***
「――この手で、夢を叶えたいんです」
何も不足は無かった。少し過保護なところもあったけれど、あなたは心から私を愛してくれたし、魔界の皆も家族のように私によくしてくれた。魔界での生活は、それはそれは恵まれたものだったと言える。
だというのに私は、自分が持つ魔法の力で得ることができる自分の、自分だけの成果が欲しくなったのだ。それは、今まで苦労も無く生きてきた小娘の戯言でしかなかったのかもしれない。それほど恵まれていてまだそんな甘いことを望むのかと思われるかもしれない。それでも私は――その夢を捨てることはできなかった。
自律人形の作成。その夢を叶えるために幻想郷へ行くという私のわがままに、あなたは反対しなかった。
「アリスちゃんも、自分の道を見つけたんだね。ママとしては嬉しくもあるけど……やっぱりちょっと寂しいかな」
あなたは私の旅立ちの日も、とても辛そうに――それでも精一杯、いつもどおりになるよう微笑んでくれた。そんなあなたの顔を見て決意が鈍りそうになる私にあなたは、
「これ、持ってって」
あなたがくれたものは、一体の人形。ピンとはねた一房の髪が特徴的なそれは、すぐにあなたを模したものだと
わかった。
「寂しかったらこれを私だと思ってぎゅ~っと抱きしめて……ってのは冗談だけど、私たちはいつでもつながってるんだよっていう証に、ね?」
それが私の最初の人形。私が自分の夢へ向かって歩き出すのを後押ししてくれた、始まりの人形――。
***
「最近たるんではいませんか? ナズーリン」
夏の残暑も幾分和らぎ、大分とすごしやすくなってきた初秋のある日、毘沙門天の代理にしてわが主であるところの縞々柄、寅丸星は部屋に入ってくるなり、人里で人気の和菓子屋で買ったとっておきの饅頭と、あんこの甘さに合うよう濃い目に淹れたお茶が織り成す絶妙なはーもにーを楽しんでいた私に向かって言った。なにやらご立腹の様子である。そして先ほどのご主人の発言には私への非難がこもっていたような気がする。饅頭の味に気をとられてちゃんと聞いてはいなかったので確証は無いのだが。もしかしたら私の聞き間違いだったのかもしれない。なぜなら私にはご主人に非難されるような謂れも心当たりもないのである。とりあえず、自らの潔白を再確認するためにもう一度聞いてみることにしよう。
「あー、ええと……ご主人、すまないがもう一度言ってくれないか?」
「あなたは最近たるんでいると言ったのです」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。やはりわが主は私に対して物申したいことがあるようだ。それもたるんでいるときたもんだ。
「たるんでいるといきなり言われてもねえ。私のどこがたるんでいると言うんだい?」
「例えば自分の主を差し置いて、一人だけ勝手におやつを食べているところとか」
皿に並べられた饅頭と私を交互ににらみながらご主人は言った。饅頭を見るときにおやつをねだる子どものような表情を浮かべたのは気のせいだと思いたい。
「これは私のお金で買ったものだよ。それも人気商品だからわざわざ並んでまで買ったんだ。あと自分の業務はちゃんとこなしているよ。今は小休憩の最中だ。一人で食べていたのはたまたま他の皆が外に出かけているからであって決してこそこそ独り占めしようとしていたわけでもご主人を差し置いたわけでもない。なんならご主人も一つどうだい? 少々甘みが強いがさすが人気商品というだけあって中々おいしいよ」
「え……? いいのですか?」
「もちろんだとも」
ほら、と私は饅頭が並ぶ皿をご主人に差し出す。それを見て、パアッとわが世の春が訪れたかのような表情を浮かべるご主人だが、ハッと何かに気づいたようにいやいやと首を振る。まったく忙しい人だ。
「そういうことではありません! 饅頭の話は横に置いておきなさい!」
「ご主人がその話を始めたんだろうに」
「ナズーリン、あなたの役目はなんですか!?」
顔を真っ赤にしながら、ご主人は私に言った。その赤さは怒りからきているのか、それとも自分のミスをツッコまれて恥ずかしくなっちゃったのか、ぜひとも聞きたいところだが、そんなことをしていると話がまったく進まないので私は自分のなかの衝動を抑えつつ答える。
「そんなの決まっているだろう?毘沙門天の代理たるご主人を補佐することが、この私の役目だよ」
先の騒動で聖が復活し、命蓮寺が建立された今も、基本的に私の仕事は変わっていない。優秀だが少々うっかりしているところがあるご主人のサポート(あるいは尻拭い)、それに加えて最近は、寺に来る人里の住民への応対、寺社の掃除といった寺の管理を、命蓮寺に住む他の連中と分担してこなすようになった。ちなみに掃除は先ほど完了し、参拝客も今は来る様子がない。
「私は自分の義務はちゃんと果たした上で、こうして饅頭を堪能しているんだ。それをたるんでいると言われても困るんだが」
「まあ……それもそうですね。しかし……」
あっさりと認めるご主人。しかしどこか納得がいってないのか、うーんと難しい顔のままである。まったく、何だというんだ。そろそろお茶も冷めてきてしまったではないか。仕方ない、淹れ直そうと立ち上がった瞬間、ああ、と何かを思いついたようにご主人はポンッと手を打った。
「ナズーリン、あなたが物を探してないからたるんでいるように見えたんですよ」
……は? 今度ははっきりと、音は聞き取れた。だがその言葉の意味がわからない。いや、言葉の意味はわかるが、あまりにも突拍子のないご主人の発言。フリーズしそうになるのを、なんとか思考回路をフル回転させてやっとの思いで聞く。
「あー、ええと……ご主人、すまないがもう一度言ってくれないか?」
デジャビュ。もっと言えば判を押したようにクリソツ、みたいな。
「だからあなたが物を探してないから、私もあなたがたるんでいるように見えちゃったんです。ほら、春の騒動では聖復活のために幻想郷中を飛び回ってくれたじゃないですか。あの時のあなたの活躍はまさに大車輪と呼ぶにふさわしいものでしたよ、ええ。やはりナズーリンは何かを探しているときが一番輝くんです!」
グッと握りこぶしを作りながら力説するご主人。なんでこの人いきなりこんなにハイテンションなんだ。そもそも、
「いや、あの時は聖復活のためというよりも、ご主人がうっかり失くした宝塔を……」
「やはりナズーリンは何かを探しているときが一番輝くんです!」
大事なことでもないのに二回言うご主人。また顔が真っ赤だが今度は理由を問うまでもないだろう。
「そうは言うがご主人、今は特に探すものなんてないじゃないか。ないものを探せだなんて無茶だよ」
そう。あの時は、私たちの長年の悲願であった聖復活が懸かっていた。そして探し物が、その悲願を果たす鍵となる飛宝と宝塔という重要な物だったゆえに、嬉々として妖怪退治を遂行しようとする紅白や黒白や青白にボコボコにやられそうになりながらも、柄にもなく必死になって探し回ったのである。しかし現在、私をとりまく環境は平穏そのものである。聖の復活は無事果たされ、聖輦船が生まれ変わったここ命蓮寺も人里での信仰を集め始め、先日は縁日も開かれるなど、少しずつではあるが人里にも馴染み始めている。また、私たち命蓮寺の住民も、博麗神社で開かれる宴会に招かれるようになった(幻想郷の住民は、昨日の敵は今日の友を地でいく連中らしい。あの神社が特殊なのかもしれないが)。そして――
「むう。私はもっとあなたに緊張感をですね……」
