それは、なんて事のない会話から始まった。
いつものように神社に来てぼんやりと過ごしていた時に退屈しのぎに振ってみた話題が始まりだった。
「なあ、今更なんだが」
「んー、どうしたのよ?」
「私達が知り合ってどれ位経ったんだろうな」
「なによいきなり。本当に今更な質問ね」
「ああ、ただの気まぐれだ。特に意味は無い」
無言の間が苦しいと感じる程余所余所しい間柄でもないし別段無理に会話をする必要はない。
理由を問われればただなんとなく、としか言えない。
それはいつもの気まぐれに過ぎなかったし、ふと気になったと言えばいいのだろうか。
話題を振られた方は会話に付き合う気はあるらしく、普段からあまり動かしていないであろう頭を稼動させて過去の記憶を掘り起こそうとしていた。
が、それも長くは続かなかった。
大体1分。コイツにしてはよく頭を動かした方だろうか。
「んー…。よく覚えてないわ」
「ふむ、そうか」
聞くだけ無駄だったな。と心の中で思っただけで口に出しては言わないでおいた。
口は災いの元。言った瞬間の向こうの反応は予測できる。
出された茶と一緒に言葉を飲み込んだ。
「というよりも」
「?」
「気がついたらアンタが近くにいたし。いつ会ったかなんていちいち覚えちゃいないわ」
「…あー、そう言われればそうかもな」
言われてそういえば、と思い出してみる。
気が付いたら、コイツが隣にいた気がする。
というよりも私がコイツの隣にいる、という表現の方が正しいのかもしれない。
私が神社に毎日の様に来ているからだろう。
大抵のことに無関心なコイツがそう感じるということはそういうことだろう。
「そう考えたら随分長いこと一緒にいるわね」
「普通の男女ならとっくに伴侶になっててもおかしくない年数だな」
「大体十年くらいは経ってるのかしら」
「ふむ。改めて数えてみると長いこと一緒にいるもんだ」
「そうね」
茶を一啜りしてから昔のコイツってどんなんだっけ、と思い出してみる。
そもそも出会いはそんなに友好的なもんじゃなかった。
コイツの敵として出会って、戦って、敗れて。
負けた悔しさからか、それとも負け自体を認めてないのかその当時の記憶が曖昧でよく覚えてはいないが、兎に角それが切欠でコイツの元に通う様になったんだっけ。
昔は異変を起こしてたってのに今じゃ異変を解決する側に回るなるなんてな。
まぁ、今じゃよくあることだが。
「お前は何年経っても変わらないよな。いつ神社に来ても同じだ」
「そういうアンタは昔と今とは全然違うわね。見た目とか口調とか」
「あー?昔の事なんぞいちいち覚えてないな。過去は振り返らない性質なんだ」
「ならなんで私の事は覚えてるのよ」
「お前は逆に変わらなさ過ぎるからな」
何時来ても神社の縁側で茶を飲んでるか箒で掃除してるかのどっちかしかしてないだろうに。
たまに違うことをしてる時もあるが大抵は前者に述べたことしかしてない筈だ。
そんな皮肉を込めて答えてやったらそれがなんとなく分かったのか勘のいい巫女は眉をひそめた。
「随分都合のいい記憶力ね」
「あー?褒めても何も出ないぜ」
「どっからどう見ても褒めてないっちゅーに」
よっこいせ、等と言いながら急須にお湯を入れ始めるのを見てお前は年寄りかと言いたくなった。
別に口に出して言ってしまってもいいのだが、自分の湯呑が空になったのを見てとりあえずは茶を貰うことにする。
変にからかってコイツの臍を曲げたら茶も貰えなくなるからな。
「私にも茶をくれ」
「はいはい、分かってるわよ」
「おー、サンキュー。…って味がないじゃないか」
