とある冬の夜。
年が明けてからまだ十日も経っていないこの日、ここ博麗神社では、今年初めての宴会がそれはそれは盛大に行われていた。
森から館から冥界から竹林から、あまつさえ空の上から地面の下から人妖たちがここぞとばかりに大集合し、
まるで今まで宴会が出来なかったうっぷんを晴らしているのかというほど、妖怪達は大いに盛り上がっていた。
「今更だが壮観だなーこりゃ。私らの知り合いもいつの間にか増えたもんだ」
「ふふふ。そうねえ」
「ニヤニヤしちゃって気色悪いですよ霊夢さん。何かあったんですか」
霧雨 魔理沙と東風谷 早苗、それに博麗 霊夢の三人は、どんちゃん騒ぎの妖怪達から離れて、賽銭箱の近くに陣取って静かに酒を呑んでいた。
「こいつさ、お賽銭が沢山もらえたから嬉しくて仕方ないんだぜ。
これで当分食うには困らないってんだろ、なあ霊夢?」
「うふふ、その通りよ。
紫が妖怪どもと約束したのよ、三が日くらいは人間の為に神社を空けてやりなさいって。
おかげで今年は人里からの参拝者でお賽銭がたーくさん。魔理沙、もう一杯ちょうだい」
「お前、あんまり飲みすぎるなよ? この後のこともあるんだから」
「へぇ、それで今年は山の妖怪たちも大人しくしてたんですね。
曲者ぞろいの妖怪たちが素直に紫さんの言う事を聞くなんて、なんだか裏がありそうですけど」
「おお、なかなか鋭いじゃないか」
空っぽになったとっくりを魔理沙がお盆に戻す。
すると霊夢はそのとっくりをひったくって、最後の一滴までお猪口に雫を落とした。
「お前さんの言うとおり、この話には裏がある。
私はアリスから聞いたんだが、なんでも紫のやつが催し物を用意したらしくて、それを見せる代わりに正月は寝て過ごせって話になったんだとさ」
「催し物、ねぇ……。私はみなさんに年始のご挨拶をできればいいと思っただけなので、もう帰ってもいいんですけど」
「んで、その催し物とやらに参加するのが私たち人間ってわけだ」
「……私たち人間? って、まさか……私も含めて三人、なんて言いませんよね」
「そんなわけないだろ早苗。妖夢と咲夜も入れて五人だ」
ことん、と早苗の手から空っぽのお猪口が落下した。
「き、聞いてませんよそんな話! 私、何も準備なんてしてないですよ!」
「まーそんなにビビるなよ。まさか年の初めから危険な真似をさせるってことはないと思うぜ。なあ霊夢?」
「さぁ。私も細かい話は聞いてないから知らない。あいつ、心の準備だけはしといてねって言ってたのは言ってたんだけど……」
霊夢がそう言いかけたとき、妖怪だらけの群集からぱたぱたと駆けてくる足音が聞こえた。
「お待たせしました、皆さん! 遅れてしまってすみません」
「ごめんね。妹様がお酒を呑むのが初めてだったから」
妖夢は息を切らせながら、咲夜は涼しい顔をして霊夢たちの元へとやってきた。
二人ともそれぞれの主人のもとで呑むのに付き合っていたのだろう、特に妖夢は心なしか頬が赤い。
「遅れたも何もないわよ。主催者の紫が一番遅れてるんだから」
「紫さまですか? そういえば、今日はお酒の席で姿を見なかったような……」
「あら、そう? 私が向こうにいるときは、お嬢様や美鈴たちと話してるのを見たけど」
「あ、あれ? おかしいな」
「あいつの動向を探っても無駄だって。神出鬼没の代名詞みたいなやつなんだから。
とりあえず呼んだら来るでしょ、紫ー! 全員揃ったわよー!」
「はいはい、お待たせ」
霊夢が声を張り上げると、まるで見計らったかのようなタイミングで五人の輪の中に紫の頭部だけがにゅっと出現する。
位置的な問題で咲夜と妖夢にはその後頭部しか見えなかった。
「うん、全員揃ってるみたいね」
「ゆ、紫さん! あなたは私たちに、一体何をさせるおつもりなのですか!?」
「それじゃ早速だけど準備を始めましょう。霊夢、あなたの部屋にみんなを案内して」
「話を聞いてくださいー!」
「え、私の部屋でやるの? 去年大掃除したばっかりなのに……」
「ほほう、なんだかワクワクしてきたぞ」
霊夢の案内に従って、妖怪だらけの喧騒から離れた五人は博麗神社の一室、何の変哲もない畳の間へとやってきた。
普段霊夢が寝室として使っているこの部屋は、年末の大掃除の甲斐もあって、年を越した埃など一握りもないといえるほどの清潔っぷりだった。
それだけに今からその部屋でどたんばたんされると考えると気が重い。
霊夢が派手についた溜め息が真っ白になった辺りで、五人はすでに部屋の中に誰かが居ることに気がついた。
「も~い~くつね~る~と~♪」
「んー、配線はしっかりしてるよなぁ。なんで音声が増幅されないんだろ? 電力不足かな」
「電撃を強くする必要があればいつでもどうぞ」
「いや、供給量自体は十分だからそれはいい……ってこれ電源入ってないじゃん。
ミスティア、もう一回歌ってみて!」
「『お~しょ~う~が~つ~♪』」
「あれ!? 今度は照明が落ちたぞ!」
「夜雀をテスターにしたからではないでしょうか」
衣玖とにとりの新しい凸凹コンビが鳥目になっている傍らで、霊夢たちは耳を塞ぎながら部屋の中を見回した。
霊夢にとっては見慣れた畳の間は河童の機械があるほかに別段変わった点は見られない。
既に暖が取ってある部屋の中は程よい暖かさで心地よく、先ほどまで白かった息が見えなくなった。
「えーと……こんな狭いところで何をさせるおつもりなんでしょう? 紫さん」
「そうね、このままじゃちょっと狭いわね。というわけで咲夜、お願いできるかしら?」
「把握致しました」
そう言って咲夜が一つ手を打つと、一瞬にして畳の間が数倍近くも広くなる。
霊夢たちはこの光景にも慣れっこだったものの、咲夜の能力を始めて目の当たりにした早苗からはひゃっという可愛らしい悲鳴が漏れた。
「す、すごい! 噂には聞いてた能力でしたが、実際に見るとすごいです!」
「このくらいでいいかしら? 多分、五十人は収容できる宴会場になったと思いますわ」
「上出来よ、ありがとう。後の事は私に任せて、あなたたちはこれに着替えてて」
「これ? って……着物、だよな」
紫がどこかから取り出したのは、霊夢たちそれぞれのイメージカラーに合わせた着物だった。
霊夢なら紅白、魔理沙は色合いを考慮してか白黒でなく薄い黄色と白、といった具合である。
「一応晴れ舞台ということで、あなたたちにピッタリの着物を準備してみました。
お礼ならわざわざ天界から持って来てくれた天子に言ってね」
「なんだ、私たちにファッションショーでもやらせようって言うのか?」
「そうよ紫。そろそろ何をさせる気なのか教えなさいよ」
「ふふ、直前まで黙っておいたほうが面白いかと思ったけど……
そんなに気になるなら教えてあげるわ。今日はね、あなたたちには新年らしくかるたで遊んでもらおうと思ってるのよ」
「かるただって? おいおい、そんな幼稚なもんで外の奴らを満足させようってのか?」
「話は最後まで聴きなさい。かるたと言ってもただのかるたじゃないわよ。
特別なカードを使ってやるの」
「カード……っていうとまさか」
紫はにこりと微笑んで、一同の顔を見回してから言った。
「そのまさかね。今日はあなたたちに、スペルカードを使ったかるた大会をしてもらうのよ」
「『はいはい、静粛に。
それでは皆さんお待ちかね。これより本日のメイン・イベントを開催致します』」
マイクを手にした紫が高らかに開会を宣言すると、畳の間には暖かな拍手が広がった。
霊夢たちが着物に着替えて大人しく待っていると、紫に引き連れられて外で宴会をしていた連中が次々と部屋に入ってきた。
古い顔から新顔まで、中には霊夢と魔理沙以外は知らないような顔も含まれている。
「あら? 見てくださいナズーリン、このお部屋、外から見たときよりもずうっと広いみたいですよ!」
「何を言っているんだいご主人。いくら幻想郷といえどもそんな馬鹿なことが……あったよ」
「映姫様、しっかりしてください。ああもう、なんだって今日は鬼と天狗と呑んだりしたんですか」
「わらしもたみゃにはひもりでおさけをはらげたいひもありゅんでしょう!!」
部屋の真ん中に集められた霊夢らを取り囲むように、酔い具合も様々な百鬼夜行が綺麗な輪っかになる。
これじゃまるで生贄だぜ、と魔理沙が冗談めかすのが早苗には怖くてたまらなかった。
「『皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき誠に有り難う御座います。
この場を借りて、厚くご御礼を申し上げます』」
「それは暇を持て余してる私たちへの皮肉だなこらー!」
「秋が来るまですることないのよー! 悪かったわねー!」
「『さて、ここに御座いますのはそんな皆様からお預かりしたスペルカードたち。
事前にお話したとおり、今回はこのスペルカードを使ってかるた大会を開催しようと思います』」
わーぱちぱちーと今度はまばらな拍手が起こる。
どうやら催し物の詳細を知らなかったのは自分たち人間だけらしい。
アリスのやつ知ってて黙ってたな、という魔理沙の悪態はスピーカーからの声に掻き消された。
「『ただ、会場と身体能力の都合上、ここにいる皆さん全員に参加してもらうのは不可能です。
そこで今回は、選りすぐりの人間五名に代表として参加していただきます』」
えぇ~、なんだー、大ちゃんあたいトイレーなどあちこちから落胆の声が聞こえてくる。
だがその言葉とは裏腹に、妖怪たちの表情はどこか楽しそうだった。
元より観戦となることは承知の上。祭が大好きな彼女たちはまた、祭を盛り上げる作法をも心得ているのである。
「『選ばれし五名は皆さんの目の前、中央に居る人間達です。
言わずと知れた博麗の巫女、博麗 霊夢。
普通で明朗な魔法使い、霧雨 魔理沙。
紅魔館を仕切る瀟洒なメイド長、十六夜 咲夜。
剣の腕だけは一人前、真面目な庭師の魂魄 妖夢。
そして最後は、守矢のちょっとおめでたい巫女、東風谷 早苗』」
「おめでたい言うなー!」
「事実だけどさー!」
「『さて、果たして勝者は誰になるのか。
皆様には、その結果を大いに予想していただきたいと思います』」
「あーそういうことですか。つまり私たちは競馬場の馬、というわけですね」
「けいばじょう……? ってなんですか、早苗さん?」
「いえいえ、こっちの話……いやあっちの話です」
賭博行為など言語道断、真っ先にそう言い出しそうな閻魔様は部下の膝枕ですっかりお寝んねだった。
それであんな席に入れられたのか、と小町はぽりぽりと頭を掻く。
「『中には賭け事に興味のない方や、持ち合わせのない方もいらっしゃるでしょうが……
そういった皆様には、純粋に自分のスペルカードが選ばれるのを楽しみにして頂くということで』」
「ちょっといいですかー!」
「『はい、文さん。どうかしましたか?』」
「椛が拗ねてます」
「……あ、あら。これは配慮が足りなかったわね」
華やかなお正月とは相反した辛気臭い体操座りになった椛の隣で、厄神様がくるくると回りだした。
「私のところだけ来ないなぁと思ってたら……そりゃあそうですよね、私、スペルカード持ってないし……」
「ご、ごめんね椛ちゃん。何もあなたを仲間外れにする気はなかったのよ。
そうだ、椛ちゃんは目がいいから、私の隣で審判役をやってもらおうかしら?」
紫が慌てて椛をなだめると、椛は渋々といった様子で紫の隣へとやってきた。
その尻尾が実はぱたぱたと揺れているのを文は見逃さず、ぱしゃりとカメラのシャッター音が響いた。
「『さて、残るは詳細なルール説明ですが……』」
「ごたくはいいから早く始めろー! 待ちくたびれたぞー」
「そうだそうだー」
「『こらこら、鬼さんたち。あまり騒がしいとつまみ出しますよ』」
「出してくれるんならつまみも出せー!」
「そうだそうだー」
「まぁ、言われてみればあんまり格式ばる必要もないんだけどね。
どうせ周りは細かいルールに興味はないだろうし、ここからはあなたたちだけに簡潔に説明するわ」
萃香と勇儀の意見が採用されたのか、紫はマイクの電源を切って砕けた口調になった。
もちろんおつまみは出なかった。
「このスペルカードかるたは、普通のかるたと同じく最も多くのかるた、というかカードを手に入れた子の勝ちよ。
大まかなルールは通常のかるたと変わらないんだけど」
「だけど?」
「まず一つ違うのは、取り札の頭文字と読み札の頭文字が必ずしも一致しない、という点よ。
例えばこんな読み札。『恋い焦がれ 白い閃光 解き放て』……これに該当するスペルは?」
「魔理沙のマスタースパーク……ですよね?」
妖夢がおずおずと手を挙げて言う。
周りの四人もこれに同意してうんうんと頷いてみせた。
「成る程、かるたなんて言いながら謎掛けみたいな要素も含まれてるんだな」
「でも紫、なんだってそんなややこしいルールにしたの?
