死なないで下さい。
そう言って泣きつかれたのは何時の事だっただろうか。
たしか、五十も後半になってからのことだったと思う。
魔理沙が死んで何日か過ぎた日に、土下座までして泣きついてきて
私は首を横に振って、
どこから入ってきたのか、部屋の中を小さな白い蝶が飛んでいた事だけははっきりと覚えている。
私が四十になってから、アリスは神社によく訪れるようになった。
「どうせ大した物食べてないんでしょう。」
そう言ってご飯を作っていく。
「よけいなお世話よ。」
ありがたく頂戴するのだが、売り言葉には買い言葉で返さなくてはならない気がして、
そんなことを言いながら、二人でご飯を食べた。
それからしばらくすると、アリスの作るご飯に異物が入るようになった。
気が付かないほどに小さな異物。
「今日のご飯は腕によりをかけて作ってあげたわよ。」
そんな事を言って、笑顔で私に茶碗を渡す。
一部を取り、紫に調べてもらった。
結果は健康を促すための漢方に近いものだったらしい。
それは・・・いい。別に気にするものでもなかったし。健康になるならそれは結構なことだ。
四十後半の頃、咲夜が死んだ。
能力が災いしたのか、瘴気に侵されていたのか、どちらでもあるように思えるし、どちらでもないようにも思えた。
ただ、死んだ事は事実だ。
「人間として死ぬことは咲夜の望みだったわ。」
レミリアの言葉。
「だけど、そこから先は私達の領分。」
パチュリーの言葉。
レミリアを始めとして、咲夜に近しかった者達で咲夜の肉体を食べる。
咲夜の記憶と体を手に入れるために。
そのせいで、レミリアは分かりにくいが、美鈴は髪の一束が銀色に変わってしまった。
「咲夜さんの思いを知ることが出来ましたし、一緒に居てくれるような気がするので、これで良かったんですよ。」
笑いながらそう言っていた。
その時からだろうか。アリスは毎日神社に来るようになって、
アリスが作るご飯に漢方の代わりに入るようになった。
人間を妖怪に変えてしまう薬物が。
少量なのですぐさま妖怪になってしまう事はないらしい。
それでも、少しづつ、確実に人から離れていくであろう異物。
「今日は特別に霊夢の好物を作ってあげたわよ。」
アリスが笑顔で語りかけてくる。
そんな時決まって私は言う。
「今日は他のものが食べたい。」
「他のものって、一体何よ?」
「とにかく他のものが食べたいの~。」
駄々をこねるように畳に突っ伏して手足をじたばたと振り回すと
アリスは両手を挙げて大げさにため息をついた。
「はぁ~、なんて我侭な人なのかしらね・・・いいわ、人里まで行って何か買って来てあげるから、しばらく待ってなさいよ。」
いそいそとアリスが出かける準備を始める。
普通なら怒って、「勝手にしろ。」とでも言われるところだろう。
それでもアリスはそうしなかったのは私に対して負い目を感じていたからなのかもしれない。
けれど、一番の理由は私に何かしらでも食事をさせようとしていたからだろう。
一食抜いた程度で死ぬわけでもないだろうに。
その程度でも、耐えられない事だったのかな。
「私も行くわ。」
「え?」
アリスが驚いた顔をする。
アリスを一人で行かせない理由は、買ってきた物に薬などを入れる可能性があるからだ。
変なものが入ったご飯を食べることを防ぐのに、それでは意味が無くなってしまう。
アリスの若干不満そうな顔を見ればそれを実行しようとしていたという事が分かる。
「アリスの好みと私の好みは違うんだから、まかせてなんておけないわ。」
「ふ~ん、そう、それならとりあえず服を着替えてくれないかしら。だらしない格好の人と一緒なんて恥ずかしいもの。」
「これが私の正装よ。」
寝間着姿で胸を張りながら高らかに宣言する私にアリスの態度は冷たかった。
「本気で言っているのなら、お人形さんの洋服を無理やり着せるわよ。」
どこからか大人が着れそうなサイズのフリル満載の洋服を取り出して私に突きつけてくる。目が怖い。
あわてて腋じゃない巫女服に着替えると、アリスは戸口でゴスロリ系の服を持って待っていた。
ジャージ姿とかだったら有無を言わさずに着せ替えさせようとしていたらしい。
それから、なにか、色々、言い合いをしながら二人で人里に行った気がする。
メロンが食べたい
メロンは高い
ケチ
わがまま
それじゃあ私に何を食べろっていうのよ
買わないだなんて言ってないじゃないの
買ってくれるの?
買うだなんて言ってない
どっちなのよ?
買うわよ
アリス大好き
安い言葉ね
愛してる
涙が出そうだわ
泣くほどうれしいのね
呆れているのよ
結局、
アリスは私に薬を飲ませることは出来なかった。
なのに、
どうしてアリスは笑っていたのだろう?
それからも、何回かそういう事があって、
そんな日々が続いて、
五十の頃、早苗が死んだ。
子供を六人産んで、孫も出来て、幻想郷に来て一代で大家族を作りあげたのだから大したものだと思う。
守矢神社では葬式が行われた。焼香をあげたりするのかと思ったらお酒を大量に出されて、みんなべろんべろんになるまで酔って、
騒いで、
二匹の神は叫ぶように泣いていて、
そのせいで大規模な嵐が起きて川が氾濫したりして、
葬式だか祭りだか災害だかわからないような、そんな葬式だった。
記憶の中の早苗はいつも笑顔で、異変の時も、普通の時も、落ち込んで空元気の時も、笑顔でありつづけた奴だったように思う。
実際はどうだか知らないけど、遺影の早苗も笑っているし、そうだったことにしておこう。
アリスは葬式に来なかった。
次の日、アリスが神社にやって来た。
いつもと変わらない風を装いながら、目元を腫らして。
そのまま台所でご飯を作るのかと思っていたら座っている私の目の前に立って、黒い錠剤の入った小瓶を取り出した。
私とアリスの間に瓶が置かれる。
アリスは仮面のような笑顔を張り付かせたまま何も言わない。
錠剤を受け取らずに私はただ首を横に振って、
途端にアリスは顔を歪ませて走り去っていった。
次の日もアリスはやって来た。
笑顔はない。
ご飯を作り私に出してくる。
お互いに何も喋らない。
アリスは茶碗を片付けて帰っていった。
アリスはあまり笑わなくなった。
正確に言うと、心から笑うことが少なくなった。
毎日ご飯を作って話をするのは変わらなかったけど、ずっと仮面を付けたまま。
以前は笑わなかった時に笑顔を作り、絶えずこちらに話しかけてくる。
そんなの楽しくないのに。
ねぇ、アリス
なにかしら?
メロンが食べたい
この時期にメロンなんて売ってないわよ
それじゃあ林檎、林檎が食べたい
私の作ったご飯は食べたくない?
ご飯も食べるわよ
そう、それじゃあ少し待ってなさいよ、買って来てあげるから
私も行くわよ
おばあちゃんは家で大人しくしてなさいよ
誰が婆か!
あなたじゃないの。鏡でも見せましょうか?
ベシッ
痛い
さっさと行くわよ!
ちょっと待ちなさいよ。あんたこの寒い時期に服一枚で行くつもり?
そんなもん気合で・・・ってなによこれ!?寒い、寒いわ。助けてアリス
ちょっと!!いきなり抱きつかないでよ。
その後数年経って魔理沙が死んだ。
キノコの毒だかなんだかで。
まあ、あいつらしいと言えばらしいか。
レミリアが死期を視たとかでそれを魔理沙に伝えて
で、魔理沙が死ぬときにやったことが幻想郷中を自分の弾幕で覆うことだった。
黒白の服と箒の格好で魔法の森からぐるーっと一周するように、紅魔館、三途の川、地底、人里に至るまで飛び回って
星を撒いていった。月ほどの明るさは無いけれど、きらきらと輝く無数の星。
最後に神社に来て、
「本当は魔界にも行ってやるつもりだったんだけど、」
「まあ、年には勝てないもんだな。」
そんな事を言って、ちゃぶ台に突っ伏したまま何も言わなくなった。
魔理沙が死んだ時も宴会が開かれた。
誰かが魔理沙の作った星が消えるまで宴会を続けてやろうとか言って、そのせいで三日三晩飲み続けるハメになって
酒臭いわ嘔吐物が臭いわ妖怪達がぶっ倒れるわで散々な宴会だったけど、
朝方の空一面に星が輝いているのは綺麗だった。
アリスは一度も顔を見せなかった。
アリスが神社に来たのは宴会が終わって一息着いた時。
服はいつも通りだったけど、よれていてしわが目立っていて、何日も着替えていないのだろう。
人形も従えていない。
迷子になってしまった子供のような顔で、私を見るなり飛びつくように抱きついてきて泣いた。
ああああああああああ
うわあああああああああん
掛ける言葉は見つからなかった。
どれぐらいの時間が経っていたのかはわからないけれど、日が落ちてやっとアリスが落ち着いた。
そして、居住まいを正したアリスが出してきたものは、いつか見た黒い錠剤だった。
お願いします。霊夢、どうか、どうか人間をやめて下さい
それは出来ないわ
どうして?
私は人間だもの
私だって元人間よ、他にも人間から妖怪になった人もいるわ
けど、あいつらは人として死んだわ
あなたと三人は違うじゃない
同じよ
全然違うわよ!!
・・・・・・
妖怪になったって、不死というわけではないのよ?
最近腰が痛いって言ってたじゃない。それも治るのよ?
好きなだけメロン買ってあげるから
林檎だってなんだって買うから
ねぇ、もう後継者だっているのよ?神社に居続ける必要だって無いじゃない。私の所に来ましょうよ。なんでも買ってあげる
他の妖怪のためとか、霊夢のためとか言う気は無いわ。私のために、人間をやめてよ
・・・だめよ
どうして!!
ごめん
私が、
霊夢がいないと駄目だって、そういってるんじゃない!!
好きだって言ってるのよ
好きなのよ
霊夢がいないと駄目なのよ
死なないでよ
一緒に居てよ
最初に会って、
神社にだって泊まったじゃない
霊夢が連れてきたんじゃない
だから追いかけてきたんじゃない
妖怪と人間で、一体何が変わるって言うのよ
何が悪いっていうのよ
私はそんなに悪いことをしたの?
