※このお話は、作品集59に投稿されていた「輝夜と永琳ともう一人のお話。」を、加筆・修正、再投稿した物となります。
前回のお話の約一年前に書いた物なので、可能な限り修正しましたが、至らないところがあると思います。
少しくらいは目を瞑って下さると光栄です。
迷いの竹林の中から、
「待ちなさい黒白!今度こそ!」
と言う甲高い姫の声がする。
そして、
「お前なんかに捕まるか!この無職!ニート!」
と言いながら逃げる魔砲使い(だったはず)の声もする。
何故逃げているのが分かるかというと、竹林の中からガサガサガサガサと何かが動いているような声がするから。
そう言えば、あの魔砲使いは私達が月を隠した事件の後、頻繁にここへ来ているような気がする。
「新しい魔法を試したいから場所を借りるぜ」
とか言って。
思いながら、ふとあの時を止める事の出来るメイドを思い出す。
(あそこまであの人に似ているなんてね)
そうして縁側で1人考えていると。
「師匠、姫を止めなくても良いんですか?」
鈴仙が頼んでいたお茶を持ってきた。
「良いのよ。姫、昔からあんな感じだから」
私は答える。姫は昔からああなのだ。
「そうですか。でも、ちょっと興味があるんですが」
師匠の過去、と付け加え鈴仙が私の隣に座る。
ちょっと、ではなくてかなり興味があるらしい。
鈴仙の目が輝いている。
それでも、教えたくない事だって人にはある。
「だめよ。人には言いたくない事と言う物があるの」
少なくとも私にはある。他の人達は知らないが。
「そうですか」
少ししょんぼりしながら、お茶を啜っている。
私もお茶を啜る。
ずずず、と言う音と共に少し苦い風味が口の中に広がる。おいしい。
「結構なお手前ね」
「ありがとうございます」
そんな風に話していたとき、
「師匠、今何時位ですか?」
鈴仙が聞いてきた。
私は懐から時計を取り出して答える。
今は正午過ぎだった。
取り出すのと同時に、古い錆びた懐中時計が縁側にころがった。
「――――それ」
何か言いかける鈴仙。
「うどんげ、今何を言おうとしたの?」
気になって聞いてみる。
すると、
「いえ。それ、確か私が届けた時計ですよね」
と鈴仙が答えた。
「そう言えば。そうだったわね」
言いながら、私はこの子に私の話を聞かせても良いんじゃないか。
そう思った。――――少しだけ。
「うどんげ」
「はい」
「これから――――」
「?」
「一回だけ、ある昔話をするわ」
それは、ある暑い日の事だった。
姫の遊び相手に抜擢された私は、今日も姫の昆虫採集に付き合って、ある山に登っていた。
封印山。
それがこの山の名前だった。
その山以外はすべて登り、あらかた昆虫もそれ以外も取り尽くしていた。
大人からは「登ってはいけない」とさんざん言われていたのだが、昨日雨が降って土砂崩れが起きたとか言って、警備に当たっていた人もそれに回りいなくなっていたので、今日だけという条件で登ることにしたのだった。
山は低く、登るのも簡単だった。
所々で薬草や虫も捕れたのでもう降りようと言ったが、
「あの蝶々、頂上にしか咲かない花の所にしかいないのよ」
と言う姫の意見で却下されてしまった。
しかし、その花の葉も薬草になるし、何より姫を置いてなんて帰れないので引き続き登ることにした。
すぐに頂上には着いた。しかし、私たちを待っていたのはその花と蝶ではなく、古い立派な日本家屋(と読んだ本では言っていた)だった。
それを見た姫は憤り、
「絶対この家を建てるときに潰してしまったんだわ、間違いない。××、この家の人間に痛い目見せてやるわよ」
と私に言い、その家の門を潜っていってしまった。
「待って下さい」
私は姫の後を追った。
まず入ってびっくりしたのは、その家の庭だった。
広い。ものすごく広い。
そして綺麗だった。白い砂のような物が敷き詰められ、池には見たことが無い模様の鯉がいる。
「わあ・・・・・・」
流石の姫も驚きを隠せない。
私もだった。
