皆さんこんにちは。博麗霊夢です。
暑かったり寒かったりで体調崩しやすい昨今、いかがお過ごしでしょうか。
……やめ、こんなのキャラじゃないわ。変に言葉遣い変えると周りから変な眼で見られるしね。どこぞの魔法使いとかスキマとか。何より面倒。うん、いい言葉よね、面倒。これだけで全てが片付くのだから。
っと、違う、現実逃避してる場合じゃない。
目の前にいる、こいつを何とかしなきゃいけないのよね。
「ねえ、さとり?」
「何でしょうか」
古明地さとり。地底の、地霊殿の主。最近はなぜか神社が博麗神社が動物園のごとき扱いを受けている元凶の元凶。元凶はもちろんこいつのペットである。
こいつのペット筆頭である化猫とバ鴉は、このところ高頻度で地上に……というか、うちにやってくる。まあ私としても地底の妖怪がむやみやたらと人里に出ていくよりはうちで留まってくれるほうがマシと言えばマシなんだけど……いい加減人間の訪問者、もとい参拝者がほしい。魔理沙や早苗とか? あれはただの騒動の原因よ。
違う、また話が脱線してるわね。現実見なさいよ、私。
「ええそうですね。そろそろ反応していただけると助かります」
「……ああそうか、あんた心読めたんだっけ。あまり来ないから忘れてたわ」
「本当に忘れていたようですね……いえ、別にかまいません。これからまた思い出していただくことにはならないと思うので」
「は? 何のこと……いやいいわ、これ以上話ずれるのも嫌だし。とりあえず、何なの、“それ”は?」
“それ”を指差す。
私の指の先には、金具が付いた輪っか。うん、どこからどうみても、
「ええ、首輪ですよ」
やっぱりか。
首輪。犬やら猫やら、ペットにつけるあれだ。首輪があったら飼われていて、そうじゃなかったら野良。区別のために用いられる道具。最近では衣服みたいに“ふぁっしょん”感覚で選ばれたりするらしいけど。……よくわからん。
で、その首輪をさとりが持っているのは別におかしくない。さとりには多くの――無数の、と言い換えても問題がないくらいの――ペットが存在する。そいつらが一斉にどっか行ったら探すの面倒そうだし、野良との区別のためにはまあ必要なのかもしれない。……あれ、お燐やらおくうやらって首輪付けてたっけ? そもそも妖怪に首輪って必要ないような……。
「ええまあ必要ないですね。これは霊夢をペットにしようと考えた時に用意したものですので」
「ああ成程ね。今すぐ処分しなさい」
「嫌です」
こんの見た目幼女め……殴られた。いてえ。
しかし、私をペットに、ねえ。んなことして何が楽しいのかわからないし、わかりたくもないのだけれど、これだけははっきりさせておきたい。
「なんでしょうか」
「あんたさ、その首輪、要は私につけるつもりだったんでしょ?」
「そうですが」
「じゃあなんであんたがその首輪身につけてんのよ?」
~~古明地さとりは博麗霊夢をペットにしたい(はず)~~
「いけませんか?」
「いやいやおかしいわよね? あんた私をペットにするって言ってたわよね?」
「なってくれるんですか?」
「ならないわよ!」
「まあそうでしょうね。私は地底に住む妖怪ですが、地上の人間の考え方を完全に無視するというわけではありませんので、その辺は察します」
「察する云々にそもそも私をペットにしようとすること自体間違ってる」
このありがたい巫女さんをペットにするとは片腹痛いわ。つーかそんなことしたら紫が黙ってないだろうし、地霊殿潰されるわよ?
「紫……ああ、あの妖怪ですか。やはり信用しているのですね」
「信用っていうか、そうなることが予想できるってぐらいだけどさ」
博麗だし。私がどっかに偏ったなんて聞いたら私ごとそいつら全滅させそうなんだけど。それから次の博麗を選出すれば、あいつからしたら問題は何もなさそうよね。
「私からしたら大問題なんですが」
そうかしら? あいつの最優先事項はどこまで行っても幻想郷だから。普段は飄々としてても、やるときゃやるわよ。確かに普段はふらふらしたりちょっかい掛けてきたり服の中に手を突っ込んできたり入浴中に乱入してきたり布団に侵入してきたりするけど。ああいうのって、相手を油断させるための行動なのかしら。いつもちゃらんぽらんな風にしてたら警戒するどころか呆れるかもしれないし。私はあんまり真正直に受け取ってはいないけど。
「………………」
……ありゃ、いつの間にかさとりが不機嫌になってるぞ。何、お茶美味しくなかった?