ねぇ、答えてよ
嫌だよ
死なないでよ
好きだから
いやだよ
しんじゃやだよ
うぅ
うあああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああ
それから、
アリスは毎日神社に来て
毎日泣いた。
ご飯を作っている時も、傍にいるときも、しくしくと泣いた。
「大丈夫だ」とか適当な事を言えるわけも無い。
しくしくしく
しくしくしく
畳の上に一つ二つと染みが増えて広がっていく。
私はアリスの泣き顔を眺めているだけだった。
いつのまにか八十歳になって、それでも毎日アリスは神社にやって来ていた。
二十年以上続いていたのだから、私がアリスの泣き顔しか思い出せないのも不思議ではなかったのかもしれない。
その頃、私の体には随分とガタがきていた。
外出するどころか布団の中で一日を過ごすこともあったし、縁側に行くのにもアリスに支えてもらうことがあった。
色々とアリスの作る健康食を食べていたけれど、そう簡単に行くものでもないみたいだ。
ちなみに私が暮らしていたのは 、新しい巫女が二十歳になった時に紫に作ってもらった離れだ。
その時にも、アリスに自分の家に来ないかと言われた記憶がある。
断ったけど
それから三年後にはとうとう寝たきりの状態になって、
アリスはそんな私を見て泣いた。
人間をやめてくれと泣いて、答えない私を見てまた泣く。
しくしくしくしく
黒刻とした日常が延びて沈んでいく。
延々と降り積もって、埋もれていく。
ある日、レミリアが会いに来た。
「五年後の六月の・・・う~ん、ま、そのあたりにあなたは死ぬわ。」
それだけを言って去っていった。
いやあああああああ
悲鳴を上げたのは私ではなくアリスだ。
叫びながら私の体を押さえつけて、無理矢理薬を飲ませようとする。
抵抗する力もなく薬を飲ませられる寸前、アリスの体は地面に沈み、そのまま地面の中に消えてしまった。
地面には畳があるだけ。
「こんにちわ、霊夢。」
声のする方を見ると、そこに居たのは八雲紫だった。
紫は巫女の教育をしていて神社にいることが多かったから、レミリアが来た時からそれとなく注意を払っていたのだろう。
「アリスは?」
「家まで送って差し上げたわ。頭を少し冷やしてくれるといいのだけど。」
紫が困ったような笑みを見せる。そういえば、紫は変わらないな。形も声も、態度も、会うのは十年ぶりぐらいのはずなのに、記憶の中の姿と
まったく同じだ。私が生まれるずっと前から生きているのだからそんなものなのだろうか。
良い事か悪いことかは知らないけど。
「レミリアに五年後に死ぬって言われたわ。」
「聞いてたわ。早いでしょうけど一言、いわせてもらいます。」
「ご苦労様でした。」
お辞儀をして、真面目な顔で言われたので少し驚く。
「は~。あんたでもそんな殊勝な態度をとることがあるのね。」
「私はいつでもおしとやかな淑女ですもの。」
おほほ。と、扇で口元を隠しながら笑う。
「あなたが死んでしまったら寂しくなるでしょうね。」
「そうでもないわよ。千歳も守矢のとこのと競い合ってるらしいじゃないの。文の新聞で読んだわよ。」
千歳というのは当代の巫女の名前である。念のために言っておくと、私の子供ではない。
紫がどこかからか連れてきた赤ん坊で、毛布に包んで愛おしそうにそれを見つめる紫はそれなりに母親のようでもあった。
私に名前を付けてほしいというので、それじゃあ花子にしようと言ったらその場にいた全員に反対された。
腹が立ったので嫌味のつもりで千歳にしようと言ったら今度は全員が納得したので結局私だけが納得出来なかったりして、
まったくもって不合理なものである。
ついでにいうと、千歳について私が知っていることは多くない。すくすくと育っていったのは確かだろうけれど、千歳自身は私に会うことを
避けていたようである。私も自分から誰かに会いに行こうとするような性分ではなかったし。そんなわけで新聞の
モノクロ写真でしか顔も知らない程なのだ。
紫が言うには、他の妖怪に私と比較されることが多くて子供の頃からひねくれてしまったのだという。
「天才は影響がありすぎて後が困りますわね。どうにかしてほしいものですわ。」
そんな事を言われてもこちらのほうが困る。
とは言いつつ、それでもまぁ、ひねくれながらも精一杯に生き抜いてきたようで、
「強くは無いけど、やわな奴じゃないよ。それに赤ちゃんのときから知ってるから、愛着がある。っていうのかな、応援したく
なるんだよね。本人も頑張ってるし。」
と、今でも二週間に一、二回ほど顔を見せに来る鬼が言っていた。
そういえば、アリスは千歳とどう接しているのだろう?アリスが千歳について語るのは聞いたことが無い。明日聞いてみようかな。
そんな事を考えていると紫が話を続ける
「それでも、あなた達は特殊な存在だったもの。色々な意味でね。」
「古いのが死んで新しいのが出てくる。人の歩みなんてそんなもんでしょう。」
「そう簡単に割り切れるものでもないわ。」
笑いもせずにそう言う紫から視線をはずして天井を見つめる。
天井には染みがなくていい。
「それなら、私を妖怪にでもする?」
天井を見上げたまま問いかける。
「アリスの作った薬ならここにあるわ。」
紫が袖から取り出したのはアリスが持っていた掌の中に納まってしまうほどの小さい瓶だった。中には黒い錠剤がぎっしりと詰められている。
それを私の頭の傍に静かに置いて、ゆっくりと手を掲げて、ぱちんと指をならすとその瓶の中だけが紅く燃え上がった。
再び指を鳴らすと火は消えて、瓶の中にあった薬もきれいに消えていた。
紫と視線が重なる。
「人間には、人間としての生がある。私はそう思っているの。」
「まあ、人間八十年も生きればたいしたもんでしょう。」
「私達妖怪にとっては、人生百年では赤子同然ですのにね。」
ふぅ、と紫が軽くため息をつく。
「・・・ご苦労様ね。」
「どういたしまして。」
「あの子のこと、頼んでもいいかしら。」
「千歳の事かしら?」
ふふ、と笑いながら尋ねてくる。意地が悪い奴だ。
「わかってるくせに聞き返さないでよ。」
「そうねぇ。ただ、私がしてあげられることはあまりないわよ。自分で乗り越えられるかどうかだし、私に出来ることはせいぜい見守ることぐらいよ。」
「それでいいわよ。」
どうせ私に出来ることは何もない。
「アリスの様子を見てくるわ。もうじき目を覚ますでしょうから。」
紫が静かに扇を持ち上げると、人ひとりが通れるほどの境界が開いた。
「ええ。」
そう返す前に紫の姿は境界の中に消えていて
残ったのは空の小瓶だけだった。
「お茶が飲みたいわ。」
誰もいない部屋で小さく呟いたのに、その声は部屋の中に広く響いた。
次の日、アリスは来なかった。代わりにやって来たのは一体の人形。上海人形だ。
「シャンハーイ」
しばらく聞くことが無かった鳴き声?をあげて布団に横たわる私の体にぺたぺたと触れていく。
やがて私の体から離れると、こくこくと一人で頷いて「シャンハーイ」と言う。
多分、私の体の状態を調べていたのだろう。アリスもこんなふうにして私の体を調べることがあった。
「ホラーイ」
さらにもう一体の人形が部屋に入ってくる。蓬莱人形である。
やけにゆっくりと飛んでいると思ったら、朝食を載せたお盆を頭上に掲げていた。
そのまま私の目の前まで飛んできてお盆を掲げたままの体勢で止まる。
「クエ」
「?」
「クエ」
食べろって言ってるのか。しかしながら、お盆を置かずに掲げたままというのはなぜだろうか。
「クエ」
蓬莱に急かされるので疑問は置いておき、朝ごはんを食べる。
「まずい。」
ぺちん
上海に頭を叩かれた。正直に感想を言っただけなのに。再び頭を叩かれても嫌なので黙々とご飯を口に運ぶ。
「ご馳走様。」
私が食べ終わると、蓬莱はお盆を運んでいった。
上海はそのまま部屋に残ってこちらを見ている。
「シメルカー?」
「?」
突然話しかけられたので対応に困る。一言でしか話してくれないし。
「アケテオクカー?」
「戸の事を言ってるの?」
コクコク
上海が頭を上下に動かして頷く。別に開いててもいいけど、どうしようか。
「閉めといて。」
少し迷ったけど、閉めてもらうことにした。外では雨が降っているし、開けていても仕方が無い気がする。
戸がゆっくりと閉じていく。上海は部屋の中に居たままで、部屋をゆっくりと見渡し、しばらくすると箪笥の上に飛び上がって腰を掛けた。
そのまま何も話さなくなる。
先程まで生き生きと動いていたのが嘘のように微動だにしない。人形本来の姿としては正しいのだろうけれど。
部屋の中で聞こえるのは外の雨の音と自分の息遣いぐらいだ。
薄暗い部屋の中で、まるで自分が川底に沈む石ころになってしまったかのようで気持ちが悪い。
「ねぇ。」
声を掛けてみると、上海が箪笥の上からこちらを見下ろして少しだけ首を傾ける。
「シャンハーイ?」
「あんたは、アリスの代わり来たのよね?」
ブンブン
首を横に振った。否定してもアリスしかいないだろうに。
「アリスは今どうしてるの?」
「・・・・・・。」
返事が無い。アリスのことは話さないように命令でもされているのだろうか。
「アリスなら魔界に帰ったみたいよ。」
声とともに紫が戸を開けて部屋に入ってきた。
「どうして分かるのよ。」
素直に疑問をぶつけるが、
「逆よ。私が分からない筈ないじゃない。」
とすまし顔で返してくる。
「魔界からでも人形って操作できるの?」
「そのお人形さんが動いているのだから出来ているのでしょうね。細かい命令で動いているのかは分からないけれど、
境界を越えているのによく動かせるものだわ。」
紫が上海に笑いかけると上海が「シャンハーイ」と言った。それに対して紫が「ユカーリ」と返していたがコメントは控えさせてもらう。
「戻って来ると思う?」
「どうかしら。魔界までは監視出来ないし、ただ、その人形を置いていったのは戻る気があるからだと思うわ。」
「そう・・・。」
「そうよ。」
「そうかしら?」
「そうでしょう。」
「そうかそうか。」
「そうそう。」
「そうじゃかもしれないわ。」
「そうかもね。」
「そうなの?」
「そうなの?」
「バカジャネーノ」
個人的には「そーなのかー」と言ってほしかったが、驚くことに上海はツッコミをする機能までもっているらしい。言葉が妙に辛辣だけど気にしない。
身動きがとれないから話す事ぐらいしかできないし、今は、とにかく何でもいいから話を続けていたい気分だし。
いつのまにか雨が上がって、部屋から見える太陽が高く上った頃に紫は部屋から出て行った。
ぱたりと戸が閉められて、部屋の中には再び私と上海だけが残される。
部屋がまた暗くなる。けれど、今度は川底よりも光に照らされた水面に近い感じだ。
「上海。ちょっとこっちに来なさいよ。」
「シャンハーイ」
呼びかけると、箪笥からふよふよと飛び上がり、まるでクレーンゲームの景品のようにこちらへ飛んできた。
うん?クレーンゲームってなんだ?まあいいか。
こちらに飛んできた上海を膝に載せて抱きかかえる。感触は硬くて、どことなく冷たい
上海が血の通う生物ではなく人形であることを実感する。
結局その後は二人で話すことも無く、蓬莱が昼食を持ってくるまで上海を抱えたまま呆けていた。
人形に世話をしてもらい、たまに他の妖怪たちと話す。それがアリスが来なくなってからの大体の日常
それから四年が過ぎて、
蝉の鳴き声が途絶えた頃の晴れた朝に、アリスが神社に来た。
背後に人形達を従えて。昔に見た仮面を張り付かせて。
「霊夢、しばらくぶりね。」
「しばらく巨人?」
「今日は霊夢にお願いがあって来たの。聞いてもらえるかしら?人間をやめてもらいに来たの。簡単なお願いでしょう?」
戸の近くに立ち、自分の手と手を握り合わせて上目づかいで私を見つめる。
「せっかくのお願いだけど、断らせてもらうわ。」
そう言うと、アリスの笑みが深くなった。まるで般若の面を着けているみたいに。
「残念ながら断るという選択肢は用意していないの。」
アリスが手を少しだけ上げると人形達の目が薄く光った。
「お邪魔してもよろしいかしら?」
アリスが幻想郷に来たことが分かったのか、私とアリスの間を遮るようにして境界が開き紫が現れる。
「構わないわ。あなたでもどうしようもないのだから。」
アリスに動揺している様子はない。それどころか挑発的な笑みを浮かべている。紫を相手にしてもだいぶ自信があるみたいだ。
そういえば、昔から戦うことを嫌う奴じゃなかったっけ。
ふと気がつくと、上海と蓬莱の姿が見えない。アリスの近くにもいないし、どうしたのだろう。
「ねぇ紫?それと霊夢も。私の人形がこの数対だけだと思う?そんなわけは無いわ。私の人形達は今この神社の周辺一帯を包囲
している。その数は六十体。紫、六十体の意味が分かるかしら?なぜあなたでも手に負えないか分かるかしら?」
空を見ると、たしかに人形達の姿が見えた。普通の人形とは違い、目が紅く光っていて一体一体が自分の体ほどもある
大きな本を抱えている。けれど、数が多くても、その人形達で境界を操る妖怪に対抗できるものなのだろうか。
「ぜひとも、ご教授いただこうかしら。」
笑みを浮かべて紫が扇を開いて軽く振るうと、一体の人形の背後に境界が開き人形が飲み込まれる。
が、たしかに境界に飲み込まれたはずの人形は何事も無かったかのようにその場に在り続けていた。
「証明完了ね。あなたの境界で私の人形に干渉することは出来ないわ。説明してあげましょうか?」
「・・・お願いするわ。」
紫が、本人にしては随分と素直に折れた。それだけアリスの人形がすごいのだろうか。
アリスはそんな紫を見て、「つまんないの。」と呟き、一呼吸置いてから語り始めた。
「人形について話す前に、魔方陣について話しましょうか。普通、魔方陣というものは平面で描かれるわ。それは描くという行為が平面を対象としているから。
描かれた魔方陣は、それがどれほど複雑で優れたものであろうと平面を超えることは出来ない。そして、それは枷になるわ。
枷は鈍らせる。縛られたものは縛られた許容量でしか力を出せないもの。逆に言えば安定するとも言えるのだけどね。
それを改善するために、立体で魔方陣が組み立てられることも昔はあったらしいわ。たとえば建造物を作ったり、ピラミッドとかね。
もしくは何人もの魔女を集めて空を飛んで陣を作ったり、けれど、それには多くの資材や場所が必要になるから・・・
つまり汎用性に乏しかったというわけ。結局、立体による魔方陣を作るという発想自体が消えていってしまったらしいわ。」
「けれど。」
アリスが肩の辺りまで手首を持ち上げ、人差し指をピンと立てた。
「人形の扱いに長けている私は立体で陣を構成することが容易に出来た。言っておくけど、書物を見てから考えたんじゃないわよ。
人形による陣の立体構築を考え出してから魔界の古文書を漁ったの。あまり有用な情報はなかったけどね。
そもそも魔方陣というのは力のあるもの、悪魔やら深遠に潜むものを呼び出して力を借りる時に使うものであって、自身が有する力を
強化するために・・・と、それはどうでもいいか。結論を言うと、私は人形と糸を紡ぎ合わせてどれほど複雑な陣であろうと、
平面、立体、地上空中を問わず、一人で、一つでなく複数の陣であっても自由に作り出せるというわけ。
そして私は今一つの陣によって神社周辺の空間を完全に支配下に置いているわ。」
「私が導き出した答え。それは簡潔で完結している一つの立体。フラーレンC60。ご存じかしら?
