「暖かいぜ」と魔理沙は呟いた。言葉にしてみると実に気持がいい。
魔理沙は隣を歩く霊夢の横顔をちらり見て、にやっと笑った。
香霖堂からの帰り路。しんしんと雪が降る中、二人は博麗神社に向かって歩いているところだった。
魔理沙の言葉とは裏腹に、霊夢はまったく暖かそうにはしていなかった。
両腕を体に回し、先ほどから一言も発していない。
できるだけ体温を逃さないよう最善の努力を尽くしていた。
「暖かいぜ」と魔理沙はもう一度つぶやいてみた。やはり気持ちがいい。今度は先ほどよりも大きな手応えがあった。
「くしゅり」と霊夢がくしゃみをした。
* * * *
「まったくひどい話だ」と僕は呟いた。
外では雪が音もなく降っていて、店の中はいつものように静まりきっていた。
部屋の中央に置いてあるストーブから、炎の燃える音が微かに伝わってくるだけである。
つい30分ほど前では、賑やかであった香霖堂も今は僕一人だけだ。
「日頃から、客などとは微塵も思っていなかったが」と僕はまた独り言を言った。
今さらこんなことを言ってもどうしようもないのに。
「あの二人は、差し押さえ人か何かなのか?」
* * * *
30分ほど前、ある避けようのない不幸な事情により
僕は冬場に重宝していた上着を一枚失ってしまった。
正確に言えば、無くなってしまったわけではない。
しかし、おそらく当分は戻ってこないだろう。
* * * *
ことの発端は魔理沙の一言だった。
「さて、今日も飯とかいろいろ賭けて勝負するか」
辺りが暗くなり始めたころ、魔理沙が霊夢に弾幕ごっこを持ちかけた。
いつものことである。この二人は、たびたび、食事の支度や風呂焚きなどを賭けて、決闘をするのだ。
「それと寒くなってきたから、今日は別のやつも賭けよう」
うん? これはいつものことじゃないぞ。嫌な予感が僕の脳裏をかすめる。
「香霖の上着だ。あれがあれば、きっと寒い思いをしなくてすむ」
「魔理沙、ちょっと待つんだ」
僕は魔理沙に厳重に抗議をした。
まず上着は僕の所有物であるということを主張し
次に二人の決闘に僕は一切関係のないことを説明し
最後に上着が無くなると冬場は非常に寒いということを訴えた。
そしてあっさり却下された。
「いいじゃないか」と魔理沙はストーブを指さしして言った。
「あんな便利なものがあるんだ。十分暖かいじゃないか」
「店の中はいい。でも外出するときは、どうすればいいんだ?」と僕は言った。
言っていて何だか悲しくなってきた。
「あら、霖之助さんは、外になんてほとんど出ないじゃない」と霊夢が言った。
先ほどまでは、暢気にお茶を飲んでいたはずなのだが、今は手にお払い棒を持っていた。
やる気まんまんじゃないか・・・・・・。
「大丈夫。春が来るまで借りるだけだ」と魔理沙は満面の笑みを浮かべながら言った。
* * * *
窓の外を見ると雪はまだ降っていた。今日は急に冷え込んできて、これが初雪だった。
その降り方は、まだ穏やかで、節度があって、紳士的だ。
しかし冬が深まれば、あの二人のように情け容赦ない大雪が、天から攻めてくるだろう。
はぁ、と僕はため息をついた。そう言えば、と僕は今年の夏のことを思い出した。
吸血鬼の起こした異変のせいで、すごく寒かったのだ。
異変が解決した後、少しのあいだ夏が戻ってきたが、すぐに涼しくなり、
秋へと季節が移り、そしてその次に冬がやって来た。寒い日ばかりじゃないか。
僕は上着の無事と、春がなるべく早く来ることを天に向かって祈った。
魔理沙は隣を歩く霊夢の横顔をちらり見て、にやっと笑った。