折角だから、スペルカードの名前に合わせて読み札の頭文字も統一すればよかったのに」
「やぁねえ。それじゃあ貴女たち、私が頭文字を口にした瞬間にカードを取っちゃうでしょう?
それじゃあ見てるほうも興醒めじゃない。もぐら叩きをやりにきてるわけじゃないんだし」
「はっはっは、尤もだな」
こりゃー失言だったわ、と霊夢も苦笑しながら紫に謝り、それにつられて妖夢と咲夜も笑顔を見せる。
早苗もなんだ冗談だったのか、と安心しきって頬を緩めていた。事の真相に気がつかぬまま。
「そしてもう一つ。正解は何も一つとは限らないわ、一つの読み札に複数の取り札が存在することもあるの」
「複数……? どういう事ですか?」
「例えばさっき読んだ魔理沙の札。
『恋い焦がれ』の部分が恋符、『閃光』がスパークって部分を表してるのはわかると思うけど……
他にも該当するスペルカードがあるわよね。ねえ魔理沙?」
「そうか、ダブルスパークだな」
ご存知『マスタースパーク』は恋符であって、あまり魔理沙が使わない『ダブルスパーク』には恋心という肩書きがついている。
どちらも白い閃光を放つ恋のスペルという点で言えば共通している。
「こんな風にいくつも正解があるパターンもあるから気をつけてね。
いずれにせよ、あなたたちが用意した答えに私が納得すれば正解にしてあげるわ」
「紫さま、スペルカードは全員の持っているスペルを全て集めたのですか?
それではあまりにも数が膨大になってしまうのでは……」
「私もいろいろ考えたんだけど、あなたたちの手が届く範囲を考えると、通常のかるたと同じ五十枚前後が限界なのよね。
だからカードの数は私が集めたものの中からランダムに五十枚。
さっき言ったもぐら叩きになるのは避けたいから、そのうち四十枚程度がなくなったらゲーム終了、ということで」
「一つ質問させてください。
先程正解は複数用意されているとおっしゃいましたが、もし二人が別々のカードを選んだ時はどうなるのでしょう?」
「それは先に手を出したほうの勝ちという事にしましょう。
でもあまりにも僅差だったら……そうね、両取りという事にしましょうか」
そうですか、と咲夜は呟いて、何やら思案気な表情を見せた。
咲夜も妖夢も端から見るとあまり祭りなどが好きなタイプには思えないが、勝負事には全力を尽くすタイプなのだろう。
こりゃー倒しがいがあるぜ、と魔理沙はぱきぱきと指の関節を鳴らした。
「私、こういうのってあんまり得意じゃないのよねー。
素早く反応するのって面倒くさいし、あんまり背も高くないから遠いところのは不利だし」
「そういう意味じゃあいちばんおっきい咲夜が有利って事だな。
ほれ咲夜、手の長さ比べっこしようぜ……って、お前の手冷たいな」
「心が暖かいからね」
「(一番小さい私が不利? いや、私も反射神経には自信がある。体格なんて関係ないはず)」
「平常心、平常心です! 現人神の名が伊達でないことを、みなさんに教えてあげましょう」
人間たちがそれぞれ気合を入れる一方で、客席は始まる前から異様な盛り上がりを見せている。
その中心にはメガホンを手にした文の姿があった。
「さあ! 幻想郷きっての人間離れした人間達が織り成す、至極平和なお遊び大・かるた大会!!
果たして勝者は誰になるのでしょうか! 今年最初の大勝負、賭けた賭けた!!」
「博麗の巫女に千円!」
「こっちは紅魔のメイド長に五百円よ!」
「いいな、あたいも賭けやってみたいなー! さとり様、倍にして返すからお金ちょうだい!」
「仕方ないわね、羽目を外さない程度に少しだけよ……ってあら? 私の財布がないわ」
「あ、ごめんお姉ちゃん。気がついたら有り金が全部魔理沙の賭け札に」
「十万円以上あったのに!?」
無意識はんぱねええええというクレイジーな悲鳴と喧騒の中、霊夢たちはいよいよ決戦に向けて体勢を整えた。
無造作に並べられたスペルカードたちの周囲に座布団を敷き、時計回りに霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗の順で輪を作る。
紫は霊夢と早苗の間に座して読み札を切っていた。審判に抜擢された椛も目をぐしぐしとしてみたり忙しない。
「それでは皆さん、準備はよろしいかしら?」
「いつでもどうそ」
「右に同じだぜ」
「構いませんわ」
「はい」
「き、緊張しますね!」
「それじゃあ、読むわよ……」
こほん、と紫がマイク越しに一つ咳ばらいをすると、騒がしかったギャラリーが水を打ったかのように静まり返る。
先ほど文が謳った『幻想郷きっての人間離れした人間たち』という文句はあながち間違いではない。
お遊びとはいえ、その中で頂点に立つのはいったいどの人間なのか――
強きを求める妖怪たちが、その結果に興味がないはずがなかった。
部屋中の注目がスペルカードと人間たちに集まる中、紫がゆっくりと息を吸い込み――ついに戦いの火蓋は切って落とされた。
「『妬ましい ああ妬まし……』」
「「はいっ!!」」
紫が口を開くや否や、霊夢と魔理沙の右腕が素早く反応する。
二人の始動はほぼ同じだったが、わずかに魔理沙の速さが霊夢を上回り、霊夢の掌は魔理沙の手の甲に重なった。
「はっはっは、悪いが一枚目は頂いたぜ」
「くっ、私がそっちの席だったらなぁ……」
記念すべき一枚目のスペルカードは『グリーンアイドモンスター』、嫉妬の妖怪水橋パルスィのスペルだった。
紫が読みそびれた下の句は言わずもがなであろう。
この場合紫基準の判断で言うと、パルスィのスペルカードならどれを取っても良いということになる。
「二人とも速いわね。これはなかなか張り合いがありそうですわ」
「(流石は異変解決のプロ……もっと気を引き締めて掛からないと)」
「あれ? い、今。いつの間にか手が……え?」
期待を裏切らない好敵手の反応に咲夜は彼女らしくもなく唇の端を持ち上げ、妖夢は自分の両頬を手で張った。
早苗は目を白黒させていた。
「まずは魔理沙に一点ね。この調子でどんどん行くわよ。
『弾幕は パワー……』」
「いただきぃっ!」
これまた魔理沙が素晴らしい速度で反応し、まるで紫の読む札が判っていたかのような勢いで一枚のカードに手を出す。
魔理沙が選んだカードは自分の十八番『マスタースパーク』。
弾幕はパワー、というフレーズからすれば、それをモットーとしている魔理沙のスペルは何を取っても正解になるだろう。
……しかし。
「ぶー、残念ながらお手つきよ魔理沙」
「んなっ!?」
「じゃあ、読み直すわよ。『弾幕は パワーじゃないわ ブレインよ』」
「はい! ……そういうことだったのね」
動揺する魔理沙を尻目に、霊夢はアリスのスペルカード『上海人形』を取得した。
「くっそー! 引っ掛けだなんて汚いぞ!」
「最後まで聞かない魔理沙が悪いのよ。言い忘れてたけど、お手つきの娘は一回休みになるからね」
ぶつくさと文句を言いながら魔理沙はあぐらをかいて、いかにも不機嫌そうに頬杖を突いた。
しかし最も手の速い魔理沙が抜けたことは、他の四人にとってはチャンスである。
「『怯えるな 隙は目の前』……」
「はい」
「はいっ!」
「……あら?」
お手つきの魔理沙がいないのをいいことに、今度は咲夜と妖夢が別々のカードに手を出す。
しかし霊夢は何かに気がついたのか、手を出す直前に動きを止めてしまった。
「おお? 咲夜と妖夢、意見が割れたみたいだな」
「あ、あれ? 隙が目の前、ということは正面が安全っていうことですよね。
それって確かチルノの『アイシクルフォール』だと思ってたんですが……
他にも何かありましたっけ?」
「あら、私もアイシクルーフォールを取ったのよ。気が合うわね」
「ええ? なんで同じスペルカードが二枚……ああっ!!」
咲夜にひらひらと取ったカードを見せつけられて、妖夢は驚きの声を上げた。
「あ……『アイシクルフォール -Easy- 』……!?」
「残念ながら妖夢が取ったのはただの『アイシクルフォール』ね。
正面が安全なのは『アイシクルフォール -Easy- 』でした」
「せ、せこい……!」
今度は魔理沙に代わって妖夢がお手つきとなる。
妖夢は並べられたスペルカードを端から端まで確認して、もう他に重複のあるカードがないことを確認した。
唯一の例外に引っ掛かってしまったのは不運であったが、咲夜のように事前に確認をしていなかったこと、
また霊夢のように直前で気がつかなかったのは自らの鍛錬不足である。
「うぅ……もっと精進しないと」
「妖夢は本当に糞真面目なやつだなぁ」
腕まくりならぬ袖まくりを一つして、魔理沙は再びあぐらから正座に戻った。
そして今度は左肘を畳に突いて、極端な前傾姿勢になりながら紫の読みを待つ。
「『永らえど 私のスペルは ただ一つ』」
「……っ!」
ここで、初めて紫が読み札を読み切った。
霊夢たちは一瞬片手をあげて反応してみせたものの、その手をつくまでには至らない。
というのも、銘々頭に思い描いたスペルがどこにも見当たらなかったのである。
「(スペルが一つ……!? 一つっていうのは、当然そういうことでしょ)」
スペルが一つと聞いて霊夢が真っ先に思い付いたのは、秋 静葉とキスメの存在だった。
この二人は第一にあまり好戦的でなく、やや内向な性格も手伝ってスペルカードを使う場面はほとんど見られない。
それでも辛うじて二人が所持しているスペルがある。
静葉のスペルは『狂いの落葉』。
キスメのスペルは『釣瓶落としの怪』。
静葉とキスメが所持しているスペルカードはこの一枚しかなく、それが『ただ一つ』の部分を表しているのだと霊夢は考えた。
しかし霊夢の目の前には、その二枚のスペルが並べられていないのだ。
時間にしてはわずか数秒、しかしかるたという競技の性質からはあまりにも長い時間が経過する。
魔理沙も同様に泡を食っているのか視線が定まらず、
咲夜と早苗はお手付きをしてまで無理をする必要はないと踏んだのか、静観する体勢に入っている。
「『永らえど 私のスペルは――』」
紫が読み札を読み直し始める。
永らえど。その部分に何か意味があるのだろうか。
しかし永らえるというのは単に妖怪であることを示すとも取れ、いずれにせよ決定打にならない。
焦燥する霊夢の頭の中でぐるぐると思考が渦巻き始めたその時、魔理沙からあっ、という声が漏れた。
「こ、これか!」
中央付近に密集したカードの中から、魔理沙が一枚のスペルを選ぶ。
魔理沙の答えは『テリヴルスーブニル』、古明地 さとりのスペルカードだった。
「さとりの奴はいろんなトラウマ攻撃をしてくるが、あいつオリジナルのスペルはこれしかないぜ!
