Coolier - 新生・東方創想話

秋を取り戻せ!(終)

2009/11/07 04:41:27
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「どおぉおおおおおおおりゃあああああああああぁぁぁぁーーーーっ!!」

 里に穣子の渾身の雄たけびがこだまする。
彼女は小雪の舞い散る中、鬼も戦くような形相とともに、ものすごい勢いで稲を刈っていた。

結局、彼女はあの後、自分自身も手伝うという術を選んだ。
始めこそは、てきぱきと和やかな雰囲気で作業をしていたが、やってるうちに実り神魂に火がついたのか、近くで作業をしてる者を押し飛ばし始める。
そして、雪がちらついてきたのを確認するや否や、彼女のボルテージは一気に最高頂点へと達した。今や彼女を止められる者はいないだろう。文字通り暴走である。

しかし勢いこそあるものの、その仕事ぶりは極めて丁寧かつ正確無比なものだった。
まず左手で稲を鷲掴みし、右手に持つ稲刈り用の鎌をざくっとすばやく引き上げる。引き上げるその角度は、一寸の狂いもない鋭角45度。次にその刈り取った稲を、落ちてる藁で手早く束ねると袋に詰め込む。本来ならばここは袋にしまわずに稲機にかけて干すのだが、なにしろ天気が天気なので、とりあえず今は袋にしまっておくことにしたのだ。その一連の作業を、彼女は目にも見えない速さでこなしていた。これぞまさに神業。彼女が刈り取った後には、稲は勿論、藁一つすらも残っていない状況だった。

そのあまりの迫力と、精密機械の如き仕事っぷりに、周りにいた男たちからは「神様の皮をかぶった鬼じゃ!」とか「あれが噂に聞く全自動稲刈り鬼か」とか「もう、俺たちいらなくね?」などとボソボソ話す声すら漏れ始める。
そのときだ。

「おまえたち! あい待たれよ!」

脇で様子を見ていた村の長老が口を開く。彼はまわりの者たちに言った。

実り神様が、あそこまでしてくれているのも、総て、里の者を思うが故なのだ。神様がじきじきに手を貸してくれるなんて、そうそうにありえないことであり、我々は幻想郷で一番の果報者に違いあるまい。今、自分たちができる事は、神様を見守る事だ。しからば最後まで見届けようではないか。皆で穣子様の達成のその瞬間を!

長老の一声に賛同した里の者たちは、一致団結して、穣子を見守り始める。中には祈りをささげる者や感極まって涙を流す者もいた。




その様子を傍から見ていた文は思わずつぶやいた。

「……あなたたちも、少しは手伝いなさいよ」
 


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 空はどこまでも青く青く澄み渡っていた。雲は一つもないというと嘘になるが、少なくとも上空には一つもない。その代わり、眼界には、どこまでも果てしない雲の海が広がっていた。そして、その雲海からはそそり立つような岩が顔を出し、その岩肌を見たこともないような白い花が真っ白に染め上げていた。
ここは天界。文字通り雲の上の世界だ。秋静葉は、今、その天界の真っ只中にいる。

「……なるほどね。ここが天界……噂には聞いてたけど、想像以上の場所のようだわ」

下界と違って空気は限りなく済んでいるし、果てがないのではないかと思うほど、遠くまで良く見える。桃源郷。まさにその言葉がぴったりと当てはまる場所だ。
天界にも種類があるらしいが、そんな事、静葉にとってどうでもいいことだった。

「とても静かでいいところね…………こんなところに住めたら最高なのだけど」

ふと、静葉は辺りを見回す。そしてお目当てのものがないと知るや、残念そうに一つ息を吐いた。

「だめね。ここに私は住めないわ」

彼女が探したのは木だった。というのも地上は今、秋であり(異変で冬になりかけてはいるが)当然、木々は赤や黄色に染まっている。しかし、この天界には見渡した限りそれらしいものはない。木々がない。すなわちこの天界には四季がないらしいということを彼女は、神様故の直感で感じ取った。
紅葉の訪れない場所に紅葉神がいる意味はない。つまり、非常に口惜しいが自分はここに住む事はできないということだ。

……いや、待てよ。それならば、秋のときだけ地上に降りて、それ以外をここで暮らせばいいんじゃないのか。
そうすれば、わざわざ、寒い冬を越え、麗らかな春をやり過ごし、つらい夏を耐える必要もないのではないか。
うん、我ながら実に名案だと、彼女は思わずニヤリと笑む。

「騒ぎが解決したら、一度、穣子も連れて来ましょう。きっといい気晴らしになるわ」

幻想郷は、これから冬を迎える。冬になると秋姉妹たちは力をほとんど失い、気分も暗くなる。そしてその傾向は、どういうわけか自分よりも妹の穣子のほうが顕著に現れ

るのだ。だが、ここに来れば少しは、彼女の気分が和らぐはず。そのためにも早くこの異変を解決させなくてはいけない。

「さて……話によると、ここにいたはずだけど……」

今、静葉の周りには生憎、誰もいる様子はなかった。
仕方なく彼女は天界をしばらく歩く。天界は予想以上に広く、しかも似たような風景が延々と続いていた。

「おかしいわね。ここには天人が住んでるはずだけど……」

そのとき、ふと目の前の岩場に人影があるのを見つける。お目当ての天人だろうか。まぁ、お目当てのじゃなくても、道を尋ねたりはできるはずだ。
その天人は、石にもたれて、遠くを眺めているように見えた。

