスと笑い出す。
「ど、どうして笑うんですか!? 私は本当に……」
「元々、あれは人間が付け足した物だからねぇ……」
「付け……足した?」
「そう、元々七柱神はバラバラの神様だったのさ。それが人間の怠惰のお陰で宝船という器に乗せ
られて一つにされちまったのさ」
「……どういうことですか?」
「つまりこういう事よ、早苗。わざわざ七人の神様にお参りに行くのはめんどくさいと考えた人間は、
一つの器に乗せて七人の神様を一遍に懇願できるよう考えた。しかし、七人の神様を集めるの
は簡単だけどそれを乗せられるだけの器がない。なにぶん神様を乗せる物というだけでそれだけ
の価値がある物じゃないと神様も納得してくれないからね。そこで出たのが―――」
「……宝船なんですか?」
「そう。人間は作ることが出来ない宝船という物を想像上で作り上げた。でも、想像上でしかない
から実際に神様は乗ることが出来ないでしょ?」
「そこで再び人間は考えた。そこで思いついたのが、あの七福神。実際に宝船に七柱神が乗ってい
く話を作り上げたのさ。それに懇願することで七人の神様に拝むのと同じ御利益があるってね」
「勿論、それに対して神々は反発を起こした。しかし、話はいとも簡単に国を巡り、人々は宝船に
乗った七柱神を拝み始めた。想像上で作られた偽りの神様をね」
「それが今では七福神として呼ばれている物なのよ」
「……へぇ」
「まぁ、それのお陰で七柱神の名が世に知れ渡ってるのを考えれば得したのかも知れないがね」
神奈子様は神様も色々と大変なのよ、なんて言いながら深くため息をついた。
「ん? じゃ、じゃあ私が見た物は何ですか!? 未確認飛行物体!? ゆ、UFOですか!!
Unidentified Flying Objectなんですかっ!? い、いやいやでも私が確認しているのだから
UFOでもないわけでして……」
「早苗ー。横文字禁止。後、混乱しすぎ」
「え、あ、済みません。えと、結局私が見た物って何なんでしょうか?」
「うーん……話しを聞いた限りだと、妖怪の仕業にしか思えないんだけどねぇ」
「……妖怪ですか」
「まぁ、詳しくは私たちも分からないけどね」
「あぁ……結局、私が見た物は妖怪だったのですね……」
がっくりと頭垂れる。
妖怪なら麓の博麗の巫女や黒白の魔法使いが退治してくれる筈だし……。
―――私が出る幕でもない。
「そ・こ・で」
神奈子様はいきなり立ち上がると、私に向かって指を指す。
「早苗の出番よっ!」
「……え?」
「そうだねー。早苗の出番だねー」
ウンウンと頷きながら諏訪子様も同調する。
「えと……よくわかりません」
「馬鹿ね。こういう時に早苗が前に出なくてどうするの! 麓の巫女に何もかも取られちゃっても
いいのっ!?」
「そ、それは……」
―――確かに、それは嫌だ。
神社の巫女とか名前だけで仕事しないし、怠けてるし。
ここぞという時ばかり美味しい所だけ持って行くし。
私と服装まで似てるし、脇出てるし。
人気投票一位とかいって調子乗ってるし。
キャラクターもすっごい被るし……まぁ、私はあんなにぐうたれてはいませんけど。
とにかく、毎回毎回私の邪魔ばかりして本当に腹が立つ。
……妬ましい。
「………」
ブツブツと呟きながら立ち上がる。
「さ、早苗?」
「そうですよね……あんな紅白の巫女なんかには負けていられません!」
私だってやる時はやるんです。って言うのを見せつけるのはまさに今だ。
むしろ主役の座から引きずり下ろして、私や神奈子様達の信仰を得るには好機。
「―――私の出番ですねっ!!」
拳に力を入れて言い放つ。
「そうよ、早苗。いっちょかましてこいっ!」
「はいっ! ぐうの音も出ないように叩きつぶしてきます」
「早苗、神奈子。あくまでも巫女を倒すわけじゃないのよ? 未確認飛行物体の確認だからね」
「わかってますよっ! UFOの確認ですね!」
「……本当に分かってるのかなぁ」
心配そうに声を出す、諏訪子様。
―――大丈夫。
私になら出来る。
何せ、二人の神様が後ろについているのだ。
「風祝の早苗。行きますっ!!」