橋姫なのだから橋の上にいた方がいいだろうと言い出したのは星熊勇儀である。パルスィとしては縦穴の中でも充分に満足していたのだが、鬼には鬼なりの変な拘りがあるらしい。思いつくや否や、三日で立派な橋が完成した。
お節介に眉を顰めたものの、朱色の木橋から見上げる縦穴はなかなかに壮観で気持ちがいい。お礼を言うのは慣れていなかったので、ぶっきらぼうな返事になったのだけど鬼達は笑って気にしなかった。感謝はしているけれど、その思い切りの良さを妬ましいと思ったのは秘密である。
「うー、寒い」
以来、パルスィはその橋で縦穴の番人をしていた。最近は地上との交流も活発になり、縦穴を利用する者も増えてきた。おかげでパルスィの仕事も去年と比べれば唖然とするほど増えている。嬉しいやら、妬ましいやら反応に困った。
勿論、楽しそうにしている奴を邪魔するのも忘れてはいない。番人なれど本質は橋姫なのだ。妬ましいものを温かい笑顔で見送れるほど、パルスィは出来た種族でもなかった。そういう実直さが鬼に評価されて、妙な気に入られ方をしているのだろう。困ったことに。
加えて、外の世界から伝わってきたイベントのこともある。バレンタインデーというらしく、特定の日に好きな相手へとチョコレートを贈るそうだ。何とも妬みがいのある行事に、橋姫としての本能も疼いていた。
「どてらっ、どてらっ」
旧都にしんしんと雪が降る。地下までは日光も当たらず、寒いときは地上よりも冷え込むのだ。この時期の番人は寒さとの戦いでもあり、昔は震えながら見張りをしていたことを思い出す。
今となっては地霊殿のさとりが届けてくれたどてらのおかげで、さほどの寒さは感じなくなったが寒い時は容赦なく寒い。欄干にもたれかかりながら縦穴を見上げ、吐く息は見苦しいほどに白かった。
「えへへ、温かい」
そろそろ現実逃避は止めるべきだろう。どてらの保温性にも限度があり、寒さに震える人間が入ってくれば温度は奪われてしまうのだ。
拾ってきた猫でも扱うように、パルスィは懐に潜り込んできたこいしの首根っこを掴む。
「ありゃ」
「寒い」
引きはがしたと思った次の瞬間には、いつのまにか懐へと戻っていた。妙な帰巣本能が働いているのだとしたら、どこで住所変更をすればいいのだろう。
こんな寒い所にいるよりも、素直に地霊殿へ帰ればいいのに。灼熱地獄跡を有する地霊殿は、冬でも日向ぼっこが出来るくらいに温かい。
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
「減るのよ、体温が」
「しばらくしたら温かくなるよ。お姉ちゃんが羽織ってた時も、こうして温まってたから」
さとりのお古であった事実はさておき、如何にしてこいしを説得するのか。自由奔放を形にしたような彼女を説き伏せるほど、パルスィの弁舌は優れていなかった。
「変なことしないでよ」
「変なことって、こんなこと?」
「ひやっ!」
冷え切った両の手がパルスィの頬に触れ、寒さと驚きを運んできてくれた。もう少しだけ肝が据わっていなかったから、今頃は二人揃って橋の下で寒中水泳を強行していただろう。後先考えない妖怪はこれだから怖いのだ。
「だからするなっての!」
「はいはい」
気のない返事に腹を立てても、どうせ相手は古明地こいし。暖簾に腕押し、糠に釘。通用するはずもない。
だから諦めて、なすがままにされてやる。
こんなもの、懐かれた時点で負けなのだ。
袖口で広がった服装が掴みやすかったのかもしれない。
あるいは彼女の鼻歌が耳についたからなのだろうか。
いずれにせよ理由としては弱い。古明地こいしは無意識を操る。だからそんなものは能力を使えば誰にも知られることはなく、パルスィも彼女が地上へと出て行く姿を見たことはなかった。
