今日も早苗は遊びに来ていた。
それは構わないんだけど自分の神社はいいのかしらねほっといて。
「…………」
ダメだ。他のが気になってしょうがない……!
ほのぼのと日常を過ごそうと思っていたけど無理だ。
疑問が疑問を呼んで悶々としてああもう鬱陶しいなぁ!
先にこの疑問解消しよう。イライラを募らせても体に悪いだけだわ。
ちょいちょいと手招きして早苗を呼ぶ。
「なんですかー?」
いつでもどこでも満面の笑みねあんたは。
「いやあのさ。今談笑してた相手は誰かしら?」
「? 幽々子さんですけど?」
うん。幽々子だ。妖夢も遊びに来てる。
神社に遊びに来る不成仏霊って時点で問題あるけど今はそれは関係ない。
問題があるのは早苗なのだ。
「あいつらの周りの幽霊見えないの?」
「へ?」
問うと早苗は振り返って幽々子たちを凝視した。
「……もー。霊夢さんたらからかってー。何も居ないじゃないですかー」
居る。
幽々子たちの周りにはばっちり居る。
素人目にもはっきり幽霊だとわかるのが。
「ほん~~~っと~~に見えないの?」
「……冗談じゃないんですか?」
確かにあんたはからかい甲斐があるけどこれでからかったら痛い目見そうだからからかわないわよ。
子供の頃から幽霊見たがってるって知ってるもん。
「あ、妖夢さんの周りにお団子みたいのが!」
「いやあれ幽霊じゃなくて半霊だし」
波長が違うのか誰にでも見えるもんだし。
その気にならなくてもなんでか触れるし。
……妖夢たちが何事かとこちらに注目してる。
話も進まないしさっさと教えておくか……
「……妖夢、気合いの入った悪霊四匹憑けてんだけど」
「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
響き渡る甲高い悲鳴。
うっわー……耳いったぁ……
「やだうそとってー! とってー! うわぁぁぁんゆゆこさまぁぁぁぁっ!!」
「あら~、新しいファッションかと思ってたわ~」
「ど、どこですか!? すっごい悪霊ってどこに!?」
「両腕と首と腰にしがみついてるわよ」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
走り回る妖夢を懸命に目で追う早苗。全然見えてないらしい。
低級霊程度なら歩いてるだけで祓える早苗の神気にも負けずしがみつくほどの悪霊が見えないか……
つまり早苗は、
「霊夢! 霊夢さん! 霊夢様っ! お願いとってこれ祓ってー!!」
あーもーうるさいなぁ。考え事してる最中だっつーに。
「早苗ー。こっちゃ来い」
「はい? なんですか霊夢さーん」
「はい除霊完了」
気合い入った悪霊でも早苗が至近距離まで近づけば祓われるか。
本当に便利な奴。
「早苗に感謝しときなさいよ」
「……あ……ありがとうございます……」
「また祓っちゃった……見れなかった……」
肩で息してんのと意気消沈してんのの項垂れコンビを見下ろして私はポーズを決める。
「まぁこれでハッキリしたわね」
私の直感に加え今実証した事実。これはもう間違いない。
項垂れてるとこに突き付けるのはちょっと気が引けるがしょうがない。
決してちょっと楽しそうとか思ってないわ。思ってないって。
「早苗。あんたの霊感は……」
え、と彼女は顔を上げる。
目を見られてしまうと言い辛い。言い辛いのだが――
「無いっ! 無だっ! 英語で言うとdon't existっ!」
「存在しないとまで!?」
「控えめに言ってマイナスよ」
あー勢いで言い切ってすっきりした。
早苗はどん底まで落ちたみたいに項垂れちゃってるけど。
まあいずれ知らねばならないことだし。戦わなきゃ現実と。
「へー。早苗って霊感無いのか」
「あら居たの魔理沙」
振り返れば縁側に座ってお茶を啜る縁起の悪い白黒姿。
なんでか顔に浮かぶのは引き攣り気味の笑みだった。
「おい。いくらなんでもその言い様はなくないか」
「だっていっつも居るからもう背景に溶け込んじゃって……」
「……そんなに存在感薄いかな私は」
「キャラは薄いかも」
「なんだと!?」
「だって最近あんた常識的だし」
「い、いやそれはまわりがぶっ飛び過ぎててだな。必然的に突っ込みに回らざるを……」
「そこではっちゃけ切れないところが普通の魔法使いの所以よね」
「ぐぅ」
あれ。項垂れ組が増えた。
にこにこしてる幽々子と私しか残ってないんだけど。
打たれ弱い早苗はともかく妖夢と魔理沙まで……霊障かなぁ。
「早苗ちゃん便利ね~。拝み屋要らずだわ」
ここに一人すっごい悪霊が居るし。千年物とかこいつ以外見たことないわ。
「……あんた祓われる側なのに」
「え~? 呪ったり祟ったりしないわよ?」
ぽややんと幽々子は微笑む。
ううむ。相変わらずいつでもどこでもぽやぽやしてて苦手だわこいつ。
というか話してても話がどんどんずれていく気がする。
これも一種の霊障なんだろうか。
「つーか自分の部下に憑いた悪霊くらいあんたがどうにかしなさいよ。悪霊の大ボスでしょ?」
「人聞き悪いわね。気が向かなきゃ悪霊けしかけたりしないわよ」
気が向けばするのか。しかも出来るのか。
油断ならないなぁこの悪霊……
「……幽霊か。そういえばあんま研究したことないな」
「お、立ち直った」
渋い顔したままだが魔理沙はお茶を啜るのを再開していた。
その奥では妖夢も似たような顔でお茶を啜っている。
早苗だけが項垂れていた。
「妖怪と違って間接的な害だから気にもしなかったが、怖いもんなのかね」
「怖いのは怖いんじゃないの。自殺させたりする霊も居るって聞くし」
「自殺し続ける幽霊も居るけどね~」
それはそれで嫌ね。鬱陶しい。
「霊夢はそっち方面も専門なのか?」
「専門って程じゃないけどあんたよりは詳しいと思うわよ。頼まれりゃ除霊くらいするし」
「えーと……霊夢」
「はい妖夢」