香霖堂からの帰り路。しんしんと雪が降る中、二人は博麗神社に向かって歩いているところだった。
魔理沙の言葉とは裏腹に、霊夢はまったく暖かそうにはしていなかった。
両腕を体に回し、先ほどから一言も発していない。
できるだけ体温を逃さないよう最善の努力を尽くしていた。
「暖かいぜ」と魔理沙はもう一度つぶやいてみた。やはり気持ちがいい。今度は先ほどよりも大きな手応えがあった。
「くしゅり」と霊夢がくしゃみをした。
* * * *
「まったくひどい話だ」と僕は呟いた。
外では雪が音もなく降っていて、店の中はいつものように静まりきっていた。
部屋の中央に置いてあるストーブから、炎の燃える音が微かに伝わってくるだけである。
つい30分ほど前では、賑やかであった香霖堂も今は僕一人だけだ。
「日頃から、客などとは微塵も思っていなかったが」と僕はまた独り言を言った。
今さらこんなことを言ってもどうしようもないのに。
「あの二人は、差し押さえ人か何かなのか?」
* * * *
30分ほど前、ある避けようのない不幸な事情により
僕は冬場に重宝していた上着を一枚失ってしまった。
正確に言えば、無くなってしまったわけではない。
しかし、おそらく当分は戻ってこないだろう。
* * * *
ことの発端は魔理沙の一言だった。
「さて、今日も飯とかいろいろ賭けて勝負するか」
辺りが暗くなり始めたころ、魔理沙が霊夢に弾幕ごっこを持ちかけた。
いつものことである。この二人は、たびたび、食事の支度や風呂焚きなどを賭けて、決闘をするのだ。
「それと寒くなってきたから、今日は別のやつも賭けよう」
うん? これはいつものことじゃないぞ。嫌な予感が僕の脳裏をかすめる。
「香霖の上着だ。あれがあれば、きっと寒い思いをしなくてすむ」
「魔理沙、ちょっと待つんだ」
僕は魔理沙に厳重に抗議をした。
まず上着は僕の所有物であるということを主張し
次に二人の決闘に僕は一切関係のないことを説明し
最後に上着が無くなると冬場は非常に寒いということを訴えた。
そしてあっさり却下された。
「いいじゃないか」と魔理沙はストーブを指さしして言った。
「あんな便利なものがあるんだ。十分暖かいじゃないか」
「店の中はいい。でも外出するときは、どうすればいいんだ?」と僕は言った。
言っていて何だか悲しくなってきた。
「あら、霖之助さんは、外になんてほとんど出ないじゃない」と霊夢が言った。
先ほどまでは、暢気にお茶を飲んでいたはずなのだが、今は手にお払い棒を持っていた。
やる気まんまんじゃないか・・・・・・。
「大丈夫。春が来るまで借りるだけだ」と魔理沙は満面の笑みを浮かべながら言った。
* * * *
窓の外を見ると雪はまだ降っていた。今日は急に冷え込んできて、これが初雪だった。
その降り方は、まだ穏やかで、節度があって、紳士的だ。
しかし冬が深まれば、あの二人のように情け容赦ない大雪が、天から攻めてくるだろう。
はぁ、と僕はため息をついた。そう言えば、と僕は今年の夏のことを思い出した。
吸血鬼の起こした異変のせいで、すごく寒かったのだ。
異変が解決した後、少しのあいだ夏が戻ってきたが、すぐに涼しくなり、
秋へと季節が移り、そしてその次に冬がやって来た。寒い日ばかりじゃないか。
僕は上着の無事と、春がなるべく早く来ることを天に向かって祈った。
途中の経過が少ないし、終わり方も中途半端かと
次は出来ればもう少し膨らませた話が読みたいです
ある意味日常描くとしては何気ない方がいいのかもしれませんが。
新作、続編書くのならば、楽しみにまっております。
頑張れ霖之助。