地上で会ったという妖怪もいるのに、一度も見たことがない不思議な少女。こっそりと地霊殿に赴き、どんな姿をしているのか遠くから眺めたこともある。
一目でパルスィは彼女を妬んだ。
ああ、なんと眩しい笑顔なのだと。
「あなたも大概歪んでいますね。あの子の笑顔は空虚です。他に浮かべる表情がないから、とりあえず笑っているだけなのですよ」
友人のさとりは手酷く評し、パルスィの目を疑った。ペット達も何やら文句を言いたそうだったけれど、何も言わなかったのは否定できないからなのか。
いずれにせよ、パルスィには関係のない話だ。本物であろうと偽物であろうと、あの笑顔を妬ましいと思ってしまったのだから。
寝ても覚めてもこいしの笑顔を思い浮かべ、橋の上で仕事をしていても頭から離れてはくれなかった。これで胸でも痛むようなら立派な恋なのだけれども、嫉妬が原動力なのだから到底恋などと呼べたものではない。
姿は見えないけれど、今もひょっとしたらあの子はこの橋を通っているのかしら。
そう思えば、妬ましさも倍増する。
ああ、だから今なら分かる。きっと全ての原因は、こいしの笑顔が妬ましすぎたからなのだろう。
ある日、パルスィは掴み取った。
誰も意識することができないはずの、無意識で歩くこいしの袖を。
そうしてパルスィは懐かれた。
「私、久しぶりに驚いたよ。お姉ちゃんだって私を捕まえられないのに、パルスィは簡単に捕まえちゃうんだもん」
「偶然よ」
「だったら尚更凄いね。そんな強運を持ってるなんて」
懐の中であの笑顔が輝いている。偽物だと評された表情は、最近になって本物へと近づいているようだ。その原因はおそらく自分だと言うのだから、呆れるやら頭痛がするやら大変である。
ただ不思議なことに、本物の笑顔を見てもパルスィに妬む気持ちはわいてこなかった。むしろ親しみを感じているようで、そんな自分に戸惑いを覚える。
「バレンタインデーはチョコレート作るよ」
こいしとの会話は難しい。基本的に話が飛ぶし、たまに無意識で発言した時など迂闊に返事をしようものなら逆にこちらが問い返される始末だ。慎重に間をあけて、窺うような視線を感じたら返事をすればいい。
今回は意識的なものだったらしく、反応するよりも早くこいしが話しかけてきた。
「パルスィはどうするの?」
「私はそういう行事が嫌いなの。だけど、まぁ存分に楽しませて貰うわよ」
主に妬む側として、だが。
「そっか」
こいしの反応は思ったよりも素っ気なかった。もたれかかろうとしているせいか、帽子のつばが胸元に当たる。
「こいし、帽子が痛いんだけど」
「あっ、ごめん」
脱いだ帽子を抱えるせいで、どてらが上手く閉じられない。仕方なくパルスィが閉じるのだけれど、これではまるでこいしを抱きしめているかのようだ。何とも複雑な気分になってくる。
第三の眼から伸びた紐も邪魔だったが、この調子だと言えば何をしてくるのか分かったものではない。大人しく我慢することにした。
「私、チョコレート作るんだ」
「さっき聞いた」
「パルスィにもあげようか?」
いらない、と即答するのは簡単だろう。ただ数多くの恋人を妬んできたパルスィだからこそ、この問いかけの意味も自ずと察することができる。要するにこいしは作ってきたいのだ、パルスィにチョコレートを。
妙にこの話題へ拘っているのも、全てはチョコレートを渡したいが為に。断ったところで、どうせしつこく食い下がってくるのだろう。
それでもパルスィは橋姫だった。
「いらない。私はそれを贈る奴や貰う奴を妬む予定なんだから、自分が貰ってちゃ本末転倒でしょう。だから私に贈る必要なんてない。姉やペット達にあげるといいわ。多分、喜ぶ」
「パルスィって言い訳してる時は饒舌になるよね」
