Coolier - 新生・東方創想話

小悪魔のわりと勤勉な日々

2010/01/13 07:19:31
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 ヴワル魔法図書館。
 いつ、誰がそんな呼びかたをはじめたのかは知らない。少なくとも自分がそう呼んだことはないはず。敬愛する我がご主人様、パチュリー・ノーレッジの口からその言葉が出た記憶もない。そもそもここは地下図書室であって図書館ではないのだし。
 とはいえ、もしこれが『紫もやし栽培地下室』だの、『中国がシェスタした結果がこれだよ図書室』などというネーミングだったらかなり嫌な気分になるのはまちがいない。
 ひきかえ、大悪魔ヴアル公爵といえば私ごとき小悪魔なんぞ足元にも及ばぬお偉いさんである。その名を冠するこの異名を、実のところけっこう気に入っていた。あまり深い意味などないのだとしても、『魔法図書館』ってなんか神秘的な響きだし。
 などと意識の片隅で考えながら、私は日課である書架の整理整頓にいそしんでいたのだった。
(……13万6798番書架、接触形跡なし。13万6799番書架、接触形跡なし。13万6800番書架、接触形跡あり――欠品なし)
 第13万6800番書架の上から二番目の棚に収まっていたはずの、『細菌分類学入門』とかいう本が、最上段の棚に横積みで突っ込まれていた。
 犯人はヤツしかいないな。おそらく『菌』の文字に惹かれて通りすがりにこの本を手にとってはみたものの、顕微鏡がなければ観察できないような菌の話ばかりだったのですぐに返却したのだろう。
「あーもう。ちゃんと戻しといてよ」
 誰も聞いてはいないのだけど、やや大声で嘆きながら本を元の場所へ差し込む。
 本当はヤツの胸ぐらをつかんで面と向かって言ってやりたい。そこらのメイド妖精の仕業だったならたぶん実際にそうするのだが――うん、それ無理。死ぬ、殺される。
 そして彼女は『殺っちまったZE☆』とかぬかして笑うぐらいで、その後私はパチュリー様に再召喚されるのだろう。
 死ぬのって本当につらいんだぞ。妖精どもは頭が足りないから苦痛も忘れて何度も死んでは復活を繰り返すのだが、あいにく私の知能はそこまで低くない。
 まあいい、忘れよう。第1368書架列まではチェック完了。ここからが魔境なんだよなマジで。
 いま私の背後にあるもの、それは美しき秩序であった。呆れるほどの本の海の中から私がピックアップした、少しでもこのお屋敷の住人の役に立ちうる書籍の数々。それらが整然とジャンル分けされて本棚に収まっている。著者別の分類も、発行年代ごとの分類も、巻数の順序にも誤りのない完璧な配列。我ながら惚れ惚れする仕事ぶりである。
 悪魔が秩序を愛するだなんておかしな話と思われるかもしれないが、それは大きな誤解だ。死地へと向かう兵隊たちの一糸乱れぬ行進だとか、ただ一人の独裁者を讃えるために何万という人間が同じ踊りを披露するサマなど、悪魔的にはなんとも心躍る光景なのだ。
 だがいま私の眼前にあるもの、それは沸きこぼれんばかりの混沌の坩堝であった。
 また増えてるよ、本。私が整理するペースより、明らかに本の増殖ペースのほうが早くない?
 未整理の書籍たちは整然と本棚に収まってくれてなどいない。ただ乱雑に積まれ、そして崩壊している。『足の踏み場もない』なんて可愛らしい表現だ。
 書架列1300番台のこのへんは、何ヶ月も前から片付けを続けているのでまだましなほう。1400番台ともなると、本の海から櫛の歯のように本棚が林立している光景となり、そのはるかむこうは――いやほんと、どうしよう――棚というものが確認できなかった。すべてが海面下に埋もれてしまっている。
 以前は、といってもさほど昔でもなく、十年ぐらい前まではここまで絶望的な有様ではなかった。書架の数も万の単位までは無かったし、一日に湧いてくる書籍も台車で何度か運べばすむ程度だった。
 それがこうなった元凶ははっきりしている。メイド長・十六夜咲夜がこの部屋にしかけた、空間拡大の術のせいだ。あのときパチュリー様は歓喜した。そりゃそうだ、読める本の数が一気に百倍ぐらいになったのだから。当初は私も楽観視していた。妖怪以上に妖怪じみたあの子といえど、種族としてはしょせん人間。彼女の寿命が来たら元に戻るわけで、それまで御主人様の幸福な時間が続くのならばそれもよかろうと。
 だがその発想は甘かった。パチュリー様の愛書家ぶりは尋常でなかった。病身をおして数ヶ月間も不眠不休でメイド長の固有能力を解析し、そこに自分なりの魔術理論もつけ加えて、ついに空間拡大効果を永続化させてしまったのだ。いつかメイド長がこの館を去ったとしても、パチュリー様が存命の限りこの無限図書館は在り続ける。
 物理的な容積の限界というタガの外れたいま、この膨大な図書の幻想入りはもう誰にも止められない。これから私は、この混沌の海に秩序をもたらすべく戦いを挑まなくてはならない。今日も、明日も、明後日も、私が小悪魔である限りこの果てしなき闘争が止むことはない。
 ……あ。何秒か意識が飛んでいた。よくない。まかり間違っても、『こんな労働はまるで無意味じゃないか』などと考えてはいけない。それは確実に気が狂う。
 大丈夫。私だって悪魔のはしくれ、淫乱と退廃の申し子。どんな責め苦だって喜びに変えてみせるんだから。