「ちょっとお尋ねするわ。ここら辺に天気を自在に操れる者がいるって聞いたんだけど、あなた御存知かしら?」

静葉の問いかけに、その者は、うつろな目を彼女に向ける。右手にはお酒の瓶が握られている。どうやら酔っているらしい。

「……なぁ~に? それもしかして、私のことかしら~?」

酔いどれ天人はそう言って、ふらりと立ち上がる。どうやらかなり酔っているらしい。

「あら、じゃあ、あなたなの? ヒマナシ テンテン とかいう天人さんは」
「あぁ~? 誰よそれ……いい!? 私の名前はぁー。しななゐ てんし! わかった?」

そう言って、てんしと名乗った天人は視点の定まってない目で静葉を睨んだ。微妙に呂律も回っていないようだ。

「あらあら、しなないって事は不死身さんなのね?」
「う~……不死身じゃないけど、まぁそんあとこよ。ところであんたも呑む?」
「いえ、結構よ。急いでるから」
「ふ~ん。せっかくいいお酒手に入ったのに。ところでぇ……あなた、地上の神様でしょ? こんなとこに何しに来たの?」
「ちょっと容疑者Bを探しにね。容疑者Aは犯人じゃなさそうだったので」
「ふ~ん? 物騒ねー。ここは平和らからねぇ~。それでなくても何にもなくて暇あのよー」

そう言って赤ら顔の彼女は、にやにやと笑う。静葉は彼女に言う。

「……あなたのことなんだけど?」
「ふーん? ねぇ、それより聞いてよー。ちょっと悪戯しただけなのにものすごーくおこられたのー」
「ねえ、あなた天気を操られるんでしょ?」
「いいえ、私はノーテンキ、でも親は短気なのー。ひどいとおもわないー? もう呑まなきゃやってられないわよぉー」
「……」

彼女は相当泥酔してるようで、まるで話にならない。
思わず静葉は額に指を当ててため息をつく。
その後も二人の会話は、続いたが、やはりまったく噛みあわなかった。



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 あいつ、八雲紫は、お昼の用意をしてるところに突然現れた。いつもながら見事な神出鬼没っぷり。
そしておもむろに、今、外が雪降りかけてるのは、異変のせいだと告げてきた。

異変解決なら私、博麗霊夢の出番。だけど、あいつは去り際にこんなことを言い残した。

「たまには人間らしく己の欲のために、異変を解決してみたらいかが?」

欲のために異変解決ね……。別に今までも、全然欲出してなかったわけじゃないんだけど……。
でもま、せっかくだし今回はあいつの言う通りに、自分のためだけに異変解決してみましょう。

そう、お賽銭を増やすために!

異変を解決すれば私の信仰が上がるわ。そしてこの神社に訪れる人も増えるはず。そうすればお賽銭もたくさん手に入るってわけよ!

特に今回の異変は、里の人々の生活に直接関わるわけだし、これを見逃さない手はない!

……ということで、私はちょうど、神社の庭を飛んでいた妖精を、出会い頭にぶっ飛ばした。
怪しい奴を片っ端から退治していく。それが私流の異変解決方法。
よく見るとその妖精は、いっつも氷精とつるんでいる妖精だった。なんでもその氷精が行方不明で探してる最中だったらしい。
まったく、今はあんたたちのかくれんぼなんかに付き合ってる暇はないのよ。よそへ行きなさい!

神社の境内を出て森の近くに行くと、魔理沙と出合った。話を聞くと彼女もこの異変解決に向けて調査を始めたところだったとか。冗談じゃないわ!
私は問答無用であいつを大人しくさせた。これは当然のこと。だって今回の異変は私のための異変なの! あんたは家で大人しくキノコでも齧ってればいいのよ。

森を抜けたところで、今度は古明地こいしと遭遇。今回の異変とは直接関係なさそうだけど、こいつも妖怪だし退治しておくに越した事はないわね。
なんて、軽い気持ちで挑んだものの、流石にこいつは強かった。それでもなんとか撃退に成功する。
そう、私は負けるわけには行かない。今ここで負けたらお賽銭がパーになっってしまうもの!!

こいしとの戦闘中に、怪しい鴉天狗を発見したので、ついでに弾幕を放ってみたら、ものすごい勢いで逃げ出した。本当に怪しいから追いかけてみたけど、結局逃げられてしまった。流石、幻想郷最速を名乗るだけはあるわね。まぁいいわ。そのうち出会う気がするから、そのときに退治しましょう。

さて、次は……そうね。雲が流れてきた妖怪の山の方に行ってみようかしら。 なんとなく怪しい気がするのよね。
それじゃ、いくわよ! さあ、待ってなさい。私のお賽銭!


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 一方、里では、収穫が無事に終わり、寒さをしのぐために皆で近くの小屋に集まって、お酒を飲んだりして体を温めていた。
皆は輪状に座り、その中心には穣子の姿がある。彼女は、皆と一緒に談笑をしたりしていたが、里の者達の表情は、不安そうだった。
それもそのはずだ。なにしろ、これから寒波がやってくるのだ。果たしてその寒波が、どの程度の規模ものなのかも分からない。当然、雪をしのぐ準備等もまだ終わってない。もしかしたら大雪で家が潰されてしまうかもしれない。そう考えると、心配するなと言う方が無理な話なのだ。
穣子は、ふと立ち上がり皆に向かって告げた。

「みんな、知っての通りこれから寒波が、この里にやってくるわ。 実際に、外はもう雪が降り始めてる。……だけど心配しないで! というのも、この雪は何者かが降らせてる可能性があるのよ! こんな雪なんか、この秋穣子様が必ず止めてみせるわ! だから皆、あと少しだけ辛抱してね」