「………………」
実にやりづらい。さとりが心を読むのに対し、こいしはこちらの癖を見抜く。なるべく意識はしているのだが、それでも治らないから癖と呼ばれるのだ。
そっぽを向いた動作にしたって、大方何か意味があるのだろう。無意識ゆえに、当人にはあずかり知らぬ事だけど。
「とにかく、いらない」
「甘いの好き? それとも苦い方がいい?」
「聞きなさいっての」
「辛いのにしようか?」
「……苦いやつ」
こいしを相手にすると根負けする時間が早い。潔くなったのか、はたまた諦めがよくなったのか。いずれにせよ、あまり良い傾向でないのは確かだ。橋姫たるもの、執念が肝心なのだから。
間違っても、背中の感触温かくて気持ちいいだとか思ってはいけない。それは冬の寒さが見せた幻。夏になれば蹴飛ばしてでも離したくなるに決まっているのだ。
「苦いのが好きなんだ」
「甘いのが嫌いなだけよ」
嫉妬に狂いすぎて、味覚がおかしくなっているだけなのかもしれない。だけど世の中には苦いものを愛する人だっているだろうし、必ずしも変わっているとは言い切れない。
「パルパル」
「え?」
「何が?」
考え事をしていたせいか、うっかり無意識に反応してしまった。こうなると、妙に気まずい時間が始まる。
それを嫌ったのか、こいしがどてらの中から小動物のように出ていく。体温というのは予想以上に温かいらしく、心なしかどてらの中が寒くなった。
「じゃあ、バレンタインデーを楽しみにしててね!」
楽しくなんてないわよ、と言った頃には姿がない。
ついた溜息は白く、頭痛はまだまだ治まる様子がなかった。
持たざる者は持つ者を妬む。森羅万象に根付く根元的な理論であり、橋姫たるパルスィを支えているのもこの妬みだった。仮にパルスィが全知全能であるならば、一体何を妬めばいいのか。
実際に成ってみない事には分からないけれど、大方何も知らずに暢気でいられる奴が妬ましいと爪を噛んでいることだろう。人間も妖怪も、その気になれば何だって妬める。
こいしからチョコレートを貰う可能性があったとしても、妬む心が衰えることはない。
「ああ妬ましい、妬ましい」
交流が盛んなおかげで、地上の妖怪に恋をした連中も多い。小綺麗な包みを抱えて、いそいそと縦穴を上っていく。本来ならば邪魔をしてやるところだけれど、その数はあまりにも多い。
さすがに一人一人邪魔をしていくわけにもいかず、仕方なく橋の上から呪詛のような妬みの言葉を贈ってやることしかできない。
「相変わらず、暗いことばっかり言ってるな。お前は」
「そういうあなたは年中脳天気ね」
視界の端にちらつく大きな杯を見れば、相手が誰なのかすぐ分かる。旧都でも指折りでも暇人である鬼は、酒の肴がなくなるとパルスィをからかいにやって来るのだ。実に迷惑な話である。
「俯くよりかは威張っていたいね。それが鬼ってもんだよ。ところで、あんたは地上へ行かないのかい?」
「地上へ? 何の為に?」
「んん? お前さん、知らないのか」
妬ましいほどに豊満な胸から取り出したのは、博麗神社での宴会のお知らせ。バレンタインデーだから宴会を開催したのだと書いてあるが、どう考えても騒ぐ為の口実にしか見えない。
どういう関係があるのだ、バレンタインデーとお酒が。
「私は行かないわよ。ここで仕事があるし」
それに、パルスィがいなければ悲しむ奴がいるかもしれない。必ず来ると決まったわけじゃないけれど。
「ご苦労なことだ。まぁ、酒と肴が余ったら持ってきてやるよ」
「あんたに限って、それはない」
「ははは、よく分かってるねえ」
宴会に向かうというのに、勇儀は既に酔っぱらっているようだ。杯を何度も空にして、その度に酒を注いでいる。そのくせ足取りはしっかりしているのだから、さすがは鬼の四天王と言ったところか。
