Coolier - 新生・東方創想話

Free Night

2012/03/11 02:37:45
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瞼を閉じた世界は暗闇で、
だけど、
瞼を開けたその世界も暗い闇に覆われていた。



 
何度もその違いを確かめるように私の瞼は開いたり閉じたりを繰り返すが、その違いを考えようとは思わない。
いつもならば、こうしていればいつか来るまどろみも今日は来やしない。
気だるい体躯。ベッドに横たわり眠りがくるのを待つ行為。
だけど思考はどこまでもクリア。
 夜。
私は眠れないでいた。



「あ―――…」
眠りにつけないことで声が自然に漏れる。
昼に天気が良かったからと夕時まで惰眠をむさぼっていたのがよくなかった。
本来なら、今日は人里まで行き、足りなくなった生活用品を買いに行く予定だった。
ただ行く前、いつものように友人の元へ顔を見せに行くが、予定よりも長居をしてしまい、今日の決心も揺らいでしまった。結局、買物はお流れになってしまった。



――――霊夢が珍しく、うまい茶葉が入ったと茶菓子まで出してくれるから、つい目的を疎かにしてしまった。



と私は自分に悪態をつき、蒲団にくるまる。
今日の買い物の中には、ランプの燃料も買わなければいけなかった。
燃料が切れてしまったため、今は明かりを灯す器具は手持ちの八卦炉しかない。これで明かりを灯して作業を行ってもいいが、いかんせんそれだけに使うのは燃費も悪く思え、使うのは控えておく。
 常に奥の手を隠すアリスほどではないが、やはり魔法使いたるもの、必殺の術は常に万全な状態で持っていたいものだと私も思うのだ。
だがそうなってくると、現状できることは眠ることしか私にはなく結局眠れない今に至るのだ。
普段なら、眠かろうが魔法の研究をし、睡眠時間を削る生活をしてきたせいか、目を閉じれば眠りはすぐに訪れるものだった。
だが今日に限っては昼の付けが回ってきたのか、一向に眠気というのがこない。
故に、ただただ暇で仕方がない。
「こうなるだったら、霊夢のとこにでも泊まればよかった……」
泊まったところであの友人の社も、夜は明かりを消してしまうだろうが、彼女のことだ。
暇を持て余すことはなかっただろうと思う。
はあっと溜息がこぼれた、空気を震わせる。
自分の呼吸音だけが聞こえる。周りの音は何も聞こえない。




静かな夜だった。
そこでふと今この部屋で音を立てているのが自分だけなのだと気づかされる。
こんなにも夜が静かだと久々に感じたのだ。
「………」



そしてこんな夜だからこそ



自然、人は何気ない記憶を頭に浮かべてしまうものだ。






                  ☆☆☆




冬の寒空、月光が明るく世界を彩る今日は満月でありいつもより明るい夜道。
「わはー」
そんな中、一人の少女が笑みを浮かべ歩いていた。
金で染められたように鮮やかなショートの髪、黒と白を合わせたワンピースを模した服
季節は冬だというのにその服装は少し軽装にも思えるが彼女はそんなことを気にも止めない、そもそも普通の少女がこんな夜中に、こんな場所―――魔法の森でひとりいる事が既におかしいことなのだ。



「今日はいつもより明るい、夜ヨルよる、お月さまも満月、真月、奇麗キレイ」
リズムをとって同じ言葉を繰り返す。
それは歌うように、
一人事のように、
されど話すように、
その少女、ルーミアは月光のさした森の中を歩いていた。
「今日はどうしようかな、どこにいこうかな?」
ひとりごとは癖なのか、ルーミアは誰もいない森で一人話す、ただその一人事は彼女の気持ちを素直に吐き出している。



