******
――鳥は卵から抜け出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。
**r****
わたしは観測者。
わたしは傍観者。
わたしは、せかいにたいする第三者。
なにものにも影響をあたえることはなく、ただふわふわとせかいをただよう。
みて、きいて、そしてなにもしない。
わたしは、存在と非存在の境界のあいまにうかぶなにか。
わたしは、曖昧なもの。
わたしは、【存在0-非存在+?以前(虚0居る<有る>)】。
いつからかここにはじまり、いつの日かどこかでおわるもの。
あたえることなく、うばうこともなく。
いまもわたしは、せかいをただよっていた。
a*******
さくらの花がさいていた。
しかいに入ったその花のなまえ、いろ、かたちがわたしのなかに浮かんで消える。
それによってよびおこされるかんじょうは、わたしにはない。
かのじょにはあるのだろう。かのじょたちにはあるのだろう。
今、さくらが咲いた神社のけいだいで、顔を、そう、たのしそうにゆがめ、なにかすきとおった、もしくは紅い、あるいは……、
とりどりのいろをしたえきたいを飲み交わすかのじょたちには。
そのようすを、わたしはみている。そらから。とおくから。ときにはすぐちかくから。
だれもわたしにはきづかない。わたしは観測者だから。
わたしは、ただ、見ている。
ただ、見つめている。
******s
じめんが、そらが、ゆらゆらと、熱をおびたくうきによって、みもだえるように、ゆがめられて、かのじょは暑い暑いともんくをいいながら、こおりのようせいを捕まえて、かきごおりをつくらせていた。
わたしは、いまでもまだみていた。
ゆめみるように、まぶしいものをみあげるように、うつくしいものをねがうように。
まもなくこの季節もおわる。それでもきっと。
わたしは傍観者。だからわたしは傍らで。
ただみつめよう。このせかいを。せかいのありかたを。
***a***
おちばがじめんをおおいかくす季節になって、かのじょが休憩のあいまに落ち葉をそうじするきせつになって。
夕暮れのつめたくなりだしたくうきに、かのじょはすこしだけさみしそうな、人間とくゆうの、十月の薄暮 しょうこうぐん患者のしせんを、あかい空にむけた。
なぜかのじょは、どうしてかのじょたちは、そんな目で、かなたを見るのだろう。わたしにはわからない。
わたしは見るだけだから。
そしてたいようは落ちて、かのじょたちはみんな家の中に入っていって、なつにはあんなに賑やかだったよるが、少しずつしずかになって。
すこしだけ、ふしぎなきもちで、わたしは、かのじょのきもちが分かったような、そんな気がした。
*****a*
彼女たちの吐く息がしろくなって。なつにはげんきがあったかのじょたちが静かになりはじめて。
わたしはまだ空からながめていた。
にんげんも、妖怪も、ようせいも、だれもかれもが比較的おとなしくなって、いちぶの例外はふゆのあいだに猛威をふるって、かのじょに懲らしめられたりしていた。
わたしはそれを、たいきのつめたさとは無関係に、すこしだけ、暖かいような、ふしぎなきもちで観測していた。
かのじょたちは、つよかった。なぜなら、かのじょたちは存在しているから。
わたしはちがう。わたしはそんざいに満たないから。
だから、わたしはいまも、ただみつめていた。せかいから、世界を。
*b*****
ふゆのなごりの雪もとけて、あたらしい命が芽吹き始めた。風にもその兆候が現れて、かのじょはすこしだけ嬉しそうだった。
もうずいぶんと、わたしは傍観を続けていた。ずっとみていた。世界をみつめていた。
きっとこれからも。わたしは続けられる。観測を、観察を。そう、願えば。そう、思えば。
けれども。だけど。
そして。わたしは。
わたしは、願ってしまった。
このせかいへうまれおちたいと。
このせかいにそんざいしたいと。
――そして、わたしのせかいは、こわれた。
****x**
――そして私は、一へと手を触れた。
私はこの世界で、鳥獣や蟲、或いはバクテリアや、一個の細菌よりも弱い存在である。私はどんなに弱い存在にさえ、その本質に対して影響を及ぼす事は絶対に出来ない。
それでも私は確かに在った。存在していた。思考は明瞭として、存在と非存在の境界を漂っていた頃、自我が曖昧模糊としていた頃とは、まるで違っていた。
目を開く。途端、透明な白が視界一杯に広がり……いや透明な白などと言う物は無い。
それは光だ。ただただ強く、眩しく、そして暖かい。光が目を焼き、私は眩しさに何度も瞬きを繰り返す。
それだけの事でさえ、私は嬉しかった。
きらきらと揺れる、波と粒子の織り成す奇跡。その美しさに心を奪われる。
目が慣れ、やがて光の反射の意味を理解出来る迄になると、色の認識が始まる。
土の色、植物の緑、空の青、雲のくっきりとした白、そして、ああ、眩く、あらゆる色を孕んだ太陽が空に輝いて……!