到底パルスィには真似できるはずもなく、それもまた妬ましいのだった。
出来上がった顔で地上へ向かう勇儀。よく見れば、地霊殿のペット達の姿もあった。思わず引き留めようとして、躊躇いを覚える。
何を訊くのだ。まさか、こいしはどうしているのかなんて訊くつもりではないだろうな。
自分からの質問に首を振る。
注文はしたし、彼女も作ると言った。しかし、それはあくまで口約束。今まで何度、それが破られたきたことだろう。世界がもっと約束に対して厳しいのであれば、パルスィは橋姫なぞに成りはしなかった。
期待してはいけない。希望は絶望を生み、絶望は嫉妬を凌駕する。
欲している物が手にはいるとなれば、誰だって妬むのを止めて期待してしまうだろう。だからこそ人も妖も傷つき、涙を流すのだ。
自分はもう懲りた。だから絶対に期待なんかしない。
ペット達を見送り、ついでに地霊殿の主も見送る。何やら面白いものを見るような目をこちらに向けていたが無視を決め込んだ。ああいうことをするから、他の妖怪から嫌われるのだと自覚しているのに止めないからタチが悪い。
旧都にはまだまだ雪が降り積もり、明日には雪だるまが作れるぐらいにはなるだろう。そうなれば橋の番人もお休みだ。そこまで仕事に熱心なわけではない。
だから渡すとすれば今日しかないのだけれど。
「って、また何考えてるのよ」
目の前にぶら下げられた人参は、食べられないと知っていても口を突き出すしかないのか。
頭の上に積もる雪を払い、橋の上に座り込んだ。以前に似たようなことをしたら、まるでコタツみたいだと勇儀にからかわれたことがある。確かに言われてみれば、どてらがコタツ布団に見えなくもない。
それ以来は止めていたのだが、どうせ今日は旧都だって大忙しなのだ。からかう奴だって一人もいないだろう。
「ああ、まったく妬ましい」
対象のない妬みが空しいと知っていても、口から出すのを止めることはできなかった。
やがて人通りも少なくなり、地上では夜と呼ばれる時間がやってくる。当然の話だが、バレンタインデーというのは2月14日だけを指し示した言葉だ。
蹲ったパルスィに声をかける者はおらず、黒い帽子を被った少女など一人も見かけなかった。
ただ雪だけが容赦なく降り続いている。火照った頭を冷ますんだと、忠告しているかのようだ。
「だから期待するのは嫌なのよ」
人も妖も裏切る時は裏切り、忘れる時は忘れる。口約束の重みなど、人によって異なるのだ。パルスィにとっては一日中気にするようなことも、こいしにとってみれば昨日の朝食ほどどうでもいい事だったのだろう。無意識でこっそりと橋を渡り、今頃は神社で酒でも飲んでいるのではないか。
そう思うと途端に自分が惨めになり、恵まれた連中への妬みがぶり返してくる。なんのことはない、やはりパルスィだって元は人の子だ。持たざるものを持ってしまえば妬む力も弱くなる。
それに気付かせたくれたのだから、こいしには感謝すらしないといけない。勿論、妬むものはちゃんと妬むが。
「幸せそうな勇儀が妬ましい。私を馬鹿にできたさとりが妬ましい。そして何よりも、こんな悩みを抱かずにいられた古明地こいしが妬ましいっ!」
叫んでから、はっと顔をあげる。
気が付いたのは、やはり偶然だったのか。
空からは雪だけが降り、行き交う妖怪などまったくいない。
咄嗟に動いたのは身体で、どてらを放り投げ駆け出していた。彼女を掴むのはこれが二回目で、奇しくもそれは同じ場所であった。
「凄いね、パルスィ。やっぱり偶然じゃなかったんだ」
袖を掴まれたこいし。
彼女が浮かべていた表情が、パルスィの妬む気持ちを疼かせた。
本物の笑顔には反応しなかったのに、今のこいしを見ていると妬ましい。