「お腹もへったし、食べ物がほしいなあ……」
ここ最近は食べ物という食べ物を食べていない、妖怪である彼女は物を食べなくてもそうそうに死ぬこともないが、お腹の減りはやはり人とそんなに変わりはない
だけどお腹が減ったからといったところで食糧があるわけでもなく、月光の灯りを頼りにルーミアは食べるものがないかを気晴らしに今日も散策をしていた。
―――お肉が食べたいなあ、脂の乗ったお肉が、たまにある木の実じゃお腹は膨れない、そこらに落ちてないかなお肉
と食べ物のことを考えると頭はすでにお肉のことでいっぱいだった。
季節は冬を迎えているため、生き物の姿は少ない
野兎でもいれば、一目散に捕まえ、彼女なら妖怪故に生でも食べてしまうだろう。
こんな見た目幼い少女が、そんな行動をとるように見えずとも、彼女とて妖怪である。今の幻想郷に至ってから人を襲ってはいけないという厳格なルールをしかれるようになり、理性と知恵がある以上、ルーミアもそのルールに準じている。
自身が妖怪だからと言って、無暗に人を殺してはいけない
なぜそのようなルールができたかは、ルーミアには理解できないが、だがそれも何となくでは彼女も理解していた。
「うーん…食べ物見当たらない…人はよく見かけるけど、食べちゃいけないし……あっそうだ」
そこでルーミアの考えに光がさす。
「食べちゃいけないなら、驚かして食べ物を出してもらおう」
これはいい手だと彼女は安直な考えだが、妖怪である慢性的性格と、幼さを持つ彼女にはそれが得策と浮かぶ。
自信を持った表情で後はそれをどこで行おうか考える。
この深夜の時間帯、魔法の森を歩く人などめったにいない、かといって人里に下りて悪さをすればあの半妖の守護神が許しはしないだろう。と人里は外す
では博霊神社はどうだろうかと浮かべるも、それこそ得策ではないことをルーミアは本能で判断する、いくら彼女の知恵が低くともあの巫女から飯を集るのはそれ以上の対価を要求されることはすでに経験済みだった。そもそも驚かしたらで確実なしっぺ返しがあの巫女からは帰ってくるはずだ。
そしてちらほらと有名所は浮かべるが、どこもそれ相応に障害が大きいことが分かり、視野が狭まってくる、そもそも一妖怪といえ、ルーミアが妖怪としての力はそれほど強いものではない。まとまった場所で暮らしをするものはそれ相応に力もあるということなのだ。
故に驚かすということ自体が成立しない。
――――うーん、かと言ってご飯をタダで食べさせてくれるところなんて後はなさそうだし……。
そうこうしながら、ルーミアは考えながら歩くも、まとまった場所は浮かばず結局、振り出しに戻る。
そう思っていた時だ。



「あっ――――家だ」
生い茂る木々に囲まれた視界の先、そこだけ木々が空間を空けるようにして星の光を浴びながら、家が見えた。
ルーミアはよく、森の中を歩くことはあれどこんな所に家が建っていたなんてことを今まで知らなかった。
魔法の森は広い、魔法という言葉がつくようにこの森には魔法が発生しやすい環境を整えられており、その環境から森は歪な景色を形成する。だから不意に、ちょっとした脇道などを通るとそこには想像とは違う景色も映ろう。そしてルーミアも初めて見るそれに驚くのだ。
――煉瓦の家だ、立派!
ルーミアはすぐにその家に興味を持つ、西洋風に作られたごく普通の小さな家
西洋独特の作りで、人里ではあまり見かけない屋根の高い煉瓦で組まれた家。
窓には明かりはない、人が住んでいないのだろうか?ルーミアはそう思うがこんな所に家がある珍しさと住む人間がいることを考えると人間じゃないものが、面白交じりに住んでるのではと思う。
そう考えると、自分と同じ妖怪で力もそれなりに強いものを想像する。
だけどそれは思っただけにすぎない。
――――家に誰かがいれば食べ物があるってことで、ご飯をもらえるってことだよね。
ルーミアにとってそこに誰がいようと訪ねてみるには十分な興味と空腹、そして先まで探していた条件にこれほど見合うものはなかった。
だからここに決めた。
もし同じ妖怪が住んでいるのならご飯を食べさせてとお願いすればいい。
もし違う人間が住んでいるのならばご飯をちょうだいと頼めばいい。
断られたら「おなかすいた!」ともう一度言えばいい。
そうやってルーミアは自分の気持ちを正直に伝える、子供のように、羞恥も、自尊も声に出す、純粋な思想。
彼女は子供だった。
子供のような妖怪だ。
――――ご飯をくれなきゃ、いたずらするのだーと抱きついて驚かしてやろう
そう思うとルーミアはまずは家の中が見える窓辺へと近づいた。
窓はカーテンが開けられているが、部屋の中は暗くほとんど何も見えない。
窓の近くには写真立てが裏面に裏を向いておいてあるのだけが分かった。
――――やっぱり誰か住んでるみたいだ
そう思うとより窓際に近づき、今度は窓をたたいて見ようかと、思った時だ。





