Coolier - 新生・東方創想話

東方幻葬郷 第肆話~魔理沙編~

2010/04/20 22:13:43
最終更新
サイズ
9.75KB
ページ数
1
閲覧数
1634
評価数
4/14
POINT
690
Rate
9.53

分類タグ


このお話は同作品集内の霊夢編、早苗編、咲夜編から続いています。
そちらを先に読んでいただけるとありがたいです。


今から数十年前の世界


 夏も終わりに近付き、夜が長くなりはじめた頃。
私は博麗神社に来ているが目的は霊夢ではなく…
(きっと魔理沙さんはここにいるはず…)
魔理沙はほとんど家にいることがなく、いつも博麗神社か紅魔館の図書館にいる。
「こんにちは、霊夢さん。」
「あら、文じゃないの。…また取材?私はこないだ答えたでしょう?」
挨拶をした途端に怪訝そうな顔をされてしまった。
「いいえ、今日は魔理沙さんにこないだの質問をしようと思って来たんですが、ここにはいないようですね…」
「魔理沙?たしか魔理沙は今日、本を借りに行くって言ってたわよ。」
魔理沙お得意の死ぬまで借りる。でしょう?
どうやら行き先は紅魔館の図書館らしい。

 「こんにちは、美鈴。」
器用に立ちながら寝ている門番に一応挨拶をする。
「こんにちは、文さん。」
「!?…いきなり起きましたね。少しびっくりしましたよ。」
「紅魔館の門番たるもの、寝ながらでも来客の気配は感じとれなければいけないんです。」
と、彼女はどこか自慢気に言うが…
「ねえ美鈴。その門柱に突き刺さってるナイフは何?」
そう言われて彼女は振り返る。
「こ、これは、その…き、きっと咲夜さんが投げたものですね。」
どうやら咲夜の方が一枚上手らしい。
「まあいいわ。それより魔理沙さんは来てますか?」
「魔理沙さんですか?三時間ほど前にパチュリー様に会いに来ましたけど…」
「やっぱり。じゃあお邪魔します。」
「ええ、どうぞ。」
笑顔で通されたが、門番としてはこれではいけないだろう。と心から思う。

 紅魔館の玄関扉を開け中に入ると、
「あら、咲夜さん。お元気でしたか?」
メイド長がそこにいた。
「いらっしゃい。文さん。珍しいですね。」
いつも通りいきなり目の前に現れる。
「そういえばここに来るのは久しぶりですね。前回はフランちゃんに殺されかけましたものね…」
あの時、咲夜さんが止めてくれなければ五体満足ではいられなかっただろう。
「今日は図書館に用があって…」
「魔理沙さんですか?」
「よくわかりますね。その通りです。」
「今日はアリスさんも来て賑やかですわ。」
それはちょうどいい。彼女たちには魔法使いになったきっかけも教えてもらおう。
「わかりました。お邪魔します。」
そう言い、図書館へと向かう。
(相変わらず広い廊下ね…)
以前聞いた話によると、弾幕合戦をするために咲夜さんが広げたらしい。
それでも図書館には意外に早く着くことができた。