「それとも私が油断してたせいかな。いきなり名前呼ぶんだもん。驚いちゃった」
「どこへ行こうとしてたの?」
露骨に話を逸らそうとするこいし。番人だからといって行き先を知る義務はないけれど、水橋パルスィとしては訊いておかなければならない事だ。
目を合わせようとしないこいしを見れば、少なくとも何処かへ行こうとした目的は自ずと察することができる。
「自分でも分からない。とにかく何処かへ行きたかったの」
「私から逃げたかったから?」
「……一生懸命作ったんだけどね。どうしても上手くいかなかったの。お姉ちゃんやお燐達が手伝おうかって言ったのも断って、一人で頑張って作ってたんだけど。あはは、お菓子作りって難しいんだね」
空虚な笑顔を向けられ、ようやくパルスィは妬ましい原因が分かったような気がした。
結局の所、それはパルスィが持っていないもの。悲しくても辛くても、最後の最後には笑顔を浮かべることができる少女。自分の心に素直な橋姫は、そんな彼女がとにかく妬ましかったのだ。
どうしてそこまで自分を偽ることが出来るのか。そんな力があったなら、きっと自分だって上手く世間を渡ってこられただろうに。
失敗して逃げ出そうとしているのに、それでも笑っていられるこいしが妬ましい。
そして同時に腹立たしい。
「ごめんね。約束したけど、無理だったみたい」
裏切られた回数など、もはや数えるのも億劫だ。そして同じぐらい、パルスィは傷ついてきた。
だけどいつまで経っても慣れることはない。
悔しいものは悔しいし、腹立たしいものは腹立たしい。
乱暴にかきあげた髪の下から覗くのは、怒りと妬みに満ちあふれた水橋パルスィの顔だった。
「一つだけ訊かせて欲しいんだけど」
「うん」
「あなたは美味しいチョコレートを作りたかったの? それとも、私にチョコレートを渡したかったの?」
少しだけ黙りこくった後で、こいしは答える。
「パルスィにチョコレートを渡したかったの」
「だったら、味なんて二の次よ。そりゃあ、確かに美味しいものを渡したいでしょう。ええ、私にだってその気持ちは分かるわ。でもね!」
まるで過去の自分に言い聞かせているようで、どことなく気恥ずかしい。
それでも勇気を振り絞って、パルスィは言葉を紡ぐ。
「味よりも渡すことに意味があるの! あなたがくれる物だったら、例え甘ったるいチョコレートでも喜んで食べてたわよ!」
勢いに任せて言ったせいか、とんでもない事を口走っていたことに気がついた。
真っ赤に染まった頬を押さえて、慌てて弁明の言葉を挟む。
「くれるって言ったんだから、待ち望むのは仕方ないでしょ。別にあなたが相手じゃなくたって、誰だって良かったの。そこの所を勘違いしないで欲しいわね」
呆気にとられていたこいしの顔に戻ってきたのは、さして妬ましくもないただの笑顔だった。表情の乏しい少女だと人は言うけれど、これほど如実に感情が顔へ表れる子もいないだろう。
言いたいことを言い終えたパルスィを、覗き込むような格好でこいしが背を屈める。
「私、分かった。パルスィは言い訳する時じゃなくて、怒ってる時も饒舌になるのね」
「なっ!」
あれだけ力説して、伝わったのはそれだけか。いくら無意識だからといっても、これはあんまりじゃなかろうか。
「でも怒ってる時の言葉は素敵だったよ。私が男の子だったら、きっと惚れてたくらいに」
からかってるのか本気なのか、いまいちこいしの心情は読めない。姉譲りのニヤニヤ顔をしていれば、簡単に判別できるのに。
自分の顔については考えたくもなかった。冬でも顔が熱いのだから、どんな表情をしているのかは見なくとも分かるというもの。
くるりと踵を返し、エメラルドグリーンのスカートが綺麗に翻る。第三の眼から伸びたコードがさながら回転の軌道を描いているようで、言葉にはしなかったが美しかった。