自身の足元から鮮い青光が広がり始めた。



それはルーミアを包み、地に円上の絵を描き、光の線を放ち書きつづる。
ルーミアはそれを始め奇麗な円陣だと思うと同時に、それが自分によからぬことをもたらすものだと瞬時に理解する。
「あっ…」と言葉を繋ぎ、放つ時にはその足もとに書かれる円には模様の様な、術式が組み上げられていた。
そしてそれを見ると同時、自身の体が柔らかく崩れていくことを知る。
ルーミアは先の自分の考えを思い出す。
―――――そうだよね、こんな森に普通の人間が住んでるわけがないはずだ。此処は魔法の森、ならもしこの家に住んでいる者がいるとするのならば……



「人の家に来る時はちゃんと扉から来るもんだぜ」



崩れかかる肢体、その窓が視界から消えるときに奥で何かがかすかに動くのを視界に留めルーミアの意識はそこで眠るように落ちた。




                  ☆☆☆



柔らかい闇、
暗い闇、
優しい闇、
寂しい闇、
目覚めて見たのは何の闇?
「………お腹すいた」
「一言目はそれか」
原始的な明かりで彩られた部屋があった。ルーミアの前には炎、手持ちサイズで八角の機械みたいなそれからは、一定の炎を規則正しく噴き出している。その炎の灯りがゆらゆらとルーミアの闇をうごめかす。
そしてその闇にうごめく影は二つあった
横に倒れたルーミアのそばで、座ったままに揺れる影。
金のフェーブした髪が炎の明かりで赤く見える、今は寝間着なせいか下着だけの服の隣に乱雑に置かれた黒の衣装と大きな帽子。
ルーミアは知っていた、この特徴的な髪を、
ルーミアは知っていた、魔法使いの人間を、
ルーミアは知っていた、この少女を、
「勝手に人の家をのぞくからこうなるんだ」
霧雨 魔理沙は―――口元を歪ませた笑みを向けルーミアの額に指をあてた。




「まあ玄関からノックをしても、夜は家に近づくだけで魔法が発動するんだけどな」
ルーミアと魔理沙の瞳があう、金色の瞳をルーミアは捉える。
「意味ないじゃん、それ」
「意味はある、で、どうしてお前はここにきたんだ?」
瞳をのぞかれる、魔理沙の金の瞳が炎に揺れて見える、自身の心を見透かされているようだとルーミアは思う。現に魔理沙はそうルーミアに説いた。
何かを隠してるのではないか。
なんでこんな夜更けに魔理沙は、―――私の家に来たのか?と心に浮かべる。
それは人間である、彼女だから浮かべる考えだった
妖怪である、ルーミアがなぜこのような時間に、しかも自分の家を訪れたのか、見知った人物であれ、不信を魔理沙は抱いたのだ
だがそんな魔理沙の疑問も妖怪であるルーミアには至極単純な答えでしかなかった。
「おなか減ってて、ご飯を食べさせてほしいの」
「それで私の家を襲いに来たのか?」
「違うよ、お願いしに来たんだよ」
それを証明するのかの様にお腹の虫がちょうどよく泣く。
その音に魔理沙は少し笑った。
「妖怪が食べ物を貰いにくるなんて、ハロフィンの前倒しだ」
「ハロフィン?」
「おかしを上げなきゃ、お前みたいのがいたずらしに来るのさ」
「それは素晴らしい日なのだ」
ならそのハロフィンと呼ばれる日に、今度は目いっぱいのおかしを貰いに人間の里にいってみたいとルーミアは思った。
――――悪戯されたくなければお菓子をよこせ!って言うだけなんて夢のようだ、それはいつなのかな、いつもらえるのかな。
消えては浮かぶ、お菓子の数々、それを想像し、味を思うだけでルーミアの頬が緩んでいく。
「おっ?こいつは……教えなきゃよかったかもしれない情報だったかな、まっいいや、それより、この私に飯をたかりに来るとはお前も添え恐ろしいことをしに来たものだぜ」
お菓子のことを想像して先までの話を一時脱線するも、ご飯という言葉にルーミアは倒した体をピンと起こし反応する。
「ご飯!」
「おぉっ、水に打ち上げられた魚が跳ねたぜ。」
「食べさせてください!」
「えーと、どうしよっかなあ……」
そこで魔理沙は目をそらし口元をルーミアには見えないよう、含み歪ます
天性のいたずら心がこの状況に彼女のなかでくすぐられる。
「お腹すいたのだ……」
「お腹すいても、妖怪は死なないだろ?」
「お腹がすいて動けない……」
「ぅーん、私もあまり持ちが少ないし…」
「ご飯くれなきゃいたずらしちゃうよ!」
「それはハロフィンでもなんでもなく、脅しだぜ?」
そこまで言うと、ルーミアの瞳も悲しく揺らぐ
少しからかい過ぎたと魔理沙は思う。
――――そろそろかな。


