大晦日。それは一年で最後に迎える日である。
幻想郷にも例外は無く、一年が終わり、新たな年を迎えようとしていた。
日も沈み、年が変わるまで後数時間程となったこの夜、博麗神社では霊夢と魔理沙がのんびりとコタツの中で過ごしていた。
「あー、なんでコタツって一度中に入るとなかなか出れなくなるんだろうな。きっと偉大な陰陽師もびっくりな呪いが掛かっているに違いない」
「呪いはともかくとして、猫がコタツの中で丸くなる気持が分かるわ。コタツから出たら、人生負けた気がするもの」
二人は夕食を終えた後、何をするまでもなくずっとコタツの中でゴロゴロしていた。
もちろん、二人はこのままずっとコタツの中でゴロゴロするつもりである。
「そう言えば、初詣の準備はしなくてもいいのか?後数時間後には、一年で最も参拝客が来る可能性がある日になるんだろ?」
「あのね魔理沙、私は無駄な事をしない主義よ。零に何をかけても零。どうせ参拝客なんか来る訳ないじゃない」
完全に諦めきっている霊夢の脳裏には、妖怪の山に越してきた神様の神社や、どっかの空飛ぶ船がそのまま鎮座してできた寺などが浮かんだ。
そして霊夢はこう思った。あの時、もう少しシバいておけばよかったと。
「巫女がこの調子じゃ、この神社に祭られている神様もさぞ浮かばれない事だろうな」
「いいのよ、別に。弱小宗教が辿る末路なんてこんなものよ」
コタツに入ってダラダラしている霊夢を見て、末路を辿る事になった原因は単に巫女がダラけているせいだと魔理沙は思った。
が、コタツの気持ちよさに比べてどうでもいい事だと思い直した。
こんなふうに霊夢達がコタツライフをエンジョイしている時である。玄関の方から人が呼ぶ声がした。
「お、誰か来たみたいだな。行かなくていいのか?」
「私は嫌よ、コタツから出るのは。魔理沙が行って見てきてくれない?」
「ここの家主はいったい誰だよ」
霊夢と魔理沙、お互いに考えている事は同じである。さすれば彼女達は永遠に歩み寄る事はできず、何か別の方法で決着をつけなければならない。
おもむろにコタツの台の上に腕を立てた二人は、そのままガッと互いの手を握り締めた。そして、そのまま互いに相手の腕を押し倒そうとした。
力と力がぶつかり合う。互いに顔を歪めてでも相手を力で屈服させようとする。それは、すべてコタツから出たくないという一心がそうさせていた。
時間にして僅か。だが、二人にとって気が遠くなる様な時間。互いに持てる力を全て出し続けた。
そして、ついに均衡が破られ、ここに明確な勝者と敗者の境界が敷かれた。
勝者はコタツで温もり続ける権利を得て、敗者はその権利を剥奪される。そして、寒い廊下に出て、こんな夜にやってくる空気の読めない奴を出迎えに行く。
そして、敗者はこう言うのだろう。お前のせいでコタツから出る事になったじゃないか、と。
「…私、霊夢さんに嫌われているのでしょうか?」
「気にするな早苗。今の霊夢はどんなものよりもコタツが大事なんだ。全人類が滅亡の危機に瀕していたとしても、きっとコタツを選ぶんだろうな」
結局勝負に負けた霊夢が訪問者に会いに行く事になり、そして訪問者は守矢神社に住む早苗だった。
ちなみに、早苗を連れてきた霊夢は、見事なまでに無駄の無い動きでコタツの中の住人に戻っていた。
「ところで、こんな夜にどうしたの?」
霊夢の問いはもっともなものである。誰もが早苗は守矢神社の神様達と一緒に今夜は過ごしていると思うだろう。もう後数時間で日付が変わり、彼女達は大いに忙しくなるはずだからである。
しかし、現実では早苗は博麗神社に来ている。
「実はですね…」
色んな回想を交えながら早苗は語り出した。しかし、理由を知るという目的に対し、不要な部分が多い為、早苗の話は割愛とする。