「だってそれ出涸らしだもの。色が付いてるだけありがたいと思いなさい」
見た目は茶だがそれに伴う味が全くといっていいほどしなかった。
当の本人は私と同じものを飲んでる筈なのに平然としている。
全く無頓着にも程がある。
近くにあった茶筒に目をやるとどうやら中は空っぽらしい。
茶葉のストックが無いのか入れるのがめんどくさいのか分からんがお茶の色のお湯なんて美味いのだろうか。
「頻繁に神社に来てやってる客に対してその扱いは酷いな」
「頻繁に神社に来ようが賽銭すら入れない奴を客とは思わないわ」
「じゃあ、こんなさびれた神社に一人でいる霊夢を心配して足繁く通ってやってる友人で」
「心配してるって言うんなら賽銭の一つでも入れろってのよ。それが友人ってもんでしょう」
「なんとも現金な友情だな」
「当たり前じゃない。現金以外認めないわよ」
「お前に正しい友情の意味が載った本を読むことをお勧めするぜ」
「それを読むことでお賽銭が増えるならいくらでも読むけど」
「お前はそんな奴だよな。言うだけ無駄だった」
文句を言ったところでそもそも茶葉があるかどうかすら分からない。
とりあえず入れてもらった茶をもう一度啜るがやはり茶の味はしなかった。
平和だ。
茶を啜って一息ついても何も起きない程長閑だ。
どこからともなく沸いてくる妖怪共が一匹たりとも出てこない。
スキマ妖怪やら酔いどれ鬼やらブン屋なんかがうろついてるのに珍しいこともあるもんだ。
別に出てきてほしいわけじゃ無いが、今日はいつにも増して静かだと思った。
それに気付いているのかはたまたどうでもいいのか隣の巫女はぼんやりと空を見つめている。
横から見るとこれまた間抜けな面だ。
こんな面をした奴が毎回異変を解決してるなんて誰も思わないだろうな。
「あーあ。異変の一つでも起きてくれないかなぁ」
「巫女らしからぬ発言だな。異変なんぞ起きないほうがいいんじゃないのか。私は大歓迎だが」
「巫女だってそういう気分になるわよ。あんまりにも異変がなさすぎるとそれはそれで退屈じゃない」
「確かに、平和といえば聞こえはいいが刺激がないと只の退屈な日々だな」
「全くだわ。程よく異変が起きてくれればそれなりに退屈しないのに」
うがー、なんて鳴き声をあげながら軽く伸びをする。
暇だ暇だ、などとのたまう巫女を尻目に茶請けの煎餅を齧る。
巫女としてのあり方を疑う行動だがコイツ巫女の定義が通用するわけがない。
霊夢の言い分も分からなくもないし異変らしい異変が何も起きず刺激が無いということに関しては同意する。
「まぁ、そういう時もあるんだろ」
「んー…」
「こうしてのんびりするだけでも私は楽しいけどな」
ばりばりと軽快な音を立てながら煎餅を噛み砕く。
湿ってない煎餅があるなんて霊夢にしちゃ珍しいと思いつつ一枚完食。
味はまあまあだった。塩っ辛くて醤油の味が濃すぎる。
「…あ、そ」
「こういう何気ない毎日も悪くない」
「……嘘ばっかり。アンタは騒がしい方がいいんじゃないの」
「そんなことはない。確かに刺激は欲しいが、それは比べられる事じゃないぜ」
「ふぅん」
「なんだよ、反応薄いな」
「別に、普通よ」
「そうか?」
「他の所に行ってはそんな台詞を吐いて回っているのかしらね」
……。
なんだそれ。
どこぞの夫婦で行われてそうな痴話喧嘩の台詞みたいだが一体そんな言葉をどこから覚えてくるんだ。
顔は正面を向いたまま目線だけをこちらに向けられる。
よく分からんが非難がましい目で見られていた。
了承も得ずに煎餅を食べたからだろうか。
「…あ?他って何処だよ」
「紅魔館とか」
