※風と地の間くらいの話
窓を開けると、朝の陽射しと共に吹き込んできた爽やかな風が髪を撫でた。瞼を擦り、両手を上げて伸びをすると起きたばかりの眠気が若干和らいだ。
テーブルに着くと、台所から出てきた人形が、重さでふらつきながら紅茶を持ってきた。彼女はそれを受け取り人形の頭にそっと手を添えて優しく撫でる。
「ありがとう」
頭を撫でられた人形はどこか嬉しそうな足取りで(飛んでいるので足は動かしていないが)また台所の方へと飛んで行った。彼女はそれを見送りながら湯気の立つ紅茶を口に含んだ。
彼女の名はアリス=マーガトロイド。魔法の森に住む魔法使いだ。
ちなみに先の人形もアリスの魔法により動いており、いちいち礼を言ったりするのもアリスの自己満足、つまりはオナニーなのだ。朝からオナニーに耽るとはお盛んである。
「……ふぅ」
軽く息を吐き、アリスはティーカップから口を離す。そして、すっかり眠気の覚めた、見る者にややきつい印象を与える瞳をそちらに向けてこう言った。
「で、どうして貴方は朝も早くからこんな所にいるのかしら?」
そして、問われた彼女はこう答えた。
「はい! 私を常識に囚われない人間にしてもらうために来たんです!」
彼女は東風谷早苗。少し前に妖怪の山に越してきた、現人神である。
アリスは、早苗の顔を見ながらすっと扉を指差した。指し示された扉では、人形がドアノブを掴んでいつでも開く事ができるよう待機している。
「帰ってくれないかしら」
「どうして?!」
心底不思議そうな顔で、早苗はそう叫んだ。
「そもそも何、常識に囚われない……って。貴方は何がどうなってそうなりたいの?」
10分ばかり頼み込んでも帰ってくれそうにない早苗に、アリスは諦め顔で、心底、とても、途方もなく嫌そうにそう尋ねた。
「決まってるじゃないですか。常識に囚われたままでは霊夢さんに勝てないからです」
「どうしましょう上海、この子の言ってる意味が全然わからないわ」
傍らの人形に視線を向けながらそう言うが、人形は係わり合いになりたくないとばかりにぷいっとそっぽを向いている。恐らくはアリスの深層(実際は、あまり深くはないかもしれない)心理がそうさせているのだろう。
早苗は自分に出されたものではないクッキーをアリスが飲んでいた紅茶で流し込み、頬を緩ませながらふぅと息をついて語りだした。
「アリスさん、私が先の騒動で霊夢さんにコテンパンにやられた事はご存知ですよね」
「えぇ。コテンパンかどうかは知らないけど霊夢がまた何やら異変を解決したのは聞いてるわ」
早苗が持っているティーカップを自分の元へと引き寄せながらアリスが答えると、早苗は一度こくりと頷き、どこか遠い場所を見ているような目で口を開いた。
「あれは酷い闘いでした。私は神社に侵入してきた彼女に、「貴方住居不法侵入で訴えますよ」と一言言ってやろうとしただけなのにあろうことかあの人は私の脛を蹴飛ばしてきたんです」
その時の事を思い出したような苦い表情で俯き、早苗はティーカップに口をつける。
「脛を……」
アリスはまたティーカップを取り返そうと手を伸ばすが、早苗の左手にぺちっと叩かれ、眉をぴくりと動かせながら断念した。早苗はクッキーをぽりぽりと齧りながら続ける。
「はい。脛をです。そして私がその痛みと戦ってる間に、気付けば八坂様はやられていました」
「貴方どれだけ痛みに弱いのよ」
「人間ごときにあっさりやられるなんて不甲斐ないですね八坂様は」
「貴方の方が百倍不甲斐ないわよ」
誤魔化すように紅茶を一気に呷り、大きく息を吐く早苗。空になったティーカップはようやくアリスの手元へ帰ってきた。
「そして私は思ったのです。人の顔を見るなり暴力を振るって人のパンツを剥ぎ取っていくような非常識な人間に対抗するにはこちらも常識を捨てなければいけないと」
「だからどうしたらそんな結論……パンツ剥ぎ取られたの?!」
