「え?将来の夢?」
ここは、私の住居こと博麗神社。
陽光の差し込む昼下がり、縁側でお茶を飲みながらのほほんとしていたら、旧友である霧雨魔理沙が箒に跨って飛んできた。
いつもどおり駄弁りに来たのだろうと思ったら、いきなり突飛な質問をされた。
「そう。お前の将来の夢、教えてくれよ」
「急に何言い出してんのよ。なにかあったの?」
「何もないから暇なんだよ」
暇なのは結構だが、私を巻き込むのはやめてほしいところだ。
「なによそれ。ただのあんたの暇つぶしじゃない」
「そう言うなって。どうせすることもないんだろ?」
もし私が手が離せない用をしていたらどうするというのか。
まぁ別に何かあるわけでもないのだが。
「なぁ、いいだろー?たまにはそういう話をしてもさぁ」
「・・・はぁ。別にいいわよ。つまらなくても文句言わないでよ?」
「わかったわかった。分かったからさぁ言え!」
ホントに分かってるのかコイツは。
若干の不安を覚えつつ、私は思案する。私の夢・・・ねぇ。
・・・え?私の夢?・・・ないんだけど。
魔理沙がニコニコしながら返答を待っている。
一度言った手前、引き下がることもできず、私は今考えた事をそのまま言った。
「・・・平凡?」
「平凡って」
「それ以外ないわよ。いつもどおりに神社の掃除して、お茶飲んで。呑んで駄弁って退治するわ」
「じゃあ、毎日こんなふうに過ごしてるだけでいいのか?」
「ええ。それ以上に望むことなんてあまりないわ」
「えぇー。欲のない奴だなぁ。そんなんじゃ幸せはつかめないぜ?」
露骨に不満そうな顔する魔理沙。だから最初につまらないって言ったじゃない。
そもそもこんな殺風景な神社に定住してるのだから、大層な夢なんて持ちようがない。
「なんだよー。もっと面白い夢を期待してたのにー」
「勝手に期待して勝手に落胆しないでよ・・・」
自己中にも程がある。
っていうか面白い夢ってなんだ。最初から笑う気満々だったのかよ。
「子供の頃とか思ったりしなかったか?大妖怪になりたい!とか」
「多分、妖怪になりたいと思ってたのはアンタだけだけどね・・・」
「いやいや、昔はよくやったもんだよ、妖怪ゴッコ。本物が来た時には焦ったけどな」
本物の妖怪って。なにげに命の危機である。
「っていうか」
「ん?」
「アンタの夢こそなんなのよ」
「あー・・・私かぁ。昔はたくさんあったけど」
「へぇ。どんなの?」
「○○君のお嫁さんになる!とか、幻想郷の誰よりも強くなる!とか。色々と夢見がちだったぜ」
将来の夢はお嫁さんねぇ。なかなかに可愛いじゃない。
まぁ夢見がちなのは今でも変わってないと思うが。
「昔は分かったわ。で、今はどんななのよ」
「今?そうだなぁ・・・」
考え込み始める魔理沙。うんうん唸っている。
自分から話を振っておいて、自分の意見を持っていないというのは流石の魔理沙である。
「魔法の森に住み始めてから、男は興味なくなったけど。基本変わらないぜ」
「幻想郷最強とか?」
「そう。紫も萃香もレミリアも、全員ぶっ飛ばす。それだけは昔からずっと変わってない」
どこまでも無邪気な笑顔のまま言い切る魔理沙。
その目は輝いていて、子供の頃から変わってないという事を示していた。
「いつまでも子供の心のまま・・・ねぇ。羨ましい限りね」
「なんだよ。イヤミ言ってんのか?」
「いえ。私も歳をとったなぁ、って話」
夢なんていつかは廃れてしまう。
理想と現実の差に気づいて、実現なんて出来ないと悟ってしまう。
それを思うと、子供の頃から夢の変わらない純粋な魔理沙がとても眩しく見えた。
「もう歳って言っても、霊夢も十分夢見がちだろ?」
「えっ?」
「だってさぁ。毎日平凡に暮らすのが夢ってそうそういないぜ?実現も難しいし」
「でも、つまらない夢じゃない」
「その日常が欲しいけど手に入らない奴なんてごまんといるんだ。つまらないなんて言うなよ」
いつになく真面目な顔で語る魔理沙。
・・・私が夢見がちかぁ。そんなこと言われると思わなかったし、そう思ったこともなかった。
でも、魔理沙にそれを言われると、なぜか納得してしまった。
「さって。もう日も暮れてくるし、私は帰るかな!」
「え?ちょっ・・・」
「じゃーな、霊夢!また来るぜ!」
そう言った途端、箒に飛び乗り、圧倒的な速度で飛んでいった。
「・・・ふぅ。行っちゃった。結局何が言いたかったのよ」
言いたいことだけ言って帰って行く。その傍若無人な態度に思わず苦笑する。
・・・まぁいいや。それも私の日常というものだ。
「さてと・・・夕飯の支度しなくちゃ」
私は少し上機嫌で、神社の中に帰っていった。
いつもどおりの日常を満喫するために。
次回作にも期待。
ただ、最低限文章を書くときのルールを守った方がいいと思います。
本人は気がついてないけど実はすでに叶っている、そんな些細な日常の会話が面白かったです。
魔理沙はどこまでも真っ直ぐだなあ。
今後の作品を楽しみにさせていただく意味で、今回はこの点数にさせてください。m(_ _)m