「ああ、紅魔館というよりはあそこの図書館が主に目当てだな。あそにゃいい本が揃ってるから、研究用の資料とか参考文献なんかを漁るのに丁度良い。図書館の主は貸し渋りはするが、本の詮索なんかは手伝ってくれるしな。何より美味い紅茶と菓子が出る」
「拝借物を延滞してる割には待遇が良い事ね」
「そうでもないぜ。なかなか通してくれない門番やらちょいとマナーに手厳しいメイド長やら手加減を知らない遊び盛りの悪魔の妹なんかがいるからな」
「そう?随分と手厚い歓迎の様だけど」
「まぁ、私は人気者だからな」
紅魔館か。そういえば三日程前に本を借りたきりだった。
研究に必要な資料が不足していたし、しばらくしたら漁りに行くか。
メイド長手製の菓子も恋しいと思っていたところだ。
塩っ辛いものを食べたら甘いものが食べたくなるのは人として当然の欲求だろう。
「あとは人形遣いの所とか」
「居住区も同じなら生業も同じだからな。狙っている魔法道具が一緒だったりすると望んでもいないのによくかち合うぜ」
「仲が宜しい様でなによりじゃない」
「期待に添えないようで悪いが仲良しと呼ぶには程遠いぜ。こっちが先に目をつけていた道具を先回りして掻っ攫っていくからな」
「目を付けてようがそうじゃなかろうが要は早い者勝ち、ってことでしょ」
「まぁ、それを横から掻っ攫うのは当然の事だが」
「そっちの方が性質悪いわ。向こうだってタダで渡す訳無いでしょうに」
「失礼だな、同意の上だぜ。話し合い(弾幕ごっこ)の末に私に所有権がある事が認められたんだ」
「同意の上、ねぇ…」
「話し合いは大事だぜ。話せば分かりあえる時もある」
「アンタ達が本当に話し合いをしてたらの話だけどね」
なんだか、さっきから妙につっかかる言い方をされている気がする。
相変わらず顔は正面を向いたままで今は目線さえこちらに向いていない。
自分の位置からじゃ横顔しか見えないしよく観察出来ないが、これは怒っている…のか?
眉が微妙に眉間に寄っている様な気がする。
やっぱ煎餅を食べたからか。
「他にも、色々」
「んー、あとは天狗の山とか永遠亭とか香霖の所か?」
「アンタが思いつく限りの所よ」
「そう言われると有り過ぎて思いつかないな。これでも私は忙しい身でね、いちいち自分が訪れた場所を数えちゃいない」
「あっそ」
「それに、だ」
「何よ」
「私が何処に行こうとお前が気にする必要は無いだろう」
「…ま、そうね」
興味がない、と茶を飲んでいるがここまでつっけんどんなのは珍しい。
興味が無いことにはトコトン無関心だが、気を引く内容ならば少しなりとも耳を貸す筈だ。
それなのに今はそのどちらでもない反応を見せている。
内容は気になってはいるがそれを気取られたくない、と思っているんだろうか。
もし、そうならば。
もし、その予想が正しいのなら。
私の密かな目標は前進したことになる。
徐々に刺々しさを増している受け答えに内心ビクつくが決して表には出さない。
出したら負けな気がする。
「私が神社に来てやってるだけでいいじゃないか」
「ふん、偉そうに…」
先程導き出した予想を確かなものにする為にもう一押ししてみようじゃないか。
「いつ来てもお前が変わらずに神社にいるからな」
「…は?」
「それが分かってるから安心して私はお前んとこに来るんだ」
そう言った瞬間、正面に固定されていた顔をようやく私の方に向けた。
少しだけ目を見開いて、驚いたような戸惑ったような表情をしたソイツ。
それを見て、頬の筋肉が持ち上がるのを感じた。
そうだ、私はお前のそんな表情が見てみたかったんだ。
「…馬鹿じゃないの」
