そうだ、今日は地上に行ってみよう。
地底にある旧都、その中心にある地霊殿のある一室にて、第三の目を閉ざしたサトリ妖怪古明地こいしは、何の前触れもなく、何の脈絡もなく、そう思い立った。
すぐさまこいしは自らの能力である『無意識を操る程度の能力』
を行使し、地霊殿を出て旧都の道を通り、橋姫の傍を通り、土蜘蛛の前を通り、地上に出ることに成功した。
その間、誰もこいしに目を向ける者はいない。
地底を抜けるとそこは森の中だった。
というわけでもなく。いつの間にか、いやいつも通りに知らぬところに来てしまっただけだ。大丈夫だ、問題ない。こうして無意識に来たところで、そこにいる面白そうな人を傍で見ていたり、たまに食べ物を失敬したり、ひたすら自分のそのときしたいことをするのだ。
さあ、今日はどんなことが起こるのだろう。
「今日は紅魔館に行くわよ!」
「「おー!」」
騒がしい声が聞こえた。
そこにいたのはオレンジの髪の赤い服を着た八重歯が特徴的な妖精。金髪のぐるぐるした髪型をした妖精。そして青い服が印象的なきれいな黒髪をした妖精。
妖精ならお燐――火焔猫燐、死体好きな黒猫で、お姉ちゃんと特に仲がいいペット――のところで見たことがある。でも妖精は喋っっているところを見たことない。
興味を持ったこいしは木の陰に隠れ――ずに堂々と近くに寄っていく。
能力を意識して行使しなくても――無意識の能力を意識してというのはおかしな表現だとこいしはふと思った――自分が声をかけたり弾幕を当てたりしない限り誰も自分には気付かないだろう。
第三の目を閉じてからサトリとしての力を失った代わりに、こいしは無意識の力を手に入れた。その際彼女の存在感・気配などはほぼないものとなった。だからどんなに近づいても気づかれないし、視界に入っても、「探す」という明確な意思を持ってない限りは見逃してしまう。
そう、そのはずだ。
「……」
「……」
……そのはずだ。
「…………」
「……?」
その、はず、だ……?
だが、黒髪の妖精は自分の方を向いて不思議そうな顔をしている。
見つめあう二人。その時間は数秒足らずだったがこいしには数時間にも感じられた。
自分が気づいとき、既に地霊殿に戻っていた。無意識に逃走完了。
「なんだったんだろう……」
「おかえりなさい、また地上に行ってきたの?」
「あ、お姉ちゃんただいまーそうだよー」
地霊殿に帰ってくると姉――サトリ妖怪古明地さとり――が出迎えてくれていた。
普段は自分が帰ってきたことを伝えて、姉がそれに気づく、というのがいつも通りなのだが今日は逆だった。自分はそれほど考えこんでいたらしい。
「まあ止めてもこいしが聞かないのは分かっています、くれぐれも気を付けるように」
「はーい」
明日、もう一回会いにいってみよう!
こいしは強く決心を固めた。
「ここはどこだろう……」
迷ってるなう。
決心をしたところで結果が伴わなければ意味がない。行ったことのある場所を意識的にまた行く、というのはわけが違う。無意識に行った場所など誰が覚えているというのだ。
ここは顔の広そうな巫女でも見つけて聞いてみるべきか。と、考えていたときだった。
「あー頭痛い……飲みすぎたかなあ」
「多分メイドのげんこつのせいよ、それ」
見つかった! これも私の日頃の行いのおかげだろう(無意識で日頃の行いなど何も覚えてないが)。
今度はちゃんと木の陰に急いで隠れ、様子を伺うことにした。
「……二人とも、ちょっと忘れ物を思い出したから先行ってて」
「忘れ物? 何か持って行ったっけ……ま、いいか」
「フランに会ったら今度は一緒に悪戯するわよって言っておいてー!」
どういうわけか黒髪の妖精が他2人の妖精と別れた。これはチャンスだ。
能力を行使して後ろから忍び寄る。この方法で今まで私に気付いた人はいない。
「それで、誰? そこにいるのは」
妖精は後ろを振り向いて私を見る。瞳の中には驚いた私の顔が映っていた。すごい、やっぱり分かるのか。
「やっぱり、私のこと分かるの⁉」
「え? あなた幽霊? 足はついているみたいだけど」
「私が何もしてないのに私の存在に気付くなんてあなたが初めてよ」
「? 別にあなたサニーみたいに透明でもないじゃない」
「私はこいし、古明地こいし。無意識を操る妖怪よ。あなたは?」
妖精は自身の質問をスルーされ、矢継ぎ早に飛んでくる言葉に黒髪の妖精は折れたようで、ため息をついて答えた。
「スター、スターサファイア。……妖精よ」
「うん! うんうん! スターね!覚えたわ!」
「あらあなた昨日逃げてった子、なぜかサニーもルナも見えなかったらしいけど」