どうだ紫? 正解だろ」
「はい、魔理沙一点獲得」
「ああーもう! どうしてそれを思い付かなかったんだろう」
勝ち誇る魔理沙と悔しさを露わにする霊夢の対比が面白かったのか、ギャラリーからはおー、という歓声と楽しげな拍手が起こる。
特にスペルカードの主さとりからは惜しみのない拍手が送られた。
感動というよりも自分の財布の中身的な意味で。
「もーなんか腹立ってきたわ。絶対勝ってやる」
「そうこなくっちゃ面白くないぜ、霊夢!」
ある意味幻想郷を代表するライバル関係の二人が火花を散らし、その周りからもいいぞいいぞーと囃し立てる声が聞こえてくる。
霊夢たちも要領を掴んだのか、ここから勝負は一気に加速した。
「『⑨なれど 馬鹿とは呼ばせぬ』……」
「セラギネラ9!」
「『割ろうとも』……」
「海が割れる日!」
「『受けてみな あたいの』……」
「ゾンビフェアリー、だな! 他のあたい候補のスペルカードはもうないみたいだぜ」
「『ちゃぶ』……」
「テーブルターニング!」
「『駆け巡れ 目にも留まらぬ 脚』……」
「飛翔毘沙門天! ……ブン屋のスペルは脚を使う、という雰囲気ではありませんわ」
やはり全てのスペルカードを見たことがある霊夢と魔理沙が優位なのは否めず、着実に得点を重ねていく。
一方で咲夜は自分の知っているスペルに的を絞る作戦で地道にカードを集めていき、
妖夢は持ち前の反射神経で霊夢と魔理沙が出遅れたカードをとることによってどうにか食い下がる。
早苗は自分以外の四人の挙動に驚くばかりで、もはや観客の一人と化していた。
そして読み上げられた札が40枚を越えたころ、五人の得点は――
霊夢 : 12枚
魔理沙: 13枚
咲夜 : 10枚
妖夢 : 7枚
早苗 : 0枚
上記のような結果となっていた。
「そろそろ約束の40枚を越えたかしら? 次あたりで最後の問題にしてもいいわね」
「あー、もうおしまいですか。早かったですね」
「トップとは3点差。残念ながら、私たちはここまでのようですわ」
咲夜と妖夢はそう言って、少し悔しそうに白旗をあげた。
この二人に期待していた客はそれなりに多かったのか、あきらめるなーだの自分を信じろーという声援がそれなりに多く飛んでくる。
ルール上逆転は不可能であるにもかかわらず。
その声援の思いを汲んでか、ぱちん、と紫の扇子が一つ音頭を取った。
「そうねえ。二人とも知らないスペルがある中でここまでよく頑張ったのに、このまま終わりじゃ悔しいわよね」
「そりゃあ、勿論」
「じゃあこうしましょう。特別ボーナスとして、最後の問題は10点プレゼントにします」
「「「おおーー!!」」」
「ま、どうせそんなこったろうとは思ったけどな」
「最後を取ったやつが勝ちってわけね。分かり易くていいじゃない」
「よし、これで私にもチャンスが……あれ?
早苗さん、四つん這いになっちゃってどうしたんですか」
紫の粋な計らい、というかお決まりの計らいに場内が沸き上がる。
ここまでトップの魔理沙も望むところだと腕まくりをしたものの、早苗だけは完全に沈みきっていた。
「足りない……10点じゃ足りない……」
「あら、そういえばまだ0点の子がいたんだっけ。
それじゃ次の一枚を5点にして、それから最後の10点問題ということにしましょうか。
これなら早苗ちゃんも追いつけるわよ」
「本当ですか!?」
「ええ、勿論」
あまりにも大甘な紫の裁定にも、霊夢たちからは特に異論は唱えられなかった。
それもそのはず、早苗はここまで一枚もカードを取れていないどころか、カードに手を出してすらいないのだ。
他の四名があまりにも人間離れした動きをするため、体を動かすどころか頭をついていかせるだけで精一杯だったのである。
「よーし! すみませんねみなさん、この勝負もらいましたよ!」
「はいはい。それじゃ紫、ルールも決まったところで次読みなさいよ」
息を吹き返した早苗が目をぎらつかせる隣で、妖夢もまた集中力を高めていた。
その瞳が見据えているのは、並べられたカードはもちろんのこと、これまで狙ったカードをことごとく奪い去っていった魔理沙の右腕である。
現在魔理沙と6点差の妖夢は、魔理沙に5点追加されると自動的に負けが決まってしまうのだ。
「ここが勝負どころですね……」
「それじゃ、読むわよ」
鼻息の荒い早苗とは対照的に、静かに妖夢がそう呟く。
ギャラリーも固唾を呑んでその戦況を見つめる――はずだったが、その静寂は一瞬にして打ち破られた。
「『な――』」
「はいっ!!!!」
「…………はぁ?」
ぱしーん!! という小気味よいSEが畳の間に響き渡る。
その音を放ったのは、自分の目の前にあるスペルを凄まじい勢いで叩き潰した早苗の掌だった。
「ふっふっふ。どうしました皆さん、今回は私が一番に手を出したみたいですよ!」
「……早苗、お前な。このかるたのルールを忘れたのか?
読み札と取り札の頭文字が一致するとは限らないんだぜ。そんなに早く反応したって意味がないじゃないか」
「というか、『な』の札はこれしかないはずなんですけど……」
「なんだって?」
魔理沙はてっきり早苗が『な』のスペルを狙い撃ちしたのだと考えたが、
宵闇の妖怪ルーミアのスペル『ナイトバード』はいまだに妖夢の目の前にあった。
確かに間違いありませんわ、と咲夜もまた妖夢を肯定する。
「じゃあ早苗、あんたが叩いた札って……」
「ふっふっふ。霊夢さん、甘いですよ」
「甘い?」
「この勝負どころで1ボスごときのスペルカードが読まれるはずがないでしょう!!
ここは当然EXボス、それも私と関係の深い洩矢様のスペルが読まれるに決まってます!
ですよね、洩矢様!!」
ああ、そういうことか。
霊夢以下四名はようやく事態を理解し、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
この娘は、アホの子なんだった。
「さなえぇ……頼むから私たちに恥をかかせるのはやめとくれよ……」
「大丈夫ですよ八坂様。私には恥も外聞もありませんから!」
「うん……知ってる……」
哀れな二柱は可哀相なくらい縮こまって、近くのギャラリーから同情の声を掛けられている。
ちなみに神奈子と諏訪子は神という立場もあってか、文の賭け札を買っていない。
もしも買うとしたら早苗の札に決まっているが、自分たちの神社が金をドブに捨てられるほど裕福でないことを知っていたのである。
「さぁ紫さん! 正解をどうぞ」
「正解っていうか紫、こいつはほっといて続き読んで」
「ふふ。そうね」
霊夢たちは仕切り直しに備えて、各々手を出しやすい体勢を取ってからもう一度残ったカードを確認した。
誰よりも先に反応できるよう、『な』で始まる言葉を頭の中で列挙しながら。
しかしそんな霊夢たちの努力は、全くの徒労に終わった。
「……『何時も 風雨に負けず 土着神』。おめでとう早苗ちゃん、約束どおり5点獲得よ」
「「「おおおーーーー!!!」」」
「う、嘘……!」
「ほら、見ましたか皆さん! これが信仰の力です!」
紫の読み札の続きは、早苗が当てずっぽうで狙った諏訪子のスペルカード『ケロちゃん風雨に負けず』と見事に一致した。
早苗が起こした格安の奇跡に、周りで見ているギャラリーも一気に盛り上がる。
早苗はさも当然とばかりに両手を高々と掲げてその歓声に応えていた。
言うまでもないが、暫定ランキングでは未だビリっけつである。
「でもこれで、実質全員同点になったのね」
「とんでもないルールだなぁ。ま、私が勝つから構わんが」
「それじゃあ次がいよいよ最後の一枚ね。
今度はさっきみたいな当てずっぽうが成功しないように、普通のかるたと同じくダミーの読み札も混ぜるわよ。
選ばれなかったぶんのスペルの読み札もぜーんぶ混ぜちゃうから、私の言葉をよく聞いててね」
トランプの倍はあろうかというほど分厚くなった読み札を切りながら、紫はさらりとそう言ってみせた。
10点問題というルールもとんでもないが、霊夢たちからしてみればそのルールもとんでもない。
仮にこの場にいる全員のスペルカードが混ざっているとすると、その数はゆうに二百を越えるだろう。
その数多ある読み札から答えに辿り着くには、あらかじめ残っている札にどんな読みが対応しているかを考えておかなければならない。
今現在霊夢たちの目の前に残っているカードは、
合葬『プリズムコンチェルト』
疎符『六里霧中』
秘弾『そして誰もいなくなるか?』
散符『真実の月(インビジブルフルムーン)』
雨符『雨夜の怪談』
式輝『狐狸妖怪レーザー』
夜符『ナイトバード』
彩符『彩雨』
『幻想風靡』
瘴符『フィルドミアズマ』
以上の10枚である。
「(思ったより内容が被ってるスペルが多いわね……)」
「(雨と蟲のスペルが二つずつか。こいつらが来たら手を出し辛いな)」
「(ブン屋のスペルだけ何符、っていう肩書きがないのね。それが問題になったりしないかしら)」
「(雑念は捨てよう。お手つきになっても仕方がない、手を出さずに負けるのは絶対に嫌だ)」
「(知らないスペルばっかりです!)」
それぞれの考えが形を成し始めたころ、ようやく紫が読み札のシャッフルを終える。
紫は山積みになった読み札を自分の隣に置いて、一番上の一枚を手にした。
一度読んだ札は戻さない、という意思の表れなのだろう。
泣いても笑ってもこれが最後の一枚。
真剣そのものな五人の顔を見渡してから、紫は小さく息を吸い込んだ。
「『妬ましい ああ妬ましい 妬ましい』」
「…………」
これは紫が最初に読んだスペルカードである。
今にもお手つきをしそうな早苗を除いて、霊夢たちは集中力を高めたまま微動だにしなかった。
ダミーっていうのはこういうことよ、という紫なりの配慮なのだろう。
「『乱れ咲く 月の向日葵 月の渦』」
「(サテライトヒマワリは……無いはずだぜ)」
「『振り回せ 真紅の剣 彼の命』」
「(レーヴァテイン、ね。妹様のスペルはまだ『そして誰もいなくなるか?』が残ってるけど)」
「『沈み行く 怒りと碇 海の底』」
「(あぶない、私が知らないスペルだったかも)」
「『妬ましい ああ妬ましい 妬ましい』」
「(……何枚入ってんのよそれ)」
なかなか本命が現れないのか、それとも紫の調整が入っているのか、
最後の一枚という宣言がなされてから延々十枚以上も紫の読み札に空振りが続く。
三回ほどお手つきをした早苗を除き、それでも霊夢たちは集中を切らさず、じっとその時を待ち続け――
ついに、決着のときがやってきた。
「『逃げ惑い 見守る我は 人柱』――」
「――!?」
逃げ惑う、見守る。つまりは耐久スペルのことだろう。
