Coolier - 新生・東方創想話

他愛もない話

2010/01/02 02:03:25
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「『留守に何する』だぜ」
「は?」

いつものように、唐突に神社へとやってきた魔理沙は、開口一番にそう言って、霊夢の表情をぽかんとさせた。
「だから『留守に何する』」
「それ、何のことよ」
流石に不思議そうな顔を浮かべ、魔理沙に問いかける霊夢。
たまに、とんでもなく訳の分からないことをいきなり言い出すのが、魔理沙の良くない癖だった。
魔理沙は、霊夢が分からないと見るや、得意げに言ってみせる。
「まだ気付かないか?普段呆れるくらい鋭いくせに、お前らしくもない」
ニヤニヤと笑いながら、からかうようにそう言う魔理沙。
その言葉に、思わずムッとした表情を浮かべる霊夢。
そんなことを言われたところで、分からないものは分からない。
というより、ヒントも何も無しで、そんななぞなぞめいた言葉を理解するほうが難しいだろう。
仕方なく、霊夢は降参といった様子で両手を上げた。
「結局、何なのよ」
「『留守に何する』逆さから読んでみ?」
「る、す、に、な、に、す、る……あー」
ようやくそれの意味するところに気付いた霊夢は、ポンと手を叩いた。
「回文ね」
「ご名答。結構、面白いの多いんだぜ?」

お前と見ようと思って、持って来たんだ。
そう言って、魔理沙は自らの持つ本をパラパラとめくり始める。
「それ、またパチュリーのところから、無断で持って来たわけ?」
「失礼な。借りただけだぜ。死んだら返すさ」
悪びれもせずに、そう言う魔理沙。勝手にものを持ち出すのもそうだが、その言い訳も、何年も前から変わらない。
「死ぬまで借りるのは、もはや借りるとは言わないでしょうが」
「そうだったのか。以後気をつけるぜ」
霊夢のお約束なツッコミを華麗にスルーしつつ、魔理沙はあるページで「おっ」と声を上げた。
「例えば、こんなのはどうだ?『関係ない喧嘩』」
「へえ、たしかに結構意味が通ってるわね」
魔理沙の言った回文を聞き、霊夢は感心したような声を上げる。
「異変の度にそう言えたら楽よねえ。『これは、私とは関係ないところで起きているんですよー。私全然無関係ですよー』って」
思うところがあるのか、しみじみとそう呟く霊夢。
そんな霊夢を見て、思わず魔理沙は苦笑する。
「お前ならそう言うと思ったぜ」
「そんな訳にもいかないから、毎度出て行ってるんだけどね」
「ご苦労なことだよなあ」
「お互いね」
思わず、二人で顔を見合わせて笑い合う。
魔理沙は、さらにパラパラとページをめくっていく。
「これはどうだ。『禁煙延々延期』」
「私たちの知り合いで、タバコ吸ってるやつなんていたっけ?」
「ああ、言われてみればそうはいないか。これがタバコじゃなくて酒だったら、やめられないやつなんて山ほどいるんだけどな」
魔理沙の言うように、幻想郷は毎日が宴会騒ぎである。
もし彼らに禁酒を強制し、一滴残らず酒を取り上げれば、それは異変が起きる程度の騒ぎでは済まなくなってしまうだろう。
「あんたも私も、酒に関しては人のこと言えないけどね」
「全くだぜ。あんな美味いもん無理にやめたら、逆に体調崩しちまうな」
「適度のお酒は百薬の長とか言うし、良いんじゃないの?」
要は萃香みたいな飲んだくれにならなければいいのよ、と笑う霊夢。魔理沙も「まったくだ」とそれに同意する。
どこからか、はっくしょん!という大きなくしゃみが聞こえた気がした。
しかし、それが彼女の噂をしたことと関係があるのかどうかは、二人には分からなかった。