「言ったでしょ? 私は無意識を操るの。たとえ視界に映っても私から声をかけたりしない限りは気付かない……そのはずなの。ねえねえ、なんであなたは分かるの?こんなのはじめてよ」
スターはあまり褒められたことが無かったのか、さっきとはうってかわって自慢げに口を開いた。
「ふふふ、それはね……私は生きている者の気配を探れるの。たとえ姿を消していても、私の能力の前には何人たりともまるっとおみとおしよ!」
なるほどそういうことか、とこいしは納得した。
自分の能力である無意識は正確には姿を消すものではない。存在感を限りなく無くすことでそこにあっても気づかないだけだ。
しかし『ここにこれくらいの大きさの誰かがいる』とはっきりと確信できたならば、気付くことなど造作もない。まあ自分が全力で能力を行使すればそれでも見つからないだろうが――
「それで、あなたの名前はこいし……だったわよね。どこから来たの?」
「地底の、地霊殿ってところよ」
「そういえばちょっと前にそんなとこで異変が起こったわね。それで、そんなところからはるばる私になんの用?」
「お話したい!」
「……それだけ?」
「うん!」
「そうねぇ、いいわよ。それにサニーとルナへの愚痴も聞いてもらうのも悪くないわ」
「?」
こうして地底の妖怪と、地上の妖精は友達になった。
それからこいしは度々スターのところへ訪れた。
基本的にスターは自ら悪戯や争いに参加することはあまりないようだ。妖精同士の争いを下がって見ていたり、悪戯のときは休憩、もといサボったりすることが多い。
それにこいしも加わって見ていたり、ふたりでおしゃべりするのはとても充実した時間だと、こいしは感じた。
こいしの存在はスター以外には、妖精も妖怪も人間も気づくことはなかった。
ある日のこと、こいしがいつも通り出かけようとしたそのとき、珍しいことに姉に呼び止められた。
「なあに?お姉ちゃん」
「いえ、最近楽しそうな表情しているから、地上で何かあったのかと思ってね」
「うん! 実はそうなんだよ!私の能力が通じない妖精がいたのよ!」
「あなたの能力が通じない……?」
それからこいしは初めてできた友達、スターについてかたっぱしから話し始めた。さとりはそれを嬉しそうに聞いていた。
「そう……よかったわ。ずっと寂しそうだったから」
さとりはほっとした様子で微笑んだ。こいしは姉の笑った顔を久しぶりに見た気がした――だがその表情もこいしの発した言葉によって消えてしまった。
「寂しそう……? なにそれ?」
「えっ……?」
「あはは、おかしなこと言うねお姉ちゃん。寂しいなんて私が思うはずないじゃない。私は無意識なんだから」
途端にさとりは顔をくもらせた。その理由をこいしは理解できない。
どうしたのだ、自分は当たり前の事実を言っただけだ。
「こいし、まだそんなこと言っているの? あなたが何を考えているかわからないけど、本当に何も考えてないわけじゃないでしょう」
「お姉ちゃんなら分かるはずでしょ。サトリの目を閉じたらどうなるのか」
「心を閉ざしたから、何も考えていない、って言いたいのかしら?お空の騒ぎの前までは確かにそうだったのかもしれないわね。でも……」
「そういうこと。じゃあバイバイ!」
「ちょっとこいし!」
今さらなんであんなことを聞いてくるんだ。私は人の心を見るのが嫌で逃げて、そして無意識になった。それ以上でもそれ以下でもない。
胸に湧いた嫌な感じを振り払い、こいしはスターのところへ向かった。
「こんにちは。二人はどうしたの?」
「こんにちは。今日は人里の方でお祭りがあるらしいから、そこで何かしようと秘密の計画中ね」
「あらスター、またサボり?」
「休憩中よ」
「いつも通りね」
こいしは苦笑し、スターの傍に座った。
「どうしたの? 浮かない顔して」
「気のせいよ、ちょっとお姉ちゃんと色々あったけど……別に気にしなくていいよ」
「お姉さんって、そういえばサトリ妖怪って心を読む種族だったかしら?たしかあなたもそうだったらしいけど、便利そうなのにどうして閉じたりしたの?」
「心を読むなんてロクなものじゃないわ。本音はみんな嫌なことばっかり」
「そう?」
「そうよ、だから私はこの第三の目を閉じたの。代わりに無意識の力を手に入れたの」
「そうねぇ、それも便利そう。悪戯にも使えそうだし」
「そうでもないよ。無意識というのは何も感じないってこと。スターは手を挙げるときに意識して挙げようとはしないように、私は全てを手を挙げるときのようにするの」
「そう? とてもそうは見えないわ」
「私は無意識そのもの。明確な感情なんて持てないわ」
「嘘ね」
即答された。自分の何が分かるんだ。
