太陽の光が燦燦と降り注ぐ、ここ幻想郷。
春にしては暑く、夏にしてはまだ涼しいという、
丁度いい気温での一日。
「ほう。この漫画は斬新だな」
日が照っているにも関わらず、霖之助は
自身の店の日陰で読書に耽っていた。
「一見人間・・・はここも同じか。が、
マスタースパークをしかもミニ八卦炉なしで撃ってるとは驚きだ。
いや、もしかしたら目に見えない程の小さな八卦炉なのか・・・?
となると、僕の発想も実はもう使われていたのか・・・。
しかも、この登場人物は飛ぶ、魔法、気の3つの能力を使えると見た。
霊夢と魔理沙と美鈴が合体したようなものか・・・」
幻想郷に流れ着いた漫画を読み耽っている内に1日が終わるのも珍しくはない。
しかし、今日は本当の意味で珍しい日となったのだった。
「よう。香霖」
夕暮れも終わり、宵闇の刻が迫る頃。
魔理沙が店へとやってきた。
「夕飯作りに・・・って無視か」
挨拶したにも関わらず、読書に忙しい彼に半ば呆れた目線を送った。
「香霖」
「ふぅむ・・・。この小さい子が地球最強か・・・、では他のは月の民?」
「香霖・・・」
「しかし他の能力者が見当たらないな・・・。みんな魔法を使える程度の――」
「香霖!!」
終に我慢できなくなった魔理沙は大きな声で呼んでみることにした。
「うぉっ。なんだ、魔理沙か。驚かさないでくれ」
「さっきから呼んでたんだぜ」
霖之助の周りに積んである漫画本は少ない数ではなかった。
「これは?」
「魔理沙。実はマスタースパークは外の世界でも存在するらしい」
といって、適当なページを彼女に見せた。
「確かにマスパだな。でもスペルカードじゃないぜ」
「確かにね。しかしそれは幻想郷のみでのルールだ。
外の世界までも同じというわけではあるまい。
しかも空まで飛んでる。実は幻想郷の者ではないかと思うんだ」
少しずつ薀蓄に熱が篭る霖之助に終止符を討った。
「それくらいにして、晩飯といこうぜ。今日はキノコ鍋だ」
「そうだね。じゃあ僕も手伝うとするよ」
通常では考えられない彼の言葉に顔を赤くするも、
「いや、大丈夫だぜ。すぐできるから待ってな」
と、いい台所に向かう魔理沙。
大分できあがって二人の皿に調味料と出汁をまぜたのを入れるとこまできた。
実は断ったのには理由があった。
「ふふふ・・・これで香霖は私の・・・うふふふ」
彼女の手にあるのは赤い小瓶。
これは永淋からもらってきた媚薬である。
「これで効かない者はいない」という代物。
故に配合を間違えるとどうなるか分からないという諸刃の剣。
「永淋は1滴から3滴といったな」
慎重に蓋を開け、震える手でそうっと入れようとする。
その時。
「魔理沙」
不意に後ろで声がした。
そこまで大きくないし、離れてもいた為驚く程ではないのだが、
緊張してた上に危ない薬を使ってたのだ、驚いても無理はない。
「ひうっ」
よりにもよって、鍋に全部を入れてしまった。
「うぉ・・・」
「どうしたんだい?」
「いやっ、なんでもないぜ!」
これは取り返しがつかないことになるかもしれない。
普通はその出汁を捨てるのだが・・・。
「まぁなんとかなるだろ。もしかしたら私にベタ惚れするかもしれんしな」
そうなった時の自分と彼を想像し思わずにやけてしまう。
「さぁ、できたぜ」
鍋と取り皿を居間へ持って行く。
後ろめたいことと、先程の想像(妄想)の為、
変な顔になってることは言うまでもない。
「「いただきます」」
声と手を合わせ食事を始める二人。
自分は食事に付かず、霖之助のほうをチラチラ覗くばかり。
彼は構わず進む食事。
だが、異変は直後に起きた。
「ぐっ・・・」
「どうした!香霖!?」
「く、苦しい。それに体も熱い・・・」
首を抑え元々白い顔がさらに青くなり、いよいよもって危なくなった時
「待ってろ!今すぐ永淋を呼んでくるから!」
といって飛び出していった。
理由を話し、永淋を店に連れてきた時には
霖之助の姿はなかった。
消滅してしまったのか?
