いつだって小鈴は本を読んでいるのさ。
それがまあどんな本かはその日の気分によるわけだけど、昨年ほら、東方鈴奈庵が堂々完結したでしょう。
月ごとに巻き起こってた大事件はもう無いわけだから、やっと小鈴にゆっくり本を楽しむ平穏な日々が戻ってきたわけで、そりゃあ気楽なもんだよ。良かったね、小鈴。
にしても、あの最終回にはハッとさせられたよね。
だって幻想少女らと酒飲み合えるようになりました、めでたしめでたしって。
そんなオチっていうか解決策はさ、予想外だよ。ゆかりん、すげえや。
けどね、俺はズルいとも、ちょっとだけ思ったんだよ。
だって羨ましくない?
アレだよ、小鈴さあ、あんだけ色々ハチャメチャやっといて、結局うまいこと行くって、それじゃまるでジャージャービンクスじゃん。ひんしゅくを買っちゃうよ、ねえ。
俺だって霊夢とかと酒飲みたい。思わない? 俺はそう思う。
あの宴会に自分が参加するSSが書けたなら、ジャージャーみたいにバカにされても、最近のスターウォーズみたいに低評価でも、良いやって思うのさ。
だから、俺、まず小鈴のその平穏な日々ってやつにお邪魔して、巧いこと仲良くなってさ、あの宴会に混ぜてもらおうと思ったんだ。
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鈴奈庵は人里の貸本屋で、平屋造の瓦屋根に鈴と奈と庵の看板が掛けられてる洒落乙な建物だよ。みんな、知ってるね。
二ひらの暖簾は紫色してて、紋は……何かね、これ、たんぽぽ? もしくはカブ?
どうして鈴奈庵でカブなんだろうね。カブの語源は被る=頭って意味らしいから、ここに来るには頭が必要ですよって言ってるのかもしれないね。
いや、どの店だって頭がなくちゃ困るけど、この店は知性が要るからね。殊更に必要ですよって注意してくれているんだろうね。ありがたいね。親切だね。――ええ、はい、この程度の頭の人が主人公で作者です、ごめんよ。
或いは、ほら、スズナからかもね。鈴奈庵だけにね。クソくっだらねえ(情緒不安定)。文章ダラダラしはじめてるし、もうあんま長くは語らないけど。
俺は暖簾をくぐることにした。
こう、手を伸ばして押しのけて、撓ませる感じ。
「いらっしゃい」と、一声。少女のハキハキした挨拶だ。
本を机に乗せているから、きっと読書中だったのだろう。外の明るさが眩しいのか、メガネの奥の眼をショボショボ瞬かせてる女の子が座っていた。
「小鈴ちゃんだ、この子、本物の小鈴ちゃんだ。すげえ」
俺は嬉しくなって、ミーハーな高校生みたいなセリフを言った。
「はあ、これは、どうも」
すると、あらまあ、彼女はその嫌な予感ってモンを隠さない表情をした。
ともあれ歓迎されていなかろうが入店はする。するよ。俺はまるでおもちゃの兵隊さんみたいに足を高く上げて行進した。右足、左足、右足、右足、左足、左足、右足、左足。
「え、何をしてるんですか」
「お客さんをしてるよ」
「不審人物でしょう」
「いや、お客さんだよ」
俺はきっぱりと宣言した。それはもう毅然として断固として確乎として告げた。
「それで、俺はどの本を借りれば良いのかね」キザっぽく、言った。「金ならあるんだ」
「知りません。決まったら持ってきて下さいね」小鈴はまた本に眼を下ろした。
思わず慌てた。これは、あれだ、全く相手にされてないよ。こうなっちゃ詰まらない。
どんなに冴えない幻想入りSSだって東方少女に興味を持たれるところから始まるのに、もう、そのスタートラインにすら立ててないよ。
必死になって、俺は何か巧いことを言おうとした。
「君はレストランでシェフのおまかせコースとか知らないのかね。俺はそういうのを所望します」
すると小鈴は警戒心マックスなご様子で、かつ面倒臭そうな顔で言った。
「ここは貸本屋だし、大体のお店ではメニュー見て自分で決めますよね」
「メニュー! そういうのもあるのか!」
「ないです、残念でした。そこいらの本棚の本を勝手に見て下さい。汚さないで下さいね」
そして小鈴は再び本の虫、俺は店いっぱいの本棚のスシ詰めを眺めてゲンナリした。
これは謝るべきだろうね。みんなも、小さな女の子と諍いした時には先に謝るようにしようね。大きな女の子の時もそうだよ。年上の女の子の場合は……そうだよ。
「すみません、調子乗ってました。許して、許してクレマチス」
「……まあ、こちらも接客業ですし、少し大人気なかったです」
そう言って、本から顔を上げてくれた。この子、良い子ねえ。
「それで、何かおすすめして欲しいジャンルのリクエストはありますか」
「そうさね」俺はとりあえず色々言ってみることにした。「アクション超大作、内容は近未来な感じと時代劇な感じを両立してて、それとコメディでシリアス、ロマンスありきのハードボイルドで、マジックリアリスムとかいう頭が良い人が読むようなのも含めつつのシンプルな筋書きで、アッと驚くようなトリックの殺人事件だけどギリギリ真犯人に気付けるくらいの難易度で、読んでると凄いねって褒めてもらえるけれど実は読みやすい、そんな本が良いかな」
「『日が暮れた。一番星が煌めきを強め、月は牧草地や小麦畑を照らしていた。刺青の男の肌に描かれた絵は薄暮のなかで浮かび上がり木炭みたいに赤々と輝いていた。それは埋め込まれたルビーやエメラルドのようだった』」
おや、これはヤバい。本の朗読を始めてしまった。読書家がよくやる怒っているアピールだ。
「じゃあ、はい。最後のだけで、読みやすい本でお願いします」
「そうですねえ」
そう相槌をうちながら、小鈴は本に栞を挟んでパタンと閉じた。
ちゃんと相手してくれるらしい。良い子ねえ、この子。
「なら、その『む』の棚の、一番左側に置かれている本なんてどうでしょうか」
そう言われて、その本を手に取った。タイトルは『ムーミン谷の彗星』ってやつだ。
俺は「ふうん」とか「ほほう」とか、もっともぶった相槌をうちながら、しげしげ表紙を眺めた。アニメとかで見たことのある、カバみたいなキャラクターが描かれている。
「これは読みやすいのかね?」
「まあ、優しい話ですし、読書の入門と言えるのではないでしょうかね」
「なら、これにしよう」
「御気に召して頂けたなら良かったです。じゃあ、お代についてですが――」
ガメつく金勘定に入った小鈴を尻目に、俺は懐から短冊と筆ペンを取り出した。
短冊に『ムーミン谷の彗星』とサラサラ書いてから、それをおもむろに口に運ぶ。
「ムンチャ、ムンチャ、ムンチャクッパス」味は紙、口から鼻に昇る芳香も紙、歯ごたえは紙で、飲み込んだ後の余韻も紙だった。あと墨。美味しくないよ、マネしないように。
「ええ?」と、小鈴が算盤を片手に人を見下す時の顔をした。「ちょっと何してんですか」
「いや、ムーミン谷の彗星ってどんななのかなって」
「まさか、本を食べる気なんですか」
小鈴が眉を上げた。語勢もキッと強くなる。
「ここは貸本屋です。本を、貸す、お店です。食べるための本を探しているなら普通の本屋に行って下さい!」
「いや、違うよ。それは違うよ。違う違う、全然違うよ」
俺は否定の言葉を並べ立てた。俺は否定の達人なんだ、例えば『自己』とかね。
「俺はね、ちゃんと読むつもりだよ。でもね、その世界がどういうものなのかってことを知ってから読むのも良いかなって、そう思ったんだよ」
「はあ?」まるで、さも、いかにも、よもやキチガイを見る顔で、小鈴は算盤を振った。「とにかく、仮にその本が破損した場合、弁償金ってものを払ってもらうことになりますよ。その時はええと――」
そう言って、小鈴が算術に集中した瞬間、世界が暗転した。
時間にすれば数秒もかからなかった。一瞬が三つくらい重なった、それくらいの連なりで、周囲が光を取り戻した時にはもうそこは鈴奈庵ではなかった――何か格好良い文章だね、気取りたくないけど。
とにかく世界が変わったわけだよ。そこは幻想郷じゃなくって、えっと、どっかの谷底だった。
チバニアンみたいな地層の岩肌に挟まれていて、今しがたに光を取り戻したって言ったけど、その光では殆ど輪郭しか分からないくらいの薄明かりの世界で、両隣のその断崖は登るにしても人の手では難しそうな急峻だった。
そのくせ空気が濃い、ってか、重い。
自然の大気が鼻にぶつかってくるような、そういう濃厚な大気の世界。絨毯みたく敷かれた苔やシダから浮かび上がる酸素が四方八方に満ち満ちている。
そんな世界で、小鈴はまるで電気切れのロボットみたいに止まってしまっていた。
固縮とか、もしくはカタレプシーかも知れない。カタプレキシーじゃないよ、カタレプシー、ここ注意ね。
ほら、パッチ・アダムスって映画でずっと手を上げたまま固まってる患者さんが居たでしょ、あんな感じ。統合失調症とかで見られるから、リスペリドンってお薬が効くかも知れないね。あとはSSRIとか。
だけどこの症状は悪性症候群との鑑別が難しいんだ。似たような症状だけど、治療法が真逆だから、鑑別しないわけにもいかないんだよね。
まあ今は俺もSSの主人公ってやつだからね、巧いこと鑑別しましょう。こういう時はね、おでこを触ってみると良いよ。熱とか汗とか、そういう体内事情が分かるからね。
んで、小鈴の額を触ってみると、じんわり汗かいてる割りに熱が無い。多汗は悪性症候群の症状だけど、発熱が無いなら悪性症候群ではない。もちろんどちらも例外はある。
つまり、ぜんぜんワカンネってこと。
なら疎通性の有無を確認しようか。意識レベルは? GCSはなんぼなん?
