Coolier - 新生・東方創想話

倒置法

2009/05/09 19:02:06
最終更新
サイズ
11.69KB
ページ数
1
閲覧数
1130
評価数
14/61
POINT
3530
Rate
11.47

分類タグ


空は快晴、絶好のお出かけ日和。
幻想郷に引っ越してきてから一カ月、博麗神社とのいざこざもやっと収まり、後は平和なセカンドライフを満喫するだけ。
こんな日は弁当片手に山にピクニックにでも繰り出したい。
しかしそんな中私は薄暗い神社で一人寂しく留守番なわけで。

「あーうー……ひまだよー」

思わず愚痴なんかをこぼしてしまう。
早苗がいつも通り里への営業活動に出かけているのはいいとして、今日は里のお偉いさんに会うとかなんとかで神奈子も一緒についていってしまっている。
だったら、神様は多いほうがいい。私も連れて行け、と思ったもんだが、

「えっと、諏訪子様は……ほら! 留守中に魔理沙とかに家のものを盗まれたりしたら大変じゃないですか。ですから、申し訳ないですけどお留守番をお願いできませんか?」

なーんて体よく追い払われてしまった。
どうも早苗は、私のこの愛くるしい見た目が、神様として里の人々から信仰を得るのに不向きだと考えている節がある。カリスマが足りないとかなんとか。
あー、早苗は純粋に育ててきたからわからないんだよなー。
今度、神奈子のようなおばさん神よりも幼女が赴くことで得られる信仰もあるということをしっかりと教えてやらねばなるまい。

大体、いっつも三人(いや一人と二柱か)そろって宴会だのなんだのに出かけてるのに、なんだって今日にかぎって魔理沙対策の留守番が必要なのか。
やっつけな理由にも程がある。
どうしよう。急に馬鹿馬鹿しくなってきた。天狗のとこにでも遊びに行ってやろうか。
けど、一応留守番すると言ってしまった以上、早苗の顔を立てる意味でも約束は無視しづらいしなぁ。

「はぁ、今日のところは一人でゲームでもするかねぇ」

どっこいしょ、と思わず口に出してから立ち上がり、早苗の部屋に向かう。
あの子、留守中に部屋に入られるとあんまりいい顔しないんだけど。

「ま、今日ばっかりはしょうがないでしょ」

変な理屈で一人寂しく留守番させた早苗が悪いわけだし。
しっかし、早苗ってばあいかわらずしっかり部屋の整理してるなー。
勉強机の上のかわいらしい日記帳がものっすごく気になるけど、うかつにあれに手を触れてしまうと向こう一週間はご飯抜きになってしまうことを私は経験上知っている。
そういえば、昨日早苗が里から高級品だと一目でわかる牛肉をもらってきたばかりだった。
今は食事抜きのリスクを冒すべきときじゃないか。
リスクとリターンを冷静に分析できる私、賢いっ!
なんとなく上機嫌になりながら、スーファミと数本のソフトを持ってそそくさと部屋を後にしたのだった。







居間に戻ってさっそくテレビとスーファミをつなぐ。
別に早苗の部屋にもテレビはあったんだけど、どうせなら居間のでっかいテレビで気持ちよくゲームしたいからね。
さっきまで愚痴ってたけど、久しぶりのゲームにけっこうわくわくしてきてるかもしれない。
なんだかなぁ。テレビゲームに夢中の神様なんて、それこそ里の人たちには見せられないような気もするけど。
持ってきたソフトの中から一本選んで、いざスイッチオン! 夢の国へ!

……シーン。

「あっれ、おかしいなー。なんで映らないのさ」

あれだけ上げたテンションが無駄になってしまったじゃないか。
意気をくじいてくれるねー、このスーファミも。
まあ、確かに相当古いもんだからなぁ。
そろそろ寿命なのかしら。
ふーっ! ふーっ!
あ、だめだやっぱり映んない。

「息をかけるくらいじゃ駄目よ。カセットの端子部分を舐めてごらんなさい」
「えっ、マジで!? ……わっ、ほんとに映った! すげぇ!」


……。

「誰だよ!?」
「こんにちは。おじゃましていますわ」

振り返ってみると、胡散臭いすきま妖怪が胡散臭い笑顔を浮かべて胡散臭げに座っていた。
まあ、幻想郷広しといえども私の背後をとれるような奴はこいつくらいしかいないけど。
……ほんとだってば。
しかし、こいつがうちに来るとはまた珍しい。

