*この作品は少し前の『夢の始まり』の続編です。 御手数ですが、始めにそちらをお読みください。
(あらすじ)
俺はよーき。とある事情で「幻想郷」の「冥界」に暮らしてる。平穏を望む俺だったが、周りの女達の所為で滅茶苦茶だァ!
幼馴染、ゆっこ。腐れ縁の胡散臭いお姉さん、ユカリ。その妹、ランさん。
プライドが高い、ユウカ。豪快な姐御、ユウギ。合法幼女、スイカ。謎の少女、ルーミア。
他にも沢山の女達が俺の平穏を奪って行く……とほほ。
さあ、今日は誰が俺を苦しめるんだ……
〈嘘ウサ!!〉
* * *
「その人が私の……」
「血縁上の祖父。彼は繊細で、賢過ぎた。
妖忌ほど強くは在れなかったのよ。悲しいことにね」
「でも、それで魂魄が終わったなら……私は」
「ああ、そういうこと。あのね―――」
その後、当主の自刃にて全てが終わったと思われました。が、やはり、というべきか分家ならび西行寺本家はそれを可しとするわけがありません。
新たに当主を立て、新制『魂魄』家を作ったのです。
ただ、問題がありました。
「問題?」
「貴方の祖父……妖忌じゃない方ね。彼は先祖の魂魄分離の外法を研究していたらしいの。
やっぱり妖忌の弟だけあって天才だったわ。それを応用し、逆の術式を考え出したのよ」
「逆ですか?」
「魂魄融合術、だったっけかな? とりあえずそんなの」
「とりあえずって……はあ、まあそれがどうしたんです?」
彼はその術を使い、後の魂魄家に呪いをかけました。二度と半人半霊が生まれぬように。
「え! だったら私は?!」
「だから最後まで話を聞きなさいって」
しかし彼は三つ、過ちを犯しました。
一つ、彼の死の前に懐妊している者にはその呪いが利かなかったのです。
二つ、彼は知りませんでした。まさか我が娘が子を授かっていたとは。
「えええっ!!」
「後で私らも気付いて吃驚したわぁ。だって紫ですら気付いて無かったんですもの」
「……あ、え」
「何?」
「その、じゃあ……私の父は」
「知らない」
「へ?」
「知らない。ていうか、興味無い」
「え、だって……ああ! もう!」
「ふふふ。もしかしたらそのうち会えるかもね」
「……」
彼女がどうやって懐妊していたかは謎です。
当主に黙って恋に落ちていたか……襲撃の際に犯されていたか……それとも聖母のように授かったのか。最早、どうでもいいことです。
何故なら、私も妖忌も彼女を娘のように可愛がっていたから。妖無が子を産みたいというのであれば、それに賛同してあげるのが『親心』。
「可愛がってたからって……そんなんでいいんですか!?」
「それ以上に何があるっていうの?」
「うっ……でも『親心』って」
「だって私だって女だもん。子供だって欲しかったわ。
亡霊だから作れないけどさぁ……妖忌だって結婚してなかったから、嬉しかったはずよ。娘ができて」
「ジジイ……念願叶いやがった」
「ん?」
話を戻します。
彼の三つ目の過ち。それは娘を預けた場所、そして預けた人物でした。
幻想郷―――正しくは冥界。幻想郷の果ての冥界にまで、彼の呪いは行き届かなかったのです。
預けた人物は私。妖無は人間です。能力を使ってはいないとはいえ、私と西行妖の死への手招きは避けられませんでした。
医者は子を産む前に死ぬだろうと告げました。御年17歳。若すぎます。
しかし、彼女は生きました。生きて我が子の顔を見るまでは、と有らん限り生を尽くしました。
そして―――
「元気な女の子。しかも予想だにしなかった、半人半霊の子が生まれたのよ」
「それが、私」
「ええ……」
しかも産後、母子共に健康。柄にもなく妖忌もはしゃいで喜びました。その時、御祝いで撮った写真が『これ』です。
「え……え!? じゃあ、私を産湯につけたのって、永琳先生!?」
「ん~、ちょっと違うけど……ま、兎に角当時仲良かった連中を集めてお祝いしたのよ」
「へぇ。因みにこの銀髪二人、どっかで……あと阿求に似た少女は?」
「ああ、霖ちゃんと慧ちゃんよ。あと阿弥ちゃん(八代目)ね。
このにとりに似た子はみとりんよ」
「リンチャン? ケイチャン? 文ちゃん? ミトリン?」
「何を考えてるかは知らないけど……まあ皆喜んでくれたわ。ホント、楽しかった」
「……それは、嬉しいです」
「ただね……」