二人で惚けていると思い出したように姫が、
「そんなんじゃないわ、私たちはこの家の人間に用があるのよ」
見てみると、頭を掻きむしりながら、「しまった嵌められた」とか言っていた。
「いえ、別に嵌めた訳ではないんじゃ」
「いいえ嵌められたわ」
もうこうなっては誰の話も聞かないな。
そう思いつつ対処法を自分なりに考えていた矢先。
「誰が嵌めたって?」
「「わああああああっ!!!」」
真後ろから人の声がした。
私たちはびっくりして、思わず大きな声を出してしまっていた。
悪いことをしようとしていたので、余計にびっくりしていた。
自分でもびっくりするくらいの声が出た。
とりあえず、大事な事なので「びっくり」を4回使ってみた。
「――――つうっ」
その人は耳を押さえてそんなことをつぶやいた。
「あ・・・・・・あんた誰よ!!」
姫が震えながら指で指す。
流石に出会ったばかりの人にそれは失礼だ。
とりあえず姫に注意をしないと。
「姫、人を指してはいけません。それに、初対面の方なのに失礼です」
「えー」
「えー、じゃないです。不法侵入のこともかねて謝りましょう」
「・・・・・・××がそう言うのなら・・・・・・・・・ごめんなさい」
「ごめんなさい」
2人で謝る。思ったより姫がすんなり折れてくれたので助かった。
「それでは・・・。すいませんでした、勝手に屋敷に入ったりして」
こういうときはさっさと帰るに限る。
あとで何か言われても困るし。
「待ちなさい」
しかし。
この家の主は帰してくれなかった。
「へ?」
「貴方たちは、何でこんな所に来たの?」
それを言わなければ帰さない、と言うような目つきでこっちを睨むこの屋敷の主。
空を見ると、もう夕暮れ間近だった。
少なくとも、まだ子供の私達には門限という物があるわけで。
そのときまでには帰らないと、姫捜しに捜索隊が出されてしまう。
そればかりは阻止したいので、素直に理由を言うことにした。
「実は、此処にしか咲いていない花とその花畑に住んでいる蝶を採取に・・・・・・」
「ふうん」
つまらなそうに話を聞いている屋敷の人。
元々あなたが質問したんじゃないんですか。
「・・・・・・・・・・・・」
すると、少し考えてから
「こっちにいらっしゃい」
と、私達を手招きした。
私達もそれについて行った。
屋敷の裏側に回ると、そこには綺麗な花畑があった。
「綺麗・・・・・・」
思わずこぼしてしまうと、
「ありがとう。世話をしていた甲斐があるわ」
此処の主は顔を綻ばせた。
それだけじゃない。
今は咲かないはずの花も咲いている。
もう散ってしまった物も、蕾のはずの物も。
すべてが、満開になっていた。
姫は姫で、すごい笑顔で虫取り編み片手にこの季節にいない虫を採取中。
最近笑っていなかったので、安心した。
「そうそう」
「?」
「この花でしょう?貴方たちが探していたのは」
足下にあった花を指す。
私もその花を見る。
「これです!図鑑で見たのよりよっぽど綺麗です!!」
私は感激した。
図鑑で見たのは、もっと色が茶色っぽくなってしまっていたからだ。
だけど、此処の物は違う。
色が鮮やかだし、葉の数も図鑑の物より多い。
これなら、色々な薬が豊富にできそうだ。
でも・・・・・・・・・
「あの、その・・・・・・」
もらっていかなければ意味がない。
しかし、私は此処の人に迷惑をかけた身だ。
もらっていくなんてそんな大胆な事できない。
欲しいのと、失礼だと言うことでもらえないと言う気持ちでどうしようか迷って、次の言葉が言えない。
そんな私の心を見透かしたようにこの人は、
「あげましょうか?」
そんな風に言ってくれた。
「良いんですか?」
「ええ」
「ありがとうございます!」
私はまじまじとその人の顔を見た。
始めに見たときはは驚きが、さっきまではは罪悪感でまともに顔が見られなかったが、こうしてみると。
――――とても綺麗な人だ。
髪は私と同じ、銀髪で、髪は結ってなかった。
けれども、耳のあたりの髪が結えそうな位長かった。
