「ジングッベー ジングッベー 鈴がー鳴るー♪ 今日はーたのっしいークリッスーマスー ヘイッ♪」
魔理沙がサンタクロースの帽子を被って上機嫌でこの歌を歌っていると、ああ今年もあと少しで終わりなんだなあと実感する。
「香霖ー。もうすぐできるからそのへん綺麗にしといてくれよ」
先ほどから魔理沙は晩御飯の準備中だ。
鳥の丸焼きらしいが前日から下準備した本格的なものらしい。
「わかったよ」
「お酒も用意してよね」
「霊夢はちょっとは手伝えよ」
「はいはい」
のほほんとしていた霊夢が渋々という感じで台所へ向かっていく。
僕は魔理沙に言われたとおり食事を出来るスペースを確保していた。
「しかし呼んでもないし、やるとも言ってないのに必ず僕の店でクリスマスパーティをやるのはどういうことなのかな」
はじめ、用意したケーキやお酒は僕一人で楽しむためのものだった。
霊夢と魔理沙が必ず来るので用意するケーキは三人分に、お酒もそれなりの量になった。
「おかげで華やかなクリスマスが過ごせるんだ。いいだろ?」
魔理沙がどんとテーブルの真ん中に鳥の丸焼きを置いた。
このテーブルは台所からわざわざ店内へ運んできたものである。
「そうよいっつも殺風景なんだから今日くらいね」
香霖堂は二人の手によってクリスマス仕様に模様替えされていた。
赤を基調にして綿や星飾りなどの装飾でかなり派手派手な雰囲気だ。
表にはどこから持ってきたんだか、もみの木も飾り付けされている。
用意したならしたで片付けまでやって欲しいのだがそういう事はとりあえず今は考えないでおこう。
「さ、食べようぜ。ちゃっちゃと分けちゃうからな」
メインの鳥の丸焼きをはじめとして、様々な食事がテーブルの上に並べられた。
魔理沙がそれを上手い具合に取り分けていく。
「頂きます」
「いただきます」
「いっただきまーす」
日本は古来より様々な行事を海外から取り入れている。
幻想郷もそれは例外ではなく、外の世界でそこそこ有名な行事は同じように行われているのだ。
「ん、美味い」
「だろ? この味を出すのに結構苦労したんだぜ」
「ほんと、美味しいわね」
ただ、その行事が何故行われるのかという事についてはあまり考えられない。
「クリスマスって美味しいものがたくさん食べれていい日だわ」
「私も作りがいがあったぜ」
めでたいんだからそれでいいじゃないかとそんな感じだ。
しかしそれではよくない。やはり何事も由来を知らなくては。
「いいかい、クリスマスというのはね」
「その話は耳にタコだぜ」
「毎年聞くものね」
僕は毎年話そうとしているのだけれど、二人がまともに聞いてくれた試しが無いと思う。
「それより私にはサンタクロースのほうが重要なんだ」
「三太? 魔理沙も好きよね」
この話題も数年に一度くらいの割合で語られる。
「だってプレゼントをくれるんだぞ? いい奴じゃないか」
外の世界ではサンタクロースはいる、いないと議論を重ねられる存在らしい。
幻想郷においてはそういう存在は大抵実在するのだが、僕もサンタクロース本人に会ったことはないので断言は出来ない。
「私の神社にもお金置いていってくれないかしら」
霊夢がそんな事を言いながら自分で鳥の丸焼きを切り分けていた。
「そういう邪な心の奴のところには来ないんだよ。清い心の奴のところだけに来るんだ」
「あら、私だって清く正しく生きてるわよ」
僕自身の考えとしてサンタクロースは実在するかどうかというと判断に悩むところだ。
いるとも思うし、いないとも思う。
「香霖もそう思うよな」
「ん? サンタクロースの事かい?」
僕が魔理沙を見ると魔理沙はにこりと笑った。
「サンタクロースはいい子のところにプレゼントを届けに来るんだよな?」
「その答えを出すにはまずサンタクロースの概念について話す必要があるかもしれないな」
「うん?」
「サンタクロースっていうのは個人としての存在ではなく、職業的なものだと思うんだ」
