Coolier - 新生・東方創想話

永琳のバースディお祝い大作戦

2010/01/31 18:34:01
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[蓬莱の命といえども、人を敬う気持ちを忘れてしまっては死んでいるのと大差はない]


空に輝く美しい月はいつもどおり。
竹薮が天に伸びんとする、届くはずはない。
永遠亭とはそんな竹薮が覆い重なった奥地にある月の使者が隠れ住む場所。
周囲を見渡せば、妖怪兎が数匹なにやら話をしている。

月の兎の少女、優曇華院はその兎達になにやら命令をしていた。
そこへ様子を見に来たのか月の姫が間を割って彼女へ話しかける。
何か深刻に悩んでいる様子、表情はいつにもなく真剣だ。

「優曇華、ちょっと聞いて」
「なんでしょう、姫様」
「もうすぐ永琳の誕生日なのよ」
「え……はい、そうですね。それが?」
「今回は私、ちゃんと自分の手で永琳に日頃の感謝の気持ちを受け取って欲しいの」
「それはつまり、何か作られるということでしょうか?」
「いいえ、違うわ。ちゃんと里で働いて稼いだお金で何か買ってあげようと思うの」
「え? よく聞こえませんでした」
「ちゃんと里で働いて稼いだお金で何か買ってあげようと思うの」
「……」

数秒後、悲鳴にも似た驚きの声。地面が揺れるようなことはなかったが。
すぐに輝夜は優曇華の口をあわててふさいだ。

「もうっ! ばれたらどうするのよ」
「いえ……すみません、あまりに予想外でしたので」
「それで、私が里に行っている間に貴方に頼みたいことがあるのよ」
「へ?」

輝夜は優曇華にみみうちする。
用件をいい終え輝夜はさっそく出掛けるといい、永遠亭を後にした。
優曇華は輝く月に影落とす姫をみて、やはり美しいと感じながら、その場を離れた。




☆☆永琳のバースディお祝い大作戦☆☆




ここは人里。取れたての野菜や、加工した布などを叩き売りしている。
色々な店が立ち並ぶ中、陽気に遊ぶ子供達が特に目立つ、大人は買い物に忙しい。
別にお祭があるわけでもないのに、出店が並び非常に活気が良い。

「久々に人里なんて来たわ……少し緊張するわね」

腰まで伸びた髪を邪魔にならぬよう、後ろで結い
普段着ている着物とはまた別の葵染めの着物を着て村を闊歩する輝夜。
その堂々とした歩き方に周囲の視線は割と集まっていた。
なにやら怪しい男が近づいてもきたが、軽くあしらって輝夜は村を物色する。

最初に立ち寄ったのは、団子屋。まずは味見と何本か頼み、咀嚼。
うん、非常に美味しいと輝夜は頬いっぱい膨らませて幸せそうに団子を食べた。
風が店の風車を回しているのをみながら時の流れというものはこうもゆっくりとしているものなんだなと考えお茶をすする。
一息ついて輝夜は少し考えるそぶりをして何か決めたのか、暖簾をくぐり店の奥へと顔を出す。

「ごちそうさま、こちらのご主人様いらっしゃいますか?」
「あーはい? 私ですけど」
「私、お金ないのよ」
「え!?」

いきなり何を言うんだこの小娘はと主人は思ったが、あまりにもその笑顔がまっすぐすぎて
どなるに怒鳴れなかった。しかしこちらとて商売と主人は意をけっしたが…

「だからここで働かせてくれないかしら?」
「えェッ!?」

また驚くはめになった。
暫く呆然としたが、はっと我に帰り主人はあわてて言う

「いやいやお嬢さん、うちも別に人手は足りてるよ。看板娘がいねーわけじゃないし、ちょっと難しいな」
「あらそうなのかしら? 私の方がよほど客を寄せる効果はあるような気はするのだけれども……」

ちらりと現在外で、絶賛看板娘をしている主人の娘を見やる。
仕事の手際はなかなかで、元気のある威勢のいい子だが、輝夜ほどは確かに美しい顔立ちをしているわけではなかった。
しかしその言葉を聞き、先ほどまで穏やかだった主人も少し声を荒げた。

「なんでい? うちの娘に文句があんならその喧嘩かってもいいぞ?」
「え、いえ、そういうわけでは……」
「そういうわけでは!? お嬢さん今明らかにうちの娘馬鹿にしたやろ!?」
「ち、違うわ。ただ私の方が集客効果があるんではないのでしょうか、と思っただけで」
「それが、侮辱してるっていってんだよ! あんたにやるような仕事はねェ! とっとと失せな!」