この人は「美人」と言うより、「綺麗な人」と言った方がしっくり来る。
そんな人だった。
「あの・・・・・・名前、聞いても良いですか?」
せめてなにかお礼をしたい。そう思い、名前を尋ねた。
その人はそうね、と小さく言い、
「朔夜。最近はそう呼ばれていたわ」
朔夜。
その名前を忘れないように、心の中で反芻する。
「朔夜・・・・・・さん。ありがとうございます」
「いいえ」
その人はこちらこそ、と言うように頭を振り、それから何か思いついたように
「そうだ」
と言った。
「?」
「また・・・来てくれない?」
「此処に・・・・・・・・・ですか?」
「そうよ。今回の不法侵入のお礼はそれで手を打つわ」
「良いんですか?また、此処に来ても」
「ええ。貴方たちなら大歓迎よ」
此処は綺麗だし、いて落ち着く。そして何より、
「こちらこそ---本当にありがとうございます。姫、最近元気が無くて。笑ってはいるけど、作り物のような気がして」
私は続ける。
「だから」
「?」
「だから・・・・・・・・・姫に本当の意味での笑顔をくれて、ありがとうございます」
そう。
確かに姫はいつも笑ってはいたけど。
本当の、心からの笑顔では無いような気がした。
だから。
此処に来て、良かった。
そう思った。――――心から。
私としても、姫としても。
朔夜さんは不意を突かれてしまったようで、開いた口が塞がっていなかった。
でも暫くすると、
「・・・・・・・・・・・・あのおてんば姫は、本当に良い友達を持ったわね」
そう言ってくれた。
「それでは」
「ええ」
あれからもうちょっと話した後、私達は別れた。
今度また、来る約束をして。
秘密の近道も教えてもらった。
姫も、朔夜さんとあの後仲良くなった。
「また行きたいわね」
「そうですね」
そんな話をしながら。
教えてもらった近道を帰って行った。
「・・・・・・・・・そんなことがあったんですか」
「そうよ。その懐中時計は朔夜さんの物なのよ」
長い話を終え、もう辺りは夕暮れに近かった。
「その後は、どうなったんですか?」
私は師匠に聞いてみた。
「どうって?」
「他に、何をしたとか」
「そうね・・・・・・後は、朔夜さんが姫にあの力の使い方を教えてくれたり、私に師匠以上に薬草とかの事を教えてくれたり」
「ふむふむ」
「あと・・・・・・蓬莱の薬って、あの頂上に咲いていた花から作れるのよ」
「そうなんですか!?」
「ええ。それから私は姫と共に地上に逃げて合わなくなってしまったけど」
「そうなんですか・・・・・・少し、寂しいお話ですね」
本当にそう思う。でも。
「まぁ・・・寂しいか否かと言えば寂しいけど。この世に、もう朔夜さんはいないでしょう?」
違う。本当は今も生きているかもしれない。
やっぱり私はてゐのようには嘘をつき続けられない。
「いえ・・・・・・きっと、朔夜さんは生きていると思います」
だって。
「もう。あなたが言ったんでしょう?朔夜さんと言う方の遺品をもっていますって」
違う。
「違います。実はその懐中時計・・・・本当は私が此処に、幻想郷に逃げてくるときにもらった物なんです。月から遺品として持ってきた物ではなく」
「なんですって」
師匠が驚いた。眉がぴくん、と動く。
「その時計は、私が仲間を見捨てて逃げてしまった時に、ある妖怪に会ってしまった時に、その・・・・・・朔夜さん?と言う方に助けてもらったときに貰ったんです」
私は蜘蛛のような大きい妖怪に追いかけられていた。
「はあはあ・・・・」
狂気の目で睨んだがあまり効果は無く、此処まで逃げるのにかなりの体力を使ってしまった。
もう私はクタクタなのに。
その妖怪は何処までも真下にある木々をなぎ倒しながら追ってくる。疲れた様子も全くない。
飛んでも飛んでも距離は変わらない。
それどころか、だんだん距離が縮んで来てしまっていた。
「あっ・・・・・・・・」
焦りと余所見をしていたからか、目の前の木に突っ込んでいってしまった。