早苗の話を要約すると、こうである。
守矢神社に住む一人と二人の神様達は、新年を迎える準備をしていた。
しかし、そんな時に山の妖怪達から大晦日の晩に行われる盛大な宴会に加奈子と諏訪子が招待された。この宴会は年越しを祝して行われるもので、妖怪の山に住む妖怪総出で行われるものであった。
当然、その様な宴会に招待されたとあっては参加しない訳にはいかないのだが、ここで一つ問題があった。招待されたのは加奈子と諏訪子だけで、早苗は招待されていなかったのだ。
現人神とは言え、早苗はまだ生まれて十数年しか経っていない少女である。酔って暴れ出した妖怪に襲われでもしたら大変な事になるという、山の妖怪達の配慮が早苗が招待されなかった原因である。
また、もう一つの配慮としては、神が豪快に酒を飲み、天狗達が浴びるように酒を飲み、恐らく乱入してくるであろう鬼が他の追従を許さない様な飲みっぷりを見せ、その他の力のある妖怪達が負けじと飲みまくる、そんな阿鼻叫喚な宴会に早苗を放り込んだとしても開始早々にリタイアする事になるのが目に見えていたからであろう。
そんな訳で早苗は一人留守番を義務付けられてのだが、早苗一人を残して宴会に参加するほど守矢神社の神様達は薄情では無い。
二人のうちどちらかが残るか、それとも二人とも参加を取り止めるか、真剣に議論がされ始めた。
だが、そんな二人には宴会を思う存分楽しんできてほしい早苗としては、守矢神社を離れ、どこかで年を越すという選択を取った。
どのみち山の妖怪は全て宴会に参加しているのである。妖怪の山に足を踏み入れる人間はまずいないと考えていい事から、正月元旦に参拝客が来る事はまず考えられない。そういった計算のもとでの早苗の選択であった。
後は加奈子と諏訪子に上手い事を言って守矢神社を後にし、今に至るという事である。
「ふうん、早苗も色々と気をつかって大変なんだな」
「でも、なんでうちに来たの?」
「何と言いますか、やっぱり神社が一番落ち着きますので。それに、こちらの事情もありますし」
「それに、ここに来ればいつでもお茶が飲めるしな。使っている茶葉は安物だが」
ケラケラ笑う魔理沙に一瞬鋭い眼光を霊夢は向けたが、どうやら我慢する事にしたらしい。
霊夢としては、茶を飲んでいった代金として賽銭を入れてくれれば、もっと良い茶葉が買えるのにと思っているのだが、今はコタツでヌクヌクする方が重要なのだ。
「まあいいわ、どうせそこの黒白も居座るつもりでしょうし。でも、まさか手ぶらで来たって事は無いわよね?」
「ご心配なく。こちらに来る前に人里に寄ってきましたから」
そう言って早苗がコタツの上に置いたのは、大量のミカンであった。
早苗の手土産でコタツにミカンが装備される事になった。コタツ中毒者にとっては、まさにヘブンが体現された事になった。
「気が利くじゃない、早苗。私達、もっと早くに出会っていれば良かったわ」
「それは流石に言いすぎですけど、これもご迷惑をおかけする見返りと思っていただければ。それに、土産はこれだけでは無いんですけど、後のお楽しみという事で」
「なあに、早苗が来たところでこれっぽっちも迷惑なんかならないさ。どうせ初詣の参拝客なんて理由が無くても来ないだろうし、暇な正月が潤ってむしろ大歓迎だろうさ」
針を刺した人間の怒声と針を刺された人間の呻き声が響き渡るのを横目に、早苗はこう思った。
ああ、ここは平和だな、と。
ちなみに、魔理沙が土産に持ってきたのは、森で取れた魔理沙視点で美味しそうに見えるキノコであった。もちろん、霊夢によってすぐさま焼却処分されたが。
「ダウト」
早苗が出したカードに対し、霊夢と魔理沙から同時にダウトの言葉が掛けられた。
