「ここをこうして……っと」
博麗神社の一室。
畳の上に、ちゃぶ台が一つ置いてあるという殺風景な部屋だ。
そのちゃぶ台の上にはよく分からないキカイの部品のような物が散らかされていて、部屋の片隅には完成品と思われるやはりよく分からないキカイが置かれている。
にとりはその部品を手に取ったり、「違う」とか言いつつすぐにちゃぶ台に戻したりと動きが忙しなかった。
それを隣で眺めている魔理沙は怪訝な顔をしている。
「……おい、にとり」
黙ってにとりの作業を眺めているのに耐えかねたのか魔理沙は口を開いた。
「はーにー、まりはー?」
にとりはどこぞの職人みたいに、ネジを口に咥えたまま返事をする。
「ちゃんと返事しろって。お前、さっきから何造ってんだ?」
「はー、ほれ? はれはよ、はれ」
「だから。ちゃんと返事しろって」
にとりはしぶしぶ咥えていたネジを吹き出して、左手でキャッチした。
「これね。今年のクリスマスのためのキカイなんだ」
「く、クリスマスゥ?」
「そうさー」
ズガガガ、とドリルを回しながらにとりは続ける。
「皆にさ、もっと夢を渡したい……。とか思わない?」
「思わない」
即答する魔理沙に、にとりは溜息を吐く。
「やれやれー。魔理沙ってば、夢が無いねー」
「無くて結構だ……。で、そのキカイとやらはどうやってクリスマスに活かすんだよ」
魔理沙が指差した『キカイ』は、見た所普通のソリだった。
特に何か変わったデザインであるとか、そういったことは無かった。
「ただのソリじゃないか」
「サンタにはソリは付き物でしょ?」
「いや、それは分かるけどな? お前の事だ、妙な改造してるんだろ?」
「さっすが魔理沙。よーく分かってるねー」
別に嬉しくないけどな、と魔理沙はまんざらでもない顔をして返す。
「そう! このソリは何と空を飛ぶよっ!」
「こ、これが飛ぶのか?」
ふっふっふー、とにとりは笑う。
「そうさ!」
「すげぇなー、私も乗せてくれよ」
「だが断る」
にとりは舌を出して、悪戯っぽく言った。
「な、何でだよ!?」
魔理沙はちゃぶ台に両手を叩きつける。
そんな魔理沙にも動じずにとりは、人差し指を振り、
「チッチッチ。一人乗りなのさ」
うえー、と魔理沙は畳に寝転んだ。
すると、魔理沙のすぐ側にある障子が開いた。
「お?」
「神社で何やってんのよ、あんた達……」
そこには、霊夢が立っていた。
「『達』って。私は違うぜ」
そんな二人のやりとりを気にも留めずに、にとりは作業を続けている。
それを見た霊夢は、溜息を吐く。
「ちょっとにとり? 何でウチでやるのよ。あんたの家でやれば良いじゃない」
くるくるとドライバーを回しながらにとりは、
「ここじゃないとダメ」
と断言した。その答えに霊夢はまた溜息を吐いた。
「何でよ。ウチじゃないとダメな理由なんてあるの?」
「あるよ。なきゃこんな事しない。石畳を滑走路にすれば、すぐにソリが飛ぶからね」
「何だこれ。滑走すんのか!?」
「そうさー。後は水を燃料にしたジェットで飛ぶのさ」
目を輝かせている魔理沙を無視して、霊夢は
「あー、じゃあアレよ。何であんたがサンタクロースの真似事なんてやろうとしてんの?」
「それ、私も気になるぜ」
二人の問いに、にとりは答える。
「それはね、二人共。やりたい事があるからさ」
『はぁ?』
二人の疑問の声が重なった。
12月25日、夜。
守矢神社は雪が積もっていて、普段見られる石畳などは全て埋め尽くされていた。
普段は箒を持って落ち葉を集める早苗も、今日はシャベルを持って雪かきをしている。
ザク、ザク、とシャベルが雪を裂く音が響く。
「ううう……。雪、冷たいなぁ」
身震いをしながらも、早苗は健気に雪かきを続ける。
「諏訪子様は寝てるし……。神奈子様はどうせおこたでぬくぬくしてるだろうし……」
少しは手伝ってくれないかと愚痴を言う早苗。
「……え?」
不意に、早苗の近くの地面に丸い影が現れた。早苗は上を向く。
「え、ええええ?」