「きゃ・・・」
悲鳴を上げ、いきなりのことに頭が真っ白になり、飛べることも忘れ、木の下に落ちてしまった。
「ひっ・・・・・・・・・」
もうだめだ。妖怪は、もう目の前に来ている。
私は仲間を見捨てた罰として、此処でこの妖怪の餌食になるのか。
そんな思いが頭をよぎった。
――――みんな、さようなら――――
そう思った瞬間。
ぶすり、と言う音鈍いが森に響いた。
「・・・・・・・?」
いつの間にかつぶっていた目を開ける。
すると、そこには今まで私を追っていた蜘蛛妖怪がいた。
しかし、動かない。
その妖怪はズズズ、と言う音を立てて崩れ落ちた。
背中には斬られた痕。
その上に立っているのは、刀を持った、私と同じ赤い瞳の人。
私は仲間の生き残りかと思い、声をかけた。
「ありがと」
しかし、どうにも見たことがないような気がする。
それでも、忘れてしまったんだろう、と結論づけた。
「えっと・・・・・名前は?」
「朔夜よ」
「そっか。ありがと、助けてくれて」
「ええ。でも、貴方、××様の所に行くんでしょう?」
「そうだけど」
「なら、1つお願いがあるわ」
「ええ、どうぞ」
助けて貰ったんだから、これくらいはしないと。
「そこの人に、この2つの物を渡して」
もらったのは、1つの包みだった。
「いいですけど」
「ただし」
「?」
「その包みの中にある通りに渡して頂戴」
「?よくわかりませんが・・・・・・分かりました」
「それじゃあ、頼んだわよ」
「そうだったの」
「ええ」
師匠はきっと、嬉しいんだろう。顔には出してないけど。
だって、手に持った懐中時計をさっきからずっと撫でているんだから。
「そうだ」
まだ渡していない物があった。
「ちょっと待ってて下さい」
私はそう言って自分の部屋にそれを取りに走った。
「これです」
鈴仙はそう言って自分の持ってきた包みを指す。
「これ?」
「そうです」
「そう」
私はその包みに手を伸ばそうとした。
すると鈴仙が、
「待って下さい」
そう言って、包みを後ろに隠す。
「どうかした?」
何かしたのかと思って訪ねる。
「いえ、そうではなく」
「?」
「師匠には、ある謎かけに答えて貰います。それが朔夜さんの言ったとおりだったら、この包みを渡します」
行っておくけどこれは朔夜さんがいったんですからね、と付け加える鈴仙。
「そう。受けて立つわ」
あの人は謎かけが好きだった。
今も変わっていないな、と思う。
「それでは――――行きます」
大きく息を吸う鈴仙。
私も心の準備をする。
「――――月の兎と?」
「地上の人間」
これは、朔夜さんの家に入るときの合い言葉だった物だ。
「では」
「1番愚かなのは?」
簡単だ。
彼女なら、きっとこう答えるだろう。
「私達」
暫しの沈黙。
それから鈴仙が、
「正解です。それでは、これを」
と言い、包みを開ける。
その中に入っていたのは。
「・・・・・・矢、ですよね?これ」
「ええ、そうよ」
弓矢の矢と。
「それとこれは?」
「こっちは・・・・・あの蝶の標本ね」
私達の出会いのきっかけとなった、あの蝶の標本。
それと、1枚の手紙。
「これは私宛ね」
ピリッ、と封を切る。
この中に入っていたのは。
1枚の手紙と、あの花の押し花が2つ。
そして、1枚の写真。
「うわあ・・・・・・」
それを見た鈴仙が驚きの声を上げる。
そこに映されているのは。
朔夜さんの家の花畑をバックに。
私と。
姫と。
朔夜さんが映っていた。
鈴仙は花畑の美しさに声を上げている。
「さて、と」
よいしょ、と立ち上がる。
ずっと座っていたから、少し腰が痛い。
我ながら年寄り臭いと思う。
「あれ?師匠、手紙。読まないんですか?」
鈴仙が声をかける。
中身を知りたいのだろう。
「後で自分の部屋で読むわ」
「ええー」
やっぱり中身が知りたかったか。
「中身が知りたいの?」
「はい・・・・」
どうしても知りたいのか、今度は素直に認めている。
でも。