「生憎だが馬鹿と言われるような事を言った覚えはないんだがな」
喜怒哀楽がハッキリしていて、何事にも興味を持たず、時にはつまらなそうな表情。
誰にでも平等であり、誰との距離も均一。
だけど、それだけだ。
今までコイツの隣にいて一定の表情しか見れなかった。
それに気付いた時、私の事すらさほど興味はないんだと思い愕然としたが、それと同時に別の思いが沸き上がってきた。
そんなのはつまらない。
面白くない。
今まで見たことのない表情をコイツにさせてやろう、と静かに目標を立てた。
そっちが平等であろうとするのなら此方から近付くまで。
これは我慢比べのようなものだ。
向こうがどんな形でもいいから此方に興味を示しさえすれば私の勝ち。
今日はその初白星をあげた記念すべき日になったわけだ。
「………」
「………」
馬鹿、と言ったきり黙り込んでしまった。
伏せ目がちで視線が定まらない状態なのも珍しい。
まさかここまで効果があるとは思わなかったがお陰でいいものが見れた。
「…悪くないと、思うなら」
「あ?」
呟きよりも囁きよりもか細いコイツらしからぬ声。
風なんか吹こうものなら容易にかき消されてしまう程の小さな、声。
―他の所になんか、行かないでよ。
寂しげな視線に私の顔が一瞬にして熱くなった。
「…間抜けな顔ね」
「うるさいな」
私だってお前にそんな顔見せるつもりはなかったよ。
あんなの、不意打ちだろ。
自分の事を棚に上げて言うが、自覚が無いだけ向こうの方が性質が悪い。
ああくそ、顔が熱い。
「そういえば」
「…何だよ」
「アンタのそんな顔見たの、初めてね」
次に見たコイツの顔はいままで見たこともないくらい優しくて柔らかい笑顔だった。
いつものように神社に来てぼんやりと過ごしていた時に退屈しのぎに振ってみた話題が始まりだった。
「なあ、今更なんだが」
「んー、どうしたのよ?」
「私達が知り合ってどれ位経ったんだろうな」
「なによいきなり。本当に今更な質問ね」
「ああ、ただの気まぐれだ。特に意味は無い」
無言の間が苦しいと感じる程余所余所しい間柄でもないし別段無理に会話をする必要はない。
理由を問われればただなんとなく、としか言えない。
それはいつもの気まぐれに過ぎなかったし、ふと気になったと言えばいいのだろうか。
話題を振られた方は会話に付き合う気はあるらしく、普段からあまり動かしていないであろう頭を稼動させて過去の記憶を掘り起こそうとしていた。
が、それも長くは続かなかった。
大体1分。コイツにしてはよく頭を動かした方だろうか。
「んー…。よく覚えてないわ」
「ふむ、そうか」
聞くだけ無駄だったな。と心の中で思っただけで口に出しては言わないでおいた。
口は災いの元。言った瞬間の向こうの反応は予測できる。
出された茶と一緒に言葉を飲み込んだ。
「というよりも」
「?」
「気がついたらアンタが近くにいたし。いつ会ったかなんていちいち覚えちゃいないわ」
「…あー、そう言われればそうかもな」
言われてそういえば、と思い出してみる。
気が付いたら、コイツが隣にいた気がする。
というよりも私がコイツの隣にいる、という表現の方が正しいのかもしれない。
私が神社に毎日の様に来ているからだろう。
大抵のことに無関心なコイツがそう感じるということはそういうことだろう。
「そう考えたら随分長いこと一緒にいるわね」
「普通の男女ならとっくに伴侶になっててもおかしくない年数だな」
「大体十年くらいは経ってるのかしら」
「ふむ。改めて数えてみると長いこと一緒にいるもんだ」
「そうね」