そう言って穣子は、人の輪をふわりと飛び越え入り口へと向かう。里の者は、皆こぞって彼女に言葉をかける。

「穣子様! おねがいします!」
「穣子様! ぜひとも、この雪を止めてください!」
「穣子様! お気をつけて!」

皆の言葉に対して穣子は振り向き、笑みを浮かべる。

「みんな、ありがとう。ええ、絶対止めてくるわ。そしたら、皆で祭りでも開きましょう!」

彼女の言葉を聞いた人々から歓声が上がる。そしてそれはすぐに『穣子様』の合唱と手拍子へと変わった。酒も入っていたのでノリがよかったと言う事もあるのだろう。
穣子は、振り返り小屋の戸を開け、賑やかな小屋の中から、雪が吹きすさぶ外へと出る。外はすでに寒風が吹きあふれ、雪が吹雪へと変わりつつあった。
彼女は口を真一文字に結んだまま、寒風に吹き付けられている。里の皆のため、何より秋を取り戻すためにも頑張らなければならない。こんな雪なんかには負けてられないのだ。

「やあ、そっちは片付いたようですね」

気が付くといつの間にか、文の姿があった。

「ええ。おかげさまでね」
「ずいぶんと活躍していたようですね。思わず写真に収めちゃいましたよ。是非、新聞の記事にしたいと思います」
「……それはありがとう。でも本番はこれからよ!」

穣子はそう言って空を見上げる。

「ええ、そうですね」
「ところで何か情報はあったの?」
「はい、私が今持ってる情報からしますと、犯人として可能性が高いのは、河童の河城にとりですね」
「あれ? それって文さんの親友じゃ」
「……ええ、まぁ、そうです。何でも彼女は数日前から、いつも顔を出しているお店に来なくなっているということで。更に彼女が氷精のチルノを連れて歩いているところを目撃したという証言もありまして……実際チルノも現在行方不明であるということです」
「と、いうことは、つまり、その河童が氷精を利用して、この寒波を起こしたって事?」
「ええ、その可能性が高いですね」
「なるほどね! よし、じゃあ、早速行きましょうか! そいつの住処とやらへ!」

二人は夕闇の空へと飛び上がり、妖怪の山へと向かう。
寒風がちょうど逆風となるために飛ぶ速度はいつもより遅かった。

「……そういえば、誰か忘れてるような気がするんですが」

ふと文が、穣子に言う。

「ん? 誰って、誰のこと……」

そのときだ。二人に向かっておびただしい数の弾幕が襲い掛かってきた。二人はすばやく切り返して何とか避ける。

「ひえー!! 何よ!? 何よっ!?」

文は手をぽんと叩いて、思い出したように言う。

「そうでした! 巫女ですよ! 彼女が何故か暴れているんです」
「なんですって!? それはある意味異変より恐ろしいじゃない!」

言ってる側から弾幕が雨あられと二人に降り注ぐ。ただでさえ逆風で精一杯なのに、今の状態ではとても弾幕を避けながら飛ぶなんてできそうもない。

「うっひゃーーー!? こりゃ本気で潰しに来てるんじゃないのっ!? あいつ!」
「穣子さん。先へ行ってください。ここは私が、おとりになりますよ」
「え!? でも……そんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。私を誰だと思ってるんですか? ……それに彼女にはさっきから追いかけられているんです。どうやら私に用があるようなんですよ」
「分かったわ! それじゃ後で会いましょう!」
「活躍を期待してますよ! いい記事を書かせてくださいね」

そして二人は二手に分かれる。文は、うまく霊夢をおびき寄せるように旋回し、その隙に穣子はにとりの住処へと向かった。



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「……すっかり時間を食ってしまったわね」

 静葉は肩をとんとんと叩きながら、疲れた表情で夜の妖怪の山の中を進んでいた。山の中はもう既に雪が大分積もっていた。

あの後、彼女は酔いどれ天人の相手を延々と続けた。会話が会話として成立しないディスコミュニケーションの嵐の中、静葉はやっとの思いで、知りたい事を聞き出す事に成功する。結局、あの天人が持ってる力では地上に大雪を降らせることは不可能との事だ。それを知れればもう彼女に用はない。静葉は、天子を放って地上へと降りた。
彼女が地上に降りたときは既に辺りは夕闇に包まれ、寒波の勢いもかなりのものになっていた。
ほぼずっと同じ景色の天界にいると、時間の移り変わりがわからなくなるものだ。どうやら相当な時間のロスをしてしまったようだ。
下界に降りた静葉は、秋度を補給するために自分の家に向かおうとしていた。そのときだ。上空の方でなにやら轟音が響いたかと思うと、何かが落ちてくるのが見えた。

「あら、あれは」

彼女はそばまで近寄ってみる。するとそこにはぼろぼろになった文が倒れていた。

「誰かと思ったら新聞屋さんじゃない。大丈夫?」
「あやや、油断しましたね……って、誰かと思えば静葉さんじゃないですか」

彼女は、ぼろぼろではあったものの思いのほか元気そうだった。
そして静葉は、文から今までのいきさつを聞かされる。

「へえ。じゃあ、そのあなたの友達の河童さんが怪しいって事で、穣子はそっちの方に向かって、あなたは異変の解決に乗り出した巫女に撃墜されたということなのね」

静葉は確認するようにそう言うと、ふうと一つ息を吐く。

――まったく穣子ったら、相変わらず無鉄砲なんだから

思わず心の中でつぶやく。
大した用意もせずに、たった一人で敵陣に突入するなんて、静葉からすればとても考えられない事だった。相手はどんな策を用いてくるかわかったもんじゃない。ましてや兵器の扱いに長けた河童だ。本当ならばしかるべき準備をしてから乗り込むものなのだ。しかし、彼女が一人で乗り込んでしまった以上、そんな事も言ってられない。

