「おつかれー」
「「おつかれー」」
この屋台に来たのはもう何度目かになるが、その度にこうして謎の現象や異変を相手取ってしまうと、もはやこの屋台は呪われているのではないかと怪しむほどだ。
最も今夜のお供は幻想郷でも五本の指に入る聖人女性。まあ大抵の呪いなら大丈夫だろう。これが寺の方々なら少し苦言を呈するぐらいはあったかもしれない。
何と言っても魔界由来の阿闍梨の元に集っている上に、副首領的僧侶は魔神使いのようなものなのだ。入道なんて魔神と相違ないと言える。人格が善良でなければ完全に危険人物だ。
「いやー、五右衛門のお宝とは随分手強かったですねー」
「うむ。よもや島一つを盗み出すとは、流石は天下の大泥棒。白黒があれほどでなくて本当に良かった」
石川五右衛門。
決して斬鉄剣を持っている方ではない。念のため。
「衣玖さんが空気を読んでくれて本当に助かりましたよ。あ、みすちーさんがんも」
「私にもがんもをお一つ、それと一番安いお酒を」
私は羽衣を濡らさないように、折り畳んで懐に入れる。
しかしこの服は全体的に収納が少なく、入れるのは胸の谷間。いわゆるフジコチャン・スタイルだ。
神子様が奇妙な顔をしているが、まあ胸が無くても素敵な女性はいるのだと肩を叩いておくことにする。すると神子様はガクンと肩を落として、一番度数の高い酒を頼む。
私に負けず劣らず隣の早苗さんも大きいのだが、そこは思考の外なのだろうか。
「それほど大したことではありませんよ。それに空気は吸うものです、読むものじゃありません」
「貴女がそれを言いますか……」
大体、空気を読むと言うのならあの番人が出してきた謎々が一番空気を呼んでいない。
「女性的ふくらみの有無で開く謎なんて、あまりに空気を読んでいません。神子さんに対して配慮してほしかったですね!」
「いやあの衣玖さん、今の貴方が一番配慮から遠いです」
見れば神子様が四杯目の中ごろまで差し掛かっていた。お酒で太らない体質なんだろう、羨ましい限りである。
「もういい……胸の大きい奴には屠自古以外ロクな奴いないんです……衣玖さんもさっきから酷過ぎませんか? 私をいぢめて楽しいですか?」
「はい」
「うええええええええぐっひっぐぅ」
おやおや、疲れが来ていたのでしょう。なんだか激しく突っ伏せられてしまいました。
私は背中を擦りながらさりげなく乳をもむ。うわ、本当に全然ねえやこの人。
「やりたい放題ですね……。あ、みすちー、がんもおかわり」
「ふふふ。天子様とのデートを潰した罪は重いのですよ」
「……あ、今日の予定ってそれだったんですか」
「本当なら今頃ベッドインしてた筈なのに、まったくあれよあれよと言う間に空飛ぶ島などという訳のわからない島に連れられて私も困惑しています」
しかし、乳をもむ手は止めず。
どうやら私は貧乳好きの様で、天子の胸を思い出すのか止められない止まらない。
「私の指使いで喘ぎ声一つ漏らさないとは、流石は神子様と言った所ですか」
「何言ってんだこの人」
「……それ以前に私の身体は屠自古以外には不感症なのですよ。聖人パワー舐めないでください」
「本当に何言ってるんですかこの人たち」
私は手を離し、上着のボタンを一つ外す。暑くなってきた。
「ふふふふふ。良いんです良いんです、どうせ妹子にもからかわれるレベルの貧乳なんですよ。もうロリコンの河勝のような奴もいませんし、どうせ貧乳にカリスマなんて滲みませんしふふふふふ」
「酔ったらダウナー系とかどうなってるのこの聖人……」
「まあ普段から心労は貯め込んでいるのでしょう。命蓮寺の方々とは生まれる前から敵対しているかのごとくバチバチさせてますし」
「まあまず間違いなく原因は貴女なんですけどね」
「妹子め、赤ジャージめ、三センチしか違わない癖に……」
「え、嘘マジで赤ジャージなんですか!? 私の知る限りそれはほぼ確実にフィクションですよ!?」
どうやら外の世界の妹子という人物は赤いジャージを着ているらしい。早苗さんが自分の常識と現実との折り合いに忙しい。しかしロリコンの娘、秦こころが巨乳クールになるとは誰が予想しただろうか。
すると神子様は突っ伏せたまま、自分の胸を触り続ける。
「……命蓮寺なんて爆発すればいいのに」
「物騒!?」
遂には幻想郷きっての巨乳集団に怒りの矛先が向いた。
ううむ、これは私の責任か?