知らないかしらね。五角形と六角形を繋いでボールのような球形に近づけた形と言っておきましょうか。そのときの点の数が六十だから
フラーレンC60と名づけられている分子の名前のことよ。魔術ではなく、科学が見つけ出した私にとって最良の立体。
強く、硬く、安定している。それでいて複雑で大きな力を行使できる。ピラミッドや四面体は安定していても
陣を大きくすると繋がりが弱くなってしまうし。大掛かりな力を扱うには単純すぎるわ。それに、球形や立方体ではそれこそ
安定しないし、効率も悪い。魔法陣は魔法陣そのものへの干渉には脆いものだから。」
アリスは目を閉じて少しだけ顔を俯かせた。
「準備には本当に苦労したわ。あなたの監視を逃れるために魔界に身を潜めて、力を持つ書物をかき集めて、素材をかき集めてね。
ああ、人形に書物を持たせているのは私の負担を少なくするためよ。私は特に「本」というものに相性が良いし、
人形の目に魔石を嵌めてコントロールしているから人形一体でも相当の力を持っているでしょうね。まぁ、個体に意味はないけれど。
ところで、いい加減あなたの式を大人しくさせてくれないかしら。それとも、私が大人しくさせてあげましょうか?」
指を軽くはじく動作をしながら紫を指差す。
アリスの話はよく分からないけど、紫が式を使ってアリスの魔法陣に干渉しようとして、それがばれたようだ。
「・・・藍、もういいわ。下がりなさい。」
紫が空間に向かって話しかける。表情は硬い。
「ねぇ」
私がアリスに話しかけると、アリスは小鳥や子猫を慈しむかのような冷たい瞳で私を見つめてきた。
「なぁに?霊夢。」
「千歳はどうしたの?」
「眠ってもらっているだけよ。言ったでしょう、空間を支配しているって。糸をたぐるよりも簡単に人を眠らせることだってできるわ。
それが永遠の眠りになるかは霊夢の返答次第ね。」
「私は、人間をやめるつもりはないわ。」
「そう、よく分かったわ。」
アリスがゆっくりと瞼を閉じる。それと同時に、アリスが左手に抱えていた本がひとりでに浮かび上がり、胸よりも少し下のあたりで止まった。
「それじゃあ、みんなで仲良く死にましょうか。」
瞬間、本が勢いよく開き、空一面が半紙のような均一な白に塗りつぶされた。
空だけでなく木々なども白く濁り、まるで白だけのモノクロ映画の中に放り込まれたような感じだ。
「アリスッ!!」
慌てた様子で紫が叫ぶ。
「いいじゃない。よく言うでしょう。みんなで死ねば恐くないとか。赤信号がどうとかって。頼んでも霊夢は人間をやめてくれないんだろうなぁ、っていう
事は分かっていたし、霊夢の意思を尊重してあげる。だから、みんなで死にましょうよ。」
うふふふふ、あはははははは
アリスがピエロのような声をあげた。
「私は、そんなこと望んでいないわよ。」
「私の願い事を聞いてくれない人の望みなんて知らないわ。」
アリスは自棄になっている。そんな事をしても何の意味も無いのに。
アリスが本のページを捲る動作をすると、空に様々な色が混ざり始めた。
色と言っても光の色ではなく、まるでチューブからひねり出した絵の具のような、原色のような赤、青、黒
それらの色が空から漏れて、ぼたり、ぼたりと混ざり合い、そのたびに群青や血のような赤黒い色が広がって空と地面を埋め尽くしていく。
私は布団に身を預けたままの状態で幻想郷が塗りつぶされていく様を眺めていた。
ふいに、目の前に境界が現れる。境界に飲み込まれる前に紫の声が聞こえた。
「霊夢、ごめんなさい。」
目の前が暗くなり、一体何をするつもりなのかと思ったが、数秒程の時間で再び境界から放り出された。
私は変わらずに布団に横たわっているし、周りの状況も変わっていない。
いや、
アリスが私を見て、目を大きく開けて固まっていた。
瞬きも、呼吸も、あらゆる生物としての行動を忘れてしまったかのように、
人形のように。
その目から一筋だけ涙が零れた。
バチン
鞭で金属を叩くような音が響き、アリスの体が崩れ落ちた。アリスの頭があった位置にはうっすらと境界の線が残っている。
「紫、一体何をしたの?」
問いかけるが紫は答えない。紫は、アリス、それから空に浮かび続ける人形達を次々に境界へ飲み込んでいき、
最後に空を侵食していた絵の具のようなものまで飲み込んでから、「はぁ~。」と大きく息を吐いた。
「紫、答えなさいよ。」
再び問いかけると、紫がゆっくりとこちらに顔を向けた。
「隙を作らせてもらったのよ。あなたを利用してね。」
それはアリスの反応を見れば分かる。
「私は何をしたのかって聞いたのよ。」
「見たほうが早いでしょうから、はい、どうぞ。」
そういって紫が渡してきたのは掌二つ分ぐらいの大きさの手鏡だ。
鏡面に自分の顔を映すと、
「何よこれ。」
一面に映っていたのは私の顔。皺も無くたるみも無い、昔の、二十代、もしかしたらそれよりも若い頃の自分の顔だった。。
空いている手で顔をさすってみると、手を伝う感触が鏡に映る顔が今の自分の顔であることを理解させた。
十年も前に色素を失くした髪も色艶のよい黒に変わり、手で梳くと抵抗もなく指が流れた。
鏡に映った手も血色の良い筋張っていない若い頃の手に変わっている。
鏡から目を離して自分の体を見下ろすと自分の体全体に同様の変化が生じていた。
「私を、妖怪にしたっていうことなの?」
「違うわ。外面を変えただけ。体は若い頃に戻っているけれど、中身はおばあちゃんのままよ。」
たしかに、体の状態は変わっていないみたいだ。立ち上がろうと力を込めても力が入らない。
それでも両足に力を込めて何とか立ち上がり、紫と向かい合った。
「おばあちゃんの姿に戻すことも出来るけど、どうする?」
境界を開きながら紫が尋ねてくる。
若返りたいと望んだことはないが、すぐにおばあちゃんに戻るのはもったいない気がする。
「・・・遠慮しておくわ。せっかくだし、死ぬまではこのまま過ごすわよ。」
「そう、それがいいかもしれないわね。」
境界が消え、少しの間紫は目を閉じて、それから再び口を開いた。
「アリスは、魔法を封じさせてもらうわ、二度とこんなことが起こらないように、永遠にね。」
「厳しいのね。」
「十分やさしいですわ。異変とはわけが違う。幻想郷そのものを破壊しようだなんて、本来なら死んでもらうところよ。」
アリスを気絶させて余裕ができたのか、境界から水筒を取り出して一杯水を飲む。
「ふぅ、とりあえず、アリスは魔法の森の家に送ったわ。人形やその他のマジックアイテムは全て預からせてもらって、
監禁はしないけど、あなたには会わせないようにするわ。」
「私が死んだら、返してあげてもいいんじゃないかしら?」
「すぐには無理ね、今日みたいに自棄になるかもしれないし、あなたが死んで、しばらくして、それからどうなるかを見てからよ。」
そうすると、アリスはあと二、三年は人間の生活が続くのか。可哀想な気もするけど、仕方が無いだろう。
紫が水筒を境界の中へ放り投げる。
「もう行くわ、千歳が大丈夫か気になるし、他に影響が生じていないかも調べないといけないから。
一通りの方がついたら、また会いましょう。」
そう言うと、身を翻して自身も境界の中に消えていった。
部屋の中に残ったのは外見だけ若返った私のみである。
私はどうしようかしら。
せっかく姿が変わったとはいえ、今の立っている状態でさえけっこうつらい。そうはいっても、また布団に戻る気にはなれないし。
久しぶりに、縁側にでも行こうか。そう思い、足を引きずるようにして部屋を出た。
なんだか、変な感じだ。いつもと変わらないはずなのに、体が動かないことがひどくもどかしい。
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
部屋を出ると、見計らった様にどこからともなく上海と蓬莱が飛んできた。アリスは気絶しているはずなのにどうして動いているのだろう。
「あんたたちは、アリスの魔力で動いてるんじゃないの?」
「・・・」
「・・・」
「それに、今までどこに行ってたのよ。」
「・・・」
「・・・」
何も返事をしない。ただの人形でもないくせに。
それにしても、一体どういう事だろう?アリス以外の誰かが動かしているのだろうか。紫に話したほうがいいのかしら?