「我が主、パチュリー・ノーレッジの名において命ず!」
 お決まりの前口上を述べてから、館内の各所に配置された下僕たちに思念を飛ばす。
(魔導書部隊、起動せよ)
 あちらこちらの本棚から、厚みも版型もまちまちの本たちが浮かび上がってくる。ただ共通しているのは、すべての表紙に輝く魔法陣が上書きされていること。
(挟撃陣形。目標は第1369書架列)
 これらの魔導書は、まだ外の世界にあったころ熱い情熱を持って何度も読み返されてきた書籍たちである。いつしかその読者を失ってもただの紙束には戻れず、さりとて化け道具にもなりきれずにこの大図書館へと迷い込んできた、哀れな妖怪モドキたち。
 だが今、彼らはパチュリー様によってかりそめの命と力を与えられ、私の思念に従って動いている。森に住む人形遣いならば、彼らを自動人形の亜種と呼ぶだろう。境界の支配者たるあの大妖怪ならば、これを『式紙』とでも呼ぶかもしれない。
(重力中和線、照射始め)
 ずらりと二列に並んだ魔導書たちの、開かれたページから青白い輝きが放たれる。ゆっくりと明滅する光に包まれ、無秩序に積まれた書籍のかたまりが徐々に浮上していく。よし、順調。
(クリエイト・エナジーソーサー。数量拡大26倍)
 青く光る大きな円盤が、私の周囲にぴったり二十六枚だけ出現する。こいつは私の自前の魔力によって発生させた力場だ。これを縦方向にも拡大させればいわゆる『大弾』となるのだが、別に弾幕をやらかすわけでもないので平面のままでいい。
(毛玉部隊、集結せよ)
 長大なミノ虫のような有様で宙に浮く書籍塊の周囲に、いくつもの空間の渦が発生する。渦の流れに逆らうようにして白い繊維が無数に発生し、やがてむくむくの毛玉が形成された。
 パチュリー様いわく、『アストラル渦動流に伴うエクトプラズム繊維体』とのことだったが、こんな雑魚は『毛玉』で十分じゃなかろうか。
 魔導書たちを妖怪モドキとするなら、こいつらは妖精モドキだ。妖精という形態をとりきれなかった天地自然のオーラの残滓が、中途半端に凝り固まった半精霊体……らしい。
「さーて、始めますか」
 詳しい理屈は知らないけど、わがままでいたずら好きな妖精なんかより、ほとんど動物並の知能しかない毛玉のほうがよほど扱いやすい。そのぶんパワーも妖精以下だが、ハナから力仕事なんてさせる気はない。この膨大な本を一冊ずつ私の元へ運ぶことがこいつらの任務。
 一冊目、英語の婦人向け雑誌。『今日の献立』みたいな特集だった。メイド長が読みたがるかもしれない。
(キープ。Aソーサー)
 すぐさま毛玉はこの雑誌を持ち去り、第一の円盤の上に乗せる。
 二冊目、スペイン語の成人男性向け漫画。ありえないほど胸と尻の大きい女性が、これまたありえないほど巨大な何かを舐めている。真っ黒に塗りつぶされているので、これはもう『何か』としか表現しようがない。しかしまあへったくそな絵だなあ。芸術的価値ゼロ。
(餌よ)
 命じられた毛玉は喜んで――毛玉の感情なんか知りようがないけど、なんか喜んだような感じでこの背徳の書をばらばらに引き裂き、かけらひとつ残さずに吸い込んだ。お行儀がいいのはけっこうなことだ。
 外の世界では、この図書館に流れついてくる何千倍もの図書が日々生産され、販売されているのだという。だがその大半は、たいして読まれることもなく、あるいは一度もページを開かれることもなく死蔵され、捨てられてしまうのだろう。使用する紙自体は再生されてまた新たな紙になるようだが、そこにあった内容は跡形もなく無に帰すはずだ。
 だがそのような無価値な情報の詰まった書籍など、ここには送られてこない。この図書館を埋め尽くす大量の本は、どれもそれなりに感情を込めて読まれ、そして忘れ去られた作品たちなのだ。さっき毛玉に食わせたあの低俗きわまりない絵本も、あれの読者はわりと熱心に例のページを読んでいたはずである。きっと下半身丸出しのスタイルで。
 ……これ以上の詮索はやめておこう、私は忙しい。三冊目、日本語の成人男性向け漫画。またかよ。
 こっちはどうみても十にもならぬ幼女が、男たちによって暴力的にあれこれ虐げられている内容だった。絵は上手いほうだったが、このストーリーを喜びそうな知り合いはさすがにいない。もしいたらメイド長に抹殺してもらおう。
(これも餌。次)
 四冊目、日本語の成人女性向け同人漫画……どうなってるの外の世界。特に日本。成人向け多すぎでしょ常識的に。
 内容は、あー、見なくたって表紙で察しがつくけどいちおう確認してみる。私の指先は、この本でもっとも読者の感情が高まったであろうシーンを自動的に探り当て、あやまたずにそのページを開く。
 少年同士がからみあってました。想像通りのど真ん中。
(キープ。Bソーサー)
 パチュリー様、この『名場面を見逃さない程度の能力』ってちょっと微妙すぎます。次の再召喚の時はもっと応用の利く能力を付与してください。
 ところで、いまのと同じ同人誌は、一冊すでに書架に収まっていたはずである。具体的には11万8980番書架の下から二番目の棚の右のほう。一輝×瞬って王道だもんねえ。あの棚はほとんどこのカップリングで埋まっている。
 ちなみに、そこら一帯の書架は全て禁書コーナーに指定されている。書名を確認させない程度の視覚妨害効果は当然として、吸血鬼でもうかつに触れたら痛い程度の攻性防壁、および防壁を破られた際は即座に発動する証拠隠滅用の火炎魔術。
 ついでに私の記憶にも常時スクランブルがかけられており、司書業務を一手に引き受けている私でさえ、その棚に『いま何が入っているか』しか覚えていられない。つまり、仮にこの本があの棚に無かったとしても、これが本当に今まで未入荷の書籍だったのか、それともたまたま誰かに借し出し中で棚に無かったのかは誰にもわからないのだ。
 ……めんどくせえ。
 パチュリー様が恋愛モノ好きなのは重々承知してますってば。愛し合う二人の性別なんぞ関係なく、感情の流れが豊かに書けている作品なら高く評価してますよね。性的な要素を含まない、『キスまでこぎつけたら終わり』みたいな作品ならたまに話題に出すくせに、ちょっとでもそれ以上に進展すると徹底して好みを秘匿しやがるんだからもう。
 おかげで私は、ソフトノーマルからハードコアまであらゆる嗜好のポルノ作品を、きっちりジャンルわけして禁書コーナーに並べなきゃいかんはめになるのだ。だってご主人様がどんな趣味なのか全然知らないんだもん。だったら全部網羅してエロスのオーソリティーになるしか道がないわけで。これはこれで悪魔としてのクオリティが上がるので悪くはないけど、なにか釈然としない。