ギョッとする早苗と、したり顔の霊夢と魔理沙の表情を見れば、この宣言が正しいのか否かは一目瞭然である。
「あーうー、また見破られてしまいました…」
「早苗は顔に出過ぎなんだよ。少しは霊夢を見習ったらどうだ。涼しい顔をして、さっきから平然と違うカードを出し続けているぜ」
それが分かっているのなら、何故ダウトを言わないのか。そう早苗は言いたくてたまらなかったが、今回のこのゲームで自分が標的にされている事を悟った。
先ほどまで行っていた神経衰弱で圧勝していたのが標的にされた原因なのだろうが、現時点での手札の状況を見る限り、最下位はほぼ確定である。後は霊夢と魔理沙、どちらに軍配があがるかを見届けるだけだった。
「9」
「ダウト」
魔理沙が出した札に対し、どこからともなく声が掛けられた。ハッとなって三人が声がした方を向くと、そこにはいつの間にか咲夜が立っていた。
「咲夜、貴方いつの間に!?」
「今晩は。いくら呼んでも誰も出てこなかったから、勝手に上がらせてもらっているわ。それと、霊夢がこれから出す札は、全てダウトよ」
突然の事に唖然とする三人を脇目に、咲夜はゆったりとコタツの空いている場所に身を落ち着かせた
「おいおい、不法侵入だぜ」
「あら、不法侵入は貴方の専売特許でしょう?」
悪びれる様子もなく、平然とミカンを食べ始めた咲夜を見て、霊夢は驚きを通り越して何だかどうでもいい気分になってきた。
吸血鬼が昼間に活動しているこのご時世である。細かい事を気にしたら負けである。
「…どうでもいいけど、咲夜まで何しに来たの?」
「お嬢様が昼間こちらへ来た時に日傘を置き忘れてしまったので、私がそれを取りに来たのよ」
本当にどうでもいい様な顔をして聞く霊夢に対し、手に持っている日傘を見せて咲夜は答えた。
ちなみに、咲夜が食べたミカンは綺麗に皮が剥かれており、流石は紅魔館のメイド長と言わざるを得なかった。
「なら当初の目的は達成された訳だが、どうしてここでコタツの中に入ってくつろいでいるんだ?極秘の第二ミッションってやつか?」
「外で待たされている時に体がすっかり冷えてしまったのよ。少しぐらい温まっていってもいいじゃない」
「紅魔館をほったらかしにしててもいいの?」
「お嬢様は朝が早かった為に既に就寝。妹様も同様。パチュリー様は相変わらず図書館に引きこもっているし、美鈴は門番として館の入り口を守ってくれている。メイド達は殆ど就寝時間だし、当直のメイドにはしっかりと指示を出している。明日の準備はしっかりできているし、特に今しなければならない事は何も無い」
「…だから?」
「ここでのんびりしていても何も問題ないって事よ」
流石はやる事にそつが無い事に定評のあるメイド長である。平然と、そして自信満々に問題無いと告げた。
「まあ、なんだ、あれだけ個性的なメンバーで構成されている紅魔館が破綻せずに存続している理由を、今垣間見たって気分だぜ」
「相変わらず、やる事に隙が無いですね」
「まったくだ。どこかのグウタラ巫女に、この仕事ぶりを見習ってほしいものだぜ」
「…そうね、私がもしやる気を出したら、窃盗を繰り返す不届き者の魔法使いを積極的に懲らしめに行くでしょうね」
「HAHAHA、やっぱ霊夢はグウタラのままでいいや。いや、むしろ勤勉な霊夢なんて霊夢じゃないぜ」
何やら口論を始めた霊夢と魔理沙を余所に、咲夜は徐に卓上のトランプを手に取った。
「ところで、私もこれに混ぜてもらえないかしら?」
現状を一言で表すとすれば、圧倒的と言い表すのが正しいかもしれない。また、別の言い方をするのであれば、勝負になっていないと言うべきであろうか。
涼しい顔をして手札を眺める咲夜に対し、魔理沙は悔しそうに歯を食いしばり、霊夢は苦虫を噛み潰したような表情をし、早苗はただ無力な己を嘆いていた。