「職業? そんな物好きな仕事する人いるのかしら」
霊夢が呆れた顔をしている。
「どうしてそれをするのかは今は考えない。重要なのはその格好だ。サンタクロースについては誰に聞いても概ね同じことを答える」
赤い衣服を身にまとい、帽子を被り、口元には白いひげ。
そしてクリスマスの夜にトナカイのそりに乗ってプレゼントを配るおじいさん。
「サンタクロースは子供にプレゼントを与えるという。だが一人で世界中の子供にプレゼントを与えて回るなんて不可能だ」
「そりゃまあそうだな」
「しかしサンタクロースをクリスマス限定の職業だと考えれば何も問題はなくなる。サンタクロース個人ではなく、同様の格好をした人々でそれを行うんだ」
「じゃあ幻想郷には幻想郷担当のサンタクロースがいるのか?」
「恐らくはね。普段は別の仕事でもしてて、皆がいい子にしているか見ているんじゃないかな」
きっと霊夢や魔理沙のすぐ近くで。
「ふーん。まあ大丈夫だろう。今年も」
「私も大丈夫ね」
二人はとても自信ありげだった。
余談だが外の世界だと、彼女らくらいの年だともうサンタクロースの存在を信じなくなりあまり話さなくなってしまうようだ。
幻想郷では、というか彼女らが自分らに益になる存在を信じないはずがない。
現実に毎年クリスマスには彼女らの元にはプレゼントが届くのだ。
「そろそろケーキでも食べないかい」
あれこれ話をしながら食べているうちにテーブルの上の皿はすっかり綺麗になってしまった。
「そうだな。ケーキ食べたら帰るか」
「帰ったら早く寝なくちゃね。結構お酒を飲んだからすぐ眠っちゃうだろうけど」
いつぞやはサンタクロースを捕まえようと躍起になっていた事もあったが、サンタクロースは姿を見られた相手には二度と現れないという話を大げさにしたらそれも無くなった。
サンタクロースが捕まってしまったら僕も困るからだ。
「美味いなこのケーキ!」
「ほんとね。どこで買ってきたの?」
「それはちょっと知り合いのつてで……」
クリスマスの夜はあっという間に過ぎていく。
*
「じゃあな、香霖」
「またね、霖之助さん」
「ああ。気をつけて」
日が変わる前に二人は帰っていった。
家に誰もいないとプレゼントが貰えないかもしれないからということだ。
「はぁ」
僕としては散らかった店内を片付けてくれる誰かがいないのがとても困る。
「まあ片付けていれば丁度いいか……」
始める時は億劫だが、手を動かしていたらなんとか数時間で見れる程度には綺麗になった。
すっかり夜もふけて頃合の時間である。
「さて……と」
僕は店の倉庫の奥から用意していたものを引っ張り出してきた。
赤い衣服と帽子、つけひげ。プレゼントの入った大きな袋。
サンタクロースの衣装だ。
そう、僕の正体は幻想郷のサンタクロースだったのである。
といっても魔理沙と霊夢相手限定のサンタクロースだ。
僕がサンタクロースの存在について、いるとも思うしいないとも思ったのはこのためである。
二人限定でいうならばいる。
しかし僕以外にこれをやっている誰かがいるのかどうか、それはわからない。
実在するのを確認するには二人にプレゼントを贈ることを止めればいいのかもしれないが、もしということを考えると止める事も出来なかった。
「いつからやっているんだっけな」
きっかけは魔理沙の実家での修行時代にやってくれと頼まれたことだった。
魔理沙が一人で暮らすようになってからも、それを続けていたのだ。
「戸締りはちゃんとしろって言ってるんだけどな」
相変わらず鍵のかかってない家に入り、寝室で眠っている魔理沙の元へ。
鍵がかかっていたとしてもこの家に鍵を取り付けたのは僕だし、魔理沙から直接合鍵はお前が持ってろと言われたので何の問題もない。
魔理沙は大いびきを立てて眠っていた。
そっと用意された靴下の傍にプレゼントを置く。
「メリークリスマス」
そして素早く去る事にした。