「はい、小鈴さあん。ここがどこだか分かりますかあ?」
「え、は、え? ここはどこ?」
「はあい、∨4ですね。ここはムーミン谷ですよ。まあ、たぶんだけど」
まあ、どうやら聞こえてはいるらしい。なら疎通性はある、悪性症候群とみなして治療しよう。
え、治療法? 原因薬の中止だ。なので小鈴にヤクを止めるよう説得せねばならない。
「君ね、何か薬やってる? 薬はご両親を悲しませるよ。ダメだよ」
「くすり……? 薬なんて飲んでない。少なくとも、さっきの、あの瞬間まで」
「ならアルコール離脱かな。ちょっと酒量が多すぎるね、幻想郷は。そんなんじゃ幻覚とか見えちゃうよ」
「幻覚? ――ああ、そっかあ、これって幻なのね? うふふ、そうよね、訳分かんないもん」
不思議な納得で、心が落ち着いてくれたらしい。小鈴の硬直は解け、元気に動き始めた。ウキウキと、まるで童心を取り戻したように、算盤なんてポイッと捨てちゃってさあ。
それ見てたら、なんだか俺も嬉しくなってね、一緒にはしゃぐことにしたよ。いえい。
「ここがムーミン谷なんですね!」
「そのはずだよ。俺は『短冊に本のタイトルを書いて食べるとその世界に飛べる程度の能力』の持ち主だからね。最近、ふと目覚めたんだ。偶然にね、ふっと覚醒したわけだね」
そう、俺はそういう能力者だったのだよ。
本当はここで深い理由とか理屈とか、少なくともスパイダーマンがスパイダーマンになった原因くらいの事件を考えておけば良かったんだけど、そういうの難しくて全く思いつかなかったんで、ごめんなさいね。
「凄いですね、凄い、素敵!」
でもほら、小鈴は喜んでます。とにかく小鈴が喜んでいます。どうしてあなたは、そんな小難しい事情を必要とするのですか。小鈴が喜んでいるのが分からないのですか。
そう意固地にならないで下さい。物語なんてそういうものなんです。スーパーマンがあんなに強い理由、宇宙人だからってそれだけですよ。それと同じじゃないですか。
俺はそういう能力者なんです。それで良いでしょ、許して、許してクレマチス。
「私、子供の頃からムーミンが好きで、だから、今は良い気分です。最高に『ハイ!』ってやつだアアアハハハ!」小鈴はスマイルした。まるであの漫画のキャラクターみたいにね。
「良かったなあ、ノォホホノォホ!」と、俺もあのキャラクターみたいに笑った。
二人して笑い合っていると、ふと急斜面を妙な生物が転がり降りて来た。
それはツチブタとカンガルーの間の子みたいな生物で、どうやら二本足で歩く系統の生物だった。つまり両手を自在に、五指を把握に使える、高等生物と考えられる。
「スニフ、あれスニフだ、わあい」小鈴がはしゃいだ。
俺はそんな小鈴を眺めているうちに、ちょっと大人な雰囲気を出すことにした。わちゃわちゃしてばかりいても子供っぽいしね。「ちぇ、変な名前だなあ」なんて、精一杯に大人みたいなことを言った。
そのスニフとやらは、何か別のものに夢中であるみたいで、俺達には全く気付かなかった。
彼のお目当ては、どうやら、周囲にあまり沢山転がり過ぎていて、もはや俺達が注目していなかった物体に向けられていた。何と、赤い宝石だ。ルビーとか、ガーネットとか。
苔の絨毯にまぶされていた、その美しい宝石に気付いてね、俺はもうビックリしちゃったよ。何せ、本当に綺麗だった。一粒一粒が、拳くらいの大きさの炎みたいで、しかも赤透明から発せられる輝きには全然くすみが無いわけだ。
両手に一個ずつ、手に取った。ずっしりと重い。それに研磨すらされていないはずの断面が自然の作り出したジェムの多色性を見せてくれた。
純粋な赤色に溶け込んだ乳白色って想像できるかい、まさにそれが掌に乗っているわけだよ。
俺は満面の笑みで小鈴を振り返った。当然、小鈴もこの宝石拾いに参加するものと思ったんだ。
けれども、小鈴の顔は、蒼白していた。
またカタレプシーかと思いきや、今度はその身体は小刻みに震えている。
まぶたがひくひく攣縮していて、これじゃまるでジストニアだ。鑑別は再度のアルコール離脱、或いは寒くなっちゃったのかもね。
「どうしたの、寒いの? 露が下りたのかな。もしくは、そう、露が下りたのかな」
「ここ、やばい、そうだ、ここ、そうじゃん、なんで、やばい、どうして、うそ、やだ」
小鈴は出来の悪いSSみたいな、会話の脈絡がおかしい人みたいになっていた。∨3だね。
このSSの出来の良し悪しはおいといて、登場人物が自分から出来を悪くしていくスタイルは良くないのではないか。――などと考えていると、スニフがフリーザみたいな悲鳴を上げて逃げ出していた。
それは這々の体といった有様で、まっこと情けないことに四足で駆け抜けている。
所詮は珍獣だね、げらげらだね。人間様のように二本足で逃げるとは思いつかぬらしい。
となりから、おそらく小鈴の鼻息が聞こえていた。随分と荒い。まるで階段を登りきった後のお太りなる人みたいな深い深い鼻呼吸。俺は小鈴を嫌いじゃないけど少し鬱陶しい。
なので反対側を向くことにした。
すると「ふぎゃああ」という猫めいた奇声と諸手を上げ、逃げて行く小鈴の背中が見えた。あ、転んだ。ドロワが丸見えだけど、見たら可愛そうだから目を逸らしてあげよう。
でもおかしい、と俺は思った。小鈴はこちらに居たみたいだ。
なら、その反対側にある鼻息の主は誰だろうか。
俺はそちらを確認することにした。そっちを向く、と、そこには巨大生物がいた。
背中が剣山のように刺々しい、体長十メートルはあろうかというオオトカゲだった。
そこが河だったらカバと勘違いしてたかもしれないよ、何たって凄い口をしていたからね。
ぱっかり開いた口はペンキで塗られたみたいに真赤で、生えてる牙ときたら一本一本が俺の腕くらいあるし、ギョロリとした眼は大地に転がる赤い宝石みたいな赫灼(キラキラってこと)にたぎっていた。
俺はとりあえず異文化コミュニケーションを試みることにした。なろうとか、冒険小説とか、英語の教科書みたいにね。
「ハーイ、カバそっくりだけど、君がムーミン? 会えて嬉しいよ。ここは良い谷だね」
すると彼は大きく吠えて、こちらを威嚇してきた。耳のジンジンする剣幕だ。
「おいおい、よせよ。そんな挨拶があるかい。ちぇ、ムーミン、あっち向いちゃえ」
「ちょっと、ねえ、帰る方法は! 手段は! 手立ては! ここから帰るには、どうするのお!」と、恐慌(ガクブルってこと)の声が聞こえた。小鈴だろうかね、今度こそ。
「いや君、せっかく来たんだからムーミンに挨拶すりゃ良いじゃん。モジモジしてないで、触らせてもらいなよ」
「そいつはムーミンじゃない! トロールじゃないっ! 助けて誰かっ、霊夢さぁんっ!」
小鈴は声をも枯れよとばかりに叫んでいた。それはもう、たぶん、彼に失礼なほどに。
その大声に対抗しようとしたんだろうね、彼はその野太い尻尾をもたげ、ビタンと大地に叩き付けた。さながら地震のように大地が震えた。しかもそれを何度も繰り返すものだから、全身が振動のせいで足の底からビリビリしちゃう。
「人違いしたね、ごめんよ、許してクレマチス。えっと、じゃあ小鈴、彼の名前は?」
「知らないわよ! モンスター! 怪物! 妖怪!」涙とヒステリーの混ざった声だ。
「それはどれも種族の名前であって、彼の名前ではないのではないのかね、ん?」
例えば沢山の妖怪が参加している場所、宴会とかで、やいやい妖怪やい!と呼んだら、みんながみんな振り向いてしまって呼名の意味を成さないのではなかろうか。
「無いのよ、名前なんて! 無いの! ムーミンの道中の魔物よ! つーか、お客さんどうしてそんな平然としていられるわけ?! 意味分かんない、ほんと意味分かんない!」
顔中を涙でいっぱいにして、ほとんど狂乱状態に陥った小鈴が泣き喚いた。
「いや、ほら、俺も幻想郷を知ってから長いしさあ。こういう怖い系に対してのまじないっていうか、心を落ち着かせる方法も持ってるしね。教えてあげようか」
「うるさい、バカ、黙って!」