また不満顔のご主人を見て私は、聖が封印されていた頃を思い出していた。
あの頃のご主人は、悲壮感の塊だった。聖が封印されるのを黙って見過ごしたことを、自分たち妖怪にも手を差し伸べてくれた聖を助けなかったことを、ずっと後悔していた。いつだって苦悩を表に出さないように振る舞い、私たちには無理をして笑顔をみせていた。そんなご主人の姿が酷く痛々しくて――私はご主人の力になることができない自分の無力さを呪った。だからあの時は、自分でも似合わないと思うくらい、物探しに精魂を傾けたのだろう。
「もう、聞いているのですか? 人の顔をじーっと見たりして」
あの頃と比べて、ご主人は自分の感情を出すようになった。不満も愚痴も言うようになった。無理をしてまで、笑うことがなくなった。本当の、心からの笑顔を見せてくれるようになった。
「――平和が一番だよ」
「……はい?」
「私が物を探さなくていいのはきっと、平和な証さ。そうじゃないかい?」
「うーん、まあそうなのかもしれませんが……なんだかナズーリンに上手く丸められちゃった気がしないでも」
「いつものことじゃないか」
「……前から思っていたのですが、あなたには上司を敬う気持ちが足りないのではないですか?」
「まあまあ落ち着いて。ほら、饅頭でも食べなよ」
「ふっ、これで誤魔化すつもりですか? こんなもので私は……」
そういいつつしっかり饅頭を食べるという(しかも二個)教科書どおりの対応をしてくれる主。
まったくナズーリンはいつもいつも――と饅頭をほおばりながら説教を続ける、威厳のかけらもないわが主を見ながら私はこう思うのである。ああ、平和だなあ、と。
「ただいまーっと」
――と、そんなこんなで私が平和をかみ締めていると、私たちがいるこの居間の外から、私とご主人以外の声が響いた。そしてセーラー服が特徴的な少女が居間に入ってきた。
「おかえり、船長」
「おかえりなさい、村紗。外回り、ご苦労様でした。さあ、あなたもこの饅頭をお呼ばれしなさい」
「あら、これ人里で人気だっていう饅頭ね。どれどれ」
ご主人が勧めた饅頭(確認しておくが「私の」饅頭である)をおいしそうに頬張る彼女は村紗水蜜。夏に好評だった縁日を、寒くならないうちにまた開催するという旨を記したビラを、人里で配ってくるのが、本日の彼女の仕事である。地味な仕事と思われるかもしれないが、こういった地道な活動が信仰につながるのだ。ってひじりがいってた。
「もぐもぐ……おいしいけどちょっと甘いわね。お茶が欲しいわ……っと、いけない。人を待たしているんだったわ」
「人……参拝客の方ですか?」
「いや、ナズーリン、あんたに用があるみたい」
「私に?」
「人里でビラを配っていたら声をかけられたのよ。命蓮寺の方ですかって。今連れてくるわ」
そう言って船長は玄関のほうへ出ていった。はて、私に用とな。命蓮寺への参拝者はわりと頻繁に訪れるが、聖ならともかく、私個人に用があるという来訪者は初めてだ。人里は私の主な行動範囲なので、顔見知りの住人はそれなりに増えたのだけれども、わざわざ私に会いに来る人物となると、悲しい話だがまったく心当たりがない。それでも私がそのような人物に覚えがないか、考えをめぐらせていると、どうぞ、と案内する船長に一人の少女が連れられてきた。
「お邪魔するわ」
静かだがよく響く透明感のある声。肩にかからない程度に揃えられたブロンドに白い肌。私が持つ西洋人形のイメージとぴったり重なるその容姿。そしてイメージどころかそれそのものである傍らの人形。
「君は――」
「初めまして、アリス・マーガトロイドよ」
そう言いながら居間に入って私とご主人に向けて一礼をする。横を見ると人形が少女の動作を真似るようにペコリと頭を下げている。……ちょっとかわいいかも。
「ああ、もしや人形劇をなさっている魔法使いさんですか?」
「知っているのかご主人」
「ええ。以前人里でその劇を見かけたことがあります。それにあなたも宴会で何度かお会いしたでしょう?」
確かに見たことはある。宴会でよく黒白の魔法使いにからまれている少女だ。そういえば聖と話していることもあったか。なるほど、魔法使いともあれば聖は同じ穴のムジナ、話題もあるのだろう。だが他の命蓮寺の住人との関わり合いはほとんど無い。その意味では先ほどの彼女――アリス・まーがろいど?(そういえば名前を聞くのも初めてだ)――の挨拶も正しいだろう。そんな彼女が私に用? いよいよもってさっぱり理由がわからない。
「――まあ立ち話もなんだし、どうぞ掛けてくれ」
「ええ、ありがとう」
それでは失礼して、とアリスが、私の対面に用意した座布団の上に座る。自分も飲みたかったのだろう、立ってるついでにと船長、手伝いますとご主人がお茶を淹れにいく。(一応)私より立場が上である二人にやらせるのは気が引けるが、相手は私に用があるようなので今回は甘えることにしよう。二人きりになった居間で、ああこんな洋風の人でも正座とかするんだと、どうでもいい考えが私の頭をよぎるなか、
「それで、ナズーリンというのはあなたのことでいいのかしら」
アリスが面している形で座る私に向かって切り出した。
「ああ、私がナズーリンだよ、アリスさん。なにやら私に用があるみたいだが」
「アリスでいいわ。――ええ、今日はあなたに頼みたいことがあって来たの」
「頼みたいこと?」
ええ、と頷くアリス。……なんでだろう、それを見て急に嫌な予感がしてきたのは。なんでだろう、頭の中で先ほどのご主人との会話がリフレインするのは。なんでだろう、頭の中で地獄鴉がCAUTION‼CAUTION‼してるのは……ってこれは本当になんでだ。そんな予感は次の彼女の一言で確信に変わる。
「探して欲しいものがあるの」
「あれはフラグだったのか……」
そう言うのが私の精一杯だった。
「えーと、その、迷惑だったかしら。いきなり押しかけちゃったし」
突然頭を抱えだした私にアリスはとまどいながら声をかける。いかん、ここで落ち着かなければ小さな賢将の名折れだし、なによりアリスに失礼だ。
「お茶が入りましたよー」
と、お茶を淹れにいった二人が戻ってきた。どうぞ、と人数分のお茶を机に並べながら、
「何青UFO間違えて取っちゃったような顔してるのよ」
と船長が訝る。どんな顔だそれはとツッこむ余裕もない私は、ただ出されたお茶を飲むのみである。
船長とご主人が淹れてくれたお茶を飲んでなんとか平静を取り戻した私は、申し訳なさと不審さが同居した表情を浮かべるアリスを見直す。
「――ああ、いや違うんだ。確かにいきなりで驚きはしたが迷惑とかではないよ、うん」
「そう? ならいいんだけど……」
「それで、探してほしいものがあるということだが、いったい何を探しているんだい?」
気を取り直して私がそう尋ねたとき、傍で私たちの話を聞いていたご主人の体がピクッと跳ねたのを、視界の端で捉えてしまった。「探してほしいもの」というキーワードに反応したのだろう。うう、なんだかめっちゃいい顔しているのがわかるがスルー、スルーだ。
「人形よ」
自分に用意された茶菓子だと思ったのか、饅頭(しつこいようだが『私の』である)を手に取りながらアリスが答える。……まあお客さんだしね。しょうがないよね。
「人形?」
「そう、人形」
