Coolier - 新生・東方創想話

やっぱり『記者』はやめられない

2009/11/28 05:48:16
最終更新
サイズ
9.05KB
ページ数
1
閲覧数
1151
評価数
7/28
POINT
1560
Rate
10.93

分類タグ


―長年記者なんてやってると、何やってるんだろ自分、なんて思うこともあるんですよ、椛。貴女にも上司の苦労、少しは分かって頂きたいのです。

ええ、愚痴りたくなんてないんですよ本当は。でも誰かに愚痴らなきゃ、もうやっていけそうにありません。

全く、最近の平和っぷりはどうですか。宝船がやってきたなんてニュースも落ち着いちゃいましたし、実際私たちもやらなきゃならない仕事なんて、何にもないじゃないですか。ねえ。哨戒天狗の役割があるとはいえ、侵入者なんて白黒くらいしか来てないんだもの。正直な話、貴女だって暇でしょう?
・・・え?『そういう文さんは暇なんですか?』ですって?いいえ!何を言うんです、私は暇じゃないですよ。常日頃からスクープを求めて、幻想郷中飛び回ってるんですから!

そうだ、良い機会ですから、椛に新聞が出来るまでをお話してあげましょう。

まずネタ集めをするわけですけど、実際問題として、無いネタは本当に何処へ行っても無いんですよ。『無い袖は振れない』なんて有名な諺がありますけど、あれ本当ですね。私最近実感してますよ。
どこに行っても、見られるのは平凡な、ありきたりな景色ばかり。
もう何百回繰り返し見たか分からない、そんな光景ばっかりなんです。
神社に行けば巫女が茶を啜ってて、湖に行けば氷精が蛙を凍らせてて、それを見つけた神様が怒ってて。図書館から『持ってかないでー』なんて悲鳴が聞こえてきて。これじゃあ、はっきり言ってどうしようもないわけですよ。
こうなりゃあとは体力と気力の問題です。ともかく面白いネタが拾えるまでは帰らない。釣りみたいなものですね。すごく根気が要りますけど、我慢です。果報は寝て待てってやつですよ。

そんなこんなでまあ、どうにか少ないながらも記事になりそうなネタを見つけてきては、こつこつと記事にしたためるわけですね。
ネタ探しでかなりの時間を使うので、常に締切との闘いです。毎回これが、実に心臓に悪いんですよ。で、とにかく書きあがるまでは何時間も机の前に座ってるわけですが、今度はこれが腰に来るんです。最近私は腰痛で、永琳さんのところに通うことになりました。
それはともかく、毎度時間も無い中一生懸命書くわけですよ、一つ一つの記事を。そりゃもうどれも全身全霊を込める勢いで。
何と言っても、記事は新聞の顔ですから。納得のいくまで推敲に推敲を重ね、気付けばあっという間に締切時間を迎えるわけです。

ここまでで、ようやく峠を越えた感じですかね。
やっぱりネタ集めが一番の山場で、執筆はその次。
あとは、印刷して、配ればいいんですから。・・・でも、これだって言うほど簡単なものじゃないんですよ?
まず、印刷。
新聞を刷るときに欠かせないインク代とか、紙代とか、そういった費用は全部自分持ちです。
毎月かなりのお金が、新聞代に消えてるわけです。新聞を書く側なのに新聞代が嵩むとはこれいかに。
正直、足りないときは食費を削ってたりもします。この前、椛にお金借りたのはそのせいです。せち辛い話でしょう?
そして、配達。
何しろ幻想郷中の端から端まで配って飛ぶんですから、私は。
加えて、天界にも行きます。地下にも行きます。とにかく廻れるところは全て残らず廻り尽くすわけです。
いくら私が幻想郷で最速と言ったって、結構な時間を要する作業になるわけですよ。
毎回帰ってきたときにはくったくたです。お腹は空いてますけど、ご飯を作る気力が湧きませんし、汗をかいてますけど、お風呂を沸かす体力がありません。帰ったらすぐベッドへゴーです。
ともかく、こんな私の苦労の甲斐あって、やっと皆さんの所に新聞が届くわけじゃないですか。

その扱いが、ひどすぎるんです。

今日だって、霊夢さんとこに新聞持ってったら、あの人何したと思います?大して読みもせずに焚き火の火種にしてくれましたよ!
『焼き芋をするのに丁度よかったわ』ですって!秋も終わりだというのに!あ、ここは怒るとこじゃありませんでしたけど。
もう、流石にあれはかちんときましたねえ。一体あの人、人の苦労を何だと思ってるんでしょ、この寒いのに腋なんか出して!火を焚く前に服を着ろって話ですよ!