もっと面白いものはないかと、再びページをめくり始める魔理沙。すると、すぐその手が止まり、代わりに彼女から感嘆の声が上がる。
「お、こりゃすごい!」
「どうしたの?」
「いやあ、あんまり出来のいい回文があったからさ」
よほど自信があるのか、先ほどまでよりやや大きめな声を上げる魔理沙。
彼女は、満面の笑顔を浮かべながら言った。
「なんてしつけいい子、いいけ」
「わー!!」
魔理沙の言葉が終わる前に、回文の内容を理解した霊夢。彼女は、顔を真っ赤に染めながら、魔理沙の肩をガクガクと揺さぶる。
「ちょ、霊夢やめ、冗談だって」
「じ、冗談でもそういうネタはやめなさい!」
そう言って、バンバンと魔理沙の肩を叩く霊夢。
ちなみに、割と全力である。本気でこの手の話に耐性がないらしい。
(うわ、霊夢のやつ、こんなにこういうネタ駄目だったのか)
魔理沙は、内心で良い事知ったと思いつつ「どうどう」と霊夢を宥めるのだった。

しばらくの後、ようやく霊夢は多少の落ち着きを取り戻した。
しかし、その怒りとも恥ずかしさともつかぬ感情は完全に消えたわけではないようで、まだ顔は赤いままだった。
霊夢は、再度魔理沙に向かって文句を言う。
「もう、魔理沙ったら」
「いや、悪かったって。お前があんなにウブだなんて思わなくて」
「誰がウブよ!?」
「あれ聞いて真っ赤になるなんて、ウブだと言わざるをえないぜ?」
魔理沙の言葉を聞き、霊夢はうぐっと言葉に詰まる。たしかに、傍目から見ても、あの状況の霊夢はウブであるように見えたに違いない。
霊夢はしばらく悔しげな表情を浮かべていたが、不意に魔理沙から顔を背け、誰が聞いても一発で不機嫌だと分かるような声を上げた。
「はいはい。どうせ私はウブですよーだ」
そう言いつつ、ふて腐れてそっぽを向いてしまう霊夢。
その姿は、親友である魔理沙さえ、かつて見たことがないような、レアなものだった。
霊夢にこんな可愛い所があったのかと感動しつつ、魔理沙は、いかにして彼女の機嫌を取るべきかと、思考を巡らせる。

「あー、霊夢?」
「……何?」
ジト目で魔理沙を見つめる霊夢。
予想通り、まだ相当怒ってるなあ……。そんなことを思いつつ、魔理沙は今思いついたばかりの策を実行へと移す。
「いやさ、今の状況も回文になるなあと思って」
「どんなのよ?もうあんなネタはごめんだからね」
「だから、悪かったって」
あくまで不機嫌な霊夢の態度に、思わず苦笑を浮かべる魔理沙。そんな現状を打破しようと、彼女は続ける。
「その、霊夢はさ。今ウブだって言われて怒ったわけだろ?」
「うん」
「つまり、私にウブだって言われて、ブウブウ言ってるわけだ」
「……まあ、そうね」
多少の無理はあるが、うまく霊夢の同意を得ることに成功した魔理沙。計画通りと思いつつ、すかさず魔理沙は、即興で作った回文を用いて切り返す。
「だから、回文で言うなら『ウブ、ウブ言われ、わいブウブウ』なんて……」
プッと、霊夢の吹き出す音が聞こえた。魔理沙はその瞬間、作戦の成功を確信する。
「……私、『わい』なんて言った事ないんだけど。それどうなのよ?」
そういう霊夢の声は、まだ笑いに震えている。もう大丈夫だろうと、魔理沙も適当に返事をする。
「ま、そこら辺は、ご愛嬌ってやつだぜ。将来突然言い出さないとも限らないわけだし」
「そんなの言うわけないでしょうが。まったく、何なのよ、あんた」
霊夢は尚もおかしそうにくすくすと笑い続けている。どうやらその機嫌は、どうにかながら直ったようだった。
「他には、何か面白そうなのないの?」
「うーん、そうだな……シンプルに『たい焼き焼いた』とか」
「美味しそうね、それ。今度ご馳走してよ」
「本の話だぜ!?」
境内で、本を見ながら盛り上がる二人。
いつもは、どこか人間離れした部分が目に付く両者だが、今の二人はまさしく『少女』と呼ぶに相応しかった。