そう言いつつ、お茶を飲む。お茶で甘みを流しただろう、心なしか至福の表情である。わかるよ、私もさっきまでそれを楽しんでいたからね。それにしても――人形を遣う魔法使いが人形を探している? 私は何かひっかかりを感じた。私は魔法使いという種族のことは、聖という身近な存在がいながらも詳しくは知らない。だが魔法使いに限らず、何かを研究する人種というのは得てして自らの成果を秘匿したがるものである。そのような人種である彼女が、自分の成果の結晶たる人形の捜索を、初対面の私に依頼するものだろうか。
「どうしてそれをナズーリンに? 人形遣いのあなたなら他人に頼まなくても自分でなんとかなるんじゃないの? その――よくはわからないけど魔法かなんかで」
私とは別の観点で疑問を感じたのか、船長がアリスに尋ねる。それを受けてアリスは、その質問を予想していたように答えた。
「確かに普通の人形は私の魔法の管理下にあるから自由に動かせるし、例え命令を受け付けないくらいに距離が離れていても人形の位置は把握できるわ」
それこそ幻想郷くらいの範囲ならどこだってね――とアリスはチョコンと正座している人形を指す。正座する西洋人形というのも珍しいものだ。机の上で、というのが少々行儀が悪いが、かわいいから許す。
「つまり……探しているのは普通の人形ではないと」
ご主人が表情を引き締めて聞く(こうしていればホント、毘沙門天の弟子にふさわしいのだが)。その問いに対してアリスはさっきとは違って少々答えにくそう言った
「ええ……そうね。普通の人形じゃないというか、逆に普通の人形というか……」
「なんだか要領を得ない答えだね」
「まあ私の管理下に無い人形なのよ。操作もできないし探知もできない。部屋に飾っておくだけの、本来の意味での人形ね」
なるほど。なんの変哲も無い人形なら私に頼んでも問題は無い、か。
「でもどうしてそんな人形がなくなったりするんでしょうか」
「勝手に動き出したんじゃないの?その人形みたいに」
まるで意思を持つかのように動く(今は正座しているが)人形を見る船長の考えに、アリスは首を横に振って答えた。
「私の人形は勝手に動いてるわけではないの。私が予め組み込んだアルゴリズムに従って、周りの環境に対応した動作を実行しているにすぎないわ。複雑な動作は私が直接操作しないといけないし。それに、人形が何をするにも私の魔力が必要だしね」
自律人形には程遠いわ――と付け加えるアリスだが、この人形の滑らかな動作が、直接的にも間接的にもアリス自身の操作によってなされているという事実に、内心驚きを感じていた。アリスの話が本当だとしたら、恐ろしい技術力である。ご主人はすごい――と口にしているし、船長の表情を見るに、私と同じ感想を持っているのだろう。
「だから勝手に人形が動き出すなんてことはないと思うわ」
「――とすると、誰かに持ち出された?」
「あるいは盗まれた、ね。まあシーフには物凄く心当たりがあるけど、やっていいことと悪いことの分別はついてる奴だからそいつは除外ね。本人にも直接聞いたし。というかあんな人形を持ち出すメリットなんてないのよ。本当に普通の人形だから」
そう言って肩をすくめる。そして皆一様に首を傾け、居間にもやもやとした空気が流れる。
「探し物の概要はこんな感じよ。見た目とかもろもろのことは、引き受けてくれたら後で話すわ。それで、頼まれてくれるかしら? ああ、もちろん相応のお礼はするわよ」
「うーん」
ここまで話を聞いておいてアレだが、正直気は進まない。今は休憩中だか私もそれほど暇なわけではない。寺の業務だってあるしね。お礼にしたって食うには困ってないし特に入用というわけでもない。私が渋っていると、
「ナズーリン、ぜひ引き受けなさい」
ご主人の、普段とは違う荘厳さを伴った声が高らかに居間に響き渡った。
「いやいやご主人、私にも仕事があってだね」
「寺のことですか? 確かにそれも大事でしょう。ですが彼女はあなたを頼ってここ命蓮寺に訪れているのです。そんな彼女のために一肌脱ぐのもまた、命蓮寺に住む者の大切な役目なのではないですか!?」
これが噂の「かりすま」か。威厳たっぷりにそういうご主人には後光が差しているようである(決してへにょりレーザーではない)。ご主人の纏う雰囲気にあてられたのか、船長もうん、うんと涙を流さん勢いでしきりにうなずいている。アリスもますます期待の目で以って見つめてくる。――まずい空気だ。だがしかし、長年の付き合いで養われた私の眼力は、ご主人の目の奥でキラキラと輝く、ワクワクの光を見抜いていた。そんなに私の勇姿が見たいのか。物を探す姿を勇姿というのかは定かではないが
「しかしだね……」
「あら、いいじゃない引き受けてあげれば」
居間に新たに響く優しく柔らかな声。そんな声の持ち主はここ命蓮寺には一人しかいない。
「聖、おかえりなさい」
いつのまにかテンションが戻った船長が挨拶で出迎えたのは命蓮寺の主、聖白蓮。母親を思わせる穏やかな微笑みでそれに応える。
「はい、ただいまみんな。そしていらっしゃい、アリス」
「お邪魔しているわ」
「聞いていたのかい?」
「最後のほうだけね」
「聖からも言ってあげてください。ナズーリンったらなぜか気が乗らないようで」
半分はあんたのせいなんだが。それを聞いて聖は、あらあらと首を傾けながら、
「仕事のことなら気にしなくていいのよ? 私たちが代わりにやっておくから」
「……」
仕事のことなら――実はそれほど気になってはいない。もう半分の理由は――
「せっかくアリスもこうしてきてくれたのだから――ね?」
そう言いながら、聖は私の手をとって微笑みかけ、その後ろではご主人と船長が、私を促すように頷いた。それを見て、私は最も根本的なことを思い出した。
「――まったく、みんなそろって人が良い」
そう、ここは命蓮寺。人妖分け隔てなく救いの手を差し伸べるお人好しが集っているのだ。そして――
「あなたもですよ、ナズーリン」
ふふっ、といたずらっぽく私に笑いかける聖。やれやれ、まったく敵わない。後ろでは笑いをこらえている輩もいるし。
「前言撤回、やっぱり人が悪いかもね聖は――アリス」
「引き受けてくれるのね?」
ああ、この人までなんだかにやついていらっしゃる。
「ああ、お待たせしたね。君の依頼――確かに引き受けたよ」
仕方ない。やるからには命蓮寺の、そしてダウザーの小さな大将の名に恥じない働きをしようじゃないか。
「うんうん、それでいいのですよナズーリン。では聖」
「ええ、星と村紗は引き続き業務に当たってください。私も少し休んだらまた里に出ます」
「わかりました、ではごゆっくり。ナズーリン、あんたもしっかりね」
そうしてご主人と船長が居間を後にした。
「それじゃああなたにも準備とかあるだろうし、私も外で待ってるわ」
「ああ、すぐに行くよ」
「お邪魔したわ。白蓮、ごきげんよう」
「はい、また宴会ででも」
続いてアリスも外に出て行く。あまり待たせるのも悪いし、私もとっとと準備して出ることにしよう。
「じゃあ聖、私も失礼するよ。ゆっくり休んでくれ」
「ナズーリン」
用意に取り掛かろうと居間を出ようとする私を聖が呼び止める。
「なんだい?」
「あなたが物を探すからといって――平和が逃げるわけじゃないのですよ?」
真剣な面持ちで聖が私を見つめる。何も言えず――ただ呆然とするしかない。しばらく無音の時間が続いたあと、ふっといつも通りの柔らかな笑みに戻って、
「――いってらっしゃい」
――お見通しか。そのうえで背中を押してくれる。本当に――敵わない。
「――いってきます」
私も精一杯の笑みで応える。
さっきよりも少しだけ軽くなった足取りで、今度こそ私は居間をあとにする。
さあて、憂鬱な気分も晴れたことだし、いっちょネズミが踊る大捜査線、いってみようか――!