 そんなこんなで、私は次から次へとこの雑多な書籍をさばいては浮遊する円盤に乗せ、あるいは毛玉に食わせてやるのだった。まずはこの書架列を空にして収納スペースを確保しないとどうにもならない。確保すべきか迷ってしまいそうな本は、吟味の時間がもったいないからさっさと餌にする。おかげでうちの図書館の毛玉たちは、幻想郷で一番活きのいい健康優良児だ。
 次行こう。日本語の少年向け漫画雑誌……の中でもたぶん一番有名なやつ。
 今日はなかなかついている。というのも、この雑誌はお屋敷の皆からの人気が極めて高い反面、号数がそろわず途中で欠けている巻が多いためだ。常時十数本掲載されている連載の中で、ひとつでも強烈に読者の印象に残っている作品があればそこで幻想入りが阻まれてしまう。
 むろん、外の世界でも大人気だっただけあって発行部数は極端に多い。『年間で数億冊』という単位は、いまだになにかの冗談ではないかと疑っている。だって日本語話者の全員が当時これを複数冊買っていた計算になるではないか、平均したら。
 とはいえ人間はきわめて飽きっぽいことに定評のある知的生物だ。たった数十年の時を経てそれらを忘れ去ってしまう者達と、決して忘れぬ者達の集合無意識のせめぎ合いの結果、そのうちの何冊かがこの大図書館に紛れ込んでくるのだろう。
 などと感慨にふけっている場合ではない。誘惑に負けてこれを頭から読み出してしまったら、大幅な時間ロスは確定だ。素早く発行年度と号数をチェック。
 ああ、残念。既刊だった。この号はすでに三冊もあったはず。同じ書籍は閲覧用・保管用・貸出用の計三冊までしか確保しないルールだ。上限を決めないと管理する書架が多くなりすぎて大変だし。
(キープ、いや、待って)
 せめてこれの元読者のお勧めポイントぐらいチェックしておこうか。あとで私も読み返す参考にしたい。現在の私の特技、名場面を見逃さない程度の能力を発動しつつ雑誌の端をべらべらとなでる。
「ここっ……はあ?」
 名も知らぬかつての少年よ、君はなぜこのページを最も注目すべき場面だと判断したのかな。
 君はなぜ、惑星戦士の限界バトルより、バスケット少年たちの努力と友情より、霊能少年と妖怪の命がけの決闘より、吸血鬼を宿敵とする一族の能力合戦より、魔王に挑む勇者の冒険活劇より――『ミザリィの谷間と太もも』に注目していたのかな。
(キープ。Zソーサー)
 書架には収められない、だが毛玉の餌にするには惜しい書籍は『Zソーサー』送りとなる。今日の仕事が終わったら魔導書たちの餌にしてやる予定だ。
 そこかしこからいくらでも湧いてくる毛玉と違って、魔導書は使いつぶしが利かない貴重品だ。量を与えて太らせるのではなく、ちょっとでも高級な餌を食わせて魔力を高めてやるほうが得策となる。
 などと意識の片隅で漠然と思案しながらも、私の手と目と脳は全力稼働で本の山をさばいていく。
 次、インドネシア語の物理学教科書。まだ基礎教育の段階か。同じような内容の学習書ならいくらでもある。餌。
 もっと高等な科学書なら大歓迎なんだけど、なぜかそういうのは流れてこない。たまにそれっぽいのをみつけても、内容をよく見ると、ほかの科学書とは矛盾だらけの偽科学だったりするらしいし。私たちがうっかり進んだ科学を知ってしまわないように、スキマ妖怪あたりが妙な干渉をしているのかも。
 次、中国語のアラビア語学習書。ややこしいなあ。門番なら読むかも。いや、彼女が今からアラビア語の勉強を始める可能性はまずない。餌。
 次、ヌード写真集。言語はどうでもいい。こりゃえらい美人だなあ。芸術的価値ありと認めてキープ。
 次、英語の絵本。えーと、在庫あり。Zソーサー送り。
 次、ヒンディー語の小説。私とパチュリー様ぐらいしか読めそうにない。でも恋愛モノなのでキープ。
 この素晴らしい多言語力・速読力・記憶力・下僕たちへの指揮能力……全てはパチュリー様からの借り物だ。私という存在を維持するために召喚主が費やしてくれた魔力が、この超人的な仕分け技能をも付与してくれる。私本来の知力など、そこらのちょっとマシな人間と大差ない。
 それでも小悪魔仲間ではけっこう知性派で通っていたんだけどね。本当に低級の悪魔は、頭のできも妖精や毛玉レベルだし。
 次、日本語の成人男性向け漫画雑誌。第一印象としては『ありがち』の一言。餌。
 次、日本語の成人男性向け同人画集。やたら薄っぺらい、というか表紙も入れて12ページしかないぞ。うまいんだかへたなんだかよくわからない絵柄。こんなの熱心に見るのは作者本人ぐらいだろう。餌。
 次、日本語の成人男性向け漫画。おいこら日本、いいかげんにしろ。内容は……なんじゃこりゃ。ほぼ全ページで女性の腹から内臓がはみ出ている。女体よりハラワタが好きなひと向けか。需要はなさそうだけど、悪魔的に感動したのでキープ。次。
 しかしポルノ漫画が多いなあ。半分とまではいかなくても、三割以上がその手の書籍だ。
 外の世界ではすでに神が死んでしまったというのは本当のようだ。旧約聖書の基準に従うなら、とっくに第二のノアが選ばれて世界規模の大洪水が起きていなくてはおかしい。かつてのソドムの街の退廃具合を1ソドムとするなら、日本のアキバとかいう街は余裕で10ソドムに達してるんじゃなかろうか。
 まあ、ここに来る書籍の偏りについては仕方がない側面もあるけど。『熱心に読まれた』という条件をクリアするとなれば、どうしたって性的な題材が有利だ。べつにそれが嫌いってわけでもない。悪魔のはしくれの必須教養としてたいへん勉強にはなるのだが、さすがにこの量では食傷してしまう。たいがいどれも似たような内容だし。
 なので、多少絵がうまかろうが、人気作家の作であろうが、ごくノーマルな繁殖行為の図であればどんどん毛玉に食わせてやらないと作業が進まないのだ。
 こんな低俗な情報ばかり餌にした毛玉が、いったいどんな子に育ってしまうのかとても期待できる。そのうちオタマジャクシ弾だの触手型誘導レーザーだのを発射しだしてもおかしくない。下手に被弾したらターゲットが妊娠してしまう可能性すらある。
 そのような猥褻毛玉部隊が完成した暁には、真っ先にあの泥棒鼠にけしかけてやろう。きっとすごくいい声で鳴いてくれるに違いない。顔を真っ赤にして、べそをかきながら私をののしってくれるに違いない。そうだ、記念撮影のために新聞記者も呼んでおかないと。ああ、夢ふくらむ――
(どんな妄想してるの。お茶にしましょう)
 おっと、ご主人様のお呼び出しだ。ここらで小休止としますか。下僕たちにはその場で待機を命じ、私は振り向いて飛び立った。
(すぐ参ります、パチュリー様)

 整然と配置された書架列をぐんぐんと飛び越えて主のもとへ向かう。うん、やっぱり見ていて気持ちがいい。
(カップはみっつよ)
 あやうく忘れるところだった。手ぶらで行ってもお茶にならないじゃない。
 先に休憩室に立ち寄った私は、以前メイド長からもらったティーポットを取り出して意識を集中する。
(クリエイト・ボイルドウォーター)
 心で唱えた呪文に応え、ポットの中に熱湯が満たされていく。私だってこのぐらいの初級魔法は朝飯前……あ、ストップ、ストップ!
(なにしてるの)
(すみません、ちょっとお湯があふれました)
 パチュリー様からの返答はなかった。さすがに呆れていらっしゃるらしい。今度から空のポットを持って行きますから、ご自分で入れてくれませんか――なんて言えるわけもない。とほほ。
「お待たせしましたー」
「待ったわ」
「待ったぜ」
 くそう。よりによって来客のあったタイミングでこんなドジを踏むとは。いやそもそもこいつは客なのか?
 でもまあ、持ってくるカップを『みっつ』とオーダーしてくれたところにパチュリー様の愛を感じるから良しとしよう。これが『ふたつ』って注文だったら悲しい。たぶん泣く。
「今日はずいぶんお行儀がいいんですね」
 紅茶を注ぎつつ、客人にそう尋ねてみた。いちおう笑顔で取り澄ましてはいるけれど、私の心臓はいま激しく高鳴っている。このぐらいの軽口はあいさつのうちよね。まさかここで、『舐めたクチきいてくれるじゃねえか』とか怒り出したりしないよね。
「今日の私は客だ、客」
 白黒の魔法使い、霧雨魔理沙は不機嫌そうに腕組みしてそう答えた。よし、セーフ。
「これからは毎度そうしてほしいものね」
 目の前に置かれたカップを取り、パチュリー様はそっけなく答える。言っても無駄なのは承知の上で、とりあえず口に出してみたってスタイルですね。
「いやそいつは困るな。正面から忍び込まなきゃ門番をぶっ飛ばせないじゃないか」
 なにを言ってるんだこいつは。
「そうね。お客となるとこうしてお茶のひとつも誘わなくちゃいけないし、やっぱり煩わしいわ」
 パチュリー様まで。このあいだ、本当に魔理沙が本だけ借りていったときは寂しそうにしてたくせに。そのくせなにか用事がないと自分から話しかけたりはしないんだから。どれだけ奥手なんですか。
「茶ぐらいいつでも出せ……ん?」
 ひとくちお茶をすすり、魔理沙はやや思案してからもう一度お茶を口に運ぶ。
「やっぱ風味が違うんだよな、咲夜が淹れたのと」
 なんと。わたしの淹れかたが下手だとでも言うの。そりゃあのメイド長と比べられちゃ仕方ないかもしれないが、ちょっとカチンと来たぞ。
「葉っぱは同じはずですけど」
「水が違うのだから当然でしょう」
 即刻パチュリー様が指摘する。
「そこの湖から汲んでるんじゃないのか」
「厨房ではそのはずだけど。こっちは小悪魔が絞り出したコア汁だから」
「つまんねえ冗談……」「その通り……ですけど」
 魔理沙と発言がかぶってしまった。彼女はぎょっとして私を凝視する。他の誰かの言葉だったら軽い冗談として聞き流しただろうけど、使い魔は主人に嘘がつけない。
 魔理沙が薄気味悪そうな顔でカップを置くと、パチュリー様もこれ見よがしに一口飲んでカップを置く。
「あら、もういいの?」
「いるかよ。なにを飲ませる気だ」
 パチュリー様はただ微笑みを浮かべてこちらを見る。私もニヤニヤ笑いながら目を合わせてみた。こういうのはあまり深く語らないほうがプレッシャーになる。
 魔理沙は顔をしかめて帽子を椅子の背もたれにかけ、頬杖をついて前へ向き直った。
「まあいい、今日はパチュリー、お前に用があるんだ」
 名を呼ばれて、パチュリー様は不思議そうに首をかしげた。ああ、そういう無意識のところでにじみ出る子供っぽい仕草がたまりません。
「今日は? ならいつもはなんの用もないというのね」
 あれま。やっぱり無視されたことを根に持ってらっしゃるようで。
「いや、見かけたら声ぐらいかけるけどさ」
「それは結構」
 ずばりと言い放たれ、魔理沙は目を白黒させる。ずるい言いかたですねえ。『それは結構』って、YESともNOとも受け取れるじゃないですか。
「――で、なんの用件なの」
 問われて魔理沙はぐっと身を乗り出す。
「おう。私にさ、元素系の魔法のコツってやつ、教えてくれないか。得意分野だろ」
「また唐突ね。魔術の真髄なんて、言葉で伝えられるものでもないでしょう」
 めんどくさそうにこたえるパチュリー様に、魔理沙は口を尖らせる。
「なにも究極奥技を伝授しろとは言ってないさ。あれだ、いつもの調子で知識をひけらかしてくれたらいい。そこから私は何か学ぶかもしれないし、飽きて帰るかもしれない」
 なんたる傲慢な。比類なき元素魔術の達人たるパチュリー様に、マンツーマンで講義を受けようというんだぞ。たとえ千金を積もうとも代価としては物足りないというのに、言うに事欠いて飽きたら帰るだと。
「だそうよ、小悪魔」
 は?
 パチュリー様はそれきり視線を落とし、読書を再開した。
「私が説明するんですか?」
「ん。まあコアごときでもいいや。聞き流してやるからさっさと話せ」
 こいつめ、無礼にも限度ってものがあるでしょ。正直こんな女に教えてやりたいことなど何もないが、こちらに話を振ってきたのは我が主だ。私に拒否権などない。
「あー、私の覚えてる魔術なんて基礎でしかないけど。それでよろしければ」
 魔理沙は何度もうなづいた。偉そうなことばかり言ったわりには、かなり真剣な瞳でこちらを見つめている。しゃあない、聞かせてやりますか。