「……それじゃ、私も河童さんの住処に行くとしましょう。ところで、あなたはどうするの?」
「あ、私ですか? そうですね。後から追いかけますよ。ちょっと家に寄って補充したいものもありますから」
「なるほどね。ま、あまり期待はしないわ」
「そう言ってもらえると、ありがたいです。あ、そうそうちょっと耳を貸してくれますか?」
「なにかしら?」

静葉は言われたとおりに彼女に耳を差し出す。すると文は、急に、表情と口調を変えて彼女に耳打ちする。

「……というわけよ。お願いしていいかしら?」
「ええ。わかったわ。まかせてちょうだい」

静葉はそう言ってはっきりと頷くと、文と別れて穣子の後を追いかけた。


 その頃、穣子は一足先に、河童の住処へと到着していた。

「ひゃー……」

思わず驚きを口に出した彼女の眼下には、河童達が作った工場や施設が広がっている。それは絶えず稼動をしているのか、大きな駆動音らしきものを辺りに響かせていた。更に照明らしきものが、その施設の周りを明るく照らし出しているのも相まって、なにやら辺り一帯、物々しいオーラを放っている。普段こういうのを見慣れない穣子にとっては、それは禍々しい以外の何ものでもなかった。

「こんな不気味なもの建ててどうしようってのかしら……やっぱり河童の考えている事は分からないわねぇー」

彼女は、そんなことをつぶやきながら辺りを見回す。そのときだ。彼女の目に、ひときわ大きい建物が飛び込んでくる。しかもよく見ると、その建物は大きな煙突があり、その煙突の先からは白い煙がもくもくと空へ向かって放たれている。そしてその雲は空を覆う雪雲へと連なっているのが見えた。

間違いない。あの建物が今回の元凶だ。穣子はそう思うや否や、すかさずその建物の敷地内へと入り込んだ。敷地内は流石に、寒波の根源とだけあって完全に凍結しきっていた。穣子は建物の周辺をぐるっと回ってみたが、入り口らしきものは見つからなかった。
姉なら、きっとここで入り口を根気よく探すのだろうが、生憎、自分はそんな気長ではない。彼女は有無を言わさず近くの壁に弾幕を打ち込む。すると、あっけないくらい簡単に穴が開いた。見た目とは裏腹に実は凄く脆いつくりなのかもしれない。ともかく彼女は、建物内へと侵入した。

 彼女が侵入した先は大きな空間のようになっていた。と言うか建物の内部自体が大きな空洞となっていたのだ。そしてその空間の真ん中には、にび色の鈍い光を放つ、大きな焼却炉のようなものが居座っていた。その焼却炉のようなものから例の煙突は天へ向かってそそり立っていた。

「よし! アレを壊せばいいのね!」

穣子は、そのにび色の炉に向かって弾幕を放つ。
そのときだ。
炉の方から弾幕が撃ち返され、彼女の弾幕は相殺されてしまう。
何が起きたか理解できなかった穣子の前に突如、河童が姿を現す。

「いきなり何するんだよ!」

その河童――河城にとりは、腕組みをして、穣子の方を見ている。

「……そこの河童! あなたが、今回の騒ぎの元凶なのね! 秋を返してもらうわよ!」
「もう、諦めなよ。今年の秋は終わったんだよ」
「冗談じゃないわ! 妖怪ごときに秋を終わらされてたまるもんですか! 大体なんで無理やり秋を終わらせる必要があるってのよ!」
「私の実験のためよ。そのために秋には死んでもらったんだよ。実験には多少の犠牲はつきものなんだ。秋の神様には悪いけど、どうかここは……」

「ふざけんじゃねーよ! そんなんで納得できるわけねーだろーが!!」

穣子の怒声とともに、彼女の腰の据わった鉄拳が、にとりの顔面に炸裂する。まともに食らったにとりは、きりもみしながら吹き飛び壁へ叩きつけられる。
それでも彼女の怒りは収まらず、目を座らせたままにとりの方を鋭く睨みつけた。

「あんた一人のせいで、幻想郷をめちゃくちゃにされてたまるかっつーの! 問答無用よ覚悟しろ!」

対するにとりは、顔を手で抑えながら、ふらふらと立ち上がった。あれだけしたたかにぶん殴られたにも関わらず彼女の顔面は、少し赤くなった程度で済んでいた。どうやら河童と言う種族は体が頑丈らしい。

「……あいたた。くぅー。よくもやってくれたな!? 覚悟するのは、お前の方だ! 河童を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる!」

そう言うと彼女の姿が忽然と消える。穣子は一瞬自分の目を疑ったが、そういえば河童は、自分の姿を自在に消す事ができる、コーガクなんとかという技術があるのを思い出す。

「ふん、姿が消せるくらいで、私がビビるとでも思ったかしら!? それくらいそこら辺の妖怪だって出来……」

そのとき彼女の目の前に、再びにとりが姿を現す。その姿を見て穣子は思わず絶句する。にとりは全身と言う全身を、なにやらごっつい鉄の塊で被っていた。その様子は、彼女が昔、読んだ事がある外の本に登場した、ぱわーどすーつ とかいうものにそっくりだった。

「ちょっと、なによそれ!?」
「へっへ~。こんなの見たことないだろ!? 教えてやる! 河童の科学力は幻想郷一だって事を!」
「ふ、ふんだ。どうせ、そんなの見掛け倒しでしょっ!?」