「じゃあ、教えないでおくよ」
「教えなさいよ、バカ、話して!」
こういうのをきっとアンビバレンスというんだ。矛盾って女の子の特権だよね、尊い。
まあでも可哀想なので、俺は自分のとっておきの方法を答えてやることにした。
「ではね、まず眼を閉じて、緑色のミディアムヘアの女性を思い浮かべるんだ。くせ毛だけど、まあ綺麗な髪の毛で、遠くからでも獲物を誘い込むみたいな甘い匂いをさせてる」
「……ん?」と、眼を閉じた小鈴が唇を尖らせるけど、俺は構わないで話を続ける。
「んで、その眼はここいらの宝石と同じ赤色で、唇はちょっと薄めだけどニヤニヤしてる。彼女は日傘を持っているんだけど、その窄まった傘をこっちに――」
「ああ、これ、アホだ! アホがするヤツだっ!」と、彼女は言った。「でも悔しいけど、何か落ち着いてきたっ! 下らなくて、下らなさすぎて、逆に落ち着いてきたっ!」
困ったことを目の前にした時にはね、とりあえず他のことを考えたって良いのさ。
オオトカゲとか隕石とかね、確かに怖いんだけどさ、本当に怖ろしいものを知っておくと、こういう時に思い起こすことができる。すると眼の前の恐怖が生易しく感じられて、醜態を晒さずにすむ。
こういうのをヴェーバー・フェヒナーの法則っていうんだよ。ばかのひさんのSSで見た。
そんなこんなで、小鈴は可及的速やかに精神状態の回復をみせた。
震えは、もうない。すっくと立ち上がり、スカートの乱れをポンポンと払って、どこかおずおずとではあるがオオトカゲに相対した。俺のちょい後ろくらいに立つ。
「ね、マシでしょ?」
「確かに、マシだわ。全然マシ。寧ろ、この子がチャーミングに見えてきた」
小鈴の涙は一瞬にして乾いて、それでも少し残っていたが、それを百戦錬磨の戦士みたく腕でガサツに拭った。一皮むけたって言うんだろうね、こういうのは。
その一方で、どうやら今度はオオトカゲが動揺していた。尻尾の乱暴を鎮め、戸惑っている。俺達が自分を恐ろしがらないことを、不思議に思っているのだ。
でもトカゲさあ、仕方ないじゃん? いっくら怖くても、やっぱ上には上がいるわけよ。
「触ってみたら? 何か尻尾のビタビタも緩まって大人しくしてくれてるし」
「いや、それは……遠慮します」
「あのねえ、こういう体験はね、滅多にないよ。経験は買ってでもしろって言うじゃん」
しかし、そう言ってやっても、小鈴はグズグズしている。
俺は、他ならぬ小鈴のためにも、心を鬼にせねばならないと思った。だから息を整えて、何かとんでもなく怖ろしいものを見て発狂した人みたいに叫んだ。
「うわあ、よりでっかいのが来た!」悲鳴にビブラートを乗せて、声のカスれを忘れずに。
発狂した人のマネはね、よくみんなから名演って言われるんだよ。何でかな、何でかね。
「ふぎゃあああ!」
もっと大きいのが来たって勘違いした小鈴はまるで不意に水を浴びせられた猫みたいに前へ飛び跳ねて、巨大爬虫類にしがみついた。まるで彼が怖くなくなったみたいにね。
こういうのをヴェーバー・フェヒナーの法則っていうんだよ(二度目)。ばかのひさんのSSで見た(強調)。
幻想少女の抱擁って素晴らしい体験を得たオオトカゲは相当にびっくりしたようでね、おっきな口をギュッとさせてさ、その赤い瞳で小鈴を見つめたまんま硬直してしまった。
「御気分は?」とりあえずきいてみた。
「思ったよりヒンヤリしてて気持ち良い」と、感情のでんぐり返った冷静な声が返った。「ただ、これだけは言っておくわ。私はもう今後一切、あんたってお客さんには敬語を使わない。あんたに払う敬意は消え失せたわ」
そう言ってトカゲの鼻先から降りる小鈴に、俺はおもむろに頷いてみせ、「素敵だね」と、キザっぽく言った。
俺は改めて、今度は頭の良い人っぽくオオトカゲを観察してみることにした。刺々しい彼の背中に並び立った剣山は、きっとステゴサウルスのそれと同じルーツのものだろう。
ステゴサウルスの一番有名な特徴である背中に連なった板は、攻撃とか防御とかそういう武装的なもんじゃなくて、体内の温度を調節するための放熱器官だったらしい。そう、インターネット百科事典にも記載されている。
彼が尻尾を威嚇的に振るっているのも、ステゴサウルスの特徴と一致する。ステゴサウルスは尻尾を打ちつけて戦う系ザウルスだったからだ。これもインターネット百科事典。
そして最も重要な考察としては、だ。この谷底には彼以外の生物が、彼と同種のものを含めて見受けられない。潤沢に敷き詰まっている苔とかシダを、除いては。
ならば彼が普段は何を食して生活しているかというと――当然、この谷底に有り触れた『植物』という可能性が高い。
幸いにして、ステゴサウルスは草食動物として記載されている。サンキュー、インターネット百科事典。
もちろん宝石を目当てに谷底へ下りてくる欲深生物を餌にしているという可能性もある。ただ効率は悪く、そんな手段では彼の巨大な肉体が必要とするエネルギーを得て行くことは難しい。『待ちぼうけ』は韓非子のNGとして有名だよね。
「――だから彼は草食動物だよ。顔こそ有尾目に似てるがね、ステゴサウルスの亜種さ」
「そういう付け焼き刃な知識をひけらかされても困るんだけど、まあ、私達が未だに食べられていないことを考えると、案外それで正しいのかもしれないわね」
でもさあ、と小鈴が更なる質問を被せてくる。
「なら、どうしてこの子はこんな鋭い牙をしてるのよ」
「そりゃあ、何か硬いものを食べることもあるからだろうね」
「硬いものって何よ」
「さてねえ」
俺は腕組みして首を傾げた。果して、苔やシダ以外に食べられるものなんて周辺にあったかな。
――などと、ややこしい考えを巡らせていた俺達を尻目に、彼は、その大きな首を地面に向けた。
どうやら苔を食べるらしい、と、そう思っていたのも束の間、何と彼はルビーごと苔を口に含み、ムシャムシャを始めたのである。
「ゴリゴリいってるね。これは、凄いな、ゴリゴリいってるね」と、俺は言った。
「もったいない……そもそも、宝石って栄養になるの?」
「少なくとも彼は栄養にするんだろうね」
というより、この世界の宝石が俺達の知っている宝石と同じ成分であると考えるほうがおかしいんだけどね、そこまで考えるのは、本題じゃないしさ、必要ないでしょう。
「んで、話を戻すんだけど」
「お客さんと私、何か話なんてしてたっけ?」小鈴は辛辣な混ぜ返しを言った。
「彼の名前についてだよ。無いなんておかしいだろ」
「物語にはよくあることでしょ」
そうかも知れないね。だって名前とか俺にも無いし、そういうどうでも良い感じのキャラクターだったのかもしれない。
ただ登場人物を怖がらせて、その怖がる様子を読者に見せるって、それだけの怪物だったのかもしれないね。
でも、それって良くないんじゃないかなって、そういう反逆的な気持ちが俺の中で風船みたいに膨らんでさ、失礼だって承知はしてたんだけどね、思わず言っちゃったよ。
「そういうのは無責任だよ、彼が気の毒だ。これは作者の責任だぞ」
「んーなこと言ったって、もう彼の出番は終わったわ。スニフ、もう行っちゃったもん」
「それでも、せめて名前を与えてやるべきだ」
鈴奈庵はさ、ぶっちゃけ、俺がSS書かなくても誰かが二次創作やると思うんだよ。ハルカチャンネルさんとか。
けどそれは小鈴が人気者で、何よりちゃんと名前があるからであって、名前も無い、なんにもない、そういうキャラクターじゃあさ、いったい誰が作ろうって思うんだい。
ムーミンって、すごく有名じゃないか。世界的じゃないか。その作品の登場キャラクターなんだから、彼ももっと注目されて当然じゃないか。
ボバ・フェットとかビックスとかウェッジみたいな有名な脇役達と肩を並べていても不思議じゃないんだ。
でも彼は知られていない。
ずっとこの谷底さ。
しかもストーリーが通り過ぎた、こんな谷底ではね、誰ももう覗かないよ。
きっとスニフだって覗かないのさ、そうだろ?