 「こんにちは。」
図書館の扉を開けてから私は言う。
「あら、いらっしゃい文さん。」
司書の小悪魔が迎えてくれる。
「パチュリー様なら奥で魔理沙さんとアリスさんと一緒に話してますよ。」
入り組んだ本棚の向こう側からは三人の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「こんにちは。」
「あら、文じゃない。久しぶり。」
「よっ!珍しいなこんなとこで会うなんて。」
「こんなとことは何よ。あなたが本を持っていくからけっこう減ったのよ。」
確かにいつもより賑やかだ。
「魔理沙さんがこちらに来ていると聞いたもので。」
「ん?私?何か用でもある?」
「ええ、霊夢さんには聞いたんですが、魔理沙さんは人間と妖怪のどちらが恵まれていると思いますか?」
「いきなりだな…」
と言って一分ほど考え込む。
「そうだな…恵まれているのは妖怪じゃないか?あいつらは長生きだから人間のように友達を置いて逝くこともあまりないだろうし。」
彼女らしい、人間らしい答えだ。
「それに、あいつらは人間と違って変わらないからな。」
「あら?妖怪だって変わるわよ。」
「ええ、変わるわ。特にあなたはいろんな妖怪に影響を与えているわ。」
確かに彼女に影響された妖怪は少なくない。
「そうかな~?私はそんな気はあまりしないぜ。」
「そうよ。私やパチュリーだってあなたにはいろんな影響を受けたわ。」
「それは認めるわ。あなたがここに来るようになってから小悪魔も明るくなったし。」
いきなり話を振られた小悪魔は困っているようだったが
「そ、そうですね。パチュリー様も以前より本を読んでる時間も減って、話しかけても上の空で、よく寝言で魔理…」
そこまで言った小悪魔はロイヤルフレアでこんがり焼かれた。
「ジョウズニヤケマシター」
アリスの上海人形がどこかで聞いたことのある台詞を言うが元ネタが思い出せない。
「だ、大丈夫なんですか?小悪魔さん焼けちゃってますよ…」
と心配して言うと
「いつものことよ。」
とパチュリーに平然と答えられた。
魔理沙はというと、
「う~ん…私、そんなに人に色々言ってるつもりはないんだけどな…」
と未だに考え込んでいた。

 「次はアリスさんとパチュリーさんに聞きますが、お二人はどうして魔法使いになられたんですか?」
と以前からの疑問を聞いてみた。
「私は生まれつきの魔法使いだから答えられないわ。」
とパチュリーは言い、
アリスは、
「そうね…話してあげても良いけど、長くなるわよ。」
と私たちに聞いてきた。
「構いませんよ。」
「ああ、構わないぜ。」
パチュリーも一応聞いてみたいようだ。

「そうね…人間だった頃のある日、森に出かけたら妖怪に襲われちゃってね…
それで妖怪に追われて必死で逃げてたら一人の魔法使いの女性に助けてもらったのよ。」
名前は忘れたけど金髪の大食いの妖怪だったわ。
と、おそらくあの妖怪だろうと予測できる発言を残してアリスは続ける。
「その魔法使いに付き添ってもらって家に帰ったんだけど…」
そう言って彼女は悲しそうな顔をした。
「家族は、もう、一人も…」
そう言って彼女は黙り込んだ。
「そうだったのか…悪かったな、そんなこと話させてしまって…」
魔理沙が申し訳なさそうに言うが、
「良いの、私が話し始めたことだから。」
と彼女は持ち前の明るさを取り戻して話を続ける。
「続けるわね。」
「それで、帰る家もなくなったから彼女についていったわけよ。」
頼ることのできる人間もいなかったからね…
「そしたら彼女にはもう一人、同い年の女の子の弟子がいてね。その子と一緒に魔法使いになる修行をして
先生からは「もう二人とも一人前よ。」と言われて、儀式をして私たちは魔法使いになったわ。」
とアリスはある程度話を終えた。
「実はね…もう一人の弟子の彼女のことが…」
と面白そうな話を聞けそうだったがそれはまた後日聞きに行くことにしよう。

「ねえ魔理沙。あなたは魔法使いにならないの?」
とアリスが魔理沙に聞く。
「そうね、あなたならすぐにでも魔法使いになれるわ。」
彼女たちが言っているのはもちろん種族としての魔法使いである。
「いや、私は魔法使いになる気はないぜ。」
「なんで?あなた、魔法が好きでしょう?」
とアリスが口を挟む。
「そりゃあ魔法は好きだぜ。でも私は人間の方が同じ時間でも集中して物事ができる気がするんだ。」
「例えば同じ二十年でも、人間と魔法使いじゃ集中の度合いが違うと思うんだ。だから私は人間のままで魔法を極めてみたいんだ。」
どうやら魔理沙にも考えがあるようだ。
「そう…あなたも最期まで人間でいるのね。」
パチュリーは相変わらず冷静に言う。
「そうね。あなたの人生だもの。あなたが決めるのが一番ね。」
「わかってくれたか?」
「でも私はあなたに魔法使いになってほしいわ。あなたに先立たれるなんてまっぴらよ。」
アリスは相変わらず頑固そうで魔理沙の話をあまりわかってないようで魔理沙は呆れたようだった。
それにしても。私、蚊帳の外ね…
「ありがとうございました。参考になりました。」
そう言ってこの日は図書館をあとにした。
(やっぱり違和感があったわね。何かしら…)
この題材の取材には付き物となった違和感もいつもの様に一瞬で消え去った。
「そういえばまだ咲夜さんには聞いてないわね。そのうちまた紅魔館に来ないと…」
それにしてもやっぱり既視感よね…きっと。


