こんにちは、私の名前は古明地さとり。ここ地霊殿の主です。
珍しいお客さんであるあなたにはおもてなしをしたいところだけど、ちょっと今は……ごめんなさい。理由はですね、
「コホッ!コホッ!」
「あちゃー、完璧に風邪引いちゃったみたいですね、さとり様。」
はあ、私としたことが……情けない話です。
「熱もある。結構ヤバい感じですね……」
「さとり様…。し、死んじゃうの……?」
こっちの、心配してくれてるのがお燐。
もっと心配してくれてるのがお空。
二人は、唯一人型になれる私のペットで、食事も一緒に取ったりする。
「大丈夫。死にはしませ…ケホッケホッ。」
「さとり様!」
「…とにかく、今日一日は安静にして寝ていて下さい。」
早くも、今日は辛い一日になること確定ね。
「手分けして、看病やら料理やらしないと。」
「じゃあ私がさとり様の看病をする!」
「何言ってんだい、お空。私がやるに決まってんじゃん。」
「いやいや私だよ。」
「あたいだって。」
「私!」
「あたい!」
やれやれ、喧嘩を始めてしまった。
「ふあ~あ。おはよ~、お姉ちゃん…。ってあれ?お燐にお空。どうしたの?」
寝ぼけ眼で私の部屋に入ってきた子は私の妹、こいし。
妹といっても、私とは似ていない、活発な子。
「あ、おはようございます、こいし様。じつはかくかくしかじか。」
「なるほど。事情はわかったわ。でも、喧嘩はしちゃいけないよ。」
「「ご、ごめんなさい……。」」
この二人の素直な性格は、私はすごく気に入っている。
「ここは公平に、私が看病するわ!」
「…なるほど、それは公平です!」
「お空、流されちゃダメ!」
しかし、看病をしてもらっては風邪を移してしまうことにもなりかねない。
「私のことはいいですから。風邪、移しちゃうのも……。」
「大丈夫ですよ!」
と、お空。私の声がかき消される。
「私は烏ですから!風邪にかかったりしません!」
どういう理屈だろう。
「あたいも、猫ですし!」
「私も妹だし!」
まあそこまで言うなら無理に止める必要もないし、甘えることにする。
私が黙って目を瞑ると、黙認してくれたとみたのか、三人とも何か嬉しそうだ。
「じゃあ、一旦部屋を出て作戦会議をしよう。」
と言って、三人は部屋を出た。
少しして、こいしが戻ってきた。
「お燐とお空がご飯作ってくれるからね。」
と言い、すぐそばにある私の机の椅子を、私が寝ているベッドの横に持ってきて、それに座った。
こいしはさっきの様子とは違い、何もせず、ずっと私を見つめている。ただひたすらに。目を開けたまま寝ているのかしら。
そう思うと、私は目を瞑った。
寝て早く風邪を直そう。寝てしまうまでは考え事でもしていよう。
今日、初めて部屋に入ってきた時とはまるで別人のこいしは気にせず、自分の世界へ入っていった。
「でも。」
「私たち、お料理したことあんまりないよね。さとり様のお手伝いを少ししたことがあるくらいで。」
「大丈夫!」
「この、『犬でもできる!お料理2000』通りにつくれば、あたいたちでも美味しいものができるハズ!」
(猫や烏は、犬より賢くないと思うけどなあ。)
「え~っと、…ほら、この『風邪に効く!まほうのおかゆ』とかつくれば、さとり様も大喜び!」
(この「※睡眠作用あり」って部分気になるなあ)
「よし、決まり!早速台所に行こう!」
「あ~、待ってよお燐~。」
「ねえ、お姉ちゃん。」
静かに流れていた時に終止符をうつこいし。私は目を開けてこいしを見る。
そういえば、どれぐらいの時間が立ったのだろう。かなり長かった感じではある。
「お姉ちゃんは、なんで二人がお姉ちゃんを看病したくて喧嘩までしちゃったのか、わかる?」
え?
意外な質問だった。意外で、難しい質問だった。
何故だろう。二人はペット。私は主。そういう関係だから?