「なあ咲夜、イカサマをしていないだろうな?お前の能力は、こういうのに便利だからな」
「馬鹿にしないでもらえるかしら、貧民さん。この程度の勝負、わざわざ力を使う程でもないわ」
魔理沙の疑いの眼差しにも動じず、ただ粛々と手札を切っていった。そして、迎えた結果は、咲夜の一位通過であった。
「くそ、また咲夜が大富豪か。何で勝てないんだ!?」
彼女達がやっているのは大富豪であるが、大富豪は咲夜のものとして不動の席となっている。
あまりにも強い咲夜に対して、残りの三人は連合して対抗しているものの、まるで歯が立っていないのが現象である。
「ああ、もう嫌。何やっても咲夜に勝てないんだもの」
カードを放り投げた霊夢は、空いた手で酒の瓶を手繰り寄せ、杯に注いで一気にあおった。この酒は咲夜が手土産に持ってきたものだが、先ほどから霊夢と魔理沙が自棄で飲みまくっている。
「そんな飲み方をしたら、体に毒ですよ」
「五月蠅いわね、これが飲まずしていられるかってのよ」
もう随分と酒が入っているのか、霊夢は体をグラつかせた。その霊夢を慌てて支える早苗だが、そんな早苗の心配を余所に霊夢は酒を飲む事は止めようとしなかった。
「…何と言うか、ここから見ているとお前ら姉妹に見えるな」
そんな様子を傍から眺めていた魔理沙は、ポツリと感想を呟いた。そして、魔理沙の呟きに咲夜も首を縦に振って同意した。
「何言ってんのよ魔理沙、弾幕勝負で私に一本も取れないし、酒もたいして強く無いし、どこか軟弱な精神構造している早苗が、博麗の血をひいている訳ないでしょう?」
「そうだな、確かにそうだ。気立ても良いし、細かな気遣いもできるし、勤勉だし、孝行者の早苗が、まさか霊夢と同じ血を受け継いでいる訳ないものな。姉妹っていうのは、早苗に失礼だったぜ」
「私は別に気にしていませんよ。むしろ、私としては霊夢さんの様な姉が欲しいなって思っていましたから」
早苗の予想外の返事に、誰もがポカンと口を空けて驚いた。札と針を取りだして今にも魔理沙を退治しようとしている霊夢も、それを迎え撃とうとミニ八卦炉を構えた魔理沙も、少し離れた位置で悠々と酒を飲もうとしていた咲夜も、動きを止めて早苗をただ見つめていた。
「…あー、何だ、外から来た奴は私達とは価値観が違うって事は理解していたつもりだが、すまん、今の事を私達に分かる様に説明してくれ」
「別に大した事じゃないんですけど、私の家って神に仕える一族としてとにかく堅い人達ばっかりだったんです。それに加奈子様も諏訪子様も割とくだけているとは言っても、やっぱり堅いですし。だから、霊夢さんみたいに少し破天荒で飄々としているんですけど、いざっとなったら頼りになる人って憧れるんです」
少し恥ずかしそうに話す早苗に対し、お前は疲れているんだっと言わんばかりの眼差しを送る魔理沙と、褒められているのか貶されているのか分からずに複雑な表情をしている霊夢と、意味あり気に微笑する咲夜が何と声を掛けたものかと思案していた。
だが、いい言葉がなかなか見つからず、いたずらに時間だけが静かに過ぎて行った。
「あ、あの、私何か変な事を言いましたか?」
流石に沈黙に耐えきれずに早苗が助けを求める様に声をあげた。
「別に、貴方は何も変な事を言っていはいないわ。人はそれぞれ趣味も異なれば考え方も異なるもの」
そう答えた後、咲夜は徐に霊夢の方を向いて、
「良かったわね、霊夢。良くできる妹ができて。腕っ節や飲みっぷりはまだまだだけど、それ以外の事なら早苗は頼りになる良い娘よ?」
「あ、うん、そ、そうね。でも、って、私に何て答えてほしいのよ、咲夜は!」
人から尊敬される事にほとんど無縁だった霊夢としては、いきなり尊敬の眼差しを向けられて戸惑う一方だった。