挙手されたのでつい寺子屋に居る時の慧音の真似をしてしまった。
けっこう気分いいわねこれ。
「早苗のことだけど、妖怪退治出来るし神様だし奇跡も使えるのに霊感無いなんてありえるんですか?」
「霊力イコール霊感じゃないのよ。腕力と視力みたいなもんね。同居はすれども同一じゃないの。
力はあっても見えてないのよこいつ」
うぐぅ、と苦悶の声が聞こえてきたが無視。
「あ、ついでに私も」
「はい魔理沙」
「私も妖夢に憑いてた奴見えなかったんだがどういうことだ?」
「幽霊ってのは見える感じる奴に憑きたがるもんなのよ。多分だけどあんたの場合は……
うーん。安全装置が働いたんじゃないの?」
「さっぱりわからん」
「そこらの低級霊と違って危なそうだったから本能が見えないようにシャットダウンしてたんじゃないかしら」
「ほー。そんなこともあるんだな」
「まあそれでも憑いてくる奴は憑いてくるけどね」
やな感じだな、と嫌な顔をされた。私のせいじゃないから応えようがないわ。
「同じような理由で妖夢も見えてなかった」
「え。それ見えてない方が危険なんじゃ」
「……見える話せるってわかった悪霊に四六時中話しかけられつつ霊障ばりばり出されるのと、
黙ってくっ憑かれて適当な霊障ばりばり出されつつもそのうちどっか行っちゃうの。どっちがいい?」
「ごめんなさい」
「でもくっ憑かれて全く気付かないってのはある意味才能よ妖夢」
「へ?」
「鈍感って云う」
あれだけの悪霊背負ってて霊障無いなんてあり得ないし。
羨ましいくらいに鈍感だわ。うん。
をや。また項垂れてるわね妖夢。折角褒めたのに。
「ま、こんなところね」
はい説明終了。
「つーか幽霊見えない奴なんて居たんだな……」
「妖夢も大概鈍感だけど早苗には負けるわね」
「わ、私剣士だもん。霊媒師じゃないもん……」
泣かないでよ妖夢。なんか私がいじめたみたいじゃない。
「……ううぅ……」
怨霊の呻き声みたいのが足元から聞こえた。
…………足元?
は。忘れてたけど早苗。
「わ、私だって好きで霊感ゼロなわけじゃないですもん……」
「いやゼロじゃなくてマイナスよ早苗」
「フォローになってませんよ霊夢さんっ!」
そんな血涙流しそうなほどに悔しがらなくとも。
「ううう……見たい。幽霊見たいんです! どうにかなりませんか霊夢さん!」
「……霊感って生まれ持ったもんだと思ってたから鍛え方なんて知らない」
「ま、魔理沙さん!」
「……悪いけど右に同じく」
「よ、あ、いえ妖夢さんはいいです」
「ひどいな!?」
まあ妖夢鈍いしね。
それはさておき、うーん。鍛え方……ねぇ。
私はやったことないけど話には聞いたことあるようなないような。
「なんだっけな……霊的環境に身を置き感覚を研ぎ澄ます……とかなんとか」
「よさそうじゃないですか霊夢さん!」
「そうかぁ? なんか胡散臭い気がするぜ」
「黙ってろ魔理沙」
他に思い出せないのよ。こんなん必要ねーやねって聞き流してたやつだし。
ダメだ。どうやってもこれ以上思い出せないわ。
ちらと早苗を覗き見る。なんか目をキラキラさせていた。
……ダメだって。神様二柱居る環境より凄い霊的環境なんて用意出来ないって。
でもなんかしら用意せねば早苗の好感度がぐんと下がるのは目に見えている。
あああどうしたら。
「それなら打って付の宿があるわよ~」
救いの声が聞こえた。
「幽々子?」
そりゃ、霊と言えばこいつだろうけど……そんな都合よく?
まさか白玉楼ってわけじゃないだろうし。
「霊感鍛えるんでしょ? だったらそれなりの霊が居る屋敷じゃない~」
ますます白玉楼の線が濃厚になった。
「うちが管理してる物件なんだけどね」
「あんたが? ってことは冥界?」
「いいえ~、幻想郷にあるわよ~」
……意外だ。白玉楼よりも適してると幽々子が太鼓判捺すような物件が幻想郷にあるだなんて。
これで守矢神社とか紅魔館とかだったら問答無用で幽々子を成仏させるところなのだが――
そうはならなかった。
結局神社に居た全員を引き連れて移動。目的地に辿り着いた。
着いたのは人間の里から程近い林の中の一軒家。
屋敷と言うのは憚れる程度の平屋なのだが……
「おおぅ……」
「これは……」
「趣があるぜ……」
「かえりたい」
着いて早々弱音吐くな妖夢。
気持ちはわかるけども。
「一見綺麗な家ってあたりがやらしいわね」
まだ昼だっつーにおどろおどろしい空気がだだ漏れだ。
ちょっと勘のいい奴なら見た瞬間回れ右するのは確実な程不穏な気配が漂っている。
「一家心中があった家をそのまま宿にしたんだけどね、霊障がバリバリ出るもんでお客が寄り付かないのよ。
だもんで里からうちに管轄が変わったの~」
当然の如く曰くつきかい。
「確かにごっつい悪霊の気配するわね……これなら早苗が入っても出てかないわ」
「でしょ~?」
裏を返せばそれだけ危険ということだが、まあこの面子なら死ぬことはなかろう。
このままゴーストバスターズを名乗っても平気なくらいの能力者揃いだ。
「つまりここで生活すれば鍛えられるんですね!?」
鼻息荒いなあ早苗。ちょっと引いてると幽々子が制止した。
「あんまり長居するとあなたでも命取られちゃうかもしれないからそれはダメ~」
「え、じゃあどうするんですか? ……家には入らないでここでテント生活とか?」
「この雪が積もりまくってる季節にそんなこと言い出す気概は買うけどね~。
取り殺される前に凍死しちゃうわよ~」
うんうん。
早苗以外の全員が首肯する。
案を全員に否定され、他に案が出ないようでおたおたした末彼女は目を潤ませた。
「じゃあどうすればいいんですか~」
う。子供をいじめてるような状況に。
ど、どうしよう。慰めるべきよね。よし。ここは口先三寸で……
「さな」
「あーほら。泣くなって。要は長居しなけりゃいいんだろ?」
魔理沙ぁ!
ぐう、出遅れた……!
