むぐむぐ。もぐもぐ。
先程から、魔理沙と霊夢の咀嚼音だけが響き渡っている。
「やっぱり冬は炬燵に限るな。むぐむぐ」
「ええ、冬と言えば炬燵よ。もぐもぐ」
博麗神社の居間で、炬燵に入りながら、二人はそんな会話を繰り広げる。
パクパク、ごくん。
2人とも、元よりそこまでお腹を減らしていたわけではない。
しかし、一度食べ始めると何故か止まらなくなるものというのは、誰にでもあるだろう。
2人にとって、今目の前にあるものは、まさにそうだった。
近頃めっきりと寒さを増してきた幻想郷。
レティ・ホワイトロックは起き出し、逆に、八雲紫は既に冬眠の準備を始めるほどの気温となった。
秋姉妹の暗くなりようは、半端なものではなかった。
冬の用意を済ませるのは、何も彼女たちだけに限った話ではない。博麗神社の巫女である霊夢も、寒さには勝てないとあり、重い腰を上げて炬燵の準備を行った。
「うーん、あったかー♪」
出したばかりの炬燵に、早速潜りこんだ霊夢。彼女は、普段人前ではまず見せないような、緩みきった表情を浮かべていた。
霊夢がこれほどまでに幸せそうなのも、無理のない話である。
何しろ、室内にいてもかなり寒いのだ。閉め切っていても多少は風が吹き込んでくるし、当然神社に断熱材など使われていない。
それに、霊夢自身が相変わらず腋を出した服装をしているのだから、冷えるはずである。
炬燵の中って、どうしてこんなに気持ちいいのかしら。
霊夢は、まるで極楽にでもいるような気分を味わいながら、そのまましばらく暖まっていた。
「やっぱり、炬燵はいいわねー」
珍しくご機嫌な霊夢。久々の炬燵がよほど気に入ったらしい。
時折吹き込む隙間風も何のそので、炬燵の温もりを堪能していた霊夢。
しかし、そんな彼女はふと何か物足りなさを覚えた。何か、とても大切な何かが足りない。
(何が足りないのかしら・・・)
霊夢は、今この場に足りないものを、懸命に考える。
(うーん、炬燵になくてはならないお茶はもう出してあるけど・・・そうよ、おやつ!)
そうだ。食べるべきものが何も無いではないか。
炬燵の魅力を何倍にも跳ね上げてくれるのが、食べ物の存在だ。
ぬくぬくと暖かい炬燵の中で食べるものというのは、普段よりもずっと美味しく感じられる。
逆に、食べ物が何も無ければ炬燵の魅力は半減するといっても過言ではない。
それほどまでに、炬燵における食べ物の存在は重要なのだ。
候補としては、煎餅でも良いし、落花生なども悪くない。アリスお手製のクッキーも最高だし、あるいは、果物なども―。
(・・・いかん。想像してたら小腹減ってきた。何か買いに行こうかしら)
そう思い、霊夢は外出すべきか否か悩み始めた。何しろ折角入った炬燵である。わざわざ寒い思いをするために、外へ行くのは気が引けた。
(どうしたものかしらねえ)
彼女がそんなことを考えていると、庭へと降り立ってくる一つの影があった。
「おーい、霊夢。今日も来てやったぜ・・・と、炬燵か。いいもの出してるな」
来客は、馴染みの霧雨魔理沙だった。霊夢は、丁度良いカモが来たとばかりに声をかける。
「いい所に来たわね、魔理沙。来たばっかりのところで悪いけど、ひとっ走り買い物頼まれてくれない?」
「ええー?」
霊夢の言葉を聞いて、あからさまに嫌そうな声を上げる魔理沙。それはそうだろう。人の家に来ていきなり買い物を頼まれるなど、普通に考えればありえない。
すると、霊夢は続けてこんな事を言った。
「買って来てくれたら、炬燵に入れてあげてもいいわ」
「買って来なきゃ入れてくれないのか?」
「当たり前でしょう。うちのこたつは高いのよ」
さも当然のように言う霊夢。こりゃ駄目だと、魔理沙はお手上げのポーズをする。
「で、何を買って来ればいいんだ?」
「ちょっと食べ物買って来て欲しいのよ。あれなんかいいと思うんだけど」
「あれなんて言われても分からないぜ」
「鈍いわねえ。黄色くて、甘くて、とっても美味しい果物のあれよ」
「ああ、なるほど、分かったぜ!」
魔理沙の顔に、得意そうな表情が浮かぶ。寒さからか勘の鈍っていた彼女も、霊夢の言葉でようやく気がついたようだ。
「よし、じゃあ行って来るぜ」
「早めにお願いねー」
こうして、話は冒頭へとさかのぼる。
「それにしても、まさか箱で買ってくるなんてね。むぐむぐ」
「私も箱売りしてるとは思わなかったけどな。運ぶの苦労したぜ。でも、どうせお前、あればあるだけ食べるだろ?もぐもぐ」
相変わらず、2人は炬燵で一心不乱に食べ続けている。既に結構な量を食べているのにも関わらず、彼女たちの手が休まる様子は無い。