 元素とは、あらゆる物質や力を切り分けた際の基本的な構成単位です。
 その元素自体も、さらに複数の属性の組み合わせによって構成されているわけですが、『属性』だけでは独立して存在できませんからね。元素が物質界の最小の存在となります。
「そういや、原子と元素ってなんか違うのか」
 原子というのは、外の科学によって完成された概念ですね。物質を構成する『正と負』および『中立』の粒子の比率で元素を定義しているようです。
 この方式だと原子が何百種類もあることになっちゃうんで、とても整合性がとれているとは思えないんですけどね。でも外の人間たちは、その理論に従って高度な機械や薬品を生産しているわけですから、科学というのは実用性を重視した魔術体系なんだと思います。
「科学の事は河童に聞くからいい。私が使える魔法の話をしてくれ」
 はいはい。伝統的に、西洋魔術は火・水・大地・大気の『四大』を、東洋魔術は火水木金土の『五行』を元素としています。パチュリー様の統べる七曜の元素は、五行に『太陽』と『太陰』を加えたものです。
「ふむ。なんで日曜日と月曜日があるのに『星曜日』が無いんだ。星だって元素だろ」
 あるじゃないですか。火星の火曜日、水星の水曜日、木星の木曜日……
「そか。日曜と月曜以外ぜんぶ星曜日なんだな。星っつっても色々あるから」
 ええ。全部足し合わせたって太陽や月の輝きにおよびませんが、天球を埋め尽くす面積では圧倒的です。
 あるいは、『ファイア・サンダー・ブリザド』を三元素とする方式もあるようです。ずいぶんと攻撃魔法に偏った分類ですけど。
 『氷』を元素に含めるかは諸説あるところです。氷など水の副産物に過ぎないという考え方が優勢ですが、それを言ったらあの湖の妖精が怒っちゃうでしょうね。『氷が最強に決まってるわ』って。
「ヤツの話はするな」
 ちょっと、なに怒ってるんですか。
「なんでもない、とにかくヤツの話はするな。次行けよ」
 もう。ともかく、何を元素と認めるかは使い手の世界観次第なのです。重要なのは元素同士の関連性です。
 たとえば『砂』を元素とする意見もあります。その世界観では『水と砂』が対立する属性なんですよ。水がもたらすのは生命・潤い・希望。砂がもたらすのは死・乾き・絶望。そういう過酷な環境から生まれた哲学です。
 元素魔法を使いこなすコツは、その元素がどのような地位にあるのか、自分なりの価値観を組み上げておくことじゃないでしょうか。
 いま目の前の敵が……そうですね、氷のかけらを雨あられと降らせてきたとしましょう。
「なんだその例えは」
 単なる思いつきですよ。私なら『四大』を世界観としていますから、氷を構成する『冷気』の対立要素である『熱気』をぶつけてやります。まあ私の魔力で防ぎきれるかは微妙だけど、そこは置いといて。
「は。おまえも霜焼けになっちまえ」
 おまえ、『も』? いまお前もと言いましたか魔理沙さん。もうすでに誰かが霜焼けになってしまったんですか?
「うるせえや」
「そういえばあなた、さっきやたらと手のひらを掻いていなかった?」
「あ、う、いやなに言ってんだ、知らねえよ。私は話を聞きに来たんだ、続けろ」
 なんでしたっけ、そうそう、私なら氷には火で対処します。でもパチュリー様の『五行』の世界観では全く逆です。五行において、水に対して火では一方的に負けてしまいます。水に強いのは『土』なんですよね。なにか土系統のスペルをぶつけてやれば、一方的に氷を打ち消して反撃を加えることも容易です。
 こと元素魔術に関して、パチュリー様が最強であるゆえんはそこです。あらゆる元素に対して、それを一方的に打ち負かすことが可能な元素を定義し、体得しておられるからです。