怯まずに穣子は、にとりに向かって、弾幕を放つが、彼女に届く前に弾幕は、すべてかき消されてしまう。

「あれ?」

穣子はもう一度、今度はさっきより強力な弾幕を放つが、やはりすべてかき消されてしまった。

「ちょ、ちょっと! なんで当たらないのよ!?」
「バリヤーっていうやつだよ。知らないのかい? こいつを張れば、あらゆる攻撃を無効化する魔法の壁さ」
「なんですって……!? そんなのどうやって倒せばいいのよ!」
「だから、お前にゃ私を倒す事は出来ないのさ! 次はこっちから行くよ!」

にとりは、がちゃりがちゃりと音を立てながら背中の方から砲身を展開させる。

「いっけぇー! キューカンバーミサイル発射!」

彼女の掛け声とともにその砲身から弾が、猛スピードで発射される。

「うぎゃあああっ!! 危なっ!?」

穣子はたまらず上空に飛んで避ける。そのままミサイルは地面へ着弾し爆発する。
それを見たにとりは思わずほくそ笑んだ。

「ひっかかったな! さあ、食らえ!」

次の瞬間、そのミサイルの当たった場所から、上空に向かっていくつものレーザー型弾幕が発射される。

「なっ!? そんなの聞いてないわよっ!?」

まずい、と思ったがとき既に遅し、不意をつかれた穣子は、レーザーを避けきれず被弾して地面へと墜落した。

「さあ、このままトドメさしてやる」

そう言ってにとりは、間髪入れずにそのアーマーを着たまま空中をすべるようにさせて、地面に倒れたままでいる穣子のそばまでやってくると、その砲身を彼女に向かって定める。穣子にはもう、抗うだけの力は残されていなかった。やっぱり自分なんかに異変解決は無理だったのかと、思わず彼女は後悔する。が、今更言っても後の祭りだ。

「こんな事して、ただで済むと思うんじゃないわよ……!?」

穣子はそう吐き捨てると覚悟を決めて、目をぎゅっと閉じた。








「そこまでよ! 河童さん!」

不意に、聞き覚えのある声が彼女の耳に入ってくる。思わず顔を上げるとそこには静葉の姿があった。

「姉さん……!?」
「待たせたわね。穣子」
「遅すぎよっ! もう見ての通りぼろぼろよ!?」
「あらあら、無様ね。 でも自業自得よ。穣子。何も備えもせずに敵地に乗り込むなんて。いい? 勇敢と無謀は違うのよ。あなたの場合は無謀よ?」
「……来て早々、姉さんの小言なんか聞きたくないわよっ。もう」

穣子は地面にはいつくばったまま、不機嫌そうに頬を膨らます。

「さて、それはそうと……」

穣子は腰に手を当てて、にとりの方を見やる。一方のにとりは、静葉をじろっと一瞥すると、面倒と言った様子で舌を鳴らす。

「お前も、そこの奴と同じ神様だな?」
「いかにも。紅葉を司る神。秋静葉よ。ちなみに、そこで這いつくばっているのは私の妹よ」
「ふーん。じゃあ、お前も邪魔するのかよ」
「ええ。悪いけどそうさせてもらうわ。秋を守らないで秋の神様なんて言えないもの」
「どいつもこいつも! それじゃお前も、そこの奴みたいにぎったんぎったんにしてやるだけさ!」

そう言ってにとりは静葉に向けて砲身を定めなおす。静葉は微動だにせず、にとりに対し凛とした視線を送り続けている。

「乱暴はおやめなさい。こう見えても私は、どこぞの暴力で物言わせる巫女とは違って、穏健派なのよ。だいたい神様である私達に対してそんなことしても無駄なのは、あなただって分かってるでしょ? 例え、あなたにその兵器でぎったんぎったんにされたって、少ししたらすぐに復活する出来るのよ」
「ふん、……そんときは、また返り討ちにするだけさ! 私の邪魔する奴は誰だろうと許さない!」
「落ち着きなさい。河童さん。いえ、河城にとりさん。本当のあなたは闇雲に環境を乱すような妖怪じゃないんでしょ? あなたの親友の鴉天狗さんが言ってたわよ。あなたがこんな事をするなんて、きっと何か理由があるはずってね」

静葉の言葉を聞いたにとりの動きが思わず止まった。

「文が、そんな事言ってたの……?」
「ええ、そうよ。彼女はあなたのことを本気で心配してたわよ? 彼女とは、付き合い長いんでしょ? あなたは自分の行いのせいで親友を失っても平気なほど強い妖怪じゃないんでしょ? 自分の実験のために苦しんだり悲しんだりする人がいても平気でいられるような、身も心も冷たい妖怪じゃないんでしょ? ……体は冷たいかもしれないけど……河童だけに」
「姉さん。それ余計だから」

すかさず穣子の突っ込みが入る。いつの間にか彼女は、なんとか歩けるまでは回復したようだ。
その様子を見て静葉は思い出したように、にとりに言う。

「そうそう、先ほどはうちの妹が失礼したわね。あの子は悪い子じゃないんだけど、ちょっと突っ走ると止まらなくなるところがあるのよ。私が姉として代わりに謝っておくわ」

そう言って静葉は、にとりに向かって深々と頭を下げる。
その様子を見た穣子が思わず漏らす。

「なによ。これじゃ、私一人が、まるでバカみたいじゃない……」

すかさず静葉が言い返す。

「まるでじゃなくて、まるっきりバカよ。そもそも、あなたが余計な事しなければ、彼女だって武力行使なんかしてこなかったと思うんだけど」
「うぐ、そ、そんなはっきり言い切らなくてもいいでしょっ! だってさ。やっぱり異変の解決って言ったら派手な戦闘はつきものじゃない? そうでしょ? そこの河童さんも、本当は結構やる気マンマンだったのよね?」

