Coolier - 新生・東方創想話

森近霖之助の受難

2010/01/11 10:22:33
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 「暖かいぜ」と魔理沙は呟いた。言葉にしてみると実に気持がいい。
魔理沙は隣を歩く霊夢の横顔をちらり見て、にやっと笑った。
 香霖堂からの帰り路。しんしんと雪が降る中、二人は博麗神社に向かって歩いているところだった。
魔理沙の言葉とは裏腹に、霊夢はまったく暖かそうにはしていなかった。
両腕を体に回し、先ほどから一言も発していない。
できるだけ体温を逃さないよう最善の努力を尽くしていた。
「暖かいぜ」と魔理沙はもう一度つぶやいてみた。やはり気持ちがいい。今度は先ほどよりも大きな手応えがあった。
「くしゅり」と霊夢がくしゃみをした。


*  *  *  *


「まったくひどい話だ」と僕は呟いた。
 外では雪が音もなく降っていて、店の中はいつものように静まりきっていた。
部屋の中央に置いてあるストーブから、炎の燃える音が微かに伝わってくるだけである。
つい30分ほど前では、賑やかであった香霖堂も今は僕一人だけだ。
「日頃から、客などとは微塵も思っていなかったが」と僕はまた独り言を言った。
今さらこんなことを言ってもどうしようもないのに。
「あの二人は、差し押さえ人か何かなのか?」


*  *  *  *


 30分ほど前、ある避けようのない不幸な事情により
僕は冬場に重宝していた上着を一枚失ってしまった。
正確に言えば、無くなってしまったわけではない。
しかし、おそらく当分は戻ってこないだろう。


*  *  *  *

 
 ことの発端は魔理沙の一言だった。
「さて、今日も飯とかいろいろ賭けて勝負するか」
辺りが暗くなり始めたころ、魔理沙が霊夢に弾幕ごっこを持ちかけた。
いつものことである。この二人は、たびたび、食事の支度や風呂焚きなどを賭けて、決闘をするのだ。
「それと寒くなってきたから、今日は別のやつも賭けよう」
 うん? これはいつものことじゃないぞ。嫌な予感が僕の脳裏をかすめる。
「香霖の上着だ。あれがあれば、きっと寒い思いをしなくてすむ」
「魔理沙、ちょっと待つんだ」
 僕は魔理沙に厳重に抗議をした。
まず上着は僕の所有物であるということを主張し
次に二人の決闘に僕は一切関係のないことを説明し
最後に上着が無くなると冬場は非常に寒いということを訴えた。
そしてあっさり却下された。
「いいじゃないか」と魔理沙はストーブを指さしして言った。
「あんな便利なものがあるんだ。十分暖かいじゃないか」
「店の中はいい。でも外出するときは、どうすればいいんだ?」と僕は言った。
言っていて何だか悲しくなってきた。
「あら、霖之助さんは、外になんてほとんど出ないじゃない」と霊夢が言った。
先ほどまでは、暢気にお茶を飲んでいたはずなのだが、今は手にお払い棒を持っていた。
やる気まんまんじゃないか・・・・・・。
「大丈夫。春が来るまで借りるだけだ」と魔理沙は満面の笑みを浮かべながら言った。


*  *  *  *


 窓の外を見ると雪はまだ降っていた。今日は急に冷え込んできて、これが初雪だった。
その降り方は、まだ穏やかで、節度があって、紳士的だ。
しかし冬が深まれば、あの二人のように情け容赦ない大雪が、天から攻めてくるだろう。
 はぁ、と僕はため息をついた。そう言えば、と僕は今年の夏のことを思い出した。
吸血鬼の起こした異変のせいで、すごく寒かったのだ。
異変が解決した後、少しのあいだ夏が戻ってきたが、すぐに涼しくなり、
秋へと季節が移り、そしてその次に冬がやって来た。寒い日ばかりじゃないか。
 僕は上着の無事と、春がなるべく早く来ることを天に向かって祈った。
 はじめまして、私、つばきといいます。ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
 正月休み中、部屋を整理していたところ、自分が昔書いたネタ帳が発掘されました。
ずいぶん懐かしく思いました。当時は、完成させるのをあっさり諦めてしまったのですが、
せっかくの機会なので、もう一度挑戦してみようと思いました。
そして国語辞典と東方Wikiの幻想郷年表をにらみながら、何とか完成させたのがこの短いお話です。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ずらずらつばき
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コメント



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5.30名前が無い程度の能力削除
う~ん、ちょっと短すぎると思います
途中の経過が少ないし、終わり方も中途半端かと
次は出来ればもう少し膨らませた話が読みたいです
10.無評価名前が無い程度の能力削除
あとがきに「短い」と書いてあるけど思わず続きが気になるからこそ、あえて短いのが惜しいと書いておく。
ある意味日常描くとしては何気ない方がいいのかもしれませんが。
新作、続編書くのならば、楽しみにまっております。
12.60名前が無い程度の能力削除
↑得点忘れ
20.無評価名前が無い程度の能力削除
せっかくプチあるんだし短いと思ったならそちら使うのもいいんじゃないかと
29.80名前が無い程度の能力削除
今年の夏が紅霧異変ってことは、次の春は……
頑張れ霖之助。