「そうそうナズーリン、ここに置いてあるお饅頭、頂いてもいいのかしら」
「……いいんじゃないかな」
結局一個しか食べてないじゃないか饅頭(飽きているところ悪いが【私の】である)。
***
準備を終わらせて、外で待つアリスのもとに向かう。
「待たせたね、早速だが始めようか」
「ええ、改めてよろしく頼むわ」
手を差し出してくるアリス。私もそれを握り返す。これで正式に契約成立といったところか。おっとそうだ。
「アリス、私のことは誰に聞いたんだい?」
探し物を探し当てる程度の能力。ダウジングロッド、ペンデュラム、そして幻想郷に存在するネズミを用いてどんなものでも、どこにあろうと見つけてみせるというのが私の力であり、自負であり、誓いだ。アリスもそんな私の能力に期待して、ほぼ面識の無い私を訪ねたのだろう。
「魔理沙よ。霧雨魔理沙。わかるかしら」
――あの黒白か。箒と三角帽子という、魔法使いにしか見えない格好をした彼女だ。アリスと交流があってもなんら不思議ではない。つまりアリスは、既に自分の知り合いに人形を失くしたことを伝えているのか。
「人形が無くなったのは三日前。この三日間、心当たりがありそうな人には聞いてみたし、人形がありそうなところにも行ってみたわ。でも成果なし。さあどうしましょうってなっていたところで、あなたのことを聞いたのよ」
「――なるほど」
涼しい顔をしているが、よく見ると疲労の色がうかがえる。この三日間、手を尽くしたうえに、心配であまり眠れていないのだろう。いかにアリスにとって、人形が大事なものかが垣間見える。さしずめ私は、大げさだが最後の希望といったところか。これはいよいよもって責任重大だな。
「話はよくわかった。期待に添えないかもしれないが、私もできる限りのことはしよう」
「ええ、頼りにしているわ」
「じゃあその人形の見た目を教えてくれ。情報は多いほうがいい」
「アホ毛よ」
「……はい?」
「たくましくそびえ立つ銀髪のアホ毛。こんな人形、幻想郷広しといえど一つしかないわ」
なにやら微妙な面持ちで答えるアリス。私もきっと同じ顔をしているのだろう。
「……あーアホ毛ね、アホ毛。よくわかった、よ?」
とりあえず有益な情報には違いない。外見が特徴的なのは、探すほうにしてみてもありがたいことだ。
よし。アーアー、こほん。
「幻想郷のネズミたち全てに伝え! これより対象の捜索を開始する! 範囲は幻想郷全域、対象はアホ毛が特徴の人形! 特徴に一致する人形を発見次第、直ちに報告されたし! 小さな賢将の名の下に、各々自らの役割を全力で果たせ!」
散開! の締めとともに、そこらに潜んでいた数え切れないほどのネズミが次々と飛び出しては、散っていく。その光景に、アリスが唖然としている。
「驚いたかい?」
「……すごいわね。色んな意味で。これじゃあ人里とか大混乱じゃないの」
「その辺は配慮してるよ。なぜか人間はネズミが苦手らしいからね」
「神社とかいったら全力で退治されそうな気がするわ」
「……」
ネズミは隠れるのが上手いから大丈夫さ、と言いたいところだったが、どっちの神社にいってもただではすまない気がしてならない。本当にあの巫女たちは神に仕えているのか。
「……まあこれでじきに見つかるはずさ。ネズミの目は幻想郷のあらゆるところに存在するからね」
尊い犠牲に思いを馳せつつ、できるだけ余裕を見せて答える。不安にさせるわけには、いかない。
「確かにこれなら大丈夫そうね。じゃあ私たちも人里へ行きましょう」
「人里はまだ探していないのかい?」
「ええ、あなたのことを聞いて命蓮寺に行ったあとにしようと思って」
「そうかい。あそこは人も多いし、何かしらいい話があるさ」
慰めにもならない慰めに、それでもアリスは――ええ、そうね、と変わりなく涼しげな顔で答えた。
――強いんだな。その横顔にそんな感想を抱きつつ、私たちは人里に向けて出発した。
人里までは飛ぶような距離でもないので、てくてくと二人並んで歩く。先日まであれほどうるさかった蝉の声はパタリと途絶え、代わりに秋の虫たちが奏でる音色と、風が木々を揺らす音だけが幽かに聞こえてくる。少しだけ日の短くなった秋の空は、その色を赤く染め始めている。そんな趣のある雰囲気と、私がどちらかというと静かなのが好きであるということも相まって、二人の間に会話が無いのもそれほど気にならなかった。それはアリスも同じのようで、相も変わらず涼しげな顔で歩を進めていた。まあこんなのも悪くはないが、せっかく縁が合ったことだし、親交を深めてみるのもいいだろう。そこで私は話のタネにと、少し気になっていることを聞いてみた。
「ところでアリス」
「――ん、何かしら」
「探し物は、魔法の道具でもなんでもない普通の人形だということだが、なぜそんな人形を見ず知らずの私に頼んでまで探すんだい? 別にわざわざそんなことしなくても君ならそのくらいの物簡単に自分で作れそうだが。その人形も君が作ったんだろう?」
アリスのそばでふよふよ浮いている人形を指差すと、その人形は手を挙げて、シャンハーイと私に応じるように声を出した。くそう、かわいいなあ。私の問いに、アリスは先ほどから何度か見せている微妙な表情になった。これは――困っているのか?
「――ああ、話しにくいのなら無理に答えなくてもいいよ。興味本位で聞いただけだからね、捜索には影響しないよ」
「……話しにくいのは間違いないんだけどね」
うーん、とアリスは今度こそはっきりと困ったように唸った。まずいことを聞いてしまったのだろうか?