全てが新しく、一瞬一瞬が新鮮で、存在感に満ち溢れ。
私は今まで何も見ていなかった。観測者、傍観者、漂う者、そのような者など、どれだけ長く眺めていても、世界の在り方、世界の形を真に理解しているとは到底言えない。
そうだ、今この瞬間存在する者が、ただそう在るだけで、存在者は世界を理解し、在り方について深く踏み込み、どれも正しく世界を観察しているのだ。
木々のざわめき、鳥獣が鳴く声、蟲の音色、水の流れるせせらぎ、風の吹く音。
躍動する、自身の心臓の音。
いや、この美しさすら枝葉である。例え耳が聞こえなくとも、目が見えなくとも、世界は途方も無く美しい。
そして私は知った。間もなく自分が、存在から非存在へ変位する事を。
私は存在と非存在の境界を漂うだけの者だった。1と0の間を、ふわふわと浮かぶシャボン玉だった。
物 に触れたシャボン玉は、弾けて消える。当然の理だ。
それでも良いと、そう思えた。ただ、勿論、悲しくはあったけれど。
それまでは、一存在者として私はただ在ろう。在るがままに動こう。
そう決めた私は、初めの一歩を踏み出す。地面の固さ、柔らかさを直に感じ、草を柔らかく踏む音、その下に在る地面と、踵の骨格が微かに衝突する音が体の内に響いた。
見覚えのある場所だった。一面を森に囲まれた、静かで、荘厳で、けれども誰も拒まない場所。
博麗神社。赤い鳥居は、微かに表面の木の繊維が解れ、その古さを物語っている。
そして、其処には彼女が居た。
博麗霊夢。この世界で、私と対極に在る者。対極で在ると言う事は、換言すれば同一の存在である。
最も弱い者と最も強い者。観察者と観察者。無力の為に平等でしかない者と、強大で在るが為に平等として在らねばならない者。
彼女が視線を上げて私の方を向き、私を認識した。
突然、私は全てが彼女のお陰だと言う事を理解した。私が生れ落ち、此処に存在するのは、彼女の無自覚な力に拠る現象だったのだと知った。
彼女は、存在者だけでなく、存在に満たない何かにすら平等なのか。未だ生れ落ちていなかった私にすら、その力を及ぼしたのだ。
そして彼女はいつもそうする様に、怪訝そうに、迷惑そうに眉を顰め、
「貴女は……誰だか、と言うか何だかよく分からないけど、お茶なら飲んでも良いわ。菓子は駄目。とっておきなの」
と、言った。
ああ、と私は嘆息する。
最早私は、不完全な観測者ではない。もう二度と箱の中の猫を覗き見する事は出来ないが、だからこそ今、私は満ち足りたのだ。
満ち足りた。彼女のお陰で私は一に至った。
たとえそれが消失への道だとしても、私は……、
私は、貴女にこう言おう。
「ありがとう」
彼女はきっと、お礼を言われる理由など分からないのだろう。先ほどと同じ様に、怪訝そうな視線を私に向けた。
けれども、もう説明する時間は無い。
消えてゆく。その先に光と闇が、同一の物として見える。
いや、それは物ではない。それは存在 ではない。
最後に私は世界を見渡した。彼女が私に向かって何かを言葉を発しているが、残念ながら私はその声を聞くことは出来ない。
私は光へ落ちてゆく。闇へと昇ってゆく。その極点にいる何かに向かって。
私は、神に向かって飛ぶ。
その神の名は……、
abraxas
*******
――それは、とある神様の世界に住んでいる妖怪みたいな何かよ、霊夢。
わたしは、くらいやみのなかにあった。
――神様の世界?