やり場のない手がぷるぷる震えるわコンチクショウ。
「うぅ……なんかいい案あるんですか?」
「おうよ。長居せずこの環境で鍛える……つまりは」
憎たらしくにやりと笑う。
「強化合宿すればいいんだ!」
「ようするに一泊だけしておさらばってわけね」
もったいぶって言うほどのことか。
「いいですね合宿!」
予想外に食い付いた!?
ぐぬぬ……魔理沙の方が早苗の好みわかってるのか……!?
「そんじゃー分担決めようぜー」
違うな。単にお祭り騒ぎが好きなだけだな。
「私が一番年上だからリーダーですね!」
早苗がノリノリに名乗り上げる。
んー。まー年上っちゃ年上だけどさあ。魔理沙私のいっこ下くらいだし。
でも早苗がリーダーってのはちょっと無理があるような気がする。
「あの、一番年上なの私なんだけど」
全員の目が声の主に向く。
妖夢だった。
「子供たちだけじゃ不安だから私が引率ね~」
「えー。引率付きかよ」
「学校思い出して楽しいですよー」
「まあ幽々子ならいいか。幽霊屋敷にゃ適任でしょ」
そんなわけでトップは幽々子に決まった。
しゃがみこんで地面になんか書いてる妖夢は置いといて話はどんどん進んでいく。
気付けば私も参加することになってたのはまあいいんだけど――
「キリが無いわっ!」
スコップを突き立てる。やわらかい感触だけで地面に触れているのかわからない。
無人の宿のまわりは雪だらけだった。
「ええい、この寒い時期に合宿なんて」
「雪かきが大変ですねー」
「霊感っつーか体力鍛えてる気がするぜ」
「屋根の雪下ろさないと宿が潰れるわよ~」
く、入口掘る前に言って欲しかったわ。
「全員で屋根行った方がいいかしら」
「あー……つららが落ちてきたら怖いしな」
「じゃあ屋根の上行ってる妖夢さんの手伝いしましょうか」
「そんじゃ行くかーってなんだこの音」
魔理沙の声に耳をそばだてる。
んー……? きしきしだかぎしぎしだか……?
屋根の上から……
「――総員退避ーっ!!」
逃げ出すのと屋根の雪が落ちてくるのは同時だった。
「うわー!? 妖夢埋まってんぞ!」
「ほ、掘らなきゃ!」
「あらあら」
「飛んで逃げなさいよあんたは!」
合宿始まる前から大騒ぎ。
掘り起こした妖夢を家の中に放り込んで除雪を再開する。
「あー、腰痛い」
「若者の台詞じゃねーな」
ほっとけ。
「あ、魔理沙。倉庫の方除雪終わってるから薪運んどいてよ」
「えー? 私がかよ」
「若いんでしょ。さ、行った行った」
ぶーぶー文句言いつつも働くからあんた好きだわ私。
さて、除雪はこんなもんかな。どうせまた雪降ったら埋まるし。
「霊夢さーん。厨房の方の除雪終わりましたー」
「ご苦労さん。そろそろ中入って暖まりましょうか」
「魔理沙さんたち手伝わなくていいんですか?」
「役割分担役割分担」
早苗の背を押して玄関に向かう。
妖夢が囲炉裏に火をくべてあるはずだから中は暖かいはず……ん?
うわあ、真面目だなぁ妖夢。魔理沙手伝って薪運んでるわ。って。
「あ」
いやに顔色悪いと思えばまあ。
「妖夢また悪霊拾ってるわ」
「うう……見えません……」
「特訓はこれからよ~」
幽々子。あんた働いてたっけ。
そんなこんなで夜になった。
「……結局さあ、この宿の手入れが面倒だったから私らを利用したんじゃないの?」
食後暇になった私たちは雑談に興じていた。
合宿だ特訓だと言ってもすることはこの宿で生活するだけなのだ。暇でしかない。
あらら~とか言って私の追及を逃れる幽々子の後ろで妖夢が青い顔してるのは気になったが。
いや寝てなきゃダメだろうその顔色は。
「妖夢、布団敷いとく?」
「……い、いえ……主人より先に寝るなど……」
「言ってる場合か。早苗ー、布団敷いといて。魔理沙そっちの肩持って」
ちゃっちゃと妖夢を寝かせる。多少抵抗したが体力が尽きたのかそのまま気絶するように寝てしまった。
「妖夢はまだまだ半人前ね~」
「まーそうかもね。冥界の住人があれじゃ困るわ」
「? なんの話ですか?」
「ん? ああ妖夢がね、凍死した霊に憑かれてグロッキーだから」
言うと何故か早苗は目を輝かせた。
「れ、霊視ってやつですか!? 霊の死因までわかるなんて!」
「え、あ、まあそんな感じだけど」
「へえ、霊夢そんな特技があったのか」
魔理沙まで乗ってきてしまった。そんな大層なものじゃないんだけど。
「すごいすごい! 霊夢さんって本当に霊能力者なんですね!」
…………早苗。私もう同業者でしょ? とか突っ込むのも疲れたよ。
「面白いなー。どんくらいわかるんだ?」
「えー……妖夢に憑いてんのはこの辺で遭難して行き倒れたやつで、そこそこタチ悪いわね。
健康な奴が憎くて取り憑いて体温下げてるわ。冬場こそ危険なやつ」
「へえ。祓わなくていいのか?」
「ここらに執着してる霊だからここを離れりゃ勝手に取れるわ。
なんだかんだで妖夢は被害を最小限に止めてるし。半霊半人の面目躍如ってとこかしら」
「ほうほう」
「それくらいよ。私の霊視なんて大したことないわ。幽々子くらい強い奴だと何も読み取れないし」
謙遜すんなよと小突かれる。
あーもう鬱陶しいな。
「魔理沙は……」
「え?」
じいっと魔理沙の肩の後ろを凝視する。
くくくびびってるびびってる。
「ほう。図書館からギってる本こっそり返してるけど大見得切った手前パチュリーにそれを言えないでいる。
悪いことしたなぁ謝った方がいいかなぁと悶々としてるがそれを素直に言い出せない」
「……おい待て」
「最近パチュリーの態度が軟化してる気がするがもしかして気付かれてるんじゃないかと不安に。
いやそれはそれでいいんだけどなんかカッコ悪くてどうしたものかと悩んでいる……」
「なんでそれを……! いやちが、まさか門番か!? 美鈴がばらしやがったのか!?」
「実はそう」
図書館に行きづらいからと美鈴に本の返却頼むあんたが悪い。
世間話にこれ持ち出す美鈴もまあ悪いっちゃ悪いかもしれないが。
「このインチキ霊能力者がぁ!」
「誰も霊視するなんて言ってないでしょ」
「そうだけど、そうだけどよ!」
「して欲しいんなら……ふんふん。へぇ……そうなんだ」
「肩越しに誰かと会話すんなーっ!?」
「魔理沙。友達として忠告するけど黒いドロワーズはどうかと思う」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
昼の件、復讐完了。
私を出し抜いて早苗の好感度上げた報いよ魔理沙。
「霊夢さん! 私は? 私は?」
「早苗は守護霊が強過ぎて聞き出せない」
「また私だけはぎれっこですかー!」
はぎれっこ……仲間外れって意味だっけ。
「うう……神奈子様たちも空気読んでくれればいいのに……」
「あ。それなんだけど早苗」
「はい?」
「あんたの守護霊神奈子たちと思ってたけどどうも違うみたいよ」
「へ?」
「神奈子たちのオーラが乗ってんのは確かだけど、それとは別にちゃんとした守護霊が居るわ」
「え……だ、誰ですか?」
「いやだからさ、強過ぎてわかんないの。さっぱり読めないわ」
……ん? なんだろう。ひどく落胆した顔。
「そうですか……」
いつものいじけ顔では、ない。
そんなに守護霊が誰か知りたかったのかとも思ったがどうも様子がおかしい。
早苗らしからぬ、楽しみとは無縁の感情が見て取れる。
このお気楽巫女にしては妙だが……なんなんだろう?