「いえ、霊夢がいれてくれたというだけでとても美味しいですが。それはともかくとして、あの妖怪と仲いいんですね?」
「良いのかしら? どっちかっつーと私が弄られてるだけな気がするんだけど」
風呂場では「背中流してあげるわあ」と母親のごとく接するかと思えば、いきなり「全然大きくなってないのねえ」と胸をもみながら言ってくるし(しかも鼻血が出る)。
布団の中では母親のごとく子守歌を歌うかと思えば抱き締められたり足絡められたりキスされそうになったりするし(しかも息が荒い)。
そのたびに私はやつを殴り飛ばしているわけで……ああ、そうやってくっついてくる程度には仲がいいってこと? でもそれくらい魔理沙にアリスに早苗に咲夜にレミリアに萃香に文に依姉に豊姉に……ああ、あんたのペットもか。結構やってくるんだけど。鬱陶しいことこの上ない。
「……いえ、気づいてないならいいんです。ちょっと不憫ですが」
「何が?」
それについては答えてくれなかったけど、少しは機嫌を直してくれたようだ。小声でぶつぶつペットへの粛清を企てていたのが怖かった。
「で、結局なんであんたが首輪付けてんの?」
「ああ、そういえばそんな話もありましたね。これはですね、霊夢はどうせすぐペットになってくれるはずがないじゃないですか。だから、まずは私が霊夢のペットになってみようかと思いまして」
「“だから”に至るまでの過程を説明してくれないかしら」
私をペットにできないから私のペットになる。理解できない。
「ですから、ペットにするということは、極端な話、支配するということじゃないですか。だから代わりに支配されてみようと」
「いやもっと意味不明なんだけど」
「はあ……巫女は人の話を聞かないというのは知っていましたがここまでとは……」
「理解できない話をするあんたに言われたかないわい」
相手にするのが面倒になってきたので、ずずず、とお茶を飲む。美味しい。
「無視しないでください。ちゃんと説明しますから」
怒られた。というより懇願された。暑い(というか熱い。でも厚くはない)から抱きついてこないでほしい。こら膝にまたがろうとするな。
「むう……お燐やおくうばかりずるいです。私をかわいがってくれてもいいじゃないですか」
「いやあいつら膝に乗ってくるのは動物になってる状態だけで……って、何? あいつらが羨ましいからペットになろうとしてんの?」
「羨ましくなんかないです。ただちょっと妬ましいだけです」
「似たようなもんだろうが」
というかそれはとあるキャラの鉄板ネタだからやめておきなさい。
「で、霊夢は私をペットにしてくれるんですよね?」
「しねえよ! どうしたら結論がそうなんのよ!?」
「ほら、私かわいいじゃないですか」
「自分でかわいい言うな!」
こいつ、ホントいい性格してるわ……
「ありがとうございます。よく言われます」
褒めてねえし。
結局、この日は境内の掃除をする暇もなく、さとりとの「ペットにしてください」「断る」の応酬だけで終わってしまった。
仕方ないのでさとりに夕食をふるまうことにした。頭のネジが吹き飛ぶか溶解しているかのどちらかな覚り妖怪を招き入れるのはどうかと思ったが……まあ何とかなるでしょ。いざとなったら夢想封印ぶちこみゃいいだけだし。
今日の夕飯はご飯とみそ汁、焼き魚にホウレンソウの和え物、あと漬物。
地底の妖怪の口に合うかは分からなかったが、実際出してみると意外と好評だった。笑顔で箸を進めるさとりを見ているとこちらもつい笑顔になってしまう。料理にしろ何にしろ、喜んでくれるのはなんだかんだで嬉しい。口を開くたびに「料理上手ですね。ペットにしてください」と言ってくるのには辟易しつつあったが。
そして、お風呂。ここで問題が発生した。て言うか現在進行形で発生中。
「霊夢って肌きれいなんですね……」
「ええいすり寄るな! 背中洗うのに自分の体使うやつがあるか!」
さっきも話したように、私と風呂に入ると背中を洗うと見せかけていろいろとちょっかい掛けてくる奴は多い。それを警戒して先に風呂に入ってもらったのだが……私の番になったら案の定乱入してきやがった。迎撃してやろうかと思ったら秘蔵の酒をちらつかせてくる始末。人質ならぬ酒質である。あまりにも卑怯すぎるでしょう。
とはいえ、お酒を盾にされては首を縦に振る以外に選択肢はなく。仕方ないので背中を洗ってもらうことにした。その結果が今のこれである。先に前を洗っておいてよかった。もし前を洗ってなかったらどうなってたか……。
「もちろん私が洗いましたよ? ええそりゃもう隅々までねっとりと。ああ! なんなら今からでも私が……」
「んな気づかいいらんわ! あんたは自分の体だけ洗ってりゃいいのよ!」
「ええっ! 霊夢が洗ってくれるんじゃないんですか!? 隅々までねっとりと! ペットなんですよ私!」
「するか馬鹿! あんたをペットにした覚えなんざこれっぽっちも無いわッ!」
ええいやっぱり疲れるわこいつの相手! 紫達並みに厄介だ!
