三人娘の間で、ある一つの重要な会議が開かれた。
一人の生死にも関わる内容だ。
その名もNBP(ぬえのビックリプロジェクト)。なんともマヌケな名前だ。
この会議、簡単に言えば、最近人を脅かすのが難しくなって来たぬえがフランとこいしに助けを求めただけの事である。
「というわけで、みんなに意見を求めたいんだ」
「脅かし方って言われてもねぇ、ぬえの専門分野じゃないのそれ?」
フランは飽きれ顔でぬえを見る。
「昔だったらね、正体不明に驚く人間ばかりでそれはいい時代だったんだけど。今じゃあ怯える人間も少なくなって困ってるんだよ。なんとかならないかなフラン?」
ぬえが重い溜息をつく。それでなくともこの幻想郷にはありとあらゆる妖怪が集まっているんだ。人間側も妖怪くらいなら普通に慣れっこである。
「うーん、そう言われても私も長い間地下に引き篭もっていたからなぁ。こいしちゃんはそういうの得意じゃないの?」
「ふふ、任せなさいってフランちゃん、ぬえ。とっておきの作戦が有るわよ!」
「おっ、何か良い作戦でもあるの?」
ぬえが期待の眼差しをこいしに向ける。
「うん♪ まずは人間を抹殺してその死体を村の中心に飾るの、みんな驚くわよー」
「あ、そういうのでいいなら私にもいい案があるわよ、まず遠くから人間をドッカーンと爆破して……」
「グロいわっ! 駄目駄目そんなの、まったくスマートじゃないよ。それに人間を殺したらあの巫女に封印されるから駄目だよ」
「人間は殺さない方向で行くの?」
「その方向で行きます」
こいしの問い掛けにぬえがキッパリと答える。
するとこいしは「うーん……」と唸り考える人の像のポーズをしてから、
「じゃあこういうのはどう? まずはぬえを抹殺してその死体を村の中心飾るの、みんな驚くわよー」
「あ、そういうのでいいなら私にもいい案があるわよ、まず遠くからぬえをドッカーンと爆破して……」
「ふ ざ け る な! 私を殺してどうする!」
「もー、ぬえはワガママねぇ」
「まったく、こいしちゃんと私でせっかくぬえのために考えてあげているのに……」
「絶対にふざけてるでしょ二人とも……。もういいよぉ、だったら一つずつ決めて行こうよ」
「一つずつって何?」
フランが当然の疑問をぬえに投げかける。
「【格好】【行動】【言動】驚かすために重要な三ポイントだよ。用は不気味な格好、行動、言動を一つずつキチンと決めようって事だね」
「まあ、ぬえがそれでいいならいいけど」
「じゃあ、まずは【格好】からだね」
ぬえが提案し、またフランとこいしは考え始める。
しばらくたってから、こいしが元気よく「ハイッ!」と手を上げる。
「今度はちゃんとしてるんだろうねこいし?」
「もー、ぬえは疑い深いんだから。ちゃんと考えたわよ今度は」
「さっきはやっぱりふざけてたのか……。まぁいいや、じゃあこいしの考えた不気味な格好をどうぞ」
「あの霊夢って巫女の服装よ。構造的にありえないでしょあの服? あんな腋が空いた服なんて不気味でしょうがないわぁ。」
「えー、霊夢の服? 確かにヘンテコだけど、あれで怖がらせる事なんて出来るかなぁ?」
ぬえはとうぜんのごとく疑問の顔をするが、こいしの意見を肯定するようにフランが話しだす。
「あら、ぬえは霊夢のあの服の怖さを舐めてるわ。なんたって一年中あの服装なのよ? 猛吹雪の冬でも、真夏の夏でも。人々からは、「あれはきっと腋をくすぐられて笑い死にした人の呪いの服に違いない、恐ろしや~恐ろしや~」って恐れられているのよ。まさに幻想郷一不気味な服装よ」
こんな話どう考えてもフランの考えた嘘に違いない! そうぬえは思ったが、同時にあの巫女なら本当にそう言われているかもという考えも頭の中に横切った。
「えー、そうなの? まぁ幻想郷では私の方が新参だから信じるよ……」
ぬえがしぶしぶと納得する。
とりあえず、これでまず【格好】の部分は霊夢の腋巫女服に決まった!
