私、古明地こいしは不眠症だ。
もう一ヶ月あまり寝ていない日々を過ごす。寝てない疲れのせいか体がフラフラしたり、目の前で死んだご先祖さま達が総立する幻覚を見たりもする。
見かねたフランちゃんが、
「永遠亭という所にいい医者がいるから見てもらいなよ」
と言うので、暇そうにしていたぬえを連れて、永遠亭という所にいる医者のところへ三人で行く事にした。
しかし、途中の迷いの竹林はその名の通り、竹ばっかりで全く目的地へ辿りつける気がしない。
大きいお屋敷と聞いてすぐに見つかるだろうと思ったのだが、探索してもう数時間は経つだろうか。
「見事に迷ったわねぇ。途中で妖怪には何回も襲われるし、怖いところねここは」
私達の見た目が幼いからか、獣の妖怪に何回か遭遇した。
まぁ、みんなそんなに強くなかったから簡単に追い払えたんだけど。
「こいしちゃんは全く戦ってないじゃないのよ。みんな、なぜか私のところにばっか来るし」
「フランちゃんばっかり戦ってズルかったなぁ。すっごい楽しそうだったしー」
私はフランちゃんを羨ましがる。久々に思いっきり体を動かせるかと張り切っていたが、ここの妖怪は吸血鬼が好物なのか、みんなフランちゃんの所へ挑みに行った。
「んー、みんなもう少し強かったらなぁ、もっと楽しかったんだけどね。しかもみんな凄い興奮してて怖かったわ」
確かに、ここの妖怪はみんな弱い上に「はぁはぁ」言ってて怖かったわ。目も尋常じゃないくらい充血してたし。ボコボコにされたのに満足してたし、なんだったのかしらあれ?
「まったく最近の若い妖怪は骨って物がないな、情けないったらありゃしない」
「ぬえはまったく戦ってないじゃないのよ」
やれやれ、と首を振るぬえに、フランちゃんが突っ込む。
するとぬえがため息を付きながら、
「だって私の姿みたらみんな泣きながら逃げちゃうんだもん。もうお腹いっぱいだよ」
「あら、それなら正体不明の種とやらを取ればいいじゃないのよ」
「わかってないなぁフランは、正体不明が私のウリだよ? 自ら正体をバラしてどうするの」
ふふん、と得意気な顔をするぬえにフランちゃんは「はいはい」と言って適当に流す。
「そんな事より困ったわねぇ。竹が邪魔で、これじゃあいつまで経っても辿り着けないわぁ」
私が困った顔をすると、フランちゃんが突然ひらめいたような顔をした。
「いっその事、この竹やぶを破壊しながら直進してみようか?」
「おっ、それはいい考えだねフラン」
フランちゃんの提案にぬえが賛同する。
確かにいい考えね、竹って成長速度が速いって聞くし半分くらい焼き尽くしても大丈夫だろう。多分。
「じゃあ、やっちゃってよフランちゃん♪」
「ふふ、私の手に掛かればこんな竹やぶ、一瞬でゲームオーバーよ!」
そう言ってフランちゃんがレーヴァテインを構える。すると、後ろから女の人の声が聞こえてきた。
「こらこら、そこのお嬢ちゃん、あまり物騒な事をするんじゃないよ」
髪の長い少女だわ、人間のように見えるけど、こんなところにいて危なくないのかしら?
