「霊夢は妖怪退治をする癖に、妖怪に好かれすぎてる気がするな」
梅雨が明けた頃、流行に乗り遅れた雨雲から逃れようと博麗神社に飛び込んできた魔理沙が、霊夢に注いでもらった茶をしげしげと覗き込みながら呟いた。
びしょ濡れだった服はとっくに脱ぎ捨て、今は霊夢の寝間着に身を包んでいる。
「そうかしら?考えたこともないわ」
魔理沙の服を土間に干し終えた霊夢が、居間に戻りながら答えた。
座布団を魔理沙の向かいに敷いて座り、急須から自分の分の茶を注ぐ。
「なら考えてみな。お前に日頃からよく話しかけてくる連中の中に、人間がどれだけいる?」
魔理沙は自分の茶を飲み干してから、茶菓子の饅頭に手を伸ばした。
霊夢は空になった魔理沙の茶碗におかわりを注ぎながら、最近のことを思い出してみる。
悲しいかな、どう記憶を絞ってみても、思い出せる顔は、魔理沙以外どれも妖怪ばかりであった。
「確かにここ一週間の中ではあんたくらいだけど・・・」
霊夢は魔理沙が意地悪く笑うのを見て、反論を付け加えた。
「何も用がないのにわざわざ神社まで登ってくる人間なんて、そうそういないでしょう。仕方のない事だわ」
「人間はそうかも知れない。じゃあ妖怪はどうだ?」
魔理沙は自分が意地の悪い言い方をしているのを自覚していたが、その上で霊夢が人間らしく拗ねる様子を期待して続けた。
「ただでさえ妖怪退治が得意な事で有名な巫女の下に、わざわざ自分からやってくる妖怪なんて、普通に考えたらいないだろう」
「だけど霊夢。人間に比べて、妖怪はどれくらい来ているんだ?」
霊夢は魔理沙の意地悪い光をたたえた視線から目を逸らし、手元のお茶へと落とした。
「そんなの・・・たくさんいたけど」
「そうだろ?霊夢は妖怪に好かれてる事が証明された訳だ」
魔理沙は堪えきれなくなって、けらけらと笑った。
しかし魔理沙が一番面白いのは自分の指摘が正しかった事ではなく、指摘された霊夢のなんとも可愛げのある姿だった。
悔しさと切なさがない交ぜになった少女の表情は、魔理沙の意地悪心を大変満足させてくれた。
とはいえ、このままでは霊夢を落ち込ませるだけで、今はよくても後々の魔理沙にとって快い事態にはならないだろうから、少し励ましを加えることにした。
「私が思うに、力の強い妖怪は自分と張り合える程に強い人間が大好きになるんだ。だから霊夢の下に妖怪ばかりが集まるとして、それは偏にみんな霊夢と話をしたり、あるいは一緒にいたいと思うからなのさ」
霊夢は疑わしげに見つめながら「それなら、あんたも妖怪から大人気って事ね」と言うと、魔理沙はキョトンとして、それからしみじみと言った。
「確かにそうだが、私は最近、妖怪に片足突っ込んできてるからなぁ」
「ふぅん。それじゃあ、私がそんな妖怪じみてきた魔理沙を退治したらどうなるの?」
魔理沙は、今度は大きく口をあけて笑った。
「そんな事は考えるだけ無駄だぜ、霊夢」
「退治なんてされるまでもなく、私はお前が大好きだからな」
自分の質問をどう受け取ったのか。
思いがけない突然の告白に、霊夢はしばらく閉口して頬を赤らめ、すぐにそれを隠すようにそっぽを向いて口を尖らせた。
「馬鹿にしないでよ。聞こえのいい事ばかり言うんだから、あんたって」
魔理沙はそんな霊夢を愛おしそうに見つめた。
その間にも外の雨は勢いを増しており、二人のいる空間をざあざあという雨音で満たしていた。
服はまだまだ乾かないだろうし、乾いた所でこのまま帰ればまた濡れ鼠だ。
魔理沙は(これもお天道様の計らいかな)などと考えながら、上体を霊夢の方へと乗り出した。
「なぁ、霊夢。私が本当に霊夢の事が好きなのか、それともただ聞こえのいい嘘をついてるだけなのかは置くとして」
するりと、両手を霊夢の手に重ねる。
驚いて離れようとする霊夢を、しかし魔理沙は逃がさなかった。
「今日は泊めて貰えないかな?霊夢」
雨が屋根を打つ音だけがしばらく続いた後、霊夢は伏し目がちに頷いた。
