蝉の鳴き声がうるさい、うだるような暑さのある日。
いつものように魔理沙が僕の店に遊びに来た。
当人は「何か出物がないか探しに来た」とは言っているが
どう考えても暑さ凌ぎを兼ねての冷やかしだろう。
最もここのところは来客もなかったので暇つぶしにはなるかと思い
麦茶でも用意してやろうとおもったその時。
「なあ香霖。そこの棚に置いてあるのはなんだ?」
魔理沙が指さした先には白鳥を模した白磁のティーポットがあった。
先日、無縁塚で出向いた折に拾ったもので
年季の割には傷も少なく、むしろその古びてくすんだ白さが
何ともいえない味を出しているように見えた。
僕の店で取り扱う商品としては、やや優美に過ぎるようにも
感じたが、こういったものが好きな顧客のあてがないわけでもない。
「ちょっと見せてくれよ。昨日ティーポットを割っちゃってさ」
「いいけど、手荒に扱わないでくれよ」
僕の手元に置いておくには不釣り合いな品物なので
売るに吝かではないのだが。まだ値段を決めていないのだ。
このティーポットで紅茶を淹れる魔理沙を想像すると
なかなか様になっているようにも思えた。
しかし、彼女の手の届く金額にするとなるといくらぐらいだろうか。
商売人を名乗る以上、それなりの値段をつけたいのだが。
そもそも彼女がお茶を淹れるとして、このティーポットと並べられるような
カップを持っていたかどうか。
それも何か見繕ってやった方がいいのだろうか。
「・・・蓋が開かないんだけど」
声を掛けられて、考え事をうち切って魔理沙の方に目をやると
顔を赤くしながら蓋を引っ張っている。
僕が考え事をしている間に随分と苦戦していたのだろう。
勿論、僕が手入れをした際はそんな事はなかった。
蓋が開かないティーポットなど全く用を成さない。
そんなものを店に並べてどうして売れようか。
魔理沙からティーポットを受け取ると蓋を持ち上げた。
拍子抜けするほど、あっさりと蓋が持ち上がった。
「これ、開けるのに何かコツみたいのってあるの?」
「コツもなにも、蓋なんて持ち上げるだけだろう・・・」
彼女がもう一度試してみると言うので、試してもらったところ
耳まで真っ赤にして引っ張っているが、蓋が持ち上がる様子はない。
その後、魔理沙と二人で色々と試したのだが、僕が蓋を持ち上げる分には
すんなりと持ち上がる。
ところが魔理沙が蓋を開けようとすると、どうやっても開かないのだ。
ティーポットを逆さまにしてまで蓋を外そうとしたが、蓋が落ちる事はなかった。
こうなると、恐らくこのティーポットは持ち手を選ぶ道具なのだろう。
神話に謳われるような剣や、伝説にある指輪のように。
持ち手を選ぶティーポット、というのは些か滑稽にも感じるが
ティーポットにだって持ち手を選ぶ権利がないわけではない。
この白鳥は、自分が仕えるに値する主を探しているのだ。
結局、魔理沙は蓋が開かないんじゃ使いみちがないと言って
購入を断念して、僕と雑談をして帰っていった。
しばらくすると、ティーポット目当ての来客がちらほらと来るようになった。
恐らく、魔理沙が事の顛末を顔見知り達に喋ったのだろう。
しかも、まずい事に話しに尾鰭がついており、なんでも
真に高貴な女性でなければ使うことが出来ないという話になっていた。
レミリア・スカーレットがやってきた。
彼女はそもそもこういった白磁の類は貴族の為に作られた器で
雑器とは一線を画すものだ、貴族の手にこそふさわしい。
そういった自説を述べ、貴族らしい優雅な仕草で蓋に手を掛けた。
小一時間苦戦したが蓋が開く事はなかった。
八雲紫がやってきた。
彼女はこの器の趣ある美しさを褒め称え、この器が求めている者は
才色兼備であること、そして格が求められていると言った。
自分で言うとは相当な自信があるのだろうが、概ね間違ってはいない。
だが蓋が開く事はなく、拗ねた様な顔をして帰っていった。
西行寺幽々子とその従者がやってきた。
従者はこの器が求めているのは、女性らしい真の優しさです。
その点では、我が主こそが持ち手となるべきものだと言った。
しかし、彼女ほどの人物の手ですら蓋を開ける事は出来なかった。
ついでに皿を買っていってくれたのは、ありがたい事だと思う。
蓬莱山輝夜とその従者がやってきた。
従者は私の仕える姫こそ伝説に謳われるお姫様であり
彼女を待つ為に、白鳥は他の者に対して媚びを売ることがなかった。
そう力説して、ティーポットを姫様の手に手渡した。
残念ながら蓋は開かなかったが、かの姫君の顔を見れたのは良かった。
伊吹萃香と星熊勇儀がやってきた。
鬼の力を持ってすれば開けられない物などないと断言した。
どうも彼女達は何かを勘違いしているような気がした。
どこでどう間違ってそういう話になってしまったのだろうか。
結局二人掛かりで引っ張っても開ける事は出来なかった。
結局、多くの挑戦者が出たが、誰一人として蓋を開ける事が出来なかった。
当然買い手が付く事もなかったが、僕にしてみれば些細な問題だ。
今、僕が考えているのは、何故僕だけが蓋を開ける事が出来たのかだ。
ティーポットを手に取った女性達の顔を一人ずつ思い出してみたが
彼女達を差し置いて、僕が選ばれる要素とは何なのだろうか。
そんな事を考えながら店の前を掃除していると
店の前を通りかかった、傘を持った少女と目があった。
彼女の名前は多々良小傘。傘の付喪神だった筈だ。
意志を持った道具という事であれば、彼女もそうなので
彼女であれば何か解るかもしれない。
あるいは、あの白鳥は仲間が来てくれるのを待っていたのではないか?