魔理沙が絶望に浸っていると、部屋の隅から
「誰・・・?」
と、幼い声が聞こえてきた。
銀色の髪、金色の瞳に白い肌。
誰がどう見ても霖之助本人だった。
ちなみに眼鏡は大きすぎて外れている。
「永淋・・・これは・・・?」
わけが分からなくなった魔理沙は彼女に助けを求める。
「この薬は人間用の為、副作用が屈折しこのような結果になったようね」
「治るのか?」
「もちろん一時的なものですからね。半妖がどれ程かは分かりませんが。
それより・・・責任はあなたが取るのよね?」
いつになく冷ややかな視線の彼女に少し焦るも
「じょ、上等だぜ」
と、無い胸を反り出し威張る彼女。
もちろん内心焦りまくりなのは永淋も気づいてはいた。
「そう。じゃあがんばって」
と言い、出て行く彼女。
「誰・・・?」
どうやら記憶にも何かしらの作用があるらしい。
「魔理沙お姉ちゃんだぜ」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
いつも見せない煌びやかな笑顔を向けられた彼女は、
「良い子だな」
笑顔を振舞っていても内心は
(やばい・・・何かに目覚めそう)
鼻血噴水直前なのだ。
さて、話は逸れるが永遠亭でのお話。
「あ、師匠。おかえりなさい」
魔理沙に連れられていかれた永淋が戻ってきたことにより
喜びの顔を向ける鈴仙。
それとは裏腹に暗い顔をした永淋。
「師匠。どうかしたんですか?」
暗い表情の彼女に心配するも、
「大丈夫よ。私は部屋に戻るからカルテのまとめお願いね」
と言い、自室に戻るとベッドに顔を埋め
(やばい・・・かわいい!)
こちらもこちらで何かに目覚めそうな勢いであった。
場所は変わって香霖堂。
先程の衝動も落ち着いた魔理沙はまだ夕飯を終えてないことに気づく。
「じゃあ香り・・・り、霖之助。ご飯にしようか」
まるで我が子のように自らの膝に座らせる魔理沙。
「ご飯、ご飯」
箸を茶碗に叩きつける彼は記憶のほとんどを無くしてるらしい。
「こら、行儀が悪いぞ」
と、箸を取り上げるも、
「ぶぅ~」
普段見ない数々の霖之助の表情に正直身が持たなかった。
(もう死んでもいい)
だが、困るのはこれだけではない。
「さて、片付けも済んだしおふ・・・ろ・・・に」
夕飯の片付けを終え、いざお風呂に入ろうとすると
大変なことに気づく。
「香霖と一緒に入るのか・・・」
さすがに、彼一人で入れるほど浅くはない。
途端に耳どころか首まで真っ赤にする魔理沙に
「お姉ちゃん?」
と、疑念の声をあげる。
「あ、ああ。お風呂にしようか・・・」
もはや彼女の心臓は大きく鳴りっ放しである。
(香霖とお風呂、香霖とお風呂、香霖とお風呂・・・!!)
願ってもないチャンスに喜びながらも、
どうすればいいか分からない状態である。
さて、脱衣時・・・。ここが問題となってくるわけだが、
「お風呂、お風呂」
楽しそうに服を脱ぐ霖之助に、正直目が当てられなかった。
(ここで見たら多分死ねる)
もはや弾幕ごっこのほうが楽な戦いであったと彼女の談。
なるべく見ないようにして自分も服を脱ぎ、最初に体を流す。
「走るなよー」
「はぁーい」
そして、一緒に湯船に漬かるが、
(香霖の項・・・きれいだな)
汚れのない項に目移りするも、やはりじっと見ることができず、
「どうしてお姉ちゃんは僕を見ないの?」
とまで言われる始末。
「え?い、いや、ちゃんと見てるぜ」
「ほんと~?」
我慢して、直視するも視線はだんだん下へ・・・
だが、完全に下へ行くことなくまた上へと戻る。
それの繰り返しだった。
たった20分程度の時間が、彼女には1時間にも2時間にも思えた。
「つ、疲れた・・・」
疲れを癒す為のものが逆に疲れるとは此れ如何に。
「霖之助ー・・・、もう寝るぞー」
「えー、絵本読んでー」
歳さながらの甘えを見せてくる霖之助に、
先程の疲れが少し飛んだらしく、
「しょ、しょうがないな。読んだら寝るんだぞ」
「わかった!ありがとう、お姉ちゃん!」
またしても煌びやかな笑顔に、
風呂直後のこともあってか、今度は少し出てしまった。
(感激・・・)
そして、霖之助が持ってきたのは・・・
「こ、これでいいのか?」
やはり、霖之助は霖之助である。
持ってきたのは、まだ幼児化する前に読んでたあの漫画。
「他のにしないか?」
「これがいいの!」
霖之助のお願いに断れない自分に呆れながら、
一緒の布団に入っていく。
(うぉっ、香霖が近くに!)
未だに慣れないのは長年の好意からか。
「読んで、読んで」
「うん、じゃぁ・・・」
霖之助が寝たのは、12巻目の終わりの時だった。
さすがに魔理沙も疲れた為、変なことは考えずすぐに寝てしまった。
翌朝。新聞を配りに来た天狗に写真を撮られるのは言うまでもない。
脳内で繰り広げられる甘いミルクの匂いに僕もう……!もう……!
面白かったですよ。
と言う訳で邪念の無い自分にここは任せてだな……
これはいい! 目覚めそうだwww
でも、GJ!!
※永琳の琳が淋に…?