「ここは私の庭のようなものだしね。永遠亭に行きたいのでしょ? 私が案内してあげるよ」
そういうとその少女は「こっちこっち」と手招きをしだした。なんだか、危なそうな人だわぁ。
「どうして私達が永遠亭に行きたいってわかったの?」
と私が少女に質問すると、
「あなた達の格好を見ればなんとなくはわかるよ……」
と溜息混じりに言った。私の事を見ただけで、不眠症とわかるなんて凄いわねぇ。そんなにフラフラしてたり、目にクマが出来てたりしてたかしら私? しかし、その少女はどうやら、私のほうじゃなくてぬえとフランちゃんの方を見ているようだった。
「まぁ、とりあえず永遠亭に行こうよ。とても寒そうな格好だしね、お前さん達は」
そういうと少女は私達を引き連れて竹やぶの中を進んでいった―――。
少女と一緒になってからも、相変わらず目を異常に充血させた妖怪達に襲われた。
しかし、道のりはさっきよりも順調となり、あれからわずか数十分で永遠亭に辿りついた。
そのお屋敷は洋風な地霊殿や紅魔館と違い、大昔の日本の屋敷その物でとても懐かしい感じがするってぬえが言ってたわ。
「おーい、輝夜―、患者を連れてきたぞー」
妹紅さんがそのお屋敷の扉をドンドンと叩き出す、すると家の中から黒髪の女の人が出てきた。この人が輝夜さんらしい、
「あら、何かしら? って妹紅、何よこの娘達。あなたこんな趣味があったのね……」
私達を案内してくれた少女は妹紅さんと言うらしい。輝夜さんは私達を見た後、妹紅さんの事を嫌悪の顔で見た。そんなに変な服装かしら私?
「そんなわけないだろ! この娘達が患者だよ、とりあえず永琳に診せてあげなよ」
この娘達? 患者なのは私だけなんだけどなぁ。少し不思議に思った私達だが、せっかく診てくれるという事なので、素直に従う事にした。
輝夜さんが「鈴仙―、この娘達を永琳の所まで連れて行ってー」と叫ぶ。しかし、呼ばれて出てきた肝心の鈴仙さんは、ぬえの姿を見て、
「何やってるんですか師匠! こんな所でやめてください! お相手だったら夜にいくらでもしますから!」
と顔を真っ赤にしながらわけの分からない事を口走る。どうやら、ぬえの正体不明の種が原因で認識が狂わされているらしい。ぬえはそれを見て満更でもない顔をしている。だけど、この調子だといつまで経っても永琳さんの所へ行けなさそうなので、ぬえに正体不明の種を取らせる事にした。
ぬえの正体を見た鈴仙さんは、相変わらず顔を赤らめたままだった。しかしさっきよりは落ち着いているように見える。
冷静になった鈴仙さんに連れられて、永琳さんの所へ向かうと後ろから、
「頭の病気かしらねぇ、まだ若いの可愛そうに……」
「私達はああいう変態にはならないようにしような輝夜……」
とヒソヒソ会話する二人の声が聞こえたような気がした。変態ってなにかしら?
そういえばぬえの姿を見た獣の妖怪も「ギャー変態だー!」って叫びながら逃げてたような気がするわ。ぬえの正体不明の姿がそんなに凄かったのかしら。
「師匠ー、患者さんを連れてきましたよー」
鈴仙さんが赤と青の奇怪な服を着た人を呼ぶ、どうやらこの人が医者の永琳さんらしい。
「ごくろうさま鈴仙、ってまた凄い患者を連れて来たわね……」
医者の永琳さんが「うーむ」と唸る。それを見て私達の顔が、心配で暗くなる。
私の不眠症ってそんなに凄いのかな? 確かに一ヶ月も寝てないでフラフラしているから、相当ひどいとは思う。だけど、見た目はそんなにひどくないと思うんだけどなぁ。
「私の病気ってそんなに悪いですか?」
心配になった私が聞くと、永琳さんが呆気に取られたような顔をする。
「えっ? 貴方が患者なの? そっちの二人組みかと思ったわ」
と永琳さんがフランちゃんとぬえの方を指す。二人はなんの事だかわからなかったので首を傾げる。
当然、フランちゃんとぬえが病気なわけが無い、いたって健康体だわ。しかし、医者がこの二人を患者と言うって事は、もしかして目に見えない病魔に冒されているのかもしれない。私達はさらに心配になった。
「先生! この二人は治るんですか!」
私は今まで見せた事が無いような真剣な顔をして聞く。すると永琳さんは少し困った顔をしながら、
「そうねぇ……、私も精神の病気は久しぶりだから心配だわ」
精神の病気? この人は何を言ってるのだろうか、精神の病気なら不眠症の私の方だと思うんだけど?