「案外食べれるものね。何か、すぐお腹一杯になりそうなものなんだけど」
「まあ、1つ1つはそこまで大きいわけじゃないからな。霊夢が大食いなのもあるだろうけど」
「何ですって!?」
既に辺りには残った皮が散乱して、散らかり放題になってしまっている。しかし、2人はそれを気に留める様子もなく、ただただその甘さを堪能するのだった。
そこへ、ドンドンと、神社の戸を叩く音がした。
「霊夢、客だぜ」
「ここ動きたくない。あんた出てくれない?」
「神社へ来たってことはお前の客だろう。何で私が出なきゃいけないんだ?」
霊夢の言葉に対し、魔理沙がもっともなツッコミを入れる。
むう。真っ向から正論で攻められては仕方あるまい。めんどいけど。
そんなことを思いながら、霊夢は「うー寒」と呟きつつ、腰を上げた。
「はい、どちら様?」
「こんにちは。分社の様子を見に来ました」
にこりと笑ってやって来たのは、早苗だった。
「あら早苗。わざわざ寒い中ご苦労様」
「いえいえ」
立ち話も何だと、霊夢は居間へ早苗を上げる。
「実は、今日炬燵出したのよ」
「みたいですね。暖かそうで羨ましいです」
そう言って室内を見回した早苗。すると、彼女はすぐに顔を曇らせた。
「ちょっと散らかしすぎですよ。ゴミ箱に入れるくらいしてください」
炬燵でぐだぐだと溶けている魔理沙と、散らかり放題の辺りの様子を見て、早苗が少し厳しい声を上げる。
「魔理沙さんも。もうちょっとシャンとしてくださいよ」
「別にいいだろー」
「もう」
やる気なさげに答える魔理沙に、早苗はもう二言三言言いたいようだったが、そこへ霊夢が声をかけた。
「あんたも炬燵入れば?今、お茶入れるわよ」
「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
そう言いながら、早苗も炬燵へと潜りこむ。ぬくぬくとした暖かさが彼女の足元を覆い、早苗は心の底から幸せそうな表情を浮かべた。何だかんだで、やはり彼女も寒かったのだろう。
「やっぱり、冬は炬燵に限りますね~」
「お、今怒った烏がもう笑ったな」
茶化すようにそう言った魔理沙に対し、早苗は苦笑を浮かべる。
「これもあるぜ。食べるか?」
「あ、魔理沙さんありがとうございます~。んぐんぐ」
「どうだ?」
「美味しいです~」
すっかり身も心も蕩けきったのか、いつもより3割増しで緩い表情を浮かべる早苗。そんな彼女の様子を見て、霊夢は思わず噴出しそうになってしまった。
「それにしても、今日はちょっとびっくりしました」
しばらく暖まり、緩みすぎた表情も徐々にいつも通りのものになってきた早苗。
そんな彼女は、ふと、感心しきったようにそう呟いた。
「わざわざ箱でこんなもの買って来るなんて。お二方は本当に常識にとらわれないんですねえ」
うんうんと首を振りながら、そんなことを言う早苗。
その言葉を聞き、霊夢と魔理沙の頭に疑問符が浮かぶ。
「常識にとらわれないって、何がよ。確かに箱買いまでするのは珍しいけど」
「でも、こんなの、普通にやってることじゃないのか?」
彼女たちは、口を揃えてそう言った。
そう、彼女たちにとっては、この光景は、何のことはない普通のものだったのだが。
「いえいえ、相当珍しいと思いますよ?少なくとも、外の世界では中々ないことですから」
それとも、幻想郷では、むしろこれが普通なのだろうか?
ふと、そんなことを思いながら、早苗は、部屋の隅に目をやる。そこには、魔理沙が買ってきた、大きな段ボール箱がどっしりと置いてあった。「三貫」とあるから、およそ11キロとちょっとだろうか。魔理沙はよくぞ、こんなどでかい箱を運んだものだ。
これが、幻想郷においてそんな量で売られていたことも、彼女にとってはまず驚きなのだが。それ以上に早苗が驚いた点は別にある。
「私が炬燵で食べるんだったら、まずみかんなんですけどね」
『甘蕉』と書かれたその箱を興味深そうに見ながら、早苗は続けて言った。
「まさか、炬燵でバナナを食べているなんて」
でも、炬燵に入ってぬくぬくしてる姿とか会話とか面白かったです。
まさかバナナとはw
100点※単位はわけわからんポイントです
しかし今だけ大量のバナナがたどり着くとは、さてはバナナダイエットがもう幻想入りしたのか…
読み返したら納得だ。
むぐむぐ、もぐもぐが味噌ですな
みかんは箱買いするが…バナナはないなぁ…
最後の方を見るまで蜜柑だと思ったよ。ww
言わなければならない気がしたw
気になったのですが、場面転換に区切り付けるとかした方がいいような
少々分かりづらかった