「次は霊夢か……」
霊夢と知り合ってからは、魔理沙だけでは贔屓だろうと霊夢のところにも行くようになった。
二人とも好みはある程度知っているのでプレゼントの事で非難があったということはない。
もちろん僕の仕業だとばれないように、店にあるものではなく人里から用意してきたものがプレゼントだ。
「さて」
相変わらずすっからかんのお賽銭箱とにらめっこをする。
この賽銭箱が一杯だったら霊夢はさぞ喜ぶだろう。
けどそれはちょっと趣旨が違う気がする。
「よっと」
こちらも鍵をかけてない無用心っぷりである。大丈夫なんだろうか。
今日だけ開けているのかもしれないと考える事にする。
「うーんお賽銭が……お賽銭が……」
霊夢は煎餅布団の中でうなされていた。
「……メリークリスマス」
僕はそっとそれを置いた。
これで仕事は終わりだ。
神社の外へ出る。
空を見上げると星空が綺麗……でもなくあいにくの曇り空だった。
「いや、これでいいのかもしれないな」
僕は誰にも見られないようそそくさと着替えを済ませてしまい、香霖堂へと一直線で戻った。
「ん」
店に到着した頃に、頭に何か冷たいものがあたり空を見上げた。
「雪か……」
はらはらと闇の中で光る白い結晶。
ホワイトクリスマスというのは縁起のいいものらしい。
冬の妖怪がここぞとばかりに張り切っているのだろう。
「明日は積もるかな」
そんな事を考えながら店の中へと入った。
*
「いやー大分積もったなー」
「久しぶりよね、こんなに降ったの」
雪の日でも霊夢と魔理沙は元気はつらつである。
むしろここに来るまでに雪合戦でもしていたようだ。
「ちゃんと玄関先で雪を掃ってから戻ってきてくれよ」
僕はストーブの前でぱんぱんと雪を掃う魔理沙に言った。
「ストーブで乾くからいいじゃないか」
まるで悪びれた様子も無い。
僕はため息を付いた。
「あ、今年も来たぜ、サンタクロース」
「そうか。よかったね」
「そう! 今年のプレゼントは最高だったわ!」
霊夢がものすごく嬉しそうな顔をしている。
「ん? 何貰ったんだ?」
「布団よ布団! あったかいの!」
「……また恐ろしく実用的だな」
「死活問題よ! もう布団がぼろぼろで毎晩寒かったんだから!」
博霊神社はびっくりするほど風通しがいいのだ。
「ふーん。じゃあ今年は暖かく過ごせるってワケだな」
「そういう魔理沙は何を貰ったのよ」
「へっへー」
魔理沙は傍に置いてあった箒をくるくると回してみせた。
「この箒だ。きちんと作りこまれてる良物だぜ」
布団にしろ箒にしろ、人里で名の知れた人物が作ったもので、僕が直接確認したものでその品質は保障済みだ。
「ほんと、サンタクロース様様よね」
「香霖も見習って欲しいくらいだぜ」
「はははは」
彼女らにプレゼントを送る。
僕らしくはない事ではあると思うし、それだからこそ魔理沙や霊夢は僕がサンタクロースだと考えないのかもしれない。
「香霖は何か貰えたのか?」
「ん。一応ね」
何故それをやっているのかというと、色々と理屈は立てられるが。
単純に彼女たちの喜ぶ顔が見たかったという理由だと思う。
だからまあ、それはサンタクロースによって貰えたものだといえるだろう。
直接プレゼントを渡したりするのはどうも気恥ずかしくていけない。
「なんだ? 教えてくれよ」
「内緒」
「はっはー。どうせ貰えなかったんだろ。じゃ、プレゼントを貰えなかった香霖の為に忘年会で腕を振るってやるぜ」
年の最後に皆が楽しめる行事があるというのはいいことだ。
「いいわね忘年会。私も用意できるものは用意しておくわ」
「……それも僕の店でやるのかい?」
「当然だろう?」
「当然でしょ?」
香霖堂は今年の最後まで賑やかになりそうである。
それは店としては益のない事かもしれないけれど。
「仕方が無いな、全く」
僕個人としては、それは大いに意味があり、有益な事だと思うのであった。