胡乱な目で二体の人形を見ていると、不穏な気配を感じたのか上海は私の後ろに回りこんで肩を揉み始め、
蓬莱は台所のほうへ向かったかと思うとお盆に急須と茶碗を乗せて持って来た。
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
愛嬌のある掛け声まで出して、なんというか、主人に似つかず世渡りの上手い人形達である。
肩も楽だしお茶も飲めるし、しばらくはこのままでもいいか。なんて思ったりして。
縁側にたどり着いて腰を掛けると、蓬莱が慣れた動作でお茶を差し出してきた。
匂いを嗅ぐといつも淹れてくれているお茶よりもいい香りがするような。
神社には一種類しか茶葉がなかったと思うけど、体が若返っているから嗅覚が良くなったのかもしれない。
両手に茶碗を持って一口飲んでみる・・・うん、おいしい。
味覚も良くなっている。のだろうか?体の中身は変わってないって言ってたけど、五感とかは中と外できっちり分けられるわけじゃないのかしら。
それならもっと関節とかその辺も、と思うが、でもまぁこれで良いか。やっぱり人間が生きるには食事をおいしくいただくという事が大切なのね。
後はお茶に饅頭があればこわいもの無しよ。
期待の眼差しでチラチラと蓬莱を見つめる。
「コッチミンナ」
「・・・・・・」
辛辣な言葉で返された。次に上海の方へ視線を移す。きっと上海なら分かってくれる。
「貴様の首を柱に吊るしてヤロウカ。」
「・・・・・・」
あれぇ?さっきまでの接待モードは何処に行ったのかしら。肩に手を置かれながら首を吊るすとか言われると恐すぎるんですけど。
いいわよ。饅頭なんて所詮お茶の引き立たせ役にすぎないんだから。ずぞぞぞ。
おとなしくお茶を啜っていると、なぜか蓬莱が私の膝の上にもぞもぞと手足を動かして登ってきた。
お茶を用意してもらったし、たいして重くもないし、特に気にしないでおこう。そう思っていたら、
ぼすん
と、上海まで肩から私の膝の上に飛び込んでくる。別にいいけどさ。肩を揉み続けられても揉み返しが恐いし。
蓬莱を右膝に、上海は左膝に乗せて両手で抱きしめるようにかかえる。
あれ?これじゃあお茶が飲めないじゃないの。
・・・別にいいけどさ。十分堪能したし。
軽くため息をついて魔法の影響がなくなった外の景色に目を向ける。
夏を終えたといっても、外の木々はまだ生命に溢れていて、秋色に色付くものは見えない。
視線を上げると、空一面にはいつのまにか薄くて細長い雲を並べた、カーテンのような雲が広がっていた。
日は高く神社全域に光を降り注いでぽかぽかと体を温めてくれる。
それに加えて、団扇で軽く扇ぐような風が吹いてきて気持ちがいい。
なんだか眠くなってきてしまう。
「ふぁ。」
欠伸まで出てきてしまった。う~む、これはいかん。なにがいけないのかは知らないけど、どんどん瞼が落ちてくる。
体を動かせば目が覚めるだろうか。けど、膝の上には上海と蓬莱がいるし・・・うーむ。
むにゃむにゃ。
・・・ぐぅ。
・・・・・・
「あーーーーーーー!!」
大声が聞こえてきたかと思ったら突然ぐらんぐらんと体が揺れた。一体何事かと思って目を開けると、目の前には頭の両横に
角を伸ばした子供ぐらいの背の鬼、萃香が立ちはだかっていて、私の両肩を掴んで前後に揺さぶっていた。
手加減はしているのかもしれないが、はっきりいってつらい。しかも止めさせようにも体が揺れて声も出せないし。
なんとかグェ、だとかフギッだとか声を出していると、それに気づいたのか体を揺らす事を止めて
「れ、霊夢!大丈夫か!?」
と心配そうな顔で覗き込んで来た。
「大丈夫じゃないなら、それはあんたのせいよ。」
息を切らしながら答えると萃香は少しだけしゅんと顔を俯かせる。
「あぅ、ご、ごめん。・・・そ、そんなことよりも霊夢。一体全体その体はどうしたわけなのさ?」
「あ~、ちょっと待ちなさいよ。」
驚くのも不思議ではないと思うけど、息を整える時間ぐらいはもらえないと困る。
ふぅ
どうやら、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。周りを見ると空はいつのまにか夕暮れになっていて、
遠くでカラスの群れが飛んでいるのが見えた。風も肌寒いぐらいになっている。
上海と蓬莱は何をやっているんだと思ったけど姿は見えない。萃香が来たからどこかに隠れたのかもしれない。
毛布ぐらい掛けて行ってくれればいいのに。それでも、用意されていたお茶が片づけられていたのは流石というべきなのだろうか。
「霊夢?」
萃香が窺うように呼んでくる。さて、なんと説明したものだろうか。
「あ~、なんというか、今日の朝に・・・」
「あーーーーーーー!!」
話の出鼻を誰かの大声で挫かれた。その直後に目の前をまばゆい光に襲われる。
パシャリ
「霊夢さん!霊夢さんじゃないですか。どうなさったんですかその体は異変ですか事件ですか天変地異ですかニュースですか一面記事ですか
これで今年の鴉大賞は私のものですかそうですかそうですともだって近頃こんなにおもしろいじゃなかった興味深い出来事に出合えることなんて
めったにないというかないというかそれに出合えた私のなんと記者力の優れていることでしょうそうでしょうそれはともかく記者たるもの事件に
遭遇したならば記事にするのが天命至上命題存在意義というものなわけですよご存知でしょうそうでしょうそれならば私は霊夢さんに尋ねなければ
ならないでしょうはてはてさてさていかようにして霊夢さんはこのような状況に陥っているわけでございますか?」
天狗だった。勝手に写真を撮った挙句マイクを私に突き付けてくる。うぜぇ.こいつのテンションがうぜぇ。マイクを口に詰め込んで窒息させてやろうか。
話す気力は根こそぎ奪われたので一言で説明を終わらせる。
「紫に聞け」
「「えーーー!!」」
二人が非難めいた声をあげた。
「どうしてさー。教えてくれるって言ったじゃないかー。鬼は嘘が嫌いなんだぞー。」
「そうですよそうですとも霊夢さんは当事者なのでしょうそれならば霊夢さんが話してくれないとだめじゃないですかだめだめですよだめだめなのは
だめでしょうそうでしょうだから霊夢さんには話す義務と責任と権利と帰属が生じているんですよ霊夢さんが話してくれないと私は天狗の名折れ大恥赤恥
消したい過去消せない過去のトラウマを抱えてしまうことになってしまうじゃないですかそれはだめだめでしょうそうでしょうそれならやっぱり
霊夢さんが答えてくれるしかないじゃないですかお願いしますよ霊夢さんいや霊夢様もしくはあるいは霊夢殿でも霊夢たんでも構いませんええ構いません
ともむしろ霊夢さんが霊夢たんを選んでくれればネタが増えて・・・ピチューン」
うるさいので近くにいた子鬼の角を掴み首狩り投げの要領でぶつけておいた。これで静かになるだろう。
そう思っていたのだが、その一時間後には幻想郷中にビラがまかれて夜には宴会が開かれることになっていた。
その名も「博麗霊夢復活祭」。
そもそも死んでねぇから。
と抗議の声をあげる間もなく、私はいつのまにやら準備が終了していた宴会場で一番奥の席に座らされて他のやつらの晒し者にされていた。
神社周辺を埋め尽くすほど盛り上がった宴会に集まったのは一部を除いて全員妖怪。村の人に言わせると百鬼夜行みたいでたいそう気味が悪かった
らしい。まぁ、私が若返ったという時点で十分気味が悪かった事だろう。不可抗力だったということは言わせてもらってもいいと思うが。
「さあさあ、どんどん食べて飲んでくださいね。」
天狗が写真を撮りながら料理が盛りに盛られて山のようになった皿を押し付けてくる。
「いや、体の内側は老人のままなんだから、そんなに食べる気なんてしないわよ。」
「まあまあ、そんな事おっしゃらずに勢いよく、パァーっと、食べちゃってくださいよ。」
人の話聞けよ。とりあえず手元にあった箸で秘孔を突き黙らせておく。
静かになった天狗を後目に私の目の前にきたのはレミリアだ。とくに昔と変わらない姿をして、妙に自信ありげなのも変わらないが、
手首から骨董品物らしい懐中時計を鎖のようなもので繋ぎぶら下げていた。
「邪魔じゃないの?」
「何が?」
「その時計よ。」
「ああ、だって、首にぶら下げてたら犬みたいじゃない。」
そういう問題だろうか。
確かに、首に掛けてたら首輪みたいに見えるかもしれないけれど。それなら、手首にしているのは手枷なのかしら。
縛られるものが時間なのかは知らないが。
しばらくの間、二人でちびりちびりとお酒を飲んでいると
「アリスが来たんだって?」
唐突にレミリアから質問された。
「まぁ、ね。」
ばつの悪い返事を返す。
「パチュリーにでも聞いたの?」
「誰にでも分かるさ。」
「そうなの?」
「血の匂いが分かる奴ならね。」
くっくっ、と笑いながらいつのまにか手に持っていたグラスのワインに口をつける。
「血の匂いなんて誰が分かるのよ。」
「私は分かるよ。」
「あんたぐらいでしょうが。」
「ふむ、けれど、アリスが来たことは大抵の奴が知っているよ。」
「むう。」
レミリアから視線を外すと、目の前には赤ワインが置かれている。
お猪口に傾けると赤い液体が流れ出て、赤い水面に映る自分は死んでいるかのように無表情だ。
一息に飲み干すと無表情な自分を飲み込んだみたいで気持ち悪かった。
霊夢
うん?
夢はね、いつか覚めるものなんだ
?そんなの当然じゃない
知らない奴が多いのさ、霊夢も含めてね
私は知ってるわよ
それは情報として持っているだけさ
意味が分からないわ
霊夢は、夢は覚めることを知っていると言ったよね?
言ったわね
それなら
あなたはいつまで夢を見ているの?
目を開けると、私はいつもの離れにある布団に寝かされていた。
服がそのままで体が酒臭いので、昨日の宴会が夢でなかったのは確かだろう。
途中から記憶がないが、年甲斐もなく大分お酒を飲んだようで頭がガンガングラグラする。
とりあえず、水浴びでもしよう。
立ち上がれないので這い蹲って部屋から出ると
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
二体の人形が今日も元気に現れる。今までどこにいたのかという疑問は置いておき、
丁度いいからこの二体にお風呂場まで連れて行ってもらおう。
「おはよう二人とも。さっそくなんだけど、水浴びがしたいからお風呂場まで連れて行ってくれない?」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
手を挙げて返事をすると、一体は私の襟を掴み引っ張り上げ、もう一体は私のお腹のあたりに潜り込んで体を持ち上げた。
なんというか、鉄棒にお腹でぶら下がっている様な状態だ。お腹苦しい。あと服が擦れて鎖骨のあたりが痛い。
少しの辛抱だと自分に言い聞かせながらふわふわとクレーンゲームの景品のように吊られて移動していると、
一人の女性が箒を持って神社の掃除をしているのが見えた。
後姿だったから顔は分からないけれど、多分千歳だろう。そういえば、昨日は会ったんだったけ?