その後、いきなり変なとこ触られたり襲われそうになったけど突如乱入してきた妹やらペットやらによってなんとか事なきを得た。こいつら一体どこに潜んでたんだ。スキマみたいなものから覗いているんだろうか?
深夜。
風呂に乱入してきた古明地一家も、なし崩し的にうちに泊まっていくことになった。貞操の危機から救ってくれたことはありがたいが、ぶっちゃけ目が性犯罪者のそれなんで、一難去ってまた一難といった状況である。というか今回のほうがよりやばい予感がする。
で、件の性犯罪者はというと。
「……………………」
般若もかくや、というものすごい形相で妹達を睨んでいた。ハンカチを噛み千切りながら。
「いやー危なかったね。お姉ちゃんが家にいないから、まさかと思って急いで出てきたら案の定だったよ」
「さとり様ずるい! 霊夢は私のなんだから!」
「いやいやおくういきなり何言って……ああでもお姉さん、冗談抜きにあたい飼ってみない?」
「あなた達いい加減にしなさい。私は姉ですよ? 私が優先されるに決まってるじゃないですか」
「私からすればあんたら全員アウトだ」
全員ジトッと睨んでくるが、知ったことではない。つーかこいつらがセーフだったら紫達全員がセーフになってしまう。そうなっては私の安息の時間が未来永劫失われる。それだけは断じて避けなければならないのだ。
「霊夢冷たーい」
「お姉さん、あたいはペットとして合格だろ? ほら、あたい猫だし」
「うにゅ、お燐がいいなら私も! 私だって鳥だよ! 鴉だけど」
「動物だろうが人型だろうが妖怪は片っ端から全て却下に決まっとるわ!」
『それなら人間は大丈夫ですよね!』
「人間も無いわい! 盗聴なんかのために奇跡使うな!」
ぜーはーぜーはー。くそう、今日は一日突っ込んでばかりだわ……。
「そんな、霊夢ったら……突っ込むなんて卑猥な……」
「ベタなボケ方するんじゃないわよ!」
くそう、こいつら危険度激高に違いない……! 阿求に頼んで変態一家として掲載してもらおう。
「あふ……」
やばい、欠伸出てきた。今日は疲れたからなあ……ちょっと危険だけど、寝てしまおう。
「「「「うふふふ……」」」」
ぞくっとした。あいつらまたなんか企んでやがる。
仕方ない、疲れて睡眠時間延びるけど、強固な結界を張っときますか。
それじゃあお休みなさい。
朝起きたら部屋がボロボロになっていた。そしてその周りには倒れ伏した古明地一家。布団周辺は結界のおかげで異常なし。
全員叩き起こして理由を聞いてみたところ、あまりの結界の強固さに痺れを切らしたおくうがペタフレアをぶちかまそうとし、必死になって止めた結果だという。
その日の朝食は鳥の唐揚げだった。
月の方々までいらっしゃってんですか!
あぁ、霊夢に安息の時間はないのだろうかw
落ち無し──唐揚げダヨネ? 断じて『空』揚げじゃナイヨネ?
意味無し──愛される事に意味などいらない。それが霊夢なのだから。
甘さ無し──これほどの変態達を結局は許容する、神の如き霊夢の優しさという意味の甘さ。
タグに虚偽記載をしている以外は直す所など見当たらぬ!
創想話に来る楽しみが、また一つ増えました。
この部分について詳しく頼みm
ヤマ無し──ヤマメ
落ち無し──キスメ=釣瓶落とし
意味無し──パルスィ…「みんなが忌み嫌う力」(にとり談)忌み≒意味
甘さ無し──勇儀姉さんのお酒は実は辛口なの(←情報ソース無し)
あ、それと空揚げもありみたいですよ。普通に変換候補で出てきますし。
>タグ:エロくはない
ダウト!
>暑い(というか熱い。でも厚くはない)
うまいこと言った!
さあ、早くとよねえとよっちゃんに甘やかされる霊夢の話を……!