魔理沙がサンタクロースの帽子を被って上機嫌でこの歌を歌っていると、ああ今年もあと少しで終わりなんだなあと実感する。
「香霖ー。もうすぐできるからそのへん綺麗にしといてくれよ」
先ほどから魔理沙は晩御飯の準備中だ。
鳥の丸焼きらしいが前日から下準備した本格的なものらしい。
「わかったよ」
「お酒も用意してよね」
「霊夢はちょっとは手伝えよ」
「はいはい」
のほほんとしていた霊夢が渋々という感じで台所へ向かっていく。
僕は魔理沙に言われたとおり食事を出来るスペースを確保していた。
「しかし呼んでもないし、やるとも言ってないのに必ず僕の店でクリスマスパーティをやるのはどういうことなのかな」
はじめ、用意したケーキやお酒は僕一人で楽しむためのものだった。
霊夢と魔理沙が必ず来るので用意するケーキは三人分に、お酒もそれなりの量になった。
「おかげで華やかなクリスマスが過ごせるんだ。いいだろ?」
魔理沙がどんとテーブルの真ん中に鳥の丸焼きを置いた。
このテーブルは台所からわざわざ店内へ運んできたものである。
「そうよいっつも殺風景なんだから今日くらいね」
香霖堂は二人の手によってクリスマス仕様に模様替えされていた。
赤を基調にして綿や星飾りなどの装飾でかなり派手派手な雰囲気だ。
表にはどこから持ってきたんだか、もみの木も飾り付けされている。
用意したならしたで片付けまでやって欲しいのだがそういう事はとりあえず今は考えないでおこう。
「さ、食べようぜ。ちゃっちゃと分けちゃうからな」
メインの鳥の丸焼きをはじめとして、様々な食事がテーブルの上に並べられた。
魔理沙がそれを上手い具合に取り分けていく。
「頂きます」
「いただきます」
「いっただきまーす」
日本は古来より様々な行事を海外から取り入れている。
幻想郷もそれは例外ではなく、外の世界でそこそこ有名な行事は同じように行われているのだ。
「ん、美味い」
「だろ? この味を出すのに結構苦労したんだぜ」
「ほんと、美味しいわね」
ただ、その行事が何故行われるのかという事についてはあまり考えられない。
「クリスマスって美味しいものがたくさん食べれていい日だわ」
「私も作りがいがあったぜ」
めでたいんだからそれでいいじゃないかとそんな感じだ。
しかしそれではよくない。やはり何事も由来を知らなくては。
「いいかい、クリスマスというのはね」
「その話は耳にタコだぜ」
「毎年聞くものね」
僕は毎年話そうとしているのだけれど、二人がまともに聞いてくれた試しが無いと思う。
「それより私にはサンタクロースのほうが重要なんだ」
「三太? 魔理沙も好きよね」
この話題も数年に一度くらいの割合で語られる。
「だってプレゼントをくれるんだぞ? いい奴じゃないか」
外の世界ではサンタクロースはいる、いないと議論を重ねられる存在らしい。
幻想郷においてはそういう存在は大抵実在するのだが、僕もサンタクロース本人に会ったことはないので断言は出来ない。
「私の神社にもお金置いていってくれないかしら」
霊夢がそんな事を言いながら自分で鳥の丸焼きを切り分けていた。
「そういう邪な心の奴のところには来ないんだよ。清い心の奴のところだけに来るんだ」
「あら、私だって清く正しく生きてるわよ」
僕自身の考えとしてサンタクロースは実在するかどうかというと判断に悩むところだ。
いるとも思うし、いないとも思う。
「香霖もそう思うよな」
「ん? サンタクロースの事かい?」
僕が魔理沙を見ると魔理沙はにこりと笑った。
「サンタクロースはいい子のところにプレゼントを届けに来るんだよな?」
「その答えを出すにはまずサンタクロースの概念について話す必要があるかもしれないな」
「うん?」
「サンタクロースっていうのは個人としての存在ではなく、職業的なものだと思うんだ」
「職業? そんな物好きな仕事する人いるのかしら」
霊夢が呆れた顔をしている。