他に魔理沙さんのとこにも持ってったんですけどね。これもまあひどいもんですよ。最初の3行声に出して読んだと思ったら「悪いがつまらんぜ」でポイ。この辺り、ちょっと悪意を感じません?そりゃあ初めの数行で内容に引き込める記事は優れたものですよ。ええ、それは私自身そう思います。
でもね!それじゃあ3行で引き込めない記事は悪い記事なのか?と聞かれれば、私は絶対にそんなことはないと言いたくなるんですよ!

本当に良い記事、素晴らしい記事というのは、読み終えた後、読者が思いっきり感情を揺さぶられるものなんです。
悲しい事件があれば犯人に怒り、楽しい催しがあれば自分も行きたいと思わせ、不幸な災害があれば『自分にも何か出来ないのか』と同情を誘う。そういうのが、真に優れた記事でしょう。
でもそれは、記事の内容一字一句全部読んでもらわなきゃ伝わらないんです!初めの3行だけじゃ分からないことがあるんですよ!(ドン!)

机を叩くなって?あはは、すみませんミスティアさん。つい興奮しちゃって。
でも、貴女にもあるんじゃないですか?お店やめたくなったような経験。
・・・ふんふん。それは大変でしたねえ。『妹紅が一人で飲んでるところに、輝夜が来ちゃった』ですか。あの二人、顔を合わせればひたすらバトってますからねえ。それも、文字通り命を賭けた闘いだから、周りにいる者にとっては質が悪い事この上ない。二人が出会ったら二人以外が皆死んでた、なんて洒落にもなりませんしね。
私も間近で二人の闘いを見て『絶対に死なない者同士の終わらない争い』という題名で、リアリティ溢れる記事を書こうとしたことがありますよ。
今思うと我ながら無茶なことしたなあと思いますけどねえ。当時の私は、今以上に命知らずだったなあ。
案の定、うっかり一発被弾して、動きが止まったところに集中砲火を浴びて、3日ほど寝込むことになりました。
ミスティアさんの場合はどうだったんです?
・・・ははあ。『出会い頭で弾幕の打ち合いが始まって、屋台が全損』・・・貴女、よく生きてましたねえ。うわあ、不覚にも、涙が出そうになりましたよ。
それはともかく、屋台はどうしたんです?今はこうして復活してるわけですが。
・・・ああ、なるほど。輝夜も妹紅も『屋台が壊れたのはこいつが悪い!』の一点張りで弁償してくれそうになかったから、自分で新たに調達したと。随分とたくましいものですねえ。
何々、『他にも、変な客が多くて泣きたくなる』。へえ、どんなお客さんです?
ふんふん。ヤツメウナギの蒲焼を『熱い!』と言って凍らせて食べる子。チルノさんですね。
屋台自慢のつまみも注文しないで、延々酒だけ飲んでる鬼。萃香さんですか。
いまいち不評な新聞について、夜中まで愚痴をこぼす天狗―私のことじゃないですか!

え?『もう店じまいだから帰れ』って?あはは、何言ってるんですか。冗談きついですねえ、夜はこれからでしょう。お酒、もう一杯!



・・・あいたた、何も蹴り出すことはないでしょうに。お尻をあんな風に蹴られたことなんて、親にも無いですよ。
全く、私が記者という立場だから、暴力に出ることは無いと思って調子に乗ってるんですね?いいでしょう。その挑発、乗りました!『ペンは剣より強し』というところを見せてやりますよ!こうなったら徹底抗戦です!

え?『ミスティアの屋台が評判悪くなって潰れたら、何処で飲む気ですか?』・・・言われてみれば、それもそうですね。幻想郷で静かにお酒を飲める店なんて、あそこくらいのものですし。
大体、考えてみればミスティアの屋台には何度もお世話になってますし。いくらひどいことされたからって、そんな世話になった者の評判を貶めるなんて良くないですね。私の記事で本当に屋台が潰れちゃったら、やっぱり申し訳ないですし。
今回のことは、可愛い椛に免じて許してあげましょうか。
心の広い私は、あんな極悪非道な行いが自らに降りかかろうとも、当事者の事をきちんと考え、記事にはしないのです!偉い!