覚えてない。
まあいいか。
そんな事よりも今は身体の不快感を拭い去ることのほうが先決である。
そして、しばらくして着いたのはお風呂場ではなく近くにある川だった。
「ねぇ二人とも?ここは川よね。」
「ソウダネ」
「ソウダネ」
川の中央で二体が止まる。下を見るとお魚さんが元気に川を泳いでいた。
「私はお風呂場に連れて行って、って頼んだわよね。」
「ソウダネ」
「ソウダネ」
川の水が反射して自分達の体が映るのだが、こころなしかお人形さんたちの目が光り、口がフの形になっているような気がする。
「それじゃあ改めてお風呂場まで行ってくれないかしら。」
「オフロハカタヅケルノメンドイ」
「オトシタホウガハヤイ」
「やっぱりか!!早くないから!!死んじゃうから。いい?よ~く考えなさいよ。歩くことすらままならない人間にどうやって泳げっていうのよ。
5秒後には死んでる自信あるわよ!?人形に落とされて死亡とか洒落にならない、っておいお前らその人形とは思えないほどの
邪悪な微笑みをやめろーーー!!」
「ナガイジンセイ、ソンナコトモアル」
「ダイジョウブ、イシキガアルノハサイショダケダカラ」
ポイッ
あ、本当に落としやがった。畜生、負けてたまるか。
ほあああああああ
神経を集中させて体中の気を集める。
ふわり
や、やった、やったよ!私、空を浮いてるわ。もう飛べることなんてないと思ってたけど、人間死ぬ気になればなんでもできるのね。
水上5センチの位置で腕立て伏せの体勢を保ちながら宙に浮いている私。気分はタイタニックである。
「ハヨイケ」
ゴツン
悦に浸っていた私の後頭部に突如として強い衝撃が走る。
「ハヨイケ」
ガスッ
それとほぼ同時に今度は顎先に衝撃を受け、なすすべもなく意識が遠のいていく。最初は意識があるって言ってたのに。
どぼん
ごぽごぽ
「ハッ!?」
目を覚ますと再び布団の上だ。障子は橙に染まっている。
身体はどこも濡れていない。ただ、着ているものが昨日の宴会で着ていた巫女服から寝間着に替わっていた。多分あの二体が私を運んだのだろう。
「痛っ。」
身体を起こすと頭に痛みが走った。おそるおそる頭を触ると、どうやら後頭部にたんこぶが出来ているらしい。
着替えやらに感謝はするとして、それとは別にお礼はさせてもらおうと思う。
とは言っても、二体とも姿が見えない。やはり忍者。いや、忍者人形、略して忍形か。
あたりを見渡すと、お盆が一つ畳の上にあり、中には湯気の上がるお茶とお饅頭が一つ、それと手紙が置かれていた。
『茶と菓子を二度と口に出来なくなってもよいというのなら、貴様のその愚かな考えを行動に移すがいい』
「怖っ!!」
先読みされてるって、え、何?どゆこと?なんで私のほうが脅迫されてんの?
こわい、あの子達こわいよ。おいしすぎて饅頭こわいとかそんなチャチなもんじゃねぇ。
もっと恐ろしいものの・・・あ、けどこのお饅頭おいしい。
饅頭もぐもぐ
お茶もごきゅごきゅ
ふぅ、お茶もあってさらにこわかったわね。
まぁ、あれよ、たしかにたんこぶは出来たけど、そのかわりにもっとかけがえのない何かを手に入れたんじゃないかなぁと思うわけよ。霊夢さんは。
それなのに大人げなく人形相手に本気で怒るっていうのは大人げないんじゃないかなぁと思うわけよ。霊夢さんは。
いや、私だって何回もされたら怒るよ。そりゃあ怒るよ。けど、ちゃんと体はきれいになったわけだし、一回だけなら誤射かもしれないっていうし、
うん、だからまぁ、今回はね、今回だけは許してあげようかなって、うん。
・
・
・
よし。散歩にでも行こう。
ちょうど空を飛ぶ感覚も思い出せたし、試運転でもしてみよう。
ほあああああ
体中の気をああしてこうすると、少しずつ体が宙に浮き始める。
そして鏡を見るとそこに移っていたのは幽霊のような霊夢さんであった。
説明すると、体を動かすのがつらいので手足をぶら下げているのだが、寝間着と合わさり、どう見ても日本の怪談によく出てくる幽霊にしか
見えないのである。長い黒髪が無造作に垂れているのも悪い。
う~む、どうしようか。
上海蓬莱に頼んだらバリカンとか持ってきそうな気がする。
一分悩んだ後、このまま行くことにした。きっと大丈夫だ、問題ない。
そしてその一分後に天狗に写真を撮られ後悔した。
そしてさらに一時間後に開かれた宴会が「博麗亡霊夢祭」である。お前らええかげんにせえよ。
騒げるならどうでもいいんだろうけど。
あわただしい日々が終わって、幻想郷に冬が近づいてくる。木の葉は落ちて、風も涼しいものから痛みを感じるようなものに変わっていく。
そんな中で、私は比較的賑やかな日々を送っていた。天狗やら子鬼やらがよく来るようになり、名前は忘れたけど三匹の妖精も見かけるようになった。
聞くところによると、東方AOEとかいうのをやっているらしく、「ウーラン!ウーラン!」とか騒いでいるが、何なのかはよくわからない。
また、気温が日に日に下がるのと反比例するように私の体力は上昇していた。
正確には、若いころの体力に戻りつつあるのだろうか。半年前まで寝たきりだったのが嘘のように歩いたり走ることができるようになり、
今では弾幕を出せるようにまでなった。特に誰と弾幕ごっこをやるわけでもないし、萃香に誘われても断っているのだが、
動かなかった自分の体が自分の思うように動いて、それが良くなっていく感覚がとにかく楽しい。
中身は変わっていないと紫は言っていたけど、骨格とか体型が変わったからなのか、外見が若返ると自然と中身のほうもそれに合わせようと
して若返っていくのかもしれない。なんにしても、気分が昂ぶる。今なら何でも出来るような気になってしまう。
お茶は相変わらず二体に用意してもらっているけど。
ただ、最近は人(妖怪)がよく来るせいか、あんまり出て来ないので少し寂しく思ったりもする。
箪笥を開けると中に紛れ込んでいたりしたのでそうでもなかったのかもしれない。
それが、4月になるとまったく姿を見せなくなった。もちろん箪笥の中にもいない。
他の奴に聞くわけにもいかないのでそれとなく神社の周辺を捜してみても欠片ほどの痕跡も見つからなかった。
もしかしたら、アリスの家にいるのかもしれない。というか、それ以外にない気がする。
私の体も若返ったし、他の奴らもいるから人形はお役御免だと考えたんじゃないだろうか。
それを確かめるためにアリスの家に行く気にはなれないけど。まあ、あの二体なら大丈夫だろう。
そう思って、だから、放っておいた。
五月最後の日に、縁側でお茶を飲んでいた私の前に文が目を輝かせながら飛んできた。
「霊夢さん、明日から六月ですね。」
「それがどうしたのよ。」
「どうしたの。じゃないですよもう、霊夢さんったらノリが悪いんですから。六月って言ったら霊夢さんが死・・・げふんげふん。霊夢さんがお亡くなり・・・
えっと、天にお召し上がられる月じゃないですか。」
「私のノリが良かったら今頃あんたの頭を砕いてるわね。」
笑顔で拳を握り締める私に文が慌てた様子で両手を振る。
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。別に挑発に来た訳ではなくてですね。みんなで霊夢さんのお別れ会でもしようかと思っているんですよ。」
永遠の別れを祝われても困るんだけど。もうすぐ死ぬなんて、言われるまですっかり忘れてたし。
う~ん、まあ、いいか。どうせ死んだ後にも宴会やるに決まってるし、おいしいものでも食べながら死んだほうがお得に違いない。
「別に構わないけど、日程とかはもう決まってるの?」
「はい!それはもう、パンフレットまで作成してありますから。」
自信満々といった風に一枚の紙を渡してきたので受け取る。
「え~と、なになに、『六月から博麗霊夢が死ぬまでずっと宴会。』うん、却下。」
紙を丁寧に折りたたんで破り捨てる。
文が驚いて「い、一体どこが悪かったんですか!?」と聞いてきたので「主賓の事を考えていない所よ。」と返しておいた。
そのあと、とりあえず十三日からにしようという事で決まり、文は飛び去って行った。
十三日からだろうときついのに変わりはないと思うけど、もしかしたら、私の死因は酒の飲み過ぎなんじゃないだろうか。
特に体の不調も感じないし、レミリアの予言は間違いだったんじゃないかとも思う。
とは言うものの、死ぬ前までにやっておきたいことはやっておいたほうがいいのかもしれない。
死ぬ前にやっておきたいこと・・・なんだろう。
とりあえず、高級なお茶を飲んで、ケーキとか食べて、そのぐらいだろうか。宴会で他の物は食べれそうだし、我ながら欲の少ないものだと思う。
そんなことを考えながら、宴会の準備のために買い出しやらを済ませて日が過ぎていく。
そして、赤い日本酒があるというのでそれを神社の蔵に運んで一休みしていた時だ。
神社から少し離れたあたりの木々の合間から、幼い感じの笑い声が聞こえてきた。
おなじみの妖精だと分かってはいたけれど、私はなぜか興味を引かれてふらふらと森の中に足を踏み入れていった。
「ふふふ、ここで罠カード発動。あなたのモンスターは破壊されたわ。」
「ぬぐぐ、お主やりおるな。」
予想通り、一際大きな木の下には三匹の妖精が三角の形で座っていて、なにやらトランプかスペルカードのような物を手に持ち騒いでいる。
二人が自分の手に数枚のカードを持ちながら対峙しているので、どうやらその遊びは二人でやるものらしい。
もう一人は両手で人形を抱きしめながらそれを熱心に見つめている。
若干汚れのついた、二体の人形。
多分、動く事も、話す事もなくなってしまった人形。
妖精が身じろぎをすると、それに合わせて人形の手がぶらりぶらりと垂れ下がる。
ざわり
背中に怖気のようなものが走る。
「あ、霊夢さんだ。」
私に気づいたらしく、一人がこちらに向けて指をさし、残る二人も顔をあげた。
「あらあら、こんなところで会うとはめずらしい。」
「霊夢さん、こんにちは。」
「ねぇ、その人形どこで拾ったの?」
ぱきんぱきん
返事を返すこともなく木の枝を折りながら歩み寄っていくと三人は少し怯えた様子を見せる。
「に、人形ですか?えっと、どこだったっけ?」
「木の下に落ちてたんじゃなかった?」
「そうそう、二体とも木の下あたりに転がってたんだよね。」
「この人形ってアリスさんのですよね?どうかしたんですか?」
「木の下っていうのはどの木の下なの?」
「ひい。」
さらに詰め寄り、人形を抱えた妖精の肩を強く掴むと、肩を掴まれた妖精が悲鳴をあげた。
「どの木の下に落ちていたの?」
「お、覚えてないです~~。」
「ご、ごめんなさい。随分前の事だったし森の中だったから、本当にすいません。」
「随分前っていうのはいつなの?」
「えっと・・・」
「に、二か月ぐらい前だと思います。」
「そう。」
掴んでいた肩から手を離し、妖精たちに背を向けて歩きだす。
「あ、あのっ、この人形はどうすれば。」
「あんたたちが持っておけばいいわ。」
そう言って空へ飛びあがった。
着いたのは魔法の森のアリスの家の前。
明かりが点いている風もなく、薄暗い森の中で、その家は魔女の家に似つかわしく陰湿に存在していた。
ドアは閉まっている。見る限りの窓もすべて締め切られている。
地面に降り立ち、窓から中の様子を見ようと思ったが、ガラスは埃で覆われていて何も見えない。
呼吸を置いてドアノブに手を掛けると、
がちゃり
鍵のかかっていない扉はぎいいという摩擦音を立てて、入るものを拒むように埃を吐き出してきた。
少し咳き込み、袖で口元を覆いながら家の中に入る。
何もない家だ。
テーブル、食器のない食器棚、洗面台の割れた鏡、蜘蛛の巣が張られた天井、床に落ちていた数冊の絵本、
二階に上ると、枕もシーツも掛けられていないベッドが部屋の壁際に鎮座していた。
家主も、家主が愛した人形達も、なにもない家。
アリスは、一体どこに行ったのだろう?
魔界に行ったとは考えられない。
それならどこへ?
人里ではないだろうし、どこかの山奥にでも行ったのだろうか。魔法も使えないのに?