まわりでは、ごうごう、どくどく、といったようなおとが、やすむまもなくつづいている。
――この世界のすぐ近く、境界の狭間にあって、存在未満も存在以上もそのまま扱える世界よ。
めをこらしてもなにもみえない。
――何だかよく分からない世界ねぇ……。
からだをうごかしてみると、どこかせまいばしょにいるようで、うまくみうごきがとれなかった。
――人間に理解出来ない神様が創った世界だもの。貴女がよく分からないのは仕方ないでしょう。
なぜ、わたしはあるのか。
――変な神様……出来れば会いたくないわ。
わたしは、わたしは……。
――あら、貴女も一度会ってるわよ。覚えていないだけで。
わたしは、たしかに、なにであったのか……。
――失礼ね……そんなのに会ったら嫌でも一生忘れられないわよ。
よく、おもいだせない。
――その神様は、全ての人間にたった一度だけ会うのよ。
たしかに、わたしは、なにかに……そう、なにかにふれたような……。
――たった一度?
ここはくらいやみのなかだけれど、あたたかい。
――全ての生に、祝福と、呪いを。その神様が持つ役割の一つね。
わたしは、いままでにかんじたことがない、あんそくをしった。
――祝福はいいとして……呪いなんて要らないわ。
できるのであれば、このまま、ここでずっと。
――セット販売です。返品も駄目。
けれど。
――随分俗っぽい神様ね……。
ひかりがさした。
――そう言わないの。結構慈悲深いのよ?同じくらい残酷だけど。
あたたかいやみのなかに、つめたいひかりが。
――どっちよ?
わたしは、たまらなくふあんになった。
――どっちも。
そのひかりのさきには、おそろしいなにかがまちうけているきがした。
――……変な神様ね。
けれども。
――それは二面性を持つ神。それは365日を全てその身に孕む神。それは存在と非存在を橋渡しする神。色々あるけれど、大事なのはその神様の力じゃないわ。
わたしは、そのさきへいこうときめた。きょうふになきごえをあげながら、それでも。
――あれ? 今のって大事な話だったの?
そのひかりは、いてつくほどののろいと、やけつくようなしゅくふくに、いろどられて……。
――そう、大事なのは、ここがどこか。
これまでのものは、ここへおいていこう。
――ここは神社よ?
ひかりのさきには、すべてがあるのだから。そう、やさしくつげていた。
――ここは幻想郷よ。だからきっと、彼女の願いは遂げられる。
わたしは、ひかりにむかってとぶ。
――願い……。
あたたかいやみをぬけて、つめたいひかりへ。
――幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷な事だけれど。
せかいをこわして、わたしは……。
――ああ、彼女は……。
そして、わたしは……。
――とてもとても、美しい事ですわ。
わたしは……!
*******
――おぎゃあ!おぎゃあ!