「……母からもらったのよ」
と、アリスはポツリと聞こえるか聞こえないかの小さな声でそう言った。
「母? 君の母親かい?」
「そう、わたしが故郷を離れて幻想郷に来るときに、自分の代わりに、ってね」
母からのプレゼント、か。それは大事なものだろう。そしてそんな大事なものの捜索を私に任してくれたことに改めて責任と――少しの喜びを実感する。さて、それよりアリスの顔が心なしか赤い。それはそうだろう、誰だって親の話をするのは気恥ずかしいものである。
「なるほど、母親からね。その贈り物をそんなに大切にしているくらいだから、さぞかし故郷を離れるのはつらかったんだろう。どうしてそうまでして幻想郷へ?」
少し踏み込みすぎかとも思ったが、そしてあまり他人に関心を抱かない私がそんな質問をしていることに驚いたが、顔を赤くしながらも、嬉しそうな顔を見せるアリスを見て――もう少し彼女のことが知りたくなったのだ。そしてアリスは、今度ははっきりした声で、
「――この手で、夢を叶えたくなったのよ」
世界に宣言するように、そう答えた。
「――夢」
「そう、完全に自律した人形を自分の力で生み出すために――ゼロから始めるために、私は幻想郷に来たの。親の手を借りたくなかったっていうかね。何か一つだけでも自分の力で成し遂げたくなった。自分で知識を仕入れ、自分で理論を実践し、自分で必要なものを揃え、自分でものを作り出す。そんな試行錯誤を繰り返したその果てに――自分の夢を掴み取る。それが故郷を離れた理由よ」
なんだかこう言うと反抗期みたいね――そう言って苦笑しつつも誇らしげな彼女は、先ほどのクールな印象とは違って、夢を語る少女そのもので。そして私は淡々と紡がれた彼女の言葉に潜む力強さと情熱に、不覚にも――心打たれてしまった。
「っと。つまんない話しちゃったわね」
黙ってしまった私を見てごめんごめん、と苦笑いしながら謝るアリス。
「――いや、とても興味深い話だったよ。さあ、早く見つけてあげよう。大事なものなんだろう?」
「ええ、もちろんよ」
感動だなんて柄にも無い。きっと私の顔も赤くなっているんだろう。やれやれ、夕焼けに感謝だ。もっとも、私が見抜いたように、アリスにもバレバレなのかもしれないが。
夕方ともあって、人里の人通りは昼時よりも減ってはいたが、夕食の買出しなどもあるのか、それなりに道行く人は見受けられた。私もアリスも人里には何度も訪れているので、聞き込みは割とスムーズに進んだ。日が落ち、辺りが暗くなって通行人が途絶えるまで続けてみたが、しかし有益な情報は無し。内心期待していたのだろう、アリスは目に見えて落胆していた。ネズミたちの報告も未だゼロだ。
「いよいよもって手詰まりね……」
肩を落とすアリスを見て、幾分の申し訳なさを感じる。何か――何か手がかりはないか。――と、
「――そうだ、森の方に古道具屋があったな」
先の騒動でご主人が無くした宝塔を見つけたのもそこだった。そのときの店主との値段交渉は私の人生でも5本の指に入る激闘だったが、今はそんなことはどうでもいい。
「香霖堂のことね。残念だけど、真っ先に行ってみたわ」
「……そうか」
「でもこの三日間で売られた可能性もあるし、行く価値はあるかもね」
そう言って涼しげな顔で、しかしおぼつかない足取りで古道具屋に向かいはじめるアリス。――いけない。
「待ちたまえ」
キョトンとした表情を浮かべてこちらに振り返る。
「アリス、もう日が沈んだことだし、君は一度家に帰って休んだほうがいい」
「……私なら問題ないわ。それに、夜は魔女の時間よ?」
なおも涼しげに答える。だがもはや疲労は隠せていない。体力も気力も限界だろう。
「そんなフラフラな体でよく言う。ネズミの捜索は日をまたぐことになるかもしれないし、私としては一旦休むのが、体にも効率的にもベストだと思うがね。『急がば回れ』あるいは『急いては事を仕損ずる』というやつだよ」
でも――とアリスはうつむいてしまう。理性ではそれが一番いいと理解しているのだろう。だが感情が、人形への思いが、それを許容しない。なら私がやるべきことは一つ。
「安心しなよ。君が休んでいる間は、私が捜索を続けるからさ」
私の言葉に驚いたように顔を上げるアリス。そんなに意外だったか? まあ意外だっただろうな。
「そこまでしてもらうのはさすがに……悪いわ」
「気にしないでおくれ。乗りかかった船だし、命蓮寺の教えは困った人に救いの手を、だからね。それに」
夜はネズミの時間だよ――
けれん味をたっぷり含めた言葉とともに笑いかける。さて、少しは安心してもらえただろうか。と、アリスは目を丸くしたと思ったら、
「――っぷ、くっ、あはははは、ちょっ、かっこつけすぎよ、あなた」
爆笑されてしまった。
「……はあ。似合わないことはやるものじゃない。こんな時間になってやっと気づいたが今日は厄日だよ、まったく」
うわぁ、めっちゃ恥ずかしい! クールを装ってみるが今度こそ顔が真っ赤なのはバレバレだろうな、うう。
「あはははは――はぁ、ごめんごめん、イメージと違っちゃったからつい、ね――でも、そうね。こうなったらとことん甘えさせてもらおうかしら」
まあ少し予定とは違ったが、安心してもらえてなによりである。やっと笑い終わったアリスは、真剣な眼差しをこちらに向け、そして、
「――私の大切なものをお願いね、ナズーリン」
「――ああ、任せてくれ、アリス」
そう言ってアリスは、最後に微笑みを一つ浮かべて、森のほうへと飛び去っていった。それを見送った私は、ダウジングロッドを取り出す。信頼には応えなければならない。こうなったら幻想郷中を飛び回ってやろうじゃないか。飛宝と宝塔を探したとき以来の大捜索だが、気力は充実――。さあ、ここからが、小さな賢将の本領発揮だ――!
――と、私が少年漫画的なノリで気合を入れたそのときである。
『報告します。対象を発見しました』
比喩ではなくずっこけた。今日は気合が空回りしっぱなしだこんちくしょう。慌てて落としたダウジングロッドを拾いながら、浮かんだ疑問を報告してきたネズミに向けた。
「――あまりにもタイミングがよくないかい?」
まるで私が一人になるのを待っていたかのような――。改めて詳しく報告を聞く。
『実は人形自体は捜索開始からしばらくして見つかりました。ちょうどご主人様が聞き込みをしていた頃です』
「ならなんでそのときに報告しなかったんだい?」
私の当然の疑問に対するネズミの答えは――私の想像を超えていた。
『人形の希望です――』
「……何だって?」
『人形が私たちに言ったのです。どうかアリスには言わないでくれ、と。とても必死に訴えてきたので無碍にするわけにもいかず、とりあえずご主人様が一人になったときにご報告しようかと』
「待て、待ってくれよ……? 人形の願い? 必死になって訴えてきた? それは本当に私たちが探している人形なのか? 妖怪か何かの間違いじゃ――」
『特徴は一致していますし、どこからどうみても人形でした。それにアリスさんのことを知っていたのでまず間違いないと思われます。確かに不思議な話ですが……』
不思議どころの話ではない。自分で動いて喋って、その上感情まで表現して。それはまるで
――自律した人形じゃないか
しかしアリスはそれを自分の手で作るのが自分の夢だと語った。つまり――まだそれは実現していないということだ。
「……場所は?」
『再思の道を抜けた先の無縁塚です』
「そうか――ご苦労だったね、ご苦労ついでにそこまで案内してくれるかい?それと――」
『――了解しました』
わからないことだらけだが、とりあえずそこに向かうしかない。さて、どうする。さて、どうなる。果たして私は、正解を選んだのだろうか――。