「と、まあこんなものでしょうか、私の知識といえば」
 あまり詳しく語り続けるとぼろが出る恐れがあるので、このへんで解説を切り上げることにした。私の知識などしょせん上っ面だけのもの。パチュリー様のように、いままで読んだ書籍の内容をみな完璧に理解しているわけではない。
 小難しい理論なんかなくたって、資質さえあれば魔術に類似する効果は発揮できる。それこそ、あの氷の妖精みたいに。だがそれだけではいずれ限界にぶち当たる。自分の長所を伸ばすだけではなく、短所をカバーする方策を身につけるには深い研究と対策が欠かせない。そのぐらいはこの半端者の魔法使いでも理解しているんだろう。だからわざわざ魔法のコツなんて聞きに来たものと思われた。
 魔理沙はまだ、腕を組んで納得できないという顔をしている。
「弾幕なら私のほうがパチュリーに勝ってるだろ。最強なんて言葉、軽々しく使う奴は馬鹿だぜ」
 パチュリー様がわずかに顔を上げた、今の発言にイラっときてるっぽい。ご自分の実力を否定されたから? もしかして私が馬鹿呼ばわりされたから?
「『弾幕ごっこ』と『実戦』はそれ自体が対立属性よ。あなたの魔術は大きく弾幕属性に偏っている。断言するけど、本気で命を奪うつもりなら楽にあなたを抹殺できるわ」
 うわ、キツい。言いかたキツいですよパチュリー様。おまえを殺すって言ってませんかそれ。
「ここは幻想郷だろ。あれか? 弾幕ごっこなんぞくだらないお遊びだが、ルールだからしょうがなく守ってるってのか。本当は切った張ったの殺し合いがしたいってのか」
 ほら見たことですか。そんな『やっちゃったなあ』って顔してもこいつには通じませんよ。
「別にパチュリー様だけじゃありません。ここのお嬢様がたでも、メイド長や門番でも、勝利だけを求めるならルール無用の方が有利です。魔理沙さんは、弾幕使いとしては一流でも魔法使いとしてはまだまだ若輩だと、そういうことをおっしゃってるんです。自覚してください」
「舐めたクチきいてくれるじゃねえか」
 やっぱり怒らせちゃった。いいんですよ、ええ。ここでふたりが喧嘩になって、またしばらくパチュリー様の機嫌が悪くなるぐらいなら、私が怒りをかぶるほうがいくぶんマシです。
 私はおびえたふりをして――実際かなりびくついてはいるけど――魔理沙から目をそらして席を立ちかけた。
「あー、私まだ本の整理がありますので、これぐらいで」
「まて、まだ講義は終わっちゃいない」
 えー。まだ食いついてくるの? なんか空気が微妙になってきたし、もうさっさと帰ってくれないかなあ。
「おまえに指摘されたかないが、私の魔法にはまだ改良したい点が多いのは事実だ。どうしたらいいと思う? 率直な意見を述べよ」
 めんどくさいなこいつ。ほんとに率直に述べるなら、『ひとの使い魔なんぞにアドバイスを求める時点で魔法使いとして終わってます』なんだけど、それはまた火に油を注ぎそうだ。
(パチュリー様、そちらにパスしていいですか)
 念話で呼んでみたものの、返答なし。
(パチュリー様、もう私じゃ手に負えませんってば。この人をかまってあげてください)
 なおも返答なし。もしかしてこの状況を楽しんでます? 私が魔理沙に問い詰められるなんて、まずありえない事態ですもんね。さてどう切り抜けたものか。
「ええと……さっきパチュリー様のおっしゃった通り、魔術の真髄は知識だけでは得られないものだと思います。実体験を通じて自分を鍛えるのが一番じゃないでしょうか」
 とにかく思いつきを口に出してみた。なにせ私自身、使い魔検定で二級程度の呪文しか知らないんだもん。パチュリー様は自前で強いから護衛なんていらないし、私の仕事はあくまでこの図書館の管理。魔術の修行の補佐なんて全くの専門外よ。
 魔理沙はちっと舌打ちする。
「それじゃいつもの私のやり方と変わんないだろ。もういい、おまえに期待したのが馬鹿だった」
 ばーか。と、声に出して言えるはずもなく、口だけでこの言葉の形を作ってみた。魔理沙はそれをめざとく見つけてこちらにガンを飛ばしてくる。おお怖い怖い。
「てめえ……おいパチュリー、こいつの教育どうなってんだ。さっきから腹立つことばっかり言いやがって」
 やっとパチュリー様は本にしおりを挟み、顔を上げた。
「前にも言わなかったかしら。この子は生まれついてのマゾヒスト。いつもは私に虐げられているから、たまにはあなたにいじめてほしくて言っているのね。もっと構ってあげて」
 ひどい。その言いぐさはひどいですパチュリー様。私をかばうために言ってくれてるのはわかりますよ。ひねくれ者の魔理沙なら、かまえと言えば逆に放置しますからね。でも誰が私をエロ本マスターに仕立て上げてくれたんですか。
「冗談じゃない。おまえらの粘っこい関係なんか知りたくない」
 それだけ言い捨てて、魔理沙は黙想し始めた。何を考えているのやら。やがて顔を上げて私のほうを見る。
「ごちゃごちゃと聞かされたが、元素同士の勝ち負けはこっちが勝手に決めていいってことだな。その定義同士がかち合ったら、思い込みの強いほうが勝つと――」
 ありゃ。意外と真面目に魔術理論を考察していたらしい。心ここにあらずといった様子でなおぶつぶつとつぶやいている。
「――『氷が最強に決まっている』というのがヤツの思い込み。根拠など何もないが、そう思い込んでるほうが勝てば実際にそうなる。なら私も、『氷は火で溶けるはずだ』って思い込みで対抗するしかない。結局それでいいんじゃねえか」
 長々と話していたうちに、私たちのコア汁茶はすっかり冷めてしまった。新しい茶葉をセットして来るべく、私がティーセットの片付けを始めたとき。
「よし、パチュリー。なんでもいいから私に火炎系の技を撃ち込んでくれ。こっちの気が済むまでだ」
 真剣な瞳で、魔理沙は親指で自分の胸元を指す。
「は?」
 この間抜けな声をあげてしまったのは私だ。パチュリー様はまだ黙って相手の様子をうかがっている。
「遠慮なんかいいから上級スペルで来いよ。アグニシャインか? フォレストブレイズか?」
 なんたる命知らず。パチュリー様の上級呪文乱れ撃ちなんて、私でも滅多に食らったことのないお仕置きなのに。
「そんなに熱いのがお好きだったんですか。でも魔理沙さん、上級は本当に上級者向けですよ。ロウソクだったらいくらでもご用意します。なんなら私がやりましょう、いえ、やらせてください。ささ、服を脱いで横になって。やっぱり縛ったほうが雰囲気出ますよね。いま真っ赤なロープを」
「黙れ淫魔」
 いつのまにか、魔理沙の手に握られた八卦炉が私に向けられていた。強烈な魔力がそこに収束されていくのがわかる。
 すみません、悪ノリが過ぎました。黙るからこの暴走女を止めてくださいパチュリー様……ちょっと、なにニヤニヤ笑ってるんですか。いくら弾幕属性だって、こんなのまともに受けたら生き残れませんよ私、死んじゃいますよ。ねえ、だからなんでそんなに楽しそうなんですかパチュリー様。そんなに私の死亡シーンが見たいんですか、それが貴女の望みだというのですか。
「くらえ、断罪のマスタースパーク!」

――私はいま、輝く星空のトンネルをゆらゆらと流されています。
 あの星々のひとつひとつが、かつて神と呼ばれ、そして戦い敗れ、大いなるひとつの信仰に飲み込まれてもなお天上の主に屈服しなかった、誇り高き大悪魔たちなのです。
 その泡立つ残滓より生まれ、気まぐれに名前と自我を与えられた私。そして偉大なる魔法使いによって地上に召喚され、かりそめの生命と肉体と、そして果たすべき使命を与えられて。
 だけどいま私という存在は粉々に打ち砕かれ、あの星々へ還元されようとしています。寂しくなどありません、やっと故郷に戻れるのだから。
 さようなら、我が主。七曜の魔術師、動かざる大図書館と呼ばれた知識と日陰の少女。その名も、その名も……
 あれ、どうしよう、あのおかたの名前が出てこない。私の大切な、大切な、えーと、なんだっけ。なにがそんなに大事なんだっけ。私は誰だっけ。もうなにも思い出せない。
 消える。私が消えていく。嫌だ、嫌だ、嫌だ。忘れたくない!
(我が使い魔、汝の名はxxxxxxxx。我パチュリー・ノーレッジがここに再度の顕現を命じる。疾く来たれよ)

「だってよ、こいつがあんまり生意気だからついやっちまったんだぜ」
「やっちまったじゃないでしょう」
「おまえだって明らかに楽しんでただろ」
「いわれもない言いがかりね。使い魔を失って喜ぶ主がどこにいるというの」
「別に失ってもないだろ。現に、ほら」
 見慣れた大図書館の天井を眺めながら、私はぼうっとしてこの会話を聞き流していた。とりあえず手をぐっと握ってから開いてみる、そして持ち上げてみる。よし、動く、ちゃんと見える。
 むくりと上体を起こし、左のほうを向いてみた。
「パチュリー様」
 パチュリー様。パチュリー様。この名を心の中で繰り返すだけですごく幸せな気分になれる。まずいな。いまの私、冷静なんだかハイなんだか自分でもよくわからないぞ。
「よう。お目覚めだな」
 反対側へ振り向く。魔理沙は顔も手足もススだらけだった。髪も衣服も端のほうがちりちりに焼け焦げて、それでも満面の笑みを浮かべている。
「ひどい格好ですね」
「それは服着てから言え」
 魔理沙は自分の足元にあったひとそろえの衣服を取り、ほとんど投げつけるようにこちらへ渡してきた。まあこの好意はありがたく受け取っておこう。このまま全裸でそのへんを飛び回るわけにもいかないし。
 さっきまで横たわっていた私の周囲に描かれている魔方陣を踏んで消してしまわないように、軽く宙に浮いていつもの姿に着替える。
「それで、今日は勉強になりましたか、魔理沙さん」
「おう。召喚魔法ってのもけっこう面白いな。今度なんか適当に呼んでみる」
「召喚術の前に、結界術か支配術を覚えなさい。放し飼いは近所迷惑よ」
 まったくもって。己の身に余る存在をうっかり呼び出して、逆に食われてしまった二流魔術師の逸話は数知れない。呼ばれる側にとっては、そういうのが実においしい臨時ボーナスなのだけど。まあパチュリー様専属の私にはあまり関係がない。
「じゃあいいや、めんどくさい」
「元素魔術のほうはどうしたんです」
 魔理沙はいちど箒を投げ上げて、それから床を蹴って跳躍し空中で箒に飛び乗った。なにかっこつけてるんだか。
「なんとなく、つかめた気はする。今度こそあんな雑魚に不覚は取らないぜ。めっためたに溶かしてやる」
 そう言い放ち、じゃあな、と私たちに手を振って若き魔法使いは図書館の出口へ飛び去っていった。
「お礼ぐらい言ったらいいのに。ねえパチュリー様」
「なんのこと。私はただ、可愛い下僕をいたぶってくれた賊にお仕置きしただけよ」
 つんと澄ましてそっぽを向くパチュリー様。なんだろう、この胸のときめきは。これが萌えとかいう感情なのかな。