そして他の情報は皆無である。こういった読み札は他にもあった。
パルスィの『グリーンアイドモンスター』、アリスの『上海人形』のように、条件を満たすスペルがいくつも存在するパターン。
そして、そういったスペルが回答となり得るときは――
早い者勝ち、という取り決めになったのだ。
「ふっ」
「だぁっ!」
「くっ」
「はいっ!」
「は、はいぃっ!」
霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢がそれぞれほぼ同時に手を伸ばして、コンマ数秒遅れて早苗が反応する。
霊夢と魔理沙は『幻想風靡』、妖夢と咲夜は『そして誰もいなくなるか?』のカードを半々に抑える形で手をついている。
早苗は慌てるあまり、自分の目の前のカードに手を出すので精いっぱいだった。
「……成る程。そう来るとはね」
「くそっ! 最後の最後に早押しだなんて思わなかったぜ」
「全くですわ。もぐら叩きにはしたくない、なんて言ってたのに思惑が外れたわね」
「さぁ、審判さん! 一番早く手を出したのは誰ですか?」
「わ、私、どのスペルを選んだんだろう……?」
否が応でも審判の椛に視線が集まり、椛は困ったような表情を見せた。
椛本人はある程度手を出した順序、それにもう一つ重要な事項を見切っていたものの、
自分の一存で勝負を決める責任を感じているのか、流石に簡単に口を開くことが出来なかったのだ。
困窮した椛が紫に助け舟を求めようとすると、紫はくすくすと笑いながら、手にした扇子で盤上を指し示した。
「残念だけど全員お手つきみたいね。
この読み札に対応するスペルカードは、まだそこに残ってるみたいだから」
「なんだって!? 私たちはちゃんと、耐久スペルを選択してるはずだぞ!」
「それが間違いの始まりなのよ。
だって私、五・七・五で読み札が統一されてるなんて言った覚えはないもの」
「え、な……?」
「ということは、まさかその読み札には、まだ……」
「ご明察。七・七の二行が残ってます」
紫ににこりと微笑まれ、魔理沙はまだ霊夢たちが手をついているにも関わらず、思わずカードからその手を離してしまった。
「き、聞いてないぞ紫! 短歌で構成されてる読み札があるなんて」
「そりゃあ、言ってなかったからね。
第一あなたたち、私が上の句を読んだだけでどんどんカードを取っちゃったじゃない。
これじゃ気がつかなくて当然よ」
「ということは、他にも短歌になってる札があったのか……」
これは盲点でしたね、と咲夜が天を仰ぐ。
しかしいくら恨み節を言っても、カードに手を出してしまった事実は変わらない。
「今回は全員お手つき。仕方ないからまた次の読み札を――」
「待ちなさい、紫」
「あら霊夢、どうしたの?」
「ミスをしたらお手付きなんて言うけど、手を伸ばすだけならお手付きにはならない……わよね?」
「……? それは一体どういう――あっ!」
紫にしては珍しく、驚きの声が口を突く。
霊夢の発言の意図に気付いて、魔理沙たちは姿勢を低くして霊夢とスペルカードを凝視した。
すると霊夢の掌は、確かにカードの上から数センチ浮いていた。
「どう、審判? あんたならちゃんと見てたでしょ」
「確かに、霊夢さんはまだ手をついていません」
「なんだとー!」
「あんたのことだもん、絶対最後になんか仕掛けてくると思ったわ。
そうしたら案の定ね。あんなふわふわした終わり方をあんたが認めるはずないもの」
霊夢はニヤリと笑い、お手付きのフリをした体勢から正座に戻った。
「お手つきになるのはまだ取られる可能性のあるカードに手をついたときだけ。
そうよね、審判?」
「……はい。間違いありません」
「じゃ、さっきの続き読んで貰おうかしら。
最後の一枚くらいはきっちり最後まで聞きたかったし、おあつらえ向きね」
「そ、そんな馬鹿な……」
「ふふ。これは参ったわね」
紫が改めて読み札に視線を戻すと、魔理沙たちは勝負を諦めたかのように脱力した。
もはや魔理沙たちとしては霊夢がミスをするのに期待するしかないが、霊夢以外の全員がお手つきになっている以上それは絶望的である。
読み札の全文を聞けるのはもちろん、考える時間もそれこそ十二分にありすぎるのだ。
あわよくばこの読み札が空振りだったら、と魔理沙は願ったが、その希望は儚くも打ち砕かれた。
「『逃げ惑い 見守る我は 人柱――
鬼成す霧が 晴れ広がるまで』」
「はい、わかったわ」
「うわ、なんだそりゃ……」
魔理沙は仰向けにばったりと倒れこみ、ぺちんと自分の額を叩いた。
全文を聞いてしまえば答えは単純、まず鬼という単語が出た時点で間違いなく萃香の『六里霧中』が正解である。
霊夢は念のため残った他のカードにも目をやり、万が一にも自分の解答に謝りがないことを確認してから、
目的の『六里霧中』へゆっくりと手を伸ばし――
「はいっ!!」
突然動いた早苗がその手の下に割り込み、『六里霧中』をかっさらっていった。
「……………………へ?」
「やりました! 私、これで10点です! 逆転です」
「ちょ、ちょっと、紫!」
「ダメよ、早苗ちゃん。あなたはさっき一度ミスをしたでしょう。
残念だけど、お手付きの娘は次の番までチャンスは……」
「……いえ、紫さん」
「あら、なぁに椛ちゃん?」
早苗の膝元を見つめながら、今度は椛が紫を制した。
「その、実はまだ、早苗さん……お手付きになってないんですよ」
「どうしたの、あなたまで何を言い出すの? 少なくとも私は、早苗ちゃんが手をつくところを見た気がするんだけど」
「そうよ、何言ってるのよあんた。早苗が思いっきりカードを叩いたのは私もこの目で間違いなく見たわよ。
ほら、その早苗の目の前にある……えぇっ!?」
霊夢は思わず立ち上がってしまった。
あろうことか、早苗が手をついたのは――先程取得したはずの諏訪子のスペルカード、『ケロちゃん風雨に負けず』だったのだ。
「早苗さん、さっきギャラリーに応えるのに夢中で、カードを取ってなかったみたいで……」
「……それで今、うっかり手をついちゃったと」
「ゆ、紫。空振りで取り札以外を叩くのって……」
「もちろん、セーフよ」
「うそーーーーーー!!」
「『東風谷 早苗10点獲得!
というわけで優勝は――大・逆転で早苗に決まりです』!」
「「「えええええぇーーー!!!!」」」
マイクを握り直した紫がそう告げると、周りからは大ブーイングが起こった。
「霊夢のばかやろー! 油断してないでとっとと最後の一枚をとりゃ勝ちだったのにー!」
「私の千円を返せー!」
「わたしの……、わたしの貯金が……」
「さ、さとり様。あたいたちのお年玉でよかったら返すからさ、ほら。ね、お空?」
「お年玉なんてもらったっけ?」
「トリ頭なんだろうけど悪意にしか見えない!」
「ちぇ、せっかく紅白のよしみで賭けてやったのになー。残念だ」
「まぁ気にするな妹紅、こういうのは結果よりも過程を楽しむものなんだよ。
それより一つ気になるんだが、この中に早苗の賭け札を買ったものは居るのか?」
慧音の一言で、まるで申し合わせたかのようにブーイングがぴたりと止まる。
騒がしかったギャラリーたちは我に返り、皆の視線は一斉に文のもとへ集まった。
「えと、それぞれ人間達に懸かってた賞金ですが……
博麗 霊夢、一万四千五百円。
霧雨 魔理沙、十万飛んで九千二百円。
十六夜 咲夜、七千七百円。
魂魄 妖夢、六千五百円。
東風谷 早苗、……零円、です」
「居ないのかよ!」
「そりゃ、スペルカードの知識が問われるってことは新参の早苗が不利だからなぁ」
「それでなくてもちょっとアレだし」
「で、この場合、私らが賭けた金はどうなるんだ?」
「まさか、私の総取りー! なんてわけにもいきませんしね」
「はっはっは、もしそうなったら明日は天狗の葬式だな」
「すいませんすいません嘘です冗談です勇儀さん許してください。
こ、ここはひとつ、その、何か公平な勝負でもう一度分配しなおすというのは!」
「公平な勝負?」
「……っていうと、私らにはやっぱアレしかないよな」
ニヤリと笑った勇儀の杯を萃香の瓢箪がなみなみと満たす。
勇儀はそれにほんの少しだけ口をつけ、杯を指先で支えながら言った。
「おいお前ら、暴れたい奴は私について来い!」
「「「おおーーーー!!!」」」
勇儀の号令に従って、妖怪たちは我先にといった様子で続々と外へ飛び出していった。
紫に渡したスペルカードを回収することも忘れたまま。
着物姿の人間五人は、その光景を見て半ば呆れたように笑っていた。
「なんだ、結局こうなるのか。これなら最初から弾幕合戦にしてたほうがよかったな」
「全くね。さて、私はお嬢様の加勢に行こうかしら」
「私も幽々子さまをお守りしないと!」
「あーもー。神社が壊れる前に全員ぶっ飛ばさないとね」
「みなさーん! 私のために争わないでください!!」
先陣を切って駆け出した魔理沙に続いて、霊夢たちも次々と部屋から飛び出していく。
平和主義者のごく少数、というか紫と幽々子と眠っている閻魔様と涙の海に沈んでいるさとりを除いて、
あれだけ賑わっていた部屋の中はきれいさっぱり人気がなくなってしまった。
「私はまだここに居るのに……流石は妖夢だわ」
「ホントにね。幽々子は二次会に参加しなくてもいいの?」
「私は遠慮しておくわ。せっかくのお召し物が汚れちゃうのは嫌だし」
「ふふ、あの娘たちにも聞かせてやりたいわ。その言葉」
「でも、なかなか見ごたえのある勝負だったわよ? 妖夢はまだまだ未熟者ね」
「楽しんでもらえたのはよかったけど、正直言ってまさか早苗ちゃんが優勝しちゃうとは思わなかったわ。
せめて他の娘が優勝してたら丸く収まってたのに……
変に気を回すんじゃなかったわね。0点っていうのもあんまりだし、5点くらいはプレゼントしようかなと思ったんだけど」
「プレゼントする……? ってどういうこと?」
「でも、あの娘たちもなんだかんだ言って楽しそうだったし、それが何よりかしら。
……っと、私ものんびりしてる場合じゃないわね。念のため外の様子を見てくる」
小首をかしげる幽々子を差し置いて、紫はやれやれといった様子でスキマの中へ消えてしまった。
広くなったままの畳の間には、激戦の跡であるスペルカードたちと紫の持っていた読み札が投げっぱなしになっている。
散乱した読み札を代わる代わる見比べて、幽々子はまぁ、と感嘆の声をあげた。
「知らなかった。かるたの読み札って、何にも書かれてなくて真っ白なのね」
「はいはい! 私、ルールを考えました!
今あっちから人間たちが私たちを止めにきてます! 私たちは、その人間達からスペルカードなしで神社の中を逃げ回る!