――……誕生日おめでとう、マエリベリー・ハーン
******
――鳥は卵から抜け出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。
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わたしは観測者。
わたしは傍観者。
わたしは、せかいにたいする第三者。
なにものにも影響をあたえることはなく、ただふわふわとせかいをただよう。
みて、きいて、そしてなにもしない。
わたしは、存在と非存在の境界のあいまにうかぶなにか。
わたしは、曖昧なもの。
わたしは、【存在0-非存在+?以前(虚0居る<有る>)】。
いつからかここにはじまり、いつの日かどこかでおわるもの。
あたえることなく、うばうこともなく。
いまもわたしは、せかいをただよっていた。
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さくらの花がさいていた。
しかいに入ったその花のなまえ、いろ、かたちがわたしのなかに浮かんで消える。
それによってよびおこされるかんじょうは、わたしにはない。
かのじょにはあるのだろう。かのじょたちにはあるのだろう。
今、さくらが咲いた神社のけいだいで、顔を、そう、たのしそうにゆがめ、なにかすきとおった、もしくは紅い、あるいは……、
とりどりのいろをしたえきたいを飲み交わすかのじょたちには。
そのようすを、わたしはみている。そらから。とおくから。ときにはすぐちかくから。
だれもわたしにはきづかない。わたしは観測者だから。
わたしは、ただ、見ている。
ただ、見つめている。
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じめんが、そらが、ゆらゆらと、熱をおびたくうきによって、みもだえるように、ゆがめられて、かのじょは暑い暑いともんくをいいながら、こおりのようせいを捕まえて、かきごおりをつくらせていた。
わたしは、いまでもまだみていた。
ゆめみるように、まぶしいものをみあげるように、うつくしいものをねがうように。
まもなくこの季節もおわる。それでもきっと。
わたしは傍観者。だからわたしは傍らで。
ただみつめよう。このせかいを。せかいのありかたを。
***a***
おちばがじめんをおおいかくす季節になって、かのじょが休憩のあいまに落ち葉をそうじするきせつになって。
夕暮れのつめたくなりだしたくうきに、かのじょはすこしだけさみしそうな、人間とくゆうの、十月の
なぜかのじょは、どうしてかのじょたちは、そんな目で、かなたを見るのだろう。わたしにはわからない。
わたしは見るだけだから。
そしてたいようは落ちて、かのじょたちはみんな家の中に入っていって、なつにはあんなに賑やかだったよるが、少しずつしずかになって。
すこしだけ、ふしぎなきもちで、わたしは、かのじょのきもちが分かったような、そんな気がした。
*****a*
彼女たちの吐く息がしろくなって。なつにはげんきがあったかのじょたちが静かになりはじめて。
わたしはまだ空からながめていた。
にんげんも、妖怪も、ようせいも、だれもかれもが比較的おとなしくなって、いちぶの例外はふゆのあいだに猛威をふるって、かのじょに懲らしめられたりしていた。
わたしはそれを、たいきのつめたさとは無関係に、すこしだけ、暖かいような、ふしぎなきもちで観測していた。
かのじょたちは、つよかった。なぜなら、かのじょたちは存在しているから。
わたしはちがう。わたしはそんざいに満たないから。
だから、わたしはいまも、ただみつめていた。せかいから、世界を。
*b*****
ふゆのなごりの雪もとけて、あたらしい命が芽吹き始めた。風にもその兆候が現れて、かのじょはすこしだけ嬉しそうだった。
もうずいぶんと、わたしは傍観を続けていた。ずっとみていた。世界をみつめていた。
きっとこれからも。わたしは続けられる。観測を、観察を。そう、願えば。そう、思えば。
けれども。だけど。
そして。わたしは。
わたしは、願ってしまった。
このせかいへうまれおちたいと。
このせかいにそんざいしたいと。
――そして、わたしのせかいは、こわれた。
****x**
――そして私は、一へと手を触れた。
私はこの世界で、鳥獣や蟲、或いはバクテリアや、一個の細菌よりも弱い存在である。私はどんなに弱い存在にさえ、その本質に対して影響を及ぼす事は絶対に出来ない。
それでも私は確かに在った。存在していた。思考は明瞭として、存在と非存在の境界を漂っていた頃、自我が曖昧模糊としていた頃とは、まるで違っていた。
目を開く。途端、透明な白が視界一杯に広がり……いや透明な白などと言う物は無い。
それは光だ。ただただ強く、眩しく、そして暖かい。光が目を焼き、私は眩しさに何度も瞬きを繰り返す。
それだけの事でさえ、私は嬉しかった。
きらきらと揺れる、波と粒子の織り成す奇跡。その美しさに心を奪われる。
目が慣れ、やがて光の反射の意味を理解出来る迄になると、色の認識が始まる。
土の色、植物の緑、空の青、雲のくっきりとした白、そして、ああ、眩く、あらゆる色を孕んだ太陽が空に輝いて……!