現在


 私は今、全速力で魔法の森にある魔理沙の家に向かっている。
(あの魔理沙さんもとうとう…)
今日、椛から話を聞いたときは本当に嘘だと思いたかった。
「魔理沙さん!!」
魔理沙の家の扉を開けるといつもより薄暗く感じた。
そして向けられる視線。
「みなさん…」
そこにはベッドに横たわる魔理沙と、紅魔館の面々と、アリスがいた。
「香霖堂さんは?」
と私が聞くと、
「彼には知らせてないわ。」
レミリアが重々しく口を開く。
「知らせないほうがいいでしょう?それに、彼女は自分のこんな姿を見られたくないそうよ…」
確かに魔理沙の顔には皺が増え、髪にもつやが無くなっていた。
私が来るのを待っていたようにアリスが口を開く。
「魔理沙、あなたはとうとう最期まで魔法使いになってくれなかったわね…」
「言っただろ?私は最期まで人間でいるって。それにな、限りあるものほど価値があると思うんだ。」
「魔理沙、あなたにはみんな少なからず影響されたはずよ。」
パチュリーに言われて良く考えてみれば、魔理沙や霊夢によって影響された妖怪たちは少なくない。
「そうですね、魔理沙さんにはみんなかなり影響されましたよ。」
一呼吸入れてから続ける。
「あなたは妖怪は変わらないと言ってましたけど、それは違います。他人からの影響で妖怪だって変わるんです。」
そう、私だって彼女らの影響で変わったんだから…

 しばらく他愛も無い話をしながら、別れの時が近づいていることを皆が感じていた。
魔理沙はそれを悟られないようにしていたつもりだったが、別れの時は悲しいほど残酷に訪れる。
「アリス、私が死んだ後はこの家を自由に使っていいからな…」
「そんな…悲しいこと言わないでよ。魔理沙、あなたいつからそんなに弱気になったのよ…」
彼女もわかってはいたようだが、認めたく無いようだ…
「パチュリー、お前から借りた本はちゃんと保管してあるから、帰りにでも持って帰ってくれ…」
「こんな量、一度に持って帰れるわけないでしょ…あなた、持っていきすぎよ…」
パチュリーも何時にもまして悲しみに暮れているようだ…
「それに、私が書いた魔導書もあるから、持って帰ってくれよ。お前に…読んで欲しいんだ。」
と部屋の一角に置かれている立方体のような魔導書を震える指で指す。
「わかったわ…あなたの思い、ちゃんと持って帰るわ。」
「小悪魔、これからはお前がちゃんとパチュリーの話し相手になってやってくれよ。」
「うぅ…わかりました魔理沙さん。確かに任されました…」
「メイド長、お前の淹れてくれた紅茶も私は好きだったぜ…」
「あ、ありがとうございます…」
小悪魔とメイド長はもう泣き始めていてそれ以上は声にならなかった…
「レミリア、フラン、二人とも仲良くな…」
「わかっているわ。魔理沙…」
「魔理沙…魔理沙も死んじゃうの?そんなの嫌だよ…」
フランも泣き出し、レミリアも必死に涙を堪えていた。
「文、最後になったけどお前には世話になったな。霊夢の時とか咲夜の時とかな…」
「そんなことを言わないでください…あなた、いつもの傍若無人ぶりはどこにいったんですか…」
「はは、は…そうだな。だけど、もう、時間なんだ…」
「「魔理沙!!」」「「魔理沙さん!!」」
皆が魔理沙の横たわるベッドに駆け寄る。
だが、魔理沙は笑顔だ
「みんな、今まで、本当にありがとうな…」
そう言って、まさに眠るように逝った。
「魔理沙さん…あなたもやっぱり悔いは無いんですね…」
誰も、何も言うことが出来なかった。
静寂の中に聞こえるのは嗚咽と、彼女の死に呼応したように降り出した涙雨の音だけだった…

