枯葉も落ちきり、年明けも近づいてきたある日のこと。
博麗の巫女、博麗霊夢は寒さで目を覚ました。
「…さむっ」
今年一番の寒さにもなろう今日の天気は、どうやら霊夢の気分を下げるには十分すぎる代物だったらしい。
「何で毎日こんなに寒いのよ。
もう少し人が暮らしやすい気温にしてくれたっていいじゃない。」
ぶつぶつと文句を唱えつつさっさと朝食を済ませ、霊夢は緑茶と茶菓子を手に炬燵に入り込む。
こうなってしまった霊夢はよほどのことがない限り動かない。
…まぁ、本人の動く気がないので当たり前といっては当たり前なんだが…。
「こんな寒い日にここに来る物好きもいないだろうし、今日は一日中炬燵に入り浸って…」
後半の台詞はダメ人間臭がすごいが、前半の台詞はまぁ正論だろう。
寒い日は皆家の中に居たいだろうし、外に出かけるとしても、人里から離れた博麗神社まで来る程の物好きはいないだろう。
「れーいーむー!」
…ただし、例外もいる。
今日の予定(といっても別に何かをするわけでもないが)を立てていた霊夢の言葉を遮るようにして、戸を全開にして入ってきた金髪の少女。
その瞬間、霊夢は露骨に顔を顰め、恨めしげにその顔を見上げる。
「…魔理沙」
「よーっす霊夢。遊びに来たぜ。」
同じ空間にいるのにどうしてこうもテンションが違うのか。
正面にいる霊夢とは対象的に、語尾に星が付きそうなほどハイテンションでやってきた金髪の少女…霧雨魔理沙は真冬に吹く予期せぬ北風のように博霊神社にやってきた。
「なーんでアンタは人がのんびりまったりしているときに限ってやってくんのよ」
「お前がのんびりまったりしてるのなんていつものことだろ?」
「いいから早く戸を閉めなさい!寒いから!」
わかったよーと呟きながらしぶしぶといった様子で戸が閉められる。
冷気が入ってこなくなったのはいいが、今の数十秒で部屋は幾分か冷えてしまった。
「なんでこんな寒い日に出歩いてんのよ。
アンタ寒がりでしょうに。」
「んまぁそこは大丈夫だ。
ところで霊夢!お前今日が何の日か知ってるか?」
「はぁ?」
やけにハイテンションで切り出された話題に霊夢は眉を顰める。
そしてしばし考えた後、その問いに答えた。
「とてつもなく寒い日。」
「んまぁ…合ってないこともない…のか…?
って違う!今日は外の世界では”くりすます”っていうらしいぜ?」
なんだそんなことか、とでも言いたげに霊夢の顔が白けていく。
「だから何よ。
ほら、会話に付き合ってあげたんだからとっとと帰りなさい。」
いつの間にか霊夢の手は炬燵の上の蜜柑に伸びており、もう片方の手は虫を追い払うかの如く振られている。
魔理沙はそんな霊夢の態度に慣れているのか、そんなのはお構いなしに炬燵に入り込み、話を続ける。
「くりすますは”きりすと”って奴の誕生日で”ぱーてぃー”…まぁ、つまり宴会だな、をやるらしい。
ってことで霊夢!私たちもなんかやろう!」
「宴会ならやんないわよ」
図星だったのか、魔理沙が う゛ と変な声を出す。
果たして霊夢の勘が良かったのか。
はたまた魔理沙がわかりやすすぎたのか。
…まぁ、両方だとは思うが。
「ほんっとケチだな。
いいじゃんか宴会の1つや2つぐらい」
余程宴会をしたかったのか、唇を尖らせながら魔理沙が反論する。
「あんたが準備から片付けまで全部やってくれるっていうんだったらいいんだけどね。
…んで?何よその手は」
霊夢の視線の先には魔理沙の手。
そしてその手は、何かを強請るような手になっていた。
「ん?あぁ客人には茶を出してもてなすのが基本だろ?」
「アンタをもてなす気なんてないし、そもそも客人じゃないわ、迷惑人よ。」
その言葉に魔理沙はさらに唇を尖らせ、文句を言う。
こんな幼い仕草も不思議と似合ってしまうのが、この”霧雨魔理沙”という少女である。
「ちぇー。だからこの神社は参拝客が少ないんだよ。
紅魔館は出してくれるぞ?」
「あんな豪邸と一緒にするんじゃないわよ。
飲みたいんなら自分で淹れなさい。」
その言葉に魔理沙はしぶしぶ…といった様子で腰を上げた。
魔理沙が茶を淹れ、しばし静寂が訪れた。
さっきまでのアップテンポな会話とは程遠く、心なしか重く、気まずく感じるこの空気に耐えかねたのか、片方が口を開く。
以外にも、その人物は霊夢だった。
「…何。アンタが静かなんて珍しいじゃない。」
「ん…まぁちょっと昔のことを思い出したんだよ。
私とお前が出会ったのもこんな日だったなーって。」
「あぁ…確かにそういえばそうだったわね。」
言われて納得したのか、霊夢もそれを思い出すかのようにどこか遠くを見やる。
魔理沙はその日を懐かしむ様に微かに笑う。
「だろ?それから私もお前も色々成長したなぁって思ってさ。」
その表情は先程唇を尖らせ文句を垂れていた少女とはまるで別人で。
それにつられるかのように霊夢も頬を緩める。
「そうね。
私にボッコボコにされてたもんね、アンタ。」
「そこ!最後の一言いらなくないですか!?