茶を一啜りしてから昔のコイツってどんなんだっけ、と思い出してみる。
そもそも出会いはそんなに友好的なもんじゃなかった。
コイツの敵として出会って、戦って、敗れて。
負けた悔しさからか、それとも負け自体を認めてないのかその当時の記憶が曖昧でよく覚えてはいないが、兎に角それが切欠でコイツの元に通う様になったんだっけ。
昔は異変を起こしてたってのに今じゃ異変を解決する側に回るなるなんてな。
まぁ、今じゃよくあることだが。
「お前は何年経っても変わらないよな。いつ神社に来ても同じだ」
「そういうアンタは昔と今とは全然違うわね。見た目とか口調とか」
「あー?昔の事なんぞいちいち覚えてないな。過去は振り返らない性質なんだ」
「ならなんで私の事は覚えてるのよ」
「お前は逆に変わらなさ過ぎるからな」
何時来ても神社の縁側で茶を飲んでるか箒で掃除してるかのどっちかしかしてないだろうに。
たまに違うことをしてる時もあるが大抵は前者に述べたことしかしてない筈だ。
そんな皮肉を込めて答えてやったらそれがなんとなく分かったのか勘のいい巫女は眉をひそめた。
「随分都合のいい記憶力ね」
「あー?褒めても何も出ないぜ」
「どっからどう見ても褒めてないっちゅーに」
よっこいせ、等と言いながら急須にお湯を入れ始めるのを見てお前は年寄りかと言いたくなった。
別に口に出して言ってしまってもいいのだが、自分の湯呑が空になったのを見てとりあえずは茶を貰うことにする。
変にからかってコイツの臍を曲げたら茶も貰えなくなるからな。
「私にも茶をくれ」
「はいはい、分かってるわよ」
「おー、サンキュー。…って味がないじゃないか」
「だってそれ出涸らしだもの。色が付いてるだけありがたいと思いなさい」
見た目は茶だがそれに伴う味が全くといっていいほどしなかった。
当の本人は私と同じものを飲んでる筈なのに平然としている。
全く無頓着にも程がある。
近くにあった茶筒に目をやるとどうやら中は空っぽらしい。
茶葉のストックが無いのか入れるのがめんどくさいのか分からんがお茶の色のお湯なんて美味いのだろうか。
「頻繁に神社に来てやってる客に対してその扱いは酷いな」
「頻繁に神社に来ようが賽銭すら入れない奴を客とは思わないわ」
「じゃあ、こんなさびれた神社に一人でいる霊夢を心配して足繁く通ってやってる友人で」
「心配してるって言うんなら賽銭の一つでも入れろってのよ。それが友人ってもんでしょう」
「なんとも現金な友情だな」
「当たり前じゃない。現金以外認めないわよ」
「お前に正しい友情の意味が載った本を読むことをお勧めするぜ」
「それを読むことでお賽銭が増えるならいくらでも読むけど」
「お前はそんな奴だよな。言うだけ無駄だった」
文句を言ったところでそもそも茶葉があるかどうかすら分からない。
とりあえず入れてもらった茶をもう一度啜るがやはり茶の味はしなかった。
平和だ。
茶を啜って一息ついても何も起きない程長閑だ。
どこからともなく沸いてくる妖怪共が一匹たりとも出てこない。
スキマ妖怪やら酔いどれ鬼やらブン屋なんかがうろついてるのに珍しいこともあるもんだ。
別に出てきてほしいわけじゃ無いが、今日はいつにも増して静かだと思った。
それに気付いているのかはたまたどうでもいいのか隣の巫女はぼんやりと空を見つめている。
横から見るとこれまた間抜けな面だ。
こんな面をした奴が毎回異変を解決してるなんて誰も思わないだろうな。
「あーあ。異変の一つでも起きてくれないかなぁ」
「巫女らしからぬ発言だな。異変なんぞ起きないほうがいいんじゃないのか。私は大歓迎だが」