「気持ちは分かるけど、もう作者さんは亡くなっちゃってるわよ」
小鈴は顔を辛そうに歪めて言った。
だから俺は、却って、下らないくらい可笑しなことを提案することにした。
「じゃあ、作者の名前にしよう。フランケンシュタインの怪物がその博士の名前で呼ばれるようになったみたいに、作者の名前でこの子を呼ぼう」
「作者の名前って、ヤンソン?」
「いや、お客さんってんでも良いけど」
「そうね、ヤンソンにしましょう」と、俺を無視して小鈴が決めた。
小鈴は、ヤンソン(仮名)の鼻にあたる辺りを撫でた。
「あなたは今日からヤンソンね。ヤンソン、ヤンソン」
と、そう言いながら、小鈴は俯いてしまった。気分が悪くなったわけじゃないと思うよ、たぶん。だって痛いとか辛いとかそういうんじゃなくて、悲しそうな顔をしていたからね。
「――ごめんね、ヤンソン。私、この本を何度も何度も読んだのに、あなたのこと、最初は忘れちゃってたの。名前がないって、そういうことよね。けど、ヤンソン。もう私、あなたのこと忘れないわ」
小鈴は美少女の範疇に入る少女だし、そういう可愛い娘に名前を覚えてもらえるなら、そこそこ嬉しいよね。良かったね、ヤンソン(仮名)。
と、その時だ。上から声が振ってきた。
「おうい、きみらはまだあがってこないのか。」
誰の声だか、俺は分からなかった。けど、小鈴はすぐに分かったらしい。飢えたワンちゃんみたいになって、ヤンソンをうちすて、口を半開きにハアハアさせて中空を仰いだ。
「ス、ス、ス、スナ、スナ、スナフキン?!」
女性の読書家の皆さんが向けるスナフキンへの憧れって異常だよね。嫌いって人はおろか、別に好きじゃないよって言う人すら見たことない。みんな好きって言うよ、不思議。
「いや、俺達は大丈夫だ、もう少しだけここにいるよ」
吃音症の人みたいな感じになっちゃった小鈴に代わり、俺が答えた。小鈴が足を踏んできたが、彼女のウェイトは軽いんで特に気にならなかった。
「君達は君達の旅を続けてくれたまへ」
「ふうん、そうかい。」
「ただ――」
そこで、俺は次の言葉を言うべきか言わぬべきか少しだけ迷ってから、やがて言うことにした。
「たまには、この谷に来て、この谷底を覗いてやってくれないか。ヤンソンがいるから怖いかもしれないけれど、たまに覗くだけで良いんだ」
「それくらい、かまわないさ。」
彼は快諾してくれた。俺は安堵したよ。もう、ヤンソンは、孤独じゃないだろう。
「ありがとう、君は良いヤツだね。きっと世界的な人気者になるだろう」
「私もファンの一人ですよ!」と、小鈴が俗物心MAXな顔で言った。
「へえ。けどね、あんまりだれかを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ。ぼく、よく知ってるがね。」
彼は大して面白くなさそうに、そっけなく答えた。
「それで、きみらはなんて名前?」
「俺はハン・ソロです」と、パッと思いつく限りで最も格好良い名前を言った。
「おこがましい!」と、小鈴が悲鳴を上げた。
「ちなみに彼女はチューバッカです。チューイと呼んでやって下さい」
小鈴がまた足を踏んできた。ウオォォォルルル(ウーキー語で止めてという意味です)。
「ぼくら、行かなくちゃいけない。じゃあね、ハン・ソロ、チューイ。」
彼は俺達の喧騒をもじもじして眺めていたが、やがてそう言って去っていった。
「チューイじゃない、チューバッカじゃないっ! 小鈴って呼んでええ!」
と、そういう悲鳴を後にして、世界が薄っすらと暗がりを帯び始めた。
自分の名前を呼んでもらおうとして必死な小鈴の隣で、俺はヤンソンに目を向けた。
消え行く俺達に向かって、彼は、そのギザギザな牙の口を三日月みたいに歪ませてさ、目を細めていたんだ。
それがまるでね、俺達に、笑いかけてくれたみたいに見えたよ。
「さよなら、ヤンソン。さよなら」
「ズ、ナ、ブ、ギィ、ン、ン、ン!」
「小鈴さあ、ヤンソンのこと忘れてない?」
こうして、俺達は幻想郷に戻ってきたんだ――。
@
小鈴にとってサイテーな一日だったその夜は、もちろん博麗神社で宴会だった。
小鈴は当たり前に参加していて、魔理沙あたりと隣り合っておビールの一杯でも楽しそうに飲んでいるよ。
「すませーん、すませーん」
変な声が神社の入口から響いてくる。みんな、もう、誰だか分かるね。
この後の展開を、小鈴はほとんど予感していたから、あまり周りの音を聞かないようにして凄いハイペースでおビールを進めていたんだ。
おビールは黒おビールだった。幻想郷だと、神社以外ではあまり見かけないものだよ。
「すませーん、この狛犬ちゃんに不審者扱いされて通れないんですけどお」
たりめーだ、と小鈴はどす黒い感情を内々に隠しつつ、黒おビールを口に運んだ。
喉越しは悪くないね、もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「あの、無視しないでって、ねえ、小鈴、こっち向いて」
ソーセージと合いますね、これ。ジューシーな肉汁と、一緒に飲むと、カラッとする。
もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「ちょいと、こっちを向けって、やい、この炊事ブラシめ」
ああ、読んだみたいね、って。まあ貸本屋だしね。それだけは分かってやったんだよ、小鈴は。なんせ、その悪口は本に登場する悪口だったからね。
んーなことよりザワークラフトはキャベツですよ魔理沙さん。レタスじゃないんですよ。
もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「こんの火男野郎め、チルノも書かねえで何してやがんだ、老いぼれネズミめが。お前は死んだ豚の昼寝の夢みたいなやつだ」
ああ、最後まで読んだみたいね、って。まあ貸本屋だしね。それも分かってやったんだよ、小鈴は。なんせ、その悪口は本に登場する悪口だったからね(二度目)。全部そうだからね(強調)。
それより、あらあら、キャベツはアブラナ科で、レタスはキク科ですよ。うふふ、魔理沙さん、うふふ。
もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「俺がここを押し通れない臆病者だとでも思っているのかい。そんなことはないぞ、なにせ俺には勇気があるからね。こんな、ぽっと出の古株キャラとかいう矛盾狛犬をどかすくらい――何だ、誰だ俺の肩を後ろからポンポンするのは」
もういっぱい下さいな。もうダメよ、って霊夢さん。だってあんたもうベロベロだもの。
「なにせ俺には勇気があるからね、クールに後ろを振り返るぜ――あっ、怖い!」
声の勢いが止まった。どうやら『本当に怖ろしいもの』と対面したらしい。
「あ、いえ、違います」否定。
「違います」端的な否定。
「全然、違います」少し強めな否定。
「ほんと違います」だいぶ強めな否定。
「いや、だから違うんで」否定の強調。
「マジで、違います」にべもない否定。
「あなたに言ったんじゃないです」部分否定。
「そっち向いてなかったでしょ」理論的な否定。
「ね、違うでしょう」理解を求める否定。
「違っ、違うと思います」譲歩。
「いやあ、違うんじゃないかな」懐疑的な否定。
「違うって、俺は信じてます」願望的な否定。
「あれ、そうだったのかな?」自己否定。
「あっ、いえ、いえ、いえ、違うんです!」命がけな否定。
「それは勘違いです」哀訴調な否定。
何だか眠くなっちゃった。泊まっていけば、と魔理沙さん。勝手を言うな、と霊夢さん。親御さんが心配なさるでしょう――って、霊夢さんはやっぱり優しいよね。
「命? 命はダメです。命であがなうと、それは、もう、死んじゃうんで、許して、許してクレマチス――あっいえ、いいえ、ふざけてないです、ふざけてはいないです」
ふざけてるだろうが、と小鈴は内心で思ったよ。
「あっ、あっ、あっ、命なんかより、これはどうですか。あなたの目にそっくりな色の宝石ですよ。ほら、ほら、どうです、ねえ。――そう、そうです、そうやって手に持つと良くお似合いで、ええ、そうスね、口元に運んでも……え?」
ガリ、ってね。硬いものが砕ける音がした。
決してそちらを向くまいと思っていた小鈴だったけどね、これには思わず向いちゃった。
風見幽香が手に持った宝石には誰かの歯型が付いていてね、しかも彼女は何だか口をモグモグさせているんだよ。
「美味しい」とかって、スマイルした白い歯のスキマには、赤くてキラキラな粒々が煌めいていたんだ。
その口元は、彼女を愛する人にはホッペを火照らせるエッルォだったし、彼女を恐れる人には恐怖を催させるグッルォだったに違いないのさ。
作者には後者だった。もう、そりゃあもう、後者だった。映画序盤の、排水口でスマイルするペニーワイズより心臓に響く。つーか、トラウマ。
まあ、ともあれね、あろうことかこの妖怪、宝石を食ったわけだよ。ヤンソンと一緒だね。
これには万座びっくり仰天。誰もがゆうかりんに大注目。
「あ……あの、気に入って下すったなら――へ? もう帰って良い? いや、俺は宴会に参加す――あっ、あっ、やはり俺じゃあ力不足だったようだぜ! ここは後日またあらためて出なおすとすっか! お客さんはクールに去るぜ」
クールどころか短距離走くらいのスピードでワゴーンして行くバカに背を向けて、風見幽香は境内に敷かれた赤い毛せんに上がりこみ、食いかけの宝石を博麗の巫女に放ってやりつつ小鈴の近くに座ったのさ。
「知り合い?」
「いえ、ぜんぜん」手を振り、小鈴はあっさりと言ったよ。
「ああ、そう」
すぐに興味も失せたらしくて、それより負けず嫌いな酔っぱらい巫女が顔を赤くさせてまで必死に歯型の箇所をガジガジやってんの見て、ゆうかりんはお腹を抱えて笑った。
魔理沙も、早苗も、戸隠さんまでゲラゲラ笑っていたので、小鈴だって笑っちゃったよ。
そんで咲夜にナイフを借りて、ゆうかりんが極薄にスライスした宝石をパリパリした小鈴は、ちょっとだけその日の出来事も悪くはなかったんじゃないかなって、思ったり、思わなかったり、でもま結局は思ったことにしておいたのさ。
それがまあどんな本かはその日の気分によるわけだけど、昨年ほら、東方鈴奈庵が堂々完結したでしょう。
月ごとに巻き起こってた大事件はもう無いわけだから、やっと小鈴にゆっくり本を楽しむ平穏な日々が戻ってきたわけで、そりゃあ気楽なもんだよ。良かったね、小鈴。
にしても、あの最終回にはハッとさせられたよね。
だって幻想少女らと酒飲み合えるようになりました、めでたしめでたしって。
そんなオチっていうか解決策はさ、予想外だよ。ゆかりん、すげえや。
けどね、俺はズルいとも、ちょっとだけ思ったんだよ。
だって羨ましくない?