ふう、でも、椛とこうやって出歩くのも久しぶりな気がします。
少し前までは、私もあの宝船について色々聞き込んで回ってましたからね。思えば近頃の私はよく働いたものですよ。
充実してましたが、ちょっと疲れていたのも事実です。
新聞記事は書き辛くなりますけど、今みたいに落ち着いた状況も、少しは感謝しなきゃいけないってことなんですかね。
え?体調ですか?ああ、久しぶりのお酒で、飲みすぎたんじゃないかって?あのねえ、貴女も天狗でしょう。私があれくらい飲んだからって、どうってことないって言うのは、貴女もよく分かってるんじゃなくて?ぜーんぜん、酔ってなんからいろ!ふふ、冗談ですよ。

ああ、しかし今夜は星が綺麗ですねえ。外の世界ではすっかり星が見えなくなったと聞きますが、何とも風情のない話です。昼は燦々と輝く太陽、夜には静かに浮かぶ月と、それを彩る星の数々。これが、正しい空のあり方というものでしょう。そらですよ、そら。うつほじゃないですよ。あっはっは。
こうしていると思い出します。昔私が初めて物を書いたときのこと。当時は、新聞ではなく絵本のようなものを作っていましたね。
月に住んでる王子様が地上に降りて来て、多くの乙女の心をかっさらう。多くの女から求愛された男は、しかし、最後は月に帰ってしまう・・・懐かしいなあ。
・・・どこかで聞いたことがある話だって?そりゃそうでしょう。オリジナルで書いたつもりが思いっきり別のお話の影響を受けてるなんて、よくある話なんですよ。まだ私も、年端のいかない子供でしたし。
思えば、あの頃というのは一番楽しく文章が書けていた時期かもしれません。誰に見せるでもなく、自分で好きなお話を考えて、自分で書いて、自分で喜ぶ。うん。あの頃はそれだけで満足でした。
考えてみると、私は昔から物を書くのが好きで好きでしょうがなかったんですねえ。これが性分というやつでしょうか。
今?今は違いますよ。自分で出来たのを見るだけじゃ、到底満足できません。うーん、いつからそうなったのかは、もう覚えていませんが・・・。ともかく、今の私は新聞記者ですから。どれだけ多くの人に影響を与える記事が書けるか。この一点のためだけに日々頑張っているわけですよ。
ネタ集めや新聞配達で幻想郷中飛び回るのも。腰を痛めてまで椅子に座り続けて記事を書くのも。全てはそのためだけなんです。
分かってもらえます?うんうん。分かってもらえれば、私は嬉しいです。

それじゃあ、今夜は帰りましょうか、椛。
つまらない愚痴を延々聞かせてすみませんでした。でも、おかげですっきりしましたよ。
ああ、じゃあこの辺で。

お休みなさい。

―――――――――――――

「射命丸 文氏が日頃熱心に新聞を執筆しているのには、このように『多くの読者に影響を与えたい』という強い信念があった。今後彼女が発行する文々。新聞を読むときは、是非その点に留意し、しっかりと目を通して頂きたい。(犬走 椛)」
文「何か最近、新聞よく見てもらえてるみたい♪これからも頑張るぞー!」
椛(全く、しょうがない先輩だなあ・・・でも好きなことを仕事に出来るって素敵だよね。頑張れ!)

―――――――――――――

やっぱり『SS書き』はやめられない。ワレモノ中尉です。
前回コメント下さった方、ありがとうございました。あれ作るの地味に時間かかってたので「すごい」というコメントが嬉しかったです(笑)

今回の話は、かなりノリノリで書いていました。書いててこんなに楽しかったのは初めてかも。
いつもと違う文体が功を奏したのか、すごく書きやすかったですねえ。
文の気持ちも、作者自身分かる部分がありますし(^^;
自分にとってはかなり気に入った一作となりました。

皆さんにも、少しでも楽しんでいただければ幸いです。それでは。

※11月28日 追記
>>2の方に指摘された誤字を訂正しました。
キャラクター名を間違えるなど、SS書きとして言語道断ですよね。
不快感を覚えられた方がいらっしゃいましたら、お詫びいたします。
すみませんでした。こんな私ですが、これからもよろしくお願いします。
また、他の箇所も併せて何点か修正しました。
ワレモノ中尉
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.920簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
真剣な文ちゃんと面倒見のいい椛がいい雰囲気ですね。
3.100名前が無い程度の能力削除
陰ながら文の事を支えてる椛が可愛いです。

誤字報告
 翠香さんですか。→萃香さんですか。ですね。
12.100名前が無い程度の能力削除
椛がいいやつだ
13.90名前が無い程度の能力削除
文再評価の流れか

ところでTHIMEが流行りだしてから誤変換訓読みネタが減ったのはいろいろ残念な感じですが、やっぱIMEは便利なのですよ
17.90名前が無い程度の能力削除
冒頭で椛に話しかけてるのに途中からミスティア相手になってる…?

椛いいこだ。もみもみしてあげよう。
18.80名前が無い程度の能力削除
読み手である自分も楽しませて貰いました。
19.80名前が無い程度の能力削除
突然ミスティアの屋台が舞台だと出た時には「あれ?」って思っちゃいましたね。
あえてなのかもしれませんが、個人的には冒頭らへんで屋台の描写が欲しかったです。

椛いい子過ぎるだろ!?