早苗が見たのは、空飛ぶソリだった。
そのソリはそのまま早苗の居る境内へと突っ込んで――
「え、ちょ、危ないっ!」
早苗はその場から後ろへと跳んだ。
ソリは境内の地面へと滑り込んで、凄まじい摩擦音を立てながら、早苗のすぐ目の前で停止した。
「……に、とりさん?」
「ハッピーメリークリスマス!」
赤い帽子、赤い服。ご丁寧に白い付けひげまで身に付けたにとりがソリに乗っていた。
「は、はぁ。メリークリスマス」
「プレゼントを届けに来たよ!」
状況がよく掴めない早苗は、とりあえず返事する。
「プレゼント、ですか……。でも私、特に何か欲しいとお願いした記憶は……」
「何言ってんのさ。プレゼントってのは、何も物だけじゃないんだよ」
にとりは辺りを見渡して、
「困っている人を助けるとかね! この雪を消してあげるよっ!」
「そ、それはありがたいですね」
しかし、何となく嫌な予感しかしない早苗。
「まぁ、構わないですよ。私一人でも何とかいけますし」
丁重ににとりの断ろうとする。しかしにとりは、
「もう、遠慮しない!」
と言いつつ袋を漁りだす。
仕方なく早苗は、そのまま見守る事にした。
にとりは筒状の物を3本程袋から取り出して、ガチャガチャと組み立て始めた。
筒状のものを組み立て終えると、にとりは叫んだ。
「じゃんじゃじゃーん! 火炎放射器ーっ!」
「えー……」
もう少しまともな物を期待していた早苗は、落胆の声を上げた。
「聞くまでも無いと思いますけど、それでどうするんです?」
「溶かすよ!」
(やっぱりか)
「いっくよー!」
にとりは筒状の物体の引き金(であろう物)に指をかけ、
「あ、ちょっと待っ――」
早苗の静止も聞かずに、思い切り引いた。
「ファイアーーーーーーッ!」
次の瞬間、筒の口から燃え盛る火炎が噴出された。
「お、おお……」
みるみる内に溶けていく雪に、早苗は感嘆の溜息を漏らした。
「がっはっはーっ! どんなもんだい!」
天狗になるにとり。
「わぁ……」
それをただ眺める早苗。
そうこうしている内に、雪は全て溶けた。……のだが。
「……」
雪が全て溶けた後、残されたのは大量の水だった。
「あ、あはははは……」
にとりは水浸しになった境内を見渡して苦笑いする。
「ど、どうすんですかこれぇ……」
早苗は涙目になっている。
そんな早苗を見て、ますます罪悪感を感じたにとりは乗ってきたソリに飛び乗り、
「ハッピーメリークリスマス!」
エンジンをかけた。
「にっ、逃げないでにとりさぁ~ん!」
早苗がにとりを捕まえようとした時には、既にソリはすごい風を巻き起こしつつ滑走し、鳥居をくぐって空へと飛んでいた。
「あわわわ……。追いかけないと」
早苗も空へと飛ぼうと足に力を込める。
「ちょっと」
しかし、肩を掴まれた早苗は飛べなかった。
同時に、早苗に悪寒が走る。恐る恐る振り返ってみた早苗の目に映ったのは、
「雪かき頼んだのに、これはどういう事? 水浸しだし、余計寒くなってるし」
明らかに怒っている神奈子だった。
「え、いやあのこれは違――」
「違うも何も無いわ! ちょっとこっち来なさい!」
「そ、そんな! あ、首根っこ掴まないで下さ、アッーーーーーー!」
早苗の叫びは神社の中へと消えて行った。
「ふぃー、失敗、失敗」
にとりは手綱ではなくハンドルを握って、ソリを操縦していた。
暗い空は、月明かりで照らされていて、幻想的な景色を映し出していた。
しかし、そんな綺麗な景色にも動じないにとりは、
「火炎放射器はダメか」
と、自分の失敗を悔いていた。
にとりがサンタの真似事をしている理由。
それは、ただ自分の発明品を試したいだけだったのだ。
「じゃあ……。次はあそこだっ!」
にとりのソリは、紅魔館へと向かっていた。
「咲夜ー、咲夜ー」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「ウチにはサンタは来ないの?」
「来ましぇん」