「はい。そろそろ消灯よ~」
幽々子の声に魔理沙が噛みつく。
「まだ十時だぜ、早くないか」
「子供は寝る時間よ? それに今日は肉体労働で疲れたでしょ?」
魔理沙が幽々子に口で勝てるわけがない。言い合う毎に丸めこまれていく。
あいつも懲りないなー……なんて聞き流して、早苗を見る。
まだ浮かぬ顔。布団の用意に向かう背にいつもの陽気さは感じられなかった。
なにか、変なこと言っちゃったかしら……?
深夜。
布団に入りはしたものの寝付けない。
早苗のあの顔が気になってしょうがないのだ。
兎に角理由がわからない。私がなにか口を滑らせたのなら早苗はストレートに怒るだろうし。
やはり守護霊が誰か不明なのが気になっているのだろうか。
うーん……普通は気になるかなぁ。私は守護霊なんて居ないからよくわかんないんだけど。
早苗もあれで繊細なところがあるかも……かも、か、あるかな? いやあるだろうきっと。
私にはわからない悩みの一つや二つ抱えててもおかしくないということにして。
……わからないよなぁ。私はまだ早苗に想いを伝えることも出来てない。
彼女の気持ちなんて欠片ほども知らない。どれだけ早苗を理解出来ているのかさえ見当もつかない。
わからないことだらけだ。
友達だけど、それ以上でも以下でもなく近くも遠くもない。
もっと歩み寄らなきゃいけないんだろうけど……まだ、無理かな。
「…………で……く……て」
こうして合宿して、同じ部屋で寝ててもひどく遠く感じてしまう。
手を伸ばせば届く距離に居るのにそうする勇気が出せない。
「……なんです……から……して……るって……」
魔理沙たちが居るから、ってのもあるけれど……
――――二人で来たかった。
なんて思うのは勝手が過ぎるし、ロマンチストにも程があるかな。
「……さむ…………しい……えもこごえ……」
でも少しくらい、欲、ばったって、ゆ、許……
「ってうるっさいなもう!!」
「うぴゃあ!?」
あーぼそぼそぼそぼそと鬱陶しい! ぶん殴るわよ!?
「ふぇ、れ、れいむしゃん?」
「ん……ごめん。こいつらがうるさくて……」
指差すと早苗の寝惚け眼が消え去った。
「魔理沙さんと妖夢さん……の声じゃないですね!?」
食い付きいいなーオカルト好きめ。
「なんですかこれ! なんですかこれ!!」
「あー。魔理沙と妖夢に取り憑いた地縛霊が会話してるわね」
「寝言は冥府の言葉だから話しかけちゃダメよ~」
あ。幽々子も起きてきた。
ったく寝るタイミング完全に逸したわね。
行燈に火を入れる。流石は幽霊屋敷か、それでも魔理沙たちに取り憑いた霊は出て行かず喋り続けている。
「訊かれる前に答えるけど魔理沙にはこの家で心中した霊が憑いてるわ」
「なるほどなるほど」
メモとってどうする気なんだろうこいつ。
つーか図太いわねこの悪霊共。横で生者が談話してるっつーに平気で会話しおって。
「しっかし魔法使いだの半霊だのやってる割にはあっさり取り憑かれるわねこいつら」
「半人前なのね~」
「あああうらやましいぃぃぃぃぃ」
「うらやましがるのは勝手だけど。取り憑かれたらあんた自分じゃ見えないし聞こえないのよ?」
「あ、そうか。じゃあ今が一番楽しめてるんですね! やったぁ!」
真夜中だってのに元気いいなー。私眠くて目が半分しか開かないよ。
ああだんだん腹立ってきた。暴れたい。
「ねー幽々子ー。このボケ悪霊祓っていいー?」
「ダメよ~。もう少し怨念薄れてからじゃないと地獄行きの時揉めるのよ~」
めんどくさいなあ霊の世界。地獄行き決まってんならどーでもよさそうなのに。
寝るのを邪魔された怒りは治まらなかったが、徐々に眠気が勝ってくる。
んー……
「……おやすみ」
暴れられないんなら寝ちゃおう。
あ、さっき中断された乙女チックな心が疼く。
早苗の顔見ながら眠れば早苗の夢見れるわよね。
薄眼を開ける。早苗は地縛霊二人の会話をメモしていた。
――……すてきな夢が見れそうね。チクショウ。
それは構わないんだけど自分の神社はいいのかしらねほっといて。
「…………」
ダメだ。他のが気になってしょうがない……!
ほのぼのと日常を過ごそうと思っていたけど無理だ。
疑問が疑問を呼んで悶々としてああもう鬱陶しいなぁ!