穣子の問いかけににとりは、冷めたような視線を彼女に送りながら重々しく口を開く。

「……そりゃ、私だってこんな事はしたくなかったけどさ。……施設の壁ぶっ壊して侵入するなり、いきなり攻撃なんかされたら誰だってこういう手段に出ると思うよ?」
「ほら、やっぱりあなたが悪いんじゃないの」
「なんでよぉーーー!!」

穣子はそう叫ぶと床に突っ伏してしまう。

「はぁ、なんだかなぁ……」

そう言ってにとりは、調子が抜けたように頭を指でかきながら、展開している砲身をたたんだ。
それを見た静葉はにとりの方に向かって、優しい笑みを浮かべる。

「ねえ、良かったら私に、理由を聞かせてくれないかしら。氷精さんが絡んでいるんでしょ?」
「わかった。話すよ……」

にとりはそう言うと、スーツから降りる。
そしてうつむいたまま、今回の異変の発端を語りだした。

「……私は、異変が起こる数日前、湖の近くで、最近仲良くなった氷精のチルノと一緒に遊んでいた。チルノは私に、レティという妖怪について話してくれたんだ。なんでも彼女は冬になるとやってくる妖怪で、チルノと仲がいいらしい。そして、話をしてるうちに彼女が恋しくなったのか、チルノは今すぐにレティに会いたいと駄々をこねだしたんだ。私は、そんなチルノの様子を見かねて、つい冬になる前にレティに会わしてあげると約束をしてしまった。……今、思えば私が軽率だったと思う。あんな約束しなければこんなことには……」

そう言ってにとりは、にび色の装置の方を一瞬見て、一つため息をつくと、再びうつむいて、話を続けた。

「……約束はしたものの、どうすればいいか。始めのうちは見当もつかなかった。でも約束しちゃったからには守ってあげないとあの子が傷ついてしまう。私は考えてるうちに局地的にでも冬並に寒くすれば彼女に会えるかもしれないと思いついた。そしてその寒さを起こすために、彼女の冷気を利用してみることにしたんだ。彼女の放つ冷気を何倍にも何十倍にも増幅させてものすごい濃い冷気の塊を作り、それを空へと撒くことで、局地的でも寒波を作り出す事が出来るかもしれないって。私は、早速彼女を急造でこしらえた増幅装置の中に入れて、冷気を発生させてもらい、それを空に放ってみた。実験は大成功だった。瞬く間に辺りは寒くなり雪が降り出した。しかし、すぐに問題が発生してしまった。彼女の力が予想以上に強過ぎたんだ。装置はすぐに制御不能に陥り、その強力な冷気は幻想郷全体を覆うほどの大寒波になってしまったんだ」

説明が終わったにとりは、がっくりとその場にしゃがみこんだ。

「ちょっと待って! 制御不能……って、あの中にその氷精いるんでしょ? 大丈夫なの!?」

穣子の言葉を聞いたにとりは、思わず頭を抱えた。

「それが、わかんないんだよ。ハッチも開かなくなっちゃったから中の確認も出来ないんだ。妖精は死ぬ事はないはずだから、その辺は大丈夫だとは思うけど……もしかしたら中が高熱化して彼女にダメージを与えている可能性はあるかもしれない」
「じゃあ遠慮せずに、この装置ぶっ壊せばいい事じゃない!」

穣子が弾幕を撃ち込もうとしたのを見て、にとりは顔を青ざめさせながら制止する。

「だめだめだめーっ! そんなことしたら、私達だってただじゃすまないよ!? この装置は冷気を増幅させるためにいろんな薬品とかガスを詰め込んであるから絶対に火気厳禁なんだよ!! 弾幕なんか撃ち込んだりしたら、きっと、ちょっとやそっとの爆発ごときじゃすまないよ!」
「じゃあ、どうすればいいのよっ!! あんたが原因なんだから何とかしなさいよ! 大体これはあんたが作った機械なんでしょ!? 」

穣子が思わず怒鳴ると、にとりは、全身の力が抜けたように地に伏せてしまう。

「うぅ、悪いのは私なんだよぉ! 私が未熟なばかりに! ごめんよチルノ……」

辺りににとりの嗚咽交じりの叫びが響いた。
そのとき今まで黙ってた静葉が、ぽつりと口を開く。

「……やっと来たわね」

「え?」

二人が思わず聞き返した瞬間。急速に辺りの温度が下がり凍りつきはじめる。そして、あっという間に増幅装置を含めた建物全体が、完全に凍り付いてしまった。
にとりと穣子は何があったのか分からないと言った様子で辺りできょろきょろとしていたが、静葉だけは建物の入り口の方をじっと見つめていた。やがて、入り口の方からこちらに向かって人影が一つ、近づいてくるのが、三人とも確認できるようになる。
静葉は、その人影の正体が分かると、思わずニヤリと笑みを浮かべた。

「遅かったじゃない。……いえ早かったと言うべきかしらね。冬の妖怪さん」
「フフ。あんまり寒いもんだから、様子を見に来てみたのよ」

そう言うと、冬の妖怪――レティ・ホワイトロックは、笑みを浮かべながら凍結して機能停止した装置の方へと進んだ。

「……お、お前が、レティか」

にとりが、意を決したように話しかけると、レティは笑みを浮かべたまま振り向く。

「ええ、そうよ。あなたは?」
「わ、私は、にとり。……谷カッパの河城にとりだ。チルノから話は聞いている。今回の件は私のせいなんだ! 彼女がお前に会いたいというワガママを、私が許してしまったばかりに、こんな大騒ぎになってしまった挙句、チルノの身にまで危険が及ぶ結果になってしまった。……本当にすまん。正直、お前には、合わせる顔がない。申し訳ない! 罰ならなんだって受ける! 本当に、申し訳ない!!」