「噛んだ。それならサンタは来るわ」
そんな他愛も無い会話が展開されているその場所は咲夜の自室。
自分の部屋で居るのが退屈で、咲夜の部屋にお邪魔しているレミリアと、噛んだ事によって中途半端な恥じらいをもってしまった咲夜の2人が居た。
日が沈んだころに目を覚ましたレミリアは、その時からずっとそわそわしていた。
サンタなんて空想の話である事を勿論知っている咲夜は、どうしたものかと考えている。
「お嬢様。あのですね、サンタなんて空想の――」
「ちょっと咲夜。アレ、何だろう?」
思い切って真実を言おうとした咲夜は、出鼻をくじかれた気分になりつつもレミリアが指差す方向を見る。
レミリアが指差しているのは窓の外。
「!?」
月をバックにシルエットが見える。
そのシルエットは、ソリのような形をしている……。
「ま、まさか?」
レミリアは期待のあまり、声のトーンを1つ上げる。
「そ、そんなバカな……!」
咲夜も驚いていて、口を開けてそのシルエットを見つめる。
「ハッピーメリーィィィィィ……」
そのシルエットはどんどんと館の方に近づき、
「クリスマァァァァァァスッ!」
そのまま窓を突き破った。
「あ、危なっ!」
間一髪、咲夜は時を止めてソリの突進を回避した。無論、レミリアもバッチリと救出済み。
「メッ、メリークリスマス!」
レミリアは窓を突き破られた事についてはどうとも思ってないらしい。余程嬉しかったらしい。
しかし、ガラスが散乱した床、ソリが着陸した際に出来た摩擦の跡。自室のこの荒らされた光景を見て、咲夜は怒りを感じられずには居られなかった。
そんな咲夜の怒りの視線にも気付かないサンタ(当然、にとりなのだが面識が無いので咲夜とレミリアには分からない)は、
「ふふふ、そこのお嬢さんは何が欲しいの?」
と、ソリから降りながら聞いた。
「うん、新しい日傘が欲しい!」
レミリアは元気良く答える。にとりは笑いながら、
「そっかー。それなら、丁度良いのがあるよっ。目を閉じてくれるー?」
「うん!」
レミリアは素直に目を閉じた。
「ほら、そこのメイドさんも」
にとりの言葉に乗り気はあまりしなかったが、さっさと掃除がしたい咲夜は早々に帰ってもらうべく、目を閉じた。
「よし、ワン・ツー……スリー。はいっ! ……目を開けてみて」
にとりの言葉を合図に、レミリアと咲夜は同時に目を開けた。
「わぁ……」
2人の目の前に、綺麗な日傘が1本立てられていた。
カラフルな花柄の日傘。レミリアはそれはもう喜んでいる。
「ありがとう!」
「いやいや」
お礼を言うレミリアに、照れるにとり。
(何だ、本当にただのサンタクロースなの?)
思ったよりも普通なサンタクロース(しつこいようだが、にとり)に、咲夜も警戒を弱める。
「でも、本当に良い傘ねこれ!」
上機嫌なレミリアは、傘をスイングさせる。
「傘は振り回すものじゃないですよ、お嬢さ――」
ガタン。その時何かが床に落ちた音がした。
「さ、咲夜……」
「え……」
2人のすぐ近くの壁にかけられていた額縁入りの絵が真っ二つになって床に落ちていた。
「な、なんじゃこりゃああああああ!?」
2人は思い切り叫んだ。その叫び声は、既に空へと飛び立って(逃げて)いたにとりにも聞こえていた。
「ふっ、ふっ、ふー。『何でもかんでも大体スパスパと斬れちゃう魔法のような日傘』は悪戯アイテムとして大成功ね。量産しよっと」
ちゃんと成功した! とにとりは笑った。
この翌日。早苗とレミリアと咲夜ににとりがこってりと絞られたのは言うまでもない。
その後で普通に説教するかなことか、この微妙なふわふわ感あるずれ具合が相変わらず心地良い。
>>10様
今更ですけど確かに火炎放射で暢気はズレてますね(蹴
でも、良い意味での失敗だったみたいなんで喜びます!(ぁ
>>ずわいがに様
それがお値段以上。(違
それではー。
皆さん、もっと遠慮なくコメント送ってくださって結構ですよ?
いや、送ってくださいお願いしますorz(ぉぃ