「……スターに何が分かるの」
「分かるわよ、こいしを見れば誰でも」
姉と話したときのような嫌なものが胸をちくちくと刺してくる。
私にそんなことを聞くな、もうたくさんだ。
「そんなものないって言ってるじゃない! 求聞口授ってのにも私のことが書いてあったわ。その辺と動物と同じ、化学反応で動いているのと同じだって。お姉ちゃんに言わせれば動物の方がちゃんと考えている、って言うでしょうけど! 私は逃げたから!お姉ちゃんと違って強くないから! 心を見るのに耐えられなかったから、目を閉じて何も見ずに何も考えないようになったのよ!」
「えらいムキになるのね、感情を捨てたらしい無意識さん?」
「――!」
能力を全力で行使してこいしは駆け出した。
もうなんなんだ、姉もスターも。自分のことは自分がよく分かっているに決まっている。
「きゃっ」
何かにぶつかり我に返る。
いつの間にか自分は人ごみの中にいた。そういえばスターが今日はお祭りがあるとかなんとか言っていたか。
人にだんだんと押されて転びそうになるが、誰もこいしのことを避けようとせず気付きもせず。
それは自分でも分かっているはずなのに、今日はなぜかひどく苛ついた。むかついたので前にいた人間を蹴飛ばし空高く上がる。文句が聞こえたが知ったことか、どうせ自分には気付かない。
人ごみから少し離れたところにこいしは寝転がった。
どうしよう。姉ともスターとも喧嘩してしまった。……だからなんだというのだ、自分は無意識、嫌われたって――
――そこでこいしは気付く、致命的なことに。自分が目をそらしていたことに。
何故自分が「目」を閉じたのか、その本当の理由を思い出した。思い出してしまった。
何故気付いたのかはわからない。なんだかんだで信頼している姉と、唯一の友達だったスターの二人と喧嘩してしまったせいなのか。人ごみの中で自分が周りの人たちの世界に入ってないと改めて気づかされたせいか、はたまた両方か。
――人の心を見るのがいやだった。
心の中は醜くて、卑しくて、残酷で。
それは彼ら自身も分かっているのだろう。だからサトリである私を見て避けた。
心の中で悪態をつきながら。
そうか。ああ、なんで気づかなかったのか。なんで忘れていたのか。
私は心を見るのがいやだっただけじゃない。
見られるのがいやだった。
嫌われるのがいやだった。
醜い心の矛先が自分に来るのが嫌で、去りたい、消えてしまいたいって思った。
その願いはかなった。
私に声をかける人はいなくなった。
気づいても視界から外れれば忘れ去られる。
視界からも心からも消えた。
なんて皮肉な結末だろう。
こいしは空を見た。
たくさんの星がちりばめられている幻想的な光景。本によると、見えないだけでもっと多くの星々があるそうだ。
きっと自分はそれだ。誰にも見えない、そこにあるはずなのに存在を認識されていない、そんな星。認識されないのならばそこにある意味はあるのだろうか? 消えてしまっても何も変わらないのではないか?
いったい自分はなんだ? 分からない。感情も存在も何もかも。
誰にも気づかれない、無意識の塊の自分のいる意味なんて――
「なにやっているの?こいし」
「へ?」
自分の名前が呼ばれてハッっとして前を向く、目に映ったのは青い服が印象的なきれいな黒髪の妖精。
それは最近見慣れたもので――
「バカみたいに、上なんて見上げて。星もお酒も空から落ちてこないわよ?」
そこにいたのは、スターサファイアだった。
「スター? どうして……」
「どうしてって、能力であなたを見つけたのよ?」
「そんなはず……」
「あら、私の能力を忘れたの?」
「忘れてなんか……」
スターの能力である『生き物の気配を探る程度の能力』は何かがそこにいるとは分かっても、それが誰かは区別できないはずだ――現に大きい動物を利用して妖精釣りもすることができると、いけ好かない求聞史記に書いてあった――。人ごみからは少し離れているが、そんな目立った位置にいるわけでもないし、自分がどこにいるかなんて自分さえ分からない。
そんなこいしの困惑した顔を見て、「そうねぇ」とスターは指を唇に当て、考え込むような仕草をして微笑みながら答える。
「なんとなくよ。わたしの『目』に映った光が、寂しそうだったから、かしら」
「なに……、それ……馬鹿みたい。寂しそう、なんて」
光に寂しいなんてあるわけがないし、ましてや自分は目を閉じて
から寂しいなんて感じたことはない。
「ふーん、じゃああなたのその目から流れてるものは何かしら?」
自分の頬に手をあてて初めて気づいた。私は涙を流していた。
いつから泣いていた?そして何故泣いている?