先にこの疑問解消しよう。イライラを募らせても体に悪いだけだわ。
ちょいちょいと手招きして早苗を呼ぶ。
「なんですかー?」
いつでもどこでも満面の笑みねあんたは。
「いやあのさ。今談笑してた相手は誰かしら?」
「? 幽々子さんですけど?」
うん。幽々子だ。妖夢も遊びに来てる。
神社に遊びに来る不成仏霊って時点で問題あるけど今はそれは関係ない。
問題があるのは早苗なのだ。
「あいつらの周りの幽霊見えないの?」
「へ?」
問うと早苗は振り返って幽々子たちを凝視した。
「……もー。霊夢さんたらからかってー。何も居ないじゃないですかー」
居る。
幽々子たちの周りにはばっちり居る。
素人目にもはっきり幽霊だとわかるのが。
「ほん~~~っと~~に見えないの?」
「……冗談じゃないんですか?」
確かにあんたはからかい甲斐があるけどこれでからかったら痛い目見そうだからからかわないわよ。
子供の頃から幽霊見たがってるって知ってるもん。
「あ、妖夢さんの周りにお団子みたいのが!」
「いやあれ幽霊じゃなくて半霊だし」
波長が違うのか誰にでも見えるもんだし。
その気にならなくてもなんでか触れるし。
……妖夢たちが何事かとこちらに注目してる。
話も進まないしさっさと教えておくか……
「……妖夢、気合いの入った悪霊四匹憑けてんだけど」
「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
響き渡る甲高い悲鳴。
うっわー……耳いったぁ……
「やだうそとってー! とってー! うわぁぁぁんゆゆこさまぁぁぁぁっ!!」
「あら~、新しいファッションかと思ってたわ~」
「ど、どこですか!? すっごい悪霊ってどこに!?」
「両腕と首と腰にしがみついてるわよ」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
走り回る妖夢を懸命に目で追う早苗。全然見えてないらしい。
低級霊程度なら歩いてるだけで祓える早苗の神気にも負けずしがみつくほどの悪霊が見えないか……
つまり早苗は、
「霊夢! 霊夢さん! 霊夢様っ! お願いとってこれ祓ってー!!」
あーもーうるさいなぁ。考え事してる最中だっつーに。
「早苗ー。こっちゃ来い」
「はい? なんですか霊夢さーん」
「はい除霊完了」
気合い入った悪霊でも早苗が至近距離まで近づけば祓われるか。
本当に便利な奴。
「早苗に感謝しときなさいよ」
「……あ……ありがとうございます……」
「また祓っちゃった……見れなかった……」
肩で息してんのと意気消沈してんのの項垂れコンビを見下ろして私はポーズを決める。
「まぁこれでハッキリしたわね」
私の直感に加え今実証した事実。これはもう間違いない。
項垂れてるとこに突き付けるのはちょっと気が引けるがしょうがない。
決してちょっと楽しそうとか思ってないわ。思ってないって。
「早苗。あんたの霊感は……」
え、と彼女は顔を上げる。
目を見られてしまうと言い辛い。言い辛いのだが――
「無いっ! 無だっ! 英語で言うとdon't existっ!」
「存在しないとまで!?」
「控えめに言ってマイナスよ」
あー勢いで言い切ってすっきりした。
早苗はどん底まで落ちたみたいに項垂れちゃってるけど。
まあいずれ知らねばならないことだし。戦わなきゃ現実と。
「へー。早苗って霊感無いのか」
「あら居たの魔理沙」
振り返れば縁側に座ってお茶を啜る縁起の悪い白黒姿。
なんでか顔に浮かぶのは引き攣り気味の笑みだった。
「おい。いくらなんでもその言い様はなくないか」
「だっていっつも居るからもう背景に溶け込んじゃって……」
「……そんなに存在感薄いかな私は」
「キャラは薄いかも」
「なんだと!?」
「だって最近あんた常識的だし」
「い、いやそれはまわりがぶっ飛び過ぎててだな。必然的に突っ込みに回らざるを……」
「そこではっちゃけ切れないところが普通の魔法使いの所以よね」
「ぐぅ」
あれ。項垂れ組が増えた。
にこにこしてる幽々子と私しか残ってないんだけど。
打たれ弱い早苗はともかく妖夢と魔理沙まで……霊障かなぁ。
「早苗ちゃん便利ね~。拝み屋要らずだわ」
ここに一人すっごい悪霊が居るし。千年物とかこいつ以外見たことないわ。
「……あんた祓われる側なのに」
「え~? 呪ったり祟ったりしないわよ?」
ぽややんと幽々子は微笑む。
ううむ。相変わらずいつでもどこでもぽやぽやしてて苦手だわこいつ。
というか話してても話がどんどんずれていく気がする。
これも一種の霊障なんだろうか。
「つーか自分の部下に憑いた悪霊くらいあんたがどうにかしなさいよ。悪霊の大ボスでしょ?」
「人聞き悪いわね。気が向かなきゃ悪霊けしかけたりしないわよ」
気が向けばするのか。しかも出来るのか。
油断ならないなぁこの悪霊……
「……幽霊か。そういえばあんま研究したことないな」
「お、立ち直った」
渋い顔したままだが魔理沙はお茶を啜るのを再開していた。
その奥では妖夢も似たような顔でお茶を啜っている。
早苗だけが項垂れていた。
「妖怪と違って間接的な害だから気にもしなかったが、怖いもんなのかね」
「怖いのは怖いんじゃないの。自殺させたりする霊も居るって聞くし」
「自殺し続ける幽霊も居るけどね~」
それはそれで嫌ね。鬱陶しい。
「霊夢はそっち方面も専門なのか?」
「専門って程じゃないけどあんたよりは詳しいと思うわよ。頼まれりゃ除霊くらいするし」
「えーと……霊夢」
「はい妖夢」
挙手されたのでつい寺子屋に居る時の慧音の真似をしてしまった。
けっこう気分いいわねこれ。
「早苗のことだけど、妖怪退治出来るし神様だし奇跡も使えるのに霊感無いなんてありえるんですか?」
「霊力イコール霊感じゃないのよ。腕力と視力みたいなもんね。同居はすれども同一じゃないの。
力はあっても見えてないのよこいつ」
うぐぅ、と苦悶の声が聞こえてきたが無視。
「あ、ついでに私も」
「はい魔理沙」
「私も妖夢に憑いてた奴見えなかったんだがどういうことだ?」
「幽霊ってのは見える感じる奴に憑きたがるもんなのよ。多分だけどあんたの場合は……
うーん。安全装置が働いたんじゃないの?」
「さっぱりわからん」
「そこらの低級霊と違って危なそうだったから本能が見えないようにシャットダウンしてたんじゃないかしら」
「ほー。そんなこともあるんだな」
「まあそれでも憑いてくる奴は憑いてくるけどね」
やな感じだな、と嫌な顔をされた。私のせいじゃないから応えようがないわ。
「同じような理由で妖夢も見えてなかった」
「え。それ見えてない方が危険なんじゃ」
「……見える話せるってわかった悪霊に四六時中話しかけられつつ霊障ばりばり出されるのと、
黙ってくっ憑かれて適当な霊障ばりばり出されつつもそのうちどっか行っちゃうの。どっちがいい?」
「ごめんなさい」
「でもくっ憑かれて全く気付かないってのはある意味才能よ妖夢」
「へ?」
「鈍感って云う」
あれだけの悪霊背負ってて霊障無いなんてあり得ないし。
羨ましいくらいに鈍感だわ。うん。
をや。また項垂れてるわね妖夢。折角褒めたのに。
「ま、こんなところね」
はい説明終了。
「つーか幽霊見えない奴なんて居たんだな……」
「妖夢も大概鈍感だけど早苗には負けるわね」
「わ、私剣士だもん。霊媒師じゃないもん……」
泣かないでよ妖夢。なんか私がいじめたみたいじゃない。
「……ううぅ……」
怨霊の呻き声みたいのが足元から聞こえた。
…………足元?