「お、気付けばこんな時間か」
夕闇が迫る頃、ふと魔理沙がそんなことを言って、パタンと本を閉じた。
それにつられた霊夢も、思わず顔を上げる。そして、寒さを自覚しブルッと身震いをした。
二人とも話している最中には気付かなかったようだが、流石に冬の夜だけあり、冷え込みも厳しいものになってきていた。
霊夢の様子を見ていた魔理沙も、今になって寒くなってきたようだ。わずかにだが、その肩が震えているのが分かる。
「おお寒……今から家帰るのめんどいなあ」
魔理沙は大げさに胸の前で両手を組みながら震え、チラチラと霊夢の様子を伺いながらそんなことを言った。
「夜は飛んで帰るにしてもちょっと危ないしなー。暗いし。このままここに居れたら安全なんだが」
あくまで独り言のように、でもそれにしては大きい声でそんなことを言う魔理沙。
その声からは(寒い、めんどい、ここに居させろ)という心の声が、はっきりと読み取れる。
要は、彼女は『帰りたくないから泊まらせろ作戦』を実行しているわけなのだった。

それを見た霊夢は、少々呆れた様子だった。この友人は、過去にも同じような手を使って、何回かここに泊まっていっているのだ。
泊めるだけであれば別段構わない。博麗霊夢は、いくらなんでもそこまで薄情な存在ではない。現に、魔理沙以外の者だって、ここに泊まっていった者は少なくないのだ。
しかし、魔理沙は泊まる度に、霊夢の嫌な顔にもめげることなく、貴重な食料を結構な量食べていくのである。勿論、霊夢秘蔵の酒も一緒に被害を受けている。
霊夢が『たまったもんじゃない』と感じてしまうのも、無理はないだろう。

(何度も同じ手段を使うんじゃないわよ)
内心で、そう毒づく霊夢。毎回そうやって、好き勝手に飲み食いされるのはもう御免被りたいところである。仏の顔も何とやらと言うではないか。
しかし、流石にこの寒さの中帰るのも大変だろう。それに、夜は低級妖怪の類が出て、危険が増すのもたしかだ。
そういう思いもあり、霊夢は魔理沙に向かって言った。
「……わざとらしい芝居はやめなさいよ。泊まっていきたいなら泊まっていけば?」
「おー、そいつはありがたいぜ!いや、やっぱり霊夢は優しいな。私の見込んだ通りの女だったぜ」
笑顔を浮かべつつ、感謝の言葉を述べる魔理沙。しかし、その顔からは(作戦通り!)という文字が、はっきりと読み取れた。
「とことんわざとらしいわね、あんたの芝居」
そうツッコミをいれて、ぽこっと魔理沙の頭にチョップを入れる霊夢。
しかし、魔理沙は笑顔で「痛いぜ霊夢。でも泊めてくれるのはありがたい。えへへ、『痛がりありがたい』ってやつだな」と言うのみだった。

「やれやれ。回文なんて他愛もない話で、よく盛り上がれるものね」
スキマから二人の様子を覗いていた紫は、そう言って大きなため息をついた。
「折角霊夢に会いに来たのに、私の出る機会を奪ってくれちゃって。あの子ったら……まあいいわ」
毒づきながらも、珍しく、紫は霊夢に会うことをあっさりと諦めた。
何も、今日を逃せばもう会えないと言うわけではない。
それに、折角友人同士水入らずで過ごしているところに、無理やり押しかけるのも野暮ではないか。別に、そこまで空気が読めないわけでもない。
「新年の挨拶をしたかったのだけれど。それも明日に持ち越しましょうか」
そう言って、再度紫はため息を吐いた。