そして最後まで撃ち落されなかった者を優勝にしましょう! 名づけて『弾幕サバイバル☆2010』! どうですか皆さん!?」
「「「さんせいーー!!」」」
「私の神社で勝手に暴れるなーー!!」
霊夢が妖怪たちを追い掛け回し、それに便乗して魔理沙たちも縦横無尽に神社の敷地を翔け巡る。
逃げる妖怪も追う人間も、それはそれは楽しそうに笑いながら。
妖怪たちを止めに来たはずの紫は、その光景に見入ってしまい、思わず独りごちた。
「……ほんと、平和な世の中になったわねえ」
そこかしこから響き渡る笑い声を聞いて、紫の口元もつられて緩む。
――いつまでもこんな幻想郷でありますように。
紫の願いに呼応するが如く、空から一つ流れ星が落ちた。
年が明けてからまだ十日も経っていないこの日、ここ博麗神社では、今年初めての宴会がそれはそれは盛大に行われていた。
森から館から冥界から竹林から、あまつさえ空の上から地面の下から人妖たちがここぞとばかりに大集合し、
まるで今まで宴会が出来なかったうっぷんを晴らしているのかというほど、妖怪達は大いに盛り上がっていた。
「今更だが壮観だなーこりゃ。私らの知り合いもいつの間にか増えたもんだ」
「ふふふ。そうねえ」
「ニヤニヤしちゃって気色悪いですよ霊夢さん。何かあったんですか」
霧雨 魔理沙と東風谷 早苗、それに博麗 霊夢の三人は、どんちゃん騒ぎの妖怪達から離れて、賽銭箱の近くに陣取って静かに酒を呑んでいた。
「こいつさ、お賽銭が沢山もらえたから嬉しくて仕方ないんだぜ。
これで当分食うには困らないってんだろ、なあ霊夢?」
「うふふ、その通りよ。
紫が妖怪どもと約束したのよ、三が日くらいは人間の為に神社を空けてやりなさいって。
おかげで今年は人里からの参拝者でお賽銭がたーくさん。魔理沙、もう一杯ちょうだい」
「お前、あんまり飲みすぎるなよ? この後のこともあるんだから」
「へぇ、それで今年は山の妖怪たちも大人しくしてたんですね。
曲者ぞろいの妖怪たちが素直に紫さんの言う事を聞くなんて、なんだか裏がありそうですけど」
「おお、なかなか鋭いじゃないか」
空っぽになったとっくりを魔理沙がお盆に戻す。
すると霊夢はそのとっくりをひったくって、最後の一滴までお猪口に雫を落とした。
「お前さんの言うとおり、この話には裏がある。
私はアリスから聞いたんだが、なんでも紫のやつが催し物を用意したらしくて、それを見せる代わりに正月は寝て過ごせって話になったんだとさ」
「催し物、ねぇ……。私はみなさんに年始のご挨拶をできればいいと思っただけなので、もう帰ってもいいんですけど」
「んで、その催し物とやらに参加するのが私たち人間ってわけだ」
「……私たち人間? って、まさか……私も含めて三人、なんて言いませんよね」
「そんなわけないだろ早苗。妖夢と咲夜も入れて五人だ」
ことん、と早苗の手から空っぽのお猪口が落下した。
「き、聞いてませんよそんな話! 私、何も準備なんてしてないですよ!」
「まーそんなにビビるなよ。まさか年の初めから危険な真似をさせるってことはないと思うぜ。なあ霊夢?」
「さぁ。私も細かい話は聞いてないから知らない。あいつ、心の準備だけはしといてねって言ってたのは言ってたんだけど……」
霊夢がそう言いかけたとき、妖怪だらけの群集からぱたぱたと駆けてくる足音が聞こえた。
「お待たせしました、皆さん! 遅れてしまってすみません」
「ごめんね。妹様がお酒を呑むのが初めてだったから」
妖夢は息を切らせながら、咲夜は涼しい顔をして霊夢たちの元へとやってきた。
二人ともそれぞれの主人のもとで呑むのに付き合っていたのだろう、特に妖夢は心なしか頬が赤い。
「遅れたも何もないわよ。主催者の紫が一番遅れてるんだから」
「紫さまですか? そういえば、今日はお酒の席で姿を見なかったような……」
「あら、そう? 私が向こうにいるときは、お嬢様や美鈴たちと話してるのを見たけど」
「あ、あれ? おかしいな」
「あいつの動向を探っても無駄だって。神出鬼没の代名詞みたいなやつなんだから。
とりあえず呼んだら来るでしょ、紫ー! 全員揃ったわよー!」
「はいはい、お待たせ」
霊夢が声を張り上げると、まるで見計らったかのようなタイミングで五人の輪の中に紫の頭部だけがにゅっと出現する。
位置的な問題で咲夜と妖夢にはその後頭部しか見えなかった。
「うん、全員揃ってるみたいね」
「ゆ、紫さん! あなたは私たちに、一体何をさせるおつもりなのですか!?」
「それじゃ早速だけど準備を始めましょう。霊夢、あなたの部屋にみんなを案内して」
「話を聞いてくださいー!」
「え、私の部屋でやるの? 去年大掃除したばっかりなのに……」
「ほほう、なんだかワクワクしてきたぞ」
霊夢の案内に従って、妖怪だらけの喧騒から離れた五人は博麗神社の一室、何の変哲もない畳の間へとやってきた。
普段霊夢が寝室として使っているこの部屋は、年末の大掃除の甲斐もあって、年を越した埃など一握りもないといえるほどの清潔っぷりだった。
それだけに今からその部屋でどたんばたんされると考えると気が重い。
霊夢が派手についた溜め息が真っ白になった辺りで、五人はすでに部屋の中に誰かが居ることに気がついた。
「も~い~くつね~る~と~♪」
「んー、配線はしっかりしてるよなぁ。なんで音声が増幅されないんだろ? 電力不足かな」
「電撃を強くする必要があればいつでもどうぞ」
「いや、供給量自体は十分だからそれはいい……ってこれ電源入ってないじゃん。
ミスティア、もう一回歌ってみて!」
「『お~しょ~う~が~つ~♪』」
「あれ!? 今度は照明が落ちたぞ!」
「夜雀をテスターにしたからではないでしょうか」
衣玖とにとりの新しい凸凹コンビが鳥目になっている傍らで、霊夢たちは耳を塞ぎながら部屋の中を見回した。
霊夢にとっては見慣れた畳の間は河童の機械があるほかに別段変わった点は見られない。
既に暖が取ってある部屋の中は程よい暖かさで心地よく、先ほどまで白かった息が見えなくなった。
「えーと……こんな狭いところで何をさせるおつもりなんでしょう? 紫さん」
「そうね、このままじゃちょっと狭いわね。というわけで咲夜、お願いできるかしら?」
「把握致しました」
そう言って咲夜が一つ手を打つと、一瞬にして畳の間が数倍近くも広くなる。
霊夢たちはこの光景にも慣れっこだったものの、咲夜の能力を始めて目の当たりにした早苗からはひゃっという可愛らしい悲鳴が漏れた。
「す、すごい! 噂には聞いてた能力でしたが、実際に見るとすごいです!」
「このくらいでいいかしら? 多分、五十人は収容できる宴会場になったと思いますわ」
「上出来よ、ありがとう。後の事は私に任せて、あなたたちはこれに着替えてて」
「これ? って……着物、だよな」
紫がどこかから取り出したのは、霊夢たちそれぞれのイメージカラーに合わせた着物だった。
霊夢なら紅白、魔理沙は色合いを考慮してか白黒でなく薄い黄色と白、といった具合である。
「一応晴れ舞台ということで、あなたたちにピッタリの着物を準備してみました。
お礼ならわざわざ天界から持って来てくれた天子に言ってね」
「なんだ、私たちにファッションショーでもやらせようって言うのか?」
「そうよ紫。そろそろ何をさせる気なのか教えなさいよ」
「ふふ、直前まで黙っておいたほうが面白いかと思ったけど……
そんなに気になるなら教えてあげるわ。今日はね、あなたたちには新年らしくかるたで遊んでもらおうと思ってるのよ」
「かるただって? おいおい、そんな幼稚なもんで外の奴らを満足させようってのか?」
「話は最後まで聴きなさい。かるたと言ってもただのかるたじゃないわよ。
特別なカードを使ってやるの」
「カード……っていうとまさか」
紫はにこりと微笑んで、一同の顔を見回してから言った。
「そのまさかね。今日はあなたたちに、スペルカードを使ったかるた大会をしてもらうのよ」
「『はいはい、静粛に。
それでは皆さんお待ちかね。これより本日のメイン・イベントを開催致します』」
マイクを手にした紫が高らかに開会を宣言すると、畳の間には暖かな拍手が広がった。
霊夢たちが着物に着替えて大人しく待っていると、紫に引き連れられて外で宴会をしていた連中が次々と部屋に入ってきた。
古い顔から新顔まで、中には霊夢と魔理沙以外は知らないような顔も含まれている。
「あら? 見てくださいナズーリン、このお部屋、外から見たときよりもずうっと広いみたいですよ!」
「何を言っているんだいご主人。いくら幻想郷といえどもそんな馬鹿なことが……あったよ」
「映姫様、しっかりしてください。ああもう、なんだって今日は鬼と天狗と呑んだりしたんですか」
「わらしもたみゃにはひもりでおさけをはらげたいひもありゅんでしょう!!」
部屋の真ん中に集められた霊夢らを取り囲むように、酔い具合も様々な百鬼夜行が綺麗な輪っかになる。
これじゃまるで生贄だぜ、と魔理沙が冗談めかすのが早苗には怖くてたまらなかった。
「『皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき誠に有り難う御座います。
この場を借りて、厚くご御礼を申し上げます』」
「それは暇を持て余してる私たちへの皮肉だなこらー!」
「秋が来るまですることないのよー! 悪かったわねー!」
「『さて、ここに御座いますのはそんな皆様からお預かりしたスペルカードたち。
事前にお話したとおり、今回はこのスペルカードを使ってかるた大会を開催しようと思います』」
わーぱちぱちーと今度はまばらな拍手が起こる。
どうやら催し物の詳細を知らなかったのは自分たち人間だけらしい。
アリスのやつ知ってて黙ってたな、という魔理沙の悪態はスピーカーからの声に掻き消された。
「『ただ、会場と身体能力の都合上、ここにいる皆さん全員に参加してもらうのは不可能です。
そこで今回は、選りすぐりの人間五名に代表として参加していただきます』」
えぇ~、なんだー、大ちゃんあたいトイレーなどあちこちから落胆の声が聞こえてくる。
だがその言葉とは裏腹に、妖怪たちの表情はどこか楽しそうだった。
元より観戦となることは承知の上。祭が大好きな彼女たちはまた、祭を盛り上げる作法をも心得ているのである。
「『選ばれし五名は皆さんの目の前、中央に居る人間達です。
言わずと知れた博麗の巫女、博麗 霊夢。
普通で明朗な魔法使い、霧雨 魔理沙。
紅魔館を仕切る瀟洒なメイド長、十六夜 咲夜。
剣の腕だけは一人前、真面目な庭師の魂魄 妖夢。
そして最後は、守矢のちょっとおめでたい巫女、東風谷 早苗』」
「おめでたい言うなー!」
「事実だけどさー!」
「『さて、果たして勝者は誰になるのか。
皆様には、その結果を大いに予想していただきたいと思います』」
「あーそういうことですか。つまり私たちは競馬場の馬、というわけですね」
「けいばじょう……? ってなんですか、早苗さん?」
「いえいえ、こっちの話……いやあっちの話です」
賭博行為など言語道断、真っ先にそう言い出しそうな閻魔様は部下の膝枕ですっかりお寝んねだった。
それであんな席に入れられたのか、と小町はぽりぽりと頭を掻く。
「『中には賭け事に興味のない方や、持ち合わせのない方もいらっしゃるでしょうが……
そういった皆様には、純粋に自分のスペルカードが選ばれるのを楽しみにして頂くということで』」
「ちょっといいですかー!」
「『はい、文さん。どうかしましたか?』」
「椛が拗ねてます」
「……あ、あら。これは配慮が足りなかったわね」
華やかなお正月とは相反した辛気臭い体操座りになった椛の隣で、厄神様がくるくると回りだした。
「私のところだけ来ないなぁと思ってたら……そりゃあそうですよね、私、スペルカード持ってないし……」
「ご、ごめんね椛ちゃん。何もあなたを仲間外れにする気はなかったのよ。
そうだ、椛ちゃんは目がいいから、私の隣で審判役をやってもらおうかしら?」
紫が慌てて椛をなだめると、椛は渋々といった様子で紫の隣へとやってきた。
その尻尾が実はぱたぱたと揺れているのを文は見逃さず、ぱしゃりとカメラのシャッター音が響いた。
「『さて、残るは詳細なルール説明ですが……』」
「ごたくはいいから早く始めろー! 待ちくたびれたぞー」
「そうだそうだー」
「『こらこら、鬼さんたち。あまり騒がしいとつまみ出しますよ』」
「出してくれるんならつまみも出せー!」
「そうだそうだー」
「まぁ、言われてみればあんまり格式ばる必要もないんだけどね。
どうせ周りは細かいルールに興味はないだろうし、ここからはあなたたちだけに簡潔に説明するわ」
萃香と勇儀の意見が採用されたのか、紫はマイクの電源を切って砕けた口調になった。
もちろんおつまみは出なかった。
「このスペルカードかるたは、普通のかるたと同じく最も多くのかるた、というかカードを手に入れた子の勝ちよ。
大まかなルールは通常のかるたと変わらないんだけど」
「だけど?」
「まず一つ違うのは、取り札の頭文字と読み札の頭文字が必ずしも一致しない、という点よ。
例えばこんな読み札。『恋い焦がれ 白い閃光 解き放て』……これに該当するスペルは?」
「魔理沙のマスタースパーク……ですよね?」
妖夢がおずおずと手を挙げて言う。
周りの四人もこれに同意してうんうんと頷いてみせた。
「成る程、かるたなんて言いながら謎掛けみたいな要素も含まれてるんだな」
「でも紫、なんだってそんなややこしいルールにしたの?