「お客さん勘弁してくださいよー。お寺には私の響子もいるんですからねー?」
「ああ、鳥獣伎楽の」
「あいつまで吹っ飛ばされたらどうしようもないですよ。貧弱犬っころなのに」
「……そう言えば女将さんもなかなか大きいわね」
短い悲鳴を上げて、女将さんは後ろに後退する。しかし、箸で持ったがんもは落とさずに。なるほどある種職人芸のようなだ。
やはり屋台の女将さんとは、お客さんの横暴にも対応できる身体能力を持っていないと務まらないという事か。
「うん、やはり神子さんはそに○的な衣装に」
「早苗さんどうかしました?」
「いえ、ヘッドホンキャラなら誰が似合うかなあと」
「? はあ」
酔いが回って来たのか、先程から一人で「ツェッドはやはり鉄板、いやだったら元ネタも」などぶつぶつ言っている。
いやいや、そ○子だったら屠自古ちゃんぐらいのサイズが無いと何故か隣から殺気を感じる。神子様の能力かなんかだろうか、どぎつい殺気で射抜くように睨まれた。
しかし、すぐに喉奥を鳴らすような笑い声に変わる。
なんだかおかしくなってしまったのだろう。私も同じだ。
「……○に子……屠自古……」
ふと、静かになってしまった屋台で考える。
例えば五右衛門の空飛ぶ島。あの地に眠っていたお宝は、それはそれは恐ろしいものだった。きっと金銭的な価値は億や兆では済まないだろう。
そしてこちらはどうだ? 友人との飲み会。きっと諸経費は一万円にもならない。
だがどうして、この一瞬がそんな宝に負けると言うのだろう。
これほどまでに幸せな気分になのだ。お宝を【石川五右衛門に盗み返された】とて、それは何も問題ない。礼をしたいぐらいだ。
「母音が似ている……ぼいんぼいん」
私の両隣でお酒を噴き出す音が聞こえる。目の前の女将さんもお腹を抱えている。
やはり酔っぱらいはハードルが低い。
「ふ、不意打ちはやめてくくれないかなあくひっくくく」
「うわー衣玖さんが小学生みたいなダジャレを……ぶふっ」
デートの分は明日、いや日付としてはもう今日なのだが、埋め合わせすることにしよう。
今度は着物でも着て喜ばせてあげようか、それとも今日は私が下になろうか。
「ほーら、私の胸も母音母音ですよー?」
「くくっくぅーふふふっ」
「ふふなんでふふっ、体張ってるんですか、ふふふちょっとふっふふふっ」
そろそろ幻想郷にも桜が咲く。次は花見で酒を呑もう。
値万両の夜が更ける。
「「おつかれー」」
この屋台に来たのはもう何度目かになるが、その度にこうして謎の現象や異変を相手取ってしまうと、もはやこの屋台は呪われているのではないかと怪しむほどだ。
最も今夜のお供は幻想郷でも五本の指に入る聖人女性。まあ大抵の呪いなら大丈夫だろう。これが寺の方々なら少し苦言を呈するぐらいはあったかもしれない。
何と言っても魔界由来の阿闍梨の元に集っている上に、副首領的僧侶は魔神使いのようなものなのだ。入道なんて魔神と相違ないと言える。人格が善良でなければ完全に危険人物だ。
「いやー、五右衛門のお宝とは随分手強かったですねー」
「うむ。よもや島一つを盗み出すとは、流石は天下の大泥棒。白黒があれほどでなくて本当に良かった」
石川五右衛門。
決して斬鉄剣を持っている方ではない。念のため。
「衣玖さんが空気を読んでくれて本当に助かりましたよ。あ、みすちーさんがんも」
「私にもがんもをお一つ、それと一番安いお酒を」
私は羽衣を濡らさないように、折り畳んで懐に入れる。
しかしこの服は全体的に収納が少なく、入れるのは胸の谷間。いわゆるフジコチャン・スタイルだ。
神子様が奇妙な顔をしているが、まあ胸が無くても素敵な女性はいるのだと肩を叩いておくことにする。すると神子様はガクンと肩を落として、一番度数の高い酒を頼む。
私に負けず劣らず隣の早苗さんも大きいのだが、そこは思考の外なのだろうか。
「それほど大したことではありませんよ。それに空気は吸うものです、読むものじゃありません」
「貴女がそれを言いますか……」
大体、空気を読むと言うのならあの番人が出してきた謎々が一番空気を呼んでいない。
「女性的ふくらみの有無で開く謎なんて、あまりに空気を読んでいません。神子さんに対して配慮してほしかったですね!」
「いやあの衣玖さん、今の貴方が一番配慮から遠いです」
見れば神子様が四杯目の中ごろまで差し掛かっていた。お酒で太らない体質なんだろう、羨ましい限りである。
「もういい……胸の大きい奴には屠自古以外ロクな奴いないんです……衣玖さんもさっきから酷過ぎませんか? 私をいぢめて楽しいですか?」
「はい」
「うええええええええぐっひっぐぅ」