「寂しいから、悲しいから、でしょ。私だって心は読めないけどそれくらい分かるわよ。まったく、求聞ナントカ私も読んだけど、なんかよく分からない人間と強い妖怪が、色々適当に書いているだけじゃないの。それを書かれた本人が真に受けたらあべこべよ。だいたい私たちだって悪戯するときは特に何も考えてないわ、特にサニーはね。考えるとしても、楽しそうってくらいかしら」
感情なんて捨てたはずだった、いや捨てたのだと思い込んでいた。だから自分は誰にも気付かれなくても気にしないって。気にする心もないって。
「誰にも気づかれない? ふふふ、私を誰だと思っているのかしら!」
スターがこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
「降り注ぐ星の光、スターサファイア。星の光は例外なく皆を照らす。例え他の誰にも気づかなくても」
距離が近づく。スターの瞳に映った私は、とても不安そうな表情だった。
「私はあなたの存在を見逃したりはしない」
ふわっとした感触に包まれた。
顔が近くて、心臓が跳ねる。
抱きしめられていることに気付いたのは少し経った後で。
頭の後ろに回された手の感触が温かい。
そして、私はスターを抱きしめた、自分の存在を確かめるように。スターに確かめてもらいたくて。
「だいたいあんな人間やら妖怪の考えてることなんてわけが分からないんだから気にしちゃソンソン♪そうよ、私のことが書いてあるの見た? 『動物の群れなどに紛れて移動すると、気付かれないだろう』って!そんな人間とおんなじ大きさの動物を多く引き連れて移動してたら私じゃなくても気づくに決まっているじゃない。案外人間も馬鹿ねー」
手近にあった岩にこいしと並んで腰掛けながら、スターは愉快に笑った。
「うんうん、そうだね。そういえばいつも二人と一緒なのに、今日はどうしたの?」
「最初は一緒だったんだけど、サニーが紅魔館の人たちにちょっかいかけようとしていたから逃げてきたのよ」
「わー、逃げたって、私よりひどいんじゃない?薄情者っていうんだよ」
「大丈夫大丈夫、サニーは紅魔館の吸血鬼の妹さんと交流持っているって言っていたわ。ほら、コネとかでなんとかできているんじゃない?」
コネってそういう意味だったかなぁ。と疑問に思っていたこいしだがスターが、突然パンと手を鳴らして言った次の言葉で疑問は吹き飛んだされる。
「はくじょうと妹で思い出したわ。白状するとね、あなたのことについて教えてくれたのはさとりさんよ」
「えっ……えええええええええええええええ!?」
まるでなんでもない忘れ物をしたのを思い出したような口調で、 スターは爆弾を投下した。
地底と地上での行き来の制限がすごく緩くなってきてもめったに地底から出ようとしなかったお姉ちゃんが。
それもお祭りの中、人が大勢あふれかえってる、サトリにとってはまさに大音量の雑音で囲まれた最悪の環境の中を、私のために。
それに、どうやってスターを?
「私のことを話したのでしょ?きっとそれを頼りに他の人の心を読んだりして、探していたんじゃないかしら」
「私これは声に出してないんだけど、いつからスターもサトリになったの……」
「さあ、きっと無意識のせいよ、うん。それよりさとりさん、心配していたわよ?まったく親の心子知らずよね」
「いや親じゃないよ⁉お姉ちゃんだよ⁉」
「無意識的に似たようなものでしょ?」
「いや全然違うでしょ、それになんでも無意識って言えば許されるわけじゃないからね……」
「そうそう最後に、妹のことこれからもよろしくお願いしますって。まるで結婚する子を送り出す親の挨拶ね」
「ふええええ⁉」
ちょっと何言っているのだお姉ちゃん。そんなこというキャラだったのか、しかもスターも何言ってるんだ結婚とかもうわけわかめ。
顔がすごく熱い。もう勘弁してほしい。
混乱してるこいしに、スターがけらけら笑った。
「あなたよくそれで無意識の塊とか言っていたわね」
どうやら私としたことがからかわれたらしい。それは私の領分(?)だろう!
私が目で(閉じた第三の目も不満を訴えている)抗議するのを華麗にスルーし、スターが立ち上がった。
「それより一緒に屋台でもまわらない? おごるわ」
「えっ、本当?でもお金なんてどこから」
「桃色の髪で私の隣にいる妖怪にそっくりな、とっても妹想いで親切な人がくれたのよ」
「いやそれお姉ちゃんだよね。それスターじゃなくてお姉ちゃんの奢りのような」
「まずはあそこに行きましょう!」
「うん、聞いてないね」
けれども道はまだ人でいっぱいだ。認識されない私が、まともに歩けるだろうか?
