「できたぁ~!!」
ここ博麗神社は、侘しすぎて、寂しすぎて、閑古鳥が鳴くのをあきらめてしまった、いや閑古鳥が涙してまった神社である。
そこに、この世の全てをそこに置いてきた、というくらいのどうしようもなさを含んだ能天気な萃香、もとい胸無しの声が木霊した。
「……なによもう」
あー、もうめんどくさい。
霊夢は、やる気のなさにおいては頂点に上り詰め、ギネスを更新できるくらい(ぶっちゃけ更新したと思う)適当な返事をしてやる。
手近にある擬似磯辺焼き(海苔に醤油ぶっ掛けて焼いたもの)をちまちまとかじった。
……ウマー
「で・き・たあぁぁぁぁぁ!!!」
何が不服なのか萃香はワンスモァ、パゥワーの限りシャウトゥッする。
いや、もうわかったから静かにして……
つるぺたを一瞥し、軽く相手することにした。
「何ができたって?」
「これこれぇ~」
ぺったんぺったんは楽しそうに(本当に憎たらしいくらい楽しそうに)そのちっこい手を左右にぶらつかせる。その動きと一緒に、手にぶら下がっている何かも右へ左へと、ひーらりひらりと舞い踊った。
「ふむぅ? なにそれ」
「聞いて驚けぇー、なんと、これはっ!! すご☆ろく なのだあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
あ~、うるさいだまりなさいよ。ていうか驚くほどのものでもないじゃない。
痺れ始めた足を組みかえる。途中で机の角に当たってビリ☆ビリっとした。少しイラっとする。
なんで正座って足が痺れるのかしら…… 同じ『せいざ』だったら星座占いの『せいざ』みたいにもっと夢があったって良いのに! あ、夢も希望もありゃしないってあれですか、そうですか。
くそう、いつか正座占いってのを作ってやる。覚悟してなさいよ。
正座のしすぎで足が痺れすぎて立つことが億劫になってしまっているお馬鹿さんなあなたの今日の運勢は!?
ダララララララララララララ…………
ジャン!
大吉です!
んー……なんか違う気がする。
まぁいいや。
実の所は磯辺焼きでもなんでもないものを一口食べる。
…………ウマー
…………それにしてもすごろく、ねぇ。
幼少のころの懐かしさともどかしさ、その他諸々を彷彿させるものね。
……………………
「……4、5、6と、よしっ! また私がいっちば~ん♪」
「あ~……こいつまた勝ったよ」
「れ~むつぇーよ」
「すごろくとは運が絡んだゲームっ!! なのにこれはなんだ!! 我々の勝率は0パーセントではないか!! なぜ、なにゆえにこうも勝利の女神が微笑んでくれないんんんんんだああああ!!!」
「はいはい、運も実力の内なのよ。ほらぁ~、うだうだと愚痴ってないでお金をよこしなさいな♪ 全員100円ずつ♪」
うはは~儲け儲け
ガキの私……
すごろくでお金をかけるなんて、なにやってんのかしら……
「なぁにぃ? お金がないだとぉ? 勝負の世界はあまかぁないのよ。ふぁ○く! ほらほら、親の財布からでも抜き取ってきたら良いじゃない」
「レート上げすぎだよ!」
「なんで何ですごろく程度で一万円も支払わなきゃならないんだよぅ」
「あーうー」
「みょんぬー……」
ざわ…………ざわ……
まさかの高レートすごろくっ!!!
霊夢の脳内に電撃、走るっ!!
そういえばこんなことやって……たっけ?
「泣いたって許さないわよ。ちゃぁんと耳を揃えて払いなさいな♪」
なんつこと! 幼きわたす鬼畜すぎかぁ! どげんかせんといかんばい!
ていうか今の神社の資金より潤沢してるよ!? なんてうらやまけしからん!
こんな記憶は夢想封印してしまえ!!!
オゥイエェー……
ここはどこ、私は誰ぞ……?
私の脇で、様々な角度からどう工夫して見ても胸の膨らみを感じさせることのできない少女が心配そうにこちらのほうを見ている。
「どしたー?」
思い出せない。
なんで私はこんな海苔を焼いて醤油をぶっかけたものを食べているんだろう。
なぜ餅がない。
どうして餅がないっ!!!