「どうしてそれをするのかは今は考えない。重要なのはその格好だ。サンタクロースについては誰に聞いても概ね同じことを答える」
赤い衣服を身にまとい、帽子を被り、口元には白いひげ。
そしてクリスマスの夜にトナカイのそりに乗ってプレゼントを配るおじいさん。
「サンタクロースは子供にプレゼントを与えるという。だが一人で世界中の子供にプレゼントを与えて回るなんて不可能だ」
「そりゃまあそうだな」
「しかしサンタクロースをクリスマス限定の職業だと考えれば何も問題はなくなる。サンタクロース個人ではなく、同様の格好をした人々でそれを行うんだ」
「じゃあ幻想郷には幻想郷担当のサンタクロースがいるのか?」
「恐らくはね。普段は別の仕事でもしてて、皆がいい子にしているか見ているんじゃないかな」
きっと霊夢や魔理沙のすぐ近くで。
「ふーん。まあ大丈夫だろう。今年も」
「私も大丈夫ね」
二人はとても自信ありげだった。
余談だが外の世界だと、彼女らくらいの年だともうサンタクロースの存在を信じなくなりあまり話さなくなってしまうようだ。
幻想郷では、というか彼女らが自分らに益になる存在を信じないはずがない。
現実に毎年クリスマスには彼女らの元にはプレゼントが届くのだ。
「そろそろケーキでも食べないかい」
あれこれ話をしながら食べているうちにテーブルの上の皿はすっかり綺麗になってしまった。
「そうだな。ケーキ食べたら帰るか」
「帰ったら早く寝なくちゃね。結構お酒を飲んだからすぐ眠っちゃうだろうけど」
いつぞやはサンタクロースを捕まえようと躍起になっていた事もあったが、サンタクロースは姿を見られた相手には二度と現れないという話を大げさにしたらそれも無くなった。
サンタクロースが捕まってしまったら僕も困るからだ。
「美味いなこのケーキ!」
「ほんとね。どこで買ってきたの?」
「それはちょっと知り合いのつてで……」
クリスマスの夜はあっという間に過ぎていく。
*
「じゃあな、香霖」
「またね、霖之助さん」
「ああ。気をつけて」
日が変わる前に二人は帰っていった。
家に誰もいないとプレゼントが貰えないかもしれないからということだ。
「はぁ」
僕としては散らかった店内を片付けてくれる誰かがいないのがとても困る。
「まあ片付けていれば丁度いいか……」
始める時は億劫だが、手を動かしていたらなんとか数時間で見れる程度には綺麗になった。
すっかり夜もふけて頃合の時間である。
「さて……と」
僕は店の倉庫の奥から用意していたものを引っ張り出してきた。
赤い衣服と帽子、つけひげ。プレゼントの入った大きな袋。
サンタクロースの衣装だ。
そう、僕の正体は幻想郷のサンタクロースだったのである。
といっても魔理沙と霊夢相手限定のサンタクロースだ。
僕がサンタクロースの存在について、いるとも思うしいないとも思ったのはこのためである。
二人限定でいうならばいる。
しかし僕以外にこれをやっている誰かがいるのかどうか、それはわからない。
実在するのを確認するには二人にプレゼントを贈ることを止めればいいのかもしれないが、もしということを考えると止める事も出来なかった。
「いつからやっているんだっけな」
きっかけは魔理沙の実家での修行時代にやってくれと頼まれたことだった。
魔理沙が一人で暮らすようになってからも、それを続けていたのだ。
「戸締りはちゃんとしろって言ってるんだけどな」
相変わらず鍵のかかってない家に入り、寝室で眠っている魔理沙の元へ。
鍵がかかっていたとしてもこの家に鍵を取り付けたのは僕だし、魔理沙から直接合鍵はお前が持ってろと言われたので何の問題もない。
魔理沙は大いびきを立てて眠っていた。
そっと用意された靴下の傍にプレゼントを置く。
「メリークリスマス」
そして素早く去る事にした。
「次は霊夢か……」
霊夢と知り合ってからは、魔理沙だけでは贔屓だろうと霊夢のところにも行くようになった。
