Coolier - 新生・東方創想話

月の光

2008/12/30 10:14:00
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―永遠亭内にて
 兎の朝は早い。 朝早くから竹林を駆け巡り、手ごろな伸びすぎた竹を齧り前歯を齧るのが日課だからだ。 私はこの日も日も昇らぬ内に寝室から起き出し、竹林へ向かった。
他の兎たちは余り早起きではないし、ウドンゲもまた同様だろう。(最もウドンゲは夜通しあの真性のサディストまで発症した紙一重の天才に付き合っていたからだろうが)
 静寂に支配された永遠亭のなかで、ふと物音が聞こえる。
「あぁもう・・・、またバットエンドじゃない。どうやったらこれグットエンドになるのかしら」
 やはりと言うか、何というか・・・。永夜事変も終わり永遠に囚われる事もなくなった為か、近年の輝夜の地の引きこもりっぷりには磨きが掛かっている。 と言うかその箱は何だ。光って、何か動いてはいるがそもそも動力は何だ。又香霖堂あたりから買ってきたのかこの財政難に。
 突込みどころは山のようにあるが、まぁそれはそれ。好きなようにすれば良いさ。私は私、彼女は彼女。どう在ろうと其処に何か言う義理もない。

「あら、誰か居るのかしら?」
「誰も居ないウサよ」
 どうやら彼女もそこまで鈍くはないらしい。私の至極わざとらしい返事に彼女は笑って答えた。
「こんな朝早くに何処かへ出ようとするようなモノは貴方位だものね・・・。丁度良いわ、少し話さない?」
 断る理由も無ければ断らない理由も無い。常に他者を見ない彼女にしては珍しいその気まぐれに感謝しつつ私はその誘いを受け入れた。
「ねぇ、イナバ。 なんであの月が光るか分かる?」
「知らないよ。 あんた達が何か妙なものでも埋め込んだからじゃないのかい。」
「違うわよ、失礼ね。」
 口ではそういいながらも彼女は笑っていた。別に冗談を言った訳ではないが、この端整な顔立ちがやわらかく崩れ微笑む姿はなんとも言えず目の保養になる。
「良い?月は光ってなんか居ないの。」
 ―私たちが作り出す光はあんな綺麗なモノじゃない。 彼女はそう付け加えた。 ではあの光は何だろう?
「私にはあれが光ってるようにしかみえないよ。」
「あれは影よ。 世界を照らす、光の影。 夜は影が出ないから、代わりに影が空を照らす。」
 中々の詩を紡ぐ。しかしながら根本的に答えになっていないんじゃ無いか。
「でも、光ってるよ。」
「私たちだって生きてるわ。」
「それはそうだろう。 あんた達は生きてるし、夜は暗いし、月は光ってる。」
 やはり彼女はくすくすと笑った。 さっきとは違う、人を下に見る笑い方だ。それがあまり不快にならないのは彼女の顔が余りにも美しかったからだろう。
「あまりうれしい事言わないで。 完結した生なんて有り得ないわ。 昼間が明るいから夜は暗いし、昼間の影が夜は光る。 全ては回り続ける。 それは決して変わる事の無い唯一の法則よ。」
 こうやって、くるくるとね。と言いながら指を廻す。ここで私が妙な薬士や、赤白の巫女なら気の聞いた事の一つでも言い返してやれるのだが、生憎私は生まれたときから兎だ。四季は巡るし、人の過ちだって繰り返す。そんな中で変わらないものなんて無いなんて、それこそにわかには信じがたい事なのだ。
「んー、わかんないや。 私にゃ少し早すぎる。」
「あらあら。 貴方の十分の一も生きていない、貴方から見たら赤ん坊のようなニンゲンだって同じ事を言ってたわよ。」
「私の三倍は優に生きてる蓬莱のニンゲンが、今目の前で座ってるがね。」

「こんな朝早くに何を話してるの?」
 気がつけば真後ろに永琳が立っていた。 見れば暗かった空には既に光が差し、小鳥が庭に降り立ちチュンチュンと鳴いている声が聞こえる。 余り話していないようで中々の長話になっていたようだ。
「あら永琳。あなた、朝が早い方だったかしら?」
「貴方と同じ。 気付いたら朝日が昇ってたわ」
 蓬莱人になれば夜眠らなくても大丈夫なのだろうか。今更ながら別種である事を実感する。
「そういえば竹林にはおっかない蓬莱ニンゲンが居たねぇ。 奴に聞いても同じ返事をするのだろうか。」
「それは無いわよ。」
 さらりと、彼女は言う。

 「だって、全部嘘だもの。」

「なるほど、そいつは一本取られた。」
 そういって又、笑いあう。 やはり三倍も生きてる奴らは考える事が違う。
「さて、と。 それじゃあ私はそろそろ働きにでますかね、っと。」
 厨房担当の兎をたたき起こして朝食の支度をさせなければ。中間管理職は中々忙しいのだ。
「イナバ」
 振り向いて部屋を出ようとしたとき、背中から声を掛けられた。

「どうして月が、光るのかしら。」
「そりゃ貴方。 今光ってる太陽が休んだら、代わりに誰かが光らなきゃ、私たちが不便で仕方ないからだろうよ。」

 さぁて、今日も良く晴れた、良い天気だ。
処女作です。

色々とツッコミとかもらえると嬉しいかもです。
うろすけ
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