こいしは問いを残したまま再び黙してしまった。私も目を閉じた。
それからまた少しして、
「さとり様、入ります。」
お燐とお空が部屋に入ってきた。服がボロボロだけど何があったのだろう。
「お疲れ様。わあ、おかゆだね。」
と、こいし。やはり二人きりの時とは何か違うような。
「はい。お燐と協力して、なんとか完成させました。」
「ちょっと失礼して、味見させてもらうね。モグモグ……うん!美味しい!」
「ありがとうございます!」
「はい、お姉ちゃん起きて。あーん。」
それは…ちょっと恥ずかしい。けど、体を起こすのがやっとなので、
あーん…
「もうちょっと大きく開けてよ、お姉ちゃん。入らないよ。」
あーん……パク、モグモグ
「あ、美味しい……。」
「やった!あたい、すごく嬉しいです!」
「やったね、お燐!私も、さとり様に喜んで頂けたみたいで嬉しいです!」
これはお世辞などではなくて、純粋に美味しい。
どんな方法で作ったのだろう。もしかして二人には才能があるのかもしれない。
ひとしきり食べたところで、
「では、私は洗濯とかしなきゃいけないんで……失礼します。」
そういって、二人は部屋から出て行った。
「さっきの質問、覚えてるかな。あ、寝たままでいいよ。」
え……ああ、『お燐とお空が、喧嘩をしてまで私を看病したがった理由』か。
「答えは出たかな。ごくごく当たり前な答えなんだけど。」
ごくごく当たり前な答え……。
でも、私には答えることが出来ない。
「それはね、お姉ちゃんのことが好きだからだよ。」
え…?
私のことが、好きだから……?
言われてみれば、別段変わった答えではない。
「でも、お姉ちゃんは二人のこと、好きとは思ってないよね。」
「そんなことは」
こればかりには黙って聞いていた私も反論する。
するとこいしは普段よりも少し強めの口調で、
「だって、今日もお姉ちゃんの口から、『ありがとう』って言葉も聞いてないよ?」
!!!!
「風邪引いてたって、それくらい言えるよね。」
「自分の気持ちっていうのは、自分で思ってても、人には伝えなきゃわかんないんだよ?」
「家族なのに、そんなんじゃ失礼なんじゃないかな。」
こいしの言葉の一つ一つが胸に刺さる。
自分は、他人には無頓着であったが、気づかないうちにあの二人にも及んでいたなんて。
しかもあの二人はあくまでも『ペット』だと。私を信じてくれている、大切な『家族』なのに……。
涙が自然に出てくる。
「……ちょっと気になっただけなんだけど、意地悪しちゃった。ごめんね。」
謝る必要なんてない。むしろ私に大切なことを教えてくれたことに、感謝したい。そう思ってこいしを見ると……。
「…え?」
こいしはスースーと可愛らしい寝息をたてて寝ている。椅子に座ったままで。
まさか実の妹の声を間違えるはずもないし、じゃあさっきのは寝言?
よくわからないけれど、
「…こいし、ありがとう。」
そう言うと、私は急に眠くなって寝てしまった。
風邪で辛い一日だったけど、思い返せば、家族からの幸せをたくさん感じることができた一日だった。
「……こいし!?」
朝目が覚めると目の前にこいしの顔。私のベッドに入ってきていたらしい。
「あ…、熱引いてる。」
体調はすっかり良くなったみたいだ。
あのおかゆのおかげかしら。後で、二人にちゃんとお礼をしなきゃね。
もちろん、この子にも。
「こいし、朝よ。起きて。」
…スースー
呼びかけても起きない。
抱きかかえたような形になって起こしてみる。
「こいし、起きて。」
……スースー
顔を近づけてみる。
「こいし、朝よ。起きなさい。」
「さとり様~。失礼しま……」
部屋に入ってきて固まるお燐。
「え?ああ、違うの、これは……。」
「や、やだあ、お姉ちゃんったらそんな、ダイタンな…」
「し、しししし失礼しましたあ!!!」
「あああああ、待って!お燐!!ってこいし!そんなゴカイさせるような!起きてたの?!」
「えへへ。こっちだよーお姉ちゃん。」
こいしは軽いフットワークで私に抱きかかえられた状態から二秒もせすに部屋を飛び出していった。
はあぁ。
私は昨日とは違ったため息をして、こいしを追いかけるために部屋を出た。
おしまい
強いて気になる点を挙げるならば疑問符・感嘆符の使い方でしょうか。
「文章作法」で検索かければ上のほうに出てくるので参考にどうぞ。
兎にも角にも、体調を崩した時って家族のありがたみが身にしみますよね。
途中さとりを思って喧嘩している二人のやりとり読んでて笑っちゃいました。微笑ましいと言った方がいいか。
一つ気になった点。こいしの発言に対して驚嘆符?を使用しているところがありますが「」でくくっても
よかったのでは? 何か意図があるなら構いませんが…。それを踏まえた点数ということで。
しかし妹は風邪をひかないのかwww
不覚にも吹いてしまったwww