全てが新しく、一瞬一瞬が新鮮で、存在感に満ち溢れ。
私は今まで何も見ていなかった。観測者、傍観者、漂う者、そのような者など、どれだけ長く眺めていても、世界の在り方、世界の形を真に理解しているとは到底言えない。
そうだ、今この瞬間存在する者が、ただそう在るだけで、存在者は世界を理解し、在り方について深く踏み込み、どれも正しく世界を観察しているのだ。
木々のざわめき、鳥獣が鳴く声、蟲の音色、水の流れるせせらぎ、風の吹く音。
躍動する、自身の心臓の音。
いや、この美しさすら枝葉である。例え耳が聞こえなくとも、目が見えなくとも、世界は途方も無く美しい。
そして私は知った。間もなく自分が、存在から非存在へ変位する事を。
私は存在と非存在の境界を漂うだけの者だった。1と0の間を、ふわふわと浮かぶシャボン玉だった。
それでも良いと、そう思えた。ただ、勿論、悲しくはあったけれど。
それまでは、一存在者として私はただ在ろう。在るがままに動こう。
そう決めた私は、初めの一歩を踏み出す。地面の固さ、柔らかさを直に感じ、草を柔らかく踏む音、その下に在る地面と、踵の骨格が微かに衝突する音が体の内に響いた。
見覚えのある場所だった。一面を森に囲まれた、静かで、荘厳で、けれども誰も拒まない場所。
博麗神社。赤い鳥居は、微かに表面の木の繊維が解れ、その古さを物語っている。
そして、其処には彼女が居た。
博麗霊夢。この世界で、私と対極に在る者。対極で在ると言う事は、換言すれば同一の存在である。
最も弱い者と最も強い者。観察者と観察者。無力の為に平等でしかない者と、強大で在るが為に平等として在らねばならない者。
彼女が視線を上げて私の方を向き、私を認識した。
突然、私は全てが彼女のお陰だと言う事を理解した。私が生れ落ち、此処に存在するのは、彼女の無自覚な力に拠る現象だったのだと知った。
彼女は、存在者だけでなく、存在に満たない何かにすら平等なのか。未だ生れ落ちていなかった私にすら、その力を及ぼしたのだ。
そして彼女はいつもそうする様に、怪訝そうに、迷惑そうに眉を顰め、
「貴女は……誰だか、と言うか何だかよく分からないけど、お茶なら飲んでも良いわ。菓子は駄目。とっておきなの」
と、言った。
ああ、と私は嘆息する。
最早私は、不完全な観測者ではない。もう二度と箱の中の猫を覗き見する事は出来ないが、だからこそ今、私は満ち足りたのだ。
満ち足りた。彼女のお陰で私は一に至った。
たとえそれが消失への道だとしても、私は……、
私は、貴女にこう言おう。
「ありがとう」
彼女はきっと、お礼を言われる理由など分からないのだろう。先ほどと同じ様に、怪訝そうな視線を私に向けた。
けれども、もう説明する時間は無い。
消えてゆく。その先に光と闇が、同一の物として見える。
いや、それは物ではない。それは
最後に私は世界を見渡した。彼女が私に向かって何かを言葉を発しているが、残念ながら私はその声を聞くことは出来ない。
私は光へ落ちてゆく。闇へと昇ってゆく。その極点にいる何かに向かって。
私は、神に向かって飛ぶ。
その神の名は……、
abraxas
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――それは、とある神様の世界に住んでいる妖怪みたいな何かよ、霊夢。
わたしは、くらいやみのなかにあった。
――神様の世界?