「こんな昼間からどうしたのさ。博麗神社に行ってはみたものの追い出されでもしたの?」
「ふふふ。ちょっと、いたずらが過ぎちゃったみたいでね。代わりに今日はこちらの神社で過ごさせてもらおうかと思って。……お宅のかわいい風祝はご在宅かしら?」
「……早苗は神奈子と一緒に里まで営業に行ってるよ」
「あら、それで置いてけぼりを食らって一人でいじけてたのね?」
「ほっとけ」

うん?
博麗神社うんぬんは冗談としても(紫のことだから本当に追い出されたのかもしれないが)、どうも紫は早苗に用事があってここまで来たみたいだ。

「お茶を出してもらえないかしらー。お茶請けはこっちで用意するわよー」

とスキマから出てきたのはおいしそうな栗ようかん。
くっ! 栗ようかんを出してくるのか……。
飛び跳ねたい気持ちを必死で抑えてクールにふるまう。
ふ、ふんっ、さっきの無礼は水に流して素直にお茶を入れてやろうじゃないか。

それにしても、紫がわざわざ早苗に会いに来る用事ってなんだろ。
やっぱりあれかなー。この前の博麗神社乗っ取り未遂について幻想郷の管理者として何か言うことがあるのかな。
けど、あれはこっちもそれなりに反省してるし、なにより乗り込んできた巫女やら魔法使いやらに完膚無きまでにぼっこぼこにされたせいで早苗が自信を失っちゃって、いまだにそれを引きずって落ち込んでるんだよねー。
できれば今の早苗にお説教とかはしないであげてほしいんだけど。
それもこっちの勝手な都合かな。







お茶を入れて居間に戻るとなにやら紫がスキマから碁盤と将棋盤を取り出していた。

「お茶飲むだけではなんだし、一局いかがかしら」
「囲碁も将棋もわかんないよ。オセロにしない?」
「……あなた千年以上も生きてて、それはどうなのかしら」

あきれながらも紫はオセロ道具一式を新たにスキマから取り出した。
いいじゃないか。何年生きようが私は興味を引かれないものは覚えない主義なのだ。
それに、はっきり言って自慢だが私はオセロには少々自信がある。
早苗が三歳のころうっかりパーフェクトゲームで勝ってしまい、泣かせてしまったのも良い思い出だ。
オセロをバカにして子供の遊びか何かと勘違いしているような輩には負けるはずがないのだ。
ほら、現に盤上はほとんど白一色。黒がどんなに下手なあがきをしようとも白がそれ以上の勢いで盤上を埋め尽くす。最後の仕上げだ。私は全てが美しく白で染まった盤上にたった一つ空いたスペースに黒を置く。それで試合は決着した。

「はい、私の勝ちですわ。ほとんどパーフェクトね」
「馬鹿なっ! この私が負けるなんて!」
「どうして三歳児に勝っただけでそこまで自信満々になれるのか不思議だわ」

ちくしょう、馬鹿にしやがって。
ふんっ、オセロなんて所詮子供の遊びさ。
そんなのに勝って喜んでるほうが子供なんだーい。
何か、奴に確実にぎゃふんと言わせられるものはないのか……
あたりを見回す私の目に、さっきから電源入れっぱなしのスーファミが映った。本体にささっているソフトは「ぷよぷよ通」

……これだっ!
はっきり言って自慢だが、私はぷよぷよには少々自信がある。
というか、我が守矢一家のぷよぷよレベルは相当に高い。
思い出すなぁ、中学時代あまり友達がいなくて毎日最低五時間、青春の全てをぷよぷよにささげた早苗の姿。
早苗はぷよぷよの修羅となり、町内ぷよぷよ大会でも無敗の三連覇という偉業を成し遂げたのだ。
そんな早苗の下で教えを請うた私が、そんじょそこらの凡人に、ましてや恐らくスーファミに触ったこともないであろう幻想郷住人に負けるはずがない。
この勝負、勝ったも同然だね。くっくっく……。ケロケロケロ……

「……紫、次はこのゲームで勝負しよう」
「あら、ぷよぷよね。懐かしいわー」

ほう、幻想郷の住人と侮っていたが、どうやらぷよぷよについて多少の覚えはあるようだ。
考えてみれば、こいつは結界の専門家。
外の情報を知っていても不思議ではないか……。
だがこうでなければ面白くない。
正直、あまりにあっさり決着が着いたらどうしようかと思っていたところだ。
なまじ半端な力を持っていてしまったが故に気づいてしまう彼我の実力差というものもあるのだ。
絶望を味わいながら沈め! 八雲 紫ぃ!