輝夜は困惑し、たじたじになる。どうすればいいかと慌て言葉も返せないでいた。
店主の大声に周りの客も驚いたのかそちらを見やる。何事かと野次馬のようにいつのまにか人が集まっていた。

「早くでてけって言ってんだろ!」
「わ、私は」

琴線に触れた為か、主人の怒りもなかなか収まらない様子。なかなかその場を去ろうとしない輝夜にいらつきを隠せず
思わず主人はその場にあった皿を投げた。野次馬が、ワッと声をあげた。輝夜は腕を交差し顔面だけでも守ろうとした。

――ガチャンッ

投げられた皿が盛大に割れる音がして、おそるおそると輝夜は視界をさえぎっていた腕をどける。
なにやら見覚えのある後ろ姿がそこにはあった。腰まで伸びる蒼の髪。髪の先へいけばいくほどその純粋な白さを増していた。
その女性が、輝夜達の間に割って入り投げられた皿を地面にたたきつけたようだ。野次馬達はどよめく。

「上白沢……慧音!」
「ん? なんだ誰かと思えば……ご主人、この者は一応私の知り合いでな、ちょっと世間を知らないやつなんだ
 私がたっぷり後でお灸をすえてやるから今回は勘弁してやってくれないか?」
「ま、まあ先生がいうなら仕方ねぇな、うちの娘も世話になってんし……」
「と。そういうことだほら貴方達も散った散った、別に見世物でもなんでもないよ」

慧音がそういうとまるで鶴の一声のように、野次馬達は口々に残念そうな言葉を吐きながらも元いた場所へと戻っていった。
嫌なやつに出会ったと輝夜は思い、隙をついてその場を逃げようとしたが首根っこを物凄い速さで慧音に捕まれる。
振り向きざまに慧音は笑顔でにらみつけるように言葉を発した。輝夜ピンチ。

「どういう用件でこの村に来たかは知らないが、蓬莱人とて悪い事をしたならまずは謝ると習わなかったか?」
「ふ、ふん! 誰があやまm」

ごちん☆っとなんとも痛そうな音が団子屋に響き渡った。


*


今日の授業が一通り終わり、寺子屋に来ていた子供達が帰っていく。
またねと元気よく腕をふる姿はいつみてもいいものだと慧音は思った。夕日を背後にして教え子達が帰っていく。
毎日経験しているはずなのに毎日感慨深いものだなと物思いにふける暇もなく、くるりと背後を見据える。
そこには、正座させておいた輝夜がいた。

「さて、永遠の姫様。少しは反省できたかな?」
「気に食わないけれども、まぁ確かに私が悪かったわよ……」
「そうか、ならばいい。しかしまさかお前が”そんな理由”でこちらへ降りてくるとはなぁ。正直私も驚いたよ」
「笑いたければ笑えばいいわよ! 姫のくせにって」

一呼吸おき、慧音もその場にしゃがんで、輝夜の顔をのぞきこむ。

「まさか、笑うものか。むしろ関心したよ。お前にもそういった感謝の心があるんだなって」
「あるに決まってるじゃない……いつも傍にいてくれているのだから」
「はは、そうか」

暫く続く無言。静寂に流れるのは開けた窓から入る鴉の鳴き声だけ。
夕焼け色に染まる寺子屋に二人。すくっと慧音は立ち上がり窓際へ向う、輝夜もそれを視線だけで追う。

「じゃあうちで雇用しようか、暫くの間」
「へ?」
「先生としてうちで働いてみないか? 教えられるかどうかは知らないが……例えばそうだな歴史、とかな」

輝夜の指をつきさし、得意そうに慧音は言った。
いきなり出た提案に輝夜は、暫く考え込むが、昼間の件もあるし
まったく知らない人間の所などで職を自分で探していざこざを起こすよりは、まだ知り合いである輩に世話になったほうがいいと考えた。
輝夜も立ち上がり、ぱんぱんと裾についた埃を払うと腰に手をあて声を張り上げた。

「任せなさいよ、ばっちり教え込んでやるわ」
「よし! 交渉成立だな」

夕焼けを見ながら二人はあの夕日に向ってダッシュだ的なそんなシチュエーションをかもし出していた。
なぜか急に気持ち悪いぐらい仲良くなったのか肩なんて組んでいる。
あの日の二人の瞳には、燃え滾る何かを感じざるをえなかった。とは忘れ物を取りにきた生徒(とある氷精)談である。