そんな珍しく動揺する霊夢は、咲夜にとって良い玩具である。
咲夜が更にからかってやろうと口を開こうとした時、遠くから鐘の音が鳴り響いた。
「お、除夜の鐘か」
魔理沙の呟きの通り、幻想郷中に鳴り響いているのは除夜の鐘で、年が明けた証拠でもある。
鐘が鳴り終わるのを聞き届けた四人は徐に向かい合い、そして新年を祝う言葉を交わした。
「さて、初日の出を拝むまで、酒を飲むとするか?」
「そんな事をしたら、途中で寝ちゃうわよ。眠気も吹き飛ぶような怪談話をするってのはどうよ?」
新年を迎えたからと言って、彼女達に何か特別な事をしなければならない事はなかった。従って、さっきまでと同様、コタツの中でヌクヌクしている事以外、特にする事はなかった。
どのみち参拝客は望めないのだ。新年早々張り切ったところで、何の意味も無いのだ。
だが、誰もがそう予測する中、早苗だけは別の予測をしていた。
「そろそろですね」
そう言って立ちあがった早苗は、表の方へと向かって行った。
一人出て行った早苗に疑問を持った残された三人は、急ぎ早苗の後を追った。そして、玄関を出た瞬間、三人は我目を疑った。
何故ならば、博麗神社に初詣の参拝客が続々とやって来ているからだ。
「こ、ここ、これは一体どういう事よ」
「れ、れれれ冷静になれ、霊夢。きっと何かの罠だ。そうだ、私達はきっと誰かに騙されているんだ」
「夢ね。これはきっと夢よ。持ってきたお酒は強い物だったから、いつの間にか酔って眠ってしまったんだわ」
三人の眼前に広がる風景は、正に誰もが疑いたくなる様な風景だった。異変と言い代えてしまっても過言ではない。一体、誰がこの様な状況を予測できたというのであろうか。万年閑古鳥の博麗神社に、こんなにも沢山の参拝客が来るとは。
混乱した頭を抱えながら参拝に来た群衆を眺めていると、早苗が守矢神社の分社の前で参拝客に対して丁寧に挨拶をしていた。
その光景を見て、咲夜はこの異変の真相を理解した。
「ふうん、案外やるじゃない、あの娘」
「どういう事よ、咲夜?」
この怪異といっても過言ではない事態の正体はこうである。
妖怪の山を出た早苗は、途中ミカンを購入する為に人里へ寄っていた。その時、博麗神社に初詣に来てもらえる様にふれて回ったのである。
早苗としては守矢神社に初詣に来てもらいたいだろう。しかし、守矢神社があるのは妖怪の山で、とても普通の人が踏み入れれる場所ではなかった。それに加え、妖怪達が盛大に宴会を開いている。とてもではないが、初詣の参拝客が望めそうになかった。
そこで、博麗神社に分社があった事を思い出した早苗は、どのみち守矢神社を出てこなければならない事情があったので、博麗神社に参拝客を呼び寄せる事を思いついたのだ。
それに、この早苗の思いつきは、博麗神社にも利益をもらたす。同じ境内に分社があるのだから、当然参拝客は博麗神社にも参拝をするだろう。そうなれば、霊夢のところにも賽銭が入る事になるが、それを居座らせてもらったお礼にしたいとも早苗は考えた。
もちろん、里の人達を博麗神社に安全に呼ぶ段取りも早苗はしてきたのだが、とにかく早苗の持ってきた土産は霊夢にとって十分すぎるものだった。
「なあ、霊夢。この際、早苗を本当に妹にしてしまえよ。力のある姉と、その姉を支える妹の巫女姉妹。悪く無いぜ。それに、お前だって早苗の事、嫌いじゃないんだろ?」
「あら残念ね。早苗は私がもらって行きたくなったわ。ああいう計算して動ける人間、巫女にしておくには勿体ないもの。是非ともうちで働いてもらいたいわ」
魔理沙と咲夜が目前の状況とは関係の無い話で盛り上がっている時、霊夢は参拝客の応対に振り回されていた。
「おおい、博麗の巫女さんや、お札を一枚売ってくれないかね?」
「絵馬と破魔矢は売って無いの?」
