――鬼はぁー外ー――
――福はぁー内ー――
「これで今年も紅魔館は安泰ね。」
そう言って満足げに頷いたのは、紅魔館の主、レミリア・スカーレットである。この紅魔館では数年前から毎年2月3日を含む全四回、節分の大豆まき大会が催されることになっていた。
その様子を見ていたレミリアの友人、パチュリー・ノーレッジが相変わらず表情の見えない視線でレミリアを見る。
「でもレミィ、発案した私が言うのもなんだけど、鬼がいない筈の内に悪魔が居たのでは意味がないのではなくて?」
「こういうのは形式なのよ。ねぇ咲夜?」
「そうですわね。人間の行事が正鵠を射ることもままあることですわ。」
「豆は魔滅とも言いますし、この行事自体は随分古くからのものですからね。」
咲夜の言葉にそう言って続けたのは紅 美鈴だった。彼女はちょうど外での豆まきから帰って来たところだ。
「そうか、そういえば美鈴は東方の生まれだったわね。」
レミリアの問いに美鈴がはいと頷く。
「私のところでは節分にやっていたわけではありませんが…節分は日本の行事ですからね、私は中国の生まれですし。」
「私達は西洋の生まれだから馴染みのない行事だったけどねぇ。」
「あれ、咲夜さんって何処の生まれでしたっけ?」
「さあ、どうだったかしら。」
にこりと笑って瀟洒なメイドはさらっと惚けた。まあ、いつものことだ。
「さてそれでは鬼を払った祝いに乾杯でも」
「酒盛りなら私も混ぜなよ。」
「…貴女、私の言葉聞いてた?」
レミリアはパーティーへの参加を申し出た突然の侵入者を睨んだ。
「聞いてたよ。」
「鬼を払ったと言ったのよ。」
「残念ながら私はピンピンしてるけどね?」
「………ほう。」
レミリアがにいと笑って持っていた乾杯用のグラスを置いた。ふわりと浮き上がって侵入者――鬼の伊吹 萃香を見下ろす。
「なら私が直々に退治してあげるわ。それが望みのようだからねぇ。」
応じて萃香も好戦的に笑った。幻想郷一の人間の敵と称される鬼として生まれた彼女の力が周囲に弾幕を形成する。
「あんた如きお子様が私に勝てると?」
「この私がお前如きに負けるとお思いかい?」
パチュリーが溜め息を吐いた。咲夜は平然と、美鈴と小悪魔は焦ってわたわたするばかり。その時実にタイミングの悪いことにレミリアの妹、フランドール・スカーレットが彼女達の前に顔を出した。キラキラと目を輝かせる。
「お姉様、弾幕ごっこ?私もやる!」
たった三人とは言えボス級である。あわや紅魔館も万事休すか――と、思われた、その時。
「「「痛ぁっっ」」」
弾幕の代わりに悲鳴の三重唱が響いた。何事かと全員が揃って外を見る。そこに居たのは2人の少女だった。
「妖怪を三人いっぺんに退治出来るとは、炒り豆って便利ね。」
「いや、この場合は節分という行事に敬意を払うべきだな。なかなかどうして古の知恵というものは素晴らしいじゃないか。」
「あんたが言うと全く敬意には聞こえないから不思議だわ。」
「――そこの黒白と紅白。入り口は窓じゃないわよ。」
「おう、パチュリー。堂々と侵入させて貰ってるぜ。」
パチュリーの言葉に手を挙げて応じたのは霧雨 魔理沙。隣で升を持っているのは博麗 霊夢だった。どうやら豆を投げたのは霊夢の方らしい。
萃香がガバッと起き上がって霊夢に抗議した。
「何するのよ、霊夢!痛いでしょうが!」
「何って、鬼退治よ、鬼退治。何なら地底からお仲間呼んで来ても良いわよ。」
「何処の鬼がやられると分かってて仲間を呼ぶってのよ。」
あーもう、興醒めだ。
萃香が投げやりにそう言って腰に提げた瓢箪から酒を飲む。隣で吸血鬼のスカーレット姉妹も起き上がった。
「屈辱だわ…この私ともあろうものが巫女如きに…」
「初めてではないですわ、お嬢様。」
「弾幕ごっこー…」
「また今度ですわね、フラン様。どうか御勘弁を。」
「仕方ない。咲夜、お酒を追加して頂戴。」
「畏まりました。」
レミリアの指示を受けて咲夜がパッとホールのテーブルに大量の酒瓶を出現させる。
「へえ。気が利くじゃないか、吸血鬼。」
「私はカリスマの具現。これも私の性質の内よ。」
くすっと2人の鬼が笑い合う。幻想郷は今日も平和だ。
ほんと、平和だなぁ。
出来ればもうちょい読みたかった。