*


その日から特別臨時教師、輝夜(歴史担当)が寺小屋でデビューした。
最初のうちはなんだかぎこちなかったが、段々と生徒達と打ち解けていき真面目に授業を教えていた。
姫の私がなんであんな年下や馬鹿に授業をしなければいけないの?とか駄々をこねるかと思っていた慧音は
そういったものがまったくなく夜遅くまで次の日の抗議内容を考えている姿を見て
彼女の”永琳へのプレゼントを買ってあげたい気持ち”は本物なんだなと再確認した。

「輝夜せんせーまたねー!」
「ちゃんと今日の所、復習しておくのよ」
「はーい」

今日もまた授業を終え、生徒達に別れをいう、なかなかなれたものだ。
普段はいつも、特に何をするまでもなく永遠亭をただふらふらと散歩したり盆栽を眺めたり管理したりするぐらいしかしてなかった事を思い出し
ふと輝夜はいまの働いているという充実感に、なにか底知れぬ喜びを感じていた。
大きく振った手を静かに下ろす。もう秋も近い、トンボが飛べば穂が育つ季節。真っ赤な緋色の紅葉が舞ってはふわりふわりと落ちる。

「そっか、もう秋なのね」
「紅葉もすぐおちて、すぐに四季は巡り春夏秋冬巡ることでしょう、それこそ永遠に。私達にとってはほんの一瞬ですけれども」

ふと聞きなれた声が背後からかけられた。背筋が凍る。ギギギとなるかもしれないぐらいのスピードでゆっくりと振り返った。
輝夜の背後に居たのは、月の頭脳と呼ばれる銀色の髪を持つ者。
腕を組み物凄いしかめっつらで輝夜を睨んでいた。冷や汗が頬を伝う。

「え、ええええ永琳!!? あっ……これは! これはね! 社会体験というかなんというか! 別に家出とかそういうのでは!」
「いいえ判っています姫様。優曇華にわざわざ幻視で”姫様が居る”ように見せかける工作をするほど、家出をしたかったのですよね?」
「違うわよっ」
「違うはずがありません、姫の生活に飽きたとてゐが言っていたわ」
(あの兎……!)

よく見たら永琳の背後で、妖怪兎がシシシと笑っている。どうやらここの場所を探ったのもあの兎のようだ。
でもそれに騙される永琳も永琳だ。月の頭脳と呼ばれた割には、冷静さを事欠いている。
輝夜は言い訳を繰り返すが、永琳は聞く耳持たずズカズカと距離を詰め有無を言わさず平手で叩いた。
軽快な音が秋空に響く。

「輝夜、勝手に外に出歩かれては困ります」
「何も叩くことはないでしょう!?」
「さあ帰りましょう、今後は勝手にあまり外に出歩かれないように」

ぐっと引っ張られるが持ちこたえそこから一歩も動かない輝夜。
一つ溜息をつき、永琳は再び引っ張る。ずりずりと少しずつだがその場を離されて行く。
そこへ寺子屋の奥から輝夜を呼ぶ声が聞こえた、永琳の一瞬の隙をつき輝夜は身を翻し寺小屋の入り口へと走る。
でてきた慧音に抱きつくような形でぶつかった。助けて!といわんばかりの瞳で見つめて来ていたので少しだけ心が揺らぐ慧音。

「おおっとなんだ輝夜、一体全体急に。あっ」
「……まさか貴方が輝夜をはぐらかしたの?」
「え? いや何の話かよくわからんのだが。なんで永琳がここに? 内緒ではなかったのか?」
「内緒? 秘密!? あの竹林に住む不死の輩の策略か何かに加担しているの!?」
「おいおい、ちょっと落ち着いて話をしないか。何か壮大な勘違いをされているきがs」

――天呪「アポロ13」

「人の話を聞けぇぇぇぇ!!!」

赤、青に輝く弾幕が一瞬永琳の周囲を囲んだかと思うと、色違いの弾が交差し、二人を襲う。
慧音は舌打ちをしつつも、輝夜を抱えながら地を蹴り、宙へ舞う。永琳もそれを追いかけ空へと。
交差する弾の隙間を交わすもすぐに次の弾も放たれる。きりがない。
永琳も手を休めることなく弾幕を打ち込んでくる。

「輝夜! どうするんだ、もう完全に勘違いされてしまってるぞ!」
「慧音、ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまった」
「いやそれはいいがっ」

輝夜は、力強く慧音を突き放す。一瞬の出来事で、慧音も唖然とした。
振り向き様、何かを喋った気がしたが読み取ることはできなかった。
刹那の出来事、するすると弾幕を避け輝夜は永琳まで一気に突撃。
永琳が、弾幕の隙間から姿を確認した時にはもう遅かった。