そう言ってにとりは、レティに向かって土下座をする。レティは、そんな彼女に向かって優しい口調で語った。

「にとりさん。顔を、お上げなさい。……私は別にあなたを怒る理由はないし、あなたに謝られる理由もないわ。だって、私はあなたを怒りに来たわけでも、謝罪をしてもらうために来たわけじゃないんだから」

彼女は、装置の前にまで来ると、おもむろに手をかざす。すると装置の一部に、もろくも穴が開く。 彼女はそこから中に入り込むと、ぐったりとしているチルノを救い出した。彼女は羽根が完全に溶けてしまっているものの、その他は割と無事な様子だった。

「チルノ!! おい、大丈夫……なのか?」

あわてて駆け寄ってきたにとりにレティは言った。

「ええ、大丈夫よ。ちょっと気を失ってるだけだわ。……あなたは優しいのね。あなたや、大妖精のような友達がいれば、この子だって、私がいなくてもきっと寂しくないわね」

レティの言葉を聞いたにとりは、へたりと両膝をつく。

「よかった……よかった」

彼女は、そうつぶやきながら上を見上げる。安堵して緊張がほぐれたのか、その目からは涙がこぼれていた。
その様子を見てから、レティはチルノを抱いたまま空中へと浮かび上がる。

「さて、この子は、しばらく私が預かるわ。それじゃ……皆、冬になったらまた会いましょうね」
「……あら、別に無理に来なくてもいいのよ。 今年はその子と一緒に二人で過してたらどう?」

静葉の言葉にレティは、思わずフッと笑みを浮かべる。そして彼女は、チルノを抱いたまま吹雪とともに姿を消した。
彼女が去ったあと辺りは静寂に包まれた。外はもう既に寒風は止んでいるようだ。気温が上がってきたせいか雪も霙まじりのものへと変わってきている。
不意に静葉が口を開いた。

「さて……河城にとりさん。まだ終わりじゃないわよ?」
「え……?」

静葉の言葉を聞いたにとりの声が思わず震えた。

「……これから今回の異変の張本人として、あなたに制裁を与えます」

静葉は膝を付いてるにとりを見下ろす。その表情は、先ほどまでの穏やかな表情とは打って変わって、いかにも神様らしい威厳のあるものだった。
思わずにとりの額から一筋の汗が垂れる。静葉は表情を崩さぬまま、冷たく静かな口調で言い放った。

「谷カッパの河城にとり。あなたが今回起こした事は、この幻想郷自体に多大な影響を与え、多くの者に甚大な被害を与える結果となりました。その悪行は決して許される事じゃなく、生半可な罰で贖える事ではありません。それはあなたも分かりますね?」
「う、はい。……い、いかなる罰も受ける覚悟です!」

そう言ってにとりは、震える手で土下座をする。

「よろしい。面を上げなさい。それでは、この紅葉神である秋静葉が、あなたに相応しい罰を与えます」

静葉は、一呼吸置いてから彼女にゆっくりと告げた。

「これからは、私のところにも遊びに来なさい。それが、あなたに対する今回の罰です」
「……へ?」

にとりは、思わず素っ頓狂な声を上げる。その声を聞いた静葉は思わず噴出して笑い始めた。彼女は静葉の言っている事の意味がよく分からない様子で、思わず尋ねる。

「ええと、だって、制裁って……?」
「もう、そんなの冗談に決まってるでしょ」
「え!?……でも私は、あなた達にものすごい迷惑を」
「気にする事ないわよ。装置も止まったし、もうすぐ気候も元に戻るでしょう? それに、あなたは友達のために何とかしようとしたわけであって、悪気があってやったわけじゃないわ。あなたを裁く理由なんて私にはないわよ」

そう言って笑みを浮かべながら静葉は、にとりに対して手を差し伸べる。

「ほら、立ち上がりなさい。スカートが汚れるわよ?」

にとりは彼女の手を掴むと、ゆっくりと立ち上がり、スカートのほこりを払った。

「ねえ、そういえば、あなた機械に詳しいんだって? 天狗さんから聞いてるわ。私、最近そういうのに興味あるのよ。今度見せてもらえないかしら?」
「いいよ! それじゃ、あなたの家に行くときに色々持ってきたげるよ!」
「それは楽しみね」

そこで、ふと気が付いたように静葉が言う。

「……そういえば穣子は?」

静葉の言葉に、にとりは思わず辺りを見回すが、彼女は見当たらない。

「え? あれ? さっきまでいた気がしたけど……?」

そのときだ。外の方で派手な爆発音とともに穣子が、こっちに向かって吹っ飛ばされてくる。

「ぎゃあああああああああ!!?」

静葉は、吹っ飛んできた彼女をさらりと避ける。すると穣子は、そのまま奥の壁面に激突して、頭から勢いよくめり込んだ。
続いて外から紅白の巫女が飛び込んでくる。

「さあ! どう見てもここが今回の元凶ね! うん、雰囲気からして間違なさそうね!」
「あら、巫女さんじゃない。遅かったわね。もう異変は解決したわよ?」
「な、なんですって……!?」

静葉の言葉を聞いた霊夢は、思わずがっくりと膝をついてしまった。

「もうすぐ気候も元に戻るわ。あなたも大人しく歩いて、神社へお帰りなさい」

彼女が追い討ちをかけるように言うと、霊夢は両手をついてうなだれてしまう。

「そ、そんな、わたしのおさいせんが……しんこうが」

彼女は、しばらくの間、がっくりとうなだれていたが、そのうち邪悪な笑みを浮かべながら、ゆらっと立ち上がる。

「……そうよ、そうだわ、そういうことよね」

そうつぶやきながら立ち上がったかと思うと、手に持ってる御幣を、静葉たちに向かって突きつけて言い放った。

「そうよ!! こうなったら、あんたらを今回の異変の犯人として退治してやるわ!」
「どぇええー!?」
「あらあら、とんだとばっちりってやつね」
「問答無用よ!! さあ、私のお賽銭のために犠牲になるがいいわ!!」

