Coolier - 新生・東方創想話

うんざりする話

2009/11/08 22:00:01
最終更新
サイズ
5.16KB
ページ数
1
閲覧数
975
評価数
2/19
POINT
770
Rate
7.95

分類タグ

──博麗神社の朝は早い

5:58

「……zzZ」

5:59

「……ん~」

6:00

ゴッ!

「へぶっ!?」

鈍い音が神社に響く。神社の巫女、博麗霊夢は頭の痛みにまかせて勢いよく飛びあがった。
横には普段棚の上に置いてあるはずの陰陽玉が転がっている。おそらくこれを投げつけられたのだろう。

「~~カナっ!!」

霊夢が頭を押さえながらそう叫ぶと、何も無いはずの天井からすぅっと少女が浮かんできた。
カナ・アナベラルは謝るまでもなく、けたけたと笑いながら霊夢を見下ろしていた。

「祓われたいのかしら?それとも成仏したいの?」

霊夢が悪態をつく。カナはそれを一瞥するとまた、嘲笑を浮かべながら先ほどと同じように天井に消えてしまった。

「あんの騒霊め……」

ぶつぶつ言いながら立ち上がり、着替えを済ます。
今日もまた何もない一日が始まるのだろう。
そのことに霊夢は少し、ほんの少しだけうんざりした。
別に退屈は嫌いではない。そもそも日常の起伏に、大して興味などないのだ。
だから好きも嫌いもそこには存在しない。霊夢はあらゆる事象に興味を持たないきらいがある。
それが異変であろうと他人であろうと。
霊夢を動かすのはそれが自分にとって迷惑か否か、
若しくは幻想郷の巫女としての使命、この二つのみである。
しかし霊夢も一人の人間、それもまだ若い少女だ。
何も変わらない日常に多少うんざりする程度の感情は持ち合わせている。


ふぅ、と息をつきとりあえず毎朝の日課である境内の掃除に向かった。
といっても境内をきれいにしよう、という気はさらさらない。
ただ単に眠気覚ましに身体を動かそうというだけだ。
それに霊夢はこの透き通った朝の空気が好きだった。
適当に箒を左右に動かし、落ち葉を払う。
ある程度済んだところで茶を入れに一旦中へ戻る。

「朝から精が出るねぇ」

「何の用よ」

いつの間にか背後に現れた少女が霊夢に語りかけた。

「別に。すこぉしつまらなそうにしてたからさ、話しかけてやったわけ」

「くだらないこと言ってるとまた封印してやるわよ、魅魔」

「おおこわいこわい」

そう言うとくるりと背を向き、茶化すように手をひらひらとさせながら魅魔は奥の方へ消えた。

「つまらなそう、ね」

気にしない様子で霊夢は台所へ向かった。慣れた手つきで茶をさっと沸かす。美味しいお茶の入れ方なんて知らない。
とにかく入れられればそれでいい、と霊夢は考えていた。しかし少し前に悪魔の館のメイドが神社を訪ねた時に

『なんでそんな入れ方であんなに美味しいお茶が入れられるのかしら。不思議ねえ』

と言われた。正直不思議と思われるほうが不思議だ。心外である。
湯呑みと茶菓子を二人分用意する。もう少しで来客が来る時間だろう。
それぞれ盆に載せ、縁側に向かうとかすかに風切り音が聞こえた。
目線を上げると箒に乗った典型的な魔女が下りてくる所だった。

「よう」

「ん」

お互いに一言のみ、という短い会話を交わすと霊夢は客人に茶を差し出した。

「さんきゅ。気が利くな」

「いつものことだからね」

茶を受けっとった魔理沙はそのまま霊夢の隣に座った。

「……暇だな」

「いつものことだからね」

二人の間に沈黙が流れる。それは決して重苦しいものではなく、静かな空気が存在するだけの空間。
やがて魔理沙が口を開いた。

「そういえば」

「何」

「ここに来るちょっと前に狐がこっちへ向かってるのを見たんだが……何の用だったんだ?」

「狐?……ああ、多分結界の修復にでも来てたんでしょ。朝からご苦労なことね」

「あそっか結界か……」

「ここは境界だから、綻びも多いのよ」

「綻び、ねぇ」

「一日中見張ってれば人一人分くらいの隙間は空くんじゃない?」

「なんだよ、私が外へ出たがってるとでも思っているのか」

「違った?」

「大正解だ。あーあ、いつぞやの教授の船に乗せてもらえばよかったかな」

「船ならそこら辺に飛んでるじゃない」

「私が行きたいのは魔界じゃなくて外だ。いや魔界にも行きたいがな」

「ふうん。随分アクティブなのね。魔女のくせに」

「好奇心の高さは魔女故だぜ」

ずず、と魔理沙は受け取った茶をすすった。
その目線は話相手ではなく真っ直ぐ鳥居、いや、その先に向けられていた。
霊夢はそれに気付いていたがあえて指摘せずにいた。

「退屈そうだな、霊夢」

魔理沙が口を開く。

「それ、あんたの師匠にも言われたわ」

「もううんざりって顔だ」

「別に何をどうしたいって訳でもないんだけどねぇ。もう少し信仰は欲しいけど」

「飽きたんじゃないのか?色々とさ」

「何に飽きたって言うの」

「だから色々だよ。色々。妖怪とか、巫女とか、異変とか」

「……」

「図星か」

「飽きるとか、そういうもんじゃないでしょ。あんたが挙げたのは」

「それ自体がどうこうじゃないだろ。お前自身がどう感じるかだ」

「……くだらない」

「そうだな、くだらない」

太陽はすでに真上に浮かんでいた。秋の乾いた風が二人の間を通り抜け、
掃除したはずの境内に落ち葉が舞う。里の方から収穫を祝う祭りの音が聞こえた。
豊穣の神は今頃大忙しだろう。
ふいに魔理沙が立ち上がった。

「今日はこの辺でお暇するぜ。茶、馳走になった」

「いつものあれはいいの?」

「色々やることがあるんでな」

「今の私になら勝てるかもしれないわよ」

「魅力的な話だが、遠慮しとくぜ」

「そ。じゃ、またね」

「おう、またな」

そう言い残すと、魔理沙は箒に跨り里の方へ飛んで行った。

「……」

魔理沙が飛び去った後も、霊夢はしばらく縁側から動かなかった。
今の神社は霊夢一人しか居ない。悪霊も、騒霊も、鬼も、猫もどこかへ出かけているようだった。

「……ご飯の支度しなくちゃ」

霊夢が奥へ引っ込む。どこかで朱鷺が鳴いた気がした。






翌日、普通の魔法使い霧雨魔理沙は行方をくらました。






天狗の取材に応えた博麗霊夢はこう一言だけ残した。

「……飽きたんでしょうよ。色々と、ね」




──博麗神社の朝は早い
神社の巫女、博麗霊夢はいつも通りの時間に起き、いつも通りの支度を終え、
またいつも通りの日常が来ることに──やはり少しうんざりした顔をするのだった。
初投稿。
神社の一日をテーマにして書き始めたはずなんだけどなぁ……
プロットって大事ですね。
わおん
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.670簡易評価
4.50名前が無い程度の能力削除
んー……コレ続きものですか?

だったら期待して待ってます。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
んー…続くのですよね?
とりあえずフリーで
12.50名前が無い程度の能力削除
魔理沙「ちょっと魔界行ってくる」
続編希望