折角だから、スペルカードの名前に合わせて読み札の頭文字も統一すればよかったのに」
「やぁねえ。それじゃあ貴女たち、私が頭文字を口にした瞬間にカードを取っちゃうでしょう?
それじゃあ見てるほうも興醒めじゃない。もぐら叩きをやりにきてるわけじゃないんだし」
「はっはっは、尤もだな」
こりゃー失言だったわ、と霊夢も苦笑しながら紫に謝り、それにつられて妖夢と咲夜も笑顔を見せる。
早苗もなんだ冗談だったのか、と安心しきって頬を緩めていた。事の真相に気がつかぬまま。
「そしてもう一つ。正解は何も一つとは限らないわ、一つの読み札に複数の取り札が存在することもあるの」
「複数……? どういう事ですか?」
「例えばさっき読んだ魔理沙の札。
『恋い焦がれ』の部分が恋符、『閃光』がスパークって部分を表してるのはわかると思うけど……
他にも該当するスペルカードがあるわよね。ねえ魔理沙?」
「そうか、ダブルスパークだな」
ご存知『マスタースパーク』は恋符であって、あまり魔理沙が使わない『ダブルスパーク』には恋心という肩書きがついている。
どちらも白い閃光を放つ恋のスペルという点で言えば共通している。
「こんな風にいくつも正解があるパターンもあるから気をつけてね。
いずれにせよ、あなたたちが用意した答えに私が納得すれば正解にしてあげるわ」
「紫さま、スペルカードは全員の持っているスペルを全て集めたのですか?
それではあまりにも数が膨大になってしまうのでは……」
「私もいろいろ考えたんだけど、あなたたちの手が届く範囲を考えると、通常のかるたと同じ五十枚前後が限界なのよね。
だからカードの数は私が集めたものの中からランダムに五十枚。
さっき言ったもぐら叩きになるのは避けたいから、そのうち四十枚程度がなくなったらゲーム終了、ということで」
「一つ質問させてください。
先程正解は複数用意されているとおっしゃいましたが、もし二人が別々のカードを選んだ時はどうなるのでしょう?」
「それは先に手を出したほうの勝ちという事にしましょう。
でもあまりにも僅差だったら……そうね、両取りという事にしましょうか」
そうですか、と咲夜は呟いて、何やら思案気な表情を見せた。
咲夜も妖夢も端から見るとあまり祭りなどが好きなタイプには思えないが、勝負事には全力を尽くすタイプなのだろう。
こりゃー倒しがいがあるぜ、と魔理沙はぱきぱきと指の関節を鳴らした。
「私、こういうのってあんまり得意じゃないのよねー。
素早く反応するのって面倒くさいし、あんまり背も高くないから遠いところのは不利だし」
「そういう意味じゃあいちばんおっきい咲夜が有利って事だな。
ほれ咲夜、手の長さ比べっこしようぜ……って、お前の手冷たいな」
「心が暖かいからね」
「(一番小さい私が不利? いや、私も反射神経には自信がある。体格なんて関係ないはず)」
「平常心、平常心です! 現人神の名が伊達でないことを、みなさんに教えてあげましょう」
人間たちがそれぞれ気合を入れる一方で、客席は始まる前から異様な盛り上がりを見せている。
その中心にはメガホンを手にした文の姿があった。
「さあ! 幻想郷きっての人間離れした人間達が織り成す、至極平和なお遊び大・かるた大会!!
果たして勝者は誰になるのでしょうか! 今年最初の大勝負、賭けた賭けた!!」
「博麗の巫女に千円!」
「こっちは紅魔のメイド長に五百円よ!」
「いいな、あたいも賭けやってみたいなー! さとり様、倍にして返すからお金ちょうだい!」
「仕方ないわね、羽目を外さない程度に少しだけよ……ってあら? 私の財布がないわ」
「あ、ごめんお姉ちゃん。気がついたら有り金が全部魔理沙の賭け札に」
「十万円以上あったのに!?」
無意識はんぱねええええというクレイジーな悲鳴と喧騒の中、霊夢たちはいよいよ決戦に向けて体勢を整えた。
無造作に並べられたスペルカードたちの周囲に座布団を敷き、時計回りに霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗の順で輪を作る。
紫は霊夢と早苗の間に座して読み札を切っていた。審判に抜擢された椛も目をぐしぐしとしてみたり忙しない。
「それでは皆さん、準備はよろしいかしら?」
「いつでもどうそ」
「右に同じだぜ」
「構いませんわ」
「はい」
「き、緊張しますね!」
「それじゃあ、読むわよ……」
こほん、と紫がマイク越しに一つ咳ばらいをすると、騒がしかったギャラリーが水を打ったかのように静まり返る。
先ほど文が謳った『幻想郷きっての人間離れした人間たち』という文句はあながち間違いではない。
お遊びとはいえ、その中で頂点に立つのはいったいどの人間なのか――
強きを求める妖怪たちが、その結果に興味がないはずがなかった。
部屋中の注目がスペルカードと人間たちに集まる中、紫がゆっくりと息を吸い込み――ついに戦いの火蓋は切って落とされた。
「『妬ましい ああ妬まし……』」
「「はいっ!!」」
紫が口を開くや否や、霊夢と魔理沙の右腕が素早く反応する。
二人の始動はほぼ同じだったが、わずかに魔理沙の速さが霊夢を上回り、霊夢の掌は魔理沙の手の甲に重なった。
「はっはっは、悪いが一枚目は頂いたぜ」
「くっ、私がそっちの席だったらなぁ……」
記念すべき一枚目のスペルカードは『グリーンアイドモンスター』、嫉妬の妖怪水橋パルスィのスペルだった。
紫が読みそびれた下の句は言わずもがなであろう。
この場合紫基準の判断で言うと、パルスィのスペルカードならどれを取っても良いということになる。
「二人とも速いわね。これはなかなか張り合いがありそうですわ」
「(流石は異変解決のプロ……もっと気を引き締めて掛からないと)」
「あれ? い、今。いつの間にか手が……え?」
期待を裏切らない好敵手の反応に咲夜は彼女らしくもなく唇の端を持ち上げ、妖夢は自分の両頬を手で張った。
早苗は目を白黒させていた。
「まずは魔理沙に一点ね。この調子でどんどん行くわよ。
『弾幕は パワー……』」
「いただきぃっ!」
これまた魔理沙が素晴らしい速度で反応し、まるで紫の読む札が判っていたかのような勢いで一枚のカードに手を出す。
魔理沙が選んだカードは自分の十八番『マスタースパーク』。
弾幕はパワー、というフレーズからすれば、それをモットーとしている魔理沙のスペルは何を取っても正解になるだろう。
……しかし。
「ぶー、残念ながらお手つきよ魔理沙」
「んなっ!?」
「じゃあ、読み直すわよ。『弾幕は パワーじゃないわ ブレインよ』」
「はい! ……そういうことだったのね」
動揺する魔理沙を尻目に、霊夢はアリスのスペルカード『上海人形』を取得した。
「くっそー! 引っ掛けだなんて汚いぞ!」
「最後まで聞かない魔理沙が悪いのよ。言い忘れてたけど、お手つきの娘は一回休みになるからね」
ぶつくさと文句を言いながら魔理沙はあぐらをかいて、いかにも不機嫌そうに頬杖を突いた。
しかし最も手の速い魔理沙が抜けたことは、他の四人にとってはチャンスである。
「『怯えるな 隙は目の前』……」
「はい」
「はいっ!」
「……あら?」
お手つきの魔理沙がいないのをいいことに、今度は咲夜と妖夢が別々のカードに手を出す。
しかし霊夢は何かに気がついたのか、手を出す直前に動きを止めてしまった。
「おお? 咲夜と妖夢、意見が割れたみたいだな」
「あ、あれ? 隙が目の前、ということは正面が安全っていうことですよね。
それって確かチルノの『アイシクルフォール』だと思ってたんですが……
他にも何かありましたっけ?」
「あら、私もアイシクルーフォールを取ったのよ。気が合うわね」
「ええ? なんで同じスペルカードが二枚……ああっ!!」
咲夜にひらひらと取ったカードを見せつけられて、妖夢は驚きの声を上げた。
「あ……『アイシクルフォール -Easy- 』……!?」
「残念ながら妖夢が取ったのはただの『アイシクルフォール』ね。
正面が安全なのは『アイシクルフォール -Easy- 』でした」
「せ、せこい……!」
今度は魔理沙に代わって妖夢がお手つきとなる。
妖夢は並べられたスペルカードを端から端まで確認して、もう他に重複のあるカードがないことを確認した。
唯一の例外に引っ掛かってしまったのは不運であったが、咲夜のように事前に確認をしていなかったこと、
また霊夢のように直前で気がつかなかったのは自らの鍛錬不足である。
「うぅ……もっと精進しないと」
「妖夢は本当に糞真面目なやつだなぁ」
腕まくりならぬ袖まくりを一つして、魔理沙は再びあぐらから正座に戻った。
そして今度は左肘を畳に突いて、極端な前傾姿勢になりながら紫の読みを待つ。
「『永らえど 私のスペルは ただ一つ』」
「……っ!」
ここで、初めて紫が読み札を読み切った。
霊夢たちは一瞬片手をあげて反応してみせたものの、その手をつくまでには至らない。
というのも、銘々頭に思い描いたスペルがどこにも見当たらなかったのである。
「(スペルが一つ……!? 一つっていうのは、当然そういうことでしょ)」
スペルが一つと聞いて霊夢が真っ先に思い付いたのは、秋 静葉とキスメの存在だった。
この二人は第一にあまり好戦的でなく、やや内向な性格も手伝ってスペルカードを使う場面はほとんど見られない。
それでも辛うじて二人が所持しているスペルがある。
静葉のスペルは『狂いの落葉』。
キスメのスペルは『釣瓶落としの怪』。
静葉とキスメが所持しているスペルカードはこの一枚しかなく、それが『ただ一つ』の部分を表しているのだと霊夢は考えた。
しかし霊夢の目の前には、その二枚のスペルが並べられていないのだ。
時間にしてはわずか数秒、しかしかるたという競技の性質からはあまりにも長い時間が経過する。
魔理沙も同様に泡を食っているのか視線が定まらず、
咲夜と早苗はお手付きをしてまで無理をする必要はないと踏んだのか、静観する体勢に入っている。
「『永らえど 私のスペルは――』」
紫が読み札を読み直し始める。
永らえど。その部分に何か意味があるのだろうか。
しかし永らえるというのは単に妖怪であることを示すとも取れ、いずれにせよ決定打にならない。
焦燥する霊夢の頭の中でぐるぐると思考が渦巻き始めたその時、魔理沙からあっ、という声が漏れた。
「こ、これか!」
中央付近に密集したカードの中から、魔理沙が一枚のスペルを選ぶ。
魔理沙の答えは『テリヴルスーブニル』、古明地 さとりのスペルカードだった。
「さとりの奴はいろんなトラウマ攻撃をしてくるが、あいつオリジナルのスペルはこれしかないぜ!