「駄目。言ったでしょ、人には言いたくない事と言う物があるのよ」
前回のお話の約一年前に書いた物なので、可能な限り修正しましたが、至らないところがあると思います。
少しくらいは目を瞑って下さると光栄です。
迷いの竹林の中から、
「待ちなさい黒白!今度こそ!」
と言う甲高い姫の声がする。
そして、
「お前なんかに捕まるか!この無職!ニート!」
と言いながら逃げる魔砲使い(だったはず)の声もする。
何故逃げているのが分かるかというと、竹林の中からガサガサガサガサと何かが動いているような声がするから。
そう言えば、あの魔砲使いは私達が月を隠した事件の後、頻繁にここへ来ているような気がする。
「新しい魔法を試したいから場所を借りるぜ」
とか言って。
思いながら、ふとあの時を止める事の出来るメイドを思い出す。
(あそこまであの人に似ているなんてね)
そうして縁側で1人考えていると。
「師匠、姫を止めなくても良いんですか?」
鈴仙が頼んでいたお茶を持ってきた。
「良いのよ。姫、昔からあんな感じだから」
私は答える。姫は昔からああなのだ。
「そうですか。でも、ちょっと興味があるんですが」
師匠の過去、と付け加え鈴仙が私の隣に座る。
ちょっと、ではなくてかなり興味があるらしい。
鈴仙の目が輝いている。
それでも、教えたくない事だって人にはある。
「だめよ。人には言いたくない事と言う物があるの」
少なくとも私にはある。他の人達は知らないが。
「そうですか」
少ししょんぼりしながら、お茶を啜っている。
私もお茶を啜る。
ずずず、と言う音と共に少し苦い風味が口の中に広がる。おいしい。
「結構なお手前ね」
「ありがとうございます」
そんな風に話していたとき、
「師匠、今何時位ですか?」
鈴仙が聞いてきた。
私は懐から時計を取り出して答える。
今は正午過ぎだった。
取り出すのと同時に、古い錆びた懐中時計が縁側にころがった。
「――――それ」
何か言いかける鈴仙。
「うどんげ、今何を言おうとしたの?」
気になって聞いてみる。
すると、
「いえ。それ、確か私が届けた時計ですよね」
と鈴仙が答えた。
「そう言えば。そうだったわね」
言いながら、私はこの子に私の話を聞かせても良いんじゃないか。
そう思った。――――少しだけ。
「うどんげ」
「はい」
「これから――――」
「?」
「一回だけ、ある昔話をするわ」
それは、ある暑い日の事だった。
姫の遊び相手に抜擢された私は、今日も姫の昆虫採集に付き合って、ある山に登っていた。
封印山。
それがこの山の名前だった。
その山以外はすべて登り、あらかた昆虫もそれ以外も取り尽くしていた。
大人からは「登ってはいけない」とさんざん言われていたのだが、昨日雨が降って土砂崩れが起きたとか言って、警備に当たっていた人もそれに回りいなくなっていたので、今日だけという条件で登ることにしたのだった。
山は低く、登るのも簡単だった。
所々で薬草や虫も捕れたのでもう降りようと言ったが、
「あの蝶々、頂上にしか咲かない花の所にしかいないのよ」
と言う姫の意見で却下されてしまった。
しかし、その花の葉も薬草になるし、何より姫を置いてなんて帰れないので引き続き登ることにした。
すぐに頂上には着いた。しかし、私たちを待っていたのはその花と蝶ではなく、古い立派な日本家屋(と読んだ本では言っていた)だった。
それを見た姫は憤り、
「絶対この家を建てるときに潰してしまったんだわ、間違いない。××、この家の人間に痛い目見せてやるわよ」
と私に言い、その家の門を潜っていってしまった。
「待って下さい」
私は姫の後を追った。
まず入ってびっくりしたのは、その家の庭だった。
広い。ものすごく広い。
そして綺麗だった。白い砂のような物が敷き詰められ、池には見たことが無い模様の鯉がいる。
「わあ・・・・・・」
流石の姫も驚きを隠せない。
私もだった。
二人で惚けていると思い出したように姫が、
「そんなんじゃないわ、私たちはこの家の人間に用があるのよ」
