Coolier - 新生・東方創想話

我が愛しの香霖堂 -最終回-

2009/11/29 23:14:38
最終更新
サイズ
11.33KB
ページ数
1
閲覧数
1668
評価数
5/76
POINT
3110
Rate
8.14

分類タグ


このお話は『子供ができたぞっ -慧音&妹紅編-』の続きとなっています。






霖之助が幼児化してから早2週間が経とうとしている。

彼自身に今のところ目立った副作用はないが、

それもずっととは保障できない。

自然に回復するのを待つのが一番いいのだろうが、

副作用の事を考えると、悠長な事は言ってられない。

ということで、解毒剤を作ることになった。

ここは、迷いの竹林を抜けた永遠亭。

「これを後2滴…よし」

「師匠。言われた物が揃いました」

今、永淋と鈴仙の周りには夥しい書物や薬の類が置かれていた。

「ありがとう。そこに置いといてくれる?」

今まで、このようなケースは見たことがない。

よって、人体実験に近い形となる。

元はと言えば魔理沙のせいではあるのだが、

サンプルが無いとは言え、このような場合も考えられなかった

自分にも不始末がある。

「副作用が出ないといいけど…」

薬を使った事による副作用の恐怖と、半妖に対してどこまで効くかの好奇心。

二つの思いが彼女の中で渦巻いていた。







場所は変わって、ここは魔理沙の家。

「すっかり遅くなっちまった。香霖は大丈夫だろうか…」

珍しく弱気になってる彼女を見て、

普段の彼女を知ってる者が見たら、どう思うだろうか。

「紅魔館だったな」

軽く身支度すると、彼女は大きな屋敷の方向へと飛んでいった。









「ここにはいないわよ」

来て早々この言葉である。

ふてぶてしい館の館主を尻目に、

魔理沙の目線は隣のメイドへと向けられる。

「…どういうことだよ」

その目には怒りの色が露となっていた。

「責任…とるんじゃなかったか?」

右手に握られてるのは霖之助からもらった大切なミニ八卦炉。

だが、そんな魔理沙に微動だにせず、

「別に、危害を加えたわけではないわよ。彼なら人里の守護者の所だわ」

魔理沙はそれを聞くと、

もうここには用は無いと言った風に、乱暴にドアを開け出て行った。








「ここにはいないぞ」

またしても突きつけられたこの言葉。

「あいつもお前も私をおちょくってんのか?」

さらに怒りが増す魔理沙。

「おちょくってはいない。ここにはいないと言っただけだ。

 霖之助なら妹紅の小屋に預けてある。

 それより霖之助をどうするつもりだ?」

「別に。元々は私が預かってたんだ。

 ある事情によって預けなければならなくなったけどな。

 けどそれも終わって返してもらうって話だ」

だが、それで納得する彼女ではない。

「事情が何なのかは知らんが…、別に私が預かっていても、

 ダメな話ではあるまい?」

「香霖がああなったのは私の責任だからな。とらせてもらうぜ」

二人とも彼を想うがこその強情というものだろう。

「埒が明かないな」

「こういう時はやる事1つだろ」

そう言うが早く、二人は飛び上がった。







「綺麗だろ、霖之助。あれを弾幕と言うんだ」

妹紅に手を握られ、連れて行かれたのは小さな丘。

そこは、人里を一望できる場所だった。

その頭上に花火のような物が舞い散っていた。

「綺麗…」

「そうだろ。魅せるための物だからな」

そう言う妹紅は、魅せる為の弾幕はしばらく使っていない。

寧ろ、殺す為の物である。

もちろん、相手も自分も死なないのだが。

「あら、ここにいたのね」

後ろから声をかけられて振り向けば、

永淋と鈴仙が立っていた。

「おや、私に何か用かい?」

「あなたじゃなくて、彼にあるのよ」

と、目線を下げると霖之助が不思議そうな顔をしていた。

「僕に?」

「そうよ、久しぶりね。霖之助君」

彼の目線に合わせ、優しそうに挨拶をする永淋は、

どこか母性に溢れていた。

「霖之助がどうかしたのか?」

と妹紅が言うと、永淋は鈴仙に薬を出すよう指示した。

「これは彼の幼児化を治す薬よ。強制的にだけど」

そこには青い色の小瓶。

いかにも毒ですとでも言うような色だった。

「治るのか?」

「ええ、けど小さいなりに副作用が出てしまうけど」

どの薬にも副作用は存在するもの。

「ダメじゃないか」

「別に自然に回復するのを待つのも手だけど、そのままという事も考えるとね」

「ね、ねぇ。何の話をしてるの?」

一人会話についていけない霖之助は、

妹紅のすそを引っ張ることしかできなかった。

「ああ、大事な話だからね。もうちょっと待ってくれるかい?」

「う、うん…。分かった」

彼が納得すると、妹紅は顔を上げ

「とりあえず私だけでは決められない。慧音に相談してくるから待っててくれ」

「僕は?」

「霖之助はこのおば…お姉さんの所にいるんだ、いいね?