「巫女だってそういう気分になるわよ。あんまりにも異変がなさすぎるとそれはそれで退屈じゃない」
「確かに、平和といえば聞こえはいいが刺激がないと只の退屈な日々だな」
「全くだわ。程よく異変が起きてくれればそれなりに退屈しないのに」
うがー、なんて鳴き声をあげながら軽く伸びをする。
暇だ暇だ、などとのたまう巫女を尻目に茶請けの煎餅を齧る。
巫女としてのあり方を疑う行動だがコイツ巫女の定義が通用するわけがない。
霊夢の言い分も分からなくもないし異変らしい異変が何も起きず刺激が無いということに関しては同意する。
「まぁ、そういう時もあるんだろ」
「んー…」
「こうしてのんびりするだけでも私は楽しいけどな」
ばりばりと軽快な音を立てながら煎餅を噛み砕く。
湿ってない煎餅があるなんて霊夢にしちゃ珍しいと思いつつ一枚完食。
味はまあまあだった。塩っ辛くて醤油の味が濃すぎる。
「…あ、そ」
「こういう何気ない毎日も悪くない」
「……嘘ばっかり。アンタは騒がしい方がいいんじゃないの」
「そんなことはない。確かに刺激は欲しいが、それは比べられる事じゃないぜ」
「ふぅん」
「なんだよ、反応薄いな」
「別に、普通よ」
「そうか?」
「他の所に行ってはそんな台詞を吐いて回っているのかしらね」
……。
なんだそれ。
どこぞの夫婦で行われてそうな痴話喧嘩の台詞みたいだが一体そんな言葉をどこから覚えてくるんだ。
顔は正面を向いたまま目線だけをこちらに向けられる。
よく分からんが非難がましい目で見られていた。
了承も得ずに煎餅を食べたからだろうか。
「…あ?他って何処だよ」
「紅魔館とか」
「ああ、紅魔館というよりはあそこの図書館が主に目当てだな。あそにゃいい本が揃ってるから、研究用の資料とか参考文献なんかを漁るのに丁度良い。図書館の主は貸し渋りはするが、本の詮索なんかは手伝ってくれるしな。何より美味い紅茶と菓子が出る」
「拝借物を延滞してる割には待遇が良い事ね」
「そうでもないぜ。なかなか通してくれない門番やらちょいとマナーに手厳しいメイド長やら手加減を知らない遊び盛りの悪魔の妹なんかがいるからな」
「そう?随分と手厚い歓迎の様だけど」
「まぁ、私は人気者だからな」
紅魔館か。そういえば三日程前に本を借りたきりだった。
研究に必要な資料が不足していたし、しばらくしたら漁りに行くか。
メイド長手製の菓子も恋しいと思っていたところだ。
塩っ辛いものを食べたら甘いものが食べたくなるのは人として当然の欲求だろう。
「あとは人形遣いの所とか」
「居住区も同じなら生業も同じだからな。狙っている魔法道具が一緒だったりすると望んでもいないのによくかち合うぜ」
「仲が宜しい様でなによりじゃない」
「期待に添えないようで悪いが仲良しと呼ぶには程遠いぜ。こっちが先に目をつけていた道具を先回りして掻っ攫っていくからな」
「目を付けてようがそうじゃなかろうが要は早い者勝ち、ってことでしょ」
「まぁ、それを横から掻っ攫うのは当然の事だが」
「そっちの方が性質悪いわ。向こうだってタダで渡す訳無いでしょうに」
「失礼だな、同意の上だぜ。話し合い(弾幕ごっこ)の末に私に所有権がある事が認められたんだ」
「同意の上、ねぇ…」
「話し合いは大事だぜ。話せば分かりあえる時もある」
「アンタ達が本当に話し合いをしてたらの話だけどね」
なんだか、さっきから妙につっかかる言い方をされている気がする。
相変わらず顔は正面を向いたままで今は目線さえこちらに向いていない。
自分の位置からじゃ横顔しか見えないしよく観察出来ないが、これは怒っている…のか?