どうだ紫? 正解だろ」
「はい、魔理沙一点獲得」
「ああーもう! どうしてそれを思い付かなかったんだろう」
勝ち誇る魔理沙と悔しさを露わにする霊夢の対比が面白かったのか、ギャラリーからはおー、という歓声と楽しげな拍手が起こる。
特にスペルカードの主さとりからは惜しみのない拍手が送られた。
感動というよりも自分の財布の中身的な意味で。
「もーなんか腹立ってきたわ。絶対勝ってやる」
「そうこなくっちゃ面白くないぜ、霊夢!」
ある意味幻想郷を代表するライバル関係の二人が火花を散らし、その周りからもいいぞいいぞーと囃し立てる声が聞こえてくる。
霊夢たちも要領を掴んだのか、ここから勝負は一気に加速した。
「『⑨なれど 馬鹿とは呼ばせぬ』……」
「セラギネラ9!」
「『割ろうとも』……」
「海が割れる日!」
「『受けてみな あたいの』……」
「ゾンビフェアリー、だな! 他のあたい候補のスペルカードはもうないみたいだぜ」
「『ちゃぶ』……」
「テーブルターニング!」
「『駆け巡れ 目にも留まらぬ 脚』……」
「飛翔毘沙門天! ……ブン屋のスペルは脚を使う、という雰囲気ではありませんわ」
やはり全てのスペルカードを見たことがある霊夢と魔理沙が優位なのは否めず、着実に得点を重ねていく。
一方で咲夜は自分の知っているスペルに的を絞る作戦で地道にカードを集めていき、
妖夢は持ち前の反射神経で霊夢と魔理沙が出遅れたカードをとることによってどうにか食い下がる。
早苗は自分以外の四人の挙動に驚くばかりで、もはや観客の一人と化していた。
そして読み上げられた札が40枚を越えたころ、五人の得点は――
霊夢 : 12枚
魔理沙: 13枚
咲夜 : 10枚
妖夢 : 7枚
早苗 : 0枚
上記のような結果となっていた。
「そろそろ約束の40枚を越えたかしら? 次あたりで最後の問題にしてもいいわね」
「あー、もうおしまいですか。早かったですね」
「トップとは3点差。残念ながら、私たちはここまでのようですわ」
咲夜と妖夢はそう言って、少し悔しそうに白旗をあげた。
この二人に期待していた客はそれなりに多かったのか、あきらめるなーだの自分を信じろーという声援がそれなりに多く飛んでくる。
ルール上逆転は不可能であるにもかかわらず。
その声援の思いを汲んでか、ぱちん、と紫の扇子が一つ音頭を取った。
「そうねえ。二人とも知らないスペルがある中でここまでよく頑張ったのに、このまま終わりじゃ悔しいわよね」
「そりゃあ、勿論」
「じゃあこうしましょう。特別ボーナスとして、最後の問題は10点プレゼントにします」
「「「おおーー!!」」」
「ま、どうせそんなこったろうとは思ったけどな」
「最後を取ったやつが勝ちってわけね。分かり易くていいじゃない」
「よし、これで私にもチャンスが……あれ?
早苗さん、四つん這いになっちゃってどうしたんですか」
紫の粋な計らい、というかお決まりの計らいに場内が沸き上がる。
ここまでトップの魔理沙も望むところだと腕まくりをしたものの、早苗だけは完全に沈みきっていた。
「足りない……10点じゃ足りない……」
「あら、そういえばまだ0点の子がいたんだっけ。
それじゃ次の一枚を5点にして、それから最後の10点問題ということにしましょうか。
これなら早苗ちゃんも追いつけるわよ」
「本当ですか!?」
「ええ、勿論」
あまりにも大甘な紫の裁定にも、霊夢たちからは特に異論は唱えられなかった。
それもそのはず、早苗はここまで一枚もカードを取れていないどころか、カードに手を出してすらいないのだ。
他の四名があまりにも人間離れした動きをするため、体を動かすどころか頭をついていかせるだけで精一杯だったのである。
「よーし! すみませんねみなさん、この勝負もらいましたよ!」
「はいはい。それじゃ紫、ルールも決まったところで次読みなさいよ」
息を吹き返した早苗が目をぎらつかせる隣で、妖夢もまた集中力を高めていた。
その瞳が見据えているのは、並べられたカードはもちろんのこと、これまで狙ったカードをことごとく奪い去っていった魔理沙の右腕である。
現在魔理沙と6点差の妖夢は、魔理沙に5点追加されると自動的に負けが決まってしまうのだ。
「ここが勝負どころですね……」
「それじゃ、読むわよ」
鼻息の荒い早苗とは対照的に、静かに妖夢がそう呟く。
ギャラリーも固唾を呑んでその戦況を見つめる――はずだったが、その静寂は一瞬にして打ち破られた。
「『な――』」
「はいっ!!!!」
「…………はぁ?」
ぱしーん!! という小気味よいSEが畳の間に響き渡る。
その音を放ったのは、自分の目の前にあるスペルを凄まじい勢いで叩き潰した早苗の掌だった。
「ふっふっふ。どうしました皆さん、今回は私が一番に手を出したみたいですよ!」
「……早苗、お前な。このかるたのルールを忘れたのか?
読み札と取り札の頭文字が一致するとは限らないんだぜ。そんなに早く反応したって意味がないじゃないか」
「というか、『な』の札はこれしかないはずなんですけど……」
「なんだって?」
魔理沙はてっきり早苗が『な』のスペルを狙い撃ちしたのだと考えたが、
宵闇の妖怪ルーミアのスペル『ナイトバード』はいまだに妖夢の目の前にあった。
確かに間違いありませんわ、と咲夜もまた妖夢を肯定する。
「じゃあ早苗、あんたが叩いた札って……」
「ふっふっふ。霊夢さん、甘いですよ」
「甘い?」
「この勝負どころで1ボスごときのスペルカードが読まれるはずがないでしょう!!
ここは当然EXボス、それも私と関係の深い洩矢様のスペルが読まれるに決まってます!
ですよね、洩矢様!!」
ああ、そういうことか。
霊夢以下四名はようやく事態を理解し、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
この娘は、アホの子なんだった。
「さなえぇ……頼むから私たちに恥をかかせるのはやめとくれよ……」
「大丈夫ですよ八坂様。私には恥も外聞もありませんから!」
「うん……知ってる……」
哀れな二柱は可哀相なくらい縮こまって、近くのギャラリーから同情の声を掛けられている。
ちなみに神奈子と諏訪子は神という立場もあってか、文の賭け札を買っていない。
もしも買うとしたら早苗の札に決まっているが、自分たちの神社が金をドブに捨てられるほど裕福でないことを知っていたのである。
「さぁ紫さん! 正解をどうぞ」
「正解っていうか紫、こいつはほっといて続き読んで」
「ふふ。そうね」
霊夢たちは仕切り直しに備えて、各々手を出しやすい体勢を取ってからもう一度残ったカードを確認した。
誰よりも先に反応できるよう、『な』で始まる言葉を頭の中で列挙しながら。
しかしそんな霊夢たちの努力は、全くの徒労に終わった。
「……『何時も 風雨に負けず 土着神』。おめでとう早苗ちゃん、約束どおり5点獲得よ」
「「「おおおーーーー!!!」」」
「う、嘘……!」
「ほら、見ましたか皆さん! これが信仰の力です!」
紫の読み札の続きは、早苗が当てずっぽうで狙った諏訪子のスペルカード『ケロちゃん風雨に負けず』と見事に一致した。
早苗が起こした格安の奇跡に、周りで見ているギャラリーも一気に盛り上がる。
早苗はさも当然とばかりに両手を高々と掲げてその歓声に応えていた。
言うまでもないが、暫定ランキングでは未だビリっけつである。
「でもこれで、実質全員同点になったのね」
「とんでもないルールだなぁ。ま、私が勝つから構わんが」
「それじゃあ次がいよいよ最後の一枚ね。
今度はさっきみたいな当てずっぽうが成功しないように、普通のかるたと同じくダミーの読み札も混ぜるわよ。
選ばれなかったぶんのスペルの読み札もぜーんぶ混ぜちゃうから、私の言葉をよく聞いててね」
トランプの倍はあろうかというほど分厚くなった読み札を切りながら、紫はさらりとそう言ってみせた。
10点問題というルールもとんでもないが、霊夢たちからしてみればそのルールもとんでもない。
仮にこの場にいる全員のスペルカードが混ざっているとすると、その数はゆうに二百を越えるだろう。
その数多ある読み札から答えに辿り着くには、あらかじめ残っている札にどんな読みが対応しているかを考えておかなければならない。
今現在霊夢たちの目の前に残っているカードは、
合葬『プリズムコンチェルト』
疎符『六里霧中』
秘弾『そして誰もいなくなるか?』
散符『真実の月(インビジブルフルムーン)』
雨符『雨夜の怪談』
式輝『狐狸妖怪レーザー』
夜符『ナイトバード』
彩符『彩雨』
『幻想風靡』
瘴符『フィルドミアズマ』
以上の10枚である。
「(思ったより内容が被ってるスペルが多いわね……)」
「(雨と蟲のスペルが二つずつか。こいつらが来たら手を出し辛いな)」
「(ブン屋のスペルだけ何符、っていう肩書きがないのね。それが問題になったりしないかしら)」
「(雑念は捨てよう。お手つきになっても仕方がない、手を出さずに負けるのは絶対に嫌だ)」
「(知らないスペルばっかりです!)」
それぞれの考えが形を成し始めたころ、ようやく紫が読み札のシャッフルを終える。
紫は山積みになった読み札を自分の隣に置いて、一番上の一枚を手にした。
一度読んだ札は戻さない、という意思の表れなのだろう。
泣いても笑ってもこれが最後の一枚。
真剣そのものな五人の顔を見渡してから、紫は小さく息を吸い込んだ。
「『妬ましい ああ妬ましい 妬ましい』」
「…………」
これは紫が最初に読んだスペルカードである。
今にもお手つきをしそうな早苗を除いて、霊夢たちは集中力を高めたまま微動だにしなかった。
ダミーっていうのはこういうことよ、という紫なりの配慮なのだろう。
「『乱れ咲く 月の向日葵 月の渦』」
「(サテライトヒマワリは……無いはずだぜ)」
「『振り回せ 真紅の剣 彼の命』」
「(レーヴァテイン、ね。妹様のスペルはまだ『そして誰もいなくなるか?』が残ってるけど)」
「『沈み行く 怒りと碇 海の底』」
「(あぶない、私が知らないスペルだったかも)」
「『妬ましい ああ妬ましい 妬ましい』」
「(……何枚入ってんのよそれ)」
なかなか本命が現れないのか、それとも紫の調整が入っているのか、
最後の一枚という宣言がなされてから延々十枚以上も紫の読み札に空振りが続く。
三回ほどお手つきをした早苗を除き、それでも霊夢たちは集中を切らさず、じっとその時を待ち続け――
ついに、決着のときがやってきた。
「『逃げ惑い 見守る我は 人柱』――」
「――!?」
逃げ惑う、見守る。つまりは耐久スペルのことだろう。
そして他の情報は皆無である。こういった読み札は他にもあった。
パルスィの『グリーンアイドモンスター』、アリスの『上海人形』のように、条件を満たすスペルがいくつも存在するパターン。
そして、そういったスペルが回答となり得るときは――
早い者勝ち、という取り決めになったのだ。
「ふっ」
「だぁっ!」
「くっ」
「はいっ!」
「は、はいぃっ!」
霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢がそれぞれほぼ同時に手を伸ばして、コンマ数秒遅れて早苗が反応する。