――そんな心配はすぐに消えた。ぎゅっと手が握られる。
「あんな人ごみの中はダメ。私についてくればもっと楽な道を行けるわ!」
「あ……うん!よろしく!」
もう一度空を見上げれば、満天の星空。
暗いところで星がきらっと光った。
それは本当に一瞬で、周りと比べて弱い光で、他に誰も見ていなかったのかもしれない、忘れてしまいそうになるくらいちっぽけな星だけど、私はこの目で見た。確かにそこにあったのだ。
「また何で上を見ているの?」
「星が綺麗だなーって」
「ええ、今日は本当に絶好の星日和ね」
私はちっぽけな存在で、とてもとても小さく薄いものだけど、もう私は怖くない、目を背けたりもしない。
だって私には大切な姉がいて、そして隣に大切な友達がいる。
私は独りじゃない、見てくれている存在がいるのだから。
「……あれ、ここどこかしら」
「えっ」
地底にある旧都、その中心にある地霊殿のある一室にて、第三の目を閉ざしたサトリ妖怪古明地こいしは、何の前触れもなく、何の脈絡もなく、そう思い立った。
すぐさまこいしは自らの能力である『無意識を操る程度の能力』
を行使し、地霊殿を出て旧都の道を通り、橋姫の傍を通り、土蜘蛛の前を通り、地上に出ることに成功した。
その間、誰もこいしに目を向ける者はいない。
地底を抜けるとそこは森の中だった。
というわけでもなく。いつの間にか、いやいつも通りに知らぬところに来てしまっただけだ。大丈夫だ、問題ない。こうして無意識に来たところで、そこにいる面白そうな人を傍で見ていたり、たまに食べ物を失敬したり、ひたすら自分のそのときしたいことをするのだ。
さあ、今日はどんなことが起こるのだろう。
「今日は紅魔館に行くわよ!」
「「おー!」」
騒がしい声が聞こえた。
そこにいたのはオレンジの髪の赤い服を着た八重歯が特徴的な妖精。金髪のぐるぐるした髪型をした妖精。そして青い服が印象的なきれいな黒髪をした妖精。
妖精ならお燐――火焔猫燐、死体好きな黒猫で、お姉ちゃんと特に仲がいいペット――のところで見たことがある。でも妖精は喋っっているところを見たことない。
興味を持ったこいしは木の陰に隠れ――ずに堂々と近くに寄っていく。
能力を意識して行使しなくても――無意識の能力を意識してというのはおかしな表現だとこいしはふと思った――自分が声をかけたり弾幕を当てたりしない限り誰も自分には気付かないだろう。
第三の目を閉じてからサトリとしての力を失った代わりに、こいしは無意識の力を手に入れた。その際彼女の存在感・気配などはほぼないものとなった。だからどんなに近づいても気づかれないし、視界に入っても、「探す」という明確な意思を持ってない限りは見逃してしまう。
そう、そのはずだ。
「……」
「……」
……そのはずだ。
「…………」
「……?」
その、はず、だ……?
だが、黒髪の妖精は自分の方を向いて不思議そうな顔をしている。
見つめあう二人。その時間は数秒足らずだったがこいしには数時間にも感じられた。
自分が気づいとき、既に地霊殿に戻っていた。無意識に逃走完了。
「なんだったんだろう……」
「おかえりなさい、また地上に行ってきたの?」
「あ、お姉ちゃんただいまーそうだよー」
地霊殿に帰ってくると姉――サトリ妖怪古明地さとり――が出迎えてくれていた。
普段は自分が帰ってきたことを伝えて、姉がそれに気づく、というのがいつも通りなのだが今日は逆だった。自分はそれほど考えこんでいたらしい。
「まあ止めてもこいしが聞かないのは分かっています、くれぐれも気を付けるように」
「はーい」
明日、もう一回会いにいってみよう!
こいしは強く決心を固めた。
「ここはどこだろう……」
迷ってるなう。
決心をしたところで結果が伴わなければ意味がない。行ったことのある場所を意識的にまた行く、というのはわけが違う。無意識に行った場所など誰が覚えているというのだ。
ここは顔の広そうな巫女でも見つけて聞いてみるべきか。と、考えていたときだった。
「あー頭痛い……飲みすぎたかなあ」
「多分メイドのげんこつのせいよ、それ」
見つかった! これも私の日頃の行いのおかげだろう(無意識で日頃の行いなど何も覚えてないが)。
今度はちゃんと木の陰に急いで隠れ、様子を伺うことにした。
「……二人とも、ちょっと忘れ物を思い出したから先行ってて」
「忘れ物? 何か持って行ったっけ……ま、いいか」
「フランに会ったら今度は一緒に悪戯するわよって言っておいてー!」
どういうわけか黒髪の妖精が他2人の妖精と別れた。これはチャンスだ。
能力を行使して後ろから忍び寄る。この方法で今まで私に気付いた人はいない。
「それで、誰? そこにいるのは」
妖精は後ろを振り向いて私を見る。瞳の中には驚いた私の顔が映っていた。すごい、やっぱり分かるのか。
「やっぱり、私のこと分かるの⁉」
「え? あなた幽霊? 足はついているみたいだけど」