ふつーに”そうね”だけで!
じゅーぶんいいんじゃないんでしょうかね!?」
嫌なところを突かれたのか、顔を真っ赤にし魔理沙は声を荒げる。
当の霊夢は知らん顔でのんびりと茶を啜っている。
…まぁ、こんな調子では魔理沙が声を荒げてしまうのも仕方あるまい。
「事実じゃない。」
「そうだけどさ…」
小動物のように唸る魔理沙を横目に、霊夢はもう一度茶を啜る。
もうこの話題は終わったのか、魔理沙は白い息をふっと吐き出し寒さに身を震わせる。
「しっかしまぁ、年々寒くなってくなぁ…
ちっとは暖かい日があってもいいだろうに。」
「しょうがないじゃない、冬はそういうもんよ。
…まぁ、もう少し暖かくてもいいとは思うけれど。」
だろ?とでも言わんばかりの魔理沙のドヤ顔を無視して、霊夢は一言呟く。
「…まぁ偶にはこんな日もあっていいのかしらね…」
そんな霊夢の小さな小さな声は魔理沙の耳に届くことなく、冷たい空気に溶けて消えた。
「ん?何か言ったか?」
「何でもないわ、唯の独り言よ。」
寒い寒い、外の世界で言えばクリスマスの日。
冷たい空気に体は晒されつつも、二人の体の内側は本人達も気づかないくらい少し。
だけれど確かに、じんわりと暖かくなった。
…そして、それを微笑みつつスキマから見守る大妖怪がいたとか、いなかったとか…。
博麗の巫女、博麗霊夢は寒さで目を覚ました。
「…さむっ」
今年一番の寒さにもなろう今日の天気は、どうやら霊夢の気分を下げるには十分すぎる代物だったらしい。
「何で毎日こんなに寒いのよ。
もう少し人が暮らしやすい気温にしてくれたっていいじゃない。」
ぶつぶつと文句を唱えつつさっさと朝食を済ませ、霊夢は緑茶と茶菓子を手に炬燵に入り込む。
こうなってしまった霊夢はよほどのことがない限り動かない。
…まぁ、本人の動く気がないので当たり前といっては当たり前なんだが…。
「こんな寒い日にここに来る物好きもいないだろうし、今日は一日中炬燵に入り浸って…」
後半の台詞はダメ人間臭がすごいが、前半の台詞はまぁ正論だろう。
寒い日は皆家の中に居たいだろうし、外に出かけるとしても、人里から離れた博麗神社まで来る程の物好きはいないだろう。
「れーいーむー!」
…ただし、例外もいる。
今日の予定(といっても別に何かをするわけでもないが)を立てていた霊夢の言葉を遮るようにして、戸を全開にして入ってきた金髪の少女。
その瞬間、霊夢は露骨に顔を顰め、恨めしげにその顔を見上げる。
「…魔理沙」
「よーっす霊夢。遊びに来たぜ。」
同じ空間にいるのにどうしてこうもテンションが違うのか。
正面にいる霊夢とは対象的に、語尾に星が付きそうなほどハイテンションでやってきた金髪の少女…霧雨魔理沙は真冬に吹く予期せぬ北風のように博霊神社にやってきた。
「なーんでアンタは人がのんびりまったりしているときに限ってやってくんのよ」
「お前がのんびりまったりしてるのなんていつものことだろ?」
「いいから早く戸を閉めなさい!寒いから!」
わかったよーと呟きながらしぶしぶといった様子で戸が閉められる。
冷気が入ってこなくなったのはいいが、今の数十秒で部屋は幾分か冷えてしまった。
「なんでこんな寒い日に出歩いてんのよ。
アンタ寒がりでしょうに。」
「んまぁそこは大丈夫だ。
ところで霊夢!お前今日が何の日か知ってるか?」
「はぁ?」
やけにハイテンションで切り出された話題に霊夢は眉を顰める。
そしてしばし考えた後、その問いに答えた。
「とてつもなく寒い日。」
「んまぁ…合ってないこともない…のか…?