「けち……」
ルーミアがそう小さく紡ぐと同時に彼女の前に、一つの皿を用意した。
「えっ?」
「寝てる時からそんだけ腹の虫がなってりゃ、人間情けを与えたくなるもんだぜ、ほら遠慮せずに食べろ」
ルーミアが訪れてからここに運ぶまで、魔理沙はルーミアがお腹を空かせていたことには気づいていた、ただ彼女も見知ってはいるとはいえ妖怪である
空腹にまかせて自分を襲いに来たのではと魔理沙は一瞬の不信を持ったが、それも杞憂だった。
ルーミアは子供のようだった。
お腹がすいたから私の元にねだりに今も見るその表情は、一喜一憂、一悲一鬱、ひとつ一つにその気持ちをころころ表わす
弾幕ごっこを行う程度でしかルーミアを知らない魔理沙は、そんなふうに彼女が笑ったり悲しんだりすることを知らなかった。
自分の気持ちを正直に表せるその表情、言葉
普段、自分勝手に生きてるつもりである自分でさえも、そこまでの無垢な心を持ち合わせてはいないだろうと魔理沙は思うのだ
だからそんな彼女をみて「かわいいから、いじめたくなったんだよ、悪い」と魔理沙も初めてその口元に純粋な笑みを浮かべた
それから突然の来訪者をもてなすように準備にかかった
「いっ――――いただきます!」
目を輝かせながら彼女は私に抱きつくように、されどその手にもった皿は落とさぬように
突然の来訪者である彼女
彼女が来てくれたおかげで、先までの『あの思考』も脱ぐいされるようだと、その幼い少女をみて、静かに窓辺から、魔理沙は明るい月をみた。