二人とも好みはある程度知っているのでプレゼントの事で非難があったということはない。
もちろん僕の仕業だとばれないように、店にあるものではなく人里から用意してきたものがプレゼントだ。
「さて」
相変わらずすっからかんのお賽銭箱とにらめっこをする。
この賽銭箱が一杯だったら霊夢はさぞ喜ぶだろう。
けどそれはちょっと趣旨が違う気がする。
「よっと」
こちらも鍵をかけてない無用心っぷりである。大丈夫なんだろうか。
今日だけ開けているのかもしれないと考える事にする。
「うーんお賽銭が……お賽銭が……」
霊夢は煎餅布団の中でうなされていた。
「……メリークリスマス」
僕はそっとそれを置いた。
これで仕事は終わりだ。
神社の外へ出る。
空を見上げると星空が綺麗……でもなくあいにくの曇り空だった。
「いや、これでいいのかもしれないな」
僕は誰にも見られないようそそくさと着替えを済ませてしまい、香霖堂へと一直線で戻った。
「ん」
店に到着した頃に、頭に何か冷たいものがあたり空を見上げた。
「雪か……」
はらはらと闇の中で光る白い結晶。
ホワイトクリスマスというのは縁起のいいものらしい。
冬の妖怪がここぞとばかりに張り切っているのだろう。
「明日は積もるかな」
そんな事を考えながら店の中へと入った。
*
「いやー大分積もったなー」
「久しぶりよね、こんなに降ったの」
雪の日でも霊夢と魔理沙は元気はつらつである。
むしろここに来るまでに雪合戦でもしていたようだ。
「ちゃんと玄関先で雪を掃ってから戻ってきてくれよ」
僕はストーブの前でぱんぱんと雪を掃う魔理沙に言った。
「ストーブで乾くからいいじゃないか」
まるで悪びれた様子も無い。
僕はため息を付いた。
「あ、今年も来たぜ、サンタクロース」
「そうか。よかったね」
「そう! 今年のプレゼントは最高だったわ!」
霊夢がものすごく嬉しそうな顔をしている。
「ん? 何貰ったんだ?」
「布団よ布団! あったかいの!」
「……また恐ろしく実用的だな」
「死活問題よ! もう布団がぼろぼろで毎晩寒かったんだから!」
博霊神社はびっくりするほど風通しがいいのだ。
「ふーん。じゃあ今年は暖かく過ごせるってワケだな」
「そういう魔理沙は何を貰ったのよ」
「へっへー」
魔理沙は傍に置いてあった箒をくるくると回してみせた。
「この箒だ。きちんと作りこまれてる良物だぜ」
布団にしろ箒にしろ、人里で名の知れた人物が作ったもので、僕が直接確認したものでその品質は保障済みだ。
「ほんと、サンタクロース様様よね」
「香霖も見習って欲しいくらいだぜ」
「はははは」
彼女らにプレゼントを送る。
僕らしくはない事ではあると思うし、それだからこそ魔理沙や霊夢は僕がサンタクロースだと考えないのかもしれない。
「香霖は何か貰えたのか?」
「ん。一応ね」
何故それをやっているのかというと、色々と理屈は立てられるが。
単純に彼女たちの喜ぶ顔が見たかったという理由だと思う。
だからまあ、それはサンタクロースによって貰えたものだといえるだろう。
直接プレゼントを渡したりするのはどうも気恥ずかしくていけない。
「なんだ? 教えてくれよ」
「内緒」
「はっはー。どうせ貰えなかったんだろ。じゃ、プレゼントを貰えなかった香霖の為に忘年会で腕を振るってやるぜ」
年の最後に皆が楽しめる行事があるというのはいいことだ。
「いいわね忘年会。私も用意できるものは用意しておくわ」
「……それも僕の店でやるのかい?」
「当然だろう?」
「当然でしょ?」
香霖堂は今年の最後まで賑やかになりそうである。
それは店としては益のない事かもしれないけれど。
「仕方が無いな、全く」
僕個人としては、それは大いに意味があり、有益な事だと思うのであった。
>三太
誰ですかwwww
霖之助さん、頑張れ!
なんという通い妻、だけどどう考えても親子です。本当に
頑張れ霖之助お父さん!