* * * * * * * * * * * * * * * *
そんな祝いの席に、招かれざる客が来ました。新制魂魄家の当主と家来数人です。
『やあやあ、目出度いですな、叔父上。おめでとう、妖無』
『ありがとうございます……当主様』
『何処から入って来た……下衆が』
妖忌は彼らの前に出ました。
新制当主は妖忌の甥。妖無の再従兄弟。妖夢の……もうわからないほど遠縁の血族でした。
しかも宗家からは程遠い分家も分家。唯単に西行寺本家が魂魄残党を扱いやすいからという理由で当主にした男です。
『いえ何……私らにもコネがありまして、とある妖怪なんですけどね』
『御託はいい。何用だ』
『簡単な話です。その子を引き取りに来ました』
場が、凍った。
『何を、抜かしている』
『いえ。ただその子の父親は私共の側近でした。
妖無も莫迦ですね。従者との間に子をもうけるなんて』
『……本当か? 妖無』
『はい……当主様。あの人は』
『ああ、あの男?』
新制当主は葉巻を咥え、サラリと言いました。
『今頃、錦の御旗の下、幕府軍と戦ってるよ。生きて帰ってくるといいね』
『……そうですか』
『ま、そんなことはどうでもいいから、その子を渡して頂戴。君も戻って来てもいいよ』
『そんなの……』
『困るよぉ。本家の命令なんだよね』
新制当主は家来達に行け、と告げました。
家来達は赤子を手にしようと―――
『嘗めるな。童共ッ!!』
―――皆、打たれました。
新制当主はヒィと悲鳴をあげ、叫びます。
『お、叔父上。こんなことをすれば、本家がタダでは退きさがりませんよ!』
『……今の本家って、私より凄いのかしら?』
『幽々子……様。い、いえ、ただね。物事には……』
『西行寺の私が命じます。手を退け。下郎が!』
私がそう言うと、彼は一目散に逃げて行きました。伸している家来達も紫が皆、スキマへシュート。
『妖忌様。幽々子様。ありがとうございます』
『なに……気にすな』
『当り前じゃない。娘を守るのが親の役目よ』
『はい……』
彼女は恭しく首を垂れました。
『して、妖忌様』
『何だ?』
『この子の名は、如何なさいましょう』
一難去って、また一難。妖忌は先の事態より難題に立たされました。
『名か……幽々子様、お考えは?』
『そうねぇ』
ふと、庭を、そして桜の木を見つめます。
『我が身砕けぞ 後世に幻(ゆめ)を……』
『はい?』
彼女は首を傾げ、私を不思議そうに見ました。
『貴女の、父上の歌よ』
『父の……』
暫しの沈黙。
横では友人達が、本人らお構い無しにドンチャン騒ぎをしています。妖無は彼らを一度見てから、微笑み、告げました。
『妖忌様。筆を、お願いします』
『ん、わかった』
妖忌から紙と筆、墨を渡され彼女は筆を走らせました。
―――妖夢―――
『魂魄、妖夢(ようむ)です』
『夢、か。別に今時の、ハイカラな名前にしてもいいんだぞ?』
『いいのです。私は魂魄であることに誇りを持っています』
『むぅ……』
『いいじゃない。夢、ねぇ』
彼女は娘の名を、呼んだのです。娘は―――貴女は、母の腕の中でキャッキャと笑いました。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「『生まれてきてくれてありがとう。妖夢』ってね」
「母、様」
「夢を託されているのよ、貴女は」
「夢、ですか……」
幻想郷(ここ)では『夢』を冠する名は特別な意味を持ちます。
「特別?」
「ええ」
一人、存在自体が『夢』の化身である悪魔の少女。
一人、魔の聖地の始まりの少女。
一人、幻想郷を任された巫女。
そして―――
「母親と同じ音を持ち、一族の『夢』を託された半人半霊の少女、ね」
「霊、夢……」
「そう。ま、あと二人は何れ何処かで出会うかもしれないわ。皆、なんらかの夢を背負った少女達。少なくとも、貴女と霊夢、夢子さんはね」
「……」
「ここからは……少し、悲しい御話。聞くかしら?」
「お願いします」
* * * * * * * * * * * * * * * *
わかりました。話を続けましょう。
名も決まり、これから更に幸せな生活が続いていくだろう。誰もがそう思っていました。勿論、私もです。
しかし、しかし運命は儚く脆く残酷でした。