見てみると、頭を掻きむしりながら、「しまった嵌められた」とか言っていた。
「いえ、別に嵌めた訳ではないんじゃ」
「いいえ嵌められたわ」
もうこうなっては誰の話も聞かないな。
そう思いつつ対処法を自分なりに考えていた矢先。
「誰が嵌めたって?」
「「わああああああっ!!!」」
真後ろから人の声がした。
私たちはびっくりして、思わず大きな声を出してしまっていた。
悪いことをしようとしていたので、余計にびっくりしていた。
自分でもびっくりするくらいの声が出た。
とりあえず、大事な事なので「びっくり」を4回使ってみた。
「――――つうっ」
その人は耳を押さえてそんなことをつぶやいた。
「あ・・・・・・あんた誰よ!!」
姫が震えながら指で指す。
流石に出会ったばかりの人にそれは失礼だ。
とりあえず姫に注意をしないと。
「姫、人を指してはいけません。それに、初対面の方なのに失礼です」
「えー」
「えー、じゃないです。不法侵入のこともかねて謝りましょう」
「・・・・・・××がそう言うのなら・・・・・・・・・ごめんなさい」
「ごめんなさい」
2人で謝る。思ったより姫がすんなり折れてくれたので助かった。
「それでは・・・。すいませんでした、勝手に屋敷に入ったりして」
こういうときはさっさと帰るに限る。
あとで何か言われても困るし。
「待ちなさい」
しかし。
この家の主は帰してくれなかった。
「へ?」
「貴方たちは、何でこんな所に来たの?」
それを言わなければ帰さない、と言うような目つきでこっちを睨むこの屋敷の主。
空を見ると、もう夕暮れ間近だった。
少なくとも、まだ子供の私達には門限という物があるわけで。
そのときまでには帰らないと、姫捜しに捜索隊が出されてしまう。
そればかりは阻止したいので、素直に理由を言うことにした。
「実は、此処にしか咲いていない花とその花畑に住んでいる蝶を採取に・・・・・・」
「ふうん」
つまらなそうに話を聞いている屋敷の人。
元々あなたが質問したんじゃないんですか。
「・・・・・・・・・・・・」
すると、少し考えてから
「こっちにいらっしゃい」
と、私達を手招きした。
私達もそれについて行った。
屋敷の裏側に回ると、そこには綺麗な花畑があった。
「綺麗・・・・・・」
思わずこぼしてしまうと、
「ありがとう。世話をしていた甲斐があるわ」
此処の主は顔を綻ばせた。
それだけじゃない。
今は咲かないはずの花も咲いている。
もう散ってしまった物も、蕾のはずの物も。
すべてが、満開になっていた。
姫は姫で、すごい笑顔で虫取り編み片手にこの季節にいない虫を採取中。
最近笑っていなかったので、安心した。
「そうそう」
「?」
「この花でしょう?貴方たちが探していたのは」
足下にあった花を指す。
私もその花を見る。
「これです!図鑑で見たのよりよっぽど綺麗です!!」
私は感激した。
図鑑で見たのは、もっと色が茶色っぽくなってしまっていたからだ。
だけど、此処の物は違う。
色が鮮やかだし、葉の数も図鑑の物より多い。
これなら、色々な薬が豊富にできそうだ。
でも・・・・・・・・・
「あの、その・・・・・・」
もらっていかなければ意味がない。
しかし、私は此処の人に迷惑をかけた身だ。
もらっていくなんてそんな大胆な事できない。
欲しいのと、失礼だと言うことでもらえないと言う気持ちでどうしようか迷って、次の言葉が言えない。
そんな私の心を見透かしたようにこの人は、
「あげましょうか?」
そんな風に言ってくれた。
「良いんですか?」
「ええ」
「ありがとうございます!」
私はまじまじとその人の顔を見た。
始めに見たときはは驚きが、さっきまではは罪悪感でまともに顔が見られなかったが、こうしてみると。
――――とても綺麗な人だ。
髪は私と同じ、銀髪で、髪は結ってなかった。
けれども、耳のあたりの髪が結えそうな位長かった。
この人は「美人」と言うより、「綺麗な人」と言った方がしっくり来る。