「っ! 輝夜!?」
「えーーーーりいいいいいんんん!! 誕生日おめでとおおおおおおお!」
「へっ!?」

ドゴォッと何か鈍い音がした。
まさかの体当たり。永琳のみぞおちを見事にとらえたまま、二人は地面まで落ちた。
砂煙が舞う、放たれた弾幕は消えてなくなる。慧音は、弾が完全に消えたのを確認してから、砂塵が舞い落ちる所まで駆け寄る。
砂煙が晴れた先には、従者を押し倒している状態という輝夜が居た。なんともあれな光景である。
二人に特に大きな怪我がないのを確認して慧音はホッと胸をなでおろす。

「えーりん、ごめんなさい、私貴方の誕生日をお祝いしたくて、誕生日プレゼントを買う為にちょっと内緒で働いていたのよ」
「え……? 姫様が働かれる?」
「そうよ、自分の力で働いて稼いだお金で貴方にプレゼントしたかったのよ、だから優曇華にも協力してもらって
 それで私働き方とかよく判らなくて、困ってた所を慧音に助けてもらって、学び屋で働かせてもらっていただけなのよ」
「それでは竹林の不死の人間の策略などではないのです、か?」
「当たり前よ! 私が一人で考えて私がやったことなの!」
「姫様が、私の為、に?」
「そうよ!」

端から見ていて判るほど、あの月の賢者の顔が紅潮していた。こんな顔1000年生きててもみれるか判らないレアものだ。
なんともほほえましい、その赤さといったら夕日にも負けじとも劣らないのではないのだろうか。
永琳は事態を理解したのかすぐに立ち上がり踵を返し、早歩きでどこかへ行こうとした。
当然、輝夜は背後から彼女の手を掴みそれを阻止する。先程とは真逆の関係だ。

「永琳、受け取ってよ。私からの誕生日プレゼント、今から買いに行くところだったのよ? 貴方の好きな物何でも買ってあげるわよ」
「わ、私はそのお気持ちだけでも嬉しいです」
「遠慮しないで、ほら村まで行きましょう」
「……はい」

慧音も呆れたという顔で腕を組み二人の月人を眺めていた。
夕日が沈みかける中、薄ら闇の中ぼんやりと月が出ていた。ああ、そう今夜は満月だ。
二人の月人は慧音にお詫びをしたら村まで飛んでいった。
村に明かりが灯され始め、夜が始まる。二人を見送りながらも、何かどこか羨ましいなと慧音は想いをはせていた。
どこかの妖怪兎は、月人二人を上手く誘導できたのに満足して月見て跳ねた。


*


満月を写す程のきれいな水晶で出来た鏡を持って二人の月人は空を行く。笑い声が耐えない。
その日は、満月の影の兎もかなり軽快に餅をついているように見えたとか。
なんにせよ、輝夜の永琳への誕生日大作戦は大成功し、こうして幕を閉じたのだった。


*


「慧音さーん、いらっしゃいますかー? 骨董屋でーす」
「お? 骨董屋が一体何のようだ?」
「輝夜様から言伝いただいてまして、”私をやとった給料”はこれぐらいでいいとのことだそうですが」
「ん?」

慧音は、かかれた値段を見て愕然としてその場に倒れた。
思い出した、あの時輝夜が放った言葉。

”つ・け・と・い・て”






おしまい
はじめまして、拙い文章ですが読んでいただき有難う御座います。
姫様も多分、がんばれば出来るんじゃないかとか思って書いてみました。
キャラの性格とか設定とかうまく掴みきれてない気もしますが、今後も頑張ってみます。
ここまで読んでいただき有難う御座います。またの機会を。
米男
[email protected]
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コメント



0.670簡易評価
7.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです

ただ、誤字報告を
関心した⇒感心した 
8.80名前が無い程度の能力削除
こういう話は好きですねー。
普段お世話になってる永琳に頑張ってプレゼントを用意する輝夜とかいいじゃない…
9.70名前が無い程度の能力削除
良い雰囲気な話でした。ごちそうさまです。
確かにえーりんって実はうっかりさんだよね。外の状況を確認しなくて必要ない結界はってボコられたりとか。

しかし誤字誤用が多かったのが残念。もっときっちり推敲することをお勧めします。
14.無評価米男削除
誤字の指摘など有難う御座います。言われて気付く自分が恥ずかしい…
今度からはもう少ししっかり推敲しようかと思います。
いい話だとか面白かったといってもらえて大変励みになりました。
もっと頑張りたいです。レスなど有難う御座いました
15.無評価名前が無い程度の能力削除
「……まさか貴方が輝夜をはぐらかしたの?」
かどわかす又は誑かすでは?
何はともあれ面白かったです。
18.80ずわいがに削除
えーてる好きの俺歓喜!
慧音は、まぁ、どんまいww