私は、アリスを捜しに行こうと思う。
会っても、話す事はないかもしれないけれど、けじめは着けるべきだと思うから。
べったりと張り付いた嫌な予感を抱えたまま、
私は再び空へ飛びあがった。
季節に添うようにして色とりどりの花が咲く花畑。
その花畑の中で、一人の少女が座りながら花の冠を作っている。
アリスだ。
探すのが難しい山奥よりも先に、探しやすい場所を探していたら意外とすぐに見つけることが出来た。
遠目なのでよく分からないけれど、足を怪我しているのでもなければ特に異常はないように見える。
とりあえず、話しかけてみよう。
アリスのいる場所から五メートルほどの位置にゆっくりと着地する。
冠を作るのに集中しているのか、アリスは私に気づいていないようだ。
「アリス。」
声を掛けるとアリスが顔を上げる。
無表情で、月の海のように静かな瞳。何を考えているのかは分からない。
首筋には口を紐で縫いとめられた人形ような歪な線が首と胴体を隔てるように引かれていた。
「なぁに?」
首を傾けて、不思議そうに私を見つめてくる。
「その、私はもうすぐ死ぬらしいんだけど、このまま死んだらけじめが着かないと思ってさ。何か話すべきだと思って探してたのよ。」
「そう。」
アリスの表情が少し曇る。
「幽香に会いに来たの?」
幽香?なんのことだろう。
「どうしてそこで幽香が出てくるのよ。」
「私はあなたの事は知らない。」
「あなたは誰?」
人形のような目が私を見据える。
一体、アリスは何を言っているのだろうか。
アリスの目の前まで歩いていき、中腰の姿勢になる。
「ねぇ、冗談で言ってるの?怒ってるとかで?」
「あなたは誰?」
「ちょっと!冗談じゃないわよ。そんな演技したって何にもならないじゃないの。」
「痛っ、や、やめて。」
肩を掴んで揺さぶると痛かったのか、目を瞑り身を縮めて怯えた表情を見せた。
なんで私がアリスに怯えられなければならないのだろう。
「あら?誰かと思えば霊夢じゃない。」
声に気づいて目線を上げると、いつのまに現れたのか、うすら笑いを浮かべた幽香が立っていた。
「幽香・・・。」
「とりあえず、その子から手を離してくれないかしら。痛がってるじゃないの。」
「あんた、アリスに何をしたの?」
「何をしたと思う?」
「この首の傷はどうしたの。」
「どうだっていいじゃないの。」
「良くないわよ。次第によっては許さないわ。」
袖からお札を取り出して幽香に突き付ける。
幽香は動じた風もなく、口元に片手を当ててクスクスと笑った。
「どうだっていいじゃないの。だって、
あなたもうすぐ死ぬんでしょう?」
ぶちん
体の中の何かがはじけて、感情にまかせて弾幕を幽香に向かって放った。
ぶしゅり ぶしゅり
さほど強い弾幕ではなかったにもかかわらず、幽香は弾幕を避けず、反撃すらもしなかった。
体から赤い血が流れていき、幽香が片膝を着くようにして倒れる。
さらに問い詰めるために近づこうとすると
「やめて!」
アリスが私と幽香の間に入り、幽香を庇うように両手を広げて立ち塞がった。
自分の記憶を消した奴を庇ってどうしてこの私に敵意を向けているのか。
「アリス、そこをどきなさい。」
苛立ちながらアリスに命令する。
「やめて、お願いだから、幽香をいじめないで。」
一体こいつは何を言っているんだ?
幽香をいじめないで?アリスの後ろで、余裕の表情で薄ら笑いを浮かべている奴が?
「お願いだから。」
目に涙を浮かべながらアリスが懇願してくる。
なんで、そんな事をされないといけないのだろう。
こいつが泣くなら、私に死なないでくれって縋り付いてくるはずなのに、なんでこいつは幽香のために泣いてるんだ?
本来なら私のそばにいて、「中身はおばあちゃんのままなんだから、あんまり無理しちゃだめよ。」とかそういう事を言っているはずなのに。
「霊夢。」
アリスの後ろから幽香が声を掛けてきた。
「私がやったのは、アリスを治してあげた事だけよ。」
「治す、ですって?」
「半年近く前だったかしら。この辺りで首を切って死んでたのよ。この子。」
「死んだ?」
ここにこうして生きているのに?
「そう、何があったのかは知らないけれど、かわいそうだから首を縫い付けて治してあげたのよ。記憶は無くなっちゃったみたいだけどね。」
幽香がアリスの服を後ろから引くと、予想だにしていなかったのか両手を広げたままの体勢でアリスの体が幽香の体の上に倒れ込む。
そして、幽香は仰向けに倒れ込んだアリスの体を包むように抱きしめた。
「一体、何があったのかしらねぇ。誰かにひどい事でもされたんじゃないかしら。ねぇ?」
幽香が殺気のこもった視線をぶつけてくる。
「わ、私のせいだって言うの?私は、ただ・・・。」
他の奴らみたいに寿命のまま死のうと思っただけで、アリスが自殺するなんて思わなかったから
「責任すら感じてないというわけね。」
「違う。そんな事ない。」
「ふーん、まぁどうだっていいんじゃないかしら。アリスもなついてるし。その原因ももうすぐ消えるみたいだし。」
幽香がアリスの頭を優しく撫でる。
「それで、あなたは一体いつ死んでくれるのかしら?」
あ
幽香から目を逸らすとアリスが私を睨んでいた。
ああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
気が付くと、私はどこかの山の中を走っていた。
雨が降っていて、服が水を含んで肌に張り付いてくる。
いつのまにか履いていた草履もなくなっていた。
「はぁ、はぁ、はあああああ。ああっ、ひぐっ、ぐううああああああ。」
脳裏にアリスの泣き顔と幽香の声が延々と流れて渦を巻いている。
畜生、なんで、なんで私が、こんな、こんな目にあわないといけないのよ。
私はただ、少しだけアリスに悪いと思ったから謝っておこうと思っただけなのに。
畜生。
畜生。
ちく・・・・・・
あ、れ?
呼吸が、出来ない。
「はっ、・・・ぁっ・・・。」
立ち止まり、木の幹に手を着く。
心臓が今まで聞いたこともないほどに脈打っている。一呼吸すらできずに、木の幹に着いていた手が滑り、体が崩れ落ちた。
胸が痛い。
息が詰まる。
絶えて、
死ぬ
死ぬ?
私が死ぬ?あいつの言った通りに?
「い や だ。」
まだ、何もしていないのに。
陸に上がった魚のように喘ぐように口を動かすが、意識は奥底へ落ちていった。
幽香の笑い声が聞こえた気がする。
気が付くと、木々の合間から暗い空が見えた。
雨は降り続いていて、
ぴちょんぴちょん
と体に木の葉から落ちた雫が当たる。
気は失ったけれど、死んではいなかったらしい。
周りに生き物の気配は感じない。
一人だ。
誰も傍にいてくれない。
人形もいない。
アリスも、
体を起こして自分の体を抱きしめてみるが、どうしようもなく惨めだった。
「千歳さーん。霊夢さんは見つかりましたかー?」
「いいえ、影も見つかりません。」
博麗神社では、一日中姿が見えない霊夢を心配する者達が辺りを探索していた。
体が若返ってからの霊夢は外出することが多くなっていたが、外出するのは日中であったし外泊するという事は一度もなかった。
加えて、尋ねてみても霊夢の姿を見かけたという者が一人もいないため、これはおかしいと思われたのだ。
不謹慎である事を承知で事件だったらちょっぴりうれしいかなと思う文であったが、あの霊夢がそうそう死ぬとも思えないし、
いち早く霊夢が失踪していることに気づき他の者への聞き取り調査をするなどの貢献をしているのだから、
新聞に載せるぐらい褒美としてもらってもいいんじゃないかと軽い気持ちで考えていた。
「千歳さん。もう夜になりましたし、今日はこれ以上の探索はやめておきませんか?」
「そうですね。いつ神社に帰ってくるとも知れませんし。文さんはどうしますか。」
「一旦、山に帰ろうかと思います。他の天狗たちが何か知っているかもしれませんから。」
手帳に書き留めたメモを記事にするための準備がしたいというのもあったが、言いはしない。
天狗は背中の羽を一度大きく広げると、空高く舞い上がりすぐに姿が見えなくなった。
それを見送り、千歳は大きくため息をついた。
(はぁ、まったく放浪癖のあるお年寄りでもあるまいに何をしているんだろうかあの人は。)
別に霊夢に対して恨みや悪意などを抱いているわけではない。千歳にとって近寄りがたい存在ではあったが、それは悪意ではなく
畏敬からのものだった。ただ、同じ神社に住んでいても日常的に霊夢と接していたわけでもなく、千歳の感覚からすれば霊夢は身内
ではなく他人にすぎない。このため、霊夢の生存は望んでいるし探すことも真面目にやるが、その行動に他人以上の特別な感情が乗ることは
なかったのである。
台所でお茶を一杯飲み、一休みする。
それから、神社の周辺をもう一度探そうと部屋から外へ出ると、
ずるり、ずるり
となにかを引き摺る音が聞こえてきた。
音は得体のしれないものばかりが入れられている蔵のあたりから聞こえてくる。
ずるり、ずるり
音が少しずつ遠ざかっていくのに気づき、千歳はあわてて蔵まで走って行った。
「霊夢さん?」
蔵より離れたところで何か大きな物を引き摺っていたのは姿を消していた博麗霊夢であった。
なぜか全身びしょ濡れで、蔵からナメクジが這ったような跡が出来ている。垂れた黒い髪からはぽたぽたと水滴が落ちていた。
「千歳じゃない。どうかしたの?」
呼びかけられたことに気づいたのか、霊夢がこちらに顔を向けた。
しかしながら夜のせいか、長い黒髪のせいか、闇に覆われて表情を窺う事はできない。うっすらと笑っているようにも見える。
「どうかした?じゃないですよ。姿が見えないからみんな心配していたんですよ?」
「そうだったの。ごめんなさいね。でも、もう大丈夫よ。」
やけに静かな、それでいて何の悩みもないような違和感のある明るい声。それに、なぜ全身が濡れているのだろうか。
「その、大丈夫なのはいいのですが、今まで一体何をしていたんですか?体も濡れていますし。」
「今まで・・・」
霊夢が顔を俯かせる。
「今まで、何をしていたのかしらね。私の・・・私だけのものだったのに。いつもなら、服だって変えてくれるし、体だって拭いてくれるはずなのに。」
先ほどまでの明るさとは打って変わり、上澄みの底にあるような暗い影が霊夢を中心に濃くなっていく。
「私の物とは一体なんなのですか?」
問いかけるが、霊夢はもう話す気がないらしく。顔を俯かせたまま何かをぶつぶつと呟いていた。
ずるり、ずるり
引き摺る音が再び始まる。
引き摺られていた物は、一メートルを超えるほどの大きな亀の甲羅だった。
私は、どうするべきだろうか。
霊夢の後をついていくべきだろうか。それとも誰かに知らせるべきだろうか。
とは言うものの、文はすでに山に帰ってしまったし、連絡手段もない。紫がいればいいのだが、いるならすでに現れているだろう。
ずるり、ずるり
ごとん
音が止んだ。
出来ることもないが、このままほうっておくことも出来ない。
千歳は霊夢の後を追うことに決めた。
地面に付いた跡を辿っていくと、霊夢がいつも使っている離れに着いた。戸は閉められているが、水の跡は部屋の中まで続いている。
がり がり
中から何かを削るような音が聞こえてきた。
ゆっくりと戸の前に近づいていき音を立てないように戸を開けると霊夢は部屋の奥でこちらに背を向けて座っていた。
がり がり
霊夢の正面には甲羅が置かれている。どうやら甲羅を削っているようだ。
何かに憑りつかれているのではないだろうか。博麗の巫女に憑りつけるようなものがいるのかは疑問だが、どう見ても正常には見えない。
「霊夢さん。」
お札を手に取りながら、反応を見るために声を掛けてみる。
「何かしら。」
がり がり
背を向けたまま返事が返される。音は止まない。
「何を、しているんですか?」
「甲羅の内側にね、文字を刻んでるのよ。」
「何のためにです?」
「ちょっとね、儀式に必要なのよ。」
「儀式?何の儀式ですか?」
がり がり
「私ね、人間をやめようと思うのよ。これはそのための儀式の準備。」
「人間を、止める、んですか?」
「うらやましい?」
「いえ、その、なぜ急に人間を止めたいと?」
削る音が止まる
「そうねぇ・・・悔いが残ったから、かしらね。」
「悔い・・・」
がり がり
音がはじまる。
「他の人たちには知らせないでいいのですか?」
「他の人?」
「紫さんとか、文さんとか。」
「ああ、いいのよ別に、サプライズっていうやつよ。お別れ会を開くぐらいなんだから、きっと泣いて喜ぶわよ。」
「そうとも言い切れませんわ。」
新たな声が入る。
忽然と部屋の中に現れたのは紫で、両手で口元を隠すように扇を持ちながら霊夢の後ろに立っている。
紫の服は濡れているはずもないのに、なぜか魚影のように暗く垂れていて、一つの影のように見えた。
「あら、私が死んだほうがうれしいのかしら。」
がり がり