新年も始まり、今日は一月二日。三が日の真っ只中だ。
本来なら冬眠真っ最中の紫も、毎年このときばかりは霊夢に新年の挨拶をしようと、汗と涙と気合と根性で起き出して来るのである。
というか、正確に言うなら、彼女の式である藍が、汗と涙と気合と根性で紫を叩き起こすのだが。

ちなみに、一月二日に起きて来るのは彼女なりの気遣いである。
正月一日の博麗神社は、数多の妖怪が集まって宴会を開くため、とてもまともに挨拶などできたものではないのだ。
本音を言えば紫自身も起きてきて騒ぎたいのだが、あまり霊夢の負担を増やすのもいかがかと、自制している次第なのだ。

「まあ、そんな気遣いも今年は無駄になっちゃったわけだけど。ふあああ……挨拶はまた明日……起きれるかしら」
無理かもしれない、いや、ほぼ無理だろうなと紫は考える。
ただでさえ、今はかなり無理やり起きて来ているのである。例年だって、今日の挨拶を済ませば、また春まで眠りにつくのだ。
過去に、冬眠の最中二日連続で起きた経験など、彼女の長い人生の中でも例を見ない。
そんなわけで、正直に言って明日もう一度起きれるような自信は、彼女にはなかった。

相変わらず楽しそうに話す二人の様子を見て、紫は微苦笑を浮かべる。寂しいとは思わなかったが、多少複雑な思いはあった。
(蚊帳の外っていうのも辛いものねえ)と思いつつ、紫は空間に裂け目を作り、自らの体を半分ほど潜り込ませる。
「今年は初めからうまくスタートを切れなかったわねえ……まあいいけど。春にでも起きてきてから、ゆっくり挨拶しましょうか」
すっかり諦めたかのように、そう呟く紫。
彼女はその姿をスキマへと埋めつつ、最後に霊夢を見ながら言った。

「『長き夜の 遠の睡りの 皆目醒め 波乗り船の 音の良きかな』……二人とも、いい夢見れるといいわね。おやすみなさい」
「藍しゃま、その絵は何ですか?」
「ああ、これかい?これは、七福神の絵だよ。この絵を枕の下に敷いて寝ると、良い初夢が見られると言われているんだ」
「そうなんですかっ。橙は一つ賢くなりました!」
「うんうん。偉いぞ、橙」

―――――――――――――

明けましておめでとうございます。ワレモノ中尉です。
前回コメントくださった方、ありがとうございました。やっぱり、大きな幸せは小さいものが積み重なってこそ、ですよね。

今回は、久しぶりで回文話です。
あの頃に比べればうまくまとめられたのではないかと思うのですが、どうなんでしょう…。自分では、よく分からないものですね。

そして、お正月ということで、オチはそれっぽく。
非常に分かりにくいオチですみません。でも、ぶっちゃけそれがやりたかったがためにこの話書いたくらいで(爆)
この回文歌は、読んで意味が通るし、綺麗だし、技量的に見ても神がかってると思うなあ。流石は七福神と共に並べて書かれるだけの出来。回文好きとしては、こういう作品を一度作ってみたい。

そんなこんなではありますが、少しでも楽しんでいただければ是幸いです。
それでは。

※1月2日 追記
タイトルの修正を微妙にさせていただきました。すみません……。
ワレモノ中尉
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コメント



0.900簡易評価
7.100煉獄削除
ある日の一日という雰囲気が感じられる、面白いお話でした。
霊夢や魔理沙の会話や紫様が最後に言った回文とか良かったです。
8.100名前が無い程度の能力削除
回文すげぇ!
霊夢かわいいな
12.無評価名前が無い程度の能力削除
確かマリみてにこんな話あったな。
17.100名前が無い程度の能力削除
まあいい尻してるんだろう、あの面子なら
18.100名前が無い程度の能力削除
最後の回文私も好きです
23.100名前が無い程度の能力削除
ウブ霊夢可愛い
回文って面白いの多いですね