「お姉ちゃん、御神籤を引きたいんだけど?」
参拝客が大挙としてやって来てくれる事は霊夢にとって非常に嬉しい事だが、その反面、参拝客の対応など殆どやった事の無い霊夢にとって非常に大変な事でもあった。
はっきり言えば、霊夢の対応能力を超えた事態であった。その証拠に、霊夢の対応が間に合わない部分から収拾のつかない状況へとなりつつある。
「まったく、見てられないぜ」
そう言って一度家の中に戻った魔理沙は、霊夢の予備の巫女服に着替え、列の整理や注文の聞きつけなど、霊夢のサポートに回った。
「魔理沙、手伝ってくれるの?って言うか、なんで私の服を勝手に来ているのよ?」
「おいおい、こういう時に魔法使いの格好をした奴が神社で働いていたらおかしいだろ?」
魔理沙の協力もあり、事態は事無き事を得た。しかし、しばらくすると問題は別のところでも発生した。
御神籤や破魔矢等が無くなり始めたのだ。
それもそのはずである。普段から参拝客が来る事を想定していなかったので、あまり作り置きはしていなかった。当然、初詣客の事もまるで想定していので、霊夢としてはなんの準備をしないまま今の状況を迎えた事になる。
「ど、どうしよう、魔理沙!?」
「こればっかりは、どうしようも無いな…」
うろたえる二人だが、いくら考えても妙案は思い付かない。そうして時間だけが過ぎていくが、打開策無き状況で在庫だけが見る間に底を尽きかけていた。
ここまでか。天を仰いだ霊夢だが、次の瞬間、思いもよらぬところから助け船が出た。
「早苗の計算も、もうひと押しってところね。霊夢が初詣の準備をしている訳が無いんだから、神社に来た時に準備を促しておくべきだったのよ」
そう苦言を呟いた咲夜だが、彼女の腕には沢山の破魔矢や絵馬等が抱えられていた。
ちなみに、咲夜も魔理沙と同様の理由で巫女服に着替えている。
「すごいじゃないか、咲夜。こんな短時間にこれだけの物を作ってきたのか?」
「紅魔館のメイド長を舐めない事ね。私の能力と技量を忘れたの?」
在庫の問題にいち早く気がついた咲夜は、自分の能力を最大限に駆使し、霊夢達の窮地を救ったのである。
「ありがとう、咲夜。助かったわ」
「神に仕えていない者が作った物だから、何か騙しているようで気が引けたけど、この場合はいた仕方ないわね」
「安心しろ、咲夜。一応霊夢は巫女だが、神を敬ったり奉ったりする事は殆どしていないから、お前と何も変わらないぜ」
魔理沙に何か言い返してやりたい霊夢だが、結局、何も言い返せれなかった。そしてこう思った。明日から、ほんのちょっぴり神様を敬ってみよう、と。
「あっちで早苗も頑張っている事だし、とにかくこの事態を乗り切るわよ」
「了解。そのかわり、後でなんか奢れよ?」
「私も乗りかかった船だし、出来る限りの協力はするわ」
この日、博麗神社は空前の参拝客を迎えたという。
この事は烏天狗の新聞にも一斉に取り上げられた程で、後世まで語り継がれたとさ?
>コタツから出る事になってじゃないか
>加奈子
>「という夢を見たのよ」
は無しの方向で
×出る事になってじゃないか
○出る事になったじゃないか
×守矢神社に済む
○守矢神社に住む
四人の絡みも自然で良かったです。
こういうのを読みたかったので、ありがたいです。
抜けたところもある早苗さんは素晴らしいです。
○動揺
咲夜と早苗の絡みはあんま見ないので嬉しかったです。
もっと人間組4人の話しが見てみたい(みょん!?)
×いた仕方ない
良いほのぼのでした
惜しむらくは誤字かな
欲を言えば妖夢を出して欲しかったです。
いいもん読ましてもらいました。
>それに加奈子様も諏訪子様も割とくだけているとは言っても、
すみません、神奈子様の誤字だけはちょっとスルー出来ないもんで