***
辺り一帯に彼岸花が咲き始めている。もう間もなくすればこの辺りは華麗な、あるいは毒々しさを秘めた紅色で染め上げられることだろう。その光景はどこか非現実性を帯びながらも、死に近いこの道には余りに似つかわしい。そんな、あの世を連想せずにはいられない道を抜けた先は、今度こそ自分が冥府へと足を踏み入れてしまったと錯覚する、まさにこの世の穢れを取り払ったかのような、生きている限り目にしてはいけないような美しさをもつ場所だった。そして――
「――お待ちしていました」
顕界の時間を忘れるように紫に咲き誇る桜並木の間に、紅いローブに六枚の翼を携え、そしてピンと跳ねた一房の銀髪が特徴的なそれは――彼女はたたずんでいた。アリスが連れていた人形とはまったく違う、意思を帯びた声が響く。
「待っていたって――私を?」
はい――と憂いを帯びた目で――人形であるはずなのに感情が読みとれてしまう――私を見つめながら、彼女は頷いた。
「私を見つけてくださったあなたに、お話があるのです」
「……まあいろいろ言いたいことがあるようだけど、私もわからないことだらけでね――まず、君は一体何なんだ?」
その問いに目を伏せる人形。この感情表現。もうこれは完全に――
「お察しの通り、私は自律した人形です」
「だよね……。こんなに流暢に、感情豊かに喋られて自律してませんなんて言われたら逆に驚くよ。でもアリスの話によるとまだ自律人形は作れないということだったけど」
「そう、アリスは非常に豊かな才能と、優れた技術を持ってはいますが、まだその域には達していません。ですから私を作ったのは別の人物です」
「別の人物――アリスの母親か」
母親という単語に反応したのか、ますます顔を伏せてしまう。
「――母親といえばその通りです。魔界のものは全て創造主たる神綺様が生み出したもの。私も、そしてアリスも、例外ではありません」
魔界といえば、聖が封印されていた場所だ。アリスは魔界の出身だったのか――。そして、あの場所にある全てを、たった一人の個人が作りあげたなんて――まさに神様じゃないか。なるほど、それほどの力を持つ者なら自律人形を作ることなんて造作もないことだろう。逆に言えばアリスは――神の領域に挑戦している。
「そう、アリスの挑む壁はあまりに高い――それこそ無謀とも言えるほどに。でも神綺様は、アリスが初めて持った夢を尊重しました。嬉しかったのでしょう、自分の娘とも言える存在が、自らの意思で歩みだそうとするのが」
「そして旅立ちの日に、君をあずけた――」
頷く人形。さらに彼女は続ける。
「いつかアリスが自分の力だけで進めなくなったとき、私が自律した人形であることを打ち明け、自分を研究の糧にする。アリスの夢の力になること――それが神綺様の願いであり、私の願いなのです。そのときまで、私は何の変哲も無い人形の振りをして、ただアリスの努力を見守っていました。でも――」
「でも?」
そこまで話すと、いよいよ人形は今にも泣き出しそうな、あまりに悲痛な表情を浮かべて黙り込んでしまった。アリスの夢を聞いた私には、もう何が言いたいのか痛いほどわかる。そして人形はやっとのことで声を絞り出した。
「アリスの研究が成功するのを、そして失敗するのを何度も何度も見ているうちに、私は思うようになったのです」
「私の存在が――アリスの夢を壊すのではないかと――」
そう、アリスの夢は『自分の手』で夢を叶えることだ。答えそのものである彼女を踏み台として作り上げたものは、果たしてアリス自身の手によるものだと言えるだろうか。
「――別に君をヒントにしたところで、ポンと答えが出せるわけでもあるまい。そんなに気に病むこともないんじゃないか?」
あえて、思ってもいないことを口にする。私の無神経とも言える物言いに、当然彼女は首を振る。
「アリスはプライドの高い子です。そんな形で実現した夢を、アリスは自分の力によるものだと認めはしないでしょう。そしてそれは、今までのアリスの努力を――完全に無にする。」
「――だろうね。変なことを言ってすまなかった。それで、じゃあどうするんだって考えた結論が、家出かい」
黙り込んでまたうつむく。それはそうだろう。自分の存在意義とアリスへの思いというジレンマを抱え、きっと、ずっと一人で――苦しんできたのだ。
「この三日間、誰にも見つからないようにここで、自分のこれからを考えていました。アリスの夢は壊したくない、でも神綺様の願いを果たせぬまま消えるわけにもいかない! 考えれば考えるほど――わからなくなった」
きっと彼女が人形でなかったら、大粒の涙を流しているのだろう。それほどまでに彼女の独白は――悲痛だった。
「そうやって堂々巡りを繰り返しているころ、ネズミが私の下へ来ました。アリスとともにあなたを探している者の使いだと、そのネズミは言いました。それを聞いて私は決意したのです」
そして彼女は顔を上げ、今までにない強い意思を伴った瞳を私のほうへ向けた。
「ネズミの妖怪さん」
「ナズーリンだ」
「ではナズーリンさん、あなたにお願いしたいことがあります」
「お願い? それが私を待っていた理由かい?」
「はい。どうかナズーリンさん、私を」
私を――破壊してください――
――言葉を失う。破壊する? 私が? 誰を?
「いっ、いったい、何を言って――自分が何を言ってるかわかってるのかい?」
「もちろんです」
「――ッ! わかっているのなら尚更だ! いいかい? 私はアリスに君を探してくれと頼まれたんだ。決して壊すことじゃない! それにアリスはこの三日間、ずっと君のことを心配しながら必死で探していたんだ、なかなか顔には出さないけどね。それだけ君のことを大切に思ってるんだ、なのに――」
――私の大切なものをお願いね、ナズーリン
別れ際の彼女の言葉がよぎる。
「私も役目を果たせぬまま消えたくはない。心配してくれているアリスにも悪いとは思います。でもそれ以上に――アリスの夢を邪魔したくはないのです」
「そんな――」
人形の決意は変わらない。彼女の表情がそう告げている。そんなアリスのことを第一に考える人形の思いはまるで、――母親のようで。
「アリスには、私のことは見つからなかったと伝えて――ああ、ダメですね。それではあの子は諦めてくれない。やはり、私の残骸をみせるくらいしないと、あの子はずっと私を探し続ける。だから、ナズーリンさん、こんな役目を押し付けて本当に申し訳ないとは思います。だけど――あなたしか頼める人がいない。大丈夫、私はただの人形です、どうか気になさらないで――」
無茶を言う。人形だから気にするな? そんなこと、アリスの――そして彼女の思いを知った今、できるわけがない。
「――君はそれでいいのか」
何も言わず、微笑んで目を瞑る人形。ああくそ、本当に母は強い。そんな最強の存在に勝てるのは、
「どうなんだ!? ――アリス!」
可愛い可愛い娘しかいないだろうに。
桜の木の陰から、アリスが出てくる。さっきまで連れていた人形はいない。そして、うつむいていて表情は見えないが、話は聞いていただろう。
「――どうして」
人形が目を見開いて、やっとそれだけを言う。
「私がここに来る前に子分に頼んで呼んでおいたんだ。約束を破ることには少々心を痛めたがね」
依頼はここまで。これで良かったのかはわからない。私はやってはいけないことをやってしまったのかもしれない。それでも――あんな結末だけはごめんだ。とにかくアリスに任せるしかない。私は――ただ見届けるのみ。
「――アリス」
人形が、気まずそうに声を掛ける。当然だ。決して知られてはいけない秘密を、決して知られてはいけない者に知られてしまったのだから。そして人形がアリスのそばに近づこうと浮かび上がったそのとき、アリスがガバッと人形の体を壊れんばかりに抱きしめた。
「――バカ」
ただ一言。そう言ったきりアリスは、体を震わせて、嗚咽を交えながら、ただただ抱きしめるだけである。もう二度と離さないかのように――もう二度と失わないようにするかのように。