 その日、魔理沙の葬儀はやはり宴会になったが…
「やっぱり、みんなショックが大きいようね…」
無理も無いだろう、この一年余りの間に幻想郷の中心にいた人物がいなくなったのだから。
その後、私は再び八雲紫の家に向かうことにした。
彼女の求めるであろう、真実を持って…
まずはここまで読んでいただきありがとうございます。
咲夜編のあとがきで次は短編を挟むとか言ってしまいましたが次回にすることにしました。
昨日の夜に推敲をしていたら「最終話の前に挟んだほうがいいかな…」と思い先に魔理沙編となりました。
内容は幻想郷で最も有名な人間の一人である彼女のお話です。
以下ちょっとした作者の話
そもそも寿命ネタを書こうと思ったきっかけというのは私がまだ読み手だった頃にyamamo様の
『魔理沙の明るい返本計画』を読んで感動して
「私もこんな作品を作れるようになりたい!!」と思ってしまいまして…
そこからSSを書く練習を始めてある程度は読めるようになったから書き始めた次第です。
ただ未だに納得の出来る話にはほど遠いです…
せめて私にもっと文章力があれば…
こんなネガティブな空気作家ですがあと二話はお付き合い頂けるとありがたいです。
それではここまで読んでくださった皆様、過去の作品に評価を下さった皆様
ありがとうございました。
勿忘草
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.380簡易評価
2.90みなも(陽のあたる丘)削除
アリスの話,気になりますね.
魔理沙の最後に,みんなに一言づついうシーンは,伝わりますね.

やはり,作者様が読んで,感動したことが残っているのでしょうね.
続きの,作品待っています.




私は,文章訓練の門外漢なので,以下の内容は私の経験上の勘の様なものですのでご了承を.

文章力ですが,どんなに早くでも3カ月単位で見ないと,なかなか伸びないものですので,気を落とさないでください.

こう言うのは,才能ではなく,どれだけ沢山のSSを楽しんで読んだか,そして,伸びるように書いたか(例:短くてもいいので,同じ個所を読み上げたり,見てもらったりしながら何度も添削などでしょうか?)だと思います.そして,特に作者様の様に若いうちは,ひたすら楽しんで読むことがまず大切で,インスピレーションがどんどんわいてきたら,書く練習をするのがいいのではないでしょうか?

SSさがすよ!→全作品→ポイントで,過去に高い評価を受けた作品(東雲さんや,ahoさん)を読んでみるという手もあるのでお考えを.

若いうちに,たくさんSSや文章を楽しんで読むことは,とても素敵なことですよ.趣味としても実益としてもです.なお,創想話でも鬱系の作品ばかり集中して読むのは自己責任で.

最高の良作のうち非常に鬱が激しいものがありますが,(例えばヘッセやドストエフスキーの「罪と罰」など)これらの作品は20歳くらいまでに読むのは,あまりプラスになっていないように見えます.

以上,長くなってすみません.年なもので,伸びそうなお若い作者様をみるとついうれしくなってついやってしまいます.
7.50コチドリ削除
なんて言うんですかね。作者様が物語の中で張っている伏線の影響で、キャラクターの
性格が一定しない、魅力が十分に発揮出来ていないと感じてしまいます。
どこが伏線か、なんて不粋なことは書きませんが(違っていたら恥ずかしいしネ)。
若いし、創作初心者なんだもの、しょうがないよ。とは、言いません。逆に失礼のような気も
しますので。とにかく次回作を読みたいと思います。
叩いて伸ばそうとしてるという姿勢をみせつつ、単なる若さへの嫉妬かもしれない意見でした。ぱるぱる
9.100名前が無い程度の能力削除
アリスの過去話も気になりますが魔理沙に感動しました。
12.70ずわいがに削除
なんで行っちまうんだ人間は
残された彼女らはどうなっちまうんだ
そして妖怪たちは今までどうやって暮らしてきたんだ
続、くのか