アレだよ、小鈴さあ、あんだけ色々ハチャメチャやっといて、結局うまいこと行くって、それじゃまるでジャージャービンクスじゃん。ひんしゅくを買っちゃうよ、ねえ。
俺だって霊夢とかと酒飲みたい。思わない? 俺はそう思う。
あの宴会に自分が参加するSSが書けたなら、ジャージャーみたいにバカにされても、最近のスターウォーズみたいに低評価でも、良いやって思うのさ。
だから、俺、まず小鈴のその平穏な日々ってやつにお邪魔して、巧いこと仲良くなってさ、あの宴会に混ぜてもらおうと思ったんだ。
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鈴奈庵は人里の貸本屋で、平屋造の瓦屋根に鈴と奈と庵の看板が掛けられてる洒落乙な建物だよ。みんな、知ってるね。
二ひらの暖簾は紫色してて、紋は……何かね、これ、たんぽぽ? もしくはカブ?
どうして鈴奈庵でカブなんだろうね。カブの語源は被る=頭って意味らしいから、ここに来るには頭が必要ですよって言ってるのかもしれないね。
いや、どの店だって頭がなくちゃ困るけど、この店は知性が要るからね。殊更に必要ですよって注意してくれているんだろうね。ありがたいね。親切だね。――ええ、はい、この程度の頭の人が主人公で作者です、ごめんよ。
或いは、ほら、スズナからかもね。鈴奈庵だけにね。クソくっだらねえ(情緒不安定)。文章ダラダラしはじめてるし、もうあんま長くは語らないけど。
俺は暖簾をくぐることにした。
こう、手を伸ばして押しのけて、撓ませる感じ。
「いらっしゃい」と、一声。少女のハキハキした挨拶だ。
本を机に乗せているから、きっと読書中だったのだろう。外の明るさが眩しいのか、メガネの奥の眼をショボショボ瞬かせてる女の子が座っていた。
「小鈴ちゃんだ、この子、本物の小鈴ちゃんだ。すげえ」
俺は嬉しくなって、ミーハーな高校生みたいなセリフを言った。
「はあ、これは、どうも」
すると、あらまあ、彼女はその嫌な予感ってモンを隠さない表情をした。
ともあれ歓迎されていなかろうが入店はする。するよ。俺はまるでおもちゃの兵隊さんみたいに足を高く上げて行進した。右足、左足、右足、右足、左足、左足、右足、左足。
「え、何をしてるんですか」
「お客さんをしてるよ」
「不審人物でしょう」
「いや、お客さんだよ」
俺はきっぱりと宣言した。それはもう毅然として断固として確乎として告げた。
「それで、俺はどの本を借りれば良いのかね」キザっぽく、言った。「金ならあるんだ」
「知りません。決まったら持ってきて下さいね」小鈴はまた本に眼を下ろした。
思わず慌てた。これは、あれだ、全く相手にされてないよ。こうなっちゃ詰まらない。
どんなに冴えない幻想入りSSだって東方少女に興味を持たれるところから始まるのに、もう、そのスタートラインにすら立ててないよ。
必死になって、俺は何か巧いことを言おうとした。
「君はレストランでシェフのおまかせコースとか知らないのかね。俺はそういうのを所望します」
すると小鈴は警戒心マックスなご様子で、かつ面倒臭そうな顔で言った。
「ここは貸本屋だし、大体のお店ではメニュー見て自分で決めますよね」
「メニュー! そういうのもあるのか!」
「ないです、残念でした。そこいらの本棚の本を勝手に見て下さい。汚さないで下さいね」
そして小鈴は再び本の虫、俺は店いっぱいの本棚のスシ詰めを眺めてゲンナリした。
これは謝るべきだろうね。みんなも、小さな女の子と諍いした時には先に謝るようにしようね。大きな女の子の時もそうだよ。年上の女の子の場合は……そうだよ。
「すみません、調子乗ってました。許して、許してクレマチス」
「……まあ、こちらも接客業ですし、少し大人気なかったです」
そう言って、本から顔を上げてくれた。この子、良い子ねえ。
「それで、何かおすすめして欲しいジャンルのリクエストはありますか」
「そうさね」俺はとりあえず色々言ってみることにした。「アクション超大作、内容は近未来な感じと時代劇な感じを両立してて、それとコメディでシリアス、ロマンスありきのハードボイルドで、マジックリアリスムとかいう頭が良い人が読むようなのも含めつつのシンプルな筋書きで、アッと驚くようなトリックの殺人事件だけどギリギリ真犯人に気付けるくらいの難易度で、読んでると凄いねって褒めてもらえるけれど実は読みやすい、そんな本が良いかな」
「『日が暮れた。一番星が煌めきを強め、月は牧草地や小麦畑を照らしていた。刺青の男の肌に描かれた絵は薄暮のなかで浮かび上がり木炭みたいに赤々と輝いていた。それは埋め込まれたルビーやエメラルドのようだった』」
おや、これはヤバい。本の朗読を始めてしまった。読書家がよくやる怒っているアピールだ。
「じゃあ、はい。最後のだけで、読みやすい本でお願いします」
「そうですねえ」
そう相槌をうちながら、小鈴は本に栞を挟んでパタンと閉じた。
ちゃんと相手してくれるらしい。良い子ねえ、この子。
「なら、その『む』の棚の、一番左側に置かれている本なんてどうでしょうか」
そう言われて、その本を手に取った。タイトルは『ムーミン谷の彗星』ってやつだ。
俺は「ふうん」とか「ほほう」とか、もっともぶった相槌をうちながら、しげしげ表紙を眺めた。アニメとかで見たことのある、カバみたいなキャラクターが描かれている。
「これは読みやすいのかね?」
「まあ、優しい話ですし、読書の入門と言えるのではないでしょうかね」
「なら、これにしよう」
「御気に召して頂けたなら良かったです。じゃあ、お代についてですが――」
ガメつく金勘定に入った小鈴を尻目に、俺は懐から短冊と筆ペンを取り出した。
短冊に『ムーミン谷の彗星』とサラサラ書いてから、それをおもむろに口に運ぶ。
「ムンチャ、ムンチャ、ムンチャクッパス」味は紙、口から鼻に昇る芳香も紙、歯ごたえは紙で、飲み込んだ後の余韻も紙だった。あと墨。美味しくないよ、マネしないように。
「ええ?」と、小鈴が算盤を片手に人を見下す時の顔をした。「ちょっと何してんですか」
「いや、ムーミン谷の彗星ってどんななのかなって」
「まさか、本を食べる気なんですか」
小鈴が眉を上げた。語勢もキッと強くなる。
「ここは貸本屋です。本を、貸す、お店です。食べるための本を探しているなら普通の本屋に行って下さい!」
「いや、違うよ。それは違うよ。違う違う、全然違うよ」
俺は否定の言葉を並べ立てた。俺は否定の達人なんだ、例えば『自己』とかね。
「俺はね、ちゃんと読むつもりだよ。でもね、その世界がどういうものなのかってことを知ってから読むのも良いかなって、そう思ったんだよ」
「はあ?」まるで、さも、いかにも、よもやキチガイを見る顔で、小鈴は算盤を振った。「とにかく、仮にその本が破損した場合、弁償金ってものを払ってもらうことになりますよ。その時はええと――」
そう言って、小鈴が算術に集中した瞬間、世界が暗転した。
時間にすれば数秒もかからなかった。一瞬が三つくらい重なった、それくらいの連なりで、周囲が光を取り戻した時にはもうそこは鈴奈庵ではなかった――何か格好良い文章だね、気取りたくないけど。
とにかく世界が変わったわけだよ。そこは幻想郷じゃなくって、えっと、どっかの谷底だった。
チバニアンみたいな地層の岩肌に挟まれていて、今しがたに光を取り戻したって言ったけど、その光では殆ど輪郭しか分からないくらいの薄明かりの世界で、両隣のその断崖は登るにしても人の手では難しそうな急峻だった。
そのくせ空気が濃い、ってか、重い。
自然の大気が鼻にぶつかってくるような、そういう濃厚な大気の世界。絨毯みたく敷かれた苔やシダから浮かび上がる酸素が四方八方に満ち満ちている。
そんな世界で、小鈴はまるで電気切れのロボットみたいに止まってしまっていた。
固縮とか、もしくはカタレプシーかも知れない。カタプレキシーじゃないよ、カタレプシー、ここ注意ね。
ほら、パッチ・アダムスって映画でずっと手を上げたまま固まってる患者さんが居たでしょ、あんな感じ。統合失調症とかで見られるから、リスペリドンってお薬が効くかも知れないね。あとはSSRIとか。
だけどこの症状は悪性症候群との鑑別が難しいんだ。似たような症状だけど、治療法が真逆だから、鑑別しないわけにもいかないんだよね。
まあ今は俺もSSの主人公ってやつだからね、巧いこと鑑別しましょう。こういう時はね、おでこを触ってみると良いよ。熱とか汗とか、そういう体内事情が分かるからね。
んで、小鈴の額を触ってみると、じんわり汗かいてる割りに熱が無い。多汗は悪性症候群の症状だけど、発熱が無いなら悪性症候群ではない。もちろんどちらも例外はある。
つまり、ぜんぜんワカンネってこと。
なら疎通性の有無を確認しようか。意識レベルは? GCSはなんぼなん?