紫の声に驚いた風もなく霊夢が話しかける。
「複雑な気分ね。」
「素直に喜んどけばいいのよ。」
「あなたは、本当にそれでいいの?」
「人間をやめてる奴なんて他にもいるし、問題があるとも思えないわね。」
「人間として死んだ人もいるわ。」
はぁ~~~~
霊夢から大きなため息が聞こえてきた。
がりがりがりがり
甲羅を削る音が早くなった気がする。
「あんたは、あんた達か。あんた達はさ、結局そうなのよ。」
「何のこと?」
「あんた達、アリスが自殺した事知ってたでしょう。」
がりがりがりがりがりがり
「知っていて、私には黙ってた。」
がりがりがりがり
「私がその事を知りたいと思うのは当然なのに。」
がりがりがりがり
「私を殺したかったからよ。」
「霊夢、それは違うわ。」
「違くなんてないわ。あんた達は結局、他人で妖怪よ。昔いた人間達の括りの中で私を捉えてる。アリスとは違う。アリスだったら泣いて喜んでくれるわ。
「ああ、霊夢。私のために人間をやめてくれてうれしいわ。これでいつまでも一緒にいられるのね。今夜はお祝いね。霊夢、愛しい霊夢。」って。それなのに、
私に死なないでくれって言ってくれたのはあいつだけだったのに。」
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
「なのにあいつ!!死にやがった!!私が人間をやめるって言ってるのに。あいつ、私のことなんか知らないって、よりにもよって幽香なんかと・・・
畜生ッ!!人が死んでもその人がいた記憶は消えないですって?綺麗に忘れてるじゃないの。本当なら私に笑いかけてるはずなのに、この私に、
あんな敵意を向けるなんて、畜生。畜生。」
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
「ああああ、寒い、寒いよう、体もそこらじゅう痛いし、呼吸も苦しいし。アリス~。体をさすってよ~。あっためてよぅ、うううう。寒いよう、痛いよう。
嫌だ。こんなのは嫌だ。私はこんな風にして死にたかったんじゃないのに。安心して死ねるはずだったのに。ううう。」
しゃべるものはいない。
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
甲羅を削る音と啜り泣く声だけが部屋に響く。
いつのまにか、離れのまわりを囲むようにいくつもの影が出来ていた。それは鬼のものであったり天狗のものであったりするように思えた。
そして、それらの影は皆霊夢を見つめており、それでも物音一つする事はなく、蠢きながら霊夢を囲んでいた。
朝になると、それらの影はなくなっていた。
部屋の中にいた霊夢と甲羅も。
周りに草木のない平らな山肌に霊夢はいた。
傍には大きな甲羅や一メートルほどの細長い角材などがある。
霊夢はまず、土台になるように角材を格子状に地面に並べ始めた。
そして、亀の甲羅を少し上回る程度に形を作り、その上に甲羅を仰向けに乗せた。
その甲羅の中に卵と犬の頭、熊の手を入れて、土台と同じように甲羅に角材を組んでいく。
それから下の角材と上の角材を縄で括り付けて、最後に甲羅全体を覆うように藁を被せた。
最後に火を点けて、儀式が始まる。これが燃え尽きれば儀式の終わりだ。
藁が黒く変色していき、火が広がりはじめる。
おめでとう
どこからか声が聞こえてきた。きっと餓鬼かなにかだろう。祝われてもうれしくもないが。
ぱち ぱち
けら けら
藁の立てる火の音が拍手と笑い声のようにも聞こえる。
おめでとう
ぱちぱちぱちぱち
けらけらけらけら
そういえば、この儀式の名前は何ていったっけ。死還し?死孵しだったか、それとも死送りだっけ。
死亡通告を出すのだ。偽の魂と擬似的に作った器を使って。
おめでとーおめでとー
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
けらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけらけら
火が甲羅全体を包み込んで、木を括り付けていた縄も燃えて灰になっていく。
それに合わせて先ほどよりも餓鬼の声が大きくなったようだ。
括りを燃やして括りを解くのだ。産霊(むすび)を解いて昇る煙とともに魂を送れば蝋燭を残しながら死が消える。
ぴしっ
何かにヒビが入る音がする。
もっと、もっと燃えてしまえ。私を形作っていたものを全て。
心の声に呼応するかのように炎の勢いが増していく。甲羅はすでに一つの大きな火の玉だ。
おめでとーおめでとーおめでとーおめでとーおめでとーおめでとーおめでとーおめでとーおめでとーおめでとー
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
声も大きくなっていく。喚き声のように。
ぴしっぴしっ
アリスは私を受け入れてくれるだろうか。きっと受け入れてくれるだろう。だってアリスだったから。記憶がなくなっていても、震えながらも私に立ち向かう
アリスの振る舞いには変わらない気高さがあった。アリスと仲良くなって、そしたらどうしよう。結婚式でも開ちゃおうかしら。
おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう
おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう
おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
餓鬼どもの呪怨が五月蠅い。その程度しか出来ないくせに。火の中にでもぶち込んでやろうか。
ぴしり
ぴしり
ヒビが広がっていく。
おめでとうおおおおおおおめでとうおめえええええでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう
おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちあああああああばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばおおおおおおおちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
ばちばちばちばおめでぇえええええちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげおおおおおおらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらあああおおおおげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
ぴしぴし
ぱきん
殻の破れる音とともに炎が一際高く燃え上がり、霊夢の意識は途絶えた。
霊夢の意識が戻ると、火はすべて消えていて、黒く焦げた甲羅が残っていた。
甲羅の中には殻の割れた卵があり、その中に一粒の真珠が濁った輝きを放っている。
霊夢はそれを躊躇なく飲み込み、人間をやめた。
「こんにちは。」
いつものように花畑で遊んでいると、後ろから声を掛けられた。
振り向いてみると、そこには幽香をいじめた人が立っていた。
逃げなきゃと思い、立ち上って走ろうとするとその人は慌てた様子で、
「待って、お願いだから、お願いだから待って頂戴。」
と前日の怖さが嘘のような態度をとってきた。
どうしよう。思わず立ち止まってしまったけれど。
その人の顔を見つめてみる。
懇願するような、縋るような。もしも私が断ったら、その場で泣き出してしまいそうな顔をしている。
どうしていいのか分からないまま立っていると。その人が再び話かけてきた。
「あの、私の事、覚えてる?」
「幽香をいじめてた。」
「違うの、そうじゃなくて、その、アリスは、幽香と会う前に自分がどういう暮らしをしていたのかは覚えてる?」
幽香と会う前。どうだっただろうか。
「覚えてない。」
「あのね、信じられないと思うけど、アリスは、幽香と会う前は私と・・・私とも、仲が良かったのよ。」
「そうなの。」
どうでもいい事のような気がする。どうしてこの人はこんなに必死になっているのだろう。
「手を・・・。」
「?」
「手を、握らせてもらってもいい?」
どうしよう。手を出したらなにかされるんじゃないだろうか。
「・・・いいよ。」
少し迷って、結局手を出すことにした。泣かれても困るし。
握手をする形で右手をだすと、その人がゆっくりと近づいてくきた。
そして、震える両手で私の手を包み込むように握ると、なぜか泣き出してしまった。
「ひっく、ひっく。」
一体この人はどうしたのだろうか。さっぱりわからない。
握られた感触は不思議と不快に思わなかった。
「霊夢。」
「えっ。」
「あなたの名前でしょ?幽香が言ってた。」
「あ、あああああ。」
突然、その人が私に抱きついてきた。
「アリス、アリス、アリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスううううううう。」
なぜか私の名前を呼びながらさっきよりももっと大きな声で泣かれてしまう。この人は本当によくわからない。
この人と私は前に仲が良かったらしいけれど、それを覚えていないことが少しだけ惜しい気がした。
それからその人が泣き止むまで待ってあげた。
ゆさゆさ
体を揺らされる感覚がする。けど眠いのでそのまま寝ていると、もう一度体が揺らされた。
ゆさゆさ
「霊夢、朝だから起きて。」
「う~ん、アリスがキスしてくれたら起きる~。」
・・・・・・
ちゅっ
「ひゃっはあああああい。」
「きゃっ。」
ベッドから飛び起きて傍にいるアリスを押し倒す。
「アリスとちゅっちゅ。アリスとちゅっちゅ。」
朝から天使の口づけを受けた私は最高にハイ!!になった。誰にも私を止めることは出来ない。アリスがそんなに積極的なら私にも覚悟があるわ。
さぁ、このまま二人で朝の準備体操を行いましょう。
「ぐっへへへ。」
よだれと豚のような笑い声をあげながらアリスのお顔をぺろぺろする。
アリスはとっても嫌そうだけれど、大丈夫、私とアリスは愛し合ってるから大丈夫。はぁ、はぁ、おいしいお。アリスちゃんのお顔たまらないお。
がつん
突如として後頭部にバールのようなもので殴られたぐらいの衝撃が襲う。
「ごぶっ。貴様、一体何奴。」
頭をさすりながら、後ろを見るとエプロン姿の幽香がフライパンを持って仁王立ちしていた。
「お前、覚悟しているよな?アリスに手を出す。っていう事は殺される覚悟がある。っていう事だろ?おい。」
くっ、なんだこの威圧感は。こいつには、やると言ったら、やる『凄み』があるっ!!
だが、私にも覚悟がある。アリスとちゅっちゅする。アリスとちゅっちゅする。両方やらなきゃならないのが霊夢のつらいところだ。
「貴様、後悔するぞ。」
「フンッ。このマンモーニが!!すでにッ!!行動は終わっているッ!!」
ハッ!?
い、いない。アリスがいないぞ。私と一緒にキャッキャウフフしていたはずのアリスがいない。
床にはうっすらと植物の影が見える。
「まっ、まさか。」
こいつ、私がアリスから注意を逸らした隙にアリスを誘拐しやがったのか。
幽香の足元の床から植物が伸びてきて、アリスが現れる。そしてそのままアリスは幽香にお姫様抱っこされてしまった。
私だってアリスをお姫様抱っこしたいのに。ぐぎぎぎぎ
「私はただアリスと静かに暮らせれば良かったのに。」
やはりこいつは始末しなければならないか。
「何言ってんのよ。そもそもアリスは私のものでしょうが。」
「はああっ!?脳がマヌケかてめー!?アリス、どっちのほうが好きなのかこいつに教えてやって。」
「今の霊夢は嫌い。」
ごふぅ
そ、そんな。アリスが私を嫌っているなんて。ううう、首を吊って死のう。アリスに嫌われた私に生きる意味もない。
極度の精神ダメージを受けた霊夢は再起不能になった。ハイウェイトゥヘル。
「さて、邪魔者もいなくなったし、アリスは私と一緒に朝ごはんを食べましょうねー。」
それを後目に幽香はアリスを抱きかかえたまま去ろうとする。
「霊夢。早く起きてね。」
アリスも一言置いて行ってしまった。一昨日は一人じゃさびしいからってベッドに潜り込んできてくれたのに。
「うううう~。」
しかたない。着替えよう。そしてアリスにあ~ん、をしてもらおう。
もぞもぞと芋虫のような動作で寝間着を脱いでいると
「シャンハーイ」
と上海が着替えを持って部屋に入ってきた。
どうやってかは分からないけれど、いつのまにか妖精たちのところからアリスのところに二体の人形が帰ってきていたのである。
動かなくなった理由もわからなければ今現在どうやって動いているのかも不明だ。まさか呪いか?呪いの力で動いてるのか?
