『図書館ではお静葉に!』
そんなことが描かれた図書館のポスターを見て、レミリアは強烈な違和感を覚えた。
大体合ってるのに何かが違う。さながら、鼻の伸びる人形の名前がピノキオなのかキノピオなのかで悩む気分だ。
「ね、ねえパチェ」
「図書館ではお静葉に」
じっとりとした目でにらまれた。恐る恐る声をかけたらこれである。
つかつかと小悪魔が近づいてきて、言う。
「お静葉に」
繰り返さなくてもわかる。
わけの分からない発言に若干いらつきながらも、レミリアは『静かに』尋ねる。
「何それ」
「お静葉に!」
「お静葉に!」
非難するような高い声が帰ってきた。
あなたたちは『静かに』しなさい。そう思いながらも口には出さなかった。パチュリーも小悪魔も、一度根に持つと面倒臭いタイプだ。適当にあしらうに限る。
「何かカリスマにあふれる本が読みたいのだけど、良いの無い?」
「お静葉にっ!」
「お静葉にぃッ!」
何なのよ。
レミリアは二人にラリアットをぶちかましたくなったが、我慢した。怒らせると後が怖いからだ。
パチュリーは、ザ・日光とでも呼ぶべきスペルカード、ロイヤルフレアを持っている。吸血鬼的には怒らせないほうが賢い。
小悪魔は弱っちいが、タチが悪い。おやつのプリンやドーナツが食べられていたら、小悪魔の仕業なのである。
しかしレミリアは、彼女達の言葉に従うわけにもいかなかった。何のことだか分からないので、従えないのである。
「静葉にって言われても分からないわよ」
その台詞で、二人は大変驚いた顔をした。そして何やらヒソヒソ話をはじめた。目の前で内緒話をされて、レミリアはムカッとした。我慢した。
やがて二人揃って彼女の方へ向き直る。
「何」
「お静葉にできない方につきましては、図書館のご利用をご遠慮いただいております」
小悪魔が寝言かタワゴトを言い始めた。少なくともレミリアにとっては。
「なお、当図書館は格調高い静葉さをモットーにしておりまして、静葉検定準もろ級以上をお持ちでない方のご利用はお断わりしております」
そう付け足して、小悪魔は恭しく頭を下げた。確かにとても恭しかったのだが、意味は分からない。
「いい加減、からかうのは止してくれない?」
「お静葉に」
「いやあのね」
「お静葉に」
「咲夜、静葉って何? もろ級がどうとか言うやつ」
そろそろ寝ようとしていた咲夜は一瞬すさまじい顔になったが、すぐ元に戻った。
「ああ、静葉検定のことですか。ええと、静葉検定、略して『けいおん!』ですわ」
短くなってこそいるのに、全く略せていないという不思議が、レミリアの前に立ちはだかった。
しかも名前から内容がまったく分からない。
「で、何それ」
ところで、レミリアは静葉検定が好きになれそうに無かった。何でもかんでも検定にしてしまえという、昨今の風潮が伺えたからだ。
咲夜は困った顔になった。どう答えたものか、迷っているらしい。
「何、と聞かれましても……静葉さを試す検定のことです」
「それの準もろ級って難しいの?」
「準もろ級ですか。だいたいカメハメハ大王くらいですわ」
レミリアは頭痛を感じた。何だその比喩は。
このメイドの欠点は、時々お茶目なオトボケをやらかしてくれることではない。それが本気か冗談か分からないことだ。
怪訝そうに、咲夜が訊く。
「どうなさったのです」
「いや何でもないわ。……で、その静葉検定はどこで受けられるの?」
「ああ。それでしたら、人里の稗田家が月一で開いておりますよ」
静葉がやってるんじゃないのか。レミリアは改めて静葉検定の存在意義に疑問を抱いた。
字面からして意味不明なのに、中身まで意味不明とは、これいかに。
「まあいいわ、準もろ級を受けようと思うから、試験対策のテキストを用意して」
「かしこまりました」
いちいち理由を尋ねないあたりは、優秀なメイドだと思った。
たぶん、察しているのだろうが。
「お嬢様、ハンカチとちり紙とお弁当と真っ赤な紅葉の用意は万全でしょうか」
「バッチリよ、任せてちょうだい」
一ヵ月後、静葉訓練を終えたレミリアは、秋の恵み感たっぷりになっていた。楽ではなかった。一ヶ月間で体重が六キロ減るほどである。
パチェには負けられないわ、レミリアはそう思っている。それが意欲の糧であった。
なんとパチュリーは、静葉検定最高レベルの『オバ級』を取得していたのだ。そのことから、彼女が図書館において、静かさを犠牲にしてでも静葉さを重視する理由がうかがえた。