霊夢と魔理沙は『幻想風靡』、妖夢と咲夜は『そして誰もいなくなるか?』のカードを半々に抑える形で手をついている。
早苗は慌てるあまり、自分の目の前のカードに手を出すので精いっぱいだった。
「……成る程。そう来るとはね」
「くそっ! 最後の最後に早押しだなんて思わなかったぜ」
「全くですわ。もぐら叩きにはしたくない、なんて言ってたのに思惑が外れたわね」
「さぁ、審判さん! 一番早く手を出したのは誰ですか?」
「わ、私、どのスペルを選んだんだろう……?」
否が応でも審判の椛に視線が集まり、椛は困ったような表情を見せた。
椛本人はある程度手を出した順序、それにもう一つ重要な事項を見切っていたものの、
自分の一存で勝負を決める責任を感じているのか、流石に簡単に口を開くことが出来なかったのだ。
困窮した椛が紫に助け舟を求めようとすると、紫はくすくすと笑いながら、手にした扇子で盤上を指し示した。
「残念だけど全員お手つきみたいね。
この読み札に対応するスペルカードは、まだそこに残ってるみたいだから」
「なんだって!? 私たちはちゃんと、耐久スペルを選択してるはずだぞ!」
「それが間違いの始まりなのよ。
だって私、五・七・五で読み札が統一されてるなんて言った覚えはないもの」
「え、な……?」
「ということは、まさかその読み札には、まだ……」
「ご明察。七・七の二行が残ってます」
紫ににこりと微笑まれ、魔理沙はまだ霊夢たちが手をついているにも関わらず、思わずカードからその手を離してしまった。
「き、聞いてないぞ紫! 短歌で構成されてる読み札があるなんて」
「そりゃあ、言ってなかったからね。
第一あなたたち、私が上の句を読んだだけでどんどんカードを取っちゃったじゃない。
これじゃ気がつかなくて当然よ」
「ということは、他にも短歌になってる札があったのか……」
これは盲点でしたね、と咲夜が天を仰ぐ。
しかしいくら恨み節を言っても、カードに手を出してしまった事実は変わらない。
「今回は全員お手つき。仕方ないからまた次の読み札を――」
「待ちなさい、紫」
「あら霊夢、どうしたの?」
「ミスをしたらお手付きなんて言うけど、手を伸ばすだけならお手付きにはならない……わよね?」
「……? それは一体どういう――あっ!」
紫にしては珍しく、驚きの声が口を突く。
霊夢の発言の意図に気付いて、魔理沙たちは姿勢を低くして霊夢とスペルカードを凝視した。
すると霊夢の掌は、確かにカードの上から数センチ浮いていた。
「どう、審判? あんたならちゃんと見てたでしょ」
「確かに、霊夢さんはまだ手をついていません」
「なんだとー!」
「あんたのことだもん、絶対最後になんか仕掛けてくると思ったわ。
そうしたら案の定ね。あんなふわふわした終わり方をあんたが認めるはずないもの」
霊夢はニヤリと笑い、お手付きのフリをした体勢から正座に戻った。
「お手つきになるのはまだ取られる可能性のあるカードに手をついたときだけ。
そうよね、審判?」
「……はい。間違いありません」
「じゃ、さっきの続き読んで貰おうかしら。
最後の一枚くらいはきっちり最後まで聞きたかったし、おあつらえ向きね」
「そ、そんな馬鹿な……」
「ふふ。これは参ったわね」
紫が改めて読み札に視線を戻すと、魔理沙たちは勝負を諦めたかのように脱力した。
もはや魔理沙たちとしては霊夢がミスをするのに期待するしかないが、霊夢以外の全員がお手つきになっている以上それは絶望的である。
読み札の全文を聞けるのはもちろん、考える時間もそれこそ十二分にありすぎるのだ。
あわよくばこの読み札が空振りだったら、と魔理沙は願ったが、その希望は儚くも打ち砕かれた。
「『逃げ惑い 見守る我は 人柱――
鬼成す霧が 晴れ広がるまで』」
「はい、わかったわ」
「うわ、なんだそりゃ……」
魔理沙は仰向けにばったりと倒れこみ、ぺちんと自分の額を叩いた。
全文を聞いてしまえば答えは単純、まず鬼という単語が出た時点で間違いなく萃香の『六里霧中』が正解である。
霊夢は念のため残った他のカードにも目をやり、万が一にも自分の解答に謝りがないことを確認してから、
目的の『六里霧中』へゆっくりと手を伸ばし――
「はいっ!!」
突然動いた早苗がその手の下に割り込み、『六里霧中』をかっさらっていった。
「……………………へ?」
「やりました! 私、これで10点です! 逆転です」
「ちょ、ちょっと、紫!」
「ダメよ、早苗ちゃん。あなたはさっき一度ミスをしたでしょう。
残念だけど、お手付きの娘は次の番までチャンスは……」
「……いえ、紫さん」
「あら、なぁに椛ちゃん?」
早苗の膝元を見つめながら、今度は椛が紫を制した。
「その、実はまだ、早苗さん……お手付きになってないんですよ」
「どうしたの、あなたまで何を言い出すの? 少なくとも私は、早苗ちゃんが手をつくところを見た気がするんだけど」
「そうよ、何言ってるのよあんた。早苗が思いっきりカードを叩いたのは私もこの目で間違いなく見たわよ。
ほら、その早苗の目の前にある……えぇっ!?」
霊夢は思わず立ち上がってしまった。
あろうことか、早苗が手をついたのは――先程取得したはずの諏訪子のスペルカード、『ケロちゃん風雨に負けず』だったのだ。
「早苗さん、さっきギャラリーに応えるのに夢中で、カードを取ってなかったみたいで……」
「……それで今、うっかり手をついちゃったと」
「ゆ、紫。空振りで取り札以外を叩くのって……」
「もちろん、セーフよ」
「うそーーーーーー!!」
「『東風谷 早苗10点獲得!
というわけで優勝は――大・逆転で早苗に決まりです』!」
「「「えええええぇーーー!!!!」」」
マイクを握り直した紫がそう告げると、周りからは大ブーイングが起こった。
「霊夢のばかやろー! 油断してないでとっとと最後の一枚をとりゃ勝ちだったのにー!」
「私の千円を返せー!」
「わたしの……、わたしの貯金が……」
「さ、さとり様。あたいたちのお年玉でよかったら返すからさ、ほら。ね、お空?」
「お年玉なんてもらったっけ?」
「トリ頭なんだろうけど悪意にしか見えない!」
「ちぇ、せっかく紅白のよしみで賭けてやったのになー。残念だ」
「まぁ気にするな妹紅、こういうのは結果よりも過程を楽しむものなんだよ。
それより一つ気になるんだが、この中に早苗の賭け札を買ったものは居るのか?」
慧音の一言で、まるで申し合わせたかのようにブーイングがぴたりと止まる。
騒がしかったギャラリーたちは我に返り、皆の視線は一斉に文のもとへ集まった。
「えと、それぞれ人間達に懸かってた賞金ですが……
博麗 霊夢、一万四千五百円。
霧雨 魔理沙、十万飛んで九千二百円。
十六夜 咲夜、七千七百円。
魂魄 妖夢、六千五百円。
東風谷 早苗、……零円、です」
「居ないのかよ!」
「そりゃ、スペルカードの知識が問われるってことは新参の早苗が不利だからなぁ」
「それでなくてもちょっとアレだし」
「で、この場合、私らが賭けた金はどうなるんだ?」
「まさか、私の総取りー! なんてわけにもいきませんしね」
「はっはっは、もしそうなったら明日は天狗の葬式だな」
「すいませんすいません嘘です冗談です勇儀さん許してください。
こ、ここはひとつ、その、何か公平な勝負でもう一度分配しなおすというのは!」
「公平な勝負?」
「……っていうと、私らにはやっぱアレしかないよな」
ニヤリと笑った勇儀の杯を萃香の瓢箪がなみなみと満たす。
勇儀はそれにほんの少しだけ口をつけ、杯を指先で支えながら言った。
「おいお前ら、暴れたい奴は私について来い!」
「「「おおーーーー!!!」」」
勇儀の号令に従って、妖怪たちは我先にといった様子で続々と外へ飛び出していった。
紫に渡したスペルカードを回収することも忘れたまま。
着物姿の人間五人は、その光景を見て半ば呆れたように笑っていた。
「なんだ、結局こうなるのか。これなら最初から弾幕合戦にしてたほうがよかったな」
「全くね。さて、私はお嬢様の加勢に行こうかしら」
「私も幽々子さまをお守りしないと!」
「あーもー。神社が壊れる前に全員ぶっ飛ばさないとね」
「みなさーん! 私のために争わないでください!!」
先陣を切って駆け出した魔理沙に続いて、霊夢たちも次々と部屋から飛び出していく。
平和主義者のごく少数、というか紫と幽々子と眠っている閻魔様と涙の海に沈んでいるさとりを除いて、
あれだけ賑わっていた部屋の中はきれいさっぱり人気がなくなってしまった。
「私はまだここに居るのに……流石は妖夢だわ」
「ホントにね。幽々子は二次会に参加しなくてもいいの?」
「私は遠慮しておくわ。せっかくのお召し物が汚れちゃうのは嫌だし」
「ふふ、あの娘たちにも聞かせてやりたいわ。その言葉」
「でも、なかなか見ごたえのある勝負だったわよ? 妖夢はまだまだ未熟者ね」
「楽しんでもらえたのはよかったけど、正直言ってまさか早苗ちゃんが優勝しちゃうとは思わなかったわ。
せめて他の娘が優勝してたら丸く収まってたのに……
変に気を回すんじゃなかったわね。0点っていうのもあんまりだし、5点くらいはプレゼントしようかなと思ったんだけど」
「プレゼントする……? ってどういうこと?」
「でも、あの娘たちもなんだかんだ言って楽しそうだったし、それが何よりかしら。
……っと、私ものんびりしてる場合じゃないわね。念のため外の様子を見てくる」
小首をかしげる幽々子を差し置いて、紫はやれやれといった様子でスキマの中へ消えてしまった。
広くなったままの畳の間には、激戦の跡であるスペルカードたちと紫の持っていた読み札が投げっぱなしになっている。
散乱した読み札を代わる代わる見比べて、幽々子はまぁ、と感嘆の声をあげた。
「知らなかった。かるたの読み札って、何にも書かれてなくて真っ白なのね」
「はいはい! 私、ルールを考えました!
今あっちから人間たちが私たちを止めにきてます! 私たちは、その人間達からスペルカードなしで神社の中を逃げ回る!
そして最後まで撃ち落されなかった者を優勝にしましょう! 名づけて『弾幕サバイバル☆2010』! どうですか皆さん!?」
「「「さんせいーー!!」」」
「私の神社で勝手に暴れるなーー!!」
霊夢が妖怪たちを追い掛け回し、それに便乗して魔理沙たちも縦横無尽に神社の敷地を翔け巡る。
逃げる妖怪も追う人間も、それはそれは楽しそうに笑いながら。
妖怪たちを止めに来たはずの紫は、その光景に見入ってしまい、思わず独りごちた。
「……ほんと、平和な世の中になったわねえ」
そこかしこから響き渡る笑い声を聞いて、紫の口元もつられて緩む。
――いつまでもこんな幻想郷でありますように。
紫の願いに呼応するが如く、空から一つ流れ星が落ちた。
でも中盤で早苗さんが0点だった時点で勝者が読めてしまったのがちょっと残念
できるお方。
まさか早苗が勝つとは思わなかったけど。
個人的に弾幕サバイバルが凄い気になるww
しかし、スペカ持たず3人のうち椛は出てきたが、大妖精と小悪魔だけ出てこなかったなw
大妖精は名前だけ出てきたが
面白かった。
ゆかりん良い仕切りでした。
上位互換だからいいのか、それともhard以上だからなのか…。
ああ、スペカ歌留多欲しい。
しっかしこのカルタ、普通にやってみたいですねぇ。