貴女が生まれてから約半年、妖無は病に臥しました。
主治医の話によるとこの半年間は……こんな言葉で片づけるのも可笑しなものですが、『奇跡』だそうです。
彼女はやはり、私と、あの妖怪桜に誘われていたのです。
……床に臥して三月と少し、妖無の具合は悪化しました。ここ一週間が山だと言われていた時です。
彼女は、妖忌と私を呼びました。
『寒くなりましたね』
『……ああ、そうだな』
冥界は、気温の変化が、ありません。
彼女の身体は限界でした。
『きっと、幸せでした』
『莫迦言うな。これからもっと楽しいことが待っている』
『そう、ですね……』
彼女の隣には貴女が寝息を立てています。なんとも安らかな顔をしていました。
『ここで暮らせて、きっと良かったのでしょう』
『当り前だ』
『未練はありません……』
娘の頭を撫でる妖無。
その姿を見て、私は何も言えませんでした。そんな私を見て、妖無は微笑みかけました。
『幽々子様。そんな顔をなさらないでください』
『そうね……ごめんなさい』
『けして貴女の所為ではございません』
『……』
『そして、あの桜の所為でもないのです。本来、ここへ来る前に亡くなっている筈の私。
感謝こそすれ怨む気など、まったくございません』
『妖無……』
何故、彼女が病に臥す必要があったでしょう。
何故、こんなにも若く儚く消え去る必要があったのでしょう。
妖無は貴女の手を握りました。そして……静かに、告げます。
『妖忌様。白玉楼(ここ)をお願いします』
『言われなくともわかっとる! 莫迦なことを言うなと言うに!』
『ここは……私達の、魂魄とか西行とか、関係無く……私達の家です』
『ああ、そうだ。家族だ! だから、まだ……!』
『申し訳、ありません』
私は、もう立っていられませんでした。何時の間にか妖忌の胸の衣を濡らしていました。
『幽々子様。この子をお願いします』
『っ……ええ。任せて、おいて』
『ああ、よかった』
その時でした。
西行妖が『笑った』のです。
『桜が……咲いていますね』
『ッ!! オイ、化け物! まだだ! まだ連れて行くな!!』
『あああ、止めて……お願い……』
妖忌の叫びも、私の嘆きも虚しく、桜は少しまた少しと咲いていきました。それに反し、妖無の命は、枯れていくのです。
あれほど西行妖の開花を望んでいた私も、この時ばかりは目を瞑りました。
『父上……忌み子は……無き子は、もう、いらない』
『妖無!!』
はらはらり、はらはらり。
桜の花が枯れていきます。
私の意志とは別に、『蝶』が舞いだしました。止めて止めてと泣く私。去ね去ねと剣を振う妖忌。
しかし其れ達は止まりません。
『幽々子様……歌、お借りします……』
―――ほとけには 夢の続きを たてまつれ
我が後の世は 虚無……あるまじ、と―――
『妖夢……ごめんね。ごめんね……』
その悲しい声に、貴女の半霊がフヨフヨと応えました。それを見て、妖無は微笑み……
『莫迦……者……』
『ああ……妖無ぅ! 妖無ぅ!!』
……息を引きました。享年18。あまりに若すぎます。
私は静かに歌を、返しました。
―――しらたまの 若き虚空の 夢桜
ほとけなりとも かりぬまじけれ―――
願わくば、この子と娘が永久に繋がっていますように……
* * * * * * * * * * * * * * * *
「夢の続きは、この時なりぬ……」
「そう……ですか」
妖夢は写真の中の母親を見つめる。自分の中で沢山の想いが交差したが、今はただ、記憶に無い母の顔が愛おしかった。
ふと、幽々子は縁側に腰かけ、小さく呟いた。
「ダメねぇ……歳を取ると、涙脆くなるわ」
「幽々子様……」
一瞬、主の目下がキラリと。
「母の、亡骸は?」
「当時の博麗に任せて、丁重に……今頃はもう、転生しているかしら」
何も、言えない。
「貴女は……」
「はい?」
「私を、怨んでもいいのよ」
「莫迦な」
突然の主の言葉に、戸惑った。が、戯言だ。
「意志と別とはいえ、私は彼女の寿命をすり減らしていた原因の一環。
ある種、母の仇でもあるの……」
「それを、祖父にも言いましたか?」
「え、あ、うん」
従者の質問は予想外だった。
妖忌に? 何と言っていたか……どうだったか……
「きっと、こう言いませんでしたか?