「私が何もしてないのに私の存在に気付くなんてあなたが初めてよ」
「? 別にあなたサニーみたいに透明でもないじゃない」
「私はこいし、古明地こいし。無意識を操る妖怪よ。あなたは?」
妖精は自身の質問をスルーされ、矢継ぎ早に飛んでくる言葉に黒髪の妖精は折れたようで、ため息をついて答えた。
「スター、スターサファイア。……妖精よ」
「うん! うんうん! スターね!覚えたわ!」
「あらあなた昨日逃げてった子、なぜかサニーもルナも見えなかったらしいけど」
「言ったでしょ? 私は無意識を操るの。たとえ視界に映っても私から声をかけたりしない限りは気付かない……そのはずなの。ねえねえ、なんであなたは分かるの?こんなのはじめてよ」
スターはあまり褒められたことが無かったのか、さっきとはうってかわって自慢げに口を開いた。
「ふふふ、それはね……私は生きている者の気配を探れるの。たとえ姿を消していても、私の能力の前には何人たりともまるっとおみとおしよ!」
なるほどそういうことか、とこいしは納得した。
自分の能力である無意識は正確には姿を消すものではない。存在感を限りなく無くすことでそこにあっても気づかないだけだ。
しかし『ここにこれくらいの大きさの誰かがいる』とはっきりと確信できたならば、気付くことなど造作もない。まあ自分が全力で能力を行使すればそれでも見つからないだろうが――
「それで、あなたの名前はこいし……だったわよね。どこから来たの?」
「地底の、地霊殿ってところよ」
「そういえばちょっと前にそんなとこで異変が起こったわね。それで、そんなところからはるばる私になんの用?」
「お話したい!」
「……それだけ?」
「うん!」
「そうねぇ、いいわよ。それにサニーとルナへの愚痴も聞いてもらうのも悪くないわ」
「?」
こうして地底の妖怪と、地上の妖精は友達になった。
それからこいしは度々スターのところへ訪れた。
基本的にスターは自ら悪戯や争いに参加することはあまりないようだ。妖精同士の争いを下がって見ていたり、悪戯のときは休憩、もといサボったりすることが多い。
それにこいしも加わって見ていたり、ふたりでおしゃべりするのはとても充実した時間だと、こいしは感じた。
こいしの存在はスター以外には、妖精も妖怪も人間も気づくことはなかった。
ある日のこと、こいしがいつも通り出かけようとしたそのとき、珍しいことに姉に呼び止められた。
「なあに?お姉ちゃん」
「いえ、最近楽しそうな表情しているから、地上で何かあったのかと思ってね」
「うん! 実はそうなんだよ!私の能力が通じない妖精がいたのよ!」
「あなたの能力が通じない……?」
それからこいしは初めてできた友達、スターについてかたっぱしから話し始めた。さとりはそれを嬉しそうに聞いていた。
「そう……よかったわ。ずっと寂しそうだったから」
さとりはほっとした様子で微笑んだ。こいしは姉の笑った顔を久しぶりに見た気がした――だがその表情もこいしの発した言葉によって消えてしまった。
「寂しそう……? なにそれ?」
「えっ……?」
「あはは、おかしなこと言うねお姉ちゃん。寂しいなんて私が思うはずないじゃない。私は無意識なんだから」
途端にさとりは顔をくもらせた。その理由をこいしは理解できない。
どうしたのだ、自分は当たり前の事実を言っただけだ。
「こいし、まだそんなこと言っているの? あなたが何を考えているかわからないけど、本当に何も考えてないわけじゃないでしょう」
「お姉ちゃんなら分かるはずでしょ。サトリの目を閉じたらどうなるのか」
「心を閉ざしたから、何も考えていない、って言いたいのかしら?お空の騒ぎの前までは確かにそうだったのかもしれないわね。でも……」
「そういうこと。じゃあバイバイ!」
「ちょっとこいし!」
今さらなんであんなことを聞いてくるんだ。私は人の心を見るのが嫌で逃げて、そして無意識になった。それ以上でもそれ以下でもない。
胸に湧いた嫌な感じを振り払い、こいしはスターのところへ向かった。
「こんにちは。二人はどうしたの?」
「こんにちは。今日は人里の方でお祭りがあるらしいから、そこで何かしようと秘密の計画中ね」
「あらスター、またサボり?」
「休憩中よ」
「いつも通りね」
こいしは苦笑し、スターの傍に座った。
「どうしたの? 浮かない顔して」
「気のせいよ、ちょっとお姉ちゃんと色々あったけど……別に気にしなくていいよ」
「お姉さんって、そういえばサトリ妖怪って心を読む種族だったかしら?たしかあなたもそうだったらしいけど、便利そうなのにどうして閉じたりしたの?」
「心を読むなんてロクなものじゃないわ。本音はみんな嫌なことばっかり」
「そう?」
「そうよ、だから私はこの第三の目を閉じたの。代わりに無意識の力を手に入れたの」
「そうねぇ、それも便利そう。悪戯にも使えそうだし」