「はい、小鈴さあん。ここがどこだか分かりますかあ?」
「え、は、え? ここはどこ?」
「はあい、∨4ですね。ここはムーミン谷ですよ。まあ、たぶんだけど」
まあ、どうやら聞こえてはいるらしい。なら疎通性はある、悪性症候群とみなして治療しよう。
え、治療法? 原因薬の中止だ。なので小鈴にヤクを止めるよう説得せねばならない。
「君ね、何か薬やってる? 薬はご両親を悲しませるよ。ダメだよ」
「くすり……? 薬なんて飲んでない。少なくとも、さっきの、あの瞬間まで」
「ならアルコール離脱かな。ちょっと酒量が多すぎるね、幻想郷は。そんなんじゃ幻覚とか見えちゃうよ」
「幻覚? ――ああ、そっかあ、これって幻なのね? うふふ、そうよね、訳分かんないもん」
不思議な納得で、心が落ち着いてくれたらしい。小鈴の硬直は解け、元気に動き始めた。ウキウキと、まるで童心を取り戻したように、算盤なんてポイッと捨てちゃってさあ。
それ見てたら、なんだか俺も嬉しくなってね、一緒にはしゃぐことにしたよ。いえい。
「ここがムーミン谷なんですね!」
「そのはずだよ。俺は『短冊に本のタイトルを書いて食べるとその世界に飛べる程度の能力』の持ち主だからね。最近、ふと目覚めたんだ。偶然にね、ふっと覚醒したわけだね」
そう、俺はそういう能力者だったのだよ。
本当はここで深い理由とか理屈とか、少なくともスパイダーマンがスパイダーマンになった原因くらいの事件を考えておけば良かったんだけど、そういうの難しくて全く思いつかなかったんで、ごめんなさいね。
「凄いですね、凄い、素敵!」
でもほら、小鈴は喜んでます。とにかく小鈴が喜んでいます。どうしてあなたは、そんな小難しい事情を必要とするのですか。小鈴が喜んでいるのが分からないのですか。
そう意固地にならないで下さい。物語なんてそういうものなんです。スーパーマンがあんなに強い理由、宇宙人だからってそれだけですよ。それと同じじゃないですか。
俺はそういう能力者なんです。それで良いでしょ、許して、許してクレマチス。
「私、子供の頃からムーミンが好きで、だから、今は良い気分です。最高に『ハイ!』ってやつだアアアハハハ!」小鈴はスマイルした。まるであの漫画のキャラクターみたいにね。
「良かったなあ、ノォホホノォホ!」と、俺もあのキャラクターみたいに笑った。
二人して笑い合っていると、ふと急斜面を妙な生物が転がり降りて来た。
それはツチブタとカンガルーの間の子みたいな生物で、どうやら二本足で歩く系統の生物だった。つまり両手を自在に、五指を把握に使える、高等生物と考えられる。
「スニフ、あれスニフだ、わあい」小鈴がはしゃいだ。
俺はそんな小鈴を眺めているうちに、ちょっと大人な雰囲気を出すことにした。わちゃわちゃしてばかりいても子供っぽいしね。「ちぇ、変な名前だなあ」なんて、精一杯に大人みたいなことを言った。
そのスニフとやらは、何か別のものに夢中であるみたいで、俺達には全く気付かなかった。
彼のお目当ては、どうやら、周囲にあまり沢山転がり過ぎていて、もはや俺達が注目していなかった物体に向けられていた。何と、赤い宝石だ。ルビーとか、ガーネットとか。
苔の絨毯にまぶされていた、その美しい宝石に気付いてね、俺はもうビックリしちゃったよ。何せ、本当に綺麗だった。一粒一粒が、拳くらいの大きさの炎みたいで、しかも赤透明から発せられる輝きには全然くすみが無いわけだ。
両手に一個ずつ、手に取った。ずっしりと重い。それに研磨すらされていないはずの断面が自然の作り出したジェムの多色性を見せてくれた。
純粋な赤色に溶け込んだ乳白色って想像できるかい、まさにそれが掌に乗っているわけだよ。
俺は満面の笑みで小鈴を振り返った。当然、小鈴もこの宝石拾いに参加するものと思ったんだ。
けれども、小鈴の顔は、蒼白していた。
またカタレプシーかと思いきや、今度はその身体は小刻みに震えている。
まぶたがひくひく攣縮していて、これじゃまるでジストニアだ。鑑別は再度のアルコール離脱、或いは寒くなっちゃったのかもね。
「どうしたの、寒いの? 露が下りたのかな。もしくは、そう、露が下りたのかな」
「ここ、やばい、そうだ、ここ、そうじゃん、なんで、やばい、どうして、うそ、やだ」
小鈴は出来の悪いSSみたいな、会話の脈絡がおかしい人みたいになっていた。∨3だね。
このSSの出来の良し悪しはおいといて、登場人物が自分から出来を悪くしていくスタイルは良くないのではないか。――などと考えていると、スニフがフリーザみたいな悲鳴を上げて逃げ出していた。
それは這々の体といった有様で、まっこと情けないことに四足で駆け抜けている。
所詮は珍獣だね、げらげらだね。人間様のように二本足で逃げるとは思いつかぬらしい。
となりから、おそらく小鈴の鼻息が聞こえていた。随分と荒い。まるで階段を登りきった後のお太りなる人みたいな深い深い鼻呼吸。俺は小鈴を嫌いじゃないけど少し鬱陶しい。
なので反対側を向くことにした。
すると「ふぎゃああ」という猫めいた奇声と諸手を上げ、逃げて行く小鈴の背中が見えた。あ、転んだ。ドロワが丸見えだけど、見たら可愛そうだから目を逸らしてあげよう。
でもおかしい、と俺は思った。小鈴はこちらに居たみたいだ。
なら、その反対側にある鼻息の主は誰だろうか。
俺はそちらを確認することにした。そっちを向く、と、そこには巨大生物がいた。
背中が剣山のように刺々しい、体長十メートルはあろうかというオオトカゲだった。
そこが河だったらカバと勘違いしてたかもしれないよ、何たって凄い口をしていたからね。
ぱっかり開いた口はペンキで塗られたみたいに真赤で、生えてる牙ときたら一本一本が俺の腕くらいあるし、ギョロリとした眼は大地に転がる赤い宝石みたいな赫灼(キラキラってこと)にたぎっていた。
俺はとりあえず異文化コミュニケーションを試みることにした。なろうとか、冒険小説とか、英語の教科書みたいにね。
「ハーイ、カバそっくりだけど、君がムーミン? 会えて嬉しいよ。ここは良い谷だね」
すると彼は大きく吠えて、こちらを威嚇してきた。耳のジンジンする剣幕だ。
「おいおい、よせよ。そんな挨拶があるかい。ちぇ、ムーミン、あっち向いちゃえ」
「ちょっと、ねえ、帰る方法は! 手段は! 手立ては! ここから帰るには、どうするのお!」と、恐慌(ガクブルってこと)の声が聞こえた。小鈴だろうかね、今度こそ。
「いや君、せっかく来たんだからムーミンに挨拶すりゃ良いじゃん。モジモジしてないで、触らせてもらいなよ」
「そいつはムーミンじゃない! トロールじゃないっ! 助けて誰かっ、霊夢さぁんっ!」
小鈴は声をも枯れよとばかりに叫んでいた。それはもう、たぶん、彼に失礼なほどに。
その大声に対抗しようとしたんだろうね、彼はその野太い尻尾をもたげ、ビタンと大地に叩き付けた。さながら地震のように大地が震えた。しかもそれを何度も繰り返すものだから、全身が振動のせいで足の底からビリビリしちゃう。
「人違いしたね、ごめんよ、許してクレマチス。えっと、じゃあ小鈴、彼の名前は?」
「知らないわよ! モンスター! 怪物! 妖怪!」涙とヒステリーの混ざった声だ。
「それはどれも種族の名前であって、彼の名前ではないのではないのかね、ん?」
例えば沢山の妖怪が参加している場所、宴会とかで、やいやい妖怪やい!と呼んだら、みんながみんな振り向いてしまって呼名の意味を成さないのではなかろうか。
「無いのよ、名前なんて! 無いの! ムーミンの道中の魔物よ! つーか、お客さんどうしてそんな平然としていられるわけ?! 意味分かんない、ほんと意味分かんない!」
顔中を涙でいっぱいにして、ほとんど狂乱状態に陥った小鈴が泣き喚いた。
「いや、ほら、俺も幻想郷を知ってから長いしさあ。こういう怖い系に対してのまじないっていうか、心を落ち着かせる方法も持ってるしね。教えてあげようか」
「うるさい、バカ、黙って!」
「じゃあ、教えないでおくよ」
「教えなさいよ、バカ、話して!」
こういうのをきっとアンビバレンスというんだ。矛盾って女の子の特権だよね、尊い。
まあでも可哀想なので、俺は自分のとっておきの方法を答えてやることにした。
「ではね、まず眼を閉じて、緑色のミディアムヘアの女性を思い浮かべるんだ。くせ毛だけど、まあ綺麗な髪の毛で、遠くからでも獲物を誘い込むみたいな甘い匂いをさせてる」
「……ん?」と、眼を閉じた小鈴が唇を尖らせるけど、俺は構わないで話を続ける。
「んで、その眼はここいらの宝石と同じ赤色で、唇はちょっと薄めだけどニヤニヤしてる。彼女は日傘を持っているんだけど、その窄まった傘をこっちに――」
「ああ、これ、アホだ! アホがするヤツだっ!」と、彼女は言った。「でも悔しいけど、何か落ち着いてきたっ! 下らなくて、下らなさすぎて、逆に落ち着いてきたっ!」
困ったことを目の前にした時にはね、とりあえず他のことを考えたって良いのさ。
オオトカゲとか隕石とかね、確かに怖いんだけどさ、本当に怖ろしいものを知っておくと、こういう時に思い起こすことができる。すると眼の前の恐怖が生易しく感じられて、醜態を晒さずにすむ。
こういうのをヴェーバー・フェヒナーの法則っていうんだよ。ばかのひさんのSSで見た。
そんなこんなで、小鈴は可及的速やかに精神状態の回復をみせた。
震えは、もうない。すっくと立ち上がり、スカートの乱れをポンポンと払って、どこかおずおずとではあるがオオトカゲに相対した。俺のちょい後ろくらいに立つ。