                 ☆☆☆




「そしてごちそうさまでしたー」
「まったく良く食うぜ……明日買出しに行けばいいと思ったが、食糧がほとんど無くなったな…、一回だけじゃ荷物持てないぜ」
「そーなの?」
「食べた代価として、明日は荷物持ちだ」
「わー」
ルーミアは食べ終わった食器を横にごろごろと寝転がり魔理沙の隣につく。
ひさびさのご飯だった、あまりの満足感と幸福感に自然と私服の声が漏れる
おいしかった。
すごくおいしかった。いつぶりだろう、あんなにおいしいご飯を食べたのは、いつも自然にある山菜やら木の実、獣を焼く以外の調理しかししなく、調味料も持ち合わせないため、ご飯も味気ない。
だけどこうして人に食べさせてもらったご飯は、いつもでは食べれない、多くの味を楽しめる。
だから食べれば食べるだけ、幸せになれる。
笑顔がより、笑顔になる。
そして、何よりもうれしかったのは
「誰かとご飯食べたの久し振り」
「私はつまむ程度にしか食べてないけどな」
魔理沙は私が食べる間、どこから持ち出したのかコハク色の瓶の酒をゆっくりと飲んでいた、度数が強いのか、魔理沙は舐めるようにそのお酒を飲んでいた
「日本酒も好きだけど、たまにはこういうのも悪くない」
誰かとこうして向かい合いながらご飯を食べるのは楽しかった
いつも空腹を満たすだけのご飯も、今日はおいしく
それでいてこうして話すこともできる、誰かと一緒は楽しいことだとルーミアは知っていた。
たまに遊ぶ、湖にいるちょっと変わった妖精たち、私と同じで森のどこかにいるホタルの妖怪、最近屋台を始めたという夜雀の妖怪
多くはないけどルーミアはその者たちを友達と思っている
一緒にいて楽しいから
気づけば一緒に遊んでいた、手に入れたお菓子も一緒に分け合って食べたりもした、その時のお菓子はいつもよりも格別においしかった
そして今もこうしておいしく感じる。
「ありがとう」
だからお礼を言う。
ご飯を食べさせてくれて。
そして一緒にいてくれて。
「そりゃ、どういたしまして」
二つの意味をこめてルーミアはいうも、魔理沙にそれが伝わったかは魔理沙本人にしかわからない。
魔理沙はやはりその口元をニヒルに歪ませ笑むだけだ。
だけど笑っている、その笑みをみると自然にルーミアもうれしくなり、魔理沙の腰に手をまわして抱きついてみた。
「うおっ!?ついに私も食べられるのか?」
「えへへ、楽しいからこうしてみただけ」
「とんだ、恥ずかしだぜ……」
魔理沙は、手持ちぶたさになったのか手に持った小さな杯をあおる。
「妖怪ってのは、みんなこうもスキンシップが好きなもんなのか、あの吸血鬼も霊夢に負けてから神社に訪れるようになったしなあ」
――――まっ…私はあいつに勝てなかったんだけど
彼女の顔を脳裏に思い浮かべる。
自分の友人、博霊の巫女、彼女は私の越えられなかった壁を越えた、負けたくないと超えてみせると常に心では思ってもそれを先に越えるのはいつも彼女。
「吸血鬼?」
そしてルーミアはそんな魔理沙の内を知らずに、彼女の言葉で浮かぶものがあった「そういえば、魔理沙とあったのもあの、吸血鬼事件がはじめてだったね」
ルーミアはうれしそうに言う。
「うん…?あぁ…そういえば、そうだな」
あの日のことを思い出すと浮かぶのは負けたことだけだったが、気づいてみればそれは目の前にいる彼女との初めての対面であったのだと魔理沙は思う。
「あの時もたしかご飯を探してうろうろしてたのを、面白い人間みつけたーって声をかけたけど―――」
「急いでたから、瞬殺で倒されたんだよな」
「きゃー」
ルーミアはその時の再演のようにやられた振りをする。
それを見て魔理沙は笑った。
夜は更ける。




「さて」
だがそんな戯れもおしまいの時間がきた。
魔理沙は酒で火照った体を起き上がらせ、八卦炉へと手を伸ばす
「もう夜は遅いが、お前はどうする?今日は明かりの燃料もないから研究せずに寝ようと思うが」
なんだかんだでルーミアの登場により、八卦炉を灯り代わりに長く使ってしまった。
魔力の貯蓄を必要とするため、あまり出し惜しみを控えたかったが、まあこんなのもたまには悪くないかなと魔理沙は火照る思考で思う。
「うーん」
ルーミアはその頭を横に傾け悩んでいる。このまま魔理沙の家を後にしてもいいけど、このあとやることも特に思い浮かばない、この部屋は火の熱で温かくなってるが外にでれば寒い夜風がきっと体を冷やすだろう。
どうする?と聞かれてもルーミアにはここを後にするくらいの選択肢しか浮かぶものがない。
「………」
そんな悩むルーミアをみて魔理沙はふと思った。
「なあ……今日このまま泊まっていくか?」
それは何でもない一言でいったはずだった。
「えっいいの?」
ルーミアもその言葉に驚きはするがすぐにうれしそうに同意をした。



               ☆☆☆



家が洋風であるため、寝どこも布団でなくベッドである。
だが一人暮らしである魔理沙の家にベッドは一つしかない。
ベッドには体を合わせるように布団の中、少女が二人寄り添った。
それほど大きくもない、そうでもしないと互いがはみ出してしまう。
「あったかい」とルーミアはそう呟く。
「お前はすこし冷たいな」頬を少し染めた魔理沙がそうルーミアよりも小さく呟いた。
ワンピースを脱いで下着だけになったルーミアの太ももまでの感触が、自分の地肌に直接触れる、こうして誰かとくっついて寝たことは魔理沙にとって初めてのことであった。
自分で誘ってきながらも少しの恥ずかしさを感じる。
だけど、そう思う感情と同時に彼女の小さな足や手が触れるたびにくすぐったさや、言いようのない安心感を感じた、それはルーミアも同じなのか彼女の腕が私の腕に抱きつかれるようにある。
「さあ、私は明日も早いんだ。お前も朝は食べた分だけ働いてもらうぜ」
「うーん、わかった」
まだ眠くはないがこうして二人で寄り添ってる分、寝る選択肢しかないことをルーミアは思うとその両の眼をゆっくりと閉じる。
「おやすみ、魔理沙」
「お休み、ルーミア」
そうして視界は真っ暗になった。