 パチュリー様はちらっとだけこちらを見て、また視線を本棚のほうに戻した。どしたんだろ。あ、仕事しろってことですね。
「では、やっかいなお客さんもお帰りになったことだし、通常業務に戻ります」
 どうも私は、魔理沙の魔砲に消し飛ばされてから再召喚してもらうまで、三時間以上も死んでいたらしい。書架整理スケジュールの立て直しが必要だ。
「待ちなさい」
「どうしました?」
 パチュリー様は珍しくなにか訴えたげな目で、じっとこちらの表情を観察している。いちど唇を引き締め、そして開いた。
「なにか私に言いたいことはないの」
 はあ、なんのことだか。そりゃ言いたいことがあるっちゃありますけど、別段いまさら言葉にするまでもないし。ああ、でも、肉体的にはまっさらに生まれ変わった節目として、ご挨拶ぐらいはしておきますか。
「そうですね。また呼んでいただいて、本当にありがとうございます。微才ながら忠義を尽くしていきますので、今後ともヨロシクです」
 まだじっと私の顔を見つめたのち、パチュリー様はくしゃっと表情をゆがめて……ありゃりゃ? なんですその反応。えー、私の表情認識力に異常が発生したのでなければ、このひと今にも泣き出しそうな顔をしてます。
「えっと、はい? どしたんです」
 すると今度は、パチュリー様は怒りの表情を作ってみせた。それはもう、あきらかに怒ったふりだってのが見て取れる顔で。
「あなたという存在が理解できない。どうして私に感謝なんかできるの」
 やはり私は何か変なことを言ってしまったのか。でも、復活させてもらったのを感謝してたらそんなに変かなあ。
「私は紅魔館の住人よ。平気で部下を虐げるような者に、レミリア・スカーレットの友を名乗る資格はない」
「うーん。それはまあ、あのお嬢様は愛をもって部下を虐げてますから。とんだドSです。メイド長もパチュリー様も、その流儀に悪影響を受けてるとしか思えません」
 パチュリー様はなにも語らなかった――少なくとも、その口では。
(あなたの死にゆく姿を、私は笑って眺めていた)
 おっと。なんです?
 目を伏せ、椅子にかけて、ぐっと握った手元に視線を落とすパチュリー様。
(これは私の独り言。あなたは、私と魔理沙が喧嘩にならないようにあえて道化を演じて、気性の荒い彼女の怒りをかぶってみせた。その姿が可笑しかったから、私はあなたがどこまで魔理沙を挑発できるか観察していた。結果彼女の怒りは爆発し、また私はなんの救済も行わず、あなたは一度死に至った。だからあなたは怒るべき。もっと自分を尊重してくれと、おもちゃ扱いしないでくれと私に訴えるべき。そうすれば私はあなたの機嫌を取るためになんらかのアクションを行うし、その行為によって私自身もあなたに対する罪悪感を払拭できる。なのにあなたは私に感謝していると言う。どうしろというの)
 うわあ。いきなりそんな圧縮した思念を送り込まれても、いっぺんには理解できませんよ。
(あー、えーと。別に私、死んだことについては気にしてませんが)
(私が気にするの。まっとうな良心を持つ存在ならば、どうにかあなたに謝罪したいという感情を抱くのが当然でしょう。気にしないと言われても困るわ。このままでは私はあなたに依存してしまう。もうすでに依存しきっている気もしないではないけど、本格的にあなたなしではいられない存在になってしまう。外の世界の言葉で言うならニートよ。蓬莱山輝夜よ。すでに同レベルとは言わないでっ。わたしは違うというプライドがあるの。私には少なくとも、心底まで他者に依存してはいない、独立した意志決定能力があるという自負があるの。でも駄目。言っててわかった、私はもう駄目。あなたなしではいられない。敗北宣言よ。私にはあなたが必要。私の行いの全てを喜んで許してくれる、衣食住すべての面倒を看てくれる、まるで母親のようなあなたが必要。そうだ、これからはオムツを用意して。もう糞尿すらあなたにまかせることにする。あ、嘘、本気にしちゃ駄目よ、さすがにそんな趣味はない。でも一緒、精神的に一緒。私はもう、自分自身の汚ならしい側面をあなたにさらすことに抵抗がない。どうせあなたは『いいんですよパチュリー様』とか言ってすべてを許してくれるのだから。悪魔め。あなたは私を堕落させた。この悪魔め)
 この心の声を、私はぽかんと口を開けて聞いているしかなかった。よくそんなに思考を高速回転できるなあという感心と、なぜ復活してそうそうに訳のわからぬお叱りを受けなくちゃいかんのだという理不尽さを味わっていた。召喚主の命令を聞きすぎて怒られるなんて聞いたことないぞ。
 だけど、パチュリー様は見るからにしょげて深く思い悩んでいる風だった。どうしろってのよ。

「いいんですよ、パチュリー様」
 パチュリー様はびくりと背筋を伸ばし、ぎょっとした顔で私を見る。私はその背後に歩み寄り、椅子の背もたれに手をかけた。
「やっとわかってくれたんですね。これからもわたくしめにすべてお任せください」
 彼女の横顔を、すぐ間近から観察してみる。その表情はまるで凍りついていた。いまの言葉が予想外に効いてるっぽい。耳元でささやくようにさらに告げてやる。
「いつでも喜んでご主人様のお世話をいたします。なんでもわがままをお申し付けくださいね。どんなふうにあつかわれても、私だけは絶対にパチュリー様を嫌いになりません」
「やめなさい!」
 ほとんど悲鳴のようなひきつり声で叫び、パチュリー様は立ち上がって目をむいて私を見つめた。いまなにか、よほど恐ろしいことを聞かされてしまったらしい。ええ、もうしゃべるのはやめますとも。この口では。
(どうして? 私、パチュリー様の居心地いい場所を作るために精一杯頑張ります。この図書館から一歩も出る必要はありません、誰とも会う必要はありません。お嬢様には私からうまく言っておきます。あのかたなら、お願いすれば数百年単位で放置してくれるはずです。大好きなご本の山に囲まれて、心ゆくまで幸福な時間をお過ごしください)
 まばたきひとつせずこちらを凝視する彼女に、精一杯の笑顔で語りかけてみる。
(なにも怖くないんですよ。私がお守りしますから、心ゆくまで堕落しちゃってください。そのために、私はあなた様のもとへ遣わされてきたのです)
 いまやパチュリー様は脱力し、椅子に肘をかけて床に膝をついている。肩を震わせ、言葉にならぬうめき声をわずかに漏らして私を見上げていた。やがてがくりと頭を垂れ、息を荒くする。そして。
「げほっ」
 あ。
 気づいた時には遅かった。パチュリー様は自分の喉元をおさえ、何度も激しく咳き込みはじめた。『げほげほ』なんて生やさしい擬音では済まない。いまにも嘔吐してしまいそうな嗚咽のあいまに、ぜいぜいひゅうひゅうという苦しげな息づかいが聞こえる。
 やってしまった。喘息持ちをあまり興奮させてはいけない。
「パチュ……」
 思わずその肩にさしのべた手を、力強く払いのけられた。
(触るな悪魔。あなたの手は借りない)
 まだ苦しそうにえづきながら、パチュリー様はぼろぼろと涙をこぼし、ついでに鼻水を垂らす。それでも机によじ登るようにして身を起こし、なんとか椅子に腰掛けた。乱暴に引き出しを開けて吸入器を取り出す。ぶるぶると震える手で薬剤のアンプルを折り、吸入器にセットする。
(クリエイト・ウォーター……ヒート・リキッド!)
 その程度の超初級呪文、普段なら私がかけるんですけどね。
 うっすらと蒸気の立ちのぼる吸入口に吸い付き、パチュリー様は何度も深呼吸を繰り返す。やがてだんだんと呼吸が落ち着いてきた。
「やればできるじゃないですか」
(うるさい。私としたことが、危うくあなたに魂をくれてやるところだった)
 うーん残念、あとちょっとだったのに……なんてね。あまり油断してると、本当に魔界にお持ち帰りしちゃいますからね。
「これでもまだ、私をこき使って申し訳ないなんて思えますか」
(思うわけないでしょ、さっさと仕事に戻りなさい。こんな姿あまり見られたくないわ)
(はいはい。あなたの小悪魔、了解でーす)
 と、思念だけで答えてさっさとその場をあとにした。さっきまでと言ってることが違ってませんか? まったく世話の焼けるご主人様です。