「じゃあ次に【行動】だけど、何か良い案ある?」
「あるわよぬえ、とっておきの怖い行動が」
フランが自信満々な顔をして言う。これは期待が出来そうだ。
「このまえお姉様に言われたんだけどねぇ、相手に笑顔で抱きつく行動が一番生物が恐るらしいの」
「はぁー? なにそれ?」
ぬえがガッカリとした顔をする。期待させといてこれかよ! またフランは冗談を言ってるに違いないと思ったが、その顔は真剣そのものだった。
「嘘じゃないんだって、じっさいお姉様に試してみたらすぐに失神しちゃったんだから。なんだか幸せそうな顔をしてたのが気になるけど」
「それって、フランのお姉ちゃんが異常なだけじゃ……」
「あら、そんな事はないわよぬえ。私も前に男のペットに「こいしちゃんに抱きつかれるのが一番怖いよウフフ」って言われたんだから」
こいしもフランの話を肯定しだす。絶対に嘘だ!!! そうぬえは叫びたかったが、もしかしたら自分が時代遅れなだけかもしれない。仕方なく、ぬえは新しい世代の言葉を信用する事にした。
「今の時代の脅かし方って変わったんだなぁ……」
ぬえは深い溜息を漏らした。
しかしこれで【行動】も決まった、相手に抱きつく事だ!
「えーと、じゃあ最後の【言動】だけど……」
「言動なら私に任せてよぬえ」
こいしがゆっくりと手を上げる。顔は珍しくまじめだった。
しかし、ぬえはやれやれと言った顔でこいしの方を見る。
「どうせ、「あなたを納殺します♪」とか「あなたのハラワタをぶちまけます♪」とかでしょ」
「そんなんじゃないよぬえ。そんな事よりももっと怖い言葉があるの。それはね「あなたを愛しています」って言葉よ」
予想外の言葉にぬえが思わず噴出す。「あなたを愛しています」だって?
さすがにこれは誰が聞いてもふざけている。ぬえは我慢の限界を通り超した。
「それ告白の言葉じゃないか! 愛の言葉じゃないか! どこに怖い要素があるんだ!」
「知らないのぬえ? 殺すなんて安っぽい狂気より、誰かに愛して欲しいとか、誰かを愛したいとか言う狂気が一番怖くてそれでいて強いのよ……」
こいしの表情はどこか寂しくて、それでいて訴えかけるような真剣な顔だった。いやいや、そんな顔をされても困る。
「いやでもねぁこいし、私は怖がらせたいんであって、愛の告白をしたいわけでは……」
「そんな事ないわよぬえ、知らない人にいきなり「愛してる」なんて言われるのは想像以上に怖い物よ。まさにあなたの言う正体不明その物じゃないのよ」
貴方の言ってる事が意味不明だ! とぬえはフランを怒鳴りつけたがったが、あまりの脱力感でもはや否定する事すら出来なかった。
「うん、じゃあそれでいいや……」
これで全て要素が揃った!
【格好】霊夢の腋巫女服で
【行動】笑顔で相手に抱きつき
【言動】「あなたを愛しています」と言う事だ!
最後のオマケにぬえの正体不明の種を植え付けて完成である。
パチパチパチパパチパチ、二人がぬえに向かって拍手を送る
「決まったねこいしちゃん! おめでとうぬえ」
「そうだねフランちゃん! おめでとうぬえ♪」
「えーこれでいいの……? 本当にこんなんで驚かす事なんて出来るのかなぁ……?」
ぬえの疑問を軽くスルーし、二人は喜びに震えるのであった
やっぱりこの二人に頼んだのは失敗だった。ぬえは心の底から思った。
だけど、別に後悔はしていない。今の幻想郷では、昔みたいに命がけで驚かす必要なんて本当はないんだから。所詮暇つぶしである。意味の無い、楽しい暇つぶし。
しかし、ぬえの予想とは裏腹に、後にこの作戦は幻想郷を恐怖のどん底に貶めることになる。
人々はぬえの行動に対して、恐怖に満ちた顔でこう言った。
「夜に道を歩いていたら、あの呪いの服を着た巫女にいきなり笑顔で抱きつかれて「あなたを愛しています」って言われたんじゃ! 笑うという行為は本来攻撃的なものであるという噂は本当じゃった! あんな恐ろしい顔始めてワシは見た! きっと賽銭をワシ等が入れない所為で腋巫女様がついに狂ってしまったに違いない! これでこの幻想郷もおしまいじゃー!」
それはそうと、こいしちゃん。俺とのスイートメモリーを公表しちゃ駄目じゃないか。
おい待て爺さんwwww
僕はフランちゃんに押し倒されるのが一番恐いですウフフ
俺だよねこいしちゃん
私もフランちゃんに押し倒されるのが一番怖いですウフフ
だから、いきなり抱きついたりしちゃ駄目だよウフフ
って落ちかと思ったら違った
と思ったらあってた
しかしこの三人、賢いのかバカなのかww