                  ☆☆☆


楽しかった。
こんなに楽しかった夜はひさしぶりだと、闇の中でルーミアは思った。
夜に誰かとこうして一緒に話すのも、一緒にご飯を食べるのも、一緒に笑い合うことも。
夜はいつも一人ぶらぶらと面白いことがないかを探すが何もない毎日だった。
友達とは、日が昇った時に遊んでいた。物がよく見える朝の方が遊ぶにも効率が良いからだ。
夕時になれば皆、ばらばらの場所に帰っていく。またねと手を振り、別れを惜しみながら最後まで皆が消えていくのをいつも最後まで見送った。
だから夜はいつも一人だった。
被せた布団を抱きしめ口元まで持っていき笑みを浮かべる。
今日は一人じゃない。
この溢れる充福感を噛み締めながら意識はまどろんでいく。
そんな時に、一つの音が聞こえた。
それは小さく悲しい声。



「……ック……グス……」
隣から聞こえる。か細く、この静かな夜でしか聞こえない小さな泣き声。
「魔理沙?」
「…ッ…違うぜ」
 ルーミアが何かを言う前に魔理沙は、否定の言葉を返す。
 背中を向けた魔理沙が今どんな状態かは分からない。だけど聞こえたその静かな泣き声を、ルーミアの耳は確かに捕らえたのだ。
「泣いてるの?」
「泣いてないぜ」
嘘、と思い。ルーミアは背中合わせになった魔理沙へと体を向けなおす。暗闇で見えないそこには、ルーミアよりも大きな背中が見える。
 大きな背中、だけどその背は小さく見えた。なぜだろう?そう思い手を差し伸べて気付く。



―――――あぁ、震えている。



 手が触れた瞬間、魔理沙の体が大きく揺れた。
「魔理沙?」
「………」
反応がない、だけど声は聞こえているはずなのだ。



「―――――」
ルーミアはそんな魔理沙の態度に一度逡巡し、すぐに何をするべきか考えが浮かんだ。
静かに――――物言わぬ魔理沙へと手を伸ばし、その背中を抱きしめた。



肌と肌が触れ合い密着する。先よりも魔理沙の体が大きく震えたのが分かる。魔理沙の温かさが腕に伝わる。小さな鼓動が重なり合う。
あったかい、柔らかくて、温もりがあって、それでいて寂しげな背中。
 その後ろ姿には見覚えがあった。
それは誰かと話したくて、だけど誰と話せばいいか分からなく戸惑った時。
 ふいに見た景色に、誰もいなく自分が一人だと気付く時。
 一緒に遊んだ友達とお別れの挨拶をした時。そしてその後ろ姿を一人で見送った時。
胸が締め付けられるような切なさ。


 一人で見る月。
 満点の星空。
 黒で塗りつぶした視界。
静寂が支配する世界でルーミアはそれを知っていた。
いつも夜は一人な彼女だから知っていた。
そういえば、今日の魔理沙はどこか遠い目をしていた。いつもの彼女ならその瞳に負けない、輝いた明るさを見せてくれる。だけど今日の彼女は、いつもと同じ明るさと優しさを見せるが、その輝きはルーミアの知る魔理沙の笑顔ではなかった。
どこか儚さを含んだ。乾いた笑み。
その瞳の奥は何を写していたのか――――。

気付けば手を握り返す感触があったことをルーミアは気付いた。
ルーミアよりも大きな手、だけどその手は彼女の小さな手を求めるように強く握り返してくれる。
ルーミアもそれに強く答えるように魔理沙の細い、華奢な手を握り返す。
「………たまに…な…」
そうしていると薄明るい闇の中、涙に震えた声が聞こえた。