霊夢は、彼女らに向かって、ありったけの弾幕を放つ。にとりと静葉はすかさず避ける。すると弾幕は、ちょうど後ろにあった装置にほどなく全弾命中する。

「げっ!?」

にとりが、そう言う間もなく装置全体が、たちまち赤く変色し白熱化し始める。

「……ちょ、ちょっと? 何よこれ!? なんかもしかしてやばい?」
「あ~あ、やっちゃったわね」

慌てる霊夢を尻目に、静葉は、もう今から逃げても間に合わないと悟り、ふうとため息をついた。ふと脇に目をやると、さっきまでいたにとりの姿がない。実に逃げ足の速いことだ。穣子の方は、やっと壁から脱出できた様子だったが、そのまま気を失ったままめり込んでいた方が、幾分幸せだったかもしれない。

「……結局こういうオチなのね」

そして次の瞬間、辺り一帯が朝かと思うほどの発光に包まれたかと思うと、施設もろとも装置は大爆発を巻き起こした。
その爆発の轟音と、もうもうと立ち上がるキノコ雲は遠くの里の方からも、はっきりと確認できるほどの大規模なものだったという。



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 穣子はふと、手元にあった文々。新聞に目をやる。新聞の見出しには大きくこう書いてあった。
『博麗の巫女 無様!異変解決大失敗!! 全治半年の大ケガ!』
それを読んだ彼女は、面白くなさそうな顔をして思わず新聞を床に投げ捨てた。

「もうっ! 話が違うじゃない! 私達の活躍はどうしたのよ!? ねえ、文さん!?」

話しかけられた文は、苦笑いを浮かべながら言う。

「あややや、そんな、怒らないでくださいよ。だって、記事の中で、一番評判がいいのは、あの巫女の事なんですよ。やはり、購読者様からの意見は、やはり反映すべきかと思いまして。言っておきますが、決して彼女にやられた腹いせとかじゃないんですよ? 決して」
「そうよ。穣子。私達は人気者になるために異変を解決させたわけじゃないのよ?」
「姉さん!? いつの間に帰って来てたの!?」
「これは、静葉さん。お帰りなさいませ。で、いかがでした? 山の木々たちは」
「ええ、思ったよりダメージは少なかったみたいよ。あれならまたすぐに、きれいな紅葉で山を埋め尽くせるわね」

そう言うと、彼女はテーブルに置いてあったきゅうりを齧る。にとりが、お詫びに持ってきたものだ。
ちなみに後から聞いた話によると、にとりはあの時、逃げたのではなく、助けを呼びに行ったのだという。
現場は爆発から2日経った今も、火がくすぶってるらしく、彼女は、その後片付け作業で、当分は手が離せないそうだ。

「さて、それじゃ姉さんも帰ってきたことだし、そろそろ出かけるわよ!」
「あら、どこ行くの?」
「どこって……今日は村の収穫祭よ! 忘れたの?」
「そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ」
「はぁ、まったくもう……」
「おや、収穫祭ですか? それは面白そうです! 私もあとで顔を出してみるとしましょうか」
「ええ、是非いらっしゃい。多分、穣子がお酒に酔っ払って面白い事になってるから」
「ほう、それは楽しみですね」
「もう、二人とも何言ってるのよっ!!」

家中に穣子の叫びが響く。
静葉は、ふと、床に転がっている新聞を手に取る。その新聞の最終面には、『秋姉妹大活躍!』の見出しとともに記事が大きく載っていた。
それを見た彼女は思わず、笑みを浮かべる。

「……ちょっと! 姉さんったら! 置いて行くわよ!?」
「ええ、ごめんなさい。今行くわ」

静葉は、新聞をテーブルに置くと、家の外へと出た。
外は、何事もなかったかのように穏やかに晴れ渡り、時折吹く秋風が、紅葉を綺麗に散らしている。
それはいつもながらの秋の風景。彼女達が望む秋の姿だった。

「さあ、私達の秋はこれからよ!」
俺たちの秋はこれからだ!
そういや、もう今日は暦の上では立冬ですね。
こっちはまだ秋に入ったばかりな感じですが、キノコがなんともおいしいです。
それでは!
バームクーヘン
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コメント



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これはいいカリスマが満ち溢れている静葉お姉様
3.100煉獄削除
穣子の稲刈り姿や文とか、威厳に満ちた静葉の姿など面白かったですよ。
異変が収まった後日談の会話も良かったです。

脱字の報告です。
>それ知れればもう彼女に用はない。
『それを知れれば』かと。
4.100名前が無い程度の能力削除
静葉様かっこいい。
しかし村人www働けwww
8.100名前が無い程度の能力削除
村人手伝えよw そしてにとりの技術力がお値段以上すぎるw
威厳溢れる紅葉の神様だけど何故か冬の妖怪のほうが神々しく感じた不思議!
サクサクと読めて面白かったです。俺達の秋はこれからだ!
11.90名前が無い程度の能力削除
にとりが偏屈だけど優しくて、すごく良かった!!
情にほだされて幻想郷を敵に回す辺りがね、なんかもう、幻想郷の住人らしいw
14.100名前が無い程度の能力削除
静葉さん格好良いよ静葉さん
16.90名前が無い程度の能力削除
最後で静葉がかっこよし。