ぺしん
頬をはたかれた。
口にも出してないのに。やはりのろ・・・いや、なんでもないです。上海さん目が光ってこわい。
まぁ、家事全般をこなしてくれるので便利な人形さん達ではある。アリスも気に入ってたし。当然か。
鏡の前に立ち自分の顔を映す。
「上海、先に行っててくれないかしら。」
そう頼むと上海は「コナクテモイイノヨ」と言い残して部屋から出ていった。
鏡に映っているのは若い自分の姿だ。
人間をやめたことについて後悔したことはない。
今思えば、人間だった時から私にとって重要なことは人間である事ではなかったと思うし。
他の妖怪達とは関係が疎遠になった気がするけれど、話す事もあるし、それは妖怪同士の付き合い方としては正しいものだと思う。
巫女服は着ていない。多分、もう着ることはないだろう。私の守るものはもう幻想郷じゃない。
私は人間をやめて、私だけのものだったアリスは死んでしまって、それでも、二人とも一緒に暮らしている。
それが今の私の全てだ。
二人だけでないのは残念だけど。けれど、二人だけだったら、また私は繰り返してしまうかもしれない。それよりはましだ。
今まで、アリスは笑顔を見せたことがない。それなら、アリスを笑顔にすることが私の新しい役目だ。
きっと、今も残る首の傷が消える時にアリスは笑顔になってくれる。
楽しみだ。アリスの笑顔は天使のように可憐でかわいく美しいに違いない。
ふと気がつくと、
窓の外側に小さな白い蝶が止まっていた。
部屋の中にでも入りたいのか羽をパタパタと動かしている。
そんなに入りたいのならと思い窓を開けてやると、蝶は入って来るどころか外へ飛んでいき、そのまますぐに見えなくなってしまった。
>幽花
幽香……ですよね?
それはともかく、面白かったです。話に引き込まれました。最後はびっくりしたけど、こういう終わりはやっぱりいいですね。
無事?霊夢は妖怪になったわけですが、もしかしてここまですべてアリスの計算通りだったり・・・はさすがにないですかねw
多分、オチについて何か言われそうだなーと思ったりもするけど、ハッピーエンドはいいですね。
何気にレイアリだけじゃなくユウアリ要素もあるのがグッド!です。
どっちにしても悲劇であり喜劇であり茶番劇って気もする。
白い蝶は果たして泣いているのか嗤っているのか。
異様に淡々と進んで急に乱気流に飲まれてそのまま墜落するのかと思ったらデコボコの地面にふわり軟着陸、
みたいな不思議な展開で目が離せませんでした。
次回作も期待してます。
置いて逝くはずだった者は置いて逝かれる者の絶望を知らない。
立場が逆転してようやくその残酷さを知るんだろうなと思いました。
なんにせよ、最後に希望が残っていて安心。
レイアリハゲンテンナンダヨネー
完璧なハッピーじゃないけどバッドとも言えないない不思議な読後感でした。
文とかレミリアとか周りのキャラクターもいい味出してるなあ。
続きがあるなら期待です
愛とか百合とかよりも、この一文に尽きると思いました。
博麗として全てから浮遊していた巫女は死に、人間としての生々しい渇望を抱えた霊夢が妖怪として再誕したのですね。
結局の所、最終的に人を不幸にするのも幸せにするのも「業」という事なのでしょうか。
死なないでと言ってくれるヒトがいるならなおさら。
死別エンドが苦手な私にはとても嬉しい終わり方でした。
ただひとつ言わせてください。
ちなみに、間違っても神道における祝職の葬儀で焼香なんて焚いてはいけませんからねw
蝶は儚さや死、ところによって幻想を表すキーとなるとか。
惑わされましたが、翻弄されてむしろ私は幸せです。
あと作者さんのスタンスかもしれないけど、最後の方のJOJOネタが私的には雰囲気を壊しているように見えたのでちょっとこの点数で
ご都合主義にも異論はない。むしろ好む。
それでも、都合をつけるための最低限の要素すらも欠けているようにしか見えない。
灰の蝶? あれはもはや死んでいる。
起承転と来て、おまけもいいところの後日談だけを差し出されたような不快感が残った。結末は何処か。結末を出せ。
最後の落としのために、直前までの鬼気迫る表現の数々が全くの無駄死にとなってしまっているように思う。ただただ残念。
『博麗の巫女』霊夢と灰の蝶、そしてこの作品に哀悼の意を申し上げ、以上の駄文の締めとさせていただく。
霊夢の生を願ってたのは皆同じなんだろうけど表面に出してたのが1人だけ、だったのがアレだったのだろうか…。
霊夢の心情の移り変わりがよかったです。当たり前と思えるほど長く向けられた愛情が死を目前に失われ、それが未練になり執着になり・・・
ただ最後のほうのギャグ部分が少しあれなのでこの点で。
この台詞に超痺れました。また、最後に幽香と三つ巴で暮らすことで、安定した関係を取り戻すところが、上手いなああああと感心しました。霊アリ(+幽香)の絶妙な物語を読めて嬉しいです!!
何度も霊夢が気を失ってるので、途中から夢落ちなのかと思ったし、
上海と蓬莱は紫と終盤を除けば、霊夢以外を避けてるかのような描写やら… いろいろ翻弄されました。
裏設定がすごい気になります。
私はよかったと思います。
もう一回読み返したくなる。
雰囲気がでていて感情移入できました。
文量もあり、とても満足できました。ありがとうございます。
最後のこれまでとは明らかに異なる不自然な明るい展開も
非常に深読みしたくなってしまう。
是非とも一人称視点以外からのお話も読んでみたい所です。
すっきりしないと感じなくもないけど、それもひとつの結末。
登場人物誰もが納得して綺麗にまとまるのだけが良いエンディングというわけではない
ただ、ギャグパート的なものについてひとつ。
俺はJOJOとか知らないから気づかなかったけど、そういった余所から引っ張ってくる「ネタ」みたいなものは今回はない方が良かったのでは?
全体的にギャグが中心のSSなら面白い要素になるけど、これみたいなしっかりしたストーリーのあるSSではのめり込んだ気持ちが現実に引き戻される原因になってしまうと思う。
ただ、読み終わった今でも、夢……?どういうことなの……、となっている自分がいます。
僕の読解力の無さ故かもしれませんが、もうちょっとわかりやすい『オチ』が欲しかった。
あと、うざったいお節介だと思いますが、どうしても気になったので書きますと。
フラーレンは正三角形ではなく正五・六角形からなると思われます。
未完的で、だからこそ引き込んで離さない勢いに魅せられました。
解説付で読んでみたいと思う反面、この形であったからこそのパンチ力もまた捨て難いと思う。
点数は思わず簡易で入れてしまったのでフリーレス
失われる側である霊夢と失う側であったアリスの関係が逆転し、更に寝盗られると
是非続きが読みたい
どっぷりのめり込んで読んでいたのに、ギャグで冷めた。
遣る瀬無さが残りましたが、面白かったです。
結局夢だったの?
なんでアリスは二ヶ月も前に自殺しちゃったんだろ?
アリスサイドを読んでみたい。
あのオチこそがこの作品のすべてだと思う。
結構伏線引いてあるのでもう一度作品を読み返して欲しい。
ヒントは人形。
それしか言えないです。
いいものです
それと人形の行動の因果関係がものすごく気になる
ネタばらしを希望する
とりあえず満足度としては点数的にこんなもん。
読み込めていないという自覚はある。
衝撃的としかいいようがない。
凄く残念。
人間辞めて、アリスに会ったあたりで辞めておけば、気兼ねなく100点ぶちこめたんですが・・・
惜しい。
この作品はものすごい俺の好みをついていてよかった ひきにくさんとレイアリについて語り合いたい
ただ、この作品世界にすごく惹かれた分 最後のあたりもっとアリスに依存しちゃってる霊夢とか 実は記憶が……? なアリスとか描写して欲しかったな
読み終わった今となっては、ギャグの部分さえも怖く見えてしまう。
霊夢に生きていてほしいと望んだのは、結局アリスだけだった。
おもしろかったです。
テーマと話の運び方は凄くよかったのに…… 書き手の意識が足りなかったせいで作品が何の価値もなくなった酷い例
お母んが、「もうっ!そんなにピーマンが嫌いなら食べなくてもいいわよっ!!」って言った瞬間ピーマンが食べたくなるようなそんな感じ。子どもって、ピーマンを食べるより母さんに嫌われる方が数倍嫌なんですよね。
毎日神社に来ては泣いていくような子から敵意丸出しの視線を向けられたらそりゃ寂しくもなるだろうよ。
「私に死なないでくれって言ってくれたのはアリスだけ。」ってセリフがじわじわとくる。霊夢は何者にも縛られない分誰も霊夢を縛ろうとしなかった(深く干渉しようとしなかった)んだろうなぁ。
配偶者も作らず千歳とはそんなに仲良くない、加えて人間の知り合いはみんな死に絶えたって状況で死ねとか言われたら……自分なら耐えられません。仮にこれが自分だったとしたら、絶望に苛まれた勢いでさっさと死ぬか霊夢みたいに在りし日の思いに縋るでしょうね。
愛されいむ⇒やんでれいむ⇒でれでれいむ
の流れが大変面白かったです。
ちょっとあっさり感が強いですが、自分はこのEDで良かったと思います。
素敵な作品をありがとうございました。
アリスの記憶が生き返ることはないかもしれないけれど、初めて出会った時はもっと険悪だったわけだから、また元のような関係に戻れるはずだと信じています。
素晴らしい
しかし……
あと半歩なにかが……
ハッピーエンドかバッドエンドかわからないけれど霊夢は幸せなのかな?
難しくて作者さんからの解説がちょっと欲しい作品でしたが、それでも文句なくおもしろい作品でした
嫌な終わりかたですね。あくまで内容的にですけど。
そして最後に、作者を批判しているわけではないですが言わずにはいられない。
寿命ネタはやっぱり嫌いだ。今まで読んだ作品の中でも一番、それが如実に表されていて、嫌な心地をせずにはいられない。
だがな、一つ言わせてくれ。私は今、この話を読んで、なにが現実なのかさっぱり理解できずに、ただ静かな恐怖を感じたんだ…。なにをいってるかわかんね(ry
ただアリスが人形を沢山用意して解説するところがくどい。
もう少し短くまとめて欲しかった。細かい仕組みはいいから、紫でも止められない。そのことが伝われば良かっただけだと思う。
時間かかったから紫が何とかできたが、紫が話を伸ばしたわけじゃなくアリスが一人でくっちゃべって自爆して唖然。
その分を220から20ひいて200の点数を付けさせてもらいます。
アリスの悲しむ様を見ながら死ぬのを待っていただけの人間の頃よりも、大事な人と一緒にいられて、目的のある今の方が幸せそう。
幽香との関係は心配だったけれど、最後はむしろお母さんっぽいポジションになっていて3人仲良くやっていて安心しました。
失ったものは確かに大きかったし、人間を辞めるきっかけもよくないものではあったけれど、過程はどうあれ、前を向いている霊夢を応援します。
もっと広がれレイアリの輪!
NTRならタグにそう書いといてほしい