「ね、マシでしょ?」
「確かに、マシだわ。全然マシ。寧ろ、この子がチャーミングに見えてきた」
小鈴の涙は一瞬にして乾いて、それでも少し残っていたが、それを百戦錬磨の戦士みたく腕でガサツに拭った。一皮むけたって言うんだろうね、こういうのは。
その一方で、どうやら今度はオオトカゲが動揺していた。尻尾の乱暴を鎮め、戸惑っている。俺達が自分を恐ろしがらないことを、不思議に思っているのだ。
でもトカゲさあ、仕方ないじゃん? いっくら怖くても、やっぱ上には上がいるわけよ。
「触ってみたら? 何か尻尾のビタビタも緩まって大人しくしてくれてるし」
「いや、それは……遠慮します」
「あのねえ、こういう体験はね、滅多にないよ。経験は買ってでもしろって言うじゃん」
しかし、そう言ってやっても、小鈴はグズグズしている。
俺は、他ならぬ小鈴のためにも、心を鬼にせねばならないと思った。だから息を整えて、何かとんでもなく怖ろしいものを見て発狂した人みたいに叫んだ。
「うわあ、よりでっかいのが来た!」悲鳴にビブラートを乗せて、声のカスれを忘れずに。
発狂した人のマネはね、よくみんなから名演って言われるんだよ。何でかな、何でかね。
「ふぎゃあああ!」
もっと大きいのが来たって勘違いした小鈴はまるで不意に水を浴びせられた猫みたいに前へ飛び跳ねて、巨大爬虫類にしがみついた。まるで彼が怖くなくなったみたいにね。
こういうのをヴェーバー・フェヒナーの法則っていうんだよ(二度目)。ばかのひさんのSSで見た(強調)。
幻想少女の抱擁って素晴らしい体験を得たオオトカゲは相当にびっくりしたようでね、おっきな口をギュッとさせてさ、その赤い瞳で小鈴を見つめたまんま硬直してしまった。
「御気分は?」とりあえずきいてみた。
「思ったよりヒンヤリしてて気持ち良い」と、感情のでんぐり返った冷静な声が返った。「ただ、これだけは言っておくわ。私はもう今後一切、あんたってお客さんには敬語を使わない。あんたに払う敬意は消え失せたわ」
そう言ってトカゲの鼻先から降りる小鈴に、俺はおもむろに頷いてみせ、「素敵だね」と、キザっぽく言った。
俺は改めて、今度は頭の良い人っぽくオオトカゲを観察してみることにした。刺々しい彼の背中に並び立った剣山は、きっとステゴサウルスのそれと同じルーツのものだろう。
ステゴサウルスの一番有名な特徴である背中に連なった板は、攻撃とか防御とかそういう武装的なもんじゃなくて、体内の温度を調節するための放熱器官だったらしい。そう、インターネット百科事典にも記載されている。
彼が尻尾を威嚇的に振るっているのも、ステゴサウルスの特徴と一致する。ステゴサウルスは尻尾を打ちつけて戦う系ザウルスだったからだ。これもインターネット百科事典。
そして最も重要な考察としては、だ。この谷底には彼以外の生物が、彼と同種のものを含めて見受けられない。潤沢に敷き詰まっている苔とかシダを、除いては。
ならば彼が普段は何を食して生活しているかというと――当然、この谷底に有り触れた『植物』という可能性が高い。
幸いにして、ステゴサウルスは草食動物として記載されている。サンキュー、インターネット百科事典。
もちろん宝石を目当てに谷底へ下りてくる欲深生物を餌にしているという可能性もある。ただ効率は悪く、そんな手段では彼の巨大な肉体が必要とするエネルギーを得て行くことは難しい。『待ちぼうけ』は韓非子のNGとして有名だよね。
「――だから彼は草食動物だよ。顔こそ有尾目に似てるがね、ステゴサウルスの亜種さ」
「そういう付け焼き刃な知識をひけらかされても困るんだけど、まあ、私達が未だに食べられていないことを考えると、案外それで正しいのかもしれないわね」
でもさあ、と小鈴が更なる質問を被せてくる。
「なら、どうしてこの子はこんな鋭い牙をしてるのよ」
「そりゃあ、何か硬いものを食べることもあるからだろうね」
「硬いものって何よ」
「さてねえ」
俺は腕組みして首を傾げた。果して、苔やシダ以外に食べられるものなんて周辺にあったかな。
――などと、ややこしい考えを巡らせていた俺達を尻目に、彼は、その大きな首を地面に向けた。
どうやら苔を食べるらしい、と、そう思っていたのも束の間、何と彼はルビーごと苔を口に含み、ムシャムシャを始めたのである。
「ゴリゴリいってるね。これは、凄いな、ゴリゴリいってるね」と、俺は言った。
「もったいない……そもそも、宝石って栄養になるの?」
「少なくとも彼は栄養にするんだろうね」
というより、この世界の宝石が俺達の知っている宝石と同じ成分であると考えるほうがおかしいんだけどね、そこまで考えるのは、本題じゃないしさ、必要ないでしょう。
「んで、話を戻すんだけど」
「お客さんと私、何か話なんてしてたっけ?」小鈴は辛辣な混ぜ返しを言った。
「彼の名前についてだよ。無いなんておかしいだろ」
「物語にはよくあることでしょ」
そうかも知れないね。だって名前とか俺にも無いし、そういうどうでも良い感じのキャラクターだったのかもしれない。
ただ登場人物を怖がらせて、その怖がる様子を読者に見せるって、それだけの怪物だったのかもしれないね。
でも、それって良くないんじゃないかなって、そういう反逆的な気持ちが俺の中で風船みたいに膨らんでさ、失礼だって承知はしてたんだけどね、思わず言っちゃったよ。
「そういうのは無責任だよ、彼が気の毒だ。これは作者の責任だぞ」
「んーなこと言ったって、もう彼の出番は終わったわ。スニフ、もう行っちゃったもん」
「それでも、せめて名前を与えてやるべきだ」
鈴奈庵はさ、ぶっちゃけ、俺がSS書かなくても誰かが二次創作やると思うんだよ。ハルカチャンネルさんとか。
けどそれは小鈴が人気者で、何よりちゃんと名前があるからであって、名前も無い、なんにもない、そういうキャラクターじゃあさ、いったい誰が作ろうって思うんだい。
ムーミンって、すごく有名じゃないか。世界的じゃないか。その作品の登場キャラクターなんだから、彼ももっと注目されて当然じゃないか。
ボバ・フェットとかビックスとかウェッジみたいな有名な脇役達と肩を並べていても不思議じゃないんだ。
でも彼は知られていない。
ずっとこの谷底さ。
しかもストーリーが通り過ぎた、こんな谷底ではね、誰ももう覗かないよ。
きっとスニフだって覗かないのさ、そうだろ?
「気持ちは分かるけど、もう作者さんは亡くなっちゃってるわよ」
小鈴は顔を辛そうに歪めて言った。
だから俺は、却って、下らないくらい可笑しなことを提案することにした。
「じゃあ、作者の名前にしよう。フランケンシュタインの怪物がその博士の名前で呼ばれるようになったみたいに、作者の名前でこの子を呼ぼう」
「作者の名前って、ヤンソン?」
「いや、お客さんってんでも良いけど」
「そうね、ヤンソンにしましょう」と、俺を無視して小鈴が決めた。
小鈴は、ヤンソン(仮名)の鼻にあたる辺りを撫でた。
「あなたは今日からヤンソンね。ヤンソン、ヤンソン」
と、そう言いながら、小鈴は俯いてしまった。気分が悪くなったわけじゃないと思うよ、たぶん。だって痛いとか辛いとかそういうんじゃなくて、悲しそうな顔をしていたからね。
「――ごめんね、ヤンソン。私、この本を何度も何度も読んだのに、あなたのこと、最初は忘れちゃってたの。名前がないって、そういうことよね。けど、ヤンソン。もう私、あなたのこと忘れないわ」
小鈴は美少女の範疇に入る少女だし、そういう可愛い娘に名前を覚えてもらえるなら、そこそこ嬉しいよね。良かったね、ヤンソン(仮名)。
と、その時だ。上から声が振ってきた。
「おうい、きみらはまだあがってこないのか。」
誰の声だか、俺は分からなかった。けど、小鈴はすぐに分かったらしい。飢えたワンちゃんみたいになって、ヤンソンをうちすて、口を半開きにハアハアさせて中空を仰いだ。
「ス、ス、ス、スナ、スナ、スナフキン?!」
女性の読書家の皆さんが向けるスナフキンへの憧れって異常だよね。嫌いって人はおろか、別に好きじゃないよって言う人すら見たことない。みんな好きって言うよ、不思議。
「いや、俺達は大丈夫だ、もう少しだけここにいるよ」
吃音症の人みたいな感じになっちゃった小鈴に代わり、俺が答えた。小鈴が足を踏んできたが、彼女のウェイトは軽いんで特に気にならなかった。
「君達は君達の旅を続けてくれたまへ」
「ふうん、そうかい。」
「ただ――」
そこで、俺は次の言葉を言うべきか言わぬべきか少しだけ迷ってから、やがて言うことにした。
「たまには、この谷に来て、この谷底を覗いてやってくれないか。ヤンソンがいるから怖いかもしれないけれど、たまに覗くだけで良いんだ」
「それくらい、かまわないさ。」
彼は快諾してくれた。俺は安堵したよ。もう、ヤンソンは、孤独じゃないだろう。
「ありがとう、君は良いヤツだね。きっと世界的な人気者になるだろう」
「私もファンの一人ですよ!」と、小鈴が俗物心MAXな顔で言った。
「へえ。けどね、あんまりだれかを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ。ぼく、よく知ってるがね。」
彼は大して面白くなさそうに、そっけなく答えた。
「それで、きみらはなんて名前?」
「俺はハン・ソロです」と、パッと思いつく限りで最も格好良い名前を言った。