そんな人だった。
「あの・・・・・・名前、聞いても良いですか?」
せめてなにかお礼をしたい。そう思い、名前を尋ねた。
その人はそうね、と小さく言い、
「朔夜。最近はそう呼ばれていたわ」
朔夜。
その名前を忘れないように、心の中で反芻する。
「朔夜・・・・・・さん。ありがとうございます」
「いいえ」
その人はこちらこそ、と言うように頭を振り、それから何か思いついたように
「そうだ」
と言った。
「?」
「また・・・来てくれない?」
「此処に・・・・・・・・・ですか?」
「そうよ。今回の不法侵入のお礼はそれで手を打つわ」
「良いんですか?また、此処に来ても」
「ええ。貴方たちなら大歓迎よ」
此処は綺麗だし、いて落ち着く。そして何より、
「こちらこそ---本当にありがとうございます。姫、最近元気が無くて。笑ってはいるけど、作り物のような気がして」
私は続ける。
「だから」
「?」
「だから・・・・・・・・・姫に本当の意味での笑顔をくれて、ありがとうございます」
そう。
確かに姫はいつも笑ってはいたけど。
本当の、心からの笑顔では無いような気がした。
だから。
此処に来て、良かった。
そう思った。――――心から。
私としても、姫としても。
朔夜さんは不意を突かれてしまったようで、開いた口が塞がっていなかった。
でも暫くすると、
「・・・・・・・・・・・・あのおてんば姫は、本当に良い友達を持ったわね」
そう言ってくれた。
「それでは」
「ええ」
あれからもうちょっと話した後、私達は別れた。
今度また、来る約束をして。
秘密の近道も教えてもらった。
姫も、朔夜さんとあの後仲良くなった。
「また行きたいわね」
「そうですね」
そんな話をしながら。
教えてもらった近道を帰って行った。
「・・・・・・・・・そんなことがあったんですか」
「そうよ。その懐中時計は朔夜さんの物なのよ」
長い話を終え、もう辺りは夕暮れに近かった。
「その後は、どうなったんですか?」
私は師匠に聞いてみた。
「どうって?」
「他に、何をしたとか」
「そうね・・・・・・後は、朔夜さんが姫にあの力の使い方を教えてくれたり、私に師匠以上に薬草とかの事を教えてくれたり」
「ふむふむ」
「あと・・・・・・蓬莱の薬って、あの頂上に咲いていた花から作れるのよ」
「そうなんですか!?」
「ええ。それから私は姫と共に地上に逃げて合わなくなってしまったけど」
「そうなんですか・・・・・・少し、寂しいお話ですね」
本当にそう思う。でも。
「まぁ・・・寂しいか否かと言えば寂しいけど。この世に、もう朔夜さんはいないでしょう?」
違う。本当は今も生きているかもしれない。
やっぱり私はてゐのようには嘘をつき続けられない。
「いえ・・・・・・きっと、朔夜さんは生きていると思います」
だって。
「もう。あなたが言ったんでしょう?朔夜さんと言う方の遺品をもっていますって」
違う。
「違います。実はその懐中時計・・・・本当は私が此処に、幻想郷に逃げてくるときにもらった物なんです。月から遺品として持ってきた物ではなく」
「なんですって」
師匠が驚いた。眉がぴくん、と動く。
「その時計は、私が仲間を見捨てて逃げてしまった時に、ある妖怪に会ってしまった時に、その・・・・・・朔夜さん?と言う方に助けてもらったときに貰ったんです」
私は蜘蛛のような大きい妖怪に追いかけられていた。
「はあはあ・・・・」
狂気の目で睨んだがあまり効果は無く、此処まで逃げるのにかなりの体力を使ってしまった。
もう私はクタクタなのに。
その妖怪は何処までも真下にある木々をなぎ倒しながら追ってくる。疲れた様子も全くない。
飛んでも飛んでも距離は変わらない。
それどころか、だんだん距離が縮んで来てしまっていた。
「あっ・・・・・・・・」
焦りと余所見をしていたからか、目の前の木に突っ込んでいってしまった。
「きゃ・・・」
悲鳴を上げ、いきなりのことに頭が真っ白になり、飛べることも忘れ、木の下に落ちてしまった。