まわりでは、ごうごう、どくどく、といったようなおとが、やすむまもなくつづいている。
――この世界のすぐ近く、境界の狭間にあって、存在未満も存在以上もそのまま扱える世界よ。
めをこらしてもなにもみえない。
――何だかよく分からない世界ねぇ……。
からだをうごかしてみると、どこかせまいばしょにいるようで、うまくみうごきがとれなかった。
――人間に理解出来ない神様が創った世界だもの。貴女がよく分からないのは仕方ないでしょう。
なぜ、わたしはあるのか。
――変な神様……出来れば会いたくないわ。
わたしは、わたしは……。
――あら、貴女も一度会ってるわよ。覚えていないだけで。
わたしは、たしかに、なにであったのか……。
――失礼ね……そんなのに会ったら嫌でも一生忘れられないわよ。
よく、おもいだせない。
――その神様は、全ての人間にたった一度だけ会うのよ。
たしかに、わたしは、なにかに……そう、なにかにふれたような……。
――たった一度?
ここはくらいやみのなかだけれど、あたたかい。
――全ての生に、祝福と、呪いを。その神様が持つ役割の一つね。
わたしは、いままでにかんじたことがない、あんそくをしった。
――祝福はいいとして……呪いなんて要らないわ。
できるのであれば、このまま、ここでずっと。
――セット販売です。返品も駄目。
けれど。
――随分俗っぽい神様ね……。
ひかりがさした。
――そう言わないの。結構慈悲深いのよ?同じくらい残酷だけど。
あたたかいやみのなかに、つめたいひかりが。
――どっちよ?
わたしは、たまらなくふあんになった。
――どっちも。
そのひかりのさきには、おそろしいなにかがまちうけているきがした。
――……変な神様ね。
けれども。
――それは二面性を持つ神。それは365日を全てその身に孕む神。それは存在と非存在を橋渡しする神。色々あるけれど、大事なのはその神様の力じゃないわ。
わたしは、そのさきへいこうときめた。きょうふになきごえをあげながら、それでも。
――あれ? 今のって大事な話だったの?
そのひかりは、いてつくほどののろいと、やけつくようなしゅくふくに、いろどられて……。
――そう、大事なのは、ここがどこか。
これまでのものは、ここへおいていこう。
――ここは神社よ?
ひかりのさきには、すべてがあるのだから。そう、やさしくつげていた。
――ここは幻想郷よ。だからきっと、彼女の願いは遂げられる。
わたしは、ひかりにむかってとぶ。
――願い……。
あたたかいやみをぬけて、つめたいひかりへ。
――幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷な事だけれど。
せかいをこわして、わたしは……。
――ああ、彼女は……。
そして、わたしは……。
――とてもとても、美しい事ですわ。
わたしは……!
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――おぎゃあ!おぎゃあ!
――……誕生日おめでとう、
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全能が故に何か一つに拘りだした瞬間から絶大な拘束と、それを突破しようとする強大なベクトルが同時に生まれる。
一種のスペクタクル。
なんにせよ。中二病保菌者な自分にとっては文章だけでも、うずうずするものがあった。
とくにタイトルは照れがあるようで、その実すごくストレートで誠実だ。
しかしこのせいで悪い第一印象がついてしまうかも知れないと思うと、複雑な気分もする。
でもその感覚が嫌いではないので楽しく読めました。
知っている身からすると、凄いとしか言えないです
神様とゆかりんの絡ませ方に良い意味で驚きました
ゆかりんの属性的にもハマっている組み合わせだと思います
胡散臭さもちゃんと受け継いでますしw