って違う!今日は外の世界では”くりすます”っていうらしいぜ?」
なんだそんなことか、とでも言いたげに霊夢の顔が白けていく。
「だから何よ。
ほら、会話に付き合ってあげたんだからとっとと帰りなさい。」
いつの間にか霊夢の手は炬燵の上の蜜柑に伸びており、もう片方の手は虫を追い払うかの如く振られている。
魔理沙はそんな霊夢の態度に慣れているのか、そんなのはお構いなしに炬燵に入り込み、話を続ける。
「くりすますは”きりすと”って奴の誕生日で”ぱーてぃー”…まぁ、つまり宴会だな、をやるらしい。
ってことで霊夢!私たちもなんかやろう!」
「宴会ならやんないわよ」
図星だったのか、魔理沙が う゛ と変な声を出す。
果たして霊夢の勘が良かったのか。
はたまた魔理沙がわかりやすすぎたのか。
…まぁ、両方だとは思うが。
「ほんっとケチだな。
いいじゃんか宴会の1つや2つぐらい」
余程宴会をしたかったのか、唇を尖らせながら魔理沙が反論する。
「あんたが準備から片付けまで全部やってくれるっていうんだったらいいんだけどね。
…んで?何よその手は」
霊夢の視線の先には魔理沙の手。
そしてその手は、何かを強請るような手になっていた。
「ん?あぁ客人には茶を出してもてなすのが基本だろ?」
「アンタをもてなす気なんてないし、そもそも客人じゃないわ、迷惑人よ。」
その言葉に魔理沙はさらに唇を尖らせ、文句を言う。
こんな幼い仕草も不思議と似合ってしまうのが、この”霧雨魔理沙”という少女である。
「ちぇー。だからこの神社は参拝客が少ないんだよ。
紅魔館は出してくれるぞ?」
「あんな豪邸と一緒にするんじゃないわよ。
飲みたいんなら自分で淹れなさい。」
その言葉に魔理沙はしぶしぶ…といった様子で腰を上げた。
魔理沙が茶を淹れ、しばし静寂が訪れた。
さっきまでのアップテンポな会話とは程遠く、心なしか重く、気まずく感じるこの空気に耐えかねたのか、片方が口を開く。
以外にも、その人物は霊夢だった。
「…何。アンタが静かなんて珍しいじゃない。」
「ん…まぁちょっと昔のことを思い出したんだよ。
私とお前が出会ったのもこんな日だったなーって。」
「あぁ…確かにそういえばそうだったわね。」
言われて納得したのか、霊夢もそれを思い出すかのようにどこか遠くを見やる。
魔理沙はその日を懐かしむ様に微かに笑う。
「だろ?それから私もお前も色々成長したなぁって思ってさ。」
その表情は先程唇を尖らせ文句を垂れていた少女とはまるで別人で。
それにつられるかのように霊夢も頬を緩める。
「そうね。
私にボッコボコにされてたもんね、アンタ。」
「そこ!最後の一言いらなくないですか!?
ふつーに”そうね”だけで!
じゅーぶんいいんじゃないんでしょうかね!?」
嫌なところを突かれたのか、顔を真っ赤にし魔理沙は声を荒げる。
当の霊夢は知らん顔でのんびりと茶を啜っている。
…まぁ、こんな調子では魔理沙が声を荒げてしまうのも仕方あるまい。
「事実じゃない。」
「そうだけどさ…」
小動物のように唸る魔理沙を横目に、霊夢はもう一度茶を啜る。
もうこの話題は終わったのか、魔理沙は白い息をふっと吐き出し寒さに身を震わせる。
「しっかしまぁ、年々寒くなってくなぁ…
ちっとは暖かい日があってもいいだろうに。」
「しょうがないじゃない、冬はそういうもんよ。
…まぁ、もう少し暖かくてもいいとは思うけれど。」
だろ?とでも言わんばかりの魔理沙のドヤ顔を無視して、霊夢は一言呟く。
「…まぁ偶にはこんな日もあっていいのかしらね…」
そんな霊夢の小さな小さな声は魔理沙の耳に届くことなく、冷たい空気に溶けて消えた。
「ん?何か言ったか?」
「何でもないわ、唯の独り言よ。」
寒い寒い、外の世界で言えばクリスマスの日。
冷たい空気に体は晒されつつも、二人の体の内側は本人達も気づかないくらい少し。
だけれど確かに、じんわりと暖かくなった。
…そして、それを微笑みつつスキマから見守る大妖怪がいたとか、いなかったとか…。
2人の軽快なやり取りから仲の良さを感じられてよかったです