「そうでもないよ。無意識というのは何も感じないってこと。スターは手を挙げるときに意識して挙げようとはしないように、私は全てを手を挙げるときのようにするの」
「そう? とてもそうは見えないわ」
「私は無意識そのもの。明確な感情なんて持てないわ」
「嘘ね」
即答された。自分の何が分かるんだ。
「……スターに何が分かるの」
「分かるわよ、こいしを見れば誰でも」
姉と話したときのような嫌なものが胸をちくちくと刺してくる。
私にそんなことを聞くな、もうたくさんだ。
「そんなものないって言ってるじゃない! 求聞口授ってのにも私のことが書いてあったわ。その辺と動物と同じ、化学反応で動いているのと同じだって。お姉ちゃんに言わせれば動物の方がちゃんと考えている、って言うでしょうけど! 私は逃げたから!お姉ちゃんと違って強くないから! 心を見るのに耐えられなかったから、目を閉じて何も見ずに何も考えないようになったのよ!」
「えらいムキになるのね、感情を捨てたらしい無意識さん?」
「――!」
能力を全力で行使してこいしは駆け出した。
もうなんなんだ、姉もスターも。自分のことは自分がよく分かっているに決まっている。
「きゃっ」
何かにぶつかり我に返る。
いつの間にか自分は人ごみの中にいた。そういえばスターが今日はお祭りがあるとかなんとか言っていたか。
人にだんだんと押されて転びそうになるが、誰もこいしのことを避けようとせず気付きもせず。
それは自分でも分かっているはずなのに、今日はなぜかひどく苛ついた。むかついたので前にいた人間を蹴飛ばし空高く上がる。文句が聞こえたが知ったことか、どうせ自分には気付かない。
人ごみから少し離れたところにこいしは寝転がった。
どうしよう。姉ともスターとも喧嘩してしまった。……だからなんだというのだ、自分は無意識、嫌われたって――
――そこでこいしは気付く、致命的なことに。自分が目をそらしていたことに。
何故自分が「目」を閉じたのか、その本当の理由を思い出した。思い出してしまった。
何故気付いたのかはわからない。なんだかんだで信頼している姉と、唯一の友達だったスターの二人と喧嘩してしまったせいなのか。人ごみの中で自分が周りの人たちの世界に入ってないと改めて気づかされたせいか、はたまた両方か。
――人の心を見るのがいやだった。
心の中は醜くて、卑しくて、残酷で。
それは彼ら自身も分かっているのだろう。だからサトリである私を見て避けた。
心の中で悪態をつきながら。
そうか。ああ、なんで気づかなかったのか。なんで忘れていたのか。
私は心を見るのがいやだっただけじゃない。
見られるのがいやだった。
嫌われるのがいやだった。
醜い心の矛先が自分に来るのが嫌で、去りたい、消えてしまいたいって思った。
その願いはかなった。
私に声をかける人はいなくなった。
気づいても視界から外れれば忘れ去られる。
視界からも心からも消えた。
なんて皮肉な結末だろう。
こいしは空を見た。
たくさんの星がちりばめられている幻想的な光景。本によると、見えないだけでもっと多くの星々があるそうだ。
きっと自分はそれだ。誰にも見えない、そこにあるはずなのに存在を認識されていない、そんな星。認識されないのならばそこにある意味はあるのだろうか? 消えてしまっても何も変わらないのではないか?
いったい自分はなんだ? 分からない。感情も存在も何もかも。
誰にも気づかれない、無意識の塊の自分のいる意味なんて――
「なにやっているの?こいし」
「へ?」
自分の名前が呼ばれてハッっとして前を向く、目に映ったのは青い服が印象的なきれいな黒髪の妖精。
それは最近見慣れたもので――
「バカみたいに、上なんて見上げて。星もお酒も空から落ちてこないわよ?」
そこにいたのは、スターサファイアだった。
「スター? どうして……」
「どうしてって、能力であなたを見つけたのよ?」
「そんなはず……」
「あら、私の能力を忘れたの?」
「忘れてなんか……」
スターの能力である『生き物の気配を探る程度の能力』は何かがそこにいるとは分かっても、それが誰かは区別できないはずだ――現に大きい動物を利用して妖精釣りもすることができると、いけ好かない求聞史記に書いてあった――。人ごみからは少し離れているが、そんな目立った位置にいるわけでもないし、自分がどこにいるかなんて自分さえ分からない。
そんなこいしの困惑した顔を見て、「そうねぇ」とスターは指を唇に当て、考え込むような仕草をして微笑みながら答える。
「なんとなくよ。わたしの『目』に映った光が、寂しそうだったから、かしら」
「なに……、それ……馬鹿みたい。寂しそう、なんて」
光に寂しいなんてあるわけがないし、ましてや自分は目を閉じて
から寂しいなんて感じたことはない。
「ふーん、じゃああなたのその目から流れてるものは何かしら?」
自分の頬に手をあてて初めて気づいた。私は涙を流していた。
いつから泣いていた?そして何故泣いている?