は。忘れてたけど早苗。
「わ、私だって好きで霊感ゼロなわけじゃないですもん……」
「いやゼロじゃなくてマイナスよ早苗」
「フォローになってませんよ霊夢さんっ!」
そんな血涙流しそうなほどに悔しがらなくとも。
「ううう……見たい。幽霊見たいんです! どうにかなりませんか霊夢さん!」
「……霊感って生まれ持ったもんだと思ってたから鍛え方なんて知らない」
「ま、魔理沙さん!」
「……悪いけど右に同じく」
「よ、あ、いえ妖夢さんはいいです」
「ひどいな!?」
まあ妖夢鈍いしね。
それはさておき、うーん。鍛え方……ねぇ。
私はやったことないけど話には聞いたことあるようなないような。
「なんだっけな……霊的環境に身を置き感覚を研ぎ澄ます……とかなんとか」
「よさそうじゃないですか霊夢さん!」
「そうかぁ? なんか胡散臭い気がするぜ」
「黙ってろ魔理沙」
他に思い出せないのよ。こんなん必要ねーやねって聞き流してたやつだし。
ダメだ。どうやってもこれ以上思い出せないわ。
ちらと早苗を覗き見る。なんか目をキラキラさせていた。
……ダメだって。神様二柱居る環境より凄い霊的環境なんて用意出来ないって。
でもなんかしら用意せねば早苗の好感度がぐんと下がるのは目に見えている。
あああどうしたら。
「それなら打って付の宿があるわよ~」
救いの声が聞こえた。
「幽々子?」
そりゃ、霊と言えばこいつだろうけど……そんな都合よく?
まさか白玉楼ってわけじゃないだろうし。
「霊感鍛えるんでしょ? だったらそれなりの霊が居る屋敷じゃない~」
ますます白玉楼の線が濃厚になった。
「うちが管理してる物件なんだけどね」
「あんたが? ってことは冥界?」
「いいえ~、幻想郷にあるわよ~」
……意外だ。白玉楼よりも適してると幽々子が太鼓判捺すような物件が幻想郷にあるだなんて。
これで守矢神社とか紅魔館とかだったら問答無用で幽々子を成仏させるところなのだが――
そうはならなかった。
結局神社に居た全員を引き連れて移動。目的地に辿り着いた。
着いたのは人間の里から程近い林の中の一軒家。
屋敷と言うのは憚れる程度の平屋なのだが……
「おおぅ……」
「これは……」
「趣があるぜ……」
「かえりたい」
着いて早々弱音吐くな妖夢。
気持ちはわかるけども。
「一見綺麗な家ってあたりがやらしいわね」
まだ昼だっつーにおどろおどろしい空気がだだ漏れだ。
ちょっと勘のいい奴なら見た瞬間回れ右するのは確実な程不穏な気配が漂っている。
「一家心中があった家をそのまま宿にしたんだけどね、霊障がバリバリ出るもんでお客が寄り付かないのよ。
だもんで里からうちに管轄が変わったの~」
当然の如く曰くつきかい。
「確かにごっつい悪霊の気配するわね……これなら早苗が入っても出てかないわ」
「でしょ~?」
裏を返せばそれだけ危険ということだが、まあこの面子なら死ぬことはなかろう。
このままゴーストバスターズを名乗っても平気なくらいの能力者揃いだ。
「つまりここで生活すれば鍛えられるんですね!?」
鼻息荒いなあ早苗。ちょっと引いてると幽々子が制止した。
「あんまり長居するとあなたでも命取られちゃうかもしれないからそれはダメ~」
「え、じゃあどうするんですか? ……家には入らないでここでテント生活とか?」
「この雪が積もりまくってる季節にそんなこと言い出す気概は買うけどね~。
取り殺される前に凍死しちゃうわよ~」
うんうん。
早苗以外の全員が首肯する。
案を全員に否定され、他に案が出ないようでおたおたした末彼女は目を潤ませた。
「じゃあどうすればいいんですか~」
う。子供をいじめてるような状況に。
ど、どうしよう。慰めるべきよね。よし。ここは口先三寸で……
「さな」
「あーほら。泣くなって。要は長居しなけりゃいいんだろ?」
魔理沙ぁ!
ぐう、出遅れた……!
やり場のない手がぷるぷる震えるわコンチクショウ。
「うぅ……なんかいい案あるんですか?」
「おうよ。長居せずこの環境で鍛える……つまりは」
憎たらしくにやりと笑う。
「強化合宿すればいいんだ!」
「ようするに一泊だけしておさらばってわけね」
もったいぶって言うほどのことか。
「いいですね合宿!」
予想外に食い付いた!?
ぐぬぬ……魔理沙の方が早苗の好みわかってるのか……!?