「えぇ剥ぎ取られました。おかげでスカートの中がスースーして」
見る? とばかりにスカートの端を摘んで立ち上がる早苗をアリスは全力で椅子に座らせる。そしてまた妙な事をしださないよう、こっそりと人形を早苗の椅子の下に忍ばせた。
「違うの穿きなさいよ、なんで未だにノーパンのままなのよ」
「でも、これはこれでなんだか不思議と気分が高揚してくるんですよ」
「ただの変態じゃない」
「まぁそれはさておき」
両手で何かを横に置くような動作をしつつ、早苗はアリスに向かって身を乗り出した。椅子の下にいた人形が慌てて早苗のスカートがめくれないようその端のあたりの布を掴む。
「常識的なアリスさんが逆に考えれば常識から脱却する方法がわかるはずです。どうか私に常識の捨て方を教えてください」
「無理よ」
アリスは即答した。……ちなみに、鬱陶しいからとか面倒臭いからとか、そんな理由だけではない。
「えぇ?! そんな! もっとちゃんと考えてくださいよ妖怪の分際で!」
「貴方既に傍にいると眩暈がするほど非常識なのよ」
非難がましい視線を向けながらやたらとこちらを見下した言葉を吐いてくる早苗に向かって、アリスはそう答えた。朝っぱらから人の家にもぐりこみ、家主を叩き起こして茶と菓子を要求し、挙句パンツまで見せようとしてくる人間のどこに常識があるというのか。
早苗は、少しの間きょとんとした顔をしていたが、アリスの言葉の意味に気付くととたんに瞳をきらきらと輝かせた。
「やったー! これで霊夢さんにも勝てますよ! パンツ剥ぎ取ってやります!」
「貴方がどういう思考をしてるのかちょっと気になるわ。あとパンツはやめておきなさい」
「剥ぎ取ったパンツ、目の前で被ってやりますよ!」
「やめなさい殺されるわよ」
びっと親指を立ててそう宣言する早苗に、アリスが、今日初めての本当に心配そうな声色で忠告した。
「じゃあ今日はありがとうございました! 後で退治してやりますから首を洗って待っててくださいねこの妖怪風情が!」
最も、そんな事を叫びながら開いている窓から飛び出していった当の本人にはまったくもって伝わっていなかったようだが。
スカートの裾を危なっかしくひらひらさせながら飛んで行く早苗の姿を見送りながら、アリスはぽつりと呟いた。
「生きて帰れるかしらあの子……」
「ムリジャネーノ」
数日後、守屋神社境内にて。
「ふふふ、八坂様におねだりして特に起こす必要もなかった地下バスロマン異変を起こして貰って早数日。そろそろ私達が黒幕だと気付いた霊夢さんがここに攻め入ってくる時機ですね」
異様に自身に満ちた表情で早苗がそこに仁王立ちしていた。自身の根拠は先日のマーガトロイド邸での議論によるものだろうが、果たしてその議論自体、霊夢に勝てる根拠がまったく無いのは明白であろうか。
と、その時ふよふよと紅白の物体が境内に飛び込んできた。その物体は早苗の姿を見るなり、右手の御幣(巫女棒である)を振り上げた。霊夢だ。
「常識に囚われない私の弾幕をくらえー! 五穀豊穣ライスシャワー!」
殴られる前に先手を取ろうと、早苗は空中に米の雨を撒き散らす。
霊夢は空いている左手でそれを一粒ずつ掴んでは口に放り込み、ぽりぽりとおいしそうな音を口から漏らしながら早苗に近付き右手の巫女棒を一閃して早苗の前歯を叩き折った。
「ウギャァー!」
早苗は口から血を流しながら地面へと落ちて行った。
「ま、まさか弾幕を食べて近付いてくるなんて……」
早苗は知らなかった。食べれる弾幕は別に食べてもいいのだという事に。
再び敗北を喫した早苗は、哀れ頭から地面に直角に突き刺さり、グヘェと潰れたカエルのような声を漏らして動かなくなった。
ちなみに、パンツはもう無いので今度はさらしを剥ぎ取られたという。
窓を開けると、朝の陽射しと共に吹き込んできた爽やかな風が髪を撫でた。瞼を擦り、両手を上げて伸びをすると起きたばかりの眠気が若干和らいだ。