 大丈夫、すぐ戻ってくるから」

妹紅は霖之助の頭を撫でると、彼女らの所へと向かった。

永淋が笑顔で小さな青筋を作っていた事は知らずに。






一方その頃。

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

開始からしばらく経ってるにも関わらず、二人に目立った外傷はない。

想いの強さはこれほどのものなのか。

「なんの!国符『三種の神器 鏡』」

魔理沙はどうか知らないが、慧音は里の事も考え

最低限の抵抗しかしていない。

負けるつもりはないが、勝たなくてもいいのだ。

要は魔理沙が諦めてくれればいいのだ。

例え守る者がいても、傷つけていいわけではない。

住む場所は違えど、人里の者なのだ。

「ったく。話が進まないったらないぜ」

「そうだな。君が認めれば済む話なのだが」

「それはこっちのセリフだ。と言っておくぜ」

どちらとも諦めようとはしない。

再戦が行われようとした、その時。

「おーい。こんなとこに居たのか」

と、違う場所から声がした。

「なんだ、妹紅じゃないか。どうしたんだ?」

「ああ、実はな――。」

妹紅は二人に先程の事を話す。

「――ということなんだが…、どうする?」

二人は妹紅が話す間、何も喋らず何か考え事をしていた。

もちろん霖之助の事以外に考えられないのだが。

「副作用はともかく、必ず元に戻るんだな?」

と、口火を切ったのは魔理沙である。

「ああ、それは約束されてる」

「確かに小さな香霖も可愛いが、私は元に戻ってほしいからな」

それに対し慧音は、

「私もそれには同感だが…副作用が怖いな」

副作用も様々な物がある。

神経が麻痺するものや、髪の毛が抜け落ちるものまで

どうなるか分からないのだ。

「永淋だったら副作用用の薬も作れそうだがな」

永淋に対し、全面的に頼るのは危ない気もするが、

この際は仕方ないと言えよう。

「さて、答えは決まったな?」

妹紅が聞くと、

「もちろんだぜ」

と、魔理沙が笑顔で答えた。

先程までの剣呑な雰囲気はどこへやらである。

「薬を使おう」

そういうと三人は竹林へと飛んでいった。







「あら、遅かったわね。帰ろうかと思ってたわ」

妹紅の小屋の前で、霖之助をあやしていた永淋が顔を上げた。

「あ、魔理沙お姉ちゃん!」

「よっ、香…霖之助。元気にしてたか?」

霖之助は魔理沙を見るが早いか、彼女の胸に飛び込んだ。

その姿は親子というより仲の良い姉弟である。

「それで?どうするか決まったの?」

永淋たちは感動の再会を見るために来たわけではない。

「ああ、決まったぜ。薬を頼む」

笑顔から真剣な表情に変わった魔理沙は、

どこか覚悟を決めてるようだった。

「分かったわ。霖之助君、ちょっと来てくれる?」

霖之助の目線に合わせ、手招きをする。

普通だったら喜んで行く霖之助だが、

どこか違う雰囲気を肌で感じたのだろう。

魔理沙にしがみついて離れなかった。

「ふう。嫌われたものね」

呆れた永淋は、魔理沙に薬を投げ渡すと

「その薬を飲ませてやってちょうだい。全部飲ませていいわ」

全部と釘を刺したのは、幼児化した薬を魔理沙が間違えた為だろう。

「分かった。さあ、霖之助。ぐいっと一杯やろうぜ」

まるで酒を勧めるかのように、危ない色の薬を飲ませる魔理沙。

「大丈夫なの?」

さすがに魔理沙であっても、表情に警戒の色が見える。

「ああ、お姉ちゃんを信じろ」

最初は脅えていた霖之助も、恐る恐る薬に手を伸ばした。