「一人でいると……ふいに夜が怖くなることがあるんだ…」
それは、少女が初めての恋を明かす様な拙い告白。
「夜の暗闇の中で……静かで何も音がしない中で、こうしてベッドの布団の中にいると思うんだ。自分は何のために生きているんだろうなって…
私は、魔法使いに憧れて家を飛び出して今を生きてきたつもりだ。誰にも負けない魔女になって、誰にも真似出来ないような、みんなからすごいと思われる魔法を使いたいと思って、今を生きてきたつもりだ……。
だけど、それを求めて私は本当に自分が望む者になれるのかなって思うんだ…。
魔法を知れば知るほど私よりもすごい魔法使いはたくさんいる…、研究を私よりも多く重ねて、今の私なんかじゃ決して……たどり着けないような場所にいる奴等だっている。自分とは違う……才能をもった奴だっている。
そんな奴をみるとさ、………ヒッ…グ…私…本当に魔法使いになりたかったのか分からなくなるんだ。
単に、家柄から逃げたくて………魔法って言うなんでも叶えてくれる、夢物語を信じたかっただけじゃないのかっ……てぇ…、それがふいに思い浮かぶのが恐いんだ……
自分は…ッ…何をしたくて今をいるのか…
どうありたいのか…
ちゃんとした答えなんてないってのは分かっているさ、
だけど……そんな自分を思い浮かべると……恐いんだ…
こんな、何もできない自分を誰かがあざ笑っているんじゃないかって。一人では何も出来ない魔法使いきどりを自分はしているのではないかって……」
「――――…」
積を切った様に魔理沙は語る。
「そんな事ばかり思うとさ、一人でいる自分がたまらなく寂しくなる…
 こんな夜に、一人でいるのは実は自分一人だけで、世界は私を置いて消えてしまったんじゃないかって……そう思うんだ。」
世界は自分一人しか思えない夜があって、
その夜は決して明けない様な気がして、
それはすごく寂しいけど、だけどどこかそれに安堵してしまう自分がいて
だけどそれでも明けない夜はなくて――――
魔理沙はもう溢れる涙を隠し止めることは無かった。語る内にそれは徐々に勢いを増し、声からでも分かるように彼女は泣いているのだろう。
ルーミアは知っている。
闇は全てを包み込んでくれることを、
孤独も、
不安も、
寂しさも、
闇は一人の自分を常に守ってくれる。
優しい夜。
だけどそれは結局、一人であることを常に感じさせる物なのだと。
寂しくないと思った心は常に誰かを求めていて、
不安なんてないと嘘巻いたモノは、日の明るさにいつかはかき消されて
一人で大丈夫と呟いた言葉は、闇の中で木霊する。
それら全てを知っているから。
闇を操る程度の能力を持つ、妖怪だからこそルーミアは知っているから。
その小さな腕で、ルーミアは魔理沙の気持ちに答えたかった。
「夜ってさ不思議だね」
「……?」
「毎日訪れるモノなのに、夜って暗かったり、明るかったり。その時によって、夜の闇が優しく感じたり、恐く感じたり、できるんだもの。」
――――一人は嫌だ、心が冷たくなるから。誰かと一緒にいたい、その方が暖かいから。
 「今日の夜は、明るい夜だね。お月様が満月で外が見えるくらいに明るい夜。月が綺麗でそれいでいて何かを考えたくなるような夜。」
――――夜は平等に私たちの心を満たしていく。
染めていく。
そして想うんだ。