――文々。新聞――
『妖精たちのパーティーに傍若無人の乱入者』

 ○月○日の黄昏時、霧の湖では妖精たちによるささやかながら盛大なパーティーが開催されていた。今回の主役は氷の妖精チルノさん。
 かねてより妖精としては破格の弾幕力を有すると噂されていた彼女だが、悲しいかな種族の限界か、弾幕ごっこでは幻想郷の実力者に対して負け続きであった。ところがこの日のお昼時、霧の湖上空で突発的に始まった弾幕ごっこにおいてチルノさんは新作のスペルカードを披露。対戦相手であった魔法使いKさんは、たかが妖精と油断していたところで放たれた初見のスペルに対応できず、あえなく一敗地にまみれたという。
 この大金星を祝うべく、近隣に住まう妖精たちが大挙して湖畔に集合し、祝勝会が開催される運びとなった。パーティーといっても妖精たちの持ち寄った家財は素朴なもので、ある者は朝露を集めたしずくを蓮の葉の杯に注ぎ、またある者はタンポポとハコベラでこしらえた即席のサラダを振る舞ったりと、おままごとの延長のような始終なごやかな雰囲気であった。小紙記者もこの宴の末席にあずかり、妖精たちの稚気あふれる笑顔と、感嘆すべき湖の眺望を心ゆくまで満喫していた。
 しかしそのとき惨劇は起きた。会場の一角に目もおおうばかりのまばゆい閃光が突き刺さり、我々の頭上には毒々しい色合いの流星群が降り注いできた。あちこちで悲鳴が聞こえ、火の手が上がりだした。
 恐るべき襲撃者は、復讐に燃える魔法使いKさんであった。力持たぬ妖精たちはおびえて逃げ惑い、そして次々と鋭い光線によって射ぬかれていった。勇敢な、あるいは無謀な妖精たちは仲間を守るため必死でこの狼藉者に立ち向かっていったが、実力の差は歴然であり、ことごとく魔力の弾丸によって撃ち砕かれていった。
 むろん、このような暴力行為を黙って見逃すチルノさんではなかった。友たちの仇を討つべく、名乗りを上げて宿敵に立ち向かってゆく。だが今回、Kさんはチルノさんの弱点属性である炎のスペルを用意していた。襲い来る火球にもひるまず果敢に戦ったチルノさんだったが、徐々に氷の体が溶けて動きが鈍り、ついには火炎の直撃を受けて完全に液状化してしまった。
 すすり泣きの聞こえる、焼け野原と化した宴会場をあとに、Kさんは高笑いとともに悠々と飛び去って行った。ひとりの魔法使いによって台無しにされた今回のパーティー。その幹事であった大妖精さんは次のように述べている。
「みんなで準備したお祝い会が、あんな事になってしまってすごく悔しいです。Kさんはひどい人だと思います。でもチルノちゃんはこのぐらいではくじけません。今回の経験をバネにもっともっと強くなってくれるはずです。私たち妖精は、みんなチルノちゃんを応援しています」
 また今回の騒動について、人妖共存問題の専門家、命蓮寺住職の聖白蓮さんからは次のようなコメントが寄せられた。
「私たちはかねてよりこのような争いが起きることを危惧し、警鐘を鳴らしてきました。そのようなさなか、人間の特殊能力者による妖精虐待という事件が起きてしまったのは大変に痛ましいことです。このような所業をなしたKさんは、まさに悪鬼羅刹なりと申し上げるべき。近いうちに必ずや仏罰が下るでしょうと予告いたします」
 人間が力なき存在であると誰が決めたのだろう。中にはこのような、持って生まれた才能を弱い者苛めに悪用する輩もいる。その事実を我々も再認識すべきではなかろうか。

――

「パチュリー、パチュリー!」
 遠慮なしの大声が館内に響き渡る。
「図書室では静かに。なんの用なの、妖精虐待魔さん」
 すべて承知の上であえて本人に事情を語らせようとするパチュリー様。素敵です。
「おう、今度は土の魔法を教えてくれ。あんのヤロウ、あったま来たぜ畜生――」
 魔理沙の怒りは収まらない。血気にはやる顔で不満を述べる。
「おまえも読んだんだろ。完全に私が悪者じゃないかあの記事。やっぱついでに仕留めとくんだった、天狗のやつめ。ちょっと足が速いからっていい気になりやがって」
 なるほど。それで天狗の持つ『風』の力に対抗するべく、『土』のスペルをマスターしようというわけね。だんだんといっぱしの魔法使いらしくなってきたじゃない。
「だそうよ、小悪魔」
「はい?」
「いや、こいつじゃ話にならんだろ」
 まったくその通りなのだけど、あなたに言われると腹が立ちます。
「あいにくと、このごろ持病の調子があまりよくないの。魔法のことなら聖とやらに聞いたら?」
「それはお仕置きされに行くようなものだ。おまえこそ、あいつに肉体強化魔法を習ったらどうだ」
 またこいつは。簡単にできるならそうしてるっての……などと思っていたら、当のパチュリー様から指令が飛んできた。
(なんか言ってやって)
 いいですけど。自分で言えばいいのになんでやらせるかな。本当に私から自立する気あるの?
「パチュリー様は比類なき魔術の天才。七属性の元素魔術に加え、召喚・支配・結界術とすでに十系統もの魔術をマスターしておられます。もう魔法使いという種族の限界に近いのです。このうえ新たに肉体強化系の魔術を取得するとなれば、既存の術のいずれかを封印しなくてはならないでしょう」
 というか、ここまで覚える前になんでその貧弱な肉体を強化しなかったのだと私が問いたい。問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。
「はあ。じゃあとりあえず日符と月符あたりを封印してみたらどうだ。それでも十分強いだろ」
 パチュリー様は微動だにせず思案して、やがて結論を告げる。
「それでは私のアイデンティティーが失われてしまうわ。封じるべきは、召喚術あたりかしら」
「ひょっ?」
「使い魔の維持なんかに回す魔力があったら、その分を自分の肉体に注ぎ込むべきなんでしょうね」
「なにをおっしゃって……クビ? もしかして、私はクビって事ですかぁ?」
 魔理沙はこちらの肩にぽんと手を置くそぶりをする。
「長いようで、短いつきあいだったな。おまえのこと忘れないぜ、小悪魔」
「いやあ!」
 魔理沙は大笑、私は苦笑、パチュリー様は含み笑いをこぼす。さすがにね、こんなの冗談だとみんなわかってる……冗談ですよね本当に。
 そして私たちはしばらく他愛もない話題で談笑した。やがて皆のお茶がなくなったころに、パチュリー様はふと席を立つ。
「トイレか?」
 堂々と聞くな。デリカシーってもんがないの。
「いいえ、そろそろ蔵書の整理をしないと。行くわよ」
 浮かび上がって図書館の奥のほうに向かうパチュリー様に、私と魔理沙もついていく。
「なあ、本の整理はそいつの仕事じゃなかったっけ?」
「無能な小悪魔が、自分一人の手には余ると音を上げてしまったの」
 うぐぐ。おおむね事実ではありますけど、そんな言いかたないじゃないですか。
「そりゃまあ、あの量じゃなあ……同じのをもう二、三匹召喚してみたらどうだ」
「それでは私の手に余るわ。一匹でも始末に困っているというのに」
 『匹』ですか? 私を数える単位は『匹』なんですか?
 さすがに何か言い返したいけれど、なに言ってもさらに手厳しい反撃が待っていそうな気がする。ひとり悶々としていると、やがて眼の前にはあの混沌と絶望の本の海が見えてきた。魔理沙はやや遠目に私たちを観察している。これだけの書籍をどう捌くのかに興味がわいたらしい。
(では手筈通りね)
(万事了解です)
 一瞬だけパチュリー様とアイコンタクトを交わす。
((シェア・メモリー))
 お互いの脳内に、記憶の共有領域が生成された。この呪文の持続時間中、私とパチュリー様は『読んだ本』に関する記憶を共有することになる。
 私はただ本の内容を確認することに専念すればよく、それを吟味して分類するのはパチュリー様にお願いする。その後、分類に従って本を棚に収めるのはやっぱり私の仕事。この方式を採用してから仕事効率が五倍以上に跳ね上がっている。
 ……いままでに、私がどれほど無駄に時間かけて作業していたかがよくわかる数字だ。ま、それは置いといて。
 私はすっと息を吸い込み、館内の各所に配置された下僕たちに号令をかける。
「我が主、パチュリー・ノーレッジの名において命ず!」
 今回はあまり深くストーリーを考えずに、思いついたネタを詰め込んでみました。

