ゴロゴロと雷鳴が轟いている。
季節外れの台風ってわけでもないだろうが、ただの雨雲の唸り声にしちゃ、些か激しめではある。
「……行ってみるか」
私は簡単に身支度を整えると、箒にまたがって空を飛んだ。
自分の周囲を魔力で覆い、雨を遮断する。
こういうときに魔法使いは便利だ。
心地よい稲光に身を包まれながら、行き着く先はいつもの神社。
颯爽と境内に降り立ち、縁側へと足を掛ける。
自分でも無作法だと思うが、これはもう習慣になってしまっているので勘弁してほしい。
すたすたと廊下を歩いて、行き着く先は親友の寝室。
私はそうっと障子を開けた。
……いた。
薄闇の中、部屋の中央に敷かれた布団。
何やら、こんもりと盛り上がっている。
目を凝らすと、その全体がふるふると震えているのが分かる。
どうやら、来て正解だったようだ。
「おーい、霊夢」
ちょっと大きめの声で呼んでみる。
すると、布団のかたまりがびくっと跳ねた。
……待つこと暫し。
やがてその中から、一人の少女が、恐る恐る顔を覗かせた。
不安げに私を見上げる眼差し。
「…………魔理沙」
博麗霊夢。
言わずと知れた私の親友であり、この神社の巫女でもある。
「よう」
私が簡潔な挨拶をして、右手を上げるのと同時。
「魔理沙っ!」
霊夢は布団を跳ね飛ばし、勢いよく私に抱きついてきた。
「おお、どうした」
「馬鹿馬鹿馬鹿! いつまで待たせるのよ!」
「す、すまん」
いつになく感情的な霊夢。
いや、今日に限ってはほぼ予想通りだが。
雨音と雷鳴が、喧しく耳を衝く。
そんな中、私たちは暫し、時間を忘れて抱き合っていた。
そして私は、適当な頃合を見計らって、言った。
「ところで、霊夢」
「……何よ」
「聞かないのか?」
「……何を?」
「私が、ここに来た理由」
「えっ」
そこで漸く、霊夢ははっとした表情を作った。
それと同時に、私を軽く突き飛ばす。
「おっと」
私は少しだけよろけたものの、これは想定の範囲内。
慌てず動じず、霊夢の顔を見る。
すると、霊夢は顔を赤らめ、もじもじとしながら言った。
「……な、なにしにきたのよ」
なんか、棒読みというか、台本見ながら喋ってるというか。
そんな感じの言い方だった。
でも、これはいつものお約束、通過儀礼みたいなもの。
だから私も、いつものように返すのだ。
「いやー、雷が怖くてなあ。一人じゃ寝られないんだぜ」
そう。
これこそが、私がこの神社に来た理由なのだ。
……え?
心地よい稲光がどうとか、言ってなかったかって?
いいんだよ、そういうことは。
とにかく私は雷が怖いんだ。
おおこわいこわい。
一方、私の来訪理由を聞いた霊夢は、未だ赤い顔をしながら、言った。
「……しょ、しょうがないわね。じゃあ、一緒に寝てあげるわ」
「おお、本当か」
「ま、魔理沙は怖がりだからね」
「流石霊夢。頼りになるぜ」
「わ、私は巫女だからね。巫女は皆の味方だからね」
いやはや、よかったよかった。
これで、怖い怖い雷の夜も、安心して眠ることができるというものだ。
霊夢は本当に優しい。
「じゃあ、早速布団に入っていいか?」
「え、ええ。いいわよ。本当に怖がりね、魔理沙ったら」
「そうなんだぜ。怖くて仕方がないぜ」
「も、もう。本当に、しょうがないんだから。……ほら」
そう言って、霊夢は早速、怖がる私の手を取ってくれた。
ぎゅうっと握られたその掌は、ひどく汗をかいていた。
きっと、私を心配してくれていたからだろう。
霊夢は本当に優しい。
「じ、じゃあ、早く寝るわよ」
「おう」
霊夢に手を引かれたまま、私は霊夢と一緒に布団に入った。
こういうとき、霊夢は必ず私と同じ布団で寝てくれる。
全ては、雷に怯える私を守らんとするがためだ。
霊夢は本当に優しい。
「も、もっとこっち寄りなさいよ」
「ああ、すまん」
霊夢は私を気遣って、できるだけ二人の体が密着できるような体勢を取ってくれる。
端的に言えば、霊夢が私に両手両足を回してしがみついているような格好だ。
こうすることで、雷に怯える私を安心させようとしてくれているのだ。
霊夢は本当に優しい。
「……ま、魔理沙。もう寝た?」
「いや。まだだぜ」
「そ、そう」
「雷が怖いからな。そう簡単には寝付けないぜ」
「そ、そう。仕方ないわね、魔理沙は。仕方ないから、ま、魔理沙が寝付くまで、私も起きていてあげるわ」
「それは助かるぜ」
「い、いいのよ。私は巫女だから。皆の巫女だから」
霊夢は、決して自分が寝付けないわけじゃないのに、雷を怖がる私のために、いつもこうやって起きていてくれるのだ。
霊夢は本当に優しい。
なんてことをのんびり考えていたら。
ピシャッ! ドーン!