「おこがましい!」と、小鈴が悲鳴を上げた。
「ちなみに彼女はチューバッカです。チューイと呼んでやって下さい」
小鈴がまた足を踏んできた。ウオォォォルルル(ウーキー語で止めてという意味です)。
「ぼくら、行かなくちゃいけない。じゃあね、ハン・ソロ、チューイ。」
彼は俺達の喧騒をもじもじして眺めていたが、やがてそう言って去っていった。
「チューイじゃない、チューバッカじゃないっ! 小鈴って呼んでええ!」
と、そういう悲鳴を後にして、世界が薄っすらと暗がりを帯び始めた。
自分の名前を呼んでもらおうとして必死な小鈴の隣で、俺はヤンソンに目を向けた。
消え行く俺達に向かって、彼は、そのギザギザな牙の口を三日月みたいに歪ませてさ、目を細めていたんだ。
それがまるでね、俺達に、笑いかけてくれたみたいに見えたよ。
「さよなら、ヤンソン。さよなら」
「ズ、ナ、ブ、ギィ、ン、ン、ン!」
「小鈴さあ、ヤンソンのこと忘れてない?」
こうして、俺達は幻想郷に戻ってきたんだ――。
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小鈴にとってサイテーな一日だったその夜は、もちろん博麗神社で宴会だった。
小鈴は当たり前に参加していて、魔理沙あたりと隣り合っておビールの一杯でも楽しそうに飲んでいるよ。
「すませーん、すませーん」
変な声が神社の入口から響いてくる。みんな、もう、誰だか分かるね。
この後の展開を、小鈴はほとんど予感していたから、あまり周りの音を聞かないようにして凄いハイペースでおビールを進めていたんだ。
おビールは黒おビールだった。幻想郷だと、神社以外ではあまり見かけないものだよ。
「すませーん、この狛犬ちゃんに不審者扱いされて通れないんですけどお」
たりめーだ、と小鈴はどす黒い感情を内々に隠しつつ、黒おビールを口に運んだ。
喉越しは悪くないね、もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「あの、無視しないでって、ねえ、小鈴、こっち向いて」
ソーセージと合いますね、これ。ジューシーな肉汁と、一緒に飲むと、カラッとする。
もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「ちょいと、こっちを向けって、やい、この炊事ブラシめ」
ああ、読んだみたいね、って。まあ貸本屋だしね。それだけは分かってやったんだよ、小鈴は。なんせ、その悪口は本に登場する悪口だったからね。
んーなことよりザワークラフトはキャベツですよ魔理沙さん。レタスじゃないんですよ。
もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「こんの火男野郎め、チルノも書かねえで何してやがんだ、老いぼれネズミめが。お前は死んだ豚の昼寝の夢みたいなやつだ」
ああ、最後まで読んだみたいね、って。まあ貸本屋だしね。それも分かってやったんだよ、小鈴は。なんせ、その悪口は本に登場する悪口だったからね(二度目)。全部そうだからね(強調)。
それより、あらあら、キャベツはアブラナ科で、レタスはキク科ですよ。うふふ、魔理沙さん、うふふ。
もういっぱい下さいな。はいどうぞ、って早苗さん。
「俺がここを押し通れない臆病者だとでも思っているのかい。そんなことはないぞ、なにせ俺には勇気があるからね。こんな、ぽっと出の古株キャラとかいう矛盾狛犬をどかすくらい――何だ、誰だ俺の肩を後ろからポンポンするのは」
もういっぱい下さいな。もうダメよ、って霊夢さん。だってあんたもうベロベロだもの。
「なにせ俺には勇気があるからね、クールに後ろを振り返るぜ――あっ、怖い!」
声の勢いが止まった。どうやら『本当に怖ろしいもの』と対面したらしい。
「あ、いえ、違います」否定。
「違います」端的な否定。
「全然、違います」少し強めな否定。
「ほんと違います」だいぶ強めな否定。
「いや、だから違うんで」否定の強調。
「マジで、違います」にべもない否定。
「あなたに言ったんじゃないです」部分否定。
「そっち向いてなかったでしょ」理論的な否定。
「ね、違うでしょう」理解を求める否定。
「違っ、違うと思います」譲歩。
「いやあ、違うんじゃないかな」懐疑的な否定。
「違うって、俺は信じてます」願望的な否定。
「あれ、そうだったのかな?」自己否定。
「あっ、いえ、いえ、いえ、違うんです!」命がけな否定。
「それは勘違いです」哀訴調な否定。
何だか眠くなっちゃった。泊まっていけば、と魔理沙さん。勝手を言うな、と霊夢さん。親御さんが心配なさるでしょう――って、霊夢さんはやっぱり優しいよね。
「命? 命はダメです。命であがなうと、それは、もう、死んじゃうんで、許して、許してクレマチス――あっいえ、いいえ、ふざけてないです、ふざけてはいないです」
ふざけてるだろうが、と小鈴は内心で思ったよ。
「あっ、あっ、あっ、命なんかより、これはどうですか。あなたの目にそっくりな色の宝石ですよ。ほら、ほら、どうです、ねえ。――そう、そうです、そうやって手に持つと良くお似合いで、ええ、そうスね、口元に運んでも……え?」
ガリ、ってね。硬いものが砕ける音がした。
決してそちらを向くまいと思っていた小鈴だったけどね、これには思わず向いちゃった。
風見幽香が手に持った宝石には誰かの歯型が付いていてね、しかも彼女は何だか口をモグモグさせているんだよ。
「美味しい」とかって、スマイルした白い歯のスキマには、赤くてキラキラな粒々が煌めいていたんだ。
その口元は、彼女を愛する人にはホッペを火照らせるエッルォだったし、彼女を恐れる人には恐怖を催させるグッルォだったに違いないのさ。
作者には後者だった。もう、そりゃあもう、後者だった。映画序盤の、排水口でスマイルするペニーワイズより心臓に響く。つーか、トラウマ。
まあ、ともあれね、あろうことかこの妖怪、宝石を食ったわけだよ。ヤンソンと一緒だね。
これには万座びっくり仰天。誰もがゆうかりんに大注目。
「あ……あの、気に入って下すったなら――へ? もう帰って良い? いや、俺は宴会に参加す――あっ、あっ、やはり俺じゃあ力不足だったようだぜ! ここは後日またあらためて出なおすとすっか! お客さんはクールに去るぜ」
クールどころか短距離走くらいのスピードでワゴーンして行くバカに背を向けて、風見幽香は境内に敷かれた赤い毛せんに上がりこみ、食いかけの宝石を博麗の巫女に放ってやりつつ小鈴の近くに座ったのさ。
「知り合い?」
「いえ、ぜんぜん」手を振り、小鈴はあっさりと言ったよ。
「ああ、そう」
すぐに興味も失せたらしくて、それより負けず嫌いな酔っぱらい巫女が顔を赤くさせてまで必死に歯型の箇所をガジガジやってんの見て、ゆうかりんはお腹を抱えて笑った。
魔理沙も、早苗も、戸隠さんまでゲラゲラ笑っていたので、小鈴だって笑っちゃったよ。
そんで咲夜にナイフを借りて、ゆうかりんが極薄にスライスした宝石をパリパリした小鈴は、ちょっとだけその日の出来事も悪くはなかったんじゃないかなって、思ったり、思わなかったり、でもま結局は思ったことにしておいたのさ。
次があったらだけどね
あんまり幻想入りっていうのは、大概好きになれなくて、男が主人公だとわかるたびにそっぽを向いていたんだけどね。いやぁ、味わい深かったって感動したぁ。
個人的には、最後の宴会のシーンが少し雑味を感じたかな。雑味ってのは、ほら、お客さんの視点っぽいのにお客さんが視点の中心にいないってことさ。まあ、そのえぐみ味をコクというひともいるんだろうがね。
端々からはっとする表現や考察をチラ見せしてくるし普通にムーミン谷の彗星読み返したくなったし好き
めちゃくちゃと見せかけて通すべき筋がちゃんと通っているように思えました
だから、その、べ、別に満点って意味じゃないんだからね!
しかし勿論、それがないからといって点を下げるわけには絶対にいかないので満点です。
あなた以外の人が投稿できなくなることだけが心配です。
傑作を投稿して下さったことに深く感謝いたします。私にはこんなつまらないコメントを載せることしかできませんし、僭越ながら必死で追いついていきたいと思います。卑屈すぎますかねこれ……いやしかし思った通りを申し上げているだけですのでお気になさらず。
失礼しました。
面白い上に教養がある、と書きたいところでしたがそう書くと皆さんが不愉快かと思いまして……。
あなたから私は学ばなくてはいけません。あなたがここに投稿したことを私が糧としなくては、何のためにあなたは投稿したのでしょうか。
勿論皆を楽しませる為です。ですが私はそれだけでは満足できません。
私は既読の作品を読み返すことはほとんどしません。
ですが、これは機会があればそうするかもしれません。そのぐらいの凄みを感じました。
得られるものがあるとよいのですが。以上です。失礼しました。
無秩序にパロディを投入して、問題無く世界が回っている辺り、ながいけんに通じるものがある
まーあそこまでセンスあるかっつったらそりゃ無いけど、近い物がある
あこがれて、と仰ってますが 比較にならない、こちらのが面白いから
物凄く好みの作風でしたので
また新たな作品を書いて頂けると嬉しいです
並び立ちそうな新人さんが出てくれて嬉しい
いいシュールだったぜ
正体不明な名作
大変面白かったです。