「行くぞ! 必殺カエル積み!」








「ただいま帰りましたー」
玄関から早苗の声が聞こえてきたのはぷよぷよの対戦成績が 30-0 になったころだった。
どっちが私のスコアかは言うまでもないと思うので省略しておく。
居間に入ってきた早苗は、きょとんとした様子だった。
そりゃそうか。帰っていきなり家の中に紫がいて驚かないのは、そんなシチュエーションに慣れすぎてしまっている霊夢くらいのものだろうし。
このままだと延々フリーズし続けていそうだ。とりあえず声をかけてやるか。

「おかえりー、早苗。神奈子はどうしたのさ?」
「あ、帰りの山で偶然天魔様に会ったのでまだ二人で話していると思います。長くなりそうだったので私は先に失礼させていただいちゃいました。……えっと、それでそちらは八雲 紫……様?」
「紫、でいいですわ。こんにちは早苗さん。おじゃまさせていただいてます」
「早苗、疲れてるでしょ。とりあえず座りなよ。お茶入れてきてあげるよ」
「えっ、そんな。申し訳ないですよ」
「いいからいいから、せっかくの神様の申し出なんだ。素直に受け取っとくもんだよ」

私は早苗が何か返事をする前に立ち上がりさっさと台所へ向かう。
こうでもしないと、早苗はお茶の一つも入れさせてくれないんだもん。
信仰獲得で力になれない分、これくらいのことはさせてくれないと、かえって気をつかっちゃうんだよ。
あー、でも早苗を紫と二人っきりにしといて大丈夫だったかな。
あの子、割りかし人見知りするほうだからなー。
気まずい思いをしてたらかわいそうだ。早めに戻ってやろう。

と思って急いでお茶の準備をしてもどったら、二人はそれなりにうちとけた様子で、さっき出しっぱなしにしていたぷよぷよで対戦していた。
紫の発案なのかな。案外こいつも気を使えるもんだね。
私は安心してお茶の用意をする。
ぷよぷよの方をちらっと横目で見た感じでは、紫がしっかり勝っているようだった。
早苗にまで勝つなんて。なんなのこいつ。完璧超人か。
適当なところで切り上げて三人でテーブルを囲んでお茶を飲む。
オセロやぷよぷよで忙しくて、結局羊羹はほとんど丸々残ったままだ。
私の取り分は減ったけど、早苗がおいしそうに食べてくれたからまあいっか。

「そういや、今日は里のお偉いさんと会ってきたんだよね?成果はあったの?」
「はい。みなさん神奈子様を歓迎してくださって。里にいくつか分社も置けることになったんですよ。」

うーん。喜ぶべき内容のはずなのに声にいまひとつ覇気がない。
笑顔を作ろうとしてるんだけど、目が笑えてないのがちょっと見ればすぐわかる。
やっぱり原因は霊夢と魔理沙にやられたことなのかな。
あの異変以来ずっとこんな調子なんだもん。
なんてことを考えてたら、

「負けたことが悔しいの?」
「え?」

紫の質問は唐突だった。
急な展開に私も早苗も戸惑うばかり。
けど、そんな早苗に紫は薄笑いを浮かべながら語り続ける、
もしかして、これが今日紫がここに来た目的?

「あなたには力があった。それが自分の全てだった。その力があれば幻想郷でも誰にも負けるはずがないと思っていた。けれども、負けてしまった。悔しくて、そしてもう自分に自信が持てない。……違うかしら?」
「それは……」

早苗は答えない。
だけどその表情は苦しげに歪んでいる。
私はこれ以上早苗の苦しむ顔が見たくなくて、自分でも何を言おうとしているのかわからないまま口を開きかけた。
これ以上紫にしゃべらせちゃいけない!