『感謝こそすれ、怨む気などまったくない』、と」
「たしか……に」
「失礼、します」
そう言って、妖夢は……刀を抜いた。そして―――
「ふッ……!」
―――主の目の前を一閃。流石の幽々子も驚いた。
「夢の続き」
「え」
「吹っ切れました?」
「何、を」
従者は刀を……白楼剣を納めた。
「迷いが、です。私も祖父と母と同じ気持ちですよ。
世迷いごとを言わんで下さい。ね?」
「妖夢……ありがと」
「うわっ! ゆ、幽々子様!?」
幽々子に抱きつかれ妖夢はあたふた、あたふた。
しかも声を出して泣き出す終い。こんな所を誰かに見られたら……
「ヤッホー! ゆっこ遊びに、き……」
「どうもー。遅くなりました! 文々。新聞の夕刊、で……」
最悪(災厄)二名。
「やっだー、シャメ。アレ見て。きっと従者が泣かしたのよ」
「あやややや、あやややあやや、あやややや」
よりにもよって……この二名。
「ち、違います! ちょっと色々あって、その」
「二人とも……妖夢は、ただ、ただ……私の悩みを、迷いを断ってくれただけなの……」
「あ、はい。まあそんなところです」
少女(?)会議中……
「白楼剣で?」
「え、あ、はい」
少女(?)審議中……
「はい、やっぱアウト」
「アウトです」
はい?! と素っ頓狂な声を上げる妖夢。
「だってぇ、白楼剣で切られたらゆっこ、成仏するわよねぇ」
「あやややや?! これは明日の一面ですね。『白玉楼庭師。主を殺害未遂!?』っと」
「文さん! 止めてよぉ……」
フフフと笑うスキマと鴉天狗。
一頻り妖夢をからかった後、で? と聞いた。
「何したの? お姉さんに言って御覧なさい」
「おね……いえ。なんでも。実はカクカクしかじか……」
「アルプァじーる、と。なるほどねぇ……」
二人に件の写真を見せる。あら、懐かしいと喰いついてきた。
「すげぇ、私若い!」
「……何が、違うんでしょうか」
「いい写りですねぇ。流石、私!」
「え?! 文さん撮ったの!!?」
「そういえばそうだったわねぇ。ゆっこ忘れてたぁ」
「およよ……」
うふふと遠い目の二人。
「確か貴女この頃、天m」
「あややっややあややっややッ!!!」
「何、必死になってんのよ」
「あはははは」
てんや、わんや。
* * * * * * * * * * * * * * * *
―――顔も声も知らない母様。
私は元気です。
幽々子様は相変わらずです。
お爺様はわかりませんが、きっと元気でやってるでしょう。
この時が夢の続きかどうか、私にはっきりとした確証はありませんが……でも、私は幸せです。
母様。夢桜は枯(離)れませぬ。
どうか、私達を見守り続けて下さいね……
貴女の娘、妖夢より―――
次回作も期待しています!
あと、みとりんって―――――そんなっ、素敵ワードに追加しないと……!
話自体は大変、良かったです。
文体と雰囲気が合っていまして、引き込まれました。
ちょっとだけ、紫の登場シーンすぐに分からなかったですね。それ以外は大変、満足させてもらいました。
あぁ、あと誰が年増好きだ。
まさか白玉楼組でこんなに作りこんでくるとは……。
雰囲気が独特、且つ自然で、するりと入り込んでいけました。
直タイツでもドロワにニーソでも私はいっこうに構わんっ!
そして教授涙目。
2番様・・・素敵とは、感謝感謝です!
冬。様・・・天魔はほとんどオリキャラ化してるんですが、そのまま突っ走らせて頂きます。みとりんは……書(描)きたいんですよ。是非に。
紫は使いすぎると話がチートになるので、私はあんまり使いたくないんですね。できれば前の設定どおり行きます。
あと……ありゃ、ごめんなせい。
葉月様・・・いやー、独特っていうかぶっ飛び過ぎてないか心配でした。好評頂きうれしいです。
10番様・・・みとりんといい、ぶっ飛び自重できませぬ。ごめんなさい。
直タイツって要はパンツはいてn(ry
教授? 教授は、そのうち出したいなぁ……岡崎最高!!