そして僕は、同族に会うその日までの手入れをさせる為に選ばれた。
そう考えてみると、これまでの事も色々と納得が出来る気がした。
そうか、そういう事だったのか。
突然僕に声を掛けられた小傘は少し驚いていたようだが
僕の話を聞いて、僕の仮説を証明する為につきあってくれる事になった。
小傘はティーポットを手に取り、白鳥としばらく目を合わせていた。
彼女に蓋を持ち上げてみて欲しいと頼んだが、やはり開く事はなかった。
僕の仮説は誤っていた、ということだろうか
「君でも開けられないか。とすれば、何故僕だけ開けられるんだろう?」
「この子が探してるのは持ち手じゃなくて、つがいだからじゃないかな」
「・・・それはどういう事?」
「だってこの子、女の子だもん」
『蓋を開けてみれば、なんてことない話』とはこういう話なのだろうか。
いつものように魔理沙が僕の店に遊びに来た。
当人は「何か出物がないか探しに来た」とは言っているが
どう考えても暑さ凌ぎを兼ねての冷やかしだろう。
最もここのところは来客もなかったので暇つぶしにはなるかと思い
麦茶でも用意してやろうとおもったその時。
「なあ香霖。そこの棚に置いてあるのはなんだ?」
魔理沙が指さした先には白鳥を模した白磁のティーポットがあった。
先日、無縁塚で出向いた折に拾ったもので
年季の割には傷も少なく、むしろその古びてくすんだ白さが
何ともいえない味を出しているように見えた。
僕の店で取り扱う商品としては、やや優美に過ぎるようにも
感じたが、こういったものが好きな顧客のあてがないわけでもない。
「ちょっと見せてくれよ。昨日ティーポットを割っちゃってさ」
「いいけど、手荒に扱わないでくれよ」
僕の手元に置いておくには不釣り合いな品物なので
売るに吝かではないのだが。まだ値段を決めていないのだ。
このティーポットで紅茶を淹れる魔理沙を想像すると
なかなか様になっているようにも思えた。
しかし、彼女の手の届く金額にするとなるといくらぐらいだろうか。
商売人を名乗る以上、それなりの値段をつけたいのだが。
そもそも彼女がお茶を淹れるとして、このティーポットと並べられるような
カップを持っていたかどうか。
それも何か見繕ってやった方がいいのだろうか。
「・・・蓋が開かないんだけど」
声を掛けられて、考え事をうち切って魔理沙の方に目をやると
顔を赤くしながら蓋を引っ張っている。
僕が考え事をしている間に随分と苦戦していたのだろう。
勿論、僕が手入れをした際はそんな事はなかった。
蓋が開かないティーポットなど全く用を成さない。
そんなものを店に並べてどうして売れようか。
魔理沙からティーポットを受け取ると蓋を持ち上げた。
拍子抜けするほど、あっさりと蓋が持ち上がった。
「これ、開けるのに何かコツみたいのってあるの?」
「コツもなにも、蓋なんて持ち上げるだけだろう・・・」
彼女がもう一度試してみると言うので、試してもらったところ
耳まで真っ赤にして引っ張っているが、蓋が持ち上がる様子はない。
その後、魔理沙と二人で色々と試したのだが、僕が蓋を持ち上げる分には
すんなりと持ち上がる。
ところが魔理沙が蓋を開けようとすると、どうやっても開かないのだ。
ティーポットを逆さまにしてまで蓋を外そうとしたが、蓋が落ちる事はなかった。
こうなると、恐らくこのティーポットは持ち手を選ぶ道具なのだろう。
神話に謳われるような剣や、伝説にある指輪のように。
持ち手を選ぶティーポット、というのは些か滑稽にも感じるが
ティーポットにだって持ち手を選ぶ権利がないわけではない。
この白鳥は、自分が仕えるに値する主を探しているのだ。
結局、魔理沙は蓋が開かないんじゃ使いみちがないと言って
購入を断念して、僕と雑談をして帰っていった。
しばらくすると、ティーポット目当ての来客がちらほらと来るようになった。
恐らく、魔理沙が事の顛末を顔見知り達に喋ったのだろう。
しかも、まずい事に話しに尾鰭がついており、なんでも
真に高貴な女性でなければ使うことが出来ないという話になっていた。
レミリア・スカーレットがやってきた。
彼女はそもそもこういった白磁の類は貴族の為に作られた器で
雑器とは一線を画すものだ、貴族の手にこそふさわしい。