瞬間、紫の放つ雰囲気が一変した。


「そんなに落ち込むことはないのよ」

え?
それは見る者の心を癒す暖かい微笑み。

「最初から強い者なんてどこにもいないわ。それはここであなたが出会った人妖みんなそう。もちろん私にだって未熟なころはあったわ」

あれっ……

「あなたはただ幻想郷での戦い方を知らなかっただけよ。幻想郷では外の世界と違って、常識に囚われてはいけないの」

これって……

「あなたは素晴らしい才能を持ってるわ。自分が未熟だと思うのなら努力しなさいな。つらい時でもあなたは一人じゃないことを忘れないで。あなたのそばの神様たちはいつでもあなたを見守っていますわ」

こいつ、もしかして今日ここに来たのは異変後、必要以上に落ち込んでいる早苗を励ましてくれるためだったのか。
なんだなんだ、こっちにきて以来、胡散臭い奴だと敬遠してきたけど、案外人間臭いところもあるもんだ。
思い返してみれば、幻想郷に引っ越すときもなんだかんだと世話を焼いて手伝ってくれたのも紫だった。
普段は胡散臭い仮面をかぶってるけど、その本質はものすごく優しいやつなのかも……。

なーんて、やっぱりそこまでは信用しきれないけど。

でも今日のところは、お礼を言っておこうか。
ほんとに、ありがとう。

まだまだ話し込む様子の二人を眺めながら、そんなことを考えていた。







「引っ越しの面倒は最後まで。今日のはアフターサービスのようなものですわ」

早苗がお礼を言うと、そんなことを言い残して紫はスキマの中へ消えていった。
やっぱりうさんくせーや。

「私、一度や二度負けただけで何をうじうじしていたんでしょうね。なんだか今では、あんなに悩んでたのが嘘みたいです。あー、すっきりしたー!」

元気な早苗を見るのもしばらくぶりだ。
急に元気が出すぎてエネルギーが有り余ってるよ。
ああ、今日は神奈子の帰りが遅くてほんとによかった。
だって、この後の役目を誰にも譲りたくないから。
外は夕暮れ、まだまだ明るい。
涼しくなってきて弾幕ごっこにはちょうどいい気温だ。

早苗の方を見る。
早苗も私の方を見る。
きっと今私はとびっきりの笑顔を浮かべているだろう。
これから早苗が何を言おうとしてるのかがわかるから。
そして、それに対する私の答えももう決まっているのだった。

早苗がとびっきりの笑顔を浮かべて言う。


「諏訪子様!これから、特訓付き合ってもらってもいいですか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   早「ぷよぷよの」

諏&紫「そっちだったの!?」
しーちきん
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2230簡易評価
5.80名前が無い程度の能力削除
少しケロちゃんが幼すぎキャラではないか?
さすがに将棋ぐらいは知ってろよ神様

カエル積み相手に延々と特訓する早苗。まさかカエル積み対決じゃないだろうなと軽く不安に。

おもしろかったです
8.100名前が無い程度の能力削除
読みやすい文章ですらすら最後まで読めました。面白かったです。
端子舐めればいいとは知らなかったなw

こういう話好きです。ほのぼのしてて。
15.100煉獄削除
ほのぼのとしてて良いですねぇ…。
オセロは強いといったいたのに、負けるはずがないと良いながらも殆ど白一色にされて負ける
といった部分や、ぷよぷよ30-0といった惨敗っぷりにニヤニヤしました。
そして負けて悔しいのはぷよぷよの方ですか…紫さまの言葉をゲームでの事だと
勘違いしたというのもあるのでしょうけど、そんな早苗が良かったです。
文章もとても読みやすく、面白いお話でした。
16.70名前が無い程度の能力削除
あっさり目、でもみんな可愛いや。
17.90名前が無い程度の能力削除
これはいいほのぼのですね。
かわいいケロちゃんと早苗さんに癒されました。
23.90名前が無い程度の能力削除
スキマ様が見てるw
24.100名前が無い程度の能力削除
癒されますなー
25.100奇声を発する程度の能力削除
あとがきにすべて持ってかれたwwww
28.100名前が無い程度の能力削除
神御自らを幼女とのたまうか!!
これはケロ信仰せざるを得まい!!

読んでいて楽しいお話でした。

誤字報告:自信が自身となっている個所がありました。
30.80名前が無い程度の能力削除
五目並べならあ!?
34.100名前が無い程度の能力削除
紫様かっけえ
35.100名前が無い程度の能力削除
青春をぷよぷよで浪費してた早苗さんが大好きです。
43.90kmαZ削除
え?かえる積みってはしっこに積んでくあれ?w
46.無評価名前が無い程度の能力削除
オセロは盤上が埋まる前でもどちらかの色だけになれば
終了なんだぜ
47.100名前が無い程度の能力削除
これは守矢神社を信仰せざるを得ない