「――アリス、ごめんなさい。私はずっと――あなたを偽ってきました」
人形の謝罪にも、嗚咽を以って答えるのみ。
「私は、あなたの夢の助けになりたかった。でも――重荷にはなりたくない」
その言葉に、アリスは首を横に振りながら、涙声でなんとか言葉を紡ぐ。
「おもに……なんかじゃ……ない、よ」
「――え?」
「重荷なんかじゃない……私が魔界をはなれて……ひとりぼっちだったときもずっと、ずっとそばにいてくれた。さみしかったときも、神綺様が――お母様が見てくれてるような気がした。私も、思わずお母様って話しかけちゃったり、さ」
そう言いながら腕をほどき、人形の顔を見つめる。その顔は普段のクールな表情からは想像もつかないほどグシャグシャだ。
「自律してるって聞いたときは驚いた――すごく驚いたけど、同じくらいに――嬉しかった。全部見ててくれたんだって。だから自律してたってあなたは私の」
大切なものだから――
「アリス――」
「だから、邪魔だなんて言わないで。重荷だなんて言わないで。ずっと――そばにいて」
グシャグシャのまま笑いかける。そしてもう限界だったのだろう。人形がアリスの胸に飛び込んでいった。
「ごめんなさい、ごめんなさい――!」
「ううん、私のほうこそごめんね。ずっとあなたを、苦しめてきた」
「そんなことない、そんなことないのです。アリスが成長するのを、アリスがお友達と笑っているのを見られただけで私は――とても幸せです」
こうやって抱きあう二人の姿は、背丈はあべこべでも――本当に母娘のようで――。そばで見ているとこの私でさえ、胸にくるものがあった。泣かない、絶対泣かないぞ。
「だからアリス」
「うん?」
「最後にお話できてよかったです」
「――え?」
アリスが、人形を胸から離し、呆然とした表情で人形の目を見た。私も同じように、人形のほうへ顔を向ける。
今、彼女が何かおかしなことを言った気がするからだ。
「今、なん、て」
「私の役目は、私が自律していることを明かし、研究の役に立ててもらうこと。その役目が果たされた今、もうすぐ私は機能を停止します」
「そんな! どうして!」
「そうだよ! アリスが君の事を知ったんなら、もう君が消える意味なんて無いじゃないか!」
ずっと見守るつもりでいたが、思わず口をはさまずにはいられない。
「神綺様は最初からそのつもりで私をつくりました。ただ私の器という道筋だけを残し、私の意思は消えるように。私も何故そんな酷なことを神綺様がなさるのか、ずっとわかりませんでした。だけどアリスに抱かれて、やっとその理由が理解できました」
「理由――?」
人形は心から満ち足りたかのように、全てに納得したように頷きながら、己が終わる理由を告げる。
「親はいつか――子離れしないといけないのです」
人形は、呆然とするアリスの胸に寄り添い、
「だから、お別れです――アリス」
「――ッ!」
アリスもその小さな体を強く、強く抱きしめ返した。
「あなたのおかげで、こうして幸せな終わりを迎えることができました。あなたがいなければ私は――何も残せないままだった。ありがとう、ナズーリンさん」
律儀にも私に礼を言う人形。ああもうまったく。
「時間がないんだろう? 私のことなんか放っておいて、アリスを抱きしめてあげなよ」
「――ありがとう」
先ほどまで生きているのかと見まがうくらいに感情豊かだった表情はもう、アリスの連れていた人形のそれと変わらないほどになっている。もうすぐ、言葉を発することもできなくなるのだろう。
「アリス」
「……」
「私の体を使うも使わないも、あなたの自由です。そしてどんな選択をしても、あなたは掴み取った夢を誇ればいい。だから――」
「――もし」
「え?」
「もし本当にどうしようもなくなったら、私はあなたを頼るかもしれない。でも私には、自分の力でやれることがまだまだたくさんある。だから、私はもう少し自分の足で歩いてみるわ。せっかく背中を押してもらったのだし、それに」
私もそろそろ――親離れしなくっちゃね――
涙を流しながら、それでも精一杯笑うアリスが出した答えに、人形が満足げに頷き返す。
「ねえ、私が自律人形の作成を実現したら、またあなたに会えるかしら」
「それはわかりません、だけどそうなれば――とても素敵なことですね」
「でしょ? だからいつの日かきっとあなたに――神綺様に追いついてみせるわ」
「ええ、楽しミに、待っテ、いマ、ス」
人形の発する言葉がどんどん不明瞭になっていく。その場にいる全員が、終わりのときを悟った。
「――アリが、トう。あな、タがゲンきにソだっ、テく、れて、本とウによ、カッた」
「――ありがとう。あなたがいてくれたから――私はここまで頑張れた」
万感の思いをこめて、最初で最後の礼を言い合う二人。そして――
「あア、そうでシ、た」
「え?」
「ぎゅ~っト、抱キし、めテ、くれタね、あり、ス、チャん」
その言葉を最後に、人形はさっきまで動いていたのが嘘のように、アリスの胸の中で静かにその機能を停止した。
「――もう、まったく、最後のセリフがそれ? やっぱり神綺様が作った人形ね」
いつもの調子を装いつつアリスが立ち上がる。月明かりが照らす、涙を拭いたアリスの表情は、目は真っ赤だが、とても晴れやかで――その瞳には強い決意の光が宿っているように見えた。そんなアリスを見て、これなら大丈夫だと、人形が案じたようなことにはならないだろうと思う。きっと彼女はどんな選択をしようと、自分の叶えた夢に胸を張ることだろう。
無縁の塚に吹いた風が紫の花びらを舞い散らせるなか、一つの人形の物語が終わり、一人の人形遣いの新たな物語が始まった。もう動かないただの人形。それでもその顔は、娘の成長を祝福する母親のように、優しく微笑んでいるようであった。
***
「最近たるんではいませんか? ナズーリン」
秋も少し深まりをみせ、夜は肌寒くなりつつある中秋のある日。らんぐどなんたらとかいう軽い食感が後を引くクッキーを紅茶で流し込むという、およそ寺には似つかわしくない組み合わせを開拓していた私に向かって、わが主であるところの寅丸星は唐突に言った。
「あー、ええと……ご主人、またその話かい?」
「またその話です。大体なんですか、主人をさておいて、一人でそんなものを食べるなんて」
机に置かれたクッキーと紅茶を見比べて、ご主人が言う。ご主人がどんな顔をしているのか興味がある稀有な方は、上のほうを見ればわかっていただけるかと思う。ためしに私が上を見ても天井しか無いのが不思議だが。
「別にさておいたわけではないさ。それにそんなものとはご挨拶だね。これはこの前の礼にとアリスがくれたものだ」
「このティーセットもですか? へー、結構よさそうな物なのに随分と気前がいいですね」
「本人は家に余ってた分と言っていたけどね。お金はいらないと言ったら、なら好きなものを持っていってくれと家に招かれたんだよ。じゃあこれでって選んだらそんなものでいいのかと言われたよ」
「ほう、随分アリスさんと仲良くなったんですねえ。結構なことです……って誤魔化さないでください!」
またご立腹のようである。ちなみにティーセットの下りを始めたのはご主人のほうである。しかも今度は無許可に私のクッキーをつまんで、あ、おいしいなんて言い出した。怒りながら物を味わうとは器用な方だ。
「この前はあんなに立派な働きをみせたというのに。もうふぬけるとは何事ですか」
「別にふぬけちゃいないし、あれから十日しか経ってないんだ。そうカリカリするなよ」
カリカリするのはExtraの最初だけで十分である。
「カリカリなんてしてません!」
もー、と顔を膨れさすご主人を見てどこか安心しながら思う。
私が探し物をしても――今日は平和だ。
「ごめんくださーい」
と、ご主人といつものやりとりをしていると、玄関のほうから声が聞こえてきた。
「この声は――」