「寂しいから、悲しいから、でしょ。私だって心は読めないけどそれくらい分かるわよ。まったく、求聞ナントカ私も読んだけど、なんかよく分からない人間と強い妖怪が、色々適当に書いているだけじゃないの。それを書かれた本人が真に受けたらあべこべよ。だいたい私たちだって悪戯するときは特に何も考えてないわ、特にサニーはね。考えるとしても、楽しそうってくらいかしら」
感情なんて捨てたはずだった、いや捨てたのだと思い込んでいた。だから自分は誰にも気付かれなくても気にしないって。気にする心もないって。
「誰にも気づかれない? ふふふ、私を誰だと思っているのかしら!」
スターがこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
「降り注ぐ星の光、スターサファイア。星の光は例外なく皆を照らす。例え他の誰にも気づかなくても」
距離が近づく。スターの瞳に映った私は、とても不安そうな表情だった。
「私はあなたの存在を見逃したりはしない」
ふわっとした感触に包まれた。
顔が近くて、心臓が跳ねる。
抱きしめられていることに気付いたのは少し経った後で。
頭の後ろに回された手の感触が温かい。
そして、私はスターを抱きしめた、自分の存在を確かめるように。スターに確かめてもらいたくて。
「だいたいあんな人間やら妖怪の考えてることなんてわけが分からないんだから気にしちゃソンソン♪そうよ、私のことが書いてあるの見た? 『動物の群れなどに紛れて移動すると、気付かれないだろう』って!そんな人間とおんなじ大きさの動物を多く引き連れて移動してたら私じゃなくても気づくに決まっているじゃない。案外人間も馬鹿ねー」
手近にあった岩にこいしと並んで腰掛けながら、スターは愉快に笑った。
「うんうん、そうだね。そういえばいつも二人と一緒なのに、今日はどうしたの?」
「最初は一緒だったんだけど、サニーが紅魔館の人たちにちょっかいかけようとしていたから逃げてきたのよ」
「わー、逃げたって、私よりひどいんじゃない?薄情者っていうんだよ」
「大丈夫大丈夫、サニーは紅魔館の吸血鬼の妹さんと交流持っているって言っていたわ。ほら、コネとかでなんとかできているんじゃない?」
コネってそういう意味だったかなぁ。と疑問に思っていたこいしだがスターが、突然パンと手を鳴らして言った次の言葉で疑問は吹き飛んだされる。
「はくじょうと妹で思い出したわ。白状するとね、あなたのことについて教えてくれたのはさとりさんよ」
「えっ……えええええええええええええええ!?」
まるでなんでもない忘れ物をしたのを思い出したような口調で、 スターは爆弾を投下した。
地底と地上での行き来の制限がすごく緩くなってきてもめったに地底から出ようとしなかったお姉ちゃんが。
それもお祭りの中、人が大勢あふれかえってる、サトリにとってはまさに大音量の雑音で囲まれた最悪の環境の中を、私のために。
それに、どうやってスターを?
「私のことを話したのでしょ?きっとそれを頼りに他の人の心を読んだりして、探していたんじゃないかしら」
「私これは声に出してないんだけど、いつからスターもサトリになったの……」
「さあ、きっと無意識のせいよ、うん。それよりさとりさん、心配していたわよ?まったく親の心子知らずよね」
「いや親じゃないよ⁉お姉ちゃんだよ⁉」
「無意識的に似たようなものでしょ?」
「いや全然違うでしょ、それになんでも無意識って言えば許されるわけじゃないからね……」
「そうそう最後に、妹のことこれからもよろしくお願いしますって。まるで結婚する子を送り出す親の挨拶ね」
「ふええええ⁉」
ちょっと何言っているのだお姉ちゃん。そんなこというキャラだったのか、しかもスターも何言ってるんだ結婚とかもうわけわかめ。
顔がすごく熱い。もう勘弁してほしい。
混乱してるこいしに、スターがけらけら笑った。
「あなたよくそれで無意識の塊とか言っていたわね」
どうやら私としたことがからかわれたらしい。それは私の領分(?)だろう!
私が目で(閉じた第三の目も不満を訴えている)抗議するのを華麗にスルーし、スターが立ち上がった。
「それより一緒に屋台でもまわらない? おごるわ」
「えっ、本当?でもお金なんてどこから」
「桃色の髪で私の隣にいる妖怪にそっくりな、とっても妹想いで親切な人がくれたのよ」
「いやそれお姉ちゃんだよね。それスターじゃなくてお姉ちゃんの奢りのような」
「まずはあそこに行きましょう!」
「うん、聞いてないね」
けれども道はまだ人でいっぱいだ。認識されない私が、まともに歩けるだろうか?
――そんな心配はすぐに消えた。ぎゅっと手が握られる。
「あんな人ごみの中はダメ。私についてくればもっと楽な道を行けるわ!」
「あ……うん!よろしく!」
もう一度空を見上げれば、満天の星空。
暗いところで星がきらっと光った。
それは本当に一瞬で、周りと比べて弱い光で、他に誰も見ていなかったのかもしれない、忘れてしまいそうになるくらいちっぽけな星だけど、私はこの目で見た。確かにそこにあったのだ。
「また何で上を見ているの?」
「星が綺麗だなーって」
「ええ、今日は本当に絶好の星日和ね」
私はちっぽけな存在で、とてもとても小さく薄いものだけど、もう私は怖くない、目を背けたりもしない。
だって私には大切な姉がいて、そして隣に大切な友達がいる。
私は独りじゃない、見てくれている存在がいるのだから。
「……あれ、ここどこかしら」
「えっ」
文句無しの満点ですわw
良かったです
実に馴染むぞ!
なかなかいいコンビじゃないか。
次はこいしちゃんが追い求める役になる番ですね。
>山蜘蛛→土蜘蛛
種族名と人物名とが混ざっとる混ざっとるw