テーブルに着くと、台所から出てきた人形が、重さでふらつきながら紅茶を持ってきた。彼女はそれを受け取り人形の頭にそっと手を添えて優しく撫でる。
「ありがとう」
頭を撫でられた人形はどこか嬉しそうな足取りで(飛んでいるので足は動かしていないが)また台所の方へと飛んで行った。彼女はそれを見送りながら湯気の立つ紅茶を口に含んだ。
彼女の名はアリス=マーガトロイド。魔法の森に住む魔法使いだ。
ちなみに先の人形もアリスの魔法により動いており、いちいち礼を言ったりするのもアリスの自己満足、つまりはオナニーなのだ。朝からオナニーに耽るとはお盛んである。
「……ふぅ」
軽く息を吐き、アリスはティーカップから口を離す。そして、すっかり眠気の覚めた、見る者にややきつい印象を与える瞳をそちらに向けてこう言った。
「で、どうして貴方は朝も早くからこんな所にいるのかしら?」
そして、問われた彼女はこう答えた。
「はい! 私を常識に囚われない人間にしてもらうために来たんです!」
彼女は東風谷早苗。少し前に妖怪の山に越してきた、現人神である。
アリスは、早苗の顔を見ながらすっと扉を指差した。指し示された扉では、人形がドアノブを掴んでいつでも開く事ができるよう待機している。
「帰ってくれないかしら」
「どうして?!」
心底不思議そうな顔で、早苗はそう叫んだ。
「そもそも何、常識に囚われない……って。貴方は何がどうなってそうなりたいの?」
10分ばかり頼み込んでも帰ってくれそうにない早苗に、アリスは諦め顔で、心底、とても、途方もなく嫌そうにそう尋ねた。
「決まってるじゃないですか。常識に囚われたままでは霊夢さんに勝てないからです」
「どうしましょう上海、この子の言ってる意味が全然わからないわ」
傍らの人形に視線を向けながらそう言うが、人形は係わり合いになりたくないとばかりにぷいっとそっぽを向いている。恐らくはアリスの深層(実際は、あまり深くはないかもしれない)心理がそうさせているのだろう。
早苗は自分に出されたものではないクッキーをアリスが飲んでいた紅茶で流し込み、頬を緩ませながらふぅと息をついて語りだした。
「アリスさん、私が先の騒動で霊夢さんにコテンパンにやられた事はご存知ですよね」
「えぇ。コテンパンかどうかは知らないけど霊夢がまた何やら異変を解決したのは聞いてるわ」
早苗が持っているティーカップを自分の元へと引き寄せながらアリスが答えると、早苗は一度こくりと頷き、どこか遠い場所を見ているような目で口を開いた。
「あれは酷い闘いでした。私は神社に侵入してきた彼女に、「貴方住居不法侵入で訴えますよ」と一言言ってやろうとしただけなのにあろうことかあの人は私の脛を蹴飛ばしてきたんです」
その時の事を思い出したような苦い表情で俯き、早苗はティーカップに口をつける。
「脛を……」
アリスはまたティーカップを取り返そうと手を伸ばすが、早苗の左手にぺちっと叩かれ、眉をぴくりと動かせながら断念した。早苗はクッキーをぽりぽりと齧りながら続ける。
「はい。脛をです。そして私がその痛みと戦ってる間に、気付けば八坂様はやられていました」
「貴方どれだけ痛みに弱いのよ」
「人間ごときにあっさりやられるなんて不甲斐ないですね八坂様は」
「貴方の方が百倍不甲斐ないわよ」
誤魔化すように紅茶を一気に呷り、大きく息を吐く早苗。空になったティーカップはようやくアリスの手元へ帰ってきた。
「そして私は思ったのです。人の顔を見るなり暴力を振るって人のパンツを剥ぎ取っていくような非常識な人間に対抗するにはこちらも常識を捨てなければいけないと」
「だからどうしたらそんな結論……パンツ剥ぎ取られたの?!」
「えぇ剥ぎ取られました。おかげでスカートの中がスースーして」
見る? とばかりにスカートの端を摘んで立ち上がる早苗をアリスは全力で椅子に座らせる。そしてまた妙な事をしださないよう、こっそりと人形を早苗の椅子の下に忍ばせた。