 ご感想ありがとうございます。

>>読みづらい件
 パチェの独白は奇をてらいすぎました。もっと普通に読める文章が一番ですよね、すみません。
 あと、新聞の部分についても読みづらいと感じられたかたが多いんじゃないかと思います。
 もともと、新聞の文章ってほとんど改行なしで書かれてるものですけど、それは新聞という一行の文字数が極端に少ない形式だから成立するものなんですね。ブラウザで読む文章なんだらもっと頻繁に改行するべきだったかもしれません。
 今後は精進します。

>>魔理沙の性格
 確かに、魔理沙のやんちゃな側面を強調するあまり、単に乱暴な奴という性格付けになってしまったかもしれません。
いつか、彼女がちゃんと女の子している作品にも挑戦してみたいと思います。
FoFo
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コメント



0.2590簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
読みにくい。もう少し改行してくれ。
3.90名前が無い程度の能力削除
喘息発作前あたりのがちょっと読みにくいかも?
キャラ、雰囲気は好きです
8.90名前が無い程度の能力削除
成長した毛玉が欲しい
13.100名前が無い程度の能力削除
いや、これはいい
17.無評価名前が無い程度の能力削除
魔理沙の口調に違和感
「魔理沙は女の子らしい話し方じゃないんだ!」という勘違いをしてる人が結構いますが、それ以前の問題としてこの魔理沙、男っぽいというよりただ単に『乱暴』な話し方なだけ
19.100名前が無い程度の能力削除
こぁパチェは、我輩の幻想郷ぅぅぅ!!!!
21.100名前が無い程度の能力削除
パチュリーの陥落は時間の問題ですね
もっとこあパチェちゅっちゅしてくれ!
22.無評価名前が無い程度の能力削除
パチュリーと小悪魔の関係が良いね! 魔理沙は自分勝手な自己チューだと思うのでイメージ通りだし。

改行が少ないのでちょっと読みずらい所もあったけどこんな感じの話しは好きなので次に期待してます。
23.90名前が無い程度の能力削除
↑点数入れ忘れた
24.90名前が無い程度の能力削除
読み応えがありました。小悪魔とパチュリーの微妙な緊張感が良かったです。
惜しむらくは魔理沙の性格が悪すぎたことくらいでしょうか。
でもそれを引いても面白かったです。
最初画面開いた時は読みにくそうに思いましたが、読んでみたらすらすら読めました。
26.90名前が無い程度の能力削除
狡い小悪魔大好きです
35.60名前が無い程度の能力削除
星矢同人誌www当時すごかったんだろうなぁ
ブワル図書館とかニート姫ネタとか何だか懐かしい。
36.100名前が無い程度の能力削除
いや面白かった。独特の味付けが非常に濃くて食いでがありました。
流石に魔理沙の性格は余りにも酷くて若干引きましたが。
38.90名前が無い程度の能力削除
面白い。ぐいぐい読ませますね。
小悪魔の「悪魔の囁き」とパチュリーの矜持が、お互いへの想いを軸にして示される場面には、ぞくぞくしました。
39.100名前が無い程度の能力削除
ひじりんかっこいい
40.50名前が無い程度の能力削除
小悪魔とパチュリーについては良いなと思ったのだけれど、魔理沙が全くイメージ湧きませんでした。
前に言っている方もいますが、喋り方と性格があまりに二次的でオリキャラとしか思えなかったです。
まぁ、ギャグ系のお話で壊れキャラと思えばそういうものなのでしょうが・・・。
41.100名前が無い程度の能力削除
にやにやが止まりませんでした。
こういう飾らない言葉をバンバン言い合える程度の仲、大好物です。
それでいて締める所はきっちり締める主従関係とか、もうね、最高ですわ!

魔理沙はふだんだったらもう少し冷静かつ皮肉屋なキャラだと想いますが、
チルノに負けて不機嫌に苛々してたものと思えば違和感無し。良くも悪くも『子供』だからこんなもんでしょう。
しかし白蓮さん、マスコミの言うコト鵜呑みにしちゃダメよw
53.30名前が無い程度の能力削除
誰かに対する皮肉で書かれたのかと思えるほど
魔理沙の性格と口調が不快。
無茶の中にも可愛げがあるのが魔理沙なんだが、この魔理沙は
無茶を乱暴で通そうとする切れやすい単なる無法者。

とかこの魔理沙に言ったら
「うるせぇ、勝手にお前の理想を押しつけるんじゃねぇよ」
とか言って問答無用に殺されそうだが。
57.70ずわいがに削除
このパチュリーと小悪魔のニヤリとする関係が良いですねぇ。
まぁ魔理沙が少々やり過ぎた感じはしちゃいましたが;ww
63.10名前が無い程度の能力削除
魔理沙が妖怪より弱いことを自覚出来てないとは思えないし、ただの井の中の蛙状態で口調を含めただただ不快。
ギャグにしては笑えず、シリアスにしては笑えるというのが正直なところ。
65.40名前が無い程度の能力削除
FoFoさんの作品だと思って読むと奮わないなぁ…と。
66.30Admiral削除
>だってよ、こいつがあんまり生意気だからついやっちまったんだぜ

この魔理沙には正直イラッッとさせられました。
何様?
新聞の内容もホントじゃないの?

小悪魔に30点。
69.30名前が無い程度の能力削除
序盤までは面白かったですし、最後まで読ませる力も感じました。

それにしても日本ダメやんww
71.100名前が無い程度の能力削除
読んでいて、小悪魔が本の仕分けをしている段階からもの凄くわくわくしてしまいました。話の展開も、豊富な語数による詳細な描写で、高まった期待に応えてくれる物だったと思います。
マリサの性格は残念でしたが、逆に言えばそれだけ各人物の内面がしっかり表されていたという事だと思います。
こんな日常はたしかにありそうだと思える良い作品だと感じました。