「それじゃあ、ちょっと地霊殿まで戻ってくるね。チョコレート、置いてあるから」
「期待しないで待ってるわ」
返した強がりも、あれだけの啖呵を切った後では空しい。そろそろ認めるべきなのだろうか。こいしのチョコレートを楽しみにしていたのだと。
多分、こいしも楽しみにしていたのだろう。パルスィに食べさせるのを。
そうでなければ全力で往復する必要などない。思ったよりも早く帰ってきた彼女は、辛そうに肩で息をしていた。懐で抱きしめたなら、さぞや良いカイロになるだろう。
「はい、これ。チョコレート」
紆余曲折を経て、ようやく手にしたチョコレート。包装は間に合わなかったらしく、粗末な紙袋の中に茶色い物体が収められていた。見た目は出来損ないの彫刻みたいだけれど、色つやはさほど悪くない。
取り出してみても、形以外に問題は無さそうだ。香ってくるカカオの香りも、パルスィ好みで好感がもてる。どこを失敗したと言うんだろう。
一口齧って、その理由を悟った。
苦いのが好きだと言ったけれど、これはあまりにも苦すぎる。良薬だったら我慢できるレベルの苦さには、さすがのパルスィも顔をしかめた。なるほど、これなら人に渡すのを躊躇ったことも納得できる。
案の定、こいしの表情は優れなかった。微かに笑ってはいるものの、どこかもの悲しく思える。
「やっぱり苦すぎた?」
素直に答えるべきか、気を遣って答えるべきか。
これまで素直に生きてきたパルスィだったが、少しだけ目の前の少女を見習うことにした。
もう一口だけ齧り、苦笑を浮かべながら言い放つ。
「嫉妬狂いの橋姫には、これぐらいの苦さが丁度良いのよ」
希望という名のチョコレートは、パルスィが思っていたよりもずっと苦かったのだ。
どうりでチョコがもらえないはずだ
妬ましい
寒い中ちゃんと待ち続けたパルパルも可愛かったけれど、無意識になりきれないこいしちゃんも可愛すぎる。
当然、書いてくれますよね?
なぜ今まで気がつかなかったんだろう
素晴らしい開拓でした
せっかくだから僕も観光客の目を意識しながら宇治橋を渡ろう全裸で。
リア充め!
流石ぱるすぃ何だか凄く妬ましくなってきた!!
愛と憎しみが表裏一体とはよく言ったもんだ。
橋姫になってからは、深い妬みと憎しみに生きたていたパルスィが、こいしによって昔の愛に生きていた頃のパルスィの顔をちらりと覗かせる。
甘甘じゃなく、苦甘、なんかパルシィとこいしらしいお話でした。
ジェラ恋しぃですね。
密かに流行って欲しいなぁ、と思っていましたこの組み合わせ。
この絶妙な距離感が良いですねぇ。
ああぁあもおおお妬ましい!!
パルスィがほんっとに妬ましい。ぱるぱる…
ああ、妬ましい妬ましい。
妬ましい…………!!
今なら素で食える
後書きにグッときました
甘い…妬ましい!
カカオそのままくれないか
ああもう甘すぎて辛抱堪らん!
このまま流行ればいいのに。
ところで何よりも偶然によって出会ったということは、この二人は運命の赤い糸で結ばれていたんですね!
チョコほしい
作者は凄いな。
良いですねこいパル。初めて見たけどアリですねこいパル。
昨今「逆チョコ」と言って、男性が女性にチョコを用意するケースも増えたそうです。皆さん、リア充を爆死させるついでに、チョコを作ってみてはいかがでしょう? お菓子作りは楽しいですよ!
あ、ちなみに私はチョコ作ります。送る相手は家族。……どうでもいいですね、はい……
やっぱパルパルです
この幸せそうな二人がなんとも微笑ましいです。こいパルってありだったんだ……。
ちょっと苦いところもあるけれど、爽やかに甘い感じがよかった
ちくしょう幸せになりやがれ。