「フランちゃんとぬえのどこら辺が精神の病気なんですか?」
「だって、この真冬に全裸は無いわよ……。ヘンタイ以外の何者でもないわ」
と永琳さんは二人の方を見て言う。この人は何を言ってるのだろうか?
フランちゃんとぬえが全裸なのが何がおかしいと言うのだろうか。フランちゃんは「弾幕ゴッコには動きやすい全裸が最高!」という理由で全裸になっているだけだし、ぬえは「正体不明には全裸が一番、全裸の奴なんて正体不明の塊だから」という事で全裸になっているだけだというのに……。そんな事もわからないなんて、正直ガッカリだわ。これでは、とてもじゃないが私の不眠症なんて治せるはずがない。
「貴方じゃ私の不眠症は治せそうにないわね。残念だけど他を当たるわ」
と私が席を立とうとすると永琳さんが引き止める。
「貴方、不眠症なの? それくらいなら直ぐに治せるわよ。少し診察させなさい」
と言う。しかし私を診断して永琳さんはまたも「うーむ」と唸りだす。本当に名医なのかしら?
「私の不眠症、治りそうですか?」
「というより、あなた不眠症なんかじゃないわよ。むしろ、夢遊病なんじゃないのかしら? 現にあなた今寝てるいる状態だし」
私が夢遊病だって? なにいってるのかしらこのひとは……。
ワタシハイマイシキガハッキリトアルノニ、ムユウビョウナワケナイジャナイノ。
ダッテムユウビョウダッタライッカゲツイジョウネテイルコトニナルシソンナコトアルワケナイジャナイヨソレニミンナデアソンダトキダッテ……
「まぁ、夢遊病ならとりあえず叩き起こせば良いわね」
そう言うと、永琳さんは私の頬を思いっきりビンタした―――。
ハッと私は目が覚める。どうやら今まで私は寝ていたようだ。
「はぁ~、やっと起きたのかこいしちゃん」
フランちゃんが呆れた顔をしながら私の方を見る。
何の事だかよくわからなかった私はキョロキョロと辺りを見渡す。洋風な作りに窓が少ない部屋。見たところ、ここは紅魔館のようだ。さっきまで夢でどこかよくわからない所へ行ってた気がするけど、よく思い出せないわ。
「しっかりしてよこいし。貴方、さっきまで夢遊病かなんかで暴れまくってたのよ」
ぬえも呆れながらに私を見る。私が夢遊病だって?
「そうそう、それで今からあなたの夢遊病を治しに、永遠亭まで行こうと思ったのよ」
フランちゃんが言う永遠亭って、どっかで聞いたことがあるような。まぁいいや、行けばわかるわよね。
「じゃあ行きましょうか♪」
なんか、さっきまで変な夢を見てた気がするなぁ。フランちゃんとぬえが全裸で外を歩いてる夢。もしかしたらこれも夢かも、と思った私だが大丈夫なようだ。その証拠にフランちゃんとぬえがちゃんと服を着ている。スクール水着って言うんだっけあの服は。
ウン、ダイジョウブダイジョウブ、コレハユメジャナイ♪……
ぬえの正体不明の種:スネークショーしてるように見えてたということですか?
ところで私の手元に150cm用の旧スク水が一着あるのですが、これは一体? こいしちゃんの?
竹林の毛玉も成長してるなぁ
竹林に私がいたんだけど気のせいデスヨネ。
いつになったら覚めるのだろう?
若干、一人称形式の地の文の描写に違和感を覚えました。
果たしてこいしが目覚める時は来るのか……
「ぬえ能力自重しろww」と思ってたら全裸で吹いたww
と思ったら不眠症は夢で起きたらちゃんとスクール水着でぇぇえええええ!?
スクール水着もいいですよねぇ
>>47さん
変態と言う名の紳士です。