ある朝に稗田阿求は「今日、眠ったら私は目覚めないな」とはっきり予感した。準備は兼ねてよりできていたから滞りは無く、家人に挨拶をして、友人に挨拶をして、その他付き合いのあった人妖などと挨拶をして、まったく完全にその行脚を終えた頃合いが黄昏時だった。
それでもう阿求の方でも覚悟を決めるのは飽き飽きしたくらいなので、えいやと眠りに落ちてみると、また朝なのである。そして「今日、眠ったら私は目覚めないな」という予感だけがはっきりとある。だから仕方なくもう一度、家人と友人とその他のまあまあ仲の良かった人妖連中にさよならを告げてやって、今度こそと言う気分で最期の床についた。
そしてまた朝である。例の予感だけが天啓のようにはっきりある。それで「ははあ」と阿求は移り気な夢の支配者のことを思い出し、こんな悪夢で私を痛ぶっているのだと、これが夢の中である痕跡を探してみた。
しかしそれがどこにも無い。全くこれは現実だと言わざるを得ない。そもそも夢の支配者はそんな風にいち人間を痛ぶったりしない。
だから仕方なく阿求はまた例の行脚をやって、黄昏て、寝た。朝が来る。予感である。馬鹿にしている。だが憤るにも相手がいない。
こうなるともう阿求の方も意地になって例のやつをやる。寝る。起きる。畜生めだ。
「ああ……いや、そうだわね」
まったく馬鹿げていたのは、誰がこんな風に自分の死ぬ日を予め思い知って、サッパリした最期を迎えるものだろう?
そう得心してから阿求は一日、誰にも会わず、挨拶などもっての外で、悠々自適を満喫しようと決めた。
それからのことは誰にも知れない。まさにそのようにしようと決めたのである。ただし少なくとも、黄昏時の少し過ぎくらいに、彼女は満足して眠りについたのは間違いがなさそうである。
それでもう阿求の方でも覚悟を決めるのは飽き飽きしたくらいなので、えいやと眠りに落ちてみると、また朝なのである。そして「今日、眠ったら私は目覚めないな」という予感だけがはっきりとある。だから仕方なくもう一度、家人と友人とその他のまあまあ仲の良かった人妖連中にさよならを告げてやって、今度こそと言う気分で最期の床についた。
そしてまた朝である。例の予感だけが天啓のようにはっきりある。それで「ははあ」と阿求は移り気な夢の支配者のことを思い出し、こんな悪夢で私を痛ぶっているのだと、これが夢の中である痕跡を探してみた。
しかしそれがどこにも無い。全くこれは現実だと言わざるを得ない。そもそも夢の支配者はそんな風にいち人間を痛ぶったりしない。
だから仕方なく阿求はまた例の行脚をやって、黄昏て、寝た。朝が来る。予感である。馬鹿にしている。だが憤るにも相手がいない。
こうなるともう阿求の方も意地になって例のやつをやる。寝る。起きる。畜生めだ。
「ああ……いや、そうだわね」
まったく馬鹿げていたのは、誰がこんな風に自分の死ぬ日を予め思い知って、サッパリした最期を迎えるものだろう?
そう得心してから阿求は一日、誰にも会わず、挨拶などもっての外で、悠々自適を満喫しようと決めた。
それからのことは誰にも知れない。まさにそのようにしようと決めたのである。ただし少なくとも、黄昏時の少し過ぎくらいに、彼女は満足して眠りについたのは間違いがなさそうである。
最後は色々考えさせられますが、これが阿求の最期なら、満足した気分で逝けたのは良かったのか否か
私も眠ったら明日は仕事なんですが、願わくば思いがけず休日であって欲しいです。
不思議な話なのにどこか投げやりでいい具合に肩の力を抜いたお話でした
死期は本質的に予感できないものと悟る転換とその直後に示唆される死の現実の描写に星新一『処刑』を思い起こすものがあります
次回作も期待しております。