おやおや、疲れが来ていたのでしょう。なんだか激しく突っ伏せられてしまいました。
私は背中を擦りながらさりげなく乳をもむ。うわ、本当に全然ねえやこの人。
「やりたい放題ですね……。あ、みすちー、がんもおかわり」
「ふふふ。天子様とのデートを潰した罪は重いのですよ」
「……あ、今日の予定ってそれだったんですか」
「本当なら今頃ベッドインしてた筈なのに、まったくあれよあれよと言う間に空飛ぶ島などという訳のわからない島に連れられて私も困惑しています」
しかし、乳をもむ手は止めず。
どうやら私は貧乳好きの様で、天子の胸を思い出すのか止められない止まらない。
「私の指使いで喘ぎ声一つ漏らさないとは、流石は神子様と言った所ですか」
「何言ってんだこの人」
「……それ以前に私の身体は屠自古以外には不感症なのですよ。聖人パワー舐めないでください」
「本当に何言ってるんですかこの人たち」
私は手を離し、上着のボタンを一つ外す。暑くなってきた。
「ふふふふふ。良いんです良いんです、どうせ妹子にもからかわれるレベルの貧乳なんですよ。もうロリコンの河勝のような奴もいませんし、どうせ貧乳にカリスマなんて滲みませんしふふふふふ」
「酔ったらダウナー系とかどうなってるのこの聖人……」
「まあ普段から心労は貯め込んでいるのでしょう。命蓮寺の方々とは生まれる前から敵対しているかのごとくバチバチさせてますし」
「まあまず間違いなく原因は貴女なんですけどね」
「妹子め、赤ジャージめ、三センチしか違わない癖に……」
「え、嘘マジで赤ジャージなんですか!? 私の知る限りそれはほぼ確実にフィクションですよ!?」
どうやら外の世界の妹子という人物は赤いジャージを着ているらしい。早苗さんが自分の常識と現実との折り合いに忙しい。しかしロリコンの娘、秦こころが巨乳クールになるとは誰が予想しただろうか。
すると神子様は突っ伏せたまま、自分の胸を触り続ける。
「……命蓮寺なんて爆発すればいいのに」
「物騒!?」
遂には幻想郷きっての巨乳集団に怒りの矛先が向いた。
ううむ、これは私の責任か?
「お客さん勘弁してくださいよー。お寺には私の響子もいるんですからねー?」
「ああ、鳥獣伎楽の」
「あいつまで吹っ飛ばされたらどうしようもないですよ。貧弱犬っころなのに」
「……そう言えば女将さんもなかなか大きいわね」
短い悲鳴を上げて、女将さんは後ろに後退する。しかし、箸で持ったがんもは落とさずに。なるほどある種職人芸のようなだ。
やはり屋台の女将さんとは、お客さんの横暴にも対応できる身体能力を持っていないと務まらないという事か。
「うん、やはり神子さんはそに○的な衣装に」
「早苗さんどうかしました?」
「いえ、ヘッドホンキャラなら誰が似合うかなあと」
「? はあ」
酔いが回って来たのか、先程から一人で「ツェッドはやはり鉄板、いやだったら元ネタも」などぶつぶつ言っている。
いやいや、そ○子だったら屠自古ちゃんぐらいのサイズが無いと何故か隣から殺気を感じる。神子様の能力かなんかだろうか、どぎつい殺気で射抜くように睨まれた。
しかし、すぐに喉奥を鳴らすような笑い声に変わる。
なんだかおかしくなってしまったのだろう。私も同じだ。
「……○に子……屠自古……」
ふと、静かになってしまった屋台で考える。
例えば五右衛門の空飛ぶ島。あの地に眠っていたお宝は、それはそれは恐ろしいものだった。きっと金銭的な価値は億や兆では済まないだろう。
そしてこちらはどうだ? 友人との飲み会。きっと諸経費は一万円にもならない。
だがどうして、この一瞬がそんな宝に負けると言うのだろう。
これほどまでに幸せな気分になのだ。お宝を【石川五右衛門に盗み返された】とて、それは何も問題ない。礼をしたいぐらいだ。
「母音が似ている……ぼいんぼいん」
私の両隣でお酒を噴き出す音が聞こえる。目の前の女将さんもお腹を抱えている。
やはり酔っぱらいはハードルが低い。
「ふ、不意打ちはやめてくくれないかなあくひっくくく」
「うわー衣玖さんが小学生みたいなダジャレを……ぶふっ」
デートの分は明日、いや日付としてはもう今日なのだが、埋め合わせすることにしよう。
今度は着物でも着て喜ばせてあげようか、それとも今日は私が下になろうか。
「ほーら、私の胸も母音母音ですよー?」
「くくっくぅーふふふっ」
「ふふなんでふふっ、体張ってるんですか、ふふふちょっとふっふふふっ」
そろそろ幻想郷にも桜が咲く。次は花見で酒を呑もう。
値万両の夜が更ける。
ただ、五右衛門の空飛ぶ島編が読みたくてたまらないっ!