 「こういう夜はどうすればいいか私、知ってるよ。」
  そういってルーミアは、魔理沙の体から手をほどき、だけど繋いだ手は離さずに
「誰かと一緒にお月様を見ればいいんだよ」と柔らかく笑った。
「一度でいいの」とルーミアは言った。「一緒に見よ」
 ルーミアは体を起こし、魔理沙の頭元へと足を運ぶ、魔理沙は泣き顔を見られたくないのか、顔をそらし、それに習うように体を起こす。並ぶようにベッドの窓辺、差し込む明かりを共に見上げる。
下着越しで肌寒い体に二人で一つの布団に包まる。
夜の空は綺麗だった。
幾千の星が空を縦横無尽に散りばめる。大きな光、小さな光、それら一つ一つは弱い光かも知れない、だがそれが集まることで、夜の空を明るく染め上げる。
 そしてそれら全てを明るく照らす満月。
見慣れた空、だけど、どこか神秘的な光景。
「綺麗だね」
「あ……あぁ…」
「こうして二人で見る夜なら恐くないね」
「……あぁ、だけどこれが何か?」
「今、私と魔理沙は同じ気持ちだよ、この夜空を、お月様を見て綺麗と一緒に思って、不安になる事や、寂しくなる気持ちを一緒に感じているの。」
 誰かと一緒に見る夜空、不安や寂しさを詰め込んだ思いも、二人なら安心する。
「こうして二人でお月様を見てね、その時の事を忘れないで欲しいんだ。二人で見た夜は同じモノを見て、共感して、そこにはきっと同じ思うものがあった事を。綺麗で、だけど寂しい…って思える夜があった事を。それは魔理沙だけが感じた闇じゃないって事を忘れないで」
 夜は誰にも訪れるもので、
 闇は誰にも平等に、優しく、残酷に心を包み込むけど、決してそれは一人じゃないって、こうして二人で見たことを、魔理沙に忘れないでもらいたい。
 世界に一人しかいないと思うことはあるけれど
その一人の世界は、数え切れないほどある内の一つだということを
 震え握り締めた手は決して離れず、空を見ていたことを
 いつか思い出してほしい。
 ――――二人で見た世界は、綺麗に切なく、あなたと一緒だったと言うことを。



はっ――――と魔理沙の息を呑む音が聞こえた。
ルーミアが魔理沙を抱きしめたのだ。
強く、ツヨク、二つの鼓動が重なるのが分かる。
魔理沙の濡れた瞳に視線を合わせる。どこか怯えた様で、それでいて、柔らかな瞳。
「今日、魔理沙と一緒に夜を過ごせて、本当に楽しかったよ、ご飯も一緒に食べて、一緒にお話しできて、一緒に寝ることができて、すごく、すごく嬉しかった。」
零れる言葉は流星の様にキラキラ輝いて。
「魔理沙と一緒にすごせてよかった。」
月光に照らされる優しい光の様に、ルーミアは笑う。
その言葉に、思い溢れる感情が湧き上がる。
伝えきれない思い、感情、だけど
「………ありがとう」
言わずにいられない、言葉があった。
ポロポロと、いつもは見せない大粒の涙は、月光に染まり綺麗で、そんな魔理沙はその一瞬を写すほどに美しい―――綺麗な泣き顔だった。
「うん」
そんな彼女を見ていたら、目元が熱くなるのをルーミアは感じた。
それは同じ感情を抱いた彼女と、今を共にしたいと思う、ルーミアが求めた思いだったのか――――思い巡る感情はうまい言葉が思いつかない。
だけど




そこには笑い、泣きながら
楽しそうで
どこか切なくて



夜空を見上げる少女達だけがいた。
それが幻想の夜。




少女達が生きる世界は、幻想的で、夢見たいで、美しく、毎日が楽しい場所だけど。
過去を思い、辛く泣きたいと思うことも時にはある。
そういう時は思い出して欲しい



いつか見た、
夜空に思いを自由に馳せた。
あの二人だけの秘密の夜を。



私たちだけの夜を。




Free night
ACDMANのFree Starを聞いて思いつきました。
切ない思いが伝われば幸いです。
ニトラス生命保険
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1.90奇声を発する程度の能力削除
>自然と私服の声が漏れる
至福?
しんみりした雰囲気がお話の全体に出ていて良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
雰囲気のあるお話しでした。
夜になるとネガティブな思考が強くなるのは人間であれば当たり前、
特に十代前半の年頃の少女が周囲に人の暮らさない森で生きていれば尚更でしょう。
自分もまた急激な成長を遂げているということに気付くのはずっと後になるのでしょうね。

…魔理沙もその年で自分で考え独自に星属性の魔法を生み出すなど、
研究分野で生きていく難しさを知る私からすれば充分過ぎるほど才能家と思ってしまいますがw
7.100名前が無い程度の能力削除
綺麗でホントに絵本みたいなあったかさ
いつも元気なイメージのある二人だからこそ映える、良いお話でした
9.100名前が無い程度の能力削除
切なさと温かさが包まれまた良いお話でした。
こういうお話好きです。