「ああ、いいよ。私が出る」
ご主人を制し、立ち上がって玄関へ向かうと、
「やあ、アリス」
「こんにちは、この前のお礼を持ってきたわ」
なにやら大きなカバンを持った、人形遣いの姿があった。今日はいつもの人形は連れていないようである。ちっ。
そういえば、私がアリスの物品を頂戴しに訪れたとき、また改めてお礼にくるとか言っていたか。それだけじゃ釣り合わないやらなにやら言っていたが、正直そこまでお礼をされるようなことはしていないと思うのだが。
「まあとにかく上がってくれ」
「お邪魔します」
ご主人と挨拶を交わすアリスを、居間に案内し、座るよう薦める。
「もともとお金を支払うつもりだったからそれ以外は用意してなかったのよ。あなたはティーセットでいいとは言ってくれたけど、どうもそれだけじゃあね」
「そんなの気にしなくてもいいのに」
「私が気にするのよ」
いつもと同じように涼しげに答えるアリス。うん、変わりないようでなによりだ。
「そ・こ・で。私なりに考えてこんなものを作ってみたわ」
そう言いながら、傍らに置いたカバンから何かを取り出す。その中から出てきたものは――
「うわあ……これはなんともまあ、かわいらしいものが出てきましたねえ」
「へえ……」
それは人形だった。それも私やご主人、そして命蓮寺の住人を模してデフォルメした、とても愛らしい物だ。こ、これは本当にかわいいな……。
「一輪や雲山、ぬえのものもありますね」
「本当だ。この前君がここに来たときはいなかったのに」
「ああ、写真で見たのよ。細かなところはあなたたちも含めて写真で見たほうがいいからね。ほら、最近天狗が来なかった?」
そういえば一週間ほど前だったか、着地と同時に暴風を巻き起こすという迷惑極まりない登場の仕方をした新聞屋がいたか(そんな登場のあとで清く正しくとかいわれても困る)。幻想郷の新勢力である私たちの取材がしたいということだったので、聖が快く引き受けたのであった。新聞を発行しているとのことなので、ならついでにと、私も一つ頼みごとをしておいたのだが。
「じゃああれは君が?」
「ええ、そうよ。最も、ブン屋もちょうどいいとか言ってたけど。――それで、喜んでもらえたかしら」
と、いつもよりも少し自信なさ気に聞いてくる。さて、アフターケアもばっちりこなすとしようか。
「――もちろん。みんなも喜ぶだろう。少々可愛く作りすぎて寺には似つかわしくないかもしれないがね。まあ、もうあれがあるんだ、何も問題はないさ。なあ? ご主人」
アリスを安心させるような、かつ少々毒を含ませた物言いをしてご主人のほうを見ると、なぜかものすごくにやにやしている。そしてとんでもないことをのたまいやがった。
「まったく、ナズーリンは素直じゃないですねえ。本当は嬉しくて嬉しくて仕方がないくせに。たまにあれを抱いてるの、知ってるんですよ?」
「なっ!?」
馬鹿な。ちゃんと周りを確認したうえでの行為だったはずなのに……! ちらっとアリスを見る。ああダメだ。二人して同じような顔してやがる。そして、
「ふーん、あなたにもそんな趣味がねえ。それはそれは。喜んでもらえてなによりだわ」
止めをさされた。見事なピチューンである。何がアフターケアだ。格好つけようとするとこうなる運命なのか!?
教えてくれ、御仏よ! 吸血鬼に聞け? なぜに。
「まあこれで用も済んだし、今日はこの辺りでお暇するわ」
「送りますよ。ナズーリンはあの調子ですし」
アリスとご主人の言葉にフリーズから復帰しつつ、アリスにどうしても確かめておきたかったことを聞く。
「アリス」
「何?」
真剣な私の様子に、アリスもにやけ面をやめ、私の視線を真正面から受け止める。
「本当に、いいのかい?」
何のことかは言わずともわかるだろう。アリスも全てを了解しているかのようにええ、と頷き、
「白蓮に任せておけば安心だし、いつか必ず迎えにくるわ。それに」
「それに?」
そこまで言って、またアリスはにやけ面に戻り、
「――大切にしてもらってるようだしね」
しばらくコンティニューもできそうにない。
アリスが爆弾を暴発させて帰り、ご主人も人里に出かけていった。ネズミのしぶとさでなんとか立ち直った私は、再び一人になった居間で紅茶を飲みながら、十日前の出来事を思い返していた。私がやったことといえば、ただ人形――探し物を探しただけである。それでも――いろんなことがあった。たった一つの探し物に、一人の少女の夢が、少女の母に託された娘への愛が込められていた。そして、私が聖復活のために探した飛宝や宝塔にも、命蓮寺のみんなの――ご主人の思いが交わっていたのだ。今回のことで改めてそれを思い出した。
探し物を巡って様々な思いが、生き様が交錯する――。そして私は、そんな思いたちに――少し触れてみたくなったのだ。聖は言った。物を探すことで平和は逃げないと。臆病な私は、十日前と同じで臆病なままだが、あの日見た人形遣いの少女の生き様を見習って、少しだけ前進しよう。何かを、始めてみよう。命蓮寺の連中への言い訳はこれから考えればいいだろう。
「というわけで、これが私の精一杯さ。君の娘のようにとまではいかないが、今はこの辺りで良しとしてくれよ」
そう語りかけながら目を向ける。仏壇の隣に置かれたタンスの上で、ピンとはねた一房の銀髪が特徴的なその人形は、何も言わず、ただただ静かにたたずんでいた。その姿が、しょうがないなあ、と出来の悪い子どもを見守る母親のように思えたのは、きっと私の気のせいである。
***
幻想郷に今日もまた無差別にばら撒かれた文々。新聞。その紙面に、小さなスペースでこんな広告が載った。
『あなたの大切なもの、探します。ご用の方は命蓮寺のナズーリンまで』
ナズーリンがかわいいったらありゃしない。
きっといつか、みんな成長していった暁には……
面白かったです。
各キャラの性格が、自分が思うそれに近かったのですんなり読むことができました。
今後も楽しみにさせていただきます。
素晴らしい!
地の文のユーモアも利いていたし、とても読みやすかったです。
あなたの作品のような文章を書きたいと思いました。
後日のナズーリンも可愛かったし、文章も読みやすく面白いお話でした。
しかも初めてと来たもんだ!
感動して鳥肌が立ちました。
命蓮寺メンバーの性格も理想的だし、ナズーリンも可愛い過ぎて壁に頭を連打したい気分だ。
だだ、こんな素敵な話を読んだきっかけというのがタグの「ナズーリン」を見てから、その後に目に入った作者名を「おむつ」と読んでしまったからというのは私の心の中に留めておきたいと思います。
読みやすくて、途中からぐいぐい引き込まれて。
ナズかわいいよナズ
なんだかんだで振り回されるナズーリンもまた良し。
命蓮寺組と他キャラの絡みはもっと増えてもいいと思うんだ。
次も期待してます。
すばらしいよナズすばらしい
丁寧な作りで、キャラの性格・設定も違和感なく読めました。
なによりキャラの絡ませ方が上手い。
困ったときは命蓮寺へ!
この調子で他のキャラクターももっと命蓮寺を訪ねてくると良いよ!
小ネタも多く、読みやすく。ナズもアリスもかわいい。
今後とも是非よろしくと!次回作楽しみです。
あとナズかわいい
自律人形ってのは、どのレベルまで目指してるのか難しいですね。
非常に読みやすく、雰囲気の良い作品でした。
ナズのモノローグや星さんとの会話は面白く、アリスとの会話にはとても和みました。
次回作にも期待しています。
人形がその気持ちを打ち明けたからこそ、アリスもプライドに囚われずに研究を続ける意思を固められたのでしょうね。
長さが気にならない、うまい話運びに感動。
オイオイ冗談だろう?前のHNを教えてくれよ。
初投稿とは思えない出来栄だと思います!
ほっこりするお話でした
面白かったです!
見つけたから読んでみたら何この感動
お見事です、ごちそうさま。