「違うの穿きなさいよ、なんで未だにノーパンのままなのよ」
「でも、これはこれでなんだか不思議と気分が高揚してくるんですよ」
「ただの変態じゃない」
「まぁそれはさておき」
両手で何かを横に置くような動作をしつつ、早苗はアリスに向かって身を乗り出した。椅子の下にいた人形が慌てて早苗のスカートがめくれないようその端のあたりの布を掴む。
「常識的なアリスさんが逆に考えれば常識から脱却する方法がわかるはずです。どうか私に常識の捨て方を教えてください」
「無理よ」
アリスは即答した。……ちなみに、鬱陶しいからとか面倒臭いからとか、そんな理由だけではない。
「えぇ?! そんな! もっとちゃんと考えてくださいよ妖怪の分際で!」
「貴方既に傍にいると眩暈がするほど非常識なのよ」
非難がましい視線を向けながらやたらとこちらを見下した言葉を吐いてくる早苗に向かって、アリスはそう答えた。朝っぱらから人の家にもぐりこみ、家主を叩き起こして茶と菓子を要求し、挙句パンツまで見せようとしてくる人間のどこに常識があるというのか。
早苗は、少しの間きょとんとした顔をしていたが、アリスの言葉の意味に気付くととたんに瞳をきらきらと輝かせた。
「やったー! これで霊夢さんにも勝てますよ! パンツ剥ぎ取ってやります!」
「貴方がどういう思考をしてるのかちょっと気になるわ。あとパンツはやめておきなさい」
「剥ぎ取ったパンツ、目の前で被ってやりますよ!」
「やめなさい殺されるわよ」
びっと親指を立ててそう宣言する早苗に、アリスが、今日初めての本当に心配そうな声色で忠告した。
「じゃあ今日はありがとうございました! 後で退治してやりますから首を洗って待っててくださいねこの妖怪風情が!」
最も、そんな事を叫びながら開いている窓から飛び出していった当の本人にはまったくもって伝わっていなかったようだが。
スカートの裾を危なっかしくひらひらさせながら飛んで行く早苗の姿を見送りながら、アリスはぽつりと呟いた。
「生きて帰れるかしらあの子……」
「ムリジャネーノ」
数日後、守屋神社境内にて。
「ふふふ、八坂様におねだりして特に起こす必要もなかった地下バスロマン異変を起こして貰って早数日。そろそろ私達が黒幕だと気付いた霊夢さんがここに攻め入ってくる時機ですね」
異様に自身に満ちた表情で早苗がそこに仁王立ちしていた。自身の根拠は先日のマーガトロイド邸での議論によるものだろうが、果たしてその議論自体、霊夢に勝てる根拠がまったく無いのは明白であろうか。
と、その時ふよふよと紅白の物体が境内に飛び込んできた。その物体は早苗の姿を見るなり、右手の御幣(巫女棒である)を振り上げた。霊夢だ。
「常識に囚われない私の弾幕をくらえー! 五穀豊穣ライスシャワー!」
殴られる前に先手を取ろうと、早苗は空中に米の雨を撒き散らす。
霊夢は空いている左手でそれを一粒ずつ掴んでは口に放り込み、ぽりぽりとおいしそうな音を口から漏らしながら早苗に近付き右手の巫女棒を一閃して早苗の前歯を叩き折った。
「ウギャァー!」
早苗は口から血を流しながら地面へと落ちて行った。
「ま、まさか弾幕を食べて近付いてくるなんて……」
早苗は知らなかった。食べれる弾幕は別に食べてもいいのだという事に。
再び敗北を喫した早苗は、哀れ頭から地面に直角に突き刺さり、グヘェと潰れたカエルのような声を漏らして動かなくなった。
ちなみに、パンツはもう無いので今度はさらしを剥ぎ取られたという。
後半はやや別所向けな感じがしてギャグとは思えない不快さがあります。
ティーカップの部分で少しクスリとしただけに後半はがっかり。
次回作に期待しています。
以後気をつけます。
依姫「霊夢は私が育てた」
おもしろけりゃそれでよしな俺は
あえてこの点数を選ぶぜ!