そして―――。

「ふぬっ」

霖之助は薬を一気に飲み干した。

「偉いぞ。霖之助」

と、周りから褒められる彼は

薬の味の苦渋な表情と、嬉しさでよく分からない表情をしていた。

「即効性のものだからすぐに効果は表れるわ」

と、言うが早いか霖之助の体に異状が発した。

「ぐっ…か、体が熱いよぉ…」

幼児化した体が青くなるのとは逆に、

今度は顔がこれでもかという程真っ赤に染め上がった。

「な、何が起こってるんだ!?」

今まで冷静だった妹紅や慧音さえ混乱する始末である。

「落ち着きなさい。小さな体を無理矢理大人にするんですもの。

 苦痛があっても不思議ではないわ」

冷静に言葉を放つ永淋に、魔理沙は少なからず怒りを覚えた。

もちろん、正論なので言葉にはしない。

「とにかく丁度よく小屋があるから、そこで休ませましょう。

 誰か水を持ってきてください」

「なら、私が里から持ってこよう」

と言って慧音は人里の方へ向かった。

「私たちも中へ」

慧音を除いた全員が小屋の中へ入っていった。







「ふぅ、これでよし。あとは彼が戻るのを待つだけね」

永淋は全ての作業が終わると、首の骨を鳴らしていた。

「すまないな。全部任せてしまって」

霖之助の苦しそうな顔を見たせいか、どこか元気のない魔理沙。

「仕方ないわよ。これは私以外には治せないわ」

永淋は魔理沙の頭に手を置き、優しく宥める。

「さぁ、今日はもう寝なさい。私達もここに泊まるわ。

 鈴仙。今日と明日の予定の患者は?」

そこで、今まで空気だった鈴仙が顔を上げる。

「今日、明日の予定の患者に重度の者はいません」

「なら、あなたに任せてもいいわね。私はここに泊まるわ」

「分かりました」

そう言うと鈴仙は帰っていった。

「いいのか。ほったらかしにして」

不穏に思った妹紅が口を開いた。

「重度の患者じゃない限り、あの子でも治せるわ。

 寧ろ、ここにいる患者をほったらかしにできないでしょう?」

永淋は隣で眠る霖之助に目を落とし、優しく頭を撫でる。

「それもそうか。あまり広くはないがゆっくりしてってくれ」

そう言うと妹紅は奥へ消えた。

「さ、あなたも寝なさい。体力を削るだけよ」

「そ、そうだな…」

しばらくして、小さな寝息が聞こえたそうな。







翌朝。

「…む?ここはどこだ?僕はどうして…」

体の戻った霖之助は、現状整理をし

ここが妹紅の小屋であることを把握した。

「はて…。酔った記憶もないのだが、どうしてここに」

すると、隣で寝ていた永淋が起き、

「おはよう、霖之助。ご機嫌いかがかしら?」

「そうだね。まずは何故君や僕がここにいるかを聞きたいのだが」

「それは皆が来てからにしましょう」








しばらくして魔理沙や妹紅も起きだして、

「香霖!元に戻ったんだな!」

「まず何になってたのかさえ分からないんだが」

抱きつく魔理沙を尻目に、霖之助は妹紅にお礼を言った。

「何があったか知らないが、一晩お世話になったね」

「礼はいらないよ。それと二晩だね」

そして慧音と、不本意ながら魔理沙が連れてきた咲夜と揃ったので、

今までの経緯を話した。

「――ということだったの」

「そうか…」

そしてショボくれてるのは普通の魔法使い。

「ごめんなさい、まさかあんなことになるなんて…」

いつになく元気のない彼女に違和感を覚えつつ、

「気にすることはないよ。たった数日無駄にしただけだ。

 幸い怪我なども見当たらないしね。ただ一つ残念なのは、