「ひゃあうっ!」
「おお」
落ちたか?
今のはなかなかの衝撃だったな。
「あうう……」
ふと見ると、私にしがみついている霊夢がめっちゃ震えていた。
えーと、これは、そうだ。
「霊夢、もしかして寒いのか?」
「……へ?」
「寒いんだよな?」
「…………」
霊夢は暫く目をパチクリさせていたが、すぐに私の意図に気付いたらしく、
「そ、そうよ! 寒いのよ!」
「やっぱりそうか。だから震えてたんだな」
「え、ええ、そうよ。け、決して今の雷に驚いたわけじゃないわよ!」
「流石は霊夢だな。私なんか、今の落雷でちびりそうになるくらいびびったぜ」
「お、おほほ。あ、あの程度の落雷でそんなに驚くなんて。ま、魔理沙もまだまだ子供ねえ」
「ああ、だからもっと、ぎゅうっと抱きついてくれないか? そうしたら、少しは安心できると思うんだ」
「そ、そう? それじゃあ……」
文字通り、私にぎゅうっと抱きつく霊夢。
全ては、落雷に怯える私を安心させるがため。
霊夢は本当に優しい。
私はそんな霊夢の優しさに感動しつつ、言った。
「……じゃあ、私も、もっとぎゅうっと抱きしめてやるぜ。霊夢は震えるくらい、寒いんだもんな」
「そ、そうね。寒いのばかりは、いかに巫女な私といえども、どうしようもないからね。お、お願いするわ」
そして私も、ぎゅうっと霊夢を抱きしめた。
「どうだ霊夢。少しは暖かくなったか?」
「え、ええ、多少はね。でもまだちょっと寒いわね」
「そうか、じゃあもう暫くこのままでいた方がいいな」
「そ、そうね、お願いするわ。いくら私が巫女だからって、寒いのはどうしようもないからね」
「ああ、寒いのはどうしようもないもんな」
そうだ。
巫女だって人間。
寒いのばかりは、対処のしようがない。
現に霊夢は、未だにがたがたと震えている。
よっぽど寒いのだろう、かわいそうに。
だから私は、その寒さが少しでも和らぐようにと、一層強く、霊夢の体を抱きしめてやった。
すると、少しは暖かくなったのか、やや落ち着いた口調で霊夢が言った。
「……そ、そういう魔理沙はどうなの? ちょっとは落ち着いた?」
「いや、まだだな。さっきの落雷の余韻で、心臓がばくばくいってるぜ」
「じゃ、じゃあ、もう少しこうやっていた方がいいわね」
「ああ、頼むぜ」
「いいのよ。私は巫女だからね。皆の巫女だからね」
そんな感じで、その後暫く、私たちは、互いに互いを抱きしめあっていた。
私は、寒がる霊夢を暖めるため。
霊夢は、怖がる私を落ち着かせるため。
うん。
実に合理的だな。
その後も雷が轟くたびに、私は怖くなり、霊夢は寒くなった。
だから霊夢は私を抱きしめてくれたし、私も霊夢を抱きしめてやった。
「……ま、魔理沙、もう寝た?」
「いや、まだだぜ。怖くて寝られないぜ」
「そ、そう。仕方ないわね。じゃあ私も、魔理沙が寝付くまで起きていてあげるわ」
「それは助かるぜ」
「い、いいのよ。私は巫女だからね。皆の巫女だからね」
霊夢は、幾度となく同じやりとりを交わして、私を安心させてくれる。
そんな霊夢を見て、私はつくづくと思うのだった。
霊夢は、本当に可愛い。
了
いいぞもっとやれww
雷を怖がる霊夢……
ぬあぁぁぁああ!!
ヤッベー!スッゲー!カワエー!
妖々夢4面とか聖輦船2面とか雲の中で遠くで稲光がするたびに「ひゃぁあぁ!」とか言って涙目になってたらもうね。
最高じゃないか…俺の顔面崩壊をどうしてくれるってんだ!!
つまりジャスティス。
ニヤニヤが止まらん!!
それにしても霊夢優しいなぁ…
霊夢かわええww
霊夢が可愛すぎ!