梅雨が明けた頃、流行に乗り遅れた雨雲から逃れようと博麗神社に飛び込んできた魔理沙が、霊夢に注いでもらった茶をしげしげと覗き込みながら呟いた。
びしょ濡れだった服はとっくに脱ぎ捨て、今は霊夢の寝間着に身を包んでいる。
「そうかしら?考えたこともないわ」
魔理沙の服を土間に干し終えた霊夢が、居間に戻りながら答えた。
座布団を魔理沙の向かいに敷いて座り、急須から自分の分の茶を注ぐ。
「なら考えてみな。お前に日頃からよく話しかけてくる連中の中に、人間がどれだけいる?」
魔理沙は自分の茶を飲み干してから、茶菓子の饅頭に手を伸ばした。
霊夢は空になった魔理沙の茶碗におかわりを注ぎながら、最近のことを思い出してみる。
悲しいかな、どう記憶を絞ってみても、思い出せる顔は、魔理沙以外どれも妖怪ばかりであった。
「確かにここ一週間の中ではあんたくらいだけど・・・」
霊夢は魔理沙が意地悪く笑うのを見て、反論を付け加えた。
「何も用がないのにわざわざ神社まで登ってくる人間なんて、そうそういないでしょう。仕方のない事だわ」
「人間はそうかも知れない。じゃあ妖怪はどうだ?」
魔理沙は自分が意地の悪い言い方をしているのを自覚していたが、その上で霊夢が人間らしく拗ねる様子を期待して続けた。
「ただでさえ妖怪退治が得意な事で有名な巫女の下に、わざわざ自分からやってくる妖怪なんて、普通に考えたらいないだろう」
「だけど霊夢。人間に比べて、妖怪はどれくらい来ているんだ?」
霊夢は魔理沙の意地悪い光をたたえた視線から目を逸らし、手元のお茶へと落とした。
「そんなの・・・たくさんいたけど」
「そうだろ?霊夢は妖怪に好かれてる事が証明された訳だ」
魔理沙は堪えきれなくなって、けらけらと笑った。
しかし魔理沙が一番面白いのは自分の指摘が正しかった事ではなく、指摘された霊夢のなんとも可愛げのある姿だった。
悔しさと切なさがない交ぜになった少女の表情は、魔理沙の意地悪心を大変満足させてくれた。
とはいえ、このままでは霊夢を落ち込ませるだけで、今はよくても後々の魔理沙にとって快い事態にはならないだろうから、少し励ましを加えることにした。
「私が思うに、力の強い妖怪は自分と張り合える程に強い人間が大好きになるんだ。だから霊夢の下に妖怪ばかりが集まるとして、それは偏にみんな霊夢と話をしたり、あるいは一緒にいたいと思うからなのさ」
霊夢は疑わしげに見つめながら「それなら、あんたも妖怪から大人気って事ね」と言うと、魔理沙はキョトンとして、それからしみじみと言った。
「確かにそうだが、私は最近、妖怪に片足突っ込んできてるからなぁ」
「ふぅん。それじゃあ、私がそんな妖怪じみてきた魔理沙を退治したらどうなるの?」
魔理沙は、今度は大きく口をあけて笑った。
「そんな事は考えるだけ無駄だぜ、霊夢」
「退治なんてされるまでもなく、私はお前が大好きだからな」
自分の質問をどう受け取ったのか。
思いがけない突然の告白に、霊夢はしばらく閉口して頬を赤らめ、すぐにそれを隠すようにそっぽを向いて口を尖らせた。
「馬鹿にしないでよ。聞こえのいい事ばかり言うんだから、あんたって」
魔理沙はそんな霊夢を愛おしそうに見つめた。
その間にも外の雨は勢いを増しており、二人のいる空間をざあざあという雨音で満たしていた。
服はまだまだ乾かないだろうし、乾いた所でこのまま帰ればまた濡れ鼠だ。
魔理沙は(これもお天道様の計らいかな)などと考えながら、上体を霊夢の方へと乗り出した。
「なぁ、霊夢。私が本当に霊夢の事が好きなのか、それともただ聞こえのいい嘘をついてるだけなのかは置くとして」
するりと、両手を霊夢の手に重ねる。
驚いて離れようとする霊夢を、しかし魔理沙は逃がさなかった。
「今日は泊めて貰えないかな?霊夢」
雨が屋根を打つ音だけがしばらく続いた後、霊夢は伏し目がちに頷いた。
しかし二人とも可愛いのぅ
人妖違えど二人には一緒にいてほしいです。
面白かったです。