「だいじょーぶか?」
わからない!
んぐぐ、そして今気づいたけど微妙に足が痺れているわね。
なんだか無性に怒りがこみ上げてくるわ……
「なんかむつかしそうな顔してるねー。そんな顔してないで、気分を変えてこの『すご☆ろく』でもやろー!」
ょぅじょは、いろいろと書き込まれた紙をひらひらさせている。
「ん」
……すご……ろ…………く?
何かすごろくについて重要そうな記憶があったような無かったような……
なんだったかしら……
……………………
「……4、5、6っと、よしっ! また私がいっちば~ん♪」
「あ~……私がまた勝ったよ」
「私つぇーわ」
「すごろくとは運が絡んだゲームっ!! なのになんて圧倒的なんだ!! 私の勝率は100パーセントではないか!! いつも、いつまでも私には勝利の女神は微笑んでくれている!!! 負ける気がしないっ! この強運、たとえガラスのシャワーが降ってきたとしても私には当たるまい!」
「はいはい、運も実力の内ね。ほらぁ~、うだうだと喋ってないでもっかいやりましょうか♪ すごろくって楽しいわね♪」
……………………なんか私らしきガキんちょが一人芝居してるわね。
やべぇ、死にたくなってきたわ。
こんな記憶は消してしまえ!
オウイェーーー…………
記憶が脳内に舞い戻って来ている気がするヨ。
「んー……」
思い出した! 私の名前は博麗霊夢で、このつるっペタっストーンは伊吹すいか(なぜか変換できない)だったわね。
確か。
まぁいいわ。
ちびりちびりと磯辺焼きモドキをかじるかじる。
ウマー。
「すご☆ろくやろおおおおお!!!」
女の子であることを認識することの出来ないくらいの胸の薄さの鬼が力の限り叫ぶ。
うっさいわね…………
……ん、てかすごろくって、
「もうその思い出ではいやああああああああああああああ!!」
即座にすごろく用紙を奪い夢想封印した。
「あーーーーーーーーー!!! 折角の力作が……」
ぬぅ、申し訳ないことをしてしまったわ。
ぺったんはこの世の終わりのような表情でこちらを見ている。
機嫌直してもらわないと後々めんどそうね。
「ごめんごめん、お酒あげるから許して、ね?」
「お酒!? ほんとに!」
「ほんとほんと」
「ありがとう!!」
すっげーいい目をしてやがる。
少女漫画かっつーの。
それにしてもお酒ひとつで機嫌を直してくれるなんてすっごい扱いやすいわね。
「あなた、そんなにお酒が好きなの?」
「うん! お酒こそ私の嗜好にして思考、そして至高の物である。
お酒無くして私語れず、私無くしてお酒語れず」
うわ、なんか地雷踏んだ臭いわね。
「つまり何が言いたいかって言うと、
お酒、それすなわち神ならざるものが創りし、神に変わる神をも超えたものなのさ。
私は一介ののんべぇとしてこれを深交し、親交し、新興して、信仰せざるを得ない」
話微妙に長いわねぇ。
「それほどまでにお酒はこの私、伊吹萃香を魅了するものの1つ……
いや、魅了する唯一の存在である。
ゆえにお酒は私の生き甲斐であり、生き様であり生き方でも在る」
話なげー……
「で、だからなによ」
「早くお酒ちょーらい♪」
「はいよ」
私は畳の下から一本の酒を取りだした。
「わお、では早速いただきまーす」
ごとり、
そしてぶすり、と角が倒れた拍子に畳にぶっ刺さっている。
テラシュール。
よし、これで静かになったわね。
SUICAのもっている酒のラベルにはこう書かれている。
『意外っっ、これは酒?』
あのとき魔理沙が持ってきたバイオハザード酒だ。
なぜか一本だけ残ってたから畳の下に封印していた。
それがこんなことに役立つとは。
さて、静かになったしもう寝よう。
あれっ、足が痺れて力がっ……
ビターン、といい音がした。
畳に顔面ダイブしてしまった。
その日、二人とも風邪を引いた。