「ひっ・・・・・・・・・」
もうだめだ。妖怪は、もう目の前に来ている。
私は仲間を見捨てた罰として、此処でこの妖怪の餌食になるのか。
そんな思いが頭をよぎった。
――――みんな、さようなら――――
そう思った瞬間。
ぶすり、と言う音鈍いが森に響いた。
「・・・・・・・?」
いつの間にかつぶっていた目を開ける。
すると、そこには今まで私を追っていた蜘蛛妖怪がいた。
しかし、動かない。
その妖怪はズズズ、と言う音を立てて崩れ落ちた。
背中には斬られた痕。
その上に立っているのは、刀を持った、私と同じ赤い瞳の人。
私は仲間の生き残りかと思い、声をかけた。
「ありがと」
しかし、どうにも見たことがないような気がする。
それでも、忘れてしまったんだろう、と結論づけた。
「えっと・・・・・名前は?」
「朔夜よ」
「そっか。ありがと、助けてくれて」
「ええ。でも、貴方、××様の所に行くんでしょう?」
「そうだけど」
「なら、1つお願いがあるわ」
「ええ、どうぞ」
助けて貰ったんだから、これくらいはしないと。
「そこの人に、この2つの物を渡して」
もらったのは、1つの包みだった。
「いいですけど」
「ただし」
「?」
「その包みの中にある通りに渡して頂戴」
「?よくわかりませんが・・・・・・分かりました」
「それじゃあ、頼んだわよ」
「そうだったの」
「ええ」
師匠はきっと、嬉しいんだろう。顔には出してないけど。
だって、手に持った懐中時計をさっきからずっと撫でているんだから。
「そうだ」
まだ渡していない物があった。
「ちょっと待ってて下さい」
私はそう言って自分の部屋にそれを取りに走った。
「これです」
鈴仙はそう言って自分の持ってきた包みを指す。
「これ?」
「そうです」
「そう」
私はその包みに手を伸ばそうとした。
すると鈴仙が、
「待って下さい」
そう言って、包みを後ろに隠す。
「どうかした?」
何かしたのかと思って訪ねる。
「いえ、そうではなく」
「?」
「師匠には、ある謎かけに答えて貰います。それが朔夜さんの言ったとおりだったら、この包みを渡します」
行っておくけどこれは朔夜さんがいったんですからね、と付け加える鈴仙。
「そう。受けて立つわ」
あの人は謎かけが好きだった。
今も変わっていないな、と思う。
「それでは――――行きます」
大きく息を吸う鈴仙。
私も心の準備をする。
「――――月の兎と?」
「地上の人間」
これは、朔夜さんの家に入るときの合い言葉だった物だ。
「では」
「1番愚かなのは?」
簡単だ。
彼女なら、きっとこう答えるだろう。
「私達」
暫しの沈黙。
それから鈴仙が、
「正解です。それでは、これを」
と言い、包みを開ける。
その中に入っていたのは。
「・・・・・・矢、ですよね?これ」
「ええ、そうよ」
弓矢の矢と。
「それとこれは?」
「こっちは・・・・・あの蝶の標本ね」
私達の出会いのきっかけとなった、あの蝶の標本。
それと、1枚の手紙。
「これは私宛ね」
ピリッ、と封を切る。
この中に入っていたのは。
1枚の手紙と、あの花の押し花が2つ。
そして、1枚の写真。
「うわあ・・・・・・」
それを見た鈴仙が驚きの声を上げる。
そこに映されているのは。
朔夜さんの家の花畑をバックに。
私と。
姫と。
朔夜さんが映っていた。
鈴仙は花畑の美しさに声を上げている。
「さて、と」
よいしょ、と立ち上がる。
ずっと座っていたから、少し腰が痛い。
我ながら年寄り臭いと思う。
「あれ?師匠、手紙。読まないんですか?」
鈴仙が声をかける。
中身を知りたいのだろう。
「後で自分の部屋で読むわ」
「ええー」
やっぱり中身が知りたかったか。
「中身が知りたいの?」
「はい・・・・」
どうしても知りたいのか、今度は素直に認めている。
でも。
「駄目。言ったでしょ、人には言いたくない事と言う物があるのよ」
うーん、個人的にはちょっと不完全燃焼って感じです;