 小さくなってた時の記憶がないことだね」

もちろん小さな時の記憶というのは…彼女らの痴態と言ってもいい部分。

「「「それはダメ!」だ!」だぜ!」ですわ!」

一斉に声を挙げた為、小さな小屋では音が反響する。

「ふむ。そんなに禁忌な事なのか。何をしたんだ、僕は」

もし記憶があっても、慧音の能力で帳消しにできるものだが。

「まぁ、ともかく。無事に戻れたし、僕は店に戻りたいんだが」

小さくなってから2週間弱。店は放置もいいとこだ。

ただ盗む物が皆無なのが、不幸中の幸いか。

「様子見の為に、数日入院してもらいます。

 何か後遺症が出てきても困りますし」

「その間店は私が見ておくんだぜ」

元気を取り戻した魔理沙が、霖之助の膝に座った。

「…売り物はやらないよ」

「借りてくだけだぜ」

もはや日常の風景と言ってもいいこのやり取りは、

魔理沙にとって懐かしいものとなる。

「はぁ、仕方ないね。数日の間頼むよ」

「まかせろ。泥棒は私が追い払ってやる」

その泥棒は今、数日の間店主となった。

「さて、荷物はいらないから、そのままいらっしゃい」

そして彼は入院することになった。








そして退院。

「結局何の後遺症や副作用も見られず、ただ暇なだけだったとは…」

もちろんそれが一番良いのではあるが。

しばらくして、霖之助は店の前まで来た。

「1日意識を失ってた程度の事なのに、どうしてこう懐かしいのだろうか」

そして、彼はゆっくりドアを開けると、

「おかえりだぜ、香霖!」

「おかえりなさい。霖之助さん、お茶もらってるわよ」

店に入ったとたん、抱きついてきた魔理沙と、

相変わらず我が家の如く寛いでる霊夢の姿があった。




そして霖之助は心の中でそっと呟く。

ただいま、帰ってきたよ。

我が愛しの香霖堂。
ええと「子供になった」シリーズの最終回となります。

もっと続けてもよかったのですが、霖之助と繋がりのあるのが、

あまり無く、おまけに結局同じネタなので飽きてくると思ったんですね。

それと全部を通して霖之助のセリフが単調なのが心残りです。

まぁ、新シリーズの原案はもうできてるので、

近いうちにまた来ます。

それではまた。
白黒林檎
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2720簡易評価
10.100名前が無い程度の能力削除
あのちっちゃいこーりんにもう一度会いたいとか思うなよ!
もう一度薬作ったりとかするなよ!絶対だからな!

というわけでごちそうさまでした
次回作も期待してます
17.100名前が無い程度の能力削除
お疲れ様でした。
色々と変な奴等に叩かれましたが気にせずに次回作もお待ちしてます。
48.30名前が無い程度の能力削除
最後まで、永淋の間違いは直されなかったね
永淋→永琳です
キャラの名前くらいはちゃんと覚えましょう
キャラ崩壊以前の問題です
50.90名前が無い程度の能力削除
お疲れ様でした。
ハイテンションが大変楽しかったです。
その勢いでというのもなんですが、次は「副作用が出た結果がこれだよ!」的なやつとか、あるいは純粋なショタ霖がどうして現在の形になってしまったのか的な話を…
54.無評価名前が無い程度の能力削除
あとから見直して訂正することはなさらないんでしょうか。
これは叩くとか叩かないとかではなく、読んでくれる人、コメントを書いてくれる人への礼儀だと思うのですが。
75.100名前が無い程度の能力削除
取り敢えず帰ってきて欲しいね