そういった自説を述べ、貴族らしい優雅な仕草で蓋に手を掛けた。
小一時間苦戦したが蓋が開く事はなかった。
八雲紫がやってきた。
彼女はこの器の趣ある美しさを褒め称え、この器が求めている者は
才色兼備であること、そして格が求められていると言った。
自分で言うとは相当な自信があるのだろうが、概ね間違ってはいない。
だが蓋が開く事はなく、拗ねた様な顔をして帰っていった。
西行寺幽々子とその従者がやってきた。
従者はこの器が求めているのは、女性らしい真の優しさです。
その点では、我が主こそが持ち手となるべきものだと言った。
しかし、彼女ほどの人物の手ですら蓋を開ける事は出来なかった。
ついでに皿を買っていってくれたのは、ありがたい事だと思う。
蓬莱山輝夜とその従者がやってきた。
従者は私の仕える姫こそ伝説に謳われるお姫様であり
彼女を待つ為に、白鳥は他の者に対して媚びを売ることがなかった。
そう力説して、ティーポットを姫様の手に手渡した。
残念ながら蓋は開かなかったが、かの姫君の顔を見れたのは良かった。
伊吹萃香と星熊勇儀がやってきた。
鬼の力を持ってすれば開けられない物などないと断言した。
どうも彼女達は何かを勘違いしているような気がした。
どこでどう間違ってそういう話になってしまったのだろうか。
結局二人掛かりで引っ張っても開ける事は出来なかった。
結局、多くの挑戦者が出たが、誰一人として蓋を開ける事が出来なかった。
当然買い手が付く事もなかったが、僕にしてみれば些細な問題だ。
今、僕が考えているのは、何故僕だけが蓋を開ける事が出来たのかだ。
ティーポットを手に取った女性達の顔を一人ずつ思い出してみたが
彼女達を差し置いて、僕が選ばれる要素とは何なのだろうか。
そんな事を考えながら店の前を掃除していると
店の前を通りかかった、傘を持った少女と目があった。
彼女の名前は多々良小傘。傘の付喪神だった筈だ。
意志を持った道具という事であれば、彼女もそうなので
彼女であれば何か解るかもしれない。
あるいは、あの白鳥は仲間が来てくれるのを待っていたのではないか?
そして僕は、同族に会うその日までの手入れをさせる為に選ばれた。
そう考えてみると、これまでの事も色々と納得が出来る気がした。
そうか、そういう事だったのか。
突然僕に声を掛けられた小傘は少し驚いていたようだが
僕の話を聞いて、僕の仮説を証明する為につきあってくれる事になった。
小傘はティーポットを手に取り、白鳥としばらく目を合わせていた。
彼女に蓋を持ち上げてみて欲しいと頼んだが、やはり開く事はなかった。
僕の仮説は誤っていた、ということだろうか
「君でも開けられないか。とすれば、何故僕だけ開けられるんだろう?」
「この子が探してるのは持ち手じゃなくて、つがいだからじゃないかな」
「・・・それはどういう事?」
「だってこの子、女の子だもん」
『蓋を開けてみれば、なんてことない話』とはこういう話なのだろうか。
素晴らしいです。
そうするとインパクトに欠けてしまったのでこの点で。
途中それぞれのキャラを生かして退屈させないのは良い事です
好きです
これはレミリア来る、そして失敗するwってのが分かってしまうのが良い。
オチも綺麗でグッドです。
良い感じにコンパクトにまとまっていたと思います
これは上手い
これは良いオチ
とても読みやすいです。
おもしろかったです。
鬼に引っ張られても大丈夫って、耐久性が半端じゃ無いなw
よかった
ただ男にしか開けられない、ってのは途中で読めてしまったんでこの点数で。
しかし魔理沙はなにを言いふらしていた?
とんとん拍子に話が進んで落ちるべきところにすとんと落ちた感じです。
すばらしい。
でも幻想郷の少女達の中には、開かないとなったら意地でも開けるとなりそうな連中が多々いるのでそこだけちょっと違和感かな
ということは雲山もあけられる可能性が微レ存?
ショート・ショートとして素晴らしい出来だと思います。
ただ途中で男だからなのかな? と思ってしまったのでマイナス10。
でも最後の一行がちょっと上手くてよかったです
でもよく考えてみると原作で登場する
男の数自体少ないししょうがないよね
というわけで+10点