眉が微妙に眉間に寄っている様な気がする。
やっぱ煎餅を食べたからか。
「他にも、色々」
「んー、あとは天狗の山とか永遠亭とか香霖の所か?」
「アンタが思いつく限りの所よ」
「そう言われると有り過ぎて思いつかないな。これでも私は忙しい身でね、いちいち自分が訪れた場所を数えちゃいない」
「あっそ」
「それに、だ」
「何よ」
「私が何処に行こうとお前が気にする必要は無いだろう」
「…ま、そうね」
興味がない、と茶を飲んでいるがここまでつっけんどんなのは珍しい。
興味が無いことにはトコトン無関心だが、気を引く内容ならば少しなりとも耳を貸す筈だ。
それなのに今はそのどちらでもない反応を見せている。
内容は気になってはいるがそれを気取られたくない、と思っているんだろうか。
もし、そうならば。
もし、その予想が正しいのなら。
私の密かな目標は前進したことになる。
徐々に刺々しさを増している受け答えに内心ビクつくが決して表には出さない。
出したら負けな気がする。
「私が神社に来てやってるだけでいいじゃないか」
「ふん、偉そうに…」
先程導き出した予想を確かなものにする為にもう一押ししてみようじゃないか。
「いつ来てもお前が変わらずに神社にいるからな」
「…は?」
「それが分かってるから安心して私はお前んとこに来るんだ」
そう言った瞬間、正面に固定されていた顔をようやく私の方に向けた。
少しだけ目を見開いて、驚いたような戸惑ったような表情をしたソイツ。
それを見て、頬の筋肉が持ち上がるのを感じた。
そうだ、私はお前のそんな表情が見てみたかったんだ。
「…馬鹿じゃないの」
「生憎だが馬鹿と言われるような事を言った覚えはないんだがな」
喜怒哀楽がハッキリしていて、何事にも興味を持たず、時にはつまらなそうな表情。
誰にでも平等であり、誰との距離も均一。
だけど、それだけだ。
今までコイツの隣にいて一定の表情しか見れなかった。
それに気付いた時、私の事すらさほど興味はないんだと思い愕然としたが、それと同時に別の思いが沸き上がってきた。
そんなのはつまらない。
面白くない。
今まで見たことのない表情をコイツにさせてやろう、と静かに目標を立てた。
そっちが平等であろうとするのなら此方から近付くまで。
これは我慢比べのようなものだ。
向こうがどんな形でもいいから此方に興味を示しさえすれば私の勝ち。
今日はその初白星をあげた記念すべき日になったわけだ。
「………」
「………」
馬鹿、と言ったきり黙り込んでしまった。
伏せ目がちで視線が定まらない状態なのも珍しい。
まさかここまで効果があるとは思わなかったがお陰でいいものが見れた。
「…悪くないと、思うなら」
「あ?」
呟きよりも囁きよりもか細いコイツらしからぬ声。
風なんか吹こうものなら容易にかき消されてしまう程の小さな、声。
―他の所になんか、行かないでよ。
寂しげな視線に私の顔が一瞬にして熱くなった。
「…間抜けな顔ね」
「うるさいな」
私だってお前にそんな顔見せるつもりはなかったよ。
あんなの、不意打ちだろ。
自分の事を棚に上げて言うが、自覚が無いだけ向こうの方が性質が悪い。
ああくそ、顔が熱い。
「そういえば」
「…何だよ」
「アンタのそんな顔見たの、初めてね」
次に見たコイツの顔はいままで見たこともないくらい優しくて柔らかい笑顔だった。
咲マリもいいですよねぇ。うん。
なぜならみんなで仲良くできるからです。
つまり一婦多妻s(ry
こう、なんて言うんだろう……ねっちょねっちょしていない百合はいいね。うん。
変態じみて居るなぁ、私は
長く一緒にいるくせに初心い二人も良いなぁ。
脱字報告
>コイツ巫女の定義が
ジャンルについては同意見だ!!
あなたとは実にジャスティスが合う。全力で応援してます。
こういうのいいですね!
やはり人間は育った原点に還るものだと
改めて気付かされました
次回作にも期待
やはりレイマリは最高だ。
フラマリも良いですよ!