なぜなら、最難関であるオバ級を取得しているのは、検定開設以来、パチュリーしかいないのだから。パチュリーが静葉検定にどれだけ心血を注いだかの証拠だ。
「そろそろ時間ね」
レミリアとて、準もろ級で納まるつもりはなかった。今回はその一つ上、ばたん級を受ける。友人への対抗心が動機だったが、対策は十分だった。
試験内容が『利きヤクルト』だったら、それはフェイク。下着は? と聞かれたら、顔を赤らめ、葉っぱですと答える――。
レミリアは試験のポイントを一つ一つ確認していく。問題ない、全て完璧だ。
正直、余裕である。これならば、ばたん級のさらに一つ上、股関節脱級に挑んでも受かるかもしれない。だが、油断は禁物だった。
「行ってくるわ」
咲夜にいって、レミリアは試験会場の稗田家に飛び立った。
一週間後に届いた結果通知を見て、レミリアは愕然とした。
「嘘でしょ?」
そこには、不合格の三文字が刷られていた。
馬鹿な。レミリアは試験を思い出す。ペーパー、実技、面接、全て完璧だった。にもかかわらず、不合格だというのだ。
「あの、お嬢様? どうかしたんですか?」
レミリアの部屋まで郵便物を渡しに来た美鈴が、心配げに彼女の顔を覗き込む。
レミリアは美鈴の肩を掴み、言う。
「ねぇ美鈴、私は完璧な静葉よね、そうよね?」
「え? あ、はい。ここ一ヵ月でのお嬢様の上達ぶりは、目を見張るものがあると思います。かなりハイレベルかと」
レミリアの実力は確かに一月で身につけた付け焼き刃にすぎない。だが、静葉検定消える魔級持ちの美鈴が認める実力でもあったのだ。にもかかわらず、何故。
「んあ? どうしたレミリア、柄にもなくシリアスな面だな、雨を降らすのはやめてほしいぜ」
図書館へ堂々と盗みに入った帰りの魔理沙。場の空気を怪訝に思ったようだった。
レミリアは魔理沙に頼む。
「魔理沙、見てほしいものがあるのだけど」
空気のシリアスさを感じたのか、魔理沙の表情が引き締まった。茶化すところではないと悟ったらしい。
「何だ?」
「静葉の実技よ。どこが悪いのか言ってちょうだい」
「よし、わかった。やってみてくれ」
レミリアは部屋の物を端に寄せてスペースをとり、実技をはじめた。
手は全く抜かなかった。試験と同じ、あるいはそれ以上の実力を発揮した。少なくとも、レミリアにはその自信が有った。改心の出来だ、と。
終わったあと、魔理沙はしばらく黙りこくっていた。何か、言いづらいことを切り出すべきか否か迷っているかのように。
長い沈黙に耐えかねたレミリアが聞く。
「どうだった?」
魔理沙はゆっくりと、ためらうように口を開いた。
「ああ、そうだな、ええと――素人目だが、文句の付けようが無い。完璧だ。けど致命的ミスがある。そのせいで台無しだ」
「何ですって!?」
レミリアは驚愕した。自分の静葉っぷりにそんな所があろうとは、つゆとも知らなかったのだ。
「魔理沙、何なの、そのミスっていうのは。教えてちょうだい」
レミリアは動転していた。
基礎に忠実に、教本どおり間違いなくやっていると思っていたのに、それが足元から崩れたからだ。
魔理沙はいくぶんか青ざめながら、その致命的欠点について、レミリアに告げる。
「いいか、レミリア、あのな――」
レミリアは息を呑んだ。
「――それ、穣子……」
俺には未だに意味が分からない。
オバ級は笑ったwww
まぁ、タイトルからオチが予想できましたが面白かったです。
良い加速度でした
股関節脱級はやべぇ
俺は、双子に1票投じたいが…
真っ赤な紅葉まで準備したにもかかわらずやっていたのは穣子とはこれいかに
双子説は考えたことが無かったですが賛成です。
片方だけが存在しているのが想像しにくいので。あの二人は秋には欠かせないセットですね。
……双子か…いいな。
「リンリンランラン、ソーセージ」の真実を知る……!。
あっ、静葉検定のほうはまだ私には理解できそうにないです。
……え? 逆だって?!
私め程度では辿り着けぬ境地、流石は喚さん。
「お静葉に!」でグッと来たので八十点を捧げたく。
最後のオチも予想は出来なかったけど、まず初歩的なミスじゃんw誰か気づけよwww
チルノもこの検定受けてたのかな?
だって⑨(ry
あと夢幻姉妹はもっと注目されていいと思う。
でも笑ったからには100点やらないとなwwww