「そんじゃー分担決めようぜー」
違うな。単にお祭り騒ぎが好きなだけだな。
「私が一番年上だからリーダーですね!」
早苗がノリノリに名乗り上げる。
んー。まー年上っちゃ年上だけどさあ。魔理沙私のいっこ下くらいだし。
でも早苗がリーダーってのはちょっと無理があるような気がする。
「あの、一番年上なの私なんだけど」
全員の目が声の主に向く。
妖夢だった。
「子供たちだけじゃ不安だから私が引率ね~」
「えー。引率付きかよ」
「学校思い出して楽しいですよー」
「まあ幽々子ならいいか。幽霊屋敷にゃ適任でしょ」
そんなわけでトップは幽々子に決まった。
しゃがみこんで地面になんか書いてる妖夢は置いといて話はどんどん進んでいく。
気付けば私も参加することになってたのはまあいいんだけど――
「キリが無いわっ!」
スコップを突き立てる。やわらかい感触だけで地面に触れているのかわからない。
無人の宿のまわりは雪だらけだった。
「ええい、この寒い時期に合宿なんて」
「雪かきが大変ですねー」
「霊感っつーか体力鍛えてる気がするぜ」
「屋根の雪下ろさないと宿が潰れるわよ~」
く、入口掘る前に言って欲しかったわ。
「全員で屋根行った方がいいかしら」
「あー……つららが落ちてきたら怖いしな」
「じゃあ屋根の上行ってる妖夢さんの手伝いしましょうか」
「そんじゃ行くかーってなんだこの音」
魔理沙の声に耳をそばだてる。
んー……? きしきしだかぎしぎしだか……?
屋根の上から……
「――総員退避ーっ!!」
逃げ出すのと屋根の雪が落ちてくるのは同時だった。
「うわー!? 妖夢埋まってんぞ!」
「ほ、掘らなきゃ!」
「あらあら」
「飛んで逃げなさいよあんたは!」
合宿始まる前から大騒ぎ。
掘り起こした妖夢を家の中に放り込んで除雪を再開する。
「あー、腰痛い」
「若者の台詞じゃねーな」
ほっとけ。
「あ、魔理沙。倉庫の方除雪終わってるから薪運んどいてよ」
「えー? 私がかよ」
「若いんでしょ。さ、行った行った」
ぶーぶー文句言いつつも働くからあんた好きだわ私。
さて、除雪はこんなもんかな。どうせまた雪降ったら埋まるし。
「霊夢さーん。厨房の方の除雪終わりましたー」
「ご苦労さん。そろそろ中入って暖まりましょうか」
「魔理沙さんたち手伝わなくていいんですか?」
「役割分担役割分担」
早苗の背を押して玄関に向かう。
妖夢が囲炉裏に火をくべてあるはずだから中は暖かいはず……ん?
うわあ、真面目だなぁ妖夢。魔理沙手伝って薪運んでるわ。って。
「あ」
いやに顔色悪いと思えばまあ。
「妖夢また悪霊拾ってるわ」
「うう……見えません……」
「特訓はこれからよ~」
幽々子。あんた働いてたっけ。
そんなこんなで夜になった。
「……結局さあ、この宿の手入れが面倒だったから私らを利用したんじゃないの?」
食後暇になった私たちは雑談に興じていた。
合宿だ特訓だと言ってもすることはこの宿で生活するだけなのだ。暇でしかない。
あらら~とか言って私の追及を逃れる幽々子の後ろで妖夢が青い顔してるのは気になったが。
いや寝てなきゃダメだろうその顔色は。
「妖夢、布団敷いとく?」
「……い、いえ……主人より先に寝るなど……」
「言ってる場合か。早苗ー、布団敷いといて。魔理沙そっちの肩持って」
ちゃっちゃと妖夢を寝かせる。多少抵抗したが体力が尽きたのかそのまま気絶するように寝てしまった。
「妖夢はまだまだ半人前ね~」
「まーそうかもね。冥界の住人があれじゃ困るわ」
「? なんの話ですか?」
「ん? ああ妖夢がね、凍死した霊に憑かれてグロッキーだから」
言うと何故か早苗は目を輝かせた。
「れ、霊視ってやつですか!? 霊の死因までわかるなんて!」
「え、あ、まあそんな感じだけど」
「へえ、霊夢そんな特技があったのか」
魔理沙まで乗ってきてしまった。そんな大層なものじゃないんだけど。
「すごいすごい! 霊夢さんって本当に霊能力者なんですね!」
…………早苗。私もう同業者でしょ? とか突っ込むのも疲れたよ。
「面白いなー。どんくらいわかるんだ?」
「えー……妖夢に憑いてんのはこの辺で遭難して行き倒れたやつで、そこそこタチ悪いわね。
健康な奴が憎くて取り憑いて体温下げてるわ。冬場こそ危険なやつ」
「へえ。祓わなくていいのか?」
「ここらに執着してる霊だからここを離れりゃ勝手に取れるわ。
なんだかんだで妖夢は被害を最小限に止めてるし。半霊半人の面目躍如ってとこかしら」
「ほうほう」
「それくらいよ。私の霊視なんて大したことないわ。幽々子くらい強い奴だと何も読み取れないし」
謙遜すんなよと小突かれる。
あーもう鬱陶しいな。
「魔理沙は……」
「え?」
じいっと魔理沙の肩の後ろを凝視する。
くくくびびってるびびってる。
「ほう。図書館からギってる本こっそり返してるけど大見得切った手前パチュリーにそれを言えないでいる。
悪いことしたなぁ謝った方がいいかなぁと悶々としてるがそれを素直に言い出せない」
「……おい待て」
「最近パチュリーの態度が軟化してる気がするがもしかして気付かれてるんじゃないかと不安に。
いやそれはそれでいいんだけどなんかカッコ悪くてどうしたものかと悩んでいる……」
「なんでそれを……! いやちが、まさか門番か!? 美鈴がばらしやがったのか!?」
「実はそう」
図書館に行きづらいからと美鈴に本の返却頼むあんたが悪い。
世間話にこれ持ち出す美鈴もまあ悪いっちゃ悪いかもしれないが。
「このインチキ霊能力者がぁ!」
「誰も霊視するなんて言ってないでしょ」
「そうだけど、そうだけどよ!」
「して欲しいんなら……ふんふん。へぇ……そうなんだ」
「肩越しに誰かと会話すんなーっ!?」
「魔理沙。友達として忠告するけど黒いドロワーズはどうかと思う」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
昼の件、復讐完了。
私を出し抜いて早苗の好感度上げた報いよ魔理沙。
「霊夢さん! 私は? 私は?」
「早苗は守護霊が強過ぎて聞き出せない」
「また私だけはぎれっこですかー!」
はぎれっこ……仲間外れって意味だっけ。
「うう……神奈子様たちも空気読んでくれればいいのに……」
「あ。それなんだけど早苗」
「はい?」
「あんたの守護霊神奈子たちと思ってたけどどうも違うみたいよ」
「へ?」
「神奈子たちのオーラが乗ってんのは確かだけど、それとは別にちゃんとした守護霊が居るわ」
「え……だ、誰ですか?」
「いやだからさ、強過ぎてわかんないの。さっぱり読めないわ」
……ん? なんだろう。ひどく落胆した顔。
「そうですか……」
いつものいじけ顔では、ない。
そんなに守護霊が誰か知りたかったのかとも思ったがどうも様子がおかしい。
早苗らしからぬ、楽しみとは無縁の感情が見て取れる。
このお気楽巫女にしては妙だが……なんなんだろう?
「はい。そろそろ消灯よ~」
幽々子の声に魔理沙が噛みつく。
「まだ十時だぜ、早くないか」
「子供は寝る時間よ? それに今日は肉体労働で疲れたでしょ?」
魔理沙が幽々子に口で勝てるわけがない。言い合う毎に丸めこまれていく。
あいつも懲りないなー……なんて聞き流して、早苗を見る。
まだ浮かぬ顔。布団の用意に向かう背にいつもの陽気さは感じられなかった。
なにか、変なこと言っちゃったかしら……?
深夜。
布団に入りはしたものの寝付けない。
早苗のあの顔が気になってしょうがないのだ。
兎に角理由がわからない。私がなにか口を滑らせたのなら早苗はストレートに怒るだろうし。
やはり守護霊が誰か不明なのが気になっているのだろうか。
うーん……普通は気になるかなぁ。私は守護霊なんて居ないからよくわかんないんだけど。
早苗もあれで繊細なところがあるかも……かも、か、あるかな? いやあるだろうきっと。
私にはわからない悩みの一つや二つ抱えててもおかしくないということにして。
……わからないよなぁ。私はまだ早苗に想いを伝えることも出来てない。
彼女の気持ちなんて欠片ほども知らない。どれだけ早苗を理解出来ているのかさえ見当もつかない。
わからないことだらけだ。
友達だけど、それ以上でも以下でもなく近くも遠くもない。
もっと歩み寄らなきゃいけないんだろうけど……まだ、無理かな。
「…………で……く……て」
こうして合宿して、同じ部屋で寝ててもひどく遠く感じてしまう。
手を伸ばせば届く距離に居るのにそうする勇気が出せない。
「……なんです……から……して……るって……」
魔理沙たちが居るから、ってのもあるけれど……
――――二人で来たかった。
なんて思うのは勝手が過ぎるし、ロマンチストにも程があるかな。
「……さむ…………しい……えもこごえ……」
でも少しくらい、欲、ばったって、ゆ、許……
「ってうるっさいなもう!!」
「うぴゃあ!?」
あーぼそぼそぼそぼそと鬱陶しい! ぶん殴るわよ!?
「ふぇ、れ、れいむしゃん?」
「ん……ごめん。こいつらがうるさくて……」
指差すと早苗の寝惚け眼が消え去った。
「魔理沙さんと妖夢さん……の声じゃないですね!?」
食い付きいいなーオカルト好きめ。
「なんですかこれ! なんですかこれ!!」
「あー。魔理沙と妖夢に取り憑いた地縛霊が会話してるわね」
「寝言は冥府の言葉だから話しかけちゃダメよ~」
あ。幽々子も起きてきた。
ったく寝るタイミング完全に逸したわね。
行燈に火を入れる。流石は幽霊屋敷か、それでも魔理沙たちに取り憑いた霊は出て行かず喋り続けている。
「訊かれる前に答えるけど魔理沙にはこの家で心中した霊が憑いてるわ」
「なるほどなるほど」
メモとってどうする気なんだろうこいつ。
つーか図太いわねこの悪霊共。横で生者が談話してるっつーに平気で会話しおって。
「しっかし魔法使いだの半霊だのやってる割にはあっさり取り憑かれるわねこいつら」
「半人前なのね~」
「あああうらやましいぃぃぃぃぃ」
「うらやましがるのは勝手だけど。取り憑かれたらあんた自分じゃ見えないし聞こえないのよ?」
「あ、そうか。じゃあ今が一番楽しめてるんですね! やったぁ!」
真夜中だってのに元気いいなー。私眠くて目が半分しか開かないよ。
ああだんだん腹立ってきた。暴れたい。
「ねー幽々子ー。このボケ悪霊祓っていいー?」
「ダメよ~。もう少し怨念薄れてからじゃないと地獄行きの時揉めるのよ~」
めんどくさいなあ霊の世界。地獄行き決まってんならどーでもよさそうなのに。
寝るのを邪魔された怒りは治まらなかったが、徐々に眠気が勝ってくる。
んー……
「……おやすみ」
暴れられないんなら寝ちゃおう。
あ、さっき中断された乙女チックな心が疼く。
早苗の顔見ながら眠れば早苗の夢見れるわよね。
薄眼を開ける。早苗は地縛霊二人の会話をメモしていた。
――……すてきな夢が見れそうね。チクショウ。
早苗の落ち込みようや霊夢の追い打ちとか幽々子ののほほんとした様子が良かったです。
幽霊屋敷での会話なども面白かったです。
早苗の守護霊が何なのか気に成るなぁ。
面白かったです♪
怖いっていう感じはなかったけど、実際その場にいたら、絶対帰ってるわw
ゆゆ様なら仕方ないよね
みんなとても可愛かったです。
しかしこっそり美鈴経由で本を返してて、しかもそれを多分パチュリーにバラされててパチュリーにこっそり愛でられ始めてそうな魔理沙にニヤニヤが止まらない…w
早苗を護ってるのは霊夢に決まってんじゃあないスか!
ていうか俺の背後にもそろそろ神奈子様のオーラが乗っかってて良い筈。信仰心はバチリ!
こう言う皆